今回の話は絵里中心にまとめていこうかなとも思ったのですが
鷹也の内面も掘り下げることとなりました。これまでの展開上無視できないところだと思うのです。
もちろん絵里と希の加入もメインではありますので彼女たちに関してもこれからしっかりと描写していくので安心して下さい。
それではご覧ください!
「お兄ちゃん、生徒会長さんにダンスを教わろうってことになったんだけど……」
真剣な顔でことりがそう言ってきたのはオープンキャンパスが期限だと聞かされた日の夜の食事中だった。ダンスの練習中に海未がずっと思い悩んでいる様子だったし、ことりが今日は少し帰りが遅くなると言っていたのでそうだとは思っていたが、やはり話し合っていたようだ。鷹也はことりのことを見返して笑う。
「そっか、分かった。」
「お兄ちゃん……」
「大丈夫、心配しなくても気にしてないよ。海未にも言ったから聞いてるだろ?」
心配そうなことりにそう言って空いた皿を持って席を立つ。これが最善の選択だと思っているということは海未に伝えてある。ことりもそれを聞いているなら気にする必要はない。
「俺には他にもみんなのサポートすることがある。だからそっち方面で力を貸すよ。それに、ちゃんと練習にも顔は出す。」
「本当に……?」
「最善をとるのに何の問題もないよ。」
そう言ってやるとことりはしばらく黙り込む。しかし、意を決したように顔を上げると鷹也に言う。
「私たちの最善と……お兄ちゃんの気持ちの最善とは別だよ?」
「……………………」
鷹也はキッチンの方からことりの顔を見つめる。珍しかった。昔から、鷹也が周りのためだけに判断することに疑問は持っていても直接は言ってこなかったのに。アイドル活動を始めてから鷹也のそういう行動が増えてきたから気になり始めたのだろうか。
「昔からそうだけど、お兄ちゃんは私たちのためだけに動いてくれる。でも、お兄ちゃんの気持ちにとっての最善と私たちにとっての最善は全然別のことだと思うな。」
だから無理しなくてもいいんだよ?そう言うことりに鷹也は少し考え込む。無理をしている気はない。こんな自分と才能や夢、目標を持つ彼女たちのどちらを優先するか。そんなもの決まっているではないか。だからこそ言う。
「同じだよ。」
自分がするべきこと、しなくてはいけないことは彼女たちのサポートだ。自分のことはどうでもいい。彼女たちの最善は自分の気持ちや利益のための最善よりも圧倒的に優先されるのだ。だから
「俺の最善はことりの、μ’sの最善だよ。その最善の後押しが俺の最善。」
納得していない様子のことりの頭にポンと手を置く。
「今回の件はよりμ’sのためになるのはどの選択が最善かということだろ?俺の最善はμ’sが輝くことであって、その選択が生徒会長にダンスを教わるということなら反対する必要も気持ちが沈むこともないよ。むしろ教わることを推奨したいくらい。」
だから心配しないで明日生徒会長に言ってこい。そう言うとことりは複雑な表情で頷く。納得はしていないだろうが仕方ない。ことりの性格上、決まってしまった絵里にダンスを教わる件に関して反対してまで鷹也の気持ちに踏み入ろうとはしないだろうから問題もない。鷹也は部屋にパソコン取りに行ってくると言って1度リビングから出ていこうとする。そうしてドアに手をかけた時、ことりが言う。
「お兄ちゃん。私たちはお兄ちゃんが教えたことを否定するわけじゃないよ?」
「知ってるから大丈夫。」
そう言ってリビングから出て、後ろ手でドアを閉める。閉じる寸前にことりが言ったことは
「私たち、私たちの最善がお兄ちゃんの本当の最善になるように頑張るからね!」
「…………頑張るも何もないって言ってんのに。」
ドアを完全に閉ざしながら、鷹也はそう返して真っ暗な自分の部屋へ入る。ことりの言葉はもう心に響かない。沙希と前に会話したことで再認識したのだ。
