どちらかだけでもいけばいいなぁと思っていたらまさかのどちらも達成できていてとっても嬉しいです。本当に読んでくださってる方々には感謝の気持ちでいっぱいです!
今回の番外編ですが色々考えたのですが1年生メインの話となりました。
理由としては本編が最近3年生や鷹也メインの話が続いていたこと、これからことりをはじめとして2年生の出番が本編で増えることがあげられます。
まあ、書いていて1年生メインの話が1番上手く書けたというのが本音ではありますが……
鷹也すらそこまで目立たず、完全に1年生メインになっているのが今回の番外編ですがちゃんと他のメンバーも出ているのでご安心ください。
では、番外編ということで例にもれず好き勝手に書きましたが楽しんでいただければ幸いです。
長くなりましたが、それではご覧ください!
いつも通りに鷹也が音ノ木坂学院に向かい、いつも通りに屋上で彼女たちが準備を終えて上がってくるのを待っていたある日のことである。いつもよりも明らかに時間がかかる彼女たちに何かあったのかと部室に向かった鷹也。まだ部室内で何事か騒いでいる彼女たちに首をかしげつつ、鷹也はドアをノックして声をかける。
「みんな、どうかしたのか?」
「た、鷹也くん!?ちょ、ちょっと待って!」
「り、凛ちゃん!少し静かにさせて!」
「穂乃果?ことり?」
慌てたような穂乃果とことりの声に鷹也はドアノブにかけた手を止める。着替えるとしたら、隣の部屋に移動して着替えるだろう。それならば着替えは終わっているはず。何かあったのだろうか。ドアの向こうの様子に耳を澄ます。
「凛!早くそこの箱の中にとりあえず入れて!ここにそのまま置いていくわけにもいかないでしょ!」
「それは分かってるんだけど放してくれなくて……ふぁ……はっくしゅ!」
「り、凛ちゃん……大丈夫?」
「だ、大丈夫。ちょっと鼻がむずむずして目がかゆくなってきて……くしゅん!!」
「にゃー?」
聞こえてきた声は真姫、凛、花陽の声だろうか。そして最後は凛だろうか。いつもにゃーにゃー言ってはいるがそれにしてはやけに本物っぽかった気がする。鷹也はもう少し様子を見ることにして耳を澄ます。
「やけに懐いてしもうたね?」
「そうね……って言ってる場合じゃないわよ!にこの大事なコレクションに傷でもつけられたら……」
「凛、離れてくれそう?」
「うう……くしゅ!ダメそう……くしゅん!!」
「こうなったら無理やりにでも……」
「うにゃーー!!!」
「痛っ!何すんのよ!!」
続いて3年生組の声と凛と凛かどうか怪しい声。なんか嫌な予感がするし、そろそろ待ってもいられないだろうか。鷹也はそう考えてもう1度ノックする。
「おーい!入るぞー!」
「え?た、鷹也さん!もう少し待ってくださ……」
海未の言葉を無視してドアを開けて室内に入る。そこでは一瞬何かを全力で隠したような動きを見せた9人の姿。誤魔化すような笑みを浮かべていることから何かがあることは明確。立ち位置も何かおかしい気がする。鷹也は聞く。
「何してたの?」
「な、なんにもしてないよ?ね?」
「う、うん!なんにもしてない「にゃぁ……」にゃー!!」
誤魔化すようなことりに同調するように口を開いた凛の言葉の合間にまたも鳴き声が聞こえた気がする。鷹也は凛を見る。視線を微妙に逸らしながらなに?とでも言うように首を傾げる凛に鷹也は声をかける。
「凛、なんか目が赤いけどどうしたの?」
「え!?あ、えっとえっと……ちょっと花粉症で……」
「バカ!もう花粉症の時期終わってるわよ!!」
「そ、そっか。えっと……あ!そう、ちょっと眠くて目を擦っちゃって……」
「へぇ。なんかさっきからくしゃみも聞こえてくるけどそれは?」
「く、くしゃみ?そんなのして……はっくしゅ!……ないよ?」
「よく真顔で嘘つけるね、お前。」
