小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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もっといい話になる予定だったんです……
オリジナルで話を進めようと思うと本当に難しいですね。

できはよくはないかもしれないですが、これが今のところの自分の精一杯です。
どうぞご覧ください。


本当の自分

『お兄ちゃん!

凛ちゃん、入ってくれるって!٩(。•ω•。)و』

 

そのメッセージがことりから入った時、鷹也は小さくガッツポーズをとった。方法は考えだした。昨日のあの様子で逃げられたら話を聞いてもらうどころではないから、外に出さないように追い詰める。そこまでは考えていたのだが。

 

(よかった。小泉さん、うまく話し合ってくれたみたいだな。)

 

最終的には、特に凛のことを知らない自分たちではなにも言えないために花陽に任せるしかなかった。それは少し不安はあったのだが、うまくいったようでとりあえず一安心。鷹也はよかったなとことりに返信してから、携帯をポケットに入れて小さく息を吐く。あたりはすっかり夕方。緊張はある。あちらは4人がうまくやってくれた。ならば、こっちは自分がうまくやらなくては。前に真姫と会ったあたりで真姫を待つ。

 

(別に絶対にμ’sに入ってもらうわけじゃない。西木野さんにとって最良の選択ができる手伝いができればそれで……)

 

 

 

 

 

その会話は朝練の終わった時まで遡る。凛と真姫についての話を花陽から聞き、自分に任せて欲しいという花陽に凛のことを任せることを決めた時だ。

 

「西木野さんのことは任せて欲しい。」

「お兄ちゃん……?」

 

真剣な表情で告げる鷹也にことりが不思議そうに呼びかける。それもそうだろう。真姫と鷹也。関わりは明らかに少なく、それならば高校で会うこともできることり達や花陽の方が話し合うにはいいのではないか。そう思うのが自然なことだろう。

 

「正直、西木野さんとは何回か会って会話してる。あの子になにか事情があるのも知ってた。」

「そうだったんですか……」

 

どうりで真姫と呼んでいたわけですね。と言う海未に鷹也はあれは特別な事情だけどねと苦笑いする。

 

「その事情は小泉さんに聞くまでわかんなかったけどね。だからこそ、昨日の判断を間違った。」

「別に鷹也さんのせいじゃ……」

 

気遣ってくれる花陽に小さく首をふる。真姫の事情を多少なりとも知っていた。そのうえでことりに合図を出したのは自分なのだ。責任は鷹也にある。ことりも納得していないようでこちらを見ているが、小さく微笑んで見せてなにも言わないように釘をさす。

 

「とりあえず、俺はあの子ときちんと話し合いたい。ただのわがままだし、うまくいくかは分からない。でも……」

「鷹也くん。」

 

鷹也の言葉を途中で遮ったのは穂乃果。真剣な表情で聞いていた彼女は鷹也の目をまっすぐに見つめる。少しの沈黙。その後、穂乃果は笑顔になる。

 

「よく分かんないけど、任せるね!」

「ほ、穂乃果!?いいんですか!?」

 

穂乃果のよくわかんないという言葉に全員が一瞬ガクッとなりつつ、海未が問いただす。海未としてはよく分かんないで済ませていい話ではないと思っているのだろう。ことりと花陽も同じ意見のようで、苦笑しつつも穂乃果をじっと見つめている。自分の発言がそこまでおかしいものだとは思っていないのだろう、穂乃果はキョトンとしながら続ける。

 

「いいんじゃないかな?」

「そんな簡単に決めていいことじゃ……」

「だって、鷹也くんなら大丈夫だよ。」

 

ね?と言って鷹也を笑顔で見る穂乃果。鷹也はその笑顔を見て思う。なんでこの少女はここまで純粋で、それでいてここまで人のことを引っ張れるのだろうか。この少女の純粋さはなぜここまで人に力を与えるのだろうか。鷹也は頷く。こんな言われ方されたら大丈夫と言うしか、大丈夫な状況でいるしかないではないか。

 

「でも……」

「海未ちゃん、大丈夫だよ。」

「ことりまで!」

「穂乃果ちゃんはお兄ちゃんに責任取らせるために任せてるわけじゃないだろうし……」

 

食い下がろうとする海未を今度はことりが止める。ことりは言いつつ穂乃果を見ると、そこには責任?なんの?といった様子で首を傾げる穂乃果。そんな様子に苦笑しつつ、ことりは続ける。

