鷹也の気持ちに多少の変化もある回です。
あまりうまく表現できていない気が多大にするのですが、あまり更新期間を空けるのもなんなのでとりあえず投稿。
後の大幅改稿にならないことを切に願います。
それでは出来に自信はないのですが楽しんでいただけると幸いです。
ではご覧ください。
昔から自分は気づいていた。気付かされていた。
自分に価値はない。才能も、やりたいことも、夢も、なにも自分にはなかった。
そこまでは誰もが感じているのかもしれない。でもそれからが自分は他の人と違った。
自分は価値のなさを痛感させられた。自分の価値のなさを嫌というほど味わった。味合わされた。
自分の価値のなさを感じている人はいても、普通の人はそれを見て見ぬふりをし、何かやりたいことを無理矢理にでもこじつける。自分はそれもできなくなったのだ。
だから、自分は何もできない。価値はない。
でも思ったのだ。
自分にはないものを持つ彼女たち。
普段は能天気でも自分のやりたいこと、楽しそうなことに周りにいい影響を与え続けながら進める子。
普段からしっかりとしていて、冷静に物事を捉えて考えることのできる。しっかりとした意志を持つ子。
自分のやりたいことがはっきりとし、ふわふわとしているようで自分の中でしっかりとした想いを持つ子。
とても優しく、とても強く、才能に、想いに、夢に溢れる彼女たち。
自分にないなら、それを持つ彼女たちに全てを捧げよう。彼女たちのためだけに行動しよう。自分を全て投げ出しても彼女たちのために。
そう思ったのだ。
でも、それは………………間違っていたのだろうか。
「鷹也?どうした?」
「ん?あ、ああ、なんでもない。」
和樹に顔を覗き込まれて、鷹也は宙で唐揚げを掴んだまま止まっていた箸を動かして口に運ぶ。物思いにふけっていたために無意識にシャットアウトしていた大学構内の食堂特有の周りの喧騒が戻ってくる。ついぼーっとしてしまっていた。
「なんかあったのか?今日はなんか変だぞ?」
「いや、あったと言えばあったんだけど……」
「中途半端な答えだなぁ……」
煮えきらない様子の鷹也に和樹はため息。そんな反応をされても鷹也としては昨日のことはわざわざ言いたいことではない。
「別に和樹が気にすることじゃないよ。ほら、さっさと食べないと次のコマ間に合わないぞ。」
「まぁそーだな。」
それ以上は和樹は突っ込んで聞いてこず、2人は他愛もない会話を少ししながら黙々と昼食をとる。鷹也が和樹とよく一緒にいる理由はここにもある。和樹はこちらに深く踏み込んでこない。こちらに強く関心を持たない。それは鷹也にとってとても居心地のいいものになっていた。2人は食事を終えて立ち上がる。今日はたまたま会っただけで講義は別なので違う講義室に向かうことになる。
「じゃあ、行くか。」
「鷹也ー」
食堂で購入したためにトレーを返しに行こうとする鷹也の後ろから和樹が声をかける。振り返ると和樹はニッと笑って言う。
「まだ知り合って1年くらいだから言えないことの方が多いだろうけど、なんかあったら言えよ。適当に聞き流してやるから。」
「……そこは何かしらアドバイスしてくれよ。」
だって苦手だもん、そういうの。そう言って笑う和樹に鷹也は笑顔を見せる。わざと軽い感じで言ってくれているであろう和樹の気遣いはありがたかった。
その日の放課後。今日も鷹也は音ノ木坂学院に来ている。結局のところ考えはまとまらなかった。みんなのための最善は自分の中ではっきりしているのに。それなのにどこかでそれを否定する自分が出てきている。その否定は自分の中であってはならないもので。
(……自分に価値はない。それなのに自分の気持ちを抑えられないでどうすんだよ……!!)
