小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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この展開は入れておきたいなと思ってました。
にこは真剣に考えているからこそこんな風に言いだすと思ったんです。

今回は上手く表現するのが比較的難しかったです。
それではご覧ください。


信頼できない

「本当に!?」

「お兄ちゃんっ!」

 

つめ寄ってくる穂乃果とことりにほんとだと頷いてやる。先ほどの会議で決定したことだ。唯一の問題だった学校への申請もクリアしたのなら確定だろう。鷹也が他のメンバーを見まわすと、海未はもちろんのこと1年生の3人も歓迎してくれるようである。

 

「鷹也さんがいてくれるなら心強いですね。」

「凛も賛成ー!」

「うん。みんながいいならいいんじゃないかな、真姫ちゃんは?」

「私は別にどっちでもいいわよ。」

 

真姫なんかは文句を言ってくるかとも思われたが、どうでもいいと言ってくれたので一安心。真姫とは会話も多くしているし追い出されはしないとは思っていたがこれまでのメンバーの中で1番反対してくる可能性があったのは鷹也からすれば彼女だった。とすると、残りは1人のわけだが

 

「私は反対よ。」

「だよね。一応理由聞いておくよ。」

「信用できないのよ。」

 

にこが軽く鷹也をにらみながら言う。こうなるとは思っていた。にこだけは会って間もない上に初対面の印象もおそらく最悪に近い。信頼など皆無であるし、反対してくるのは当然だ。

 

「に、にこ先輩。鷹也さんはいい人ですし……」

「そう?そうは思えないんだけど。」

「……鷹也さん、なにか恨み買ったのですか?」

 

花陽が説得してくれようとしたようだが効果はなし。こちらに聞いて来る海未に身に覚えはあるが、後で説明すると笑って見せつつにこに話しかける。

 

「そうは言っても学校の決定では許可されたし放り出すわけにもいかないんだよね。」

「そんなの私の知ったことじゃないわよ。」

「だよなぁ……」

 

鷹也は少し考える。こうなるだろうとは思っていたが、正直どうするかまでは具体的に決めてはいない。意外に早くことが進んでしまったことで考える暇もなかったのだ。するとそれまで退屈そうに成り行きを見守っていた真姫が口を開く。

 

「とりあえず様子見でいいんじゃない?今はもめてて時間を浪費する方がもったいないと思うけど。」

「真姫の言う通りですね。にこ先輩、とりあえずのところは納得してもらえないでしょうか?」

「……ふんっ!」

 

鼻を鳴らしてそっぽを向くにこを見てどうするかなぁと苦笑しつつ、話をまとめてくれた真姫と海未にお礼を言うと海未は微笑みを返してくれる。

 

「いえ、どういたしまして。」

「私は別に練習を早く終わらせて帰りたいだけよ。で、どうするの?」

「とりあえずこれから俺がサポートに付くうえでの注意事項だけ話しておく。」

 

そう言って鷹也はこれから活動には基本的に参加してダンスを中心とした練習のアドバイス、PV撮影時の雑用などの仕事や対外的にライブをするときの交渉役となることを説明。また、活動のサポートをした際には必ずレポートを音ノ木坂の先生に提出。定期的に何人かに協力してもらうアンケートとの齟齬がないか確認してもらって問題が起こらないように徹底することを説明する。他にも細々とした仕事はあるがとりあえずこのくらいだろう。

 

「……とこのくらいだ。なにか質問ある人いる?」

 

メンバー全員を見まわして確認をとる。特に問題も質問もないようだ。それを確認して鷹也はいまだこちらに一切視線を向けないにこを見て言う。

 

「矢澤さん、今回はとりあえず妥協してくれないかな?考えてることは分かるし、そんなことは起こらないようにする。しばらくは様子見ってことで納得してくれない?」

「……………………………わかったわよ。」

 

でも、少しでも問題になりそうなら出てってもらうからね!と言うにこ。全く信用されてないなと思いつつ、鷹也は分かったと練習の再開を指示。今回はこれくらいだろう。いつまでも自分のことで練習を中断させてもいけない。

 

「1!2!3!4!5!………」

 

ダンスのステップを練習しだす7人に鷹也は、神田明神での練習の時と同じように時折アドバイスを飛ばしていく。7人になり、学校にも認可され、サポートの体制も整ってきた。あとは廃校阻止に向けて駆け抜けるだけだと思っていたのだが。

 