 

「凛ちゃんのこと捕まえるのにも人数は必要だろうし、真姫ちゃんの方はお兄ちゃんに任せてみよう?」

「……わかりました。何か代案があるわけでもないですし……」

 

ことりに諭されて、海未も渋々といった様子で折れる。そこまでの様子を見て、どうやら自分に任されることになったようなので鷹也はここまで黙っていた花陽を見る。

 

「小泉さんも俺に任せてくれるかな?」

「はい。鷹也さんなら西木野さんのことも分かってあげられると思います。私の力になることも言ってくれましたし……」

「え?」

「い、いえ!なんでもないです!お任せします……!」

 

慌てた様子の花陽に戸惑いつつもお礼を言う鷹也。そして他の3人を見まわして確認をとる。

 

「ほんとにいいのか?これはただの俺のわがままで……」

「鷹也くん。」

 

もう1度穂乃果が遮る。そして笑顔で言った。

 

「信じてるもん、鷹也くんなら任せても大丈夫って!」

 

 

 

 

 

(なんだろうな、あの信頼度……)

 

鷹也は思い出して苦笑する。あの曇りのない純粋な目は鷹也に任せることに一切の不安を覚えていなくて。他の3人も、任せることに消極的だった海未でさえ最後には私だって信頼してないわけじゃないですよと笑顔を向けてくれた。その信頼には答えなくてはと思う。でもあんな言われ方されたら、信頼されたら勘違いしてしまうではないか。自分が……

 

「っと……雨か……」

 

空を見上げる。少し雲がかかってきているが、あまり厚くはない。傘をさすほど強い雨でもないし、すぐに止む程度のものだろう。そう判断して、鷹也は真姫の家の方に視線を向ける。一応、そちらも見える位置にいるので真姫が帰ってきていたら分かるはずだが、まだ帰ってきてはいないはず。

 

(おっそいな。てか俺、なんかストーカーみたい……)

 

自分の状況を再確認してへこみそうになるも、これは必要なことだし連絡先知らないのでは仕方ないと言い聞かせてなんとか自分の精神を保つ。時計を確認するまでもなく、先ほどのことりのメッセージからだいぶ時間が経っている。凛と話せたということはとっくに学校は終わっているということで、そろそろ帰ってきていてもおかしくないはずの時間なのだが。

 

(ちょっとあたり見てくるか。)

 

見逃した可能性もある。辺りを見てきてから、いなかったら真姫の家を正面から訪ねてみればいいだろう。そう判断して鷹也はその場から歩き出した。この場にとどまっていては余計な思考が生まれてしまう。自分のあり方が歪んでしまう。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

時間はもう1度朝まで遡る。朝練が終わって、帰ろうとする鷹也に後ろから声がかけられる。

 

「鷹也さん?」

「希?なんでこうお前は俺が1人の時に声かけてくるかな。」

「鷹也さんと2人っきりで話したいからに決まってるやん?」

 

そう言って巫女姿でいたずらっぽく笑う希をはいはいと言って鷹也はあしらう。朝練の後、穂乃果たち4人が先に階段を降り始めたタイミング。前もこんなタイミングで声かけてきたなと思いながら、鷹也は希になんの用かと聞く。

 

「なんやつれないなぁ……。」

「心にもない冗談に付き合うほど、今は暇じゃないよ。」

「真姫ちゃんは簡単じゃないよ?」

 

希の真剣な言葉と表情。それは鷹也の目をまっすぐに見ている。いつものふざけたような、飄々とした様子はなりを潜め、鷹也のことを観察するような、そんな雰囲気。

 

「あの子の抱えてるものは想像してるより大きい。鷹也さんはちゃんとそれを考えて話し合えるん?」

 

その言葉は厳しい物で。真姫のことを真剣に考えているからこその言葉。鷹也は希を見つめる。真姫のことを心配するのは分かる。鷹也は音ノ木坂の存続のために動いている。そのため真姫の想いを軽視するのではと思っているのだろう。だからこそ、ここ鷹也を見極めようとしている。

 

「大丈夫。」

 

