今回はヒロイン勢は出ません。
土曜日。時刻は正午近く。
本日は学校が休みである堅次は、食事の為喫茶店に来ていた。
因みに一人ではなく、何人かの同じ学校の生徒と共に。そもそも店に来たのも彼等に誘われた為であった。
「休日に呼び出してごめんよ堅ちゃん」
「いいよ。最近お前等とこうして連んでなかったしな」
このやり取りから分かるように、呼んだのは堅次と親しい友人だ。
横縞。明らかに等身がおかしいが、一応人間。ハンバーガーやフライドチキンが好物で、年中それを食べている為か最早メタボの域に達している。堅次の幼なじみの一人で、風間一派の一員でもある。
その横に座るのが長山ひろし。色黒に日本人の平均身長をゆうに越える長身を持ち、サングラスを小学生の頃から掛けている。横縞と同じく堅次の幼なじみの一人であり、風間一派の一員。これに堅次を加えた三人で、風間一派は構成されている……のだが。
「全くだ。せっかく風間一派の男性陣が一堂に会する機会が最近めっきり減って寂しかったんだぞ俺は」
「悪かったと思ってはいるがお前入れてないからな何度も言ってるが」
堅次の右隣にいる男が涙を浮かべている。
彼の名は河原中。堅次の幼なじみの一人であり、府上学園の現生徒会副会長。風間一派の影のボス、作戦参謀だのと自称しているが、その風間一派には堅次が突っぱねているので自称でしかない。
「大体、堅次が校内で変な噂が流れた時俺は頑張ったんだぞ……会長はいつも通り動かなかったし……押し付けがましいかもしれんが知っていたんならせめて一言でも労ってくれてもよかったんじゃないのかぁ?」
「ああ……うん、悪い、本当に」
「まあまあ、愚痴はこれまでにしてお昼にしよう。風間君は何を注文する?」
「お前いつからいた! 何普通に混ざってる!?」
左隣から見知った人物が親しげに声掛けてきた。
子王八。堅次達と同学年で、ゲーム製作部(仮)の部員の一人。御曹司で容姿、人柄、人当たり共にいい為、学園でも有名である。入学して間もない頃に出会って以降、芦花に好意を寄せている。
「いいじゃん堅ちゃん。メシは仲のいい友達と大勢で食べた方がいいって」
「お前等いつの間にそんな仲良くなったんだよ?」
「何度も顔を合わせていれば自然と友情って育まれていくものだろ?」
「お前等の順応性すげーよ」
「ご注文お決まりでしょうか?」
見知ったウェイトレスが訊いてくる。彼女は神泉。元生徒会書記で多摩の幼なじみ。趣味がバイトで、ここも彼女の勤め先の一つである。
堅次達は選んだ品を注文すると、彼女は確認してカウンターの方へと行った。
「なぁ堅ちゃん、聞いちゃっていい?」
「何だ?」
「堅ちゃん、今囲ってる女の子達の中で本命とか、いる?」
その問いに噴き出す堅次。
「おいちょっと待て、訊きたい事ってそれか? もっと別の事とか無いのか? 学園をシメるとか! てかそれが俺等の目標の筈だろ?」
「でもさ、近頃ウチの学校の俺等みたいなグループ、全体的に動きが大人しくなってるんだぜ? 俺達を見ると露骨に避けてくるし」
確かに話題にならないと堅次は思った。
多摩達元生徒会と関わるようになった一件以降、府上学園の不良達は堅次、しいては風間一派に喧嘩しようとしなくなった(これは多摩が騒動を腕ずくで解決し回っていたのも一因)。学園の裏ボスという立場の芦花とは互いにそういった部分で争う意思は希薄。というより、その芦花は風間一派の一員を名乗っていて(堅次ははねのけているが)、争う理由が無い。
「確かに、それは俺も知りたいな。校内の有名どころの多くを独占しているんだから、その中の誰かに惹かれているとか、そういうのはあるだろ」
「独占って、人聞きの悪い事を言うな。ただ色々あってこれまで接点持った連中の一部と昼休みにメシ食うようになっただけだ」
「そのメシ食うようになった連中が全員女子の時点でそんな事を言われても仕方ないと思うぞ。特にお前が今メシを食うようになった面子を考えてもみろ。簡単に一カ所に集まると思えるか?」
中の言い分も分かる。
芦花は前述したが裏ボスとして一般生徒にも広く認識されている。高尾はあれで結構有名みたいだし、船堀に至っては言わずもがな。桜もどうやらそれなりに知名度は高いようだし、多摩は元生徒会長。
誰も彼もが知ってる奴のが多いだろうと思える。全員と関わるようになるまで全員の事を全然知らなかった自分がかなり稀な方だろう。