「矢澤さん!ステップ間違ってる!」

「うるさいわね!分かってるわよ!」

 

口出すなとでも言うように噛みついて来るにこ。もう1つ問題が浮上。メンバーとの信頼関係がどうやら圧倒的に足りてないようである。鷹也はみんなにばれないように小さくため息をついてこれからどうするかと思案を続けた。

 

 

 

 

 

「やっぱり納得いかないわよ!」

「そうかな~?凛は鷹也さんっていい人だと思うけどにゃ~」

「うん、私もそう思うけど……にこ先輩はそうは思わないんですか?」

 

その日の練習終わりの帰り道、にこはふくれっ面で歩く。隣には凛と花陽。どうやらいつもは途中まで一緒に帰るという真姫は今日は用事があるということでいない。そんな時に花陽に聞かれてにこは

 

「甘い!」

 

と一歩前に出たにこは立ち止まって花陽と凛を交互に指さして答える。急に指をさされて強めの口調で言われたからか、きょとんとする花陽と凛ににこはつめ寄りながら続ける。

 

「甘いのよ!あんたたち、アイドルに1番あってはならないこと分かってるの?」

「あ……まさか……!」

「えっと…………怪我?」

 

さすがにアイドルに関してよく知っている様子の花陽は気が付いたようで、にこは頷いて見せる。しかし、凛はピンときていないようで見当違いのことを言っている。いや、怪我もあってはならないから見当違いではないのだけれども。

 

「違うわよ!いや違わないけど……」

「え~?じゃあ……病気……とか?」

「いや、だからそれも違わないけど……」

「分かった!空腹だ!!」

「それは絶対に違うわよ!!」

 

えーじゃあもう分かんないにゃ~と首を傾げる凛ににこはがっくりと肩を落とす。なんとなくこの子の雰囲気は分かっていたが、予想を裏切らない天真爛漫、天然っぷりである。花陽もそんな凛を見て苦笑いを浮かべている。

 

「分からないなら教えてあげるわ。アイドルにあってはならないこと……」

「「それは……?」」

 

ごくりと緊張した様子で聞き返す凛と花陽の目をゆっくりと交互に見て、充分ためを作ってから告げる。

 

「スキャンダルよ!!」

「………………?」

「そ、それは確かに一大事です……!!」

 

恐れおののくような花陽の様子に満足そうににこは頷くも、凛のキョトンとした顔に怪訝な表情になる。

 

「どうしたのよ?スキャンダルなんてアイドルには絶対にあっちゃいけないことでしょう?」

「…………すきゃんだる?」

「り、凛ちゃん……」

 

こてんと首を傾げる凛の様子に、ついずっこける。まさかここまで天然でピュアだとは思っていなかった。脱力してもういいやと投げ出しそうになるのをなんとかこらえようとにこが額に手を当ててため息をついている間に、どうやら花陽が凛に説明してくれたらしい。

 

「おお~なるほど!」

「分かったみたいね。そう、それは絶対にアイドルにあっちゃいけないのよ。」

「それはそうですね。人気があったのにそういったことで人気が地に落ちたアイドルだっているくらいですし……!」

 

ようやく全員が事態を把握したようで、にこは納得したようにうなづく。そうだ。にも拘わらず、スキャンダルのネタになりかねないあの男をサポートに付けるなんてあってはならない。

 

「でも、鷹也さんはそんなこと心配なさそうだけどにゃ~」

「なんでそうなるのよ!」

 

凛の言葉についツッコミを入れてしまう。この子は本当に話を聞いていたのだろうか。何とか言ってよとにこは花陽の方に視線を向ける。しかし

 

「わ、私も鷹也さんなら大丈夫だと思いますけど…………」

「あんたまで……」

 

花陽までそう言いだしたことでにこはがっくりうなだれる。だからこのグループに加入する前に言ったのだ。この子たちには決定的にアイドルになるという自覚が足りていない。なにかあってからでは遅いのだ。小さな原因の種も見逃さず、妥協せず、一切の問題をなくすくらいの気持ちでいなくてはいけないのだ。そんな風ににこは2人に言って聞かせる。

 

「アイドルっていうのはお客さんを、ファンを、みんなを笑顔にする仕事なのよ!問題なんか起こして、みんなの笑顔を失うなんてことはあっちゃいけないのよ!!」

「「おお~……!!」」

 

感心したように拍手する2人の前でにこは得意げに胸を張る。

 

