絵里回になる予定でした。その予定だったんです。
気が付けば海未ちゃん回。なんか鷹也と海未の絡みが以上に多い気がしてきている今日この頃です。
もはや絵里は最後にちょっとしか出番がないというまさかの事態。
安定して話が進まない。
そんな感じになってますが、今回はそこまでひどくなく上手く書けた気もします。
それではご覧ください!
希から動画を見せられた後、その日は勉強会は終わってしまっていたので結局顔を出せずに鷹也はまっすぐ帰宅した。
「ただいま。」
「おかえりなさい。おにいちゃん、今日どうしたの?」
首を傾げて聞いてくることりになんでもないよと笑顔を見せつつ、今日は母の帰りが早いので晩御飯は作らなくていいことを確認する。ことりはなんでもないという言葉には納得していないようだが、とりあえずと言った風に頷いてくれた。
「うん、久しぶりに早く帰ってこれるから作ってくれるって言ってたよ。」
「そっか。じゃあ、先に風呂入っちゃおうかな。ことり、先に入っていい?」
「うん、いいけど……」
なにか言いたそうな様子のことりに気が付かないふりをして鷹也は風呂場へと向かう。昔から人に無理やり踏み込むということを避けることりのことだ。これ以上は聞いてこないだろう。そのことりの性格がいいものか悪いものかは考えものだが。
「ふぅ……」
軽く風呂掃除を済ませ、体を洗ってから湯船につかる。そこでようやく落ち着いた鷹也は一息ついて考え事を始める。誰も入ってこない空間であるし、ここで考えをまとめておきたい。
(と言ってもまあ、解決策ははっきりしてるんだけどな……)
沙希の言葉、鷹也の問題、ラブライブ、絵里のこと、そして鷹也の憶測でしかないが、希の考えもある程度は分かってきている。これらを解決する、もしくは解決に近づけるために有効に思われる手が1つ。その手を使うためにどう動くべきか。それが重要になってくる。
(それには海未がどう考えるかにかかってくるか……)
共に動画を見て複雑な表情をしていた海未のことを考える。少し考えさせてくださいと言った彼女はなにを思っているのだろうか。考えても分かるわけのないことに頭を悩ませていることに気が付くも、考えるのをやめられずに鷹也は天井を見上げる。
「どーしよっかなぁ……」
その日の晩ご飯は豪華だった。どうやら久しぶりの手料理の機会に母が張り切ってしまったらしい。忙しい時期なのだから簡単なものでもよかったのにと思いつつも、久しぶりの3人の食卓。全員が笑みを浮かべながら和やかに食事が進む。その途中でひな子がふと思い出したようにことりに話しかける。
「そういえば、ことり。私の知り合いにプロのファッションデザイナーの方がいるのだけれど、その人がライブの動画を見て、衣装をとても褒めてくださってたわよ。」
「ほんとにっ?」
「おーよかったな、ことり。プロのお墨付きなんてそうそうもらえるものでもないよ。」
うんっ!と本当に嬉しそうに頷くことりに鷹也の頬も緩む。昔からこういった服飾関係に興味があると言っていたし、何着か自前で服を作ってみたりしていたのだ。鷹也は素人なのでよくは分からないが出来がいいと思っていた。その感想は間違っていなかったらしい。鷹也としても才能があって、好きなことをやっている妹を褒めてもらえるのは嬉しいことである。
「動画でもμ’sの衣装を褒めてくれるコメントも多かったし、本当にすごいな。」
「えへへ……ありがとう。」
嬉しそうなことりに微笑み、ひな子に視線を向ける。そこには何か迷ったような表情を見せるひな子。普段から自分たちに隠し事などせず、信頼してくれている母に珍しい表情だなと感じつつ、鷹也は声をかけようとして踏みとどまる。ことりに聞かせたくない内容である可能性もある。
「お兄ちゃん?」
「ん、ああ。なんでもない。ことり、これ食べる?」
そう言ってことりの皿に食べ物をよそいつつ、ひな子に視線を向ける。どうやら迷っていたことを言うのはやめたらしい。どんどん食べてねというひな子から視線をはずして食べ物を口に運ぶ。
「これもおいしいっ!!」
「本当に?よかったわ。」
「本当においしいよ。さすがにまだここまで自分たちだと上手く作れないからなぁ……」
何事もなかったように食事が再開される。聞きたいことはもとからあったが、これもことりに聞かせることではない。今はとりあえず食事を楽しもう。鷹也はそう考え、いつもよりにぎやかな食事に頬を緩めた。
