小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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そういえば前回の更新のとき書くの忘れてたので今言いますね。だいぶ遅れましたが
凛ちゃん、11月1日誕生日おめでとう!!!


そして今回は絵里の回。
かと思いきや絵里よりも久しぶりの和樹くんと沙希先輩が出てくる回になったという印象。
このままのペースだと次が絵里加入回になるかどうか……

というわけで話はあまり進んでいませんが文量は少し多いと思われます。
どうぞごらんください!


ラブライブにむけて

μ’sの新曲をサイトにアップしてから数日。ネットでの評価は好調。鷹也としても撮影、雑用などの手伝いをしたかいがあるというものである。前とはくらべものにならないくらいに上がったアイドルランキングを鷹也は感慨深げに眺める。

 

「すごいよなぁ……。こんなに速くランキングが上がってくアイドルなんて今までいなかったぞ?」

「そうなの?」

「いないいない。あのA-RISEでももっと時間かかってるよ。」

 

鷹也は向かいの席で食堂で購入した定食を食べる和樹の話を聞きながら、自分も先ほど買ってきたパンに口をつける。大学の昼休み。次のコマがちょうど空きコマなのでどうしようかと考えていたら、たまたま和樹と出くわしたので一緒に昼食をとっているのだ。和樹との話題は当然スクールアイドルのこと。

 

「そんなμ’sのサポートをお前がね……いいなぁ……」

「そうでもないと思うけどね……」

 

心底羨ましそうに言う和樹に苦笑いしながら鷹也は言う。毎回毎回何らかの問題を起こす彼女たちのサポートは結構骨が折れるのだ。

 

「それでもあんな子たちと放課後に一緒にレッスンしてるってのは羨ましいもんだよ。」

「特になにかあるわけでもないんだし、別に羨ましがることじゃないっての。」

「そこじゃないんだよなあ。まあ、そりゃあサークルにも顔出さなくなるよな。」

「まったくその通りだよ。あたしだって鷹也が来るの待ってるのに。」

「そこに関しては申し訳なくは思って……ってん?」

 

和樹と会話していたはずが感じる違和感。鷹也が横を向くと、そこにいたのは1人の女性。自らがトップに君臨するスクールアイドルの姉だと暴露した女性である綺羅沙希が昼食の乗ったトレーを持って立っていた。

 

「沙希先輩、お疲れ様です。」

「お疲れ様です。」

「うん、お疲れー」

 

大学生におけるテンプレの挨拶をした後に沙希はここいい?と言いながら和樹の横、鷹也の向かいの席に座る。誰かと一緒に食べに来たのではないかと聞くが、どうやらこちらに鷹也たちを見つけてこっちで食べるからとわざわざ断ってきたらしい。

 

「そこまでするってことは何か用ですか?」

「えー?ただ鷹也とか和樹とご飯食べたかったって可能性もあるんじゃない?」

「そうだったら嬉しいですけど……」

 

なあ?と言ってこちらに視線を向ける和樹と顔を見合わせて苦笑する。沙希に限ってそんなことはないだろう。今まで一切そんなことはなかったし、急にそんな感情を抱くとも思えない。

 

「そんなに苦笑いしなくてもいいじゃない。確かに用事があって来たんだけどさ。」

「そんな冗談で期待して傷つきたくないですよ。」

 

和樹の言葉に沙希は確かにそうだと言って笑う。こんな冗談も沙希と仲のいい先輩後輩の関係をなぜか築けている鷹也と和樹にとってはよく聞くものだ。軽く流して本題に入るよう沙希を促す。

 

「で、用事ってなんですか?」

「あ、そうそう。鷹也、見たよ?μ’sの新曲のPV。前より良くなってるんじゃない?」

 

そう沙希から言われて、鷹也はありがとうございますと礼を言う。自分としてはアドバイスしていく中で違和感に思う場所を減らしていったつもりだが、自分よりもダンスが上手い沙希に言われるとやはり嬉しくなる。そんな鷹也の様子を見て笑いつつ、沙希は続ける。

 

「でも前は笑って誤魔化してたけど、やっぱり鷹也がサポートしてるでしょ、この子たち。」

「…………なんでそう思うんですか?」

 

少し間が空いてしまうが、なんとか言葉を紡ぐ。鷹也がサポートしているということは、部活動紹介としてとった映像からしか分からないが、その映像がまだアップされていないはず。今日の夕方かそのあたりにアップされるはずだとことりは言っていた。ならばどこで分かったのだろう。適当に言って鎌をかけてるのかとも思ったが、どうやら沙希には確信がある様子だ。

