小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

11 / 75
凛ちゃん登場回です!凛ちゃん可愛い!!!

今回の話の最後から少しオリジナル展開入れていきたいと思います。
眠気と闘いながら書いていたので出来はいいかは分かりませんが
頑張って書きました。

では、どうぞご覧ください!


その想いは強く

その日の朝は不安だった。昨日の気持ちが起きてみたらしぼんでしまっているのではないか。そんな恐怖が少しあったのだ。でも、そんなこともなかったらしい。きっちりと目覚ましのアラーム1回で目を覚ました花陽はいまいち寝起きではっきりしない頭を働かせて、枕元に置いてあった眼鏡をかける。そしてベッドから起き上がってカーテンを開ける。今日もとてもいい天気だと昨日天気予報で言っていたがどうやらしっかりと当たったようだ。

 

「う~ん……いい天気……!」

 

大きく伸びをしてから顔を洗いに洗面所へ。そこで目に入るのは愛用のレンズの分厚い眼鏡をかけたいつもの自分の顔。親友である凛はいつも、眼鏡も似合ってて可愛いけど眼鏡を外した時ももっと可愛いと言ってくれるが、本当にそうだろうか。実際は凛の方がずっとずっと可愛いと自分は思うのだが。しかし、いつもならなにも考えずに顔を洗ってしまう花陽は今日は少し凛の言葉を信じてみようかなという気分になった。顔を洗うために眼鏡をはずした状態で鏡に向かって微笑んでみる。ぎこちない笑みだけど、これはどうなのだろうか。

 

(本当にこっちの方がいいのかな……。自分じゃよくわかんない……)

 

そう思うと同時に自分は何をやっているんだという恥ずかしさが急に襲ってくる。何を1人で鏡に向かって微笑んでいるんだろうか。辺りを見まわして、家族の誰にも見られていないことを確認。花陽は言いようのない恥ずかしさを顔を洗うことで一緒に洗い流す。そしていつもの眼鏡をかけてまた顔を上げると、そこにうつるのは先ほどとは違って眼鏡をかける自分。

 

「……………」

 

もう1度笑顔を作ってみる。

 

(やっぱりどっちも可愛いとは思えないなぁ……っていうか私、何をやって……!!)

 

昨日のあの気持ちはしぼんではないが、自分によくわからない影響を与えたのかもしれない。恥ずかしさをもう1度余計に顔を洗うことでなんとかしつつ、花陽のその日の朝は進んでいった。

 

 

 

 

 

「かっよち~んっ!!」

「うわあ!り、凛ちゃん、おはよう。」

 

いつもより少し時間はかかったが、なんとか普通に登校の準備を終えて花陽がいつもの待ち合わせ場所に行くと後ろからショートカットの少女が抱き付いて来た。バランスを崩してよろけた花陽に釣られて体制を崩すかと思われたが、その少女は猫のような機敏さで全くよろけずに体制を立て直して、さらに花陽を後ろから肩をつかんで支えつつ元気に挨拶をしてくる。

 

「おはよ!かよちん聞いて!今日の朝ごはん、焼き魚だったんだよ?凛、魚嫌いなのに~!!」

「そ、そうなんだ。でも、好き嫌いはしちゃダメだよ、凛ちゃん?」

「え~……かよちんまでお母さんと同じこというの~……?」

 

ひどいにゃ~……そう言って目まぐるしく変わる喜怒哀楽を全開で示すこの少女は星空凛。花陽の幼馴染で親友と言うべき少女である。ショートカットにした短い髪だが、そのショートカットがとてもよく似合う元気いっぱいなとても可愛い女の子。凛自身がどう思っているかは分からないが、花陽は凛のことをそう思っている。

 

「でもでも、朝から嫌いなものを食べさせようとしなくてもいいと思わない?ただでさえ凛、眠いのに……」

「凛ちゃん、朝苦手だもんね。」

「ふわぁぁあ……やっぱり眠いにゃぁ……」

 

花陽は大きな欠伸をして伸びをする凛を笑顔で見ながら、他愛もない会話を続けて学校への道を歩く。昨日はここを全力で走って学校に行くことになったんだよねとあまり思い出したくないことを、花陽がなんとなく思い出していると凛が隣から1歩前にでて花陽の顔をのぞき込んでくる。

 

「かよちん、なんかいいことあった?」

「え……?ど、どうして?」

「なんかいつもよりにこにこしてるよ?」

 

