彼女。
衛宮愛華は混乱していた。
ただ、母に認めてもらうため。
土蔵にあった魔法陣に魔力を流してみた……
彼女の母は壊れていた。
彼女家系の女はみんな壊れていた。
それは高祖父の時代からだった、この衛宮の家系は呪われていた。
高祖父はとても高貴な精神をもち人を救うことに生きがいを感じている人だった。
そして口癖のようにこう言っていた。
「俺が誰かの運命を決めてしまった。なら俺も自分の決めた運命を全うする」
そんな高祖父の意思を受け継ぎ、曾祖父もそんな人間になってしまった。
彼女の高祖母、曾祖母ともにそんな夫を待ち続け最後まで待って死んでしまった。
祖父は、そんな曾祖母をみて育ったため、酷く"正義の味方"を嫌った。
だが今度は私の父が憧れてしまった、今も海外で魔術で人助けをしているらしいのだが私は一度しか顔を見たことがない、母もそんな父に愛想を尽かし嫌っている。
未だにこの土地を離れないのは祖父と祖母のことを思ってらしい……
待ち続け死んだ女、正義を毛嫌いした男に惚れた女、正義の味方を嫌う女。
みなどこか狂っていた、とくに母は異常だ。
父の話しをするとすぐにたたく、魔術なんてもってのほかだ。
でも母に父が追い求めたものを理解してほしかった認めてほしかった。
私が出会えて変われたように……
その結果がこれだ……
「貴女が私のマスターか?」
最初はなんだか理解できなかった。
全身を鎧で包み、フルフェイスの甲冑その間から長いウェーブのかかった髪がでている、片手には槍を持っている。
「酷く混乱しているようだな……」
目の前の男がおとぎ話のサーヴァントなんて。
「まずは自己紹介でもいい。私はランサーのクラスで召喚に応じた……ランサーと呼んでくれ、真名を名乗りたいのだが記憶が混濁しているすまないマスターよ」
な、なにか言わなきゃ―――
「わ、わらしは衛宮愛華……よろしく……」
「よろしく頼む、かわいらしいマスターよ」
これが聖杯戦争……?
衛宮に伝わるおとぎ話。
正義に味方に憧れた少年と、人の心が分からない王様の話し。
それがまさか……
私は次の日学校を休んで、古い知り合いの家をたずねに向かった。
その名は遠坂……由緒正しい魔術師の血筋らしいのだがずっと昔に住んでいたところから移りすんできたらしいそれ以来うちの家とはかかわりが深い。
なぜ私が、ここに来たのかと言うと昔聞いたおとぎ話の中に真紅の礼装に身を包んだ武人の仲間に遠坂の名前をみたからだ。
きっとなにか知っている、そう思った。
「こんにちはー?」
遠坂の家は、住宅街の一角にある。
外観はまるで廃家のようにみえる、植物は伸び切っており窓もすべてカーテンがかかっており暗い印象を受ける。
「……」
呼びかけるが反応はない。
「マスターここの主は在宅中だ」
留守かとも思ったがランサーがそういう、しかし声をかけても反応がないのでは……
「もしもーしいますかーとおさかさーん!」
すると二人を招き入れるように門が勝手に開いた。
そして意を決したように、導かれるように進んでいく。
中に入ると、外見に似つかわしくないほど綺麗に整頓されていた。
愛華は「ほー」と感嘆の声を上げる。
そして、二人の目の前に一人の男性が現れる。
「どうも、なにかようかなお嬢さん」
男性は眼鏡をかけて短いさらっとした青い髪をした中世的な顔立ちをしている。
「こ、こんにちは。遠坂さん?」
「そうだよ僕は遠坂だよ」
「あ……はい……」
「ごめん、ごめん意地悪したね。どうしたの衛宮愛華さん」
遠坂は優しく笑う、その笑顔は含みのない笑いだ。
まるで心を開いてしまいそうな……そんな錯覚を覚える。
「な、なんで名前を……」
「そりゃ知ってるよ、昔あったことあるしねー。君はまだこんなちっさかったけど」
そう言って手で高さを表す。
「そうなんですか……そ、それで……」
「ありゃ、そこに興味はないか。ま、どうせ聖杯のことでしょ」
愛華はキツネにつままれたような顔をした。
「なんでそれを?」
「いやだってねぇ……」
そう言うと彼の後ろから赤い礼装の武人が出てくる。
肌は浅黒く、髪は白く短く立っている。
「彼は僕のサーヴァントセイバーだ」
「どうも。セイバーのクラスで召喚された、よろしく頼む」
愛華は瞬間、なつかしいそんな感じを感じたがそれがなんのかは分からなかった。
「そんで君のサーヴァントは……ランサーかな?それもかなり格の高い」
「おっしゃる通り」
ランサーはその姿をさらす。
「いい眼をお持ちでセイバーのマスターよ」
「煽てるなよ、そちらから仕掛けてきたら敵だったかもしれないんだぜ?」
「それはこちらも同じ……」
「ふう……若輩にしてはいいサーヴァントを得たなランサーのマスターよ」
「そ、そうなのかな……」
愛華は恐ろ恐ろランサーを見る。
ランサーは愛華を優しく見る。
「まあ、今回はなんの因果か……君は学園の生徒だろ?なら真琴を知っていると思うが」
その名を聞いて愛華の表情が少し綻ぶ。
「せん。柊先生ですか?」
「そうそう、彼もこの戦争の参加者だ」
「え、先生が?」
「そうそう、もともと彼の目的はこれだったらしいけどね」
「詳しいんですね」
「そりゃ親戚だし」
「え?」
愛華はまた狐につままれたような顔をしている。
反対に遠坂はニコニコしている。
「そ、そうだったんですか……不思議ですねなんか」
「そうそう。まさか200年の時を超えてまた僕達が聖杯戦争に関わるなんてね。ね、セイバー」
「ふ、俺としてはもう二度と関わりたくはないのだがな……納得した結果がこれじゃ救われるものも救われない……まさか本人が受け入れた運命を他人に否定されるとは分かっていたことだが……」
「ま、僕は君と出会えて感謝感激だよ」
遠坂とセイバーは楽しそうに話している。
まるで遠い昔からの知り合いのように二人の空気は上手く混じり合っていた。
「まあ、改めて僕は遠坂、彼はセイバー。この偽りの聖杯に望むものは原始の知識、彼の願いは、子孫の安寧……さて君達は?」
突然聞かれてもすぐに言葉にはできなかった。
万能の願望器……それが実在していたとしても彼女にはそれに掛けるほどの願いはなかった。
「わ、私は……」
「まあ、すぐになんて決まらないさ。君がどんな経緯でこの戦争に参加したかは分からない、でも僕達は味方さ……少なくともね」
遠坂は笑う。
「はい……よろしくお願いします」
そう言って愛華はただ頭をさげた。