でも、鷹也はそんなことはしないと決めているのだ。真姫の最善になるように、それだけを考えるつもりだ。正直、昨日は焦りがあった。理事長である母から聞いたオープンキャンパスがリミットになる可能性。それを無意識にでも考え、焦ってしまった。これは絶対にしてはいけないことだ。自分の勝手な焦りで真姫にあんな表情をさせてはいけない。自分が、こんな自分が真姫の最善を邪魔してはいけない。

 

「別にμ’sに入ってもらうための話し合いってわけじゃない。西木野さんの最善の選択ができるようにっていう話し合いだよ。」

「その選択がアイドルをやらないという選択ならどうするん?」

「その選択を尊重するに決まってるよ。」

 

少しの間見つめあう。すると希は急に笑顔になっていつもの調子を取り戻す。先ほどまでの雰囲気は一瞬で霧散する。

 

「なら安心やね。うちが口出すことやない。」

「希……?」

「ねえ、鷹也さんはμ’sの意味って知ってるん?」

 

あんまり知らないけど……と急な話題転換に戸惑いつつ鷹也は返事をする。そういえばグループ名として雰囲気もいいしと思っていただけで詳しいことはことりたちからは聞いていない。そんな鷹也に希は、それなら教えてあげると言って口を開く。

 

「ギリシア神話の9人の女神。その総称がμ’s。」

「9人の女神……」

 

希の言葉を繰り返す。なるほど、アイドルのグループ名としてはぴったりだろう。しかし引っかかる。

 

「9人……?」

「そうや。なんで9人の女神の総称をつけたんやと思う?」

「……中途半端な知識でつけたんじゃないか?」

 

ありえない話ではない。校内募集の案である。聞いたことのあるだけの言葉をそのまま応募した可能性だってある。だが、希はそこで首を横に振る。

 

「そうかもしれない。でも、そうじゃない。なにか意味があるんやないかな?」

「それは……カードのお告げ?」

 

当たりと言って、巫女姿には似合わないタロットカードを懐から出した希は笑う。

 

「真姫ちゃんのことお願いね。」

 

 

 

 

 

朝のことを思い出しながら、鷹也は歩く。本当に不思議な子である。いつも飄々としていて、落ち着いている彼女だが、時折見せるその不思議な雰囲気。全部を見透かして、裏から見ているようなそんな感覚。

 

(なんなんだろうな、あの子……)

 

気にはなるが考えても仕方のないことである。なぜか思い出した朝の光景を気にしないように頭の隅に追いやる。とりあえずは真姫である。希に言われたように、真姫の問題は簡単なことではない。最善の方向にしっかりと導かなくてはいけない。それが自分の役目。

 

「と言ってもどこにいるんだか……」

 

鷹也はあたりを見まわす。このあたりは小さいころから歩き回っているので大体の地形は頭に入っている。真姫が家に帰るために通りそうな道はこのあたりのはずなのだが。一向に見つからない真姫を探して歩き続ける。そこで少し思い出しかける。自分の存在を、考えを、あり方を決定づけたころの記憶。

 

(ま、どうでもいいか……)

 

昔、このあたりでいろいろあったから思い出したのだろうが自分のことは今はどうでもいい。とりあえずは真姫を探さなくては。鷹也はあっさりと気持ちを切り替える。今更ぐだぐだと引きずるようなことでもない。これが自分のあり方だ。それは自分が分かっているし、受け入れている。鷹也は真姫を探して歩き続ける。しかし、その歩みは少し、本人も気が付いていないだろう。ほんの少しだけ先ほどより重いものになっていた。

 

 

 

 

 

「かよちん!凛、陸上部の見学行ってくるね!」

「あ……」

 

帰りのホームルームも終わり、生徒が、部活に向かう者、帰る者、教室に残っておしゃべりに興じる者などに分かれて行動を始める。そんな喧騒に包まれる教室のなかでも一段と目立つ彼女たちに真姫の視線も自然と向いてしまう。今日は1日中こんな感じだ。凛が花陽を避けている。花陽はなにか凛に話があるようだがそれを悉く避けているようで、入学当初からいつも一緒の2人が喧嘩でもしたのかとクラスでちょっと注目を集めていた。

 

(まあ、私には関係ないけど……)

 

真姫はそう考えて立ち上がる。確かに事情は大まかには知っている。花陽は凛にアイドルをやってほしいのだろう。だが、自分には関係ない。花陽も自分には今日1日話しかけてこなかったし、そういうことなのだろう。所詮は自分は1人なのだ。境界線のこちら側に来る人間なんていない。