こんな事を考えていると、新しい客が入ってきた。堅次がその客の内の一人と目を合わせると、表情を曇らせた。
芦花の実妹、つつじと彼女が所属する東府下学園ゲーム製作部の面々。
「あっ風間! テメエどの面下げて私の前に出て来やがった!」
「偶々鉢合わせただけで何でそんな事言われねぇといけねえんだよ!」
案の定唐突に噛み付いてきた。対し堅次は当然の文句を口にする。
「まあまあ。落ち着きなよつつじ。騒ぐと店の迷惑になるよ」
「だってだってぇ!」
穏やかそうな女子、部長、唐木田がつつじを諫めるが、つつじは泣き始めてしまった。
部員の一人、黒川がすまなそうに頭を下げる。
「悪いな。つつじはお姉ちゃんの事になると周りが見えなくなっちまうんだよ」
「ああ、知ってる」
「妹さんも変わりませんね。あっそうだ。せっかくですし一緒にお食事しませんか?」
八がさり気なく相席を提案してきた。止める前に唐木田達が賛同し、横縞と長山も席を移動してしまい、それもかなわなくなってしまった。
全員席に着いた所で堅次達が注文した品が来た。唐木田達も注文する。つつじは終始堅次を睨んでいた。
「そういりゃさ、大会の時最後の方で君達来ていたけど、部員なの?」
「一人だけな。後は俺の幼なじみだ」
「興味を持ったなら名乗ろう……身体の横幅広くとも、事態あるときゃ真っ先に前に突っ込む、それがこの俺風間一派の横縞よ!」
「目線は高くとも視界は黒い、何故なら常にサングラス。長山ひろしとは俺の事!」
「表の顔は生徒会の副会長、しかし真の姿は風間一派の要、河原中!」
「では僕も名乗るのが礼儀! 風間君の親愛なる友にして研鑽し合う宿命のライバル、ゲーム製作部(仮)の隠し玉、子王八!」
「お前等何仰々しく自己紹介してるんだよ! そんでいつから俺はお前にとってそんな立場になった!?」
「だったら私等もキチンとしないとナメられちまうなぁ」
「え? ここで対抗意識燃やすの? 燃やすべき相手と時と場合が違くない!?」
「胸も小さく心も狭い、それを自認し生きる小物、その名は黒川!」
「マイペースに毎日を過ごすも、肝心な時にはしっかりピシッと。東府下学園の栗平!」
「誰もが口を揃えて私を言う、地味で印象の薄い奴。しかしそれは周囲を欺く仮の姿! 見えない仮面を被る女、小田!」
「そして私が彼女達を率いる女傑! 東府下学園ゲーム製作部の長、その名は唐木田!」
「何でみんな同じノリで自己紹介してるんですか? する意味は?」
「さっつつじも」
「やりません!」
「スゲェ……やっぱりこの娘ツッコミの速さだけなら堅ちゃんより上だ」
「ああ……世の中は広いな。姉もさることながら、妹もかなりのものだ」
「お前等何の評価をしてるんだよ!」
「お客様、盛り上がるのは結構ですが他のお客に迷惑ですのでせめて声量を落として下さい」
『すみません』
つつじ達が注文した品を持った神泉が注意すると、一斉に謝った。
「黒川っつったか? 何でこいつが姉ちゃん絡みで俺に突っかかってきたって思ったんだ?」
先程のやり取りを思い出し、つつじを一瞥して黒川に訊ねる。
「さっきも言ったけど、こいつがこんなにムキになんの、大抵はお姉ちゃん絡みだし。それにつつじは毎日のようにお姉ちゃんの事鬱陶しいくらい喋ってるし」
「うっと……!」
黒川はつつじを指差して応える。つつじは彼女の言い方にショックを受けた。
「分かりますよ妹さん。僕も芦花さんと芦花さんの袋については何日にも渡って語れますから」
「お前そんなにあいつと関わっているのか?」
八の言った事に堅次は疑問を唱えた。芦花の方は部の活動日をまともに教えない程に八の事を避けているのを知っている為だ。
「いや、袋は別に」
「(だよな……)それで、お前が俺に文句言ってきた理由は何だ? 姉ちゃんと一緒に昼飯食ってる事か?」
「それもあるけど何よりお前と一緒にお昼食べるようになってからお姉ちゃん自分でお弁当作るようになったんだぞ!」
「それは知ってるが……いい傾向じゃねえの?」
「分かってない! 私の作るお弁当は、学校が違うばかりに平日の日中離れ離れになるお姉ちゃんに私の愛を伝える唯一の手段なんだぞ?」
「お前のその姉に対する重過ぎる愛はどこ由来だ!」
「それをお前が、お前がぁ!」
その場で泣きながら暴れ出すつつじを取り押さえる黒川達。
「ごめん……ウチの後輩、面倒臭くて」
「いや、こいつの姉も姉で面倒だし……」