自分の気持ちなんて価値はない。そのはずなのに彼女たちが肯定しつづけてくれるのが分かってしまって。それなら彼女たちのそばで力になってやりたいと思えてしまって。どうすればいいのか分からなくなる。それでも仕事として外部コーチを引き受けている手前、逃げるわけにもいかなくて鷹也は屋上に向かう。気持ちはまだ定まらない。そして屋上に着くと、ドアの向うから声が聞こえてきた。
「やりたいからです!!」
絵里は自分の中で何か言い表せない感情が広がっていくのを感じる。昨日の時点で自覚したはずだ。これから自分が課すメニューはとてもつらいものであり、これからこれがずっと続くということが。だから文句や弱音が出てくると思っていた。だが、実際は違って。彼女たちは誰一人弱音を吐かず、笑顔で自分に接し、自主的に昨日の辛いメニューを行おうとしていた。つらくないのか。そう思った。彼女たちからしたらこんなメニューで上手くなるのかと疑問に思うようなメニューであるはずなのに。だから聞いたのだ。つらくないのかと。その返答は
「やりたいからです!!」
これだ。強い意志を持って紡がれたその言葉は絵里の心を揺さぶる。思い出されるのはずっと引っかかっているあの青年の言葉。
『そんな辛そうなのになんで頑張ってんの?本当に君のやりたいことはそれ……?』
やりたいから。だから頑張る。その単純な、純粋な理由に絵里は心が締め付けられる。
「確かに練習はつらいです。身体中痛いです。でも、廃校をなんとかしたいという想いは……生徒会長にも負けません!!」
穂乃果は力強く言い切る。いつもの彼女とは違う。あのファーストライブ後の時に見せたのと同じ表情。
「廃校をこんな方法でって思われるかもしれません。生徒会長が反対していた理由も分かります。でも、やりたいって思ったんです。それを鷹也くんが支えてくれて、最初は3人だったのに7人になって……。全員の想いがここにあるから、誰一人欠けてもいけない想いがここにあるから、もう止まれない。鷹也くんの想いも、みんなの想いも全部があるおかげで頑張れてるから止まらないって決めたんです。支えてもらっていること、みんなでやりたいことがやれてるそれをなかったことにはしたくない。だからどれだけつらくても頑張れるんです。」
絵里はその言葉に心の中の想いが溢れそうになるのを感じて必死に抑える。やりたいから。その想いを持てるものだけで廃校を阻止しようとできる彼女たちが羨ましくて。それを支えてくれる人がいるのが羨ましくて。
「だから、今日もよろしくお願いします!」
お願いします!と声を揃える7人のそばにいるのは耐えられそうもなかった。絵里は何も言わず屋上から立ち去る。後ろで穂乃果が呼んでいる声が聞こえたが無視。それどころではないほどに、自分の中で気持ちが抑えられなくなりそうだった。そんなときに限ってなんでこの青年はあらわれるのだろう。階段を降りた所で待ち構えていた。
「あんなの気に食わないよな、そりゃあ。」
「なにしてるんですか、こんなところで。」
鷹也に向かって厳しい視線をむける。おそらく屋上の会話を聞いていたのだろうが、今の自分はあまり人と話す気分ではない。できれば一人静かなところで気持ちを落ち着かせたい。そんな絵里の気持ちを知ってか知らずか。鷹也は言う。
「やりたいから。それだけでいつでもまっすぐに自分のやりたいことに進んでいく。そんなこと誰もができることじゃないのに。あいつらはそこにまっすぐ突き進んでいく。」
絵里は無言を選択する。この青年の言葉に反応すると気持ちが抑えきれなくなるような気がした。
「それでいて俺の気持ちまで考えて、俺の支えもあったから頑張れるとか言い始めるんだよ。頑張ってるのは自分たちなのにこんな俺のことを肯定するためにまで行動しようとして。それもやりたいことに含めてくれてる。」
「……何が言いたいんですか。」
さあ、なんなんだろう。自分でも分かんないや。そう言って笑う鷹也に絵里は話しにならないと横を通り抜けてその場を後にしようとする。