 

「ダンスの特徴が鷹也にそっくりだよ?多少はメンバーの子とも相談したのかもしれないけど、やっぱりアドバイスをしてるのは鷹也だからか、鷹也のダンスの特徴とか癖が、まだ完成形ではないのにこの子たちのダンスからも少し見て取れる。」

「俺は本当に軽い、趣味程度でしかダンスをやってないんですよ?俺のその遊び程度でしかないダンスに決まった特徴なんてないと思いますけど?」

「そんなことないよー?」

 

そう言う沙希に鷹也の背筋が寒くなる。自分でも意識していないダンスの癖を見抜かれている。しかも、μ’sのメンバーに伝わった時点で薄まっているはずのそれすら見抜かれた。やはり彼女は天才だ。伊達に全国区の大会に出場してない。

 

「鷹也のダンスの特徴なんてありますか?」

「んー……まあ、ほんの少しだから分からないと思うけどね。」

「……なんですか、俺の癖って?」

 

和樹はダンスからなにも感じることはないようで首を傾げている。そんな和樹に笑って言う沙希に鷹也は聞く。すると沙希はこちらに視線を向けて笑う。同じ笑みでも和樹に向けていたものとは、どこか決定的に違う笑み。

 

「ライバルになるかもしれない相手にそんなこと教えないよー」

「ライバル?」

「そう、これから大きなイベントもあることだしね。ツバサたちのサポートしてる以上、鷹也には力を貸せない。」

 

でも、1つだけ教えてあげるよ。そう言う沙希の笑みは普段とは全く違う。普段の無邪気な沙希の笑みとは違う。その笑みは鷹也が初めて見る、冷たくて、きれいで、人を普段の無邪気さとは違う意味で惹きつける笑みで。鷹也は一切目を逸らせない。

 

「彼女たちがこれより上を目指すなら……このままじゃ、鷹也じゃ無理だよ。鷹也のダンスが彼女たちに影響をこれ以上与えるのではダメだよ。鷹也はそんなことしていいのかな?」

 

 

―このままじゃ、彼女たちの個性は死んでいくよ?-

 

 

「……っ!どういう意味ですか……」

「ヒントはここまでかなー。じゃ、また今度ね!」

「沙希先輩!!」

 

鷹也の声に一切耳を傾けず、沙希はじゃーねーと言いながら去っていく。鷹也は一瞬追いかけようかとも思うが、どうせ無駄だろうなと思いなおして立ち上がりかけた腰を下ろす。

 

「なんか沙希先輩、いつもと違ったな……」

「そうだな。あんな雰囲気だす人だっけか……?」

 

和樹の言葉に全面的に同意する。少し落ち着いたところで背中に冷や汗がつたっていたことに気が付く。普段は優しくて、明るくて、無邪気な彼女から発せられたプレシャーはこれまでに1度も感じたことのないものだった。思うことはたくさんあるが、何とか気持ちを切り替える。考えるのは後だ。和樹がいる前では余計な考え事はできない。

 

「そういえば、和樹。沙希先輩が言ってた大きなイベントって知ってる?」

「なんだ、知らなかったのか?」

 

スクールアイドル活動のサポートしてるんならこれは知っておかなきゃダメなことだろ。と和樹はため息をつきつつ、携帯を操作して鷹也に画面を見せてくる。そこに表示されていたページを見て、鷹也の顔が険しいものになる。沙希の言葉を聞いた今ではあまり喜べる展開ではない。

 

「これって……」

「そう、夏にまた開催されることになったんだよ。」

 

画面をのぞき込む鷹也を見て笑いつつ、和樹は言う。

 

「全国のスクールアイドルの祭典。第2回『ラブライブ』開催決定だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、分かりました。注意しておきます。」

「学校のために頑張ってることは知ってるんだけど、学生である以上は見逃せないの。お願いね?」

「分かってます。では、失礼します。」

 

ひな子からのメールで、今日は練習前に職員室に顔を出すように言われた鷹也は話があると言われた教師との対話を終えて、職員室から出るとため息をつく。

 

「あの3人か……まあ予想通りと言えば予想通りなわけなんだけど……」

 

この大事な時期に……と気分が沈むのを感じながらも、なんとか歩き出す。沙希の言葉、ラブライブの開催。考えることはたくさんあるのに、それ以前の問題だ。

 

「とりあえず他の4人とも協力して……ってなにやってんの、みんな?」

「「「しーーー……!!」」」

「あ、ああ……ごめん……?」

 