凛の気のせいかもしれないけどにゃ~。そう言って凛はくるりと1回転して花陽の隣に戻る。そんなに自分は笑っていただろうか。花陽は首を傾げる。自覚はないのだが。だけど

 

「気のせいじゃ……ないかも。」

「そうなの?なになに?なにがあったの?」

 

好奇心旺盛な凛は子供のような純粋な眼で花陽に聞いて来る。そんな凛の様子を微笑ましく思いつつ、花陽は言う。

 

「言ってもらったの。気持ちがあれば充分だって。」

「…………?」

 

頭の上に?マークが浮かんでいそうな凛のキョトンとした様子に花陽はつい笑ってしまう。凛のこういう自分の感情が顔に簡単に出てきてしまって、それを素直に表現するところは本当に可愛いと思うし、羨ましい。しかし、凛は笑われたことが不満だったのか、頬を膨らませる。

 

「かよちんイジワルにゃー……」

「ふふっ……ごめんね。」

「あー!また笑ったー!!」

 

もうかよちんなんて知らない!と言ってそっぽを向く凛に花陽は謝るが、それでもその凛の様子になぜか笑顔がこぼれてしまう。

 

「ごめんね、凛ちゃん。機嫌直して?」

「もう……でも、かよちんが嬉しそうだからなんか今日は凛も嬉しいな。」

 

さ、早く学校いくにゃー!そう言ってあっという間に元気をとりもどして凛は駆け出していく。花陽は前で早く早くと手を振る凛を追いかけながら思う。

 

(やりたいならやってみる。それでいいんだよね。)

 

凛の言う通り。今日の自分はいつもとは確かに違うのかもしれない。そう思ってまた笑顔がこぼれる。

 

「かよちん!遅いにゃー!!」

「ちょ、ちょっと早すぎるよ、凛ちゃーん……!」

 

 

 

 

 

(なにやってんのよ……)

 

いつも通りに退屈な授業中。先生にあてられて教科書の朗読をしようとした花陽が噛んでしまって恥ずかしそうに小さくなって座るのを、真姫は頬杖をつきながら見る。昨日の出来事があったせいかどうも気になってしまって、朝からつい目で追ってしまっていた。いつも一緒にいる星空凛と朝から元気よく教室に駆け込んできた花陽は、昨日までとはなにか雰囲気が違うように真姫には見えていた。実際、今の朗読も噛んでしまったがいつもより大きな声ではっきりと読もうとしていたように思える。

 

(小泉さんは変わろうとしてるのよね……)

 

それに比べて自分はと小さくため息。自分はなにも変わらない。変えれない。いつも気にしていなかった。いや、気にしないようにしていたその事実が真姫の心になにか深く刺さった棘のように違和感を主張している。真姫は授業内容を板書している黒板から目を逸らして窓の外を眺める。今この授業は聞かなくてもなんとかなるだろう。西木野のお嬢様である自分は勉強もできなくてはいけないらしく、小さなころから勉強で周りに負けたことはなく、この授業内容ならば自分だけで理解できる。

窓の外に広がる世界はとても広くて、晴れ渡っている。でもなぜか真姫はその世界は自分には関係のない、授業が終わって外に出れば窓の外にいけるのになぜか自分は絶対に窓の外の世界に行けないような気分になってくる。

 

『無理なんかじゃない!』

 

(無理なのよ……私はそっちの世界にはいけない……)

 

またも思い出される言葉に頭の中でそう返す。そう、いけないのだ。自分と周りの人の間には明確な境界線がある。誰も近づいて来ないし、自分からも近づけない。誰も壊して、乗り越えて来ない。そんな境界線が。

そこまで考えたところで、授業終了を告げるチャイムに現実に引き戻される。こんなこと考えてもしかたがない。今日はこの授業で終わりなはず。真姫はシャーペンの芯をペンの中に戻そうとノートの隅にペン先を押し付ける。しっかりとしまえたことを確認して離すとそこには黒い小さな点が残る。真姫は普段なら気にしないその点が無性に気になって消しゴムでごしごしとこするが、黒は消してもうっすらとその跡は残ってしまって。その黒い跡はなぜか真姫の心にしっかりとその跡を残した。

 

 

 

 

 