「大体あんたたちは人を信用するのが早すぎるのよ。確かあんたたちがあいつと知り合ってからまだ2週間もたってないじゃない。」

「え~?でも鷹也さん、休憩中の凛にお菓子くれたよ?」

「子供か!そんなので懐くんじゃないわよ!!」

 

凛子供じゃないもん!と抗議する凛は放って置き、にこは花陽を見る。花陽は凛を苦笑しながら見ていたが、にこの視線に気が付くと迷いながらも口にする。

 

「鷹也さんは……確かにまだ初めて会ってからそんなに日にちは経ってないけど……でも、きっといい人だと思います。時間はあんまり関係ないんじゃないかな……って思います。」

 

そう言って微笑む花陽に複雑な表情を浮かべるにこ。人懐っこくて単純な凛ならまだしも、人見知りの花陽にここまで信頼されているとは思わなかった。一瞬本当にいい人なのかとも思うが、首を振ってその考えを打ち消す。自分まで流されてはいけない。そんなにこの様子が不満だったのか、凛が口をとがらせて聞いて来る。

 

「じゃあじゃあ、にこ先輩はどうすれば鷹也さんのこと信頼するの?」

「そんなの決まってるでしょ。」

 

あんまり時間をかけてもいけないだろう。ならば方法は1つだ。この子たちとアイドルをやっていくと決めたのだ。自分がしっかりと見定めなくては。にこは凛と花陽に向かってその方法を告げる。

 

「観察よ!」

 

 

 

 

 

「観察ってこれでいいの?」

「しっ……!!ばれちゃううじゃない!!」

「ていうか私たちも早く練習の準備しなきゃいけないんじゃ……」

 

次の日、屋上での活動の前に学校へ来る鷹也を窓から見かけた3人は校内を移動する鷹也を尾行していた。廊下を歩く鷹也に気づかれないよう一定の距離を保ちながらついていく。

 

「どうせまだ全員集まってないわよ。それに私たちのサポートを理由に女子校に入りたかっただけの可能性だってあるわ。」

「そんなことないと思いますけど……」

「あるかもしれないでしょ。現に屋上に向かう気配がないじゃない。」

「そっか。屋上に向かうのに1階を歩き回る必要ないもんね。迷子になっちゃってるのかな?」

「それもないと思うけど……」

 

そんな会話をしながら、鷹也の後を追いかける。すると鷹也はある一室の前で立ち止まる。

 

「職員室……?」

「なにかあるのかな?」

「とりあえずのぞいてみるわよ。」

 

そう言ってにこはドアを少しだけ開けて、中に入って行った鷹也の様子を伺う。凛と花陽もその上から中をのぞき込む。するとそこには1人の先生となにやら話し込む鷹也の姿。しかし、ちょうど他の先生と生徒が入り口近くで話しているせいもあり、なかなか声が聞こえてこない。鷹也が何かを先生に手渡す。

 

「何か手渡してるわね……」

「う~……よく見えないにゃぁ……」

「先生に何かお土産でしょうか……?」

 

その後、何かにこやかに話し続ける2人。にこは少し身を乗り出して会話内容を何とか聞こうとする。

 

「うーん……なに話してるのかしら……」

「なになに?凛ももっと見たい~!!」

「うわっ……凛ちゃん、押さないで……!!」

「ってちょっとあんたたち!暴れたら余計見えないし聞こえなく……」

「何やってるの?」

「「「あ…………」」」

 

もう少し、もう少しとしているうちにドアを開けすぎていたらしい。職員室の中の鷹也とばっちり目があってしまう。3人は視線を合わせて一瞬で意見を一致。

 

「「「な、なんでもないですー!!」」」

 

その場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

「なんだ、あれ……?」

「あれもメンバーだったか?さっそく大変そうだな?」

「そんなことないですよ。」

 

からかうように言ってくる先生に苦笑しつつ鷹也は返事をする。それじゃあ目的も達成したことだし、屋上に向かおう。

 

「先生、それじゃあこれからよろしくお願いします。」

「ん、差し入れありがとうな。職員室で分け合わせてもらうよ。」

 

いえいえと言って穂乃果の家のお饅頭の入った箱を振る先生に頭を下げる。これからお世話になるんだ。書類の確認という単純作業とはいえ、仕事を増やしてしまうのだから挨拶くらいはきちんとしておかなくては。それに昨日は他の先生にもお世話になったので、今はいなかったけどお礼としてお饅頭渡しておいてもらおうと職員室に寄ったのだ。お礼に関してはもう1度後で来てみよう。それよりも

 

(なんだったんだ、あの3人?)