神泉から再度注意されたのもあって宥める事に成功する。
「じゃあお前も姉ちゃんと作ればいいだろ。お前、おかず姉ちゃんに教えてるんじゃないのか?」
「確かにそれはそれでいいけど……一緒に作る事、許してくれない……教えるのも専ら晩ご飯の時で朝は弁当がいらない休日……最初の日にサツマイモご飯ジャーごと持って行かせた日以降変な勘ぐりするようになって一緒にお弁当作るの嫌がるようになったんだー!」
泣きながら言うが、全員殆ど同情しなかった。尚、つつじの分の弁当は芦花の作ったおかずの残りや余った材料を使って調理した物で母の分と一緒に拵えている。
「取り敢えず、姉ちゃんには謝っとけ。あれはどう考えてもお前が悪い」
堅次はそれだけは言っておいた。
「けどよ。オメェ今ここいらのゲーム製作部関連から有名だぞ? 橋本ペンダント手にした男が部員の女でハーレム作ってるって」
「誰だよそんなデマ流してる奴! そしてまさかお前等そんな噂信じてんのか? 信じる根拠は?」
「私達が君と初めて会った時君沢山の女の子と一緒にいたから」
「いたけどその時は中もいたよな!?」
「僕もあの日風間君の家に来訪していたんですが……」
「その件は本当に悪いと思うけど割り込まないでくんない!?」
一通りツッコミを入れた後水を飲む。
「堅ちゃん、橋本ペンダントって何?」
「橋本名選手の冒険離島で何時の間にか俺の鞄に入れられてたダサいペンダントの事だよ。ホラ、部長との勝負の時変なのが来てただろ? 理由は分かんねえけどゲーム製作部ならそれ誰でも欲しがるらしいぜ」
「成程、以前他校生がゲーム勝負ふっかけてきたのはそれ欲しさか」
「俺にも来た」
「お前等にも来たのかよ! 俺んとこには誰も来た事無いんだけど!」
「何で肝心のオメェの所に来ねえんだよ?」
「俺が知りてえよ! それと会話脱線し過ぎだから戻すぞ! 何でそんな噂が広まってんだよ!」
「うわっかなり強引」
「そうでもしないと会話が何処に行くか分かんねえんだよ!」
そう叫んだ後に発言したのは黒川だった。内容は堅次の疑問の回答である。
「オメェよう、普段ゲーム作りに入れ込んでるっつってもその前にごく普通の高校生だぞ? 同年代の恋バナへの興味とかあるだろ。知名度の高い奴なら余計に」
「納得いかねー!」
その回答は堅次にとってその言葉通り到底納得出来ないものだった。
「おい、答えたってのに第一声がそれって」
「うるせー! ここいらのゲーム製作部ってあれだろ!? あの大会の参加者やウチの部員やらにペンダント欲しさに喧嘩売った連中の事だろ!? 一体あいつ等のどの辺が普通に該当するんだよ!」
「その言い方、私等が普通じゃないみたいなんだけど」
「お前等や高尾達は百歩譲ってそうだがそれ以外は訳の分からない連中ばかりだろうが!」
そう言った直後、八が肩に手を置いた。
「風間君、それは芦花さんも入っていますか?」
「あいつ等が訳の分からない連中の筆頭だろうが」
「なっ……」
堅次の科白につつじが青筋を立てるが、八はそのまま言葉を続ける。
「風間君が芦花さん達にどの様な印象を持とうとそれが酷い一方的な偏見でない限りとやかく言うつもりはないけど、一つ言っておくね。芦花さん達は君が思っているよりもずっと分かり易い人達だよ」
その言葉で一旦落ち着き、彼女達の今までを思い出してみるが、八の言葉にはとても同意する事が出来なかった。
そんな堅次を察し、今度は唐木田が堅次に顔を寄せる。
「君が釈然としないのは、あの子達がそう思うような事をやらかしているからが大きいだろうけど、ちょっとだけ違った目線で見てみたら? もしかしたら印象変わるかも知れないよ?」
その後の食事と会話は、頭に入らなかった。
「お帰り兄貴」
「ただ今……なあ、ちょっと聞いていいか之江」
「何?」
「こんな事を妹のお前に聞くのもなんだが……普段接してる女って、どう見ればいいんだ?」
この質問は之江を硬直させた。
「ちょっ……兄貴、何でそんな……」
「いや、食事中言われてな、どうもピンとこなくて……」
「中達と外食言ってたんじゃないの? それで何でこんな話が? もしかして桜か柴崎先輩辺りが兄貴に何か言ったの? それとも高尾先輩?」
パニックになった之江を必死に宥める堅次だった。
店を出た後の横縞と長山。
「結局俺達あんまり話してなかったな」
「まあそんな日もある。それより堅ちゃんが女にうつつを抜かしてない事を喜ぼう」