小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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今回はオープンキャンパスの日の話。
少し短めになってます。オープンキャンパスのライブ直前の様子ともう1つ。
鷹也とあの人との会話も入ってます。

それではご覧ください。


オープンキャンパスライブと答え合わせ

それからオープンキャンパスまではあっという間だった。これまで鷹也がアドバイスしていたメンバーの問題点に関することは絵里と相談しながら、希に関しては完全にダンス初心者なので鷹也が中心にアドバイスしていった。基礎のステップに関してならば鷹也は絵里にお墨付きをもらえるレベルで教えることができる。そうして残りの1週間ほどは過ぎていき、それまでの間に凛が開脚前屈でお腹が床につけられるようになったり、体幹トレーニングに花陽もしっかりとついていけるようになっていった。そして当日の朝、リハーサルを屋上で行う。今日は日曜日なので鷹也もずっと付き添える。

 

「……っし、オッケーだな。」

 

鷹也は手を叩いて直前のリハーサルの終了を告げる。昨日から何回か通して見ているがミスらしいミスもなくなっている。自分の目だけではなく、絵里や海未にも交互に確認してもらっているので大丈夫なはずだ。本番まであと少し。あとは移動するだけ。鷹也はこちらを見ている9人に微笑む。

 

「いよいよだ。」

「これで学校の存続が……うぅ……緊張します……」

「かよちん、大丈夫?」

「もう……今更そんなに緊張しても仕方ないでしょ。」

 

でもぉ……と言って緊張がほぐれない様子の花陽を見て鷹也は苦笑する。穂乃果やことり、海未に関してはまだわかる。1回ライブをやっている以上は緊張しているのを隠せるだろう。だが、他のメンバーがここまで落ち着いているのがすごい。普通は花陽のように緊張するものだが。とりあえず鷹也は花陽に声をかける。

 

「小泉さん、1回それは忘れていいよ。」

「え……?」

 

キョトンとする花陽に笑いかける。ここまで頑張ってきた。運動が苦手と言っていた花陽も絵里の納得する水準まできていた。鷹也は気が付いた様子の穂乃果、ことり、海未の3人に目配せしてから、全員をもう1度見まわす。

 

「みんな今日まで本当に頑張ってきてたよ。誰が何と言おうと頑張ってた。それはずっと見てた俺が保証する。」

 

最初は全くできなかった絵里の課す基礎練にも全員ついていけるようになったしな。と言って絵里を見ると、絵里は頷く。

 

「ええ、みんなよく頑張ったと思うわ。」

「絵里先輩……!!」

 

みんなが感動したように絵里を見ているのが気恥ずかしくなったのか。絵里は顔を赤くしながら鷹也に聞く。

 

「でも、どういうことですか?学校の存続に関しては忘れていいって……」

 

絵里の質問に全員の視線がもう1度鷹也を向く。鷹也は見てきた。まだ2週間しか9人での練習は見ていない。でも、その中で最善を尽くしていた。彼女たちにできる精一杯をしていた。だから

 

「みんながこれからやるのはアイドルとしてのライブ。アイドルの仕事は?」

「みんなを笑顔にすること。」

 

真剣な顔でにこが言う。そう、彼女たちの仕事はみんなを笑顔にすること。音ノ木坂の廃校阻止は目的であって仕事じゃない。

 

「そう。だったら、みんなも楽しもう。楽しんでお客さんを笑顔にすることだけに集中しよう。音ノ木坂の存続を考えてパフォーマンスの重荷になるんなら、考えなくていい。その結果は最高のパフォーマンスができたときについてくる。」

 

真剣な顔でこちらを見つめる9人に笑いかけてやる。音ノ木坂の廃校阻止は自分の、理事長や鷹也の仕事。ここまで頑張ってきた彼女たちはその重荷まで背負ってライブをする必要はないはずだ。楽しんでいいはずだ。

 

「みんなが今回のライブで考えることは1つだけ。自分も観客も……」

「最高の笑顔で」

「自分の全力で」

「楽しんでやりきる。でしょ、お兄ちゃん?」

 

自分のセリフをとって悪戯っぽく笑う穂乃果と海未、そしてことりに苦笑しつつ、他のメンバーを見ると他のメンバーも緊張が多少はほぐれたようだ。

 

「自分も観客も……うん、楽しそう!!」

「それなら私も……頑張れそうです。」

「まあ、練習してきたんだし楽しまないと損よね。」

「お、真姫ちゃんも意外に素直やね。」

「べ、別にいいでしょ!」

「まぁ、そんなこと言われなくてもこのにこにーがいるんだからみんな笑顔になるに決まってるんだけどね。」

「………………」

「ちょ…!なんかいいなさいよ!!」

 