その日の夜。ことりが寝てしまってから、鷹也はひな子とリビングで向き合っていた。理事長の手伝いを始めてからは恒例となったことである。
「母さん、会議は明日だよね?」
「ええ、でもおそらくはあと数回で押し切られてしまうでしょうね。オープンキャンパスまで後1か月。この2週間ほどでほとんどの反対派はいなくなってしまったし。」
「そっか……」
好ましくない状況に顔をしかめる。このままでは本当にオープンキャンパスがリミットと考えて間違いがないだろう。そこで何が彼女たちに、自分にできるのか。
「そういえば学校に認可されたけどことりたちはどうなの?さっきことりはいい感じだと言っていたけれど。」
「どうかな……そこまで人に影響を与えられるかと言われれば……」
鷹也はひな子の言葉に口ごもる。鷹也としては彼女たちの頑張りもあるし、だいぶ彼女たちの歌もダンスもレベルは上がってきたと思う。だが、沙希に言われたことや希に見せられた動画を見た後では自信がなくなる。彼女たちを信じていないわけではない。自分が信じられないし、信じる気もないのだ。どう表れているのかはいまだに分からないが、自分が影響を与えてしまっているのならば確実にオープンキャンパスで何とかできるとは言い切れない。
「そう……」
「でも、何とかはしようとしてみるよ。決まったら何とかするしかないんだし。」
「そうね。まだ決まってるわけでもないのだから。」
そう言ってこの話題をとりあえず終わりにする。他にも案は出すが今は考えても仕方ない。それよりも切羽詰まった案件がいくつかあるのだから。その案件のいくつかのためのスケジュールや書類の確認をひな子と行い、とりあえず一段落。そこで鷹也は気になっていたことを聞いてみることにした。
「母さん、さっきことりになに言おうとしてたの?」
「気づいてたの?」
「まあね。」
本当にそういうところには目ざといわねと言うひな子はため息をついて少し迷うように口を開く。
「ことりにはまだ言わないでほしいのだけれど、もしかしたら留学の話がくるかもしれないわ。」
「………………留学?」
一瞬呆けるも、なんとか返事をする鷹也にひな子はまだ可能性は低いけどねと続ける。
「私の知り合いの人、プロの育成のための教育関係の方面でも仕事してるのよ。それで、もしかしたらことりのために留学枠をあけてくれる可能性もあるわ。」
「留学枠ってそんな簡単に取れるもんじゃないだろうに……」
そこまでのことをしてくれるほどの影響力を持つ人に妹は認められたのかと思うが、いまいち実感がわかない。スケールが大きな話になってきたなと感じるくらいである。
「だからまだ仮なのよ。ほとんど枠をあけれる可能性はないし、ことりが行くというかもまだ分からないと言ったのだけど、それでもとりあえず交渉してみると言って聞かなくて……」
「そこまで気にいったんだろうとは思うけど……なんでことりに言わないの?」
そこまで気に入ったのかとその母の知り合いの強引さに苦笑しつつ、鷹也は聞く。これはことりにも関係のある話だ。早めに教えておくべきではないのだろうか。鷹也としても寂しくなるが、才能ある妹のことは応援しなくては。そう思ったのだが、ひな子は首を横に振る。
「教えようかとも思ったのだけれど……教えてからやっぱりその話なくなったとなる可能性の方が高いのだから期待させるのもね……」
「まあ、そうかもしれないけど……ちなみに確率としてはどのくらい?」
「九割方なしになると思うわ。」
じゃあ、期待させない方がいいという判断にもなるかと鷹也は頷く。そして、ことりにはこの話はとりあえずは黙っておくことに決めて、その日の話を終える。これ以上は考えても仕方のない内容だろう。気持ちを切り替え、もう休むと言って部屋に戻ると、閉じ忘れていたのだろう。暗い部屋でパソコンの明かりのみが目に入る。何の気なしに鷹也はパソコンを操作し、シャットダウンしようとしてその前に最小化させていた動画を開く。希からもらった海未から送ってもらったその動画。そこに映っているのは最近よく話題にでる金髪の少女の幼いころのダンス。
(絢瀬絵里……)