くしゃみをしながら嘘つけるのはもうある意味開き直りすぎててすがすがしいまである。鷹也はそこで気が付く。違和感のあったみんなの立ち位置。ドアから入ってきた鷹也の視界から凛の顔以外を遮るように立っているのだ。そこで凛の前に立ってできるだけ視界を遮ろうという立ち位置の絵里に言う。
「絵里。そこちょっとどいてくんない?」
「な、なんでかしら?」
「何隠してるの?」
「何も隠してなんか……」
「くしゅん!」「にゃー」
「……ないって言って信じてくれるわけなさそうね……」
これまでは凛の声で誤魔化していたつもりだったのだろう。でも、今は凛のくしゃみとその鳴き声が同時。隠しきれるわけがない。全員がしまったというような顔をしているし、絵里もそう思ったのだろう。その場を動いて凛の全身を見えるようにする。そこにいたのは
「あ~あ……見つかっちゃったにゃ……はっくしゅん!!」
「にゃ!」
「本物の猫……どっから連れてきたんだよ……」
くしゃみをしながらバツが悪そうな顔で言う凛の腕の中。そこで丸くなっていた茶色い猫が鳴き声を上げていた。
☆彼と彼女たちと猫☆
それは少し前になる。いつも通りに授業を終えて部室に集まった9人は着替えて練習に向かおうとしていた。その時である。暑かったために開け放っていた窓。そこから1匹の猫が飛び込んできたのだ。
「あ、猫が入ってきた!」
「かわいいにゃ~!!」
そう言って穂乃果と凛がその猫に近づいていく。すると猫は穂乃果には見向きもせずに凛に飛びついた。少しびっくりしつつも、笑顔でしゃがみ込んでその猫とじゃれつく凛を微笑ましく見つつ、他のメンバーは周りからのぞき込みつつその猫について話し合う。
「どこから来たんだろう、この猫ちゃん?」
「そうですね……。見たところ首輪もしてますし、きれいな猫ですから飼い猫のように見えますが……」
ことりと海未の言う通り。その茶色い猫は足の裏こそ外を歩いてきたために汚れていたが、体は至って清潔。きれいな首輪もしていて野良猫には見えない。それには他のメンバーも同意見のようで絵里も頷いて口を開く。
「そうね。迷子の猫かしら?それなら飼い主を捜してあげたいけど……」
「でも、見たところ何も手掛かりになるよう物はないわよ?」
真姫はそう言って猫の首輪を指さす。その首輪はシンプルな赤い首輪で前の方に鈴が付いただけのもの。見たところ住所どころか名前すら書いていない。
「探すにしても手掛かりがないんじゃどうしようもないね。」
「じゃあどうするのよ。さすがにこのまま放っておくってのも……」
「とりあえず先生に相談するしかないんじゃないかしら。野良猫だったらどこかに引き取ってもらうしかないでしょうし……」
「ダメだよ!」
「「「え?」」」
希とにこの言葉に絵里がそう結論を出して、みんながそれに賛成しようとしたとき、穂乃果が急にそう言いだしてみんながきょとんとして穂乃果を見る。凛と一緒になって猫と戯れていた穂乃果は真剣な口調で言う。
「野良猫だったら保健所に連れていかれて……!!こんなに可愛いのに!!」
「えー!!そんなのだめにゃ!!!」
「えっと、2人とも?多分飼い猫だし、すぐに保健所に連れていかれるってことにもならな……って凛!目が真っ赤になってるわよ!?」
「にゃ?」
穂乃果の言葉に苦笑し、その言葉を信じる凛にもう1度苦笑した後で絵里が2人をなだめようとするも猫から顔を上げた凛の様子につい声を上げる。その言葉にコテンと首を傾げながら目を擦る凛。それを見て、あっ、と何かを思い出したように花陽が言う。
「そういえば凛ちゃんって猫アレルギーじゃあ……」
「「「あ……」」」
「くしゅん!!」
花陽の言葉に今度は全員がああ……というように声を上げる。みんなとしては猫のような言動の多い凛が猫アレルギーというのが意外で仕方ないのだが、聞いたことはある話である。凛はうん。となんでもないというようにくしゃみをしながら頷く。そして、そこで
「みんな、どうかしたのか?」
鷹也の登場。というわけである。