頭の中で考えをまとめながら、屋上で練習しているであろう彼女たちのもとへ向かおうと鷹也が歩いていると、理事長室の前でドアに耳をつけている1年生3人を発見。声をかけると怒られたので、近づいて何をしているのか聞く。

 

「なにしてるの?」

「今、これからに関わる交渉中なのよ。」

「この交渉によっては私たちも……!!」

「ああ、そういうこと……」

 

答えてくれた真姫と花陽の言葉で鷹也は話を大体察する。これからに関わることで、アイドル好きの花陽がキャラが多少変わっているところを見れば、十中八九ラブライブに関することだろう。そこまで考えたところで、ずっと聞き耳を立てていた凛が扉から驚いたように離れる。

 

「あ……!!」

 

憮然とした表情で出てきたのは絢瀬絵里。急に出てきたことに驚くこちらには一切目もくれずに去っていく。鷹也が一瞬見えたその表情はなにを表していたのだろうか。何か思い悩んでいるというか、何かに対していらだっているようなそんな表情。

 

「あら来てたのね、鷹也。」

「お兄ちゃん!」

「あ、うん。で、何してるの?」

 

理事長室の中からひな子とことりに声をかけられて中に入る。ドアが閉まらないことから、どうやらもはや隠れる気もなくしたらしい1年生組をちらりと見つつ、鷹也は聞く。

 

「ラブライブというものが開催されるようなのよ。」

「はい、全国的にネット中継もされるので出られれば、学校の宣伝にもなるかと……」

 

ひな子の言葉に海未が補足する。どうやら自分の予想通りだったようなので、鷹也は何か説明しようとしたのだろう他のメンバーを知ってるから大丈夫と制しつつひな子に聞く。

 

「そのラブライブに出れればメリットがあるだろうって言うのには俺も賛成だけど……エントリー許可してくれるの?」

「ええ、エントリーするくらいなら問題ないわ。でも、条件があります。」

「条件?」

 

首を傾げる穂乃果を見て、鷹也は嫌な予感が胸をよぎるのを感じる。先ほど自分が職員室で聞いて来た話から考えると、ひな子の言う条件と言うのは想像に難くない。鷹也は視線を穂乃果からにこ、そしてもはやドアを開いて堂々と顔を覗かせている1年生の中の凛に移し、最後にひな子に視線を戻す。それだけで鷹也が把握していることを察したのだろう。ひな子はにこやかに頷く。

 

「学校のためとはいえ、自分の学校生活を疎かにすることがあってはいけないわ。次の定期考査で赤点が1人でもいれば、ラブライブのエントリーは認めません。」

「な、なんだぁ……それならなんとか……」

「ええ、さすがに赤点は……」

「ことり、海未。」

 

ほっとした様子のことりと海未の視線をドアの付近に向けさせる。そこには

 

「「「うぅ…………」」」

 

がっくりとうなだれる穂乃果、凛、にこの姿。それを見て海未が顔を引きつらせる。

 

「まさか……」

 

 

 

 

 

「本当にすみません!」

「ません!」

 

場所は変わってアイドル研究部部室。椅子に座り、テーブルに手をついて穂乃果と凛が頭を下げる。そんな様子を見て、鷹也は大きくため息。

 

「さっき穂乃果と星空さんの担任の先生に呼び出されたよ。学業が疎かになり始めているって。」

「す、数学だけだよ!昔から苦手だったでしょ!?」

「…………7×4?」

「………………………26?」

「重症ですね……」

「そりゃあ、たかが外部コーチでしかない俺まで注意受けるわけだ……」

 

花陽の問題に指折り数えて間違える穂乃果に鷹也はあきれたようにそう呟く。高校2年生になってまで九九が言えないのは重症とかいうレベルじゃないんではないだろうか。もはや致命傷レベル。

 

「穂乃果はそうだとして……星空さんは英語って言われたけど?」

「そう!凛は英語だけはどうしても肌に合わなくって……。大体凛たちは日本人なのになんで外国の言葉を勉強しなくちゃいけないの!?」

「屁理屈いわないの!!」

「にゃっ……真姫ちゃん、怖いにゃぁ………」

「英語ができないやつの常套句の言い訳だな……」

 

真姫につめ寄られて誤魔化すような笑みを浮かべている凛から視線を移し、鷹也はにこに視線を向ける。鷹也が気を付けるように注意を受けたメンバーは3人。つまりは

 