 

「に、西木野さん……!!」

 

そう思っていたのに。教室から出ようとしたところで、花陽が真姫に話しかけてくる。真姫は昨日のこともあるし、今日1日話しかけてこなかったこともあって少しうろたえながら花陽を見る。

 

「な、なに?」

「あの……西木野さんも一緒にアイドルやりません……か……?」

 

自信なさげに紡がれた言葉はアイドル活動の勧誘の言葉。真姫の心の中で感情が溢れそうになる。しかし、真姫はそれを押し殺す。自分はこの感情を捨てたはずだ。自分の将来は決まっている。こんな感情に左右されていることではいけないのだ。

 

「ごめんなさい……」

「そっか……」

 

悲し気な花陽の表情に心が締め付けられる。でも、それでもだめなのだ。自分は。それじゃと言って花陽の横を通り抜ける。そこで、腕がつかまれた。

 

「西木野さん!」

 

真姫は振り向かず、でも腕を振りほどくこともしない。クラスメイトたちは何事だろうかとチラチラこちらを見ているが、声をかけてくる者はいない。そんなクラスの様子を気にもせず、花陽は真姫に言う。

 

「西木野さんがやりたいことやっても……いいと思う……。」

 

私が言えることじゃないけどね。そう言って苦笑する花陽に真姫は何も言わない。ただただ、唇をかみしめる。

 

「だから、もう1度考えてみてほしいな。」

 

ごめんね、引き留めちゃって。と解放された真姫は花陽のことを見ることなく、一言も発さずにその場を後にする。花陽の言葉。分かっている。それは正論だ。自分のやりたいことをやる。それがいいことだというのは分かっているのだ。でも、実際は誰だって正論で生きていけるわけがないのだ。正論、それは理想でもある。理想はかなわないからこそ理想なのだ。花陽は正論に、理想に近づいたのだろう。でも自分は

 

(私はそこに近づけない……)

 

 

 

 

 

気づけば公園にいた。今朝夢で見た公園。

 

(なんで今更こんなところに……)

 

そう思うも、なぜかここにいたい。そんな気分でいたので、真姫はブランコに腰かけてぼーっと空を見上げる。そこでぽつりと頬に水滴が当たった。雨。小雨であるし、大した雨じゃない。じきに止むだろう。真姫は思い出す。

 

(あの人、最後なんて言ってたっけ……?)

 

今朝の夢で思い出した少年。あの姿に影響された。どんなことがあっても、なにをされても動じない。そんな姿は幼い真姫にはとても強く見えて、その姿に憧れた。

小さなころから自分は西木野家の長女として、唯一の子供として期待されてきた。勉強もピアノも、他にも様々な習い事をして、その全てで真姫はその優秀さを見せた。

最初は羨望の眼差しなのだ。同年代の子供や歳の近い子供たちは、最初はすごいすごいとはやしたてるのだ。しかし、ある一定のラインでその賞賛、羨望は妬みに変わっていった。真姫にとってそれはつらいことだった。自分の周りにどんどん人がいなくなる感覚。それを何度か繰り返すうちに、そもそも最初から周りに人がいないのだということに気が付いた。自分のことを称賛する人も、妬む人も全員。彼らは自分を遠くから見ているだけなのだ。遠くから見て、あれこれ言うだけ。自分のそばには、内面には近づいて来ない。

そのことに気が付いた時、真姫は愕然とした。そして寂しさに震え、これからもずっとこの感覚に耐えなくてはいけないのかと恐怖した。そんな恐怖を味わうくらいなら自分を変えて、偽ってみようか。そう思った。しかし、そこであの光景に出会った。

自分のことを曲げない。あんなに辛そうな目に遭っているのに自分を曲げない。そこまでするのはなぜか分からない。でも、その姿はとても強く見えて。その時、言っていた言葉に真姫は自分も強く生きなければ。そう思ったのだ。

その言葉は……

 

「こんなとこにいた……。探したよ。」

「え……?」

 

急にかけられた声に真姫は空に向けていた視線を前に向ける。そこにいたのは

 

「ちょっと話さない?」

 

そう言って笑う青年。南鷹也だった。

 

 

 

 

 