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……!!」

「び、びっくりした~!!」

「もう!危なかったじゃない!」

 

一気に屋上に続く踊り場まで階段を駆け上がった3人は息を整える。危なかった。尾行していたことがばれたら警戒されて観察の意味がなくなってしまう。

 

「でも、ちらっと見た感じはただの挨拶って感じだったよ?」

「そうね……あれは特に問題行動とは言えないわね……」

「そんなに悔しそうに言わなくても……」

 

なぜか悔し気なにこに花陽は苦笑い。しかし、にことしては重大問題なのだ。何とかしてあの男のしっぽを捕まえて問題の種はなくさなくてはいけないのだ。

 

「まあいいわ。次よ次!!」

「おー!!」

「り、凛ちゃん楽しみだしてない……?」

 

 

 

 

 

「海未、ちょっといいか?」

「はい、どうかしましたか?」

「ちょっとこっち来てくれ。」

 

練習の休憩時間。そんな会話をする鷹也と海未ににこと凛の目がきらーんと光った気が花陽はした。そして凛が近づいてくる。その眼は最初に観察を始めると言い出されて戸惑っていた様子はもう見られず、すでに楽しさを求めてキラキラしているのが花陽には分かった。

 

「かよちん……!!」

「なんにもないと思うけど……」

「どうかしたの?」

 

楽しそうな凛に苦笑いしているとそこで鷹也の妹であることりが近づいて来た。さすがにことりには鷹也の観察をしているなんて言えないだろう。花陽はうろたえる。自分はそこまで疑ってはいないとはいえ、彼女の兄を疑っているのだ。どう受け答えすればいいのかとただでさえ口下手な花陽はパニックに陥りかける。

 

「あ、もしかして……」

「あー!凛、ちょっとお手洗いに行ってくるね!」

「り、凛ちゃん!ちょっと待って、私も!」

「あ、ちょっと待って……って行っちゃった……」

 

凛の言葉に便乗して逃げるように駆け出す。先ほど、屋上から出ていった鷹也と海未はどこだろう。凛の機転に感謝しつつ、さりげなく便乗してきたにことも合流。

 

「凛ちゃん、ありがとう……!!」

「ううん!それより2人を探さなきゃ!」

「そうね……。わざわざ2人で出ていくなんて何か聞かれたくない話をしてるに違いないわ!」

 

今回ばかりは強く反論もできないので花陽は黙っておく。信頼するための観察で、信頼しようとしている相手の聞かれたくない秘密を聞いていいのかという疑問もあるがもはや今更だろう。にこはどうやら信頼するためというか追い出すために観察している節もあるのだし。そんなことを考えながら辺りを見まわしていると海未の声が聞こえてくる。

 

「これは……?」

 

階段の踊り場で2人の姿を発見。海未の声に花陽たちはとっさに物陰に身を隠してその様子を伺う。どうやら鷹也が何か紙のような物を手渡しているところらしい。海未がその紙に書かれたものを見て驚いたような表情を浮かべている。昨日スキャンダルだななんだのと話をしたばかりである。しかも相手は幼馴染と呼べるであろう海未。3人で顔を見合わせる。

 

「これってもしかして…………!!!」

「あの男はこれが狙いだったのね…………!」

「海未先輩が……意外だにゃ……」

 

固唾をのんで成り行きを見守る。3人の頭には完全にそのシーンであるという想像しかなくなっていた。そして鷹也が話し出す。

 

「一応海未のために考えてみた。ダメか?」

「いえ……!ありがとうございます!!」

 

嬉しそうに微笑む海未に鷹也がほっとしたような笑顔になる。みんなから離れた場所で向き合う男女。女性の手には手紙らしき紙。仲のよさそうなその様子。そして会話内容から考えても……

 

「海未先輩……嬉しそう……」

「で、でもダメです、海未先輩……!そうやって恋愛して人気に影響がでたアイドルが何人もいるのに……!!」

「これは完全に問題行動ね……行くわよ!」

「ええ!?行くって割り込んじゃうんですか……!?」

「当たり前じゃない!こんなの見逃したら活動に影響が出るでしょ!」

 

今にも飛び出していこうとするにこを慌てて花陽と凛が止める。

 