「矢澤さん、数学Ⅱだっけか?」

「そ、そんなことないわよ!このにっこにっこにー!が赤点なんかとるわけな、ないじゃない!」

「教科書をさかさまに読まないようになってから出直して。」

「動揺が丸わかりですね……」

 

誤魔化そうとするにこをばっさりと切り捨てつつ、鷹也は考える。練習も大事だがここでラブライブの出場を逃すのは得策ではない。自分としても問題が出始めたところだったしちょうどいいだろう。

 

「テストまでは1週間だったな?今日から練習は禁止。勉強に専念すること。」

「「えーー!!!」」

「練習をしないなんて、そんな余裕ないわよ!ラブライブがかかってるのよ!?」

「そのラブライブの出場権すら危ういんじゃあ練習してる余裕の方がないよ。」

「「「それは…………」」」

 

ぴったりのタイミングで言葉に詰まった3人を見てから、鷹也は他の4人に視線を移す。どうやら他のメンバーは納得済みのようだ。

 

「じゃあ、穂乃果は海未とことりが。星空さんは西木野さんと小泉さんが。矢澤さんは俺がって分担して弱点教科を何とかしよう。」

「それはいいけど……お兄ちゃんって文系じゃなかった?」

「まあそうだけど、教科書見ながらなら何とか教えれるだろ。高校卒業はしてるわけだし。」

「ちょっと!別に私は教えられなくても赤点なんか……ってひい!!」

「嘘つく子はわしわしやよ~?」

「希?」

 

心配そうなことりを安心させて、反抗しそうなにこをどうするかと考えていた時、部室のドアを開けて入ってきたのは希。どうやらにこは希に恐怖を抱くようで、胸の前で手を組みつつ逃げるように後ずさる。

 

「鷹也さん1人じゃ大変やろうし、うちも協力させてもらうね。にこっち、どうする?」

「分かりました……教えてください……」

「よろしい。にこっちは赤点とってばっかなんやから嘘つかないの。」

「そんなに赤点ばっかとってるのね……」

 

希が手を不審に動かしながら言ったことでおとなしくなったにこを見て真姫があきれたように呟くのを聞きながら、鷹也は苦笑い。実際ににこの担任の先生から聞いたところでは具体的な点数までは教えられなかったが、相当ひどい点数ばかりということは伝わってきていた。というわけで担当が決まったところで鷹也が宣言する。

 

「さ、μ’sの勉強強化週間始めるぞ。筆記用具出して出して!!」

「「「はーい…………」」」

 

本当に勉強が苦手なのだろう。ものすごく嫌そうな3人の声とともに勉強会はスタートした。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、鷹也はことりに晩ご飯の準備を任せて自分の部屋にいた。とりあえずはそれぞれが穂乃果、凛、にこに勉強を教えて活動を終えたのだが、この調子なら何とかなるだろう。となると、練習がない以上は自分の問題に専念できる。鷹也は自分の部屋の机に座って、目の前のパソコンで流れる動画を見つめる。

 

『このままじゃ、彼女たちの個性は死んでいくよ?』

 

(俺のダンスの癖……個性が死んでいく……)

 

流れるμ’sのPVを画面端に寄せてから、今度はサークルの活動で和樹たちとふざけて撮った動画を流し始める。性別も年齢も何もかもが違う自分と彼女たちのダンスにある共通点。どうしても見つけられない。いや

 

「分かるような気はするんだけど……」

 

沙希の言いたいことはぼんやりとだが分かるのだ。自分のあり方と沙希の発言を組み合わせて考えれば大体察しはつく。だけど、それがどのようにしてダンスに表れているのかが理解できない。所詮鷹也はダンスが特別上手いわけでも詳しいわけでもない。基本的にはこうすればいいという多少の知識を持っているだけだ。そんな鷹也の目では細かいところのダンスの特徴なんて分かるわけがないのだ。

 

(けど、それが分からなくちゃ改善しようがない……)

 

鷹也は画面に映る2つの動画に集中していく。分かったところで、この問題の原因の一端は自分のあり方である以上は改善できるか分からない。だが、分からなくてはどうしようもない。サポートして、アドバイスする以上なにか改善策を見つけなくては。

 

「お兄ちゃーん!ご飯できたよー!」

「さすがにすぐには見つからないか……今行く!」

 

ことりに呼ばれてリビングへ向かう。料理の盛られた皿をテーブルに置いて、いつもの位置に座って鷹也を待っていたことりにお待たせと言ってから、いただきますと言って晩ご飯を食べ始める。

 