「保健所に連れていかれるかもって可能性を少しでも考えてしまった以上は自分たちだけで何とかしようってことね……」
「うん、この子が万が一でもそうなっちゃったらやだし……」
「にゃ~……」
「くしゅっ!」
そう説明してくしゃみをする凛を見て鷹也はため息をつく。現在いるのは屋上。あのまま部室のような狭い空間にいるよりは開放的な屋上にいた方がいいだろうと思ったのだが……
「凛、マタタビのにおいでもつけてるの?」
「つけてないよ!」
そう言う凛の腕の中には先ほどの猫。放そうとしても練習着に爪を立てて抵抗するのだ。どうしてそこまで異常に懐かれたのかは知らないが、そのまま立ち上がったら練習着が裂けてしまうし、そもそも猫が怪我してしまう。無理に引き離すこともできるのだが
「まぁ、とりあえずは屋上にいればアレルギーもだいぶマシになる……のか?」
「うん!さっきよりは楽だよ!」
「にゃー!」
「っていうか猫アレルギーって一歩間違えば本気で危ない時もあるんだけど……」
「ま、まぁ凛ちゃんはそこまで重症ではないから……結構ひどくくしゃみが止まらなくなるんだけど……」
というわけで無理に引き離すのもためらっている。鳴き声を上げた猫を笑顔で撫でる凛にあきれたような真姫の言う通り危険な時もあるのだが、猫好きの凛が無理に引き離すのは断固反対の姿勢なので花陽の言葉を信じてこれ以上は無理に引き離せない状況になっている。鷹也はどうする?とでも言うように他のメンバーに視線を向ける。自分としては無理に引き離して先生に引き取ってもらうに一票なのだが。
「自分たちで飼い主さんを探そうよ!」
「どうやってですか。手掛かりもなにもないんですよ?」
「あ……うぅ……どうしよう……」
「なんにも考えてなかったのね……」
元気よく言ってから海未に止められて、助けを求めるような視線を周りに向ける穂乃果に苦笑しつつ絵里は口を開く。
「少なくとも飼い猫であるのは確かだろうし……とりあえずインターネットでサイトを探してみれば逃げてしまった猫を探している人の見るサイトみたいなのがあるんじゃないかしら。」
「後は……ポスターを作っていろんなところに貼ってみるとかかな?」
「見たところそんなに汚れてもないようやし、ご近所さんに聞き込みしてみるのもいいかもしれんね。」
続いて口を開くことり、希もどうやら自分たちで探す方向で考えているらしい。先ほどからの様子を見るに凛もその方向に賛成するだろう。花陽も凛の意見に基本的に同意。海未も見たところ自分たちで探すことに反論はないようである。鷹也は呆れつつまだ意見を言っていないにこと真姫に視線を向ける。すると、にこは肩をすくめながら言う。
「こうなっちゃったらどうしようもないわよ。猫を何とかしなきゃ練習にならないんだしさっさと探しちゃった方がいいわ。」
「それもそうか……」
先生たちに頼もうとしたら少しの間預かってくれても、その後は保健所に連れていかれる可能性がないとは言い切れない。ならば、自分たちで飼い主を捜す、もしくは引き取り手を探す方がこの猫にとっても確実か。鷹也としては練習をしないでそんなことをするのには反対なのだが今日くらいは仕方ないだろう。自分の意見を押し付けることはあってはいけないし、彼女たちの意見を尊重するべきだ。鷹也はため息をつきつつ頷く。
「分かった。今日だけだよ。明日には猫の飼い主探しは空き時間でやって練習はちゃんとやること。今日だけはそのために時間使ってもいい。」
「本当!?やったにゃ!鷹也くん、ありが……」
「私は反対よ。」
「真姫……?」
許しを得て笑顔でお礼を言おうとした凛を遮ったのは真姫。先ほどまで何か考え込んでいた様子の真姫はみんなの視線を受けながらはっきりと言う。
「私は自分たちで探すことは反対よ。」
「でもこのままっていうわけにも……」
「絵里、ちょっと待って。真姫、理由は?」
反対意見を言う真姫を止めようとする絵里を止めて鷹也は真姫に聞く。真姫が適当に意見を言うとも思えないし、何か考えがあるのだろう。真姫は鷹也にチラリと視線を向けてから、自分の意見を話し出す。