「海未先輩、あんなに嬉しそうなんだからそっとしといた方がいいんじゃ……」

「ダメよ!アイドルにそういうことはご法度!ただでさえ廃校を防ぐために時間がないのよ?こんなことが世間に知られてよくないイメージが付いたら取り返せないわよ……!!」

「でもでも、凛たちが止めてもいいことじゃ……」

「私たちのアイドル活動にも関わることなんだからいいに決まってんでしょ!」

「でも……!」

「ああ!もういいわ!なら私1人でも……!!」

「何してるのよ?」

「「「え?」」」

 

つい白熱して周りの警戒を忘れていた。そこにいたのは

 

「ま、真姫ちゃん……?」

「ふざけてないで、みんな待ってるんだから早くしなさいよ。あと海未先輩たちは……」

「あ!ちょっと真姫!!」

 

なかなか帰ってこないので探しに来たのだろう。3人の背後から降りてきた真姫はそう言うとにこの制止も聞かずに海未と鷹也にも声をかける。

 

「ちょっと!もう休憩終わりの時間なんだけどいつまで待たせるのよ!!」

「ああ、ごめん、今行く……ってなにやってんの?」

「にこ先輩?凛に花陽も……どうしたんですか?」

「さあ?覗いてたみたいよ?」

 

止める間もなく真姫が2人に報告。へえ?と振り向く鷹也と海未に花陽たちは苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「海未先輩専用の練習予定?」

 

屋上に戻り、覗いていた理由を聞くためにものぞいていた3人は鷹也の前に座らせて、とりあえずは自分と海未が何をしていたのかを説明する。弓道部も兼部している海未は必然、他のメンバーよりもスケジュールがハードになり、複雑になる。だからこそ両立の手助けになればと昨日弓道部の顧問の先生と相談してスケジュールを作っておいたのだ。で、先ほどはこれを渡していたのだが

 

「な、なんだぁ……勘違いするところでした……」

「大体紛らわしいのよ!わざわざ移動して渡さなくても、みんなの前で渡せばいいじゃない!」

 

なぜこうまで花陽と凛は胸をなでおろしていて、にこは憤慨しているのだろう。別に移動したことに深い意味はない。しいて言えば鷹也がみんなの前で自分がこんなことしていたとバレるのがなんとなく気恥ずかしかったからというのが1つ。それと

 

「みんなの前で渡したら気を使うだろ?」

「え?」

 

にこがきょとんとする。鷹也はそんなにこを見て言葉が足りなかったのだと理解し、言葉を続ける。

 

「海未は自分だけ兼部してこの活動してる。みんなそれを知ってるとは言っても、みんなの前でこうしてスケジュールを見せたら、みんなが無意識的に一時的にでも海未に無理させないようにと余計に気を使いすぎるかもしれないだろ。それは海未だって望んでないだろうからね。」

「気を使いすぎるなんてことあるかなぁ?」

 

純粋に疑問に思ったのだろう。この状況少し離れてみながらそう言う穂乃果に、考えすぎだろうけど一応のためだと言っておく。こういう特別はメンバー間の距離感を難しいものにしてしまう可能性もある。新メンバーも増えて間もないのだから今回は少し慎重になったまでである。それが海未を別の場所に連れて行ってスケジュールを渡した理由。これでこちらの説明は終わりである。さて……と3人を見まわす。

 

「今日、俺が職員室にいるときものぞき見してたよな?なんで?」

「「「えっと…………」」」

 

言い淀む3人ににっこりと微笑む。言いたくないなら仕方ないけどその場合は

 

「階段ダッシュ3倍にしてほしい?」

「そ、それはちょっと……難しいんじゃ……」

「さ、さすがに凛もそんなことになったら厳しいというか……」

「してほしい?」

「鷹也さんを尾行してました……」

「ごめんなさい……」

「ちょっと!あんたたちなに簡単に……!!」

 

素直に謝ってくれた花陽と凛から目を離し、にこに視線を向ける。別に尾行されていたことはいい。正直怒る気もあんまりない。ただ問題は

 

「なんで尾行なんてしていたの?」

「……あんたが信用できないからよ。」

 

これだ。鷹也はため息をつく。にこの信頼度。今回のことのようなことが起こるならかなりの問題だ。練習にまで支障が出てくる可能性がある。

 