「うん。おいしいっ!」

「…………」

「お兄ちゃん?」

「ん?あ、ああ、おいしいよ。」

 

心配そうなことりに慌てて笑顔を見せつつ、考える。問題の本質に関しては、今はことりに話すべきではないだろう。だが、自分で考えるのに限界があるのも事実。

 

「どうかしたの?」

「ことりは自分たちのダンスの特徴って何だと思う?」

「え?う~ん……」

 

急な鷹也の質問に戸惑いつつも考え始めることり。この程度なら大丈夫だろう。これでヒントになるようなことが聞ければ改善の役に立つ。しばらく考えた後、ことりはゆっくりと口を開く。

 

「私はあんまりダンスが得意じゃないからよく分かんないけど……みんなのダンスが揃ってるところじゃないかな?」

「揃ってる……」

「うん、みんなのダンスはタイミングがきれいに揃ってるところが特徴かなって思うかな。」

 

ことりの言葉を聞いて鷹也は考える。グループで踊る以上はタイミングをそろえるのは最低限のこととして必要なことであるはず。個性が死んでいくという沙希の言葉が当てはまりそうではあるが、ここは変えすぎてはいけない部分だ。

 

「お兄ちゃん、なにかあったの?」

「いや、ちょっとダンス知らない友達にこのグループのダンスの特徴聞かれてさ。そういうサークル入ってるとそういうこと聞かれることもあるんだよ。」

 

そう言って誤魔化しつつ、ことりの作ってくれた料理を口に運ぶ。普段からおいしくできているはずのその料理の味は考え事をしている今日の鷹也にはあんまり感じられなかった。

 

 

 

 

 

次の日、今日は気分を変えたいと部室ではなく近くのハンバーガーショップで勉強するとことりから聞いていたために、大学が終わってからそこに向かう。そのつもりだったのだが、先ほど携帯に海未からメッセージが入ったために神田明神へと進路を変更する。メッセージの内容は、相談があります。

 

「ごめん、遅くなった。」

「いえ、こちらこそ急に呼んでしまってすみません。」

 

先に神田明神に到着していた海未に謝りつつ、別にいいよと微笑む。この少女が相談してくることは珍しい。普段から能天気な穂乃果は何かあるごとに泣きついてきたりはするが、海未に関しては自分でなんとかできることはなんとかしようという意識が強いのか、鷹也に自分から相談などをしてくることは少ない。

 

「で、相談ってどうした?」

「……鷹也さんはA-RISEのことが素人同然に見えますか?」

「……A-RISEが?」

 

珍しいからこそきちんと力にならなくてはと思っていたが、予想外の質問に少し反応が遅れる。海未は説明が足りませんでしたねと苦笑してから説明を始める。

 

「昨日、少し生徒会長と話したんです。」

「生徒会長と?」

「はい、帰るときに校門前に私たちのファーストライブの映像を見ている女の子がいて、その子が見ていた映像がネットに出回っていない物まであったので気になって話を聞いてみたら、お姉さんが撮ってきてくれたと言っていたんです。」

「そのお姉さんが……」

 

鷹也の言葉に海未が頷いて続ける。

 

「はい、生徒会長でした。それから少し話したんです。ネットにあげてくれた理由やなぜそこまで私たちの活動に反対するのか。」

 

海未の言葉に鷹也は真剣に耳を傾ける。ネットにアップしてくれていたのは生徒会長。アイドル活動を快く思っていない彼女がなぜそんなことをしてくれたのか。そして彼女がなぜアイドル活動を快く思っていないのか。それが分かれば彼女のあのつらそうな表情を何とかする手助けになる気がした。

 

「ネットにあげてくれた理由は私たちの歌と踊りがいかに人を惹きつけることができないかを分からせるため。今でも生徒会長は私たちのダンスは人の見せられるものになっていないと言っていました。素人にしか見えないと。そしてそれは、私たちだけでなくあのA-RISEも同じだと。」

「あのA-RISEを素人同然と言い切れるのか……」

 

鷹也は複雑な表情でつぶやく。μ’sのダンスに関して言えば、まだ完成しているとは言えない。彼女たちはまだ活動を始めたばかりであり、ダンスもまだ発展途上だ。しかし、A-RISEは違う。日本全国で絶大な人気となって流行するスクールアイドルの絶対的頂点である彼女たちのダンスは鷹也から見ても、その辺のアイドルなんかとは格が違う。相当なレベルのものに見えた。

 