「お、まだ乗れるもんだな。子供用なのに。」

「……なにか用?」

 

隣でそんなことを言いながらのんきにブランコに乗る鷹也をジト目で見ながら真姫はそう言う。正直、今はこの青年と話す気分ではない。ただでさえ、今は昔のことを思い出して気分的に良くないのに、そのことをなぜか思い出させる鷹也と話して、自分の感情を抑えきれる自信はなかった。

 

「西木野さんの手助けしたいと思って。」

「手助け?」

 

そう。と言ってブランコを揺らす鷹也を変な物を見るような視線で見る真姫。自分をアイドルにいれようとしに来たのではないのだろうか。そんな真姫の感情を読み取ったのだろうか。鷹也は真姫の視線を受けながら苦笑して言う。

 

「西木野さんがアイドルを本当にやりたくないのなら無理にやらせる気はないよ。」

「なら、手助けもなにもないじゃない……」

 

真姫はそう言ってため息をつく。自分はアイドルをやることはできない。ならば手助けなんてできることはないはずだ。そう思って少し残念がっている自分がいることに気がつくも、真姫はその感情を押さえつける。大丈夫。まだ抑えられる。

 

「でも、本当に西木野さんがやりたいかってまだ聞いてないなっと思ってさ。」

「……言ったでしょ。無理だって……」

「そうじゃない。」

 

前から言ってるじゃないか。そんな感情をこめて、でもなぜか歯切れが悪くなってしまう真姫に鷹也の視線が向く。真姫はとっさに目を逸らす。

 

「無理かどうか聞いてるんじゃない。」

「……なにそれ。イミわかんない……」

 

鷹也の方に一切視線を向けず、口癖でもある言葉を返す。聞かれていることは分かっている。でも、ここでその質問に答えたら、おそらく自分は感情を誤魔化しきれない。だが、鷹也は質問をやめない。真姫が質問の本当の意味に気が付いていることも知っていてわざと口にだしているのが真姫には分かった。

 

「無理かどうかじゃない。やりたいかどうかを聞いて……」

「やめて!!」

 

叫んでから気が付いた。でももう遅い。もうほとばしる感情は抑えられない。立ち上がって鷹也に向きあって、自分の感情を吐き出す。

 

「分かってるんでしょ!?私には無理なのよ!!」

 

ああ、自分らしくない。そう思う。こんなに大声を出して、クールで強がっている普段の自分とは別人みたい。そうどこか他人事みたいに思うが、真姫の口は止まらない。

 

「できるならやりたいわよ!私だって……変わりたいわよ!!」

 

変わりたい。そう、変わりたいのだ。西木野のお嬢様である自分。周りに誰もいない自分。素直になれない自分。好きな音楽をやれない自分。そんな自分から変わりたいのだ。頬に当たる水滴を拭う。これは雨なのだろうか、それとも。

 

「でも、仕方ないじゃない!私の将来は決まってるんだから!!やりたくったって……やりたくったってやれないのよ!!」

 

言いたいことを吐き出して、向かい合う鷹也を見つめる。鷹也は真姫の心を本心からの叫びを聞いたあとでも、なんの感情も見せない。そのまま少し黙るが、すぐに口を開く。

 

「西木野のお嬢様である自分が本当の自分?」

「あ……」

 

そう言われて真姫は頭が揺さぶられたような気がした。西木野のお嬢様。それは自分のはずだ。医者になることを望まれて、そのために教育を受けて、期待されて。それを受け入れていたはずだ。でも、それは自分の本心か?

 

「真姫。」

 

鷹也に呼びかけられて、その顔にもう1度しっかりと視線を向ける。

 

「自分をきちんと見て。自分自身がなにを望んでいて、なにを辛いと思ってるか。ちゃんと自分に素直になって。」

 

『だってそれが自分だから。』

 

そこで思い出した。なぜか今目の前の鷹也とダブって見えた夢の中で見た少年の言葉。なにをされても、イジメられて自分を否定されても負けないその少年の根底にあったのは自分が自分であるという信念のもとの強さ。その時、真姫は自分を偽るのはやめようと思ったのだ。自分の優秀さを妬まれようが、自分の世界に誰も踏み込んでこないと知っていようが、周りにどう思われようが自分が正しいと思う方に強く生きていこうとそう決めたのだ。でも、その言葉を自分は言い訳に使っていたのかもしれない。現に今の自分はどうだろうか。そこまで考えて、自分の気持ちが口からこぼれ始める。