星空凛はいつも明るく活発な女の子だ。普段から走ることが大好きでいつも元気を持てあましているそんな印象を周りの人は受ける。そして、そんな凛は現在、親友、つまり花陽を探していた。今日こそ、自分が花陽をスクールアイドルをやっているという先輩たちのもとに連れて行かなくてはいけないのだ。そんな使命感を胸に色々なところを見て回る。

 

「かよちんどこ行っちゃったんだろう……?」

 

しかし、一向に花陽は見つからない。運動神経抜群。体力にも自信ありの凛はこの程度で疲れるということはないのだが、さすがに教室、昇降口、図書室、体育館、あげくトイレまで探していないとなると体ではなく精神の方が疲れてくる。見つけ出したら文句言ってやるにゃ。そう決意しながら、もう1度教室を探してみようと歩き始める。その際、ふとこの学校のスクールアイドルであるμ’sのポスターが目に入った。

 

(すごかったな……)

 

凛は思い出す。ファーストライブのあの時、行く気は正直全くなかった。花陽を探していたら、そこにたどり着いてしまっただけだ。でも、

 

(とってもキラキラしてて、とってもかっこよくて、とっても……可愛かった)

 

花陽が昔から夢中になっているアイドルという存在。花陽の話を聞く限り、そして凛自身が感じたあのライブの空気、3人の存在。それはまぎれもなくアイドルそのものだったと思う。でも、可愛い衣装に身を包み、笑顔でキラキラしたステージに立つその存在を、凛は自分にとって遠すぎる存在だとそう思う。だからこそ、正直そのアイドルについて語る花陽の話は凛にはピンと来ていなかった。自分はそうはなれないことは分かっているのだからあこがれも何もない。でも、凛は花陽のアイドルの話を聞くのが好きだった。楽しそうなのだ。嬉しそうなのだ。いつもはその奥ゆかしく、優しい性格から引っ込み思案な方の花陽が目をキラキラさせながら幸せそうに語るその姿。凛はその姿を見るのが好きだった。だからこそ、気づいていた。花陽の気持ちに。

 

「かよち~ん……?」

 

教室をのぞき込んで花陽の姿を探すも、またもはずれのようである。がっくりと肩を落とし、次はどこを探そうかと凛は考え込む。すると、クラスメイトの1人に凛ちゃんと声をかけられた。

 

「にゃ?」

「花陽ちゃん探してるの?」

「え?なんで分かったの!?」

「いっつも一緒にいるし、一緒にいないときはお互いを探してるもん。分かるよ。」

 

そうかな?と首を傾げる凛を微笑ましいものを見る目で見ながら、そのクラスメイトはそうだよと言ってから続ける。

 

「花陽ちゃんなら中庭のところにいたよ?」

「ほんとに!?行ってみる!!」

 

ありがと!と情報をくれたクラスメイトに手をふりながら、その場から駆け出す。急がなくてはアイドルの先輩たちが帰ってしまうかもしれない。ずっとアイドルに憧れていた花陽。あんなに可愛くて、アイドルに憧れを持っている少女が、メンバー募集をしているアイドルグループに参加したいと思わないわけがない。というかやってみたいと思っているのは凛なら分かるのだ。花陽の気持ちはずっと一緒にいるのだ。大体わかる。

 

(かよちんはアイドルやってみるべきなんだよ!)

 

自分とは違って女の子っぽくて可愛いあの少女ならアイドルもとても似合うだろう。あのライブの中に花陽が混ざって歌って踊っている。その姿はとても可愛くて、キラキラしているんだろうな。そう思って想像した時、少し胸がチクリと痛んだ気がした。

 

(なんだろ……?)

 

自分でもよく分からない。でも、走る足は止めずに少し考えてみる。花陽だけじゃない。自分も、星空凛もそのライブに混ざっている姿。

 

(いやいやいや!そんなの似合わないよね!ありえない!)