「だから、鷹也さんに聞いてみたかったんです。鷹也さんから見ても、A-RISEは素人のようなものなのかを。」

「……俺にはA-RISEは素人に見えないな。あのダンス、歌、パフォーマンスはスクールアイドルのレベルを超えてる。」

 

そうですよね。そう言って海未は考え込んでしまう。あのA-RISEを素人と言い切る。それはただの虚勢なのか、それとも。鷹也がそう考えたところで、横から声がかかる。

 

「えりちはA-RISEを素人と言えるだけのものを持ってるんよ。」

「希先輩……?」

「どういう意味……?」

 

バイトに来たのだろう。巫女姿の希が話に入ってくる。にこの勉強は今どうなってんだろうと少し思いながら鷹也が聞くと、希は画面になにか動画の映った音楽プレイヤーを差し出してくる。

 

「これって……」

「これがえりちの持っているもの。」

 

呆然とした表情を浮かべる2人に希は静かに微笑む。

 

「これを見てどうするかは海未ちゃんと鷹也さんが決めることだよ。」

 

画面に映る映像に集中する2人は希の言葉に何も返すことができなかった。

 

 

 

 

 

「ふんふ~ん 」

「亜里沙、早くお風呂入ってしまいなさい。」

「は~い……」

 

返事をしても動こうとはしない妹を見て絵里はやれやれと苦笑する。今日はずっとあんな感じだ。自分からしてみれば全く理解できない、わが校のスクールアイドル、μ’sにはまっている亜里沙は海未に会えたことが相当嬉しかったらしい。

 

『あなたたちも……スクールアイドルで1番実力があると言われるA-RISEでさえ、私には素人にしか見えない。』

『あなたに私たちのこと……そんな風に言ってほしくありません!!』

 

「ほら、早くしなさい。お風呂冷めちゃうわよ。」

 

生返事を繰り返す亜里沙をお風呂へと促しつつ、今日の会話を思い出す。ただでさえ、あの子に動画を撮ったのがばれてしまったのに、少し話しすぎてしまった。海未が叫んだときの顔は怒りが少し浮かんでいたように見えた。しかし、それもそうだろう。これまでやってきたことを遊びだと自分は断定したのだから。

 

「お姉ちゃん?どうかしたの?」

「あ、いやなんでもないわ。ほら、早く入っちゃいなさい。」

 

考え込みすぎていたのだろう。心配そうな亜里沙にそう言って誤魔化しつつ、絵里は亜里沙を風呂場に入れ、自分は自分の部屋に戻ってベッドに座ってため息。

 

(真剣だろうとなんだろうと、人に見られる以上はあのレベルではダメだわ……)

 

海未はあのように言っていたが、真剣だろうと遊びに見えてしまっていてはその見えてしまっている方が周りの人の判断材料なのだ。自分から見て素人にしか見えないようなダンスではいずれそのように判断しだす人も現れる。今はスタートダッシュで上手くいっているから何とかなっているが、このままではいずれ上手くいかなくなる。

 

(基本的にみんな基礎がたりないから……あとはそれぞれの特徴も考慮して……ってなにを考えているの私は……)

 

頭を振って思考を切り替える。自分はアイドル活動に関わる気はないのだ。自分が練習に関して考えてもどうしようもない。自分はそんなことに関わっている時間はないのだ。音ノ木坂のために、生徒会長の自分が動かなくてはいけないのだから。

絵里はふと視線を洋服ダンスの上にある写真に向ける。過去の自分の笑顔が目に入る。

 

『そんな辛そうなのになんで頑張ってんの?本当に君のやりたいことはそれ……?』

 

なぜだかもう1度思い出された、最近よく頭に浮かぶあの青年の言葉は、頭を振ってもなぜか消えない。絵里は思う。今の自分はあの写真のような笑顔を浮かべられていないのだろう。でも

 

「私がやらなくちゃいけないんだもの……」

 

その言葉は自分の迷いそうになる、揺れそうになる心に対する戒め。絵里は自分の気持ちを押さえつける。自分がやらなくてはいけないのだ。絵里は写真から離れて、部屋をでてリビングに向かう。その表情はつらさを、悲しさを何もかもを押し殺すようにきつく険しいものになっていた。

 

 





はい、いかがだったでしょうか。
絵里の心情があんまり書けなかったのが少し心残りなので次はもっと書けたらいいなと思います。
ただ沙希先輩はオリキャラのわりに書いててなぜか楽しいので今回は楽しかったです。

では
感想、評価もお待ちしています。次回も引き続きよろしくお願いします。
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