 

「私は……」

 

感情を抑えて、自分のやりたいことを誤魔化して、

 

「私は……!」

 

自分は医者にならなくてはいけないということを言い訳にして、自分は強いから、自分は自分を偽ってまで誰かと一緒にいなくてもいいと誰も入ってこない自分の世界を肯定して、いつのまにかそこに誰かが入ってくることが怖くなっていただけなのに、一人はつらいと心が悲鳴を上げていたのにそれを押し殺して、

 

「あの人たちと……小泉さんや星空さんと……!」

 

自分の想いを偽っていた。誘ってくれていたのが、自分を西木野のお嬢様としてではなく真姫として見て賞賛してくれていたことが本当は嬉しかったのに。自分の世界に入ってこようと、境界線を超えてこようとしてくれていたことが嬉しかったのに。それに気づかないふりをして。

いつの間にか雨はやんでいた。それなのに頬には1滴の水滴が落ちてきて。真姫は思いを口にする。

 

「音楽を……アイドルを……やりたい……!」

 

これが本当の自分だ。西木野のお嬢様としての自分の気持ちでもなく、真姫としての本当の自分の気持ち。もう偽らない。自分は自分だ。感情を偽っていては自分ではない。本当の意味であの言葉を言った少年のように強く生きる。自分は変わりたいのだ。好きな音楽を、1人じゃなくみんなで歌う。そんな自分に。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

鷹也の問いに無言で頷くことで返す。我に返ってみると恥ずかしさで死にそうである。わめいて、涙を見せて。思い出すだけで顔が真っ赤になる。今はブランコから降りて公園のベンチに腰掛けているが、隣にいる鷹也の方は全く向けない。

 

「西木野さんがやりたいならやればいいよ。」

「でも……」

 

自分の気持ちを偽らない。自分を強く持って生きると決めた。でも、自分のやりたいことだけできるような世界ではない。医者になるということは小さいころから言われ続け、親を見てきた今では自分の目標でもあるのだ。なのにアイドルなんてやってていいのだろうか。

 

「いいんだよ。やってみても。」

 

ためらう真姫に鷹也はそう言って、立ち上がって真姫の顔をのぞき込む。その顔には優しげな微笑みが浮かんでいる。

 

「自分のやりたいこと全部やっちゃえばいい。医者になる夢も、アイドルになりたいって気持ちも。どっちか選ぶんじゃなくてどっちも選べばいい。」

 

それでどう?という鷹也に真姫はつい笑みを見せる。そんなことが可能なのだろうか。分からない。でも、できるのならそれが1番だとそう思えた。

 

「そうかもしれないわね。」

 

真姫はそう言って立ち上がる。もう迷わない。自分がやりたいことをやってみよう。自分の気持ちに素直に生きてみよう。自分が1番嫌がっていた西木野のお嬢様としてのレッテルを貼られて見られること、それをいつの間にか自分でやっていたけど、それももうやめだ。自分は自分なのだ。それを自分が忘れてはいけなかった。

 

「自分のやりたいことを全部やってみる。難しいかもしれないけど、できる気がする。」

「なんでそう思うの?」

 

自分でやればいいと言っておきながら、意地悪く聞いてくる鷹也をジト目で見る。その顔はいたずらっぽく笑っていて。ああもういい。ここまで散々らしくないことをしてきたのだ。今日はもういい。宣言しよう。真姫は笑顔になる。できるはずだ。だって、そう思えてそれだけの力もあるはず、それが

 

「それが自分だから。」

 

 




自分の中では大丈夫ですが
真姫ちゃんキャラ崩壊してると感じる方もいらっしゃるかもしれません。いたらごめんなさい。今回だけはお許しください。

次からはアニメの話の続きに戻る予定ですが、その前に番外編を入れるかもしれません。そこは更新してからのお楽しみということで少々お待ちください。

気づけばUA11000突破。もう驚きで感謝の言葉が足りません。お気に入り登録してくださった方も90をこえ、100が見えてきていてもう嬉しくてたまらないです( *´艸`)
お気に入り登録、感想、評価も引き続きお待ちしてます。

ではこれからもこんな小説ですがよろしくお願いします。
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