わいわいといつもの騒がしさを取り戻したメンバーを笑顔で見つつ、鷹也は手を叩いてもう1度視線を自分に集める。この分なら大丈夫だろう。自分ができることはここまで。自分は所詮アドバイスするだけの立ち位置。これまでの練習でアドバイスはした。一緒に活動した。言葉は伝えた。ここからは彼女たちの、彼女たちだけのステージ。

 

「もう大丈夫だな?じゃあ、今回が9人での初めてのライブだ。」

 

————思いっきり楽しんで来い!!

————はいっ!!

 

彼女たちの元気な返事がきれいな青空の下で響いた。

 

 

 

 

 

「絢瀬さん。」

「なんですか?」

 

移動を開始した9人。その中で鷹也は絵里を呼び止める。

 

「今回はありがとうね。みんな、見違えるくらいダンスが上手くなった。それに学校存続を忘れろってのは絢瀬さんにとって嫌な言い方だったかもしれないけど……」

「…………?」

 

この少女はこれまで学校存続のために自分のことを犠牲にして頑張ってきたのだ。そんな絵里にとって学校存続のことなんか忘れてもいいと言われたような気がして気分を悪くしてもおかしくないと鷹也は思ったのだ。しかし、絵里は一瞬キョトンとしてからすぐに納得したというように首を横に振る。

 

「いえ、鷹也さんの基礎の教え方がよかったからです。それに……」

 

そこで絵里は鷹也をまっすぐに見つめ返して、本当に

 

「今は本当に……楽しいですから!」

 

本当に楽しそうな笑顔を見せる。あれだけつらそうな顔をしていた面影はもはやどこにもなく、自分のやりたいことを楽しんでやっていることが伝わってきて。鷹也は本当に良かったと思う。この少女はやっぱりあんな思いつめた顔より、今の笑顔の方が似合う。

 

「そっか。じゃあ、今回のライブも楽しんできて。」

「はい、行ってきます!」

 

絵里はそう言ってみんなを追いかけて階段を降りていく。鷹也も屋上に忘れ物がないか見まわしてから、ゆっくりと屋上から降りる。今回のライブは一種の分岐点。彼女たちの成長をこの目でしっかりと見届けよう。

 

 

 

 

 

「みなさん、こんにちは!!」

 

鷹也がメンバーや手伝ってくれる生徒ともに作った屋外のステージに9人の少女は立つ。代表して話す穂乃果の顔をカメラ越しに見つめる。今回のライブもネットにあげる予定だ。撮影は自分の役割である。

 

「私たちは音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ’s』です!」

「メンバー増えたんだね?」

「ええ、2人増えて9人に……ってえ?」

 

穂乃果の言葉の途中で横から聞こえてきた声に答えてから違和感に気が付き、慌てて横を向く。そこには、よっ!と片手を挙げる女子。

 

「なにやってんですか、沙希先輩?」

「ん~……鷹也に会いたくて?」

「冗談いらないです。」

 

ノリ悪いな~と言って頬を膨らませる沙希の後ろに見知った顔を見つける。どうやら向うも気が付いたようでこちらに向かってくる。

 

「鷹也さん、こんにちは。」

「雪穂、来てたんだな。」

「まぁお姉ちゃんのライブなんて不安だし……」

 

あはは……と笑う雪穂に、そうかもなと苦笑して見せて横に視線を向けるもここで時間切れ。穂乃果のMCが終わりに近づいていることに気が付いて、慌ててカメラを構え直す。他にも何人かカメラを持ってくれているので、穂乃果のMCはそちらのカメラの映像を使おう。そう考えていると横の沙希が耳打ちをしてくる。

 

「さぁ、お手並み拝見だよ?」

「……まあ、見ててくださいよ。」

 

———それでは聞いてください!