「時間の無駄よ。飼い主がすぐに見つかる可能性もないし……」
真姫はそう言って凛のことを見る。凛は猫を抱きかかえながら、真姫のことを呆然と見ている。普段は仲のいい2人だ。いつもは真姫が凛の奔放さに巻き込まれて妥協していることが多い。真姫もその関係を嫌がってはいない。だが、真姫は今回は凛の意見を完全に否定する。妥協する気は一切なく否定する。
「凛、あなたの猫アレルギーのことを考えても猫と一緒の空間にいるのはいいことじゃないでしょ。早めに他の人に任せた方がいいわ。」
「でも……もしかしたらこの子が保健所に連れてかれちゃうかもしれないんだよ?それでも引き取り手が見つからなかったら……」
「そうならない可能性の方が高いでしょ。」
「でも、そうなる可能性だってあるじゃん!」
「ほとんどないから大丈夫よ!」
「なんでそう言い切れるの!」
「2人とも!ちょっと落ち着いて……」
だんだんと熱が入り始める2人を絵里が止めようとするも聞く耳を持たない。花陽も止めようとしているようだが、うろたえるばかりでどうすればいいのか分からないといった様子。そして鷹也や他のメンバーが止めに入る間もなく2人はさらに言い合いを続ける。
「そもそも飼い主がすぐに見つからなかったら、その猫どうするのよ!」
「凛が連れて帰るもん!見つかるまで一緒にいる!」
「あなた猫アレルギーなのに家にまで連れて帰るなんてダメにきまってるでしょ!」
「今だってくしゃみ止まったし、もう大丈夫だよ!!」
「それはここが屋上だからでしょ!!」
「はい!ストップ!!いい加減にしろ!!!」
だんだんと近づいて至近距離で言い合いを始める2人をことりたちに指示して引き離す。ふんっ!っとお互いにそっぽを向く凛と真姫の様子に呆れつつ、鷹也は言う。
「こんな時に言い争ってどうすんの。」
「「………………………」」
普段は仲がいい2人だし、喧嘩なんてするようなタイプでもないのだが。普段ならどちらかが折れてなんだかんだで仲良くしているのに、今回はどうしても意見が一致しなかったようだ。鷹也の言葉にも何も返さない2人に呆れていると凛がそっぽを向いたまま口を開く。
「凛は絶対この子を自分でなんとかするからね!真姫ちゃんなんかべーーーっだ!!」
「ふにゃ!?」
「ちょっと、どこ行くのですか!凛!」
「凛ちゃん!!」
そう言って凛は真姫に向かってあっかんべぇと舌を出してから、引き離した際に腕をつかんでいた海未と花陽の手を振りほどいて、驚いたような鳴き声を上げる猫を抱きながら屋上から駆け出していく。慌ててその後を追いかける花陽と海未を見送りつつ、鷹也はもう1度ため息をついて真姫を見る。
「追いかけなくていいの?」
「………………………」
「ったく……絵里、希。一応お願いしていい?」
「それはいいけど……大丈夫?」
「大丈夫だよ。凛の方も心配だしそっちをお願い。」
「そうやね、こっちもだけど凛ちゃんの方も心配だし……えりちいこ?」
無言をつらぬく真姫に呆れつつ、鷹也がそう言って絵里と希に凛のもとに行ってもらう。こっちは自分がいるし、3年生のしっかりとした2人が凛の方にいれば安心だろう。後は
「さて……とりあえずここにいても仕方ないか。一端部室戻ろう。飲み物でも買ってくる。穂乃果、ことり、にこ。真姫のことちょっと頼んだよ。」
あとはこの少女のことをどうするか。不機嫌そうな顔をして、でもどこかショックを受けたような顔で黙り込む真姫を3人に任せつつ、鷹也は飲み物を買うために校内の自販機へ向かう。その際に小さくため息。なんで練習でもなく、猫のことでこんなことになってるんだろうか。
「凛ちゃん!ちょっと待ってって!」
「凛!」
「………………………」
答えずに走って昇降口まで来た凛を追いかけて、花陽は海未とともに走る。さすがに靴を履き替えないなどということはなく、そこで立ち止まった。その合間に凛に追いついた花陽と海未は息を整えつつ、凛に声をかける。