 

女の子らしくない自分。そんな自分がアイドル活動なんて。凛はその想像を振り払うようにもう1段階走るスピードを上げる。しかし、頭の中から、心からあのキラキラしたライブ、3人のライブ、そして想像してしまった自分のアイドル姿が消えることはなかった。

 

 

 

 

 

「一緒に!」

 

そう言う真姫に合わせて花陽は発声を行う。朝に決意して、やってみようかなと思っていた時に、またも現国の授業で当てられてしまい、朗読を失敗してしまった。寝て起きたときには大丈夫だった気持ちも、その出来事には耐え切れずに一瞬でしぼんでしまった。1度は決意したというのにこんなに簡単に心が折れかけてしまう自分がいやになるが、こんなことで折れてしまうからこれまで決意できていなかったんだよねと思って、自己嫌悪に陥っていた。そんなときに真姫が声をかけてきてくれたのだ。

 

『あなた、きれいな声してるんだから。後は大きな声をだすのに慣れるだけじゃない。』

 

そう言って発声を始めた真姫は今、自分の前で一緒に声を出してくれている。2人で大きな声で、いや大きなとは言えるか分からないが、自分の中では大きいと思える声で音を奏でる。それはとても気持ちよくて、楽しくて。

 

「ね?気持ちいいでしょ?」

「あ……!うん、楽しい……!!」

 

花陽は真姫にそう笑顔で返す。実際、さっきまで悩んでいた気持ちや落ち込んでいた気持ちは、声を出しているうちにスッと溶けてなくなってしまっていた。花陽の言葉を聞いて、真姫はなにか恥ずかしくなったのか、そっぽを向きながらもう1度と言って口を開こうとする。その時

 

「かーよちーん!ここにいたー!!」

 

という声とともに凛が花陽に駆け寄ってきた。ずっと探したんだよと言って頬を膨らませる凛にごめんねと謝りつつ、どうすればいいのか分からなくなっている真姫に視線を向ける。すると、凛はようやく真姫の存在に気が付いたようで西木野さん?なんで?と首を傾げる。

 

「励ましてもらってたんだ……」

「わ、私は別に……!」

「そんなことより……」

 

そんなこと。で済ませるんだと凛の切り替えの早さに驚いている花陽の手を凛が握って引っ張る。

 

「はやく先輩たちのところに行こう?今日こそアイドルやりますって言わなきゃ!かよちん、凛と違って可愛いんだから絶対アイドルに向いてるって!」

「凛ちゃん……?」

 

凛の言葉に花陽は違和感を覚える。腕を引っ張る手や少し強引に花陽の本当の気持ちを引っ張り出そうとしてくれるのもいつもの凛である。でも、なぜ凛は今自分のこと、凛のことを引き合いに出したのだろう。確かに自分のことを可愛くないと卑下するようなところはあるが、こんなにも露骨に、急に言い出すようなことはなかったはずだ。

 

「凛ちゃん。なにか……」

「ちょっと待って!そんなに急かさなくても……。もっと自信をつけてからの方がいいわ!」

「に、西木野さん?」

「なんで西木野さんがかよちんと凛の話に入ってくるの!」

「べ、別に歌うならそっちの方がいいって言っただけ!!」

「2人とも落ちついて……」

 

なにかあったのか。凛にそう聞く前に真姫が凛の行動に待ったをかける。そして、その言葉に凛が言い返したせいで言い合いに。間に挟まれた花陽はなんとか止めようとするが、花陽には少し荷が重すぎるというものである。もう凛の違和感について考える余裕もなくなってしまった。

 

「かよちんはいつも考えすぎちゃうから誰かが決めてあげた方がいいの!」

「そう?昨日話した様子じゃそうは思えなかったけど。」

「むぅ……かよちん!いこ!先輩たち帰っちゃう!」

 

言い争っていても意味がないと考えたのか、凛が花陽の手をひいて歩き出そうとする。性格上、花陽がそれに逆らえるわけもなく、凛にそのまま引きずられていきそうになったとき、花陽の反対の手がつかまれる。

 

「だったら、私が連れていくわ!音楽に関してのアドバイスも私の方ができるし、μ’sの曲だって私が書いたんだから!」

「「えっ!!」」

 

真姫の発言に花陽と凛の驚きの声が重なる。しかし、真姫は言ってからしまった!と思ったようで、とにかく!と誤魔化すように歩き出す。もちろん花陽の手は引っ張ったまま。そこで正気に戻った凛がもう一方の手を引っ張って歩き出す。行先は2人とも同じなわけで、つまりは真姫と凛に両手を引っ張られて引きずられる花陽に真姫の言葉を聞き返す余裕はなく、ただいつもの言葉を叫ぶことしかできない。

 

「だ、だれかたすけてー!!」

 

 

 

 

 

「で、アイドルやるって?」

「「はい!この子が!!」」

 

