インフィニット・ストラトス「山猫の軌跡」   作:駄菓子

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今回は全体的に暗めです。
感想まってます。


第3話

その日その空は極めて晴天だった。

いつも砂嵐などで天候のすぐれない日々が続くその地域ではおよそ数週間ぶりとなる珍しい日でもある。

 

「しっかし晴れたもんだな」

 

「ホントホント。久々のお天道様は目にきついぜ」

 

「こんないい天気にゃ、昼寝の一つくらいしたくなるってもんだ」

 

「バーカ。そんなことしたら首飛ぶぞ?」

 

「アッハッハ。わーってるわーってる。じょーだんだっつうの」

 

「笑えねぇ冗談はやめてくれ...............」

 

AK74。

最も有名なアサルトライフルの一つであり、そして最も多くの人を殺したと言われている世界で最も小さな大量殺戮兵器。

それを肩に担いだ兵士たちはのんきに笑いあう。

どうせこの毎日のローテーションの組まれた警備任務だってここ1年は敵襲のての字もない。

正直に言ってしまえば退屈で暇なのだ。

しかし司令部に知られてしまっては懲戒処分されてもおかしくはないのが実情なため、もっぱら警戒するのは上層部の見回りだったりする。

 

「ふぁあ。ったく、こんな日くらい休みくれってんだ。どうせ上の連中は寝てんだろうなぁ」

 

「しゃーねよ。彼奴らは読み書きできねぇ馬鹿な俺たちとは違ってエリートだからな。扱いが違うんだよ。幾らでも替えの聞く兵士とは、な」

 

「そりゃないぜー」

 

「仕方ねーよ。裕福にベンキョーしてたやつなんだからな。その分現場を知らない無能だけど」

 

「なんだそりゃ。ベンキョーしたくせに無能かよ?」

 

はははーと違いの兵士は笑いあう。

ずっと昔10年以上も前から、まだ子供でスラム街で強盗をして生計を立てていた2人。

ゆえにお互いを知り尽くしているため、絶大な信頼を寄せているからこその笑み。

 

「今日の夕飯は何かね?」

 

「おいおい?お前さっき昼飯食ったばっかだろ。もう腹減ったのか?」

 

「バーカ。あんな不味い飯で満足できるか。唯一美味いのが夕飯だろ」

 

「まぁ、分からなくもねぇがな」

 

そういうのも無理はない。

なんせ支給される昼食は固くなったパン一切れと水だけだ。

汗水を流し訓練に明け暮れる日々を送る働き盛りの男には少なさすぎると言っていい。

全体的に貧しい国というのも理由の一つではあるが、男には納得がいかなかった。

何せ上層部の人間が自分たちの貧相な食事とは正反対、残飯が出るほどの量をたらふく食べているところを目撃したからである。

その残飯が行き着く先は下っ端の兵士たちにであり、男が唯一満足できるという理由である。

皮肉なことではあったが、寂しい舌には逆らえなかった。

娯楽が極端に少ないこの場所ではそれはあまりにも強い誘惑だったからだ。

 

「あぁ、思い出したら腹減ってきた」

 

「...............おぃ」

 

グヘヘへとだらしなくヨダレを垂らす相棒に思わず脱力してしまう。

昔から食い意地の張った相棒だと感じてはいたが、まさかここまでとは。

まさか今更確信するとは、と思うばかりだ。

が、酒飲みてーと思うのであり、そこまで偉そうには言えないのだが。

 

「ったく、飯までの時間が長いぜ」

 

そんな相棒に馬鹿野郎と言い出したその瞬間、聞きなれた爆発音が轟く。

五臓六腑までに響き渡るそれ。

幾度となく、世界で最も有名な傭兵レイヴンではなかったが、数多の戦場を生きぬ今兵士として勘が口を突き動かした。

 

「敵襲ーーーッ!!」

 

先ほどの砲撃を皮切りにして次々と飛来する榴弾の爆撃で施設が炎上していく。

それに一拍おいて流される、第二次世界大戦時下の日本を題材にした作品には必ず出るあのうなサイレンが鳴り響き、施設全体が戦闘体制へと切り替わっていく。

 

「クソが!よりにもよって今日かよっ!」

 

「喋ってる暇があるならば撃て!」

 

いつの間にか空を覆い尽くすように、遥か上空から降下してくる敵の兵士たち。

その敵兵たちに対空射撃を警備に当たっていた他の兵士もろとも繰り出す。

しかし上空の、それでいて動いている標的に弾丸を命中させるのは容易ではない。

だが、確実に数は減っていく。

射殺された敵兵の肉片と鮮血が赤い雨を降らし大地を染めていくが、その射撃を止めるものはいない。

手を止めれば自分が殺られるからだ。

戦場に情けを持ち込んだものからしんでいく。

それを知っているからこそ、誰も止めない。

 