(俺に価値はない。ことりたちのためになるなら自分なんてどうでもいい。)
普通は自分の教えていた人達がほかの人の教えを最善と判断するのはつらく思うのだろう。自分のことを否定されているような気持ちになるのだろう。しかし、鷹也に今更そんな気持ちはない。もうそんなことは思わない。鷹也は机からパソコンをとり、ふとその横にある鏡を見る。真っ暗な部屋を背景にする自分は悲し気な表情など一切せずにあくまでもいつも通り。それが当たり前なのだ。鷹也は呟く。
「そもそも自分のこと肯定なんかしたことないっての……」
「私にダンスを?」
昼休み、生徒会の活動で少し用があったために生徒会室に希とともに作業していた絵里に話があるといってきたμ’sのメンバーの2年生3人。その中には先日に活動を完全否定するようなことを直接伝えた海未の姿もある。そんなことをしたにも関わらず、彼女たちが言ってきたのは
「はい!教えていただけないでしょうか!私たち、上手くなりたいんです!!」
ということ。ダンスを教わりたい。真剣な顔で言う穂乃果から視線を海未に移す。彼女も前に言ったことをどう自分の中で消化したのかは分からないが真剣な表情をしていて、反対しているわけではないようだ。しかし、気になることはある。
「なぜ?あなたたちにはコーチがいるはずでしょう?」
そう、あの彼女たちのためなら自分はどうでもいいとまでいう彼。あんな人がいるのにこの少女たちは私に教え求めるというのはどうなのだろうか。絵里の質問に3人は少しつらそうな表情をするがすぐに顔を上げる。
「相談して決めたことです。というよりも、鷹也くんも生徒会長に教えてもらうよう言ってました。」
そう言って穂乃果は悲しげな表情をする。絵里には彼女たちの関係は分からないし、性格も、人となりもあまり把握はしていない。だが、悲しそうな3人は気持ちを切り替えるように真剣な目でこちらを見る。
「私たちは最初鷹也くんが教えたことを否定するような気がしていてためらってました。でも、思ったんです。鷹也くんに教わったことがなくなるわけじゃない。なら、鷹也くんのためにも、鷹也くんが自分のことを犠牲にしないためにも、私たちがダンスを上手くなって、アイドルとして成長して……音ノ木坂を救おうって。」
「私はあの人の指導を否定するかもしれないわよ?」
穂乃果にそう返した絵里の言葉にも3人は負けない。強い意志を持ってこちらに代表して穂乃果がもう1度口を開く。
「私たちは否定しません。」
その目に絵里は覚悟を見る。自分たちのやっていることは自分たちの大切な人を否定することになりかねない行為だと知りながら、それを否定しないという意思でなんとかしようとしている。
「…………わかったわ。」
しばらく悩むが、絵里はそう答える。今の段階でこの少女たちの人気は使えるだろう。
「あなたたちの活動は理解できないけれど、人気があるのは確かなようだし……引き受けましょう。」
「ほんとですか!!」
嬉しそうな穂乃果に厳しい目を向ける。
「でも、やるからには私が納得できる水準まで頑張ってもらうわよ。いい?」
「「「はい!!」」」
3人の返事を聞きつつ、絵里は思う。なんで
(なんでそんなに自分たちのやりたいことに正直に頑張れるのよ……なんでやりたいことだけで頑張ろうとできるの……)
その日の放課後。鷹也は音ノ木坂学院に到着した直後に希と遭遇していた。偶然と言うよりは明らかに昇降口で待ち構えていたのだが。
「なんか用事?」
「えりちが放課後に用事できてしもうて。生徒会としてもやることはあるんやけど、今は少し待ち時間なんよ。」
「へぇ、そっか。」
そっけないなぁと言う希に肩をすくめて返す。絵里の放課後の予定というのも予想はつくし、特に驚くことでもない。そんな鷹也をのぞき込むようにして希は口を開く。