「凛……大丈夫ですか?」
「凛ちゃん。きっと真姫ちゃんも悪気があったわけじゃ……」
「どうしよう………ちゃったかな……」
「「え?」」
うつむきながら何か言う凛の言葉が聞き取れずに2人は聞き返す。そんな2人に凛は胸の前で抱いた猫をギュッと抱きしめながらもう1度言う。
「凛……真姫ちゃんに……嫌われちゃったかな……?」
どうしよう……と言って凛は涙目になってその場に膝を抱えて座り込む。猫はその時ばかりはすっと凛から降りると、その横で座り込む。そんな猫を見ながら、凛は膝がしらに額をつけてうつむく。
「だって、真姫ちゃんの言うことも分かるけど……分かるけど……」
「凛ちゃん。大丈夫だよ。」
凛のそんな様子に花陽は凛の頭に手を置いて言う。先ほどの言い争いで真姫のことを嫌いになったかと思った。悪く思ったのかと思った。普段の凛なら絶対にそんなことないとは思っていたけど、万が一を思うと3人の関係が崩れてしまいそうで不安だった。でも、そんな心配はなかったようで。
「大丈夫、真姫ちゃんはこんなことで凛ちゃんを嫌いになったりしないよ。」
「そうですよ、凛。それとも凛は真姫のこと嫌いになったんですか?」
「そんなことない!そんなことない……けど……」
花陽の言葉に続いた海未の言葉に、凛は顔を上げて言う。凛が真姫を嫌いになるわけがない。高校に入ってからの付き合いだ。花陽と凛のように幼馴染として一緒にずっといたわけでもないし、まだ知り合ってから1年も経っていない。でも、花陽は真姫のことを凛と同じように大事な友達だと思っているし、思ってもらえてるといいなと思っている。凛も同じように思ってくれているのなら。真姫だって、きっと。
「だったら大丈夫だよ。」
想いは伝わっているはずだ。きっと。自分たちはかけがえのない友達だと。ずっと一緒にいたい。そう思えるほどの友達だと。花陽は微笑む。
「凛ちゃんも、真姫ちゃんも、私も、みんなも、ずっと……ずーっと一緒だよ?」
「かよちん………うん……!」
「意外と大丈夫みたいね?」
花陽の言葉に凛は笑顔でそう頷く。すると、後ろから絵里と希が追いついて来る。それでどうするの?という希の言葉で凛に視線が集まる。涙目になっていた目を拭い、凛は少し考えると横の猫を抱き上げる。首を傾げてにゃ?と鳴く猫を見て微笑みながら凛は言う。
「この子は自分たちで何とかしたい。だから、今日だけ凛に時間をくれないかな?」
「凛ちゃん……」
心配そうな花陽の言葉に凛は真剣な顔で続ける。
「真姫ちゃんの言うことも分かる。分かるけど……でも、自分でできることはしたい。無理ならそこで諦めるから……ダメ……かな?」
こちらを伺うように言う凛に花陽はどうしようと他の3人に視線を向ける。そこで絵里が肩をすくめると口を開く。
「分かったわ。でも、真姫には何も言わなくていいの?」
「ありがとう、絵里ちゃん!!でも、自分で言い出したことだし自分でやってからにする。真姫ちゃんには後で謝るね……ふぁ……くしゅん!!」
「あらら、再発してきたみたいやね。」
満面の笑みで言ってからくしゃみをする凛にみんなで苦笑する。恥ずかしそうにはにかむ凛に花陽は手を差し出す。
「かよちん?」
「凛ちゃん、いこ?」
「……手伝ってくれるの?」
「うん、みんなも手伝ってくれると思うよ?」
不思議そうな凛にそう笑顔で花陽は言う。真姫のことも心配だけど、あっちには頼りになるコーチがいる。それなら自分たちはこっちで凛の力になるべきだ。真姫の方は何とかしてくれるだろう。花陽も言葉に凛が視線を海未、絵里、希に向ける。3人は微笑みながら頷いて、海未が代表して口を開く。
「当たり前です。凛は私たちの大切な友達ですから。」
「……うん!!」
その言葉に凛は満面の笑みで頷いた。
時は少し戻ってもう一方の真姫についている4人。真姫