「え、ACだ!敵のACが居るッ!!」

 

誰がそう叫んだ。

その言葉は波紋となり兵士の間に広がっていく。

AC。

戦場のヒエラルキーの頂点に立つ絶対的なカラス。

最近は新型機がでたという噂だが、どっちにしろいち兵士が叶うような相手ではない。

 

「おいおいおいおい!嘘だろ!?」

 

そのカラスはざっと100は超えていた。

遠目で見る限り世にクレスト社と呼ばれるレイヴンズACのパーツを供給する軍事会社の量産型だろう。

戦場では堅実な作りのせいでミラージュ社製の量産型よりも嫌われる存在。

堅実ゆえに高い防御をほこるその装甲が、兵士の切り札たるロケット砲があまり有効ではない。

唯一装備しているAK74などもってのほかだった。

果たしてこの施設にあの数のACに対応できるだけの戦力が有ったのか、半ば諦めに近い思いで問う。

 

「...............なぁ、ここに配備された量産型はいくつあったっけか」

 

「ざっと3機。そのうち1機は整備中」

 

「なんだそりゃ。絶望じゃねぇか」

 

明らかに勝ち目がない。

いくら戦場の捕食者とはいえどもACも万能ではない。

ましてや同等の存在には殺られるときはあっけなくやられる。

あの数を撃退できるのはそれこそイレギュラー並みの、オリジナルセブンスのような実力が無ければ不可能。

戦う前から勝敗は決定していた。

気がつけばあたりの兵士で生き残っているのは二人だけであり、殆どが制圧した敵兵だけだった。

 

「銃を捨てろ」

 

後ろから銃を突きつけられた。

しかし男はそれを聞かずに懐へと手を滑り込ませる。

 

「銃を捨てろと言っている。死にたいのか」

 

「しけた奴だなぁ。どうせそんなこと言っても殺す気だろうが。最後くらいゆっくりタバコでも吸わせろよ」

 

くしゃくしゃになり湿気った吸う意味があるのかというタバコに火をつけて肺いっぱいに煙を吸い込む。

 

(くだらねぇ人生だったなぁ)

 

目前にまで迫った死に怯えることなく呑気に思いながら、同じようにタバコを加える相棒とアイコンタクトを取る。

どうせ死ぬのであれば、男らしく死んでやると。

そしてすぐさま行動に移った。

周りの敵兵の目線が外れた隙に、腰にぶら下げた手榴弾のピンを抜き取る。

もう取り外す必要はないゆえの行動だった。

 

「先に逝っとくぜ相棒。あばよ」

 

「フン。同等貧乏くじひいちまったみてぇだな。あの世でもよろしく頼むぜ」

 

敵兵がその手榴弾に気付いたときには手遅れだった。

一番手短にいた兵士の足首をつかんで転ばし、がっちりとホールドする。

 

「テメェは道ずれだ、クソ野郎」

 

「ひぃ!?や、やめ」

 

直後手榴弾が炸裂した。

空中で起こった緑色の閃光と時を同じくして。

 

 

 

 

 

 

 

「これよりミッションを連絡します。先日中東の軍事施設を制圧した敵戦力を排除してください。場所は中東でも砂嵐がひどいと言われているエリアです。敵戦力は未知数、それでいて公にはできない組織からの依頼。そして圧倒的に少ない情報量から、企業連上層部はオリジナルセブンスの投入を決定。セレンヘイズ、今回貴方が選ばれた理由です」

 

召集特A級。

それはオリジナルセブンス出なければ対応できない緊急時にのみ発令されるもの。

それの指名を受けた俺に待っていたのはそんな依頼だった。

 

「...............別にオリジナルセブンスだろうとそれでなくても召集されたのには文句がない。だけどさ、情報量が少ないとか、公にはできない組織ってなんだ?明らかにおかしい依頼だろ?」

 

「えぇ、全くもってその通りです。何せ、依頼文の最初に我々はファントムタスクだと書かれていたので」

 

「ふ、ファントムタスク?ちょっと待ってくれ。あいつらは20年も前に内部抗争で自己崩壊したって話だろ?それなのになんでなんだ」

 

「だからこその、オリジナルセブンス投入なのです。20年以上前とはいえ、ファントムタスクは世界に小さくはない傷跡を残しています。それはセレンヘイズ、貴方もご存知の通りだと思いますが」