「これでよかったん?」
「……希の狙いからしたらいいことだろ?」
直接は答えずにそう答える。希の狙いとしては今はきっかけ待ちしかできなかっただろうしちょうどいいのではないだろうか。希はそんな鷹也の言葉に笑顔で肩をすくめる。どうやらもう自分の考えが鷹也の推測通りではないと否定する気もないらしい。
「確かにえりちにはいいきっかけやと思うしうちのにとってもいい状況だけど、そういうこと聞いてるんやないよ?」
「知っててそう答えたんだけど?」
「イジワルやね。」
「まあね。」
鷹也はそんなふうに答えつつ歩き出す。希も後をついて歩き出す。生徒会の活動はいいのかとも思ったが、とりあえず聞かないでおく。
「鷹也さんの気持ちとしてはどうなん?」
「ほんとにみんなそればっかだな……。別に最善をとってるのに気持ちに問題もなにもあるわけないだろ。」
そう希に返すも、希は笑うのみ。
「でも、鷹也さんは気が付いてるん?みんな聞いて来るってことは普通はそう思うってことやない?」
「気づいてるよ。俺は普通じゃないからいいの。」
鷹也の言葉に希は少し考え込むようなそぶりを見せるが、すぐにいつもの表情。
「それならしかたないんかな?」
「しかたないんじゃない?」
少しの無言。しかし、すぐに希が口を開く。
「ことりちゃんたちは覚悟を決めてたみたいや。支えられるだけでなく、支えるって。鷹也さんはどうなん?」
「あいつらのためならどんなことでもする気だけど?」
「違う。」
希は首を振って鷹也をまっすぐに見つめる。
「あの子たちはえりちの力も借りることができるならもっと上に行くはず。鷹也さんはそれについていける覚悟があるん?今のままの、そんな状態でついていくことができるん?」
「……希、なんにも知らないなら口出ししないでくれるかな?」
「大体見てれば分かるんよ。前も言ったやん?状況と会話の内容からだいたいを察することができるいい女なんよ、ウチは。」
そう言う希から鷹也は目を逸らす。この少女の言うことは最もだ。思ってはいた。自分は、こんな自分はあの才能豊かな彼女たちのそばにいるべきなのか。自分が彼女たちに悪影響を与える可能性がある。それならばいっそ。
「普通じゃないのは別に悪いことじゃない。でも……あの子たちのことを思ってるんなら、自分の立ち位置をもっと考えた方がいいんやない?」
「…………………………」
希の言葉に何も返せない。おそらくこの少女は自分にこれを言うために待ち構えていたのだろう。ことりの、穂乃果の、海未の、そして他のメンバーの気持ちも考えろと。そもそも自分が関わらなければこんなに悩まずに絵里にダンスを教わりに行けた。しかし関わってしまっている。それならばそれを自覚しろ。
「鷹也さんにも思うところはあるんやろうけど……あの子たちのサポートするなら取り残されないようにせんとね。」
じゃあ、うちはこっちやから。そう言って希は鷹也から離れるように廊下を歩いて行く。鷹也は黙ってその背中を見ることしかできない。希がわざわざこんな会話をしにきたのはなんの意味があったのだろうか。鷹也はその意味は分からない。でも希の言葉で思うことはあった。自分がサポートしていたということ。それはそもそも意味のある、価値のあることだったのだろうか。そして、これから彼女たちのためにできることは、自分ができることなんてあるのだろうか。
「お疲れさ……」
「うあっわあぁあ!」
「いきなりか……星空さん?大丈夫?」
屋上に上がると同時に目の前で凛が倒れるのを見て、鷹也は声をかける。そんな鷹也にお疲れ様ですと言う絵里に気にしないで続けてと言うと、絵里は頷いて見ていたみんなに声をかける。
「全然ダメじゃない!よくここまでやってこれたわね!!」
「ごめんなさい……」
「昨日は完璧だったのに~!!」