「あいつらの想いに俺でも気持ちが動かされそうになった。俺は動かされちゃいけないかもしれない。でも……」
もう聞く気はない。後ろから聞こえてくる鷹也の言葉を無視しようとして
「絢瀬さんがあいつらと想いを一緒にすることを我慢する必要はないんじゃないかな?」
立ち止まる。これまで散々心が揺さぶられている。そこにそんなこと言われたら……抑えきれなくなってしまいそうで。でも、なぜか立ち去ることができなくて。
「我慢なんかしてないわ……。学校存続のためだもの。私は学校を……」
「絢瀬さんって俺と似てるよ。誰かのためだけに、なにかのためだけに自分を考えずに行動しようとする。でもさ、絢瀬さんは俺とは違う。自分の気持ちを無視してまですることじゃない。絢瀬さんがそこまでする必要はないんだよ。」
「自分の気持ちなんて……」
「えりち」
そこで横から声がかかった。視線を向けると、そこにいたのはいつもそばにいてくれる親友の姿。
「うちな、ずっと思ってたことがあるんや。えりちは本当は何がしたいんだろうって。」
『お姉ちゃんのやりたいことはそれ?本当にやりたいことはなに?』
『そんな辛そうなのになんで頑張ってんの?本当に君のやりたいことはそれ……?』
希の言葉にここ最近で聞いた言葉が思い返される。昨日は妹にも言われてしまい、少し前には目の前にいる青年にも言われたこと。本当にやりたいこと。絵里は唇をかみしめる。そんなもの……
「えりちが頑張るのはいつも人のためばっかりで……いっつも何かを我慢しているように見えて……全然自分のことは考えてなくて……」
「っ……!!」
「学校を存続させたいっていうのも!!」
その場から逃げ出そうとするも後ろからの希の声に遮られる。
「学校を存続させたいっていうのも、生徒会長としての義務感からやろ?だから、理事長はえりちのことを認めなかったんと違う?」
えりちの、えりちの本当にやりたいことは?もう1度希に聞かれて、少しの間が空く。そこで聞こえてきたのは屋上で練習している彼女たちの声。そこまでだった。もう抑えがきかなかった。自分の想いがあふれる。我慢していたものがあふれ出す。
「なによ……なんとかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!!!」
感情のままに、自分の心を言葉にして口から声として吐き出す。
「私だってやりたいことだけやって何とかなるならそうしたいわよ!!!」
やりたいことだけやってそれでなんとかなるのはそれはいいことだ。理想的で素晴らしいことだ。それは分かってる。でも、それだけで何とかなるとは思えないから。だから自分が何とかしようと頑張っていたのに。我慢して頑張っていたのに。それは間違いだったのだろうか。
「自分が不器用なことは分かってる……でも……!!」
希の驚いたような表情と自分の頬をつたう水滴で自分が泣いていることに気が付いた。もう抑えられない。気持ちは、我慢していた気持ちは口をついて出てくる。
「今更アイドルを始めようなんて……私が言えると思う……?」
2人の反応を聞かずにその場から走り去る。もう頭の中がぐちゃぐちゃだった。何が正解で何が間違っているのか。自分のやりたいことを我慢してまでこれまで頑張ってきたのは間違いだったのだろうか。それならやりたいことだけやるのが正しいのか。もう何も……分からなかった。
「あ~あ……泣かせちゃった。」
「覚悟してたけど……泣かせることになるとは思わんかったなぁ……」
意外とショックやね。そう言って苦笑いする希に鷹也はそうだろうねと返す。親友のためとはいえ、親友を泣かせてしまったというのはつらいことだろう。
「鷹也さんも同罪やからね。」
「俺は自分が思ったことを言っただけだよ。」
「それでも泣かせる一因にはなってたやん。」
それはそうだけども……と口ごもる鷹也に希は笑顔を見せると探るような視線を向けてくる。
「そういえば……覚悟は決まったん?」