「なんでそこまで信用できないの?俺が男だからいろいろ問題はあると思ってその問題を防げるような決まりを学校側とも決めたつもりだけど。」

「……あんた、私と初めてファミレスで会った時のこと覚えてないの?あんたは私のことを信頼してないって言った。それにあの雰囲気で分かったのよ。あの場で私がもし、もし本当にこのμ’sに危害を加えるだけの人間だったら、あんたは……」

 

自分のことなんか構わずに私のことを動けなくしようとしてた。そう言うにこの身体は少し震えていて、左右に座る凛と花陽は心配そうににこを見つめる。周りで黙っている他のメンバーも同じく心配そうだ。しかし、にこはそんな視線を気にもせず震えをこらえて顔を上げる。

 

「この2人も、他のメンバーもあなたを信頼してるみたいなのに。そんな自分の立場も、サポートしてる時点で自分になにかあったら自分を信頼しているμ’sに迷惑がかかるっていう立場にいるってことも分からないような人に私たちのサポートは任せたくない。」

 

はっきりと告げたにこの視線に鷹也は目を逸らせない。まさか、この少女がそこまで考えているとは。気に食わないという理由だけで反対しているものだと思っていたので意外だ。鷹也は小さく笑う。今まで誰も気が付かなかったのに、この会ったばかりの少女は自分の本質に気が付きかけている。でも、まだ足りない。彼女は1つ誤解をしている。ことりが口を開きかけるが、鷹也はなにも言わないように視線で釘をさす。他のメンバーにも同様。これはにこと鷹也の話だ。

 

「……正論だね。そこはこっちの落ち度だ。」

「だったら、さっさとやめるのね。」

 

にこがそっぽを向いてそう言う。でも、

 

「やめないよ。」

「……なに言ってるの?」

 

こちらに向き直ってにらみつけるにこに鷹也は言う。

 

「だって約束しちゃったんだよ。ずっと見てる。ずっと支える。ずっと応援するって。」

 

そう約束したのだ。だからこんなところで彼女たちを放り出すわけにはいかない。

 

「それに、俺は自分を犠牲にしてでもって言ったけど、μ’sに迷惑かかるような方法をとるつもりなんか一切ない。」

 

にこはあっけにとられたように鷹也を見る。それもそうだろう。今、鷹也はこう言っているのだ。自分を犠牲にすることにためらいはないけど、彼女たちの邪魔になるようなことは絶対にしないしさせない。ことりや穂乃果、海未は昔から見てきているため心配そうだが何も言わないこの鷹也の行動。しかし、他のメンバーには信じられないだろう。なぜそこまでして自分たちに協力しようとするのか。それが分からないのだから。現に、真姫や花陽、凛も唖然としたような表情でこちらを見ている。

 

「だから、矢澤さんの迷惑になることも、問題だと思うことも絶対にしない。信じてくれないかな。」

 

信じてくれないか。所詮口約束だ。だが、にこには、ファミレスの時に感じたあの言葉の真剣さを分かっている。文字通り、鷹也は自分はどうなってもいいと思っている。でも、それでいて自分たちに迷惑をかける気なんてない。自分を犠牲にする覚悟とこちらに迷惑をかけないという気持ちはどちらも本物だと感じられたにこに、この言葉は単なる口約束ではなく、真剣な約束だということが分かるはずだ。

 

「俺はμ’sの迷惑になるようなことも、問題になるようなことも、自分のことを犠牲にしてでも起こさない。約束するよ。」

「……なんで……そこまでできるのよ……あんたには直接関係ないじゃない……」

 

にこの言葉に鷹也は笑顔を見せる。裏の全くないような、もしくは全く見えないような完成された、完成されすぎた笑み。そして紡がれるのはいつものセリフ。

 

「それが俺だから。」

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんはいっつもあんな感じだったから。」

 

その日のあまり気持ちの入らない練習を終え、理事長室に用事のあるという鷹也を待ちながら校門で7人は話す。いつも一緒に帰っているのは2年生組だけなのだが、今日は少し話をしておきたいということで全員が立ち止まる。

 

「昔からなんだ。自分のことはなんにも考えないで、私たちのためだけに行動しちゃう。」

「なんか凛……あの鷹也さんはなんか……」

 

言葉にならない様子の凛に分かってるというような笑みをことりは向ける。たまに見るあの鷹也の様子を、なにかの違和感を言葉にできないのは、一緒に住んでいる自分ですら同じなのだ。

 