幼いころの彼女のダンスを見て鷹也は改めてレベルの違いを感じる。鷹也でも分かる。おそらくはこの年代なら全国クラス。トップレベルと言ってもいいだろうダンス。そこには見ている人たちの心を動かすような、そんな何かがあった。こんなダンスを踊れるなら、A-RISEを素人と言うのも納得できる。
(これからどうなるかな。うまくいけばいいけど……)
今現在の問題の鍵となるのは間違いなくこの画面に映る、絢瀬絵里という少女だ。画面内でこれまで鷹也の見たことのない笑顔で楽しそうに踊る彼女。鷹也は思う。
(今もこんな表情ができるようにさせてあげられればいいんだけど……)
次の日の放課後も勉強会となっていた。昼休みの間に逃げようとしたらしい3人だが、希になにかトラウマを植え付けられたらしい。今は必死になって勉強に取り組んでいる。鷹也も希と協力してにこに数学の問題集の解き方を教えていっていた。
「ことり、穂乃果の勉強お願いします。」
「え?う、うん、分かった……」
その時、海未が急に立ち上がってそう言うと部室から出ていく。勉強に集中しすぎて燃え尽きかけている3人以外のメンバーの心配そうな様子を見つつ、鷹也は希に視線を向ける。
「行ってきてええよ。こっちは任せといて。」
「ありがと。ちょっと行ってくる。」
勉強さぼるなよと釘を刺してから鷹也は部室をでる。海未と2人で話ができるちょうどいい機会だ。それを考えて希も行っていいと言ってくれたのだろう。
「海未。ちょっといい?」
「鷹也さん……」
廊下の途中で立ち止まり、壁にもたれかかっていた海未の手には例の動画が入っている音楽プレイヤー。その画面を見て海未は無理やり作ったような笑みを見せる。その表情にどんな感情がこもっているのか。
「すごいですよね、生徒会長。これならA-RISEを素人と言うのも頷けます。」
「そうだな。相当なレベルだよ、そのダンス。」
「やっぱり鷹也さんから見てもそうなんですね……」
海未はうつむいてその表情を隠す。
「なんだか自分たちがこれまでやってきたことはなんだったんだろうという気分になりました。こんなダンスを踊れる人からしたらお遊びにしか見えないようなことをして、なにを完璧だと言っていたのだろうと。」
「……まあ、そう思っても仕方ないね。そういうもんだよ、圧倒的な才能って。周りの凡百の人間の心を折っていく。生徒会長だって努力したというかもしれないけど、努力してその域に立てる人間は才能があった人間に他ならない。」
そんなものだ。努力すればだれでもなんでもできる。それは幻想だ。理想であり妄想だ。世界には圧倒的才能というものは存在する。絵里のダンスの次元はそんな域にある。そう言う鷹也に海未は首を横に振る。
「心はまだ折れてないですよ。諦めるという選択肢はとっくになくなってます。」
「じゃあどうすればいいか分かるよな?」
「……鷹也さんはどうすればいいと思うんですか?」
鷹也の質問には答えず、海未は逆に聞いてくる。鷹也はため息をついて答える。海未がなぜこんなにも苦し気な様子なのか、気が付いてしまった。そんなこと気にする必要ないのに。
「生徒会長にダンスの修正、指導をお願いする。」
「……なんでそんなに簡単に言えるのですか?なんでそんなに簡単に自分のことを……!!」
言葉を詰まらせて海未は顔を上げる。鷹也を見るその視線はとても苦し気で。分かっていたのだろう。鷹也の言った選択肢が最善で、自分もそうすればいいと分かっていたのだと。ならばその判断に従えばいいのに。こんな
「俺のことを気になんてしなくていいよ。これが最善。」
こんな自分のこと気にする必要ないのに。鷹也は微笑む。いつもの笑み。しかし、海未はそれが気に入らなかったのだろう。静かに、でもどこか悲しさを含ませながら口を開く。
「私は自分が嫌です。これまで鷹也さんが教えて、アドバイスしてくれた時間がなんの意味もなかったんではないかと感じてしまう自分が本当に嫌で嫌でたまらないんです。」
海未は鷹也に向かって訴えかけるように続ける。昔から海未はこうだ。ことりも穂乃果も、自分のことを気にかけてくれる。でも、海未はいつも考えすぎて鷹也のことを必要以上に気にしてしまうのだ。他の2人の無条件の優しさとは違う。無条件で、それでいて他の2人よりもさらにしっかりと考えられた優しさ。
「鷹也さんの意見が正解だというのは、最善だというのは分かっています……!でも、鷹也さんが…………」