なんか自分の指導のダメだしを聞いているような気分で鷹也は苦笑しつつ、凛が怪我もなく元気そうなことにホッとしつつ、少し離れて見守る。
「基礎ができてないからばらつきが出るのよ。足開いて。」
「こう?」
座り込んだままの凛にそう言って絵里は素直に開脚する凛の背中を後ろから押す。
「痛いにゃー……!!!」
「これで?少なくともこの状態でお腹が地面につくくらいでないと。」
「えー!!!」
ふるふると震えながら助けを求めるような視線を向けてくる凛から目を逸らしつつ、他のメンバーを見る。花陽は顔を引きつらせているし、運動神経もいい方ではないので今はできないだろう。穂乃果もおそらくできない。海未は体が固いということはないだろうが絵里の言う程やわらかいかは怪しいところ。にこと真姫に関しては
「矢澤さん、あれできる?」
「………………当り前じゃない。」
「……西木野さんは?」
「………………あのくらいできるわ。」
「うん、2人とも無理なんだな。」
「「なんでよ!!!」」
明らかに答えるまで間があっただろうに。プライドの高い2人のことだからできないとは言えないのだろう。というわけで全く前屈ができていなくて絵里に背中を押されながら、いまだぷるぷると震えている凛ほどではないにしろこの7人は絵里の希望するほどの柔軟性はないだろう。鷹也は最後にことりに目を向ける。
「ことりはできるんじゃない?」
「うん!…………ふっ…っと……」
おーっと歓声が上がるなか、ことりが開脚前屈でぺったりと地面にお腹をつけながら照れたように笑う。昔から体はやわらかいからこのくらいはできるのだろう。しかし、感心してる暇はないと絵里が他のメンバーにも柔軟を指示。全く解放してもらえずに涙目になって開脚前屈を続けている凛が哀れである。
「これくらいで来て当たり前!ダンスで人を魅了したいんでしょ!!」
そう言う絵里の指導の元、柔軟や筋トレ、そして体幹トレーニングをメンバーはこなしていく。基礎がたりないとは言っていたが、ここまでやるものなのかと絵里に視線を向けるも真剣な表情。どうやらいじめでもなんでもなくこれが普通らしい。鷹也はそれを見ながら、休憩中にメンバーに飲み物をさしだしたり、メニュー内容のメモなどを取っていく。一応これからつづけていくうえで必要だろう。
「あと1セット!!」
絵里の掛け声に、泣きそうになりながらも返事をする7人。しかし、そこで
「きゃ……あ…!」
「っと。大丈夫?」
「かよちん!!」
花陽がバランスを崩して倒れ込みそうになり、そろそろ限界だろうと思って一応周りで見ていた鷹也が支える。あ、ありがとうございますという花陽をゆっくりと座らせつつ、鷹也は絵里に視線をむける。
「もういいわ。今日はここまで。」
「な……ちょっと!!」
「そんな言い方ないんじゃない!!」
「矢澤さん、西木野さん。絢瀬さんの言うこと聞いて。」
驚いたようにこちらに視線をむけてくる2人を無視して絵里に続きを促す。
「自分たちの今の実力が分かったでしょ?次のオープンキャンパスには学校の存続がかかっているの。無理なら早めに言って?時間がもったいないから。」
そう言って絵里は屋上から出ていこうとする。しかし、
「待ってください!!」
穂乃果がそれを引き留める。立ち止まってこちらを見る絵里に向かって7人は並んで立つ。
「ありがとうございました!!」
「え……」
驚いた表情の絵里に鷹也は苦笑する。当たり前だ。この少女たちがこんなところで諦めるわけがない。
「明日もよろしくお願いします!!」
お願いします!とみんなで頭を下げるメンバーに何も言わずに絵里は屋上から出ていく。彼女は何を思うのか。鷹也には分からない。しかし、今日の練習で分かった。彼女のダンスの才能は確かなものだ。そしてそこにさらに努力もしたのだろう。どうすれば上手くなれるのかをしっかり把握できているようだった。この分なら任せても大丈夫だろう。