結局穂乃果たちはもう学校におらず、ならここのはずと真姫が言った神田明神まで花陽は引きずられてきていた。質問に答えることもできない花陽に代わって答える凛と真姫に鷹也とμ’sの3人が苦笑いしているのが視界にはいる。どうやら普段からここで練習をしているらしい。まだ精神的にこの状況に対応しきれていない花陽に代わって凛と真姫が再び口を開く。

 

「かよちんはずっとアイドルに憧れてて、ずっとずっと前からアイドルやってみたいと思ってたんです!」

「そんなことはどうでもよくって!この子は歌唱力も意外とあるし……」

「どうでもいいってどういうこと!!」

「言葉通りの意味よ」

「2人とも。ちょっと落ち着いて?」

 

花陽のことであって決して自分たちのことではないはずなのになぜか言い争いに発展しそうな2人をことりがやんわりと止める。このままでは話が進まない可能性があるし、花陽としてもどうすればいいのか分からなくなっていたので花陽は心の中でことりに感謝の言葉を述べる。そこで急に鷹也が花陽に話しかけてきた。

 

「小泉さん。」

「は、はい!」

 

いきなり声をかけられて少し驚いてしまったので変な反応になってしまったのを鷹也は笑って流しつつ、真剣な声音で確かめるように聞いて来る。

 

「アイドル、やりたいの?」

「私は……」

「もう!いつまで迷ってるの!」

 

鷹也の言葉に花陽は言い淀む。自分がアイドルになるなんていいのだろうか。もうやりたいことは認める。だけど、いいのだろうかと思ってしまうのだ。『自分なんかが』アイドルをやるなんてと。しかし、そこで右の肩を持ちあげていた凛が強めの口調で言う。

 

「かよちん、凛とちがって可愛いんだし、アイドルやりたがってるんだし……絶対やった方がいいの!!」

「それには賛成!やりたいって思うなら………………絶対にやってみた方がいい。」

 

凛がまたも自分と花陽を比較して自分を卑下するようなことを言ったことに違和感を覚えるが、続いて言う真姫の方を半ば無理やり向かされてその違和感の正体を探ることはかなわない。真姫は花陽の肩をつかんで途中言い淀みつつも言い聞かせるように続ける。

 

「言ったでしょ。大きな声を出すなんて簡単。あなたならできるわ!きっと変われる!」

 

真姫はそう言って笑顔を見せる。そして、凛も続けて花陽を振り向かせてその肩をつかんで言い聞かせる。

 

「凛は知ってるよ!かよちんがずっとずっとずーっとアイドルになりたいって思ってたこと。」

「凛ちゃん……西木野さん……」

 

そう言う凛の表情は真剣で。振り向くと真姫も微笑んでくれる。こんなにも自分のことを思ってくれる人がいる。それはとても嬉しくて。

 

「頑張って。凛がずっとついててあげるから。」

「私も、少しは応援してあげるって言ったでしょ。」

 

こんなにも応援してくれる人がいることが本当に嬉しくて。

 

「えっと……あ……!」

 

それでもまだ言い淀んでしまうダメな自分の背中を押してくれる凛と真姫の手が本当に本当に嬉しくて。振り向いたときに優しく微笑んでくれた2人に背を向けて、ここまで黙って待ってくれているμ’sの3人と鷹也に向き直る。後ろには微笑んでくれた2人がいる。もう迷わない。

 

「私、小泉花陽と言います。1年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで……なんの取り柄もないです。」

 

そう。これが自分だ。小泉花陽という人間だ。でも、後ろの2人の存在がそれでいいと思わせてくれた。ならばもうこの自分を受け入れよう。『自分なんか』なんて思うのはやめよう。

そして、次に視線を鷹也に向けると優しく微笑んでくれる。そうだ。この人も言ってくれていた。凛も真姫も鷹也もμ’sの3人も。言ってくれていた。

 

「でも……でも、アイドルが好きって気持ちだけは誰にも負けません!!アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです!!」

 

この気持ちがあれば充分だと。やってみたいという気持ち、花陽の場合はアイドルへの強い気持ちがあれば充分だと言ってくれていたのだ。この気持ちだけでもいいのなら。唯一誇れる、譲れないこの気持ちだけでいいのなら自分だってやれる。言える。

 

「だから……μ’sのメンバーに入れてください!!」

 

言い切った。正直まだ怖い。もしダメと言われたら。上手くいかなかったら。涙が出そうになる。返事はどうなんだろう。そう思って頭を下げたまま、目をそっと開ける。すると、

 

「こちらこそ」

 