そこまで言って海未は言葉に詰まるも、目から涙は零さない。本当に泣き虫だったころとは変わったなとそんなことも思いつつ、鷹也は海未の言葉を受け止める。この子の優しさだ。しっかり考えたうえでの優しいその想いは園田海未という少女の本当にいいところだ。きちんと受け止めなくてはならないものだ。泣きそうになりながらも海未が言葉を絞り出す。
「鷹也さんが……鷹也くんが……私たちのためにしてくれたことを否定したくないんです……!!!」
そう言ってまっすぐに鷹也のことを見つめてくる海未。その目には涙がたまっているが涙は零さない。それを見て鷹也は微笑む。先ほどとは違う。先ほどの自分のことを否定する時とは違う微笑み。
「……本当にお前は3人の中で1番しっかりしてるようにみえるのにそうでもないよな。」
そう言って鷹也は海未の頭にポンと手を置く。驚いてこちらを見上げる海未を笑顔で見下ろしつつ言う。
「否定も何も。間違ってることは直さなきゃダメだろう?」
「でも……それでは……」
「でもじゃない。」
反論しようとする海未の頭を少し強く押さえつけてやって静かにさせる。
「大丈夫だよ、海未。俺のことは気にしなくていい。俺が嬉しいのは俺のダンスの指導でお前らが目標に近づくことじゃない。誰の指導でもいい。お前らが目標を達成出来たら嬉しいんだよ。」
鷹也はそう言って海未の頭から手を離す。こちらを見つめてくる海未の目線をまっすぐに受け止める。鷹也は自分のサポートでこの少女たちが頑張ってほしいわけではない。彼女たちの目標の、夢の実現が何よりも第一だ。そのためなら自分がどうなろうと知ったことではない。
「だから、気にしないで生徒会長にダンスを教えてもらおう?それが最善の、1番いい手だろ?2年生内のまとめ役のお前が感情で最善を見逃してどうすんの。」
「鷹也さんはまた……また自分のことを気にしないんですね。私たちのために……」
「言ったろ。俺はお前たちの応援が、サポートが第1だよ。それが俺の行動理由だ。だから、お前らの最善のこの判断も言ってみれば俺のためでもあるんだよ。」
そんなの屁理屈じゃないですか。と言ってこちらをジト目で見る海未に、そんなことないよと言ってから鷹也は続ける。
「だから海未は自分の中のその最善の判断を大事にして。俺もその方が嬉しいし。いいな?」
「……………………………」
無言を貫いて何も答えない海未に苦笑しつつ、鷹也は海未の肩をつかんで部室の方へ体を向けさせる。否定するなら無言なんて選択肢を取らずに反論してくるはず。ならばもう答えは出ているのだろう。納得しているかは別として。
「な、なにするんですか!」
「いいからいいから。ほら、生徒会長に頼むにしてもまずは5日後のテストを何とかしなきゃだろ!行ってこい!」
思いっきり海未の背中を押してやる。戸惑って軽くよろけつつも、海未はこちらをチラリと見てから部室に向かって歩き出す。鷹也はその背中に一言。たった一言声をかける。本来ならば、自分がこんな風に思われること自体が間違いなのだからこんなことを言うべきではないのかもしれない。でも、彼女の、海未の純粋なやさしさは嬉しかった。だからこそ伝える。
「海未、ありがとう。」
その声が海未に届き、海未が振り返った時には鷹也は海未に背を向けてどこかに歩いて行くところだった。
「海未ちゃんにだいぶ慕われてるみたいやね?」
「希……にこの勉強はどうした。っていうか見てたのか?」
「にこっちの勉強はノルマを課しておいたから戻ってから見れば大丈夫。」
先ほどの廊下の角を曲がったところで、海未ちゃんとはどういう関係なん?とにやにやしながら聞いてくる希をどんな関係もなにもないよとうっとうしく思いつつ、鷹也は希をにらむ。この少女の狙いは分かってきている。その狙いの鍵となる部分とはいえ、のぞき見はよくないのではないか。そんな鷹也の気持ちを察したのか、希がバツの悪そうな顔で手を合わせる。
「ごめんごめん。聞くつもりはなかったんやけど……」
「今更そんな嘘が通用すると思う?」
「……鷹也さん、人の言うこと疑ってばっかりじゃああかんよ?」
一瞬間が空いたことを見逃すつもりはない。ようやくこれまで理解できなかったこの少女の思惑がはっきりしかけているのだ。悪い子ではないとは思う。だが、このまま得体のしれないまま放置はできない。
「9人の女神。希が考えた名前?」
「さぁ?どうやろうね?」