 

「...............あぁ、現に残された傷跡が原因で起こった事件で俺は親を亡くした。忘れるはずがない」

 

「えぇ、ファントムタスクは事件が収拾してもなお被害を残した。未だにその記憶は人々に刻まれています故」

 

「戦闘行動の公開義務がオリジナルセブンスには特例で免除されているからこそ、だな?」

 

「理解が早くて助かります」

 

通常リンクスはカラードに登録され、依頼受託により起こした行動は原則として国連に公開する義務が生じる。

ACという戦力は戦場にとってはあまりにも強大すぎる。

それがネクストとなればなおさらであり、公開する義務が生じるのも戦場で不要な殺生を行わないか監視する為というのがもっともな理由だ。

ミラージュやムラクモといったレイヴンズネストに所属するレイヴン戦力ーーー俺が昔属していた組織ーーにその義務はない。

ネクストとは違ってそれだけレイヴンがありふれた存在となったからだ。

だが、こういった任務にレイヴンACは向かない。

ネクストのような高性能レーダーなど、索敵、戦闘能力とともに劣るそれでは力不足であり、それがましてや砂嵐の中となれば、有視界戦闘ですらまともにこなせないのだ。

天候がいつ変わるかわからない以上、レイヴンACを投入するわけには行かず、そうなればネクスト戦力になるわけだが、そうなると逆に公開する義務がある。

依頼文全てを含め。

だからこそのオリジナルセブンス。

公開義務が生じない、緊急時即応戦闘部隊だからこそできることだろう。

故に世間ではオリジナルセブンスのことはあまり知られていない。

せいぜいリンクスの中でも選ばれた者たち、詰まる所の称号の様なものだ。

現実は全く異なるのだが。

 

「ファントムタスクからによると、この施設を襲撃したのは強硬派と呼ばれる20年前の事を再び起こそうとする派閥です。本来であればファントムタスク自身が殲滅するつもりのようですが、保有していたレイヴンAC総勢105機を奪取されたため、依頼をだしたようです」

 

内部静粛。

その言葉が頭の中をよぎるものの、俺自身としてはこの依頼自体に嫌な感覚しか抱けない。

なんていうのか、うまく言えないが何か裏があるようにしか思えないのだ。

レイヴン出会った頃はそういった依頼が多かったと聞くし、俺自身もそれにつられて死にかけた事もある。

大抵そういう依頼はこういったものが多いのだ。

情報が少ない。

内容に対する報酬が高いなどがあればかなりの頻度でビンゴ。

 

「...............きな臭いな。今更世界規模の戦争を起こす意味がわからないし、そもそもあいつらは20年も何処にいて、何をしていたというんだ」

 

「一切の情報が得られない、いるのに存在していない。ファントム(幽霊)と言いて妙な呼ばれ方をする所以ですね」

 

「参謀からは?」

 

「...............ご想像の通りです。そもそも依頼文自体が、名前と過激派を静粛したい。戦力を奪われたから我々ではできない。要約してしまえばそんな程度です。ですが中東地域で条件に合致する施設が占領されたのは事実でした」

 

「黒とははっきり言えないが、白と言うのも憚られるそんなもんだな」

 

「いえ、むしろ確実に裏があると思って任務に当たった方がよろしいかと思われます」

 

実戦では何かあるかわからない以上、その言葉に黙ってうなづく。

警戒するに越した事はない。

 

「現在もなお進行を続ける過激派の足取りは、砂嵐が原因で敵勢力が特定できていません。ナンバー6も先ほど占領されていた施設の制圧に向かいましたが、未だに完全な特定には至っていません。ですが、レイヴンACが分散しているとはいえ100機以上あるのはほぼ確実と言っていいでしょう」

 

「...............弾切れになってもいいように格納ブレードでも装備していくか。ネクストでもさすがにその量を捌くのは限界だしな」

 

「妥当な判断です。整備班に最優先事項で装備の換装を通達しておきましょう」

 

「あぁ、頼んだ」

 

正直、二桁を超えるレイヴンACと戦った経験は短くはない傭兵稼業をしてきたがない。

量産型ともなれば多少なりとも攻撃を受ける心配はないにしろ、その数を撃破するとなれば話はかわってくる。

レイヴンACはネクストに比べ劣るとはいえ、戦車や航空兵器などのように簡単には撃破できるようなものじゃない。

多少なりとも耐えられる装甲は持っている。

整備班が急いで格納ブレードを換装してくれているように、ブレードがなければ弾切れになるのは目に見えている。

そこまで大規模な数を運用しているならば、通常兵器も存在するのは確実だろう。

これから計画遂行のための準備があるっていうのに、ほんとはた迷惑だ。

 