「どうだろうな。まだどうすればいいかは分かんないよ。でも、あいつらが望むならあいつらの気持ちの最善を優先するべきだなとは思ったよ。」
「それならいいんやけど。」
さっきの穂乃果の言葉。あくまでも鷹也が支えてくれたからということを言ってくれていた。その鷹也がいてやりたいことをやれている今をなかったことにしたくないと。それならば、自分が勝手にいなくいなくなることはできないではないか。希の言っていたことの真意はこれだったのだろう。あの子たちの気持ちも考えて最善を尽くすことを忘れるなということ。最善はこれだといって逃げる選択肢をとれば彼女たちは傷つく。それではダメだ。彼女たちの気持ちを尊重してそばにいて、それでいて取り残されないようにしろということ。
「じゃあ、後はえりちのこと何とかせんとね。」
「……希、お前ってどこまで考えてるんだ?」
「さあ?どこまでやろ?でも、もうだいたいはうちの望んだ形は見えてる。これ以上は考えてないよ。」
そう言って希は屋上に向かう。鷹也もだいたいの考えは分かっているのでそれに続く。この少女は鷹也の問題にも気が付いていた。それを解決するようにけしかけもした。本当に賢い子だと思う。そしてその賢さは何のために使われているのだろうか。希の望み。それはどこにあるのだろうか。
「私のやりたいこと……」
空き教室で窓際の席に座って頬杖をつき、絵里は窓から空を見上げる。自分のやりたいことははっきりしている。楽しそうな彼女たち。その活動で上手くいくなら自分もその中に入りたいと思った。でも、自分は生徒会長だ。全校生徒のために動く必要がある。学校の存続のためにも活動しなくてはいけない。そんな自分がアイドル活動をするなんて……
(でも、でももし自分もアイドルとして廃校を阻止出来たらそれは1番いいことで……)
理想が頭に浮かんでしまう。理想は理想でしかない。でも、その理想目指してやってみたいという想いも胸にあふれてきていて。抑えがきかない。これまで溜まったものがここにきてあふれ出してしまっている。絵里は窓の外から目をそらして立ち上がろうとする。このままではダメだ。自分の気持ちなんて考えている暇なんてないのだ。自分の気持ちを考えている暇があったら動かなくては。自分が今やりたいことは音ノ木坂の廃校阻止だ。そう考えて気持ちに無理にふたをしようとしたところで
手が差し伸べられた。
「あ…………」
言葉に詰まってしまって、手を差し伸べてくれている少女を見上げる。その周りには7人の少女たち。自分の憧れた少女たちと自分のことをいつも考えてくれている少女。入口のそばには彼女たちのコーチである青年の姿も見える。
「な、なに?練習ならまずは昨日言ったメニューを……」
「生徒会長。いや、絵里先輩。」
差し伸べられた手を無視して、唯一の接点であろうことを口にする。しかし、その言葉を手を差し伸べている少女、穂乃果は遮って笑顔で言う。
「μ’sに入ってください!」
「な…………」
その言葉は自分の望んでいた、でも最も聞きたくなかった言葉で。絵里は穂乃果から目を逸らす。
「一緒に歌って、踊ってほしいです!スクールアイドルとして!」
「な、なに言ってるの。私がそんなことするわけないでしょう。」
「さっき希先輩と鷹也さんから聞きました。」
海未に言われて反応してしまう。さっき自分が口にした言葉。アイドルを今更やろうなんて言えない。それはまぎれもなく自分の本心で。それはつまりは……
「やりたいなら素直にいいなさいよ。」
「にこ先輩に言われたくないけど。」
「真姫ちゃんにも言われたくないと思うにゃ~」
「お前ら3人とも似たように素直じゃなかったよ。」
「「「うっ…………」」」
鷹也に突っ込まれて言葉につまる3人だが、にこの言う通りだ。あの言葉の意味するところは自分はアイドルをやりたいと思っているということで。でも、これを肯定するわけにもいかないのだ。
「ちょっと待って!だれもやりたいなんて……それにおかしいでしょ。私がアイドルなんて……」