そう言って手が差し出されていた。反射的に顔を上げる。そこには自分が憧れていたアイドルの、μ’sの3人が微笑んでいて。

 

「よろしく!」

 

そう言ってさらに満面の笑みになる穂乃果の手を恐る恐る握る。すると力強く握り返されて。そこで実感がわいた。ああ、自分は今ついに憧れていたものに近づけたんだな。夢見ていたことの一歩を踏み出すことができたんだな。そう感じた。一筋涙がこぼれる。しかし、涙はそこまで。

 

「よろしくお願いします!」

 

そう言う自分の笑顔は、はじめて自分でいい笑顔なんじゃないかなとそう思えた。

 

 

 

 

 

「かよちん……偉いよ~……!」

「なに泣いてるのよ。」

「だって~……って西木野さんも泣いてるにゃ!」

「わ、私は別に……!」

 

そう言って泣いている、花陽を見守り、後押ししてくれた2人を鷹也は見る。本当に花陽にとっていい友達なのだろう。普通ならばここまではしてくれない。だからこそ、この2人もメンバーに入らないか。そう期待してしまう。この2人ならメンバーとして申し分ないだろう。そこで鷹也はことりにアイコンタクト。ことりは気が付いたようで、頷くと真姫と凛に声をかける。

 

「で、2人はどうするの?」

「「え?」」

 

キョトンとする2人に、ことりの意図を察した海未も加わって手を差し出す。

 

「まだまだ、メンバーは募集中ですよ?」

「うん!」

「「あ……」」

 

その差し出された手に一瞬嬉しそうな表情をする2人。鷹也は確かに見たのだ。彼女たち2人は確かにそのタイミングで嬉しそうな表情をしていた。自分もアイドル活動に参加できる。そんな喜びを彼女たちは見せていた。しかし、それは一瞬。すぐに表情は切り替わる。

 

「言ってるでしょ。無理だって……」

「あ、あの、嬉しいんですけど……。凛はかよちんみたいに女の子らしくも可愛くもないですから。ごめんなさい。かよちん、頑張ってね。」

 

その表情は悲し気なもので。凛は言うや否やすぐに駆け出していってしまう。凛ちゃん!と慌てて花陽が追いかけようとするも、その後姿はあっという間に階段の1番下まで駆け下りていき、曲がり角に消えていってしまう。

 

「凛ちゃん……そんなことないのに……」

「じゃ、私もこれで。」

「西木野さん!」

 

凛を止められずに困惑しつつも声をかけた花陽の呼びかけにも応じず、真姫も階段を降りていく。その表情はうつむいていてうかがい知ることができない。でも、肩にかけている鞄に添えられた手は強く握りしめられていて。それはなにかをこらえるように力がこもっていて。

 

「真姫!」

「っ……」

 

鷹也の声に真姫は立ち止まる。そしてためらいながらもゆっくりと振り向く。

 

「私には無理なの。」

「真姫……?」

 

そう言った真姫の目はなにか迷うように揺れていて、唇は言うべきかどうか悩んでいるかのように強くかみしめられている。その様子に鷹也はなにも言えなくなって呼びかけることしかできない。こんな表情をする人間になんと声をかければいいのだろう。そう思ってしまう程に真姫のその表情はつらそうで、悲しそうに歪んでいた。

 

「私は、あなたたちの方には行けないし、小泉さんみたいに変わることもできないのよ……」

 

そう言って今度こそ真姫は階段を降りていってしまう。鷹也は呆然と立ち尽くす。完全に早まった。凛に関してはまだ何も知らないし、分からない。でも、真姫に関しては分かっていたのに。簡単ではない物を抱えている。そう知っていたのに。

 

「お兄ちゃん……どうしよう……」

「鷹也くん……」

「鷹也さん……大丈夫ですか……?」

 

 

困惑し、不安そうなことりたち3人の言葉に鷹也は何も返すことができなかった。

 

 

 

 




真姫ちゃんと凛ちゃんが加入するシーン。
アニメでどうしても少し違和感感じてしまっていたんです。
そんなにすんなりと入るところではないのではないかなと思っていまして。

よって今回のような展開にしてみました。
さあ、ちゃんとまとめられるのか不安でなりません。がんばります。

お気に入り登録がまた増えてて感謝してもしたりないです。
これからもよろしくお願いします!

まだまだお気に入り登録、感想、評価待ってます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。