 

ライブが始まる。曲に合わせて9人が踊り出し、歌いだす。緊張はほぐれているようで、最高の笑顔で。それはとてもきれいに、可愛らしく、そして何よりとても楽し気に鷹也には見えた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ありがとうございました!!!」

 

穂乃果の声に続いて全員がありがとうございましたとお辞儀をする。初めての9人のライブ。初めて9人でできた曲。最高の笑顔で、全力で楽しんでやりきった彼女たちに、笑顔の観客から拍手が送られる。その光景をある程度映すと、鷹也は視線を沙希に向ける。沙希は笑顔で、本当に楽しそうな笑みを浮かべながら拍手を送っている。そして鷹也に向き直ると、笑顔のまま口を開く。

 

「いいね。いいよ、鷹也。気が付いたみたいだね。」

「俺は何もしてないですけどね。」

「だろうね。おそらくは新メンバーの金髪の子の影響だろうね。」

「つっ……!!」

 

隠す気もなかったが、沙希の観察力に冷や汗が背につたう。沙希は何を考えているのか分かりづらい、普段の無邪気な笑みとはかけ離れた笑みを浮かべて言う。

 

「少し話さない?」

 

その言葉に、鷹也は場所を屋上に移そうと言って沙希はそれに従う。メンバーに声をかけるのは後でよいだろう。着替えなどもあるだろうし。屋上に向かう途中で鷹也は沙希に聞く。

 

「沙希先輩、どうやってここ入ったんですか。オープンキャンパスとはいえ、明らかに関係ない沙希先輩が入れるとは思えないんですけど。」

「あたしが誰の姉かわすれたの?ツバサのサインを中学生に握らせれば余裕だよ。」

 

ちなみにさっきの子ね。と言う沙希に額に手を当てる鷹也。後で雪穂に注意しておかなくてはいけないだろう。A-RISEのサインをもらえたからといって、保護者のふりを許すなんてことは明らかにダメなことだろう。そんな会話をしているうちに屋上に到着。2人は並んで屋上の柵に寄りかかる。

 

「で、鷹也は気が付いたみたいだね?」

「……気が付いたというよりは気が付かせてもらったというのが正しいですけどね。」

 

沙希が指摘してきていた鷹也のダンスの問題点とその問題点のμ’sが引き継いでしまっているということ。気が付いたには気が付いたが、それは絵里のおかげであるし絵里の修正のおかげで何とかなったのだ。沙希はそれに気が付いているのだろうが、楽しそうに笑みを見せながら、言ってみなよ?と急かしてくる。鷹也はため息をつきつつ口を開く。

 

「俺のダンスの特徴は基礎に縛られていること。」

「それで?」

「アレンジはない。個性を出す気のないそのダンスは完成されればよくなるだろうが、基礎だけで表現しきるなんて相当の年月をかけなきゃできることじゃない。そこまで本気でダンスをしているわけではない俺じゃあ基礎に忠実なダンスは中途半端なつまらないものになる。」

「いいね、正解。」

 

沙希は本当に楽しそうにさらに笑みを深くしてそう言うと、空に向かって指をくるくるとまわしながら言う。

 

「ダンスは自己表現だよ。あくまで基礎があってこそだから基礎も大事だけどね。」

 

沙希はそう言って寄りかかった柵から離れ、鷹也の前に出るとくるりときれいなターンを決める。一切のブレのない、芯のしっかりとした堂々としたターン。

 

「例えばこんな動作にだってそれぞれダンスする人の特徴がでる。意識的な部分、そして無意識的な部分ですらダンスには表れる。でも、鷹也はその部分を基礎で、例えばダンス指南のビデオみたいな完全な基礎で埋め尽くそうとする。それが彼女たちに教えている間にも出てしまうんだろうね。」

 

そう言って鷹也をまっすぐに見つめる沙希から鷹也は目を逸らす。それは事実だ。鷹也はダンスに関しては映像の、もしくは教えてくれた人の基礎の部分を完全にコピーしようとする。そこに技術は足りないから中途半端になるのだが。

 

「まあ自覚してるのか自覚してないのかまでは分からないけど、それが鷹也の本質なんだろうね。」

「俺の本質…………」

「見たところ、表面的には自覚してるのかな?」

 

沙希はそう言っていたずらっぽく笑う。鷹也は答えない。自分の本質なんて沙希に話すことでもない。

 

「で、今度はあの金髪の子の指導でダンスが向上してる。あの子がつくなら間違いはなくなるかな。あの子は相当の実力者みたいだし……昔のあたし並かな?」

 

まあ、絶対に負けないけど。そう言って沙希はもう1度鷹也の横に戻ってきて、今度は横からのぞき込んでくる。

 

「鷹也はこれからどうするの?もうダンスに関してはアドバイスできるか分からないよ?」

「……やめた方がいいとは思ってます。」

「………………」

「でも」

 

一瞬不機嫌そうな顔になった沙希に向き直って鷹也は告げる。

 

「あいつらがそう望んでくれているのでまだ関わらせてもらいますよ。」

「…………まぁ、今はそれでもいっか。」

 