「いいんやない?やってみても。」
「希……」
自分は生徒会長で、全校生徒のために動かなくてはいけなくて、学校の存続をなんとかしなくてはいけなくて。そんな自分の中にある理由。希はそれを
「理由なんて必要ない。やりたいからやってみる。本当にやりたいことってそんな感じに始まるんやない?」
簡単に吹き飛ばした。理由なんかいらない。自分の中に否定する理由があろうと、対抗するために肯定する理由なんかいらない。そこに鷹也が近づいて来て言う。
「絢瀬さんは俺と似てるって言ったよね?自分のことを考えずに周りのために動く。でも、自分にやりたいことがあるなら……それをやるのが1番だよ。やりたいことがあるってそれだけで素晴らしいことなんだから。」
「私……は…………」
自分の中には様々な否定する理由がある。それを見ないふりをしていいのだろうか。たった一つの理由で打ち消していいのだろうか。こちらに微笑んでくれるみんなを見渡す。後ろから海未が肩に手を置いてくれた。1番自分が傷つけてしまった少女。彼女の手は自分の後押しをしてくれていて。
「絵里先輩。」
絵里は差し伸べられた手を見て、唇をかみしめる。そして
「……………っ……」
その手を握る。溢れそうになる感情は、涙は押し込める。やりたいという理由だけで自分の気持ちに正直になってもいいのだろうか。その迷いを打ち消すように穂乃果の手は絵里の手を強く握り返してきて。自分の中で何かが変わる気がした。
「これからよろしくね。」
そして絵里は笑顔でそう言った。
「絵里先輩!」
「これで8人!」
「違うよな、希。」
喜ぶ穂乃果とことりにそう言って鷹也は全員の視線を希に向けさせる。
「うちが言おうと思ってたのに……」
「散々振り回されたんだ。最後くらい思惑からはずれてしまえばいいんだよ。」
「え?え?どういうこと?」
本当にイジワルやね。といって笑う希と会話が唯一噛み合っている鷹也を見て、凛が混乱したように聞いて来る。ここまで来たのだから希も止めないだろうし、あの言い方からすると前の推測は間違っていなかったのだろう。鷹也は自分の推測通りであると判断して口を開く。
「『μ’s』。ギリシャ神話の9人の歌の女神。この名前を付けたのは希だよ。」
「「「ええっ?」」」
8人の驚く声を聞きながら、希は笑って鷹也の言葉を引き継いで続ける。
「カードが言ってたんよ。このグループが9人になった時未来が開けるって。」
「9人……ってことは……」
「そ、希も入るって。」
「よろしくね。」
全員が驚くも、反対意見はない。その中で絵里が脱力したように笑ってその場から歩きだす。自分の親友がここまで周りのことを考えて、こうなることを見越して行動していたとなれば笑うしかないだろう。
「どこへ?」
「決まってるでしょ。」
海未の問いに絵里が振り向く。そこにはもう辛そうで悲しそうだった彼女の面影はなく。何か吹っ切れたようなそんな表情。そしてはっきりと言う。
「練習よ!」
そうして屋上に向かって練習が開始される。とは言っても今日は希は完全に新メンバー扱いだし、絵里も急に練習というわけにもいかないだろうということで希は見学。絵里は指示のみで他のメンバーの練習が中心だった。といっても基礎のみで今日は終わるしかない。9人になったことでダンスに関しては立ち位置などを考え直さなくてはいけないのだ。そこで、今日は少し時間もあるのでそのミーティングを開始することとなった。希が鷹也に言う。
「ミーティングはいいんやけど、鷹也さんはこれからのこと話しておいた方がいいんやない?」
余計なことを……と希をにらみつけるももう遅い。絵里のことで後回しにできていたが、昨日のことはうやむやで終わらせていい話でもない。真剣な目でこちらを見てくるメンバーに鷹也はため息をついて話し始める。
「……正直な話。俺がこれ以上ダンスに関わることはメリットよりもデメリットの方が大きいと考えてる。」
「そんなこと……!!」