否定も肯定もせずにあくまでもこちらの判断まかせ。鷹也は内心舌打ちをしつつ思う。本当に考えが読めなくて、賢くて、優しくて、面倒くさい子だ。
「希に言われてから考えてみたんだよ。希が……まあいいや。命名者が9人の女神という名前をわざわざつけた理由。矢澤さんが入った時点でなんとなく気が付いたよ。」
「面白そうやね。何に気が付いたん?」
「希がみんなのことをけしかけているってこと。」
そう言って鷹也は希の様子を伺う。鷹也の視線を受けても、希は微動だにせずにただ微笑むのみ。
「小泉さんと星空さんは穂乃果たちのきっかけがあれば希が何もしなくてもμ’sに入ってくれてたと思う。でも、あの素直じゃない西木野さんと矢澤さんは別だ。だからこそ曲作りの時、西木野さんに介入し、μ’sに入るときも俺に警告をした。矢澤さんの時も、俺が矢澤さんを悪人にしそうになったのを止めて、穂乃果たちをけしかけた。」
「それはそうかもしれんけど……全部憶測だし全員集まっても7人しかいないやん?」
「そこだよ。だから迷った。でも、希が1番近くにいて穂乃果たちにも関わり合いのある人がいるじゃん。」
そこまで言ってもなんの反応も見せない希に感心しつつ、鷹也は続ける。
「生徒会長。これで8人だ。後は9人目だけど、前に支えることしかできないって言ったよな。支えるなら近ければ近いほどいいだろうさ。というわけで……」
「希!」
「……ごめんね。呼ばれちゃったからいかんと。」
廊下の向うから希に声をかけるのは生徒会長の絢瀬絵里。こちらに手を合わせつつ微笑んだ希は振り返って絵里のもとに向かおうとして、その前に鷹也に向かって言う。
「さすがやね。でも、それが本当ならどうするん?まだ本当だと決まったわけでもないけど。」
「まだ認めないのか……。希がなんでこんな面倒な方法をとったのかは分かんないけど……まあ、害のあることどころかみんなのことを考えた優しさだと思うし、止めないよ。それに止めるなら海未にダンスの手伝いを生徒会長に頼もうなんて提案しないよ。」
希が悪意をもってこんな行動をとるとは思えない。アイドル活動が彼女たちにとっていい影響を与えているのは明白であるし、絵里に関してもあんなにも心配そうな表情をしていたのにその絵里にとって不利益になるようなことをするわけがないだろう。鷹也はそう思うし、希が悪い子だとは思えない。なにか事情があるのなら無理に聞くべきではないし、ましてや止めるようなことでもない。そんな鷹也の言葉を聞いて希は振り返る。そしてこれまでで1番の笑みをこちらに向けると言った。
「それならよかった。」
「何を話していたの?」
「ううん、なんでもないよ。」
聞いてくる絵里にそう答えつつ、希は絵里に促されて生徒会室に向かう。今日は生徒会の活動が少しある日だ。これが終わってからじゃないとにこの勉強を見てあげれないなと思いつつ、廊下を進む。そこで絵里に声をかけられた。
「なんか嬉しそうね?」
「え、そう?」
「ええ、いつもより機嫌よさそうに見えるわ。なにかあった?」
聞かれて考える。これまでの状況の進み方、先ほどの海未と鷹也の会話、そして鷹也の言葉。彼がこちらの考えに気が付いて止めようとしてきたら、全て話さなくてはならなかったがどうやらこちらのことを気遣って最後まで詳しく聞かず、止める気もないらしい。自分の考えることの実現はもうすぐそこだ。自分の想いをつなげられる場所、居場所の実現は目の前。
「うん、ちょっとね。」
「そう。それならよかったわ。」
冷たく見えるが、自分が詳しく言う気がないと悟ったからこそ話題を変えようとそうしてくれたのだろう絵里の気遣いに気が付いて希も話題を変えようとして思いとどまる。少しくらいなら言ってもいいかもしれない。そう思う時点で自分が今機嫌がいいことは明確だが、そんな自分に内心苦笑しつつ口を開く。
「星が廻り始める予感がするんよ。」
なによそれ。とキョトンとする絵里の様子を面白く思いつつ、希は笑う。
想いがつながるまであと少し。
いかがだったでしょうか。
次には絵里加入回になるといいと思ってます。ならない気もしていますが。
気が付けばUAが22000超えてました。お気に入りも180を超えており、こんなにも多く読まれていると思うと本当に嬉しいです。ありがとうございます。
今後ともたくさんの人に楽しんでいただけるように頑張るのでよろしくお願いします!