「鷹也さんの癖のようなものなんです。誰かのためにだけ、周りのためにだけ動こうとするというのは。そこに自分の利益なんて全く考慮されてない。」

「そんなのってつらくないのかな……」

「…………………」

 

海未の言葉に花陽がつぶやき、真姫も考え深げに顔をゆがめる。にこもなにも言わずに黙っている。考えが整理できないのだろう。確かに鷹也のこの行動の通りならサポートには問題ないだろう。でも、きっと理解できないのだ。昔から一緒のことりたちに無償で協力するのは百歩譲っていや、千歩譲って分かる。でも彼は言ったのだ。

 

『矢澤さんの迷惑になることも、問題だと思うことも絶対にしない。』

 

そう言ったのだ。つまりことりたち以外のメンバーのためだけに自分を犠牲にもできると言ったようなものだ。会ってからまだそんなに経っていない人のためにそこまでできる人なんて見たことないし、信用しろと言われても混乱してしまう。そんな様子をみてか、穂乃果が口を開く。

 

「だからね、その分私たちは鷹也くんが無理しすぎないようにしようって決めてるの。」

 

ね?とことりと海未と顔を見合わせて微笑む穂乃果を他の4人は不思議そうに見つめる。

 

「鷹也くんはきっと本当に私たちのためなら私たちに気づかれないように自分を犠牲にしちゃう。」

「だからこそ彼のサポート、支えに頼りっきりにならないようにすると決めたんです。」

「お兄ちゃんが支えてくれるように、私たちはその支えで自分の精いっぱいをし続けてお兄ちゃんを支えようって。」

 

3人はそう言って他の4人を見る。鷹也はきっとこの少女たちの中に自分が支えたいと思う物を見たのだろう。それならば、彼女たちのことを裏切って問題を起こすことなど絶対にないはずだ。それはことりが、穂乃果が、海未がよく知っている。だから、

 

「お兄ちゃんはぜったいに私たちの支えになってくれる。だから、みんなも一緒にお兄ちゃんを支えてほしいな。」

 

言われて4人は顔を見合わせる。

 

「私は……私は鷹也さんの言葉に勇気をもらいました。だから……鷹也さんのこと信じたい……です。」

「私も別に信じてもいいと思うわ。少なくとも悪い人には……見えないもの。」

「凛は……凛も鷹也さんは悪い人じゃないと思うな。根拠はないけど、かよちんのこともあるし……。かよちんのこと凛は信じてるから。かよちんが信じるなら凛も信じる。」

 

まず答えたのは1年生の3人。その言葉に笑顔になりつつ、まだ1人だけなにも言わないにこ全員が見る。にこはしばらくの間黙っていたが、ゆっくりと口を開く。

 

「私はまだ……信じられないわ。そんな人間がいるなんて信じられない。」

「にこ先輩……」

 

にこの言葉に穂乃果が悲し気につぶやくが、にこは勘違いしないでと言って続ける。

 

「でも、あの問題を起こさないって言葉は嘘だとは思えない。それに、私はこのメンバーを、μ’sを信じてみると決めたの。自分と同じだけの気持ちを持ってるって信じることにしてるの。そんなあんたたちが全力で頑張ってあいつを支えたいっていってるのなら仕方ないじゃない。」

 

だから、すこしは信用してあげる。そういうにこに全員が今度こそ笑顔になる。おそらく、みんなまだ納得し切れていないだろう。ことりですら、鷹也のあの異常なまで極端といえる自分に無関心で周りのために必死になるあの価値観は生まれつきのものだと半ばむりやり納得しているのだ。すぐに納得しろと言われても無理がある。でも、今はそれでもいい。今はみんなが鷹也のことを悪い人と思わないでくれればそれでいい。みんなが支えてくれるなら、鷹也も無理をしすぎることはないだろう。ことりはそう思って笑顔になる。そして、校舎から伸びをしながらでてくる鷹也に聞かれないようにみんなに言う。これはこのメンバー内だけでの話で納めるべきだろう。

 

「みんな、ありがとうっ!」

 

 





はい、いかがだったでしょうか。
急にオリジナル展開いれましたが、次からはちゃんとアニメの話に沿って進めていこうと思います。オリジナル難しい……

お気に入り登録も気づけば150超えてました。
UAも増え続けていてこんなに多くの人に読んでもらえてると思うと本当に嬉しいです!

それでは感想、評価などもお待ちしています。
次回以降もよろしくお願いします!
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