反論しようとしたことりを止める。これは客観的に考えた結果であり、事実だ。鷹也は基本的なステップのコツを教えたりすることはできるが、それ以上の応用、個性の出し加減などに関してはアドバイスできない。個性をなくしてつまらなくしてしまう可能性の方が高いのだ。ならばメリットとデメリットの差は明らかである。だが
「だけど、俺はみんなのためならなんでもすると決めているんだ。自分の意志なんて関係なく。だから望まれているのならばダンスに関してもサポートは続けたい。」
ことりたちが言っているのはこういうことではないのは分かっている。この言い方が卑怯だっていうのも分かってる。自分の気持ちの決定を他人に押し付けているだけ。だが、自分の価値のなさを自分で誤魔化すのはどうしてもできないのだ。自分はことりたちの力に直接なり続けたいそう思ってる。それはもう認めるしかない。自分が教えることをなかったことにしたくないと言ってくれているのに自分が逃げるわけにもいかない。でも、自分が影響を与えずに上手くやっていけるか自信がないのだ。自分を信じれないのだ。価値のない自分が彼女たちに影響を及ぼして壊してしまうのが怖くて自分で関わるのを選ぶのが怖いのだ。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。」
「ことり……」
しかし、そんな卑怯な自分をことりは安心させるように微笑む。
「自分のこと否定して周りのためだけに動こうとするのはお兄ちゃんの昔からのことだから……変えるのには勇気がいるのは分かってる。」
優しいことりのことばに鷹也は視線をそらす。自分は自分が何もできないから彼女たちに押し付けているのに、彼女たちはそれを全くはねのけない。受け入れてくれる。
「そんなに自分を信じられないなら、私たちを信じて?お兄ちゃんのことを信じてる私たちを。」
それとも私たちのことも信じられない?そう言ってくることりに、鷹也は首を横に振る。彼女たちのために自分を全て捧げると決めたのだ。彼女たちのことを信じられないわけがない。
「じゃあ、これからも支えてほしいな。お兄ちゃんが教えてくれたことは意味があるし、これから教えてくれることもきっと意味があるはず。」
「その言い方はずるいよ……」
9人のことを見まわすと、みんなが頷いてくれる。ずるいと思う。こんな自分は自分では信じられない。でも、ことりたちを信じないなんてことはできない。それでは仕方ないではないか。
「わかった。これまで通り俺も皆に直接アドバイスするよ。絢瀬さんも入ってくれたから、問題があったらすぐに指摘してくれるだろうし。」
「ええ、任せてください。」
にこやかに言ってくれた絵里に笑顔を見せて、鷹也は頷く。これが最善かは分からない。これまでの自分の考えてた自分のことを思ってくれる彼女たちの気持ちも無視した最善とは違う。でも、全員の気持ちの面での最善がこれなら、これを本当の最善にできるようにしていくべきなのだろう。
「よし、じゃあこれからもダンスに関してもアドバイスさせてもらう。これからもよろしくな。」
はい!と元気よく返事をする9人に鷹也は笑顔を見せる。自分の中の問題は解決していない。あくまで誤魔化しているだけ。それもことりたちの力を使ってだ。でも、今はとりあえず彼女たちを信じて彼女たちの気持ちを最優先しよう。自分は彼女たちを支えると決めているのだから。これが最善だとは思えない。まだ最善は自分が関わらないことだと思っている。でも、彼女たちが信じろというのなら、彼女たちの気持ちの面でのこの最善が本当の最善になるようにしよう。
いかがだったでしょうか。
これで9人全員加入。
オープンキャンパスの日の話は次の回に書こうと思います。
鷹也の考えの変化は本当に少しのものです。
自分のあり方というのはそう簡単に変えれるものでもないと思うんです。
でも確実な変化は見てとれるように書いたつもりです。分かりづらかったらすみません……
それでは次回も引き続きよろしくお願いします。