「では最後となりますがミッションプランの説明をします。該当戦闘予定エリアは激しい砂嵐に覆われ、索敵が困難です。ですのでナンバー6と同じように、VOBによる強襲作を取ります。VOBの速度で強引におそらくあるであろう防衛戦を突破し迅速に敵中央部隊を撃破、その後は残存部隊を各個撃破となります」

 

「随分と大雑把な説明だな?」

 

「申し訳ありません。情報が少ないゆえに」

 

「まぁ、それはいいとしても、だ。VOBは大丈夫か?」

 

何処をどうとはあえて俺は言わない。

でも、企業連の仲介人をやっているならば多少なりともVOBの噂は知っているはず。

...............主に悪い意味で。

 

「ご安心ください。最近はVOBの制御技術も向上したため以前のような事故は起こりえませんので」

 

と、はっきりと言ってもらったのは良いものの。

やっぱりというか初めて使った時、空中で俺もろとも爆散しかけた経験があるのでいまいち信じられないのだ。

あの時ほど絶望したことはなかったと思う。

ただひたすらにジトーという目で企業連仲介人を見るだけだった。

お前ほんとに大丈夫?と。

 

「...............そんな目で見ないでください。オリジナルセブンスである貴方に粗悪品を使わせることなど、以ての外。万全を期した状態に調整済です」

 

「...............そこまで言われたら」

 

信じるしかないだろ。

そう続けようとしたその瞬間、1本の社内通信のベルが部屋に響いた。

一瞬の間をとって受話器を取った仲介人を尻目に、今回の一連の出来事のことを頭の中で整理して行く。

この依頼のクライアントがファントムタスクという証拠は一切ない。

敵勢力の全容は不明。

ただし、レイヴンACが100機以上あるのは確実。

この際敵の総数がどうのというのは関係なく、やっぱり気がかりなのは本当にファントムタスクが依頼主なのかということ。

ファントムタスクを装ったマグリブの残党か?と考えたけど、すぐに取りやめた。

マグリブの奴らが企業連、それこそアマジークとススを殺した俺を恨み、復讐に走らないとは言えない。

しかし、それはわずか1年前だ。

たった1年で消耗し尽くした、小さな戦線部隊がレイヴンACを揃える資金、それだけのパイロットを確保するための人材があるとは到底思えなかった。

じゃあ、誰だ?

もしも、本当にファントムタスクだとでもいうのなら20年前の再来、第四次世界大戦が引き起こされてしまう。

しかも、四半世紀近く前よりももっと悲惨な第災厄となって。

単騎最高戦力の一角を担う、あの時は無かったインフィニットストラトスと、アーマードコアネクストがある。

そして戦場にはそれらとは別にレイヴンACが大量に存在しているのだ。

歩兵が戦場で殺しあっていたあの時とは状況が違う。

それら全てが全力で戦闘下ならば、世界は確実に崩壊する。

オリジナルセブンスが招集されるだけはある、レートA級のミッションなだけはあった。

 

「...............セレンヘイズ。今ミッションをレートSSSへと引き上げ。最重要優先目標αの確実なる撃破をもって、ミッション完了とします」

 

レ、レートsssという言葉に俺自身が驚きを隠せない中、企業連仲介人は続けた。

 

「このミッションに失敗の2文字は認めません。道連れにしてでも最重要優先目標αを撃破してください」

 

 

 

 

 

「セレン。どうだった」

 

ブリーフィング室を出た俺を待っていたスミカは俺にそう告げる。

 

「...............スミカ、レートsssだ」

 

「イ、イレギュラーリンクスだと!?」

 

レートsss。

それは俺が属するオリジナルセブンスが存在する本当の理由。

企業連の中でもその本当の理由を知る者は一握りしか居ないのだ。ましてやとうのオリジナルセブンスならまだしも、リンクスでそれを知っている者は居るはずもない。

イレギュラーリンクスと呼ばれる首輪の外れた異端因子を殲滅するためだけに組まれた部隊だからだ。

いわば闇を屠る対リンクス用リンクスだからこそ、知られるわけには行かないのだ。

リンクスというものがあまりにも強大故に、首輪の外れた管理されないことがどれだけ危険なのか知られないためにも。

そいつを消さなければならないのだ。

オリジナルセブンスとしての誇りのためにも。

必ず。

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