少し考え込んだ沙希だったがすぐに笑顔になってそう言う。その一瞬の思考にどんな意味があるのか。鷹也には分からないし、考える気もない。この天才の考えを完全に理解しようとしてもできるわけがない。

 

「じゃあこれからも楽しませてくれそうだね。それならいいんだよ。」

「あいつらならきっと楽しませてくれるはずですよ。」

「……また……まぁいいけどさ。」

 

呆れたようにため息をつく沙希は勢いをつけて柵から離れると屋上のドアに向かって歩いて行き、その途中で鷹也に向き直る。

 

「まあ、なによりもとりあえず今回のライブも成長してたんじゃない?やるじゃん、鷹也。」

「……ありがとうございます。」

 

鷹也は頭を下げるが、疑問に思って顔を上げる。そして今にも屋上から出ていこうとする沙希に声をかける。

 

「なんで、沙希先輩は俺達に関わるんですか?混乱させるようなこと言ったり、アドバイスしてみたり……」

「ん?ああ、面白そうだからだよ。あたしも、ツバサたちも面白そうな相手を求めてるんだよ。こんくらい乗り越えてくれなきゃ。あたしたちのところまで来る資格はないよ。」

 

そう言って沙希は手をふりながら今度こそ屋上から出ていく。その背中を見送ってから、鷹也は大きく息をつく。最近のあの人との対話は神経を使う。鷹也は空を見上げる。正直自分は沙希に敵う気がしない。そんな人がサポートに付いているA-RISE。果たしてそこにまでたどり着けるのだろうか。

 

「お兄ちゃん?」

「ん?ああ、お疲れ。」

 

少しの間そうしていただろうか。ことりが屋上に来て声をかけてくる。鷹也は視線をおろしてことりを見つめる。自分とは違う才能に満ち溢れている彼女たち。今は制服に着替えて、すでに帰る準備ができたようだ。

 

「どうしたの?みんな探してたよ?」

「ああ、ごめん。今行くよ。」

 

そう言って背中を寄りかかっていた柵から離して歩き出す。この少女たちはどこまで行けるのだろうか。あの天才が率いるグループの下まで追いつけるのだろうか。鷹也には分からない。だけど

 

「ことり。今日のライブ、よかったよ。」

「ほんとにっ?よかった~!!」

 

今は全力で前に進む彼女たちを信じよう。今回のライブは本当に良い物だったと思う。彼女たちも、観客も笑顔で。なにより楽しんで全力でやりきっていた。安心したように笑うことりの頭をなでて、鷹也は微笑む。自分には分からない。こんな自分には分からないけど、彼女たちならきっと行ける。彼女たちならあの人のところまでたどり着ける。そう信じるしかない。

 

 

 

 

 

「ツバサ!おんなじところ間違ってるよ!」

「あんじゅはそれでいいんだけど、もう少しだけキレよく動く!」

「英玲奈!今の忘れないで!!」

 

沙希は学園のレッスンルームでA-RISEの3人に指示をとばす。今日見てきたものは伝えてある。そして、満場一致で決まった。これまでにない相手。今はまだ発展途上で足元にも及ばないけれど。いつか自分たちの最大のライバルになりかねない。それを意識しているからか。いつもより集中して練習は進む。そんな空気に沙希は知らず知らずのうちに笑みを零す。

 

(この子たちは正面から叩き潰すことしか知らない。知らなくていい。だからあたしが……)

 

それに見合うだけのところに彼と彼女たちが上ってくるかは分からない。でも、妹たちが正面から叩き潰すことしか知らないから。

 

(……まだまだ折れないでよ?こんなところで折れたら面白くない……)

 

それなら裏からかき回すのは自分の役目。そこで負けずに成長の糧にして這い上がってくるか、それともつぶれるのか。まだまだ不安定な彼と彼女たちがどこまで成長して自分たちのもとに迫ってくるのか。沙希は抑えきれずに笑みを濃くする。それは楽し気な、無邪気な、それでいてなぜか冷たい。そんな笑みだった。

 

 

 




いかがだったでしょう。
沙希先輩が書いてて楽しくなりすぎる。なぜだ。

お気に入りもそろそろ止まるかと思えばじわじわと190超えてました。ありがとうございます。UAも28000超えてましたのでそろそろ番外編でも書こうかなとも思ってます。
おそらくはお気に入り200突破orUA30000突破の記念になると思います。
両方になれば本当に嬉しいです。

それでは次回もよろしくお願いします。
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