「なんで止めたのよ。」
鷹也に真姫が不満気に言ってくる。絵里の言い方は確かに悪かったし、真姫としては文句を言っても良かったと思っているのだろう。鷹也は苦笑いして答える。
「これかれダンス教えてもらう人にそんなに反発するわけにもいかないだろ?」
「それでも……」
「俺が教えてる時とは違うんだよ。あの子の指導は間違いない。だから、仲良くやってほしい。」
鷹也の言葉に複雑な表情をして真姫が黙り込む。周りを見ると、こちらの話を聞いていたのだろうメンバーも黙り込んでいる。鷹也は小さくため息。
「いつまで気にしてんの。教わるって決めたなら切り替えろ。」
「でも、今の言い方だと鷹也さんの教え方が間違ってたってなってるみたいで……」
「間違ってたんだよ。」
花陽の言うことをはっきりと切り捨てる。いつまでもここでグダグダとしているわけにもいかないのだ。だからここではっきりとさせておこう。
「俺じゃあみんなを高みに連れていけない。大きく輝かせることもできないんだよ。」
「……それって……どういう意味……?」
「そのまんまの意味だよ。」
こちらを心配そうに見つめる凛に鷹也はそう言ってやる。そうだ、自分ではできない。
「手伝い程度はする。でも、これからはみんなの直接の力にはなれない。みんなの技術に関わるような部分では何もできないんだよ。これまでのことだって間違ってたし意味はなかったんだから。」
自分にだってライブの準備やPVの撮影の手伝いなどはできるだろう。だが、彼女たちに関わる技術面に関しては自分は関わるべきではなかったのだ。先ほどの希の言葉の真意はこれを言っていたのかは分からない。でも、自分の立場を見直すとなるならこうなるのだ。
「みんなはすごいよ。みんなそれぞれにすごい才能や想いなんかを持ってる。でも……」
花陽も、凛も、真姫も、にこも、穂乃果も、海未も、ことりも本当に価値のある、才能も夢もある少女たちだ。そこに自分はなにができるのか。そんなこと分かりきってる。なにも……
「俺には価値もなんにも……」
「そんなことない!!!!!!」
鷹也が淡々と言おうとしたとき、穂乃果が大声でそれを遮った。鷹也は驚いて穂乃果を見る。
「鷹也くんが力にならないなんてそんなことない!!」
「穂乃果ちゃんの言う通りだよ、お兄ちゃん。」
「ことり……」
穂乃果が必死に鷹也に向かってそう言う後ろからことりも口を開く。
「お兄ちゃんがいてくれたから、私たちはここまで頑張れたんだよ?お兄ちゃんがいなくちゃここまで頑張れてないよ。」
ことりがこちらを見る目はなぜかうるんでいて。泣いているのだろうか。そう鷹也が思うときにはことりは目元を拭って続ける。
「それなのに……お兄ちゃんがいてもいなくても変わらないみたいな悲しいこと言わないでよっ…!!」
ことりの言葉に鷹也はどうすればいいのか分からずに周りのみんなを見る。誰もがこちらを見ている。その表情は厳し気な、真剣なもので。全員がことりと穂乃果のように自分のことを思って、考えてくれていることが分かった。全員が同じ度合いとは限らないが、それでも全員が鷹也のことを価値のある人として見ているような気がした。
「なんで……そうなるかな……」
鷹也は小さくそう零す。自分は無価値な人間のはずだ。自分には何もない。空虚で、虚ろで、からっぽで。自分がこの少女たちに与えられるものなんてなくて。彼女たちの裏で誰でもできるようなことしかすることはできないのに。なんでこの少女たちは……こうも自分を揺さぶるのだろう。自分のあり方を揺さぶるようなことばかりするのだろう。鷹也はことりに視線を戻す。その横に海未と穂乃果が立って、3人でこちらを見返してくる。
「なんで……俺のことをそこまで……」
「大切な人だもん。大事に思うのは……」
代表してことりから紡がれたその言葉を最後まで聞かずに鷹也はその場から駆け出そうとして、
「っつ……!!!」
「いい年してなに逃げようとしてんのよ。」
にこがドアの前に立ちふさがって、その進路をふさぐ。鷹也が逃げようとすることに気が付いていたのだろうか。普段とは違う真剣な顔でにこは言う。
「自分の大切な人達の言葉から逃げるんじゃないわよ。その言葉まで信じられなくてなにが信じられるのよ。」
にこを無理に押しのけるという手もあるかもしれない。自分のあり方は揺らいではいけない。これは絶対のものなのだ。ことりの言葉を聞いてはいけない気がした。だから無理やりにでも。そう思うも、にこの横に1年生の3人が並ぶ。
「凛はまだ、鷹也さんのことはよく分かんないし……どういえばいいのかも分かんないけど、でもことり先輩の言いたいことは分かる気がする。だから話聞いてあげてほしいな。」
「私も……凛ちゃんと同じ意見です。鷹也さんは……私に勇気を、頑張る力をくれたから。だから……今度は私の番です。ことり先輩の話を聞いてください。」
凛と花陽がそう言って、真姫も何も言わないが真剣な表情で鷹也を見ている。これでは無理やり押しとおろうとするのは危ないだろう。怪我などさせてもいけない。そしてにこが言う。
「さっさと向き合いなさいよ。逃げてても仕方ないでしょ。」
「お兄ちゃん!!」
ことりの声に反応して、ゆっくりと振り向く。体は震えていた。そこにいることり、穂乃果、海未の3人。妹であることりと妹同然の2人。
「鷹也さんがそこまで自分のことを否定する理由は分かりません。聞いても教えてくれないでしょうしね。」
海未が口を開いてそう言って苦笑する。なんでこの少女たちは
「でもね、鷹也くんがいなかったら私たちはここにいないよ。ここまで頑張れてない。それは絶対だよ。」
穂乃果が笑顔でそう言う。なんでそうまで
「お兄ちゃんが自分を否定するなら、私たちがお兄ちゃんを肯定するから。だから……」
ことりが悲しそうに、でも真剣に強い想いを込めて鷹也の目をまっすぐに見て言う。なんでこんな自分のことを
「だから……自分のことをいなくてもいいみたいに言わないで……!」
必要にしてくれるのだろう。大切に思ってくれるのだろう。鷹也は心の中に様々な感情が湧き上がるのを押さえつける。
「…………………………………」
無言で3人からの視線を受け止める。後ろでも他の4人が見ているのを感じる。自分のことはどうでもいい。これは絶対だ。自分に価値はない。自分にできることなんてたかが知れている。ならば彼女たちに悪影響がでる危険は避けるべきだ。自分の中ではっきりしているのだ。最善は自分ができるだけ彼女たちに関わりを少なくしてサポートしていく。彼女たちに直接かかわらない分野でサポートしていく。これが最善なのだ。それは確実で、分かっているはずなのに。これを彼女たちにこれからの方針として話して、これからはそうしていくべきなはずなのに。
「…………少し考えさせてくれ。」
鷹也はそう言うのが精いっぱいだった。
いかがだったでしょうか。
年下の高校生の女子に心を揺さぶられて言い負かされそうな男子大学生の回でした。
途中の鷹也が逃げ出そうとするところ。逃げ出すのはなにか違うという方もいるかもしれませんが、自分のこれまでのあり方が壊れそうになるのって本当に怖いことだと思うんです。
鷹也に関して言えばそれはことりからの言葉によるもので、他の人からならまだしも自分が最も大切にしようとしていることりからの言葉では聞いてしまったら無視することもできない。なら聞かないようにするしかない。そう思ってしまうのも仕方ないと思ったのでこうなりました。一応の補足です。
次は鷹也の気持ちの整理と絵里と希の加入になるかな……?って感じです。
では引き続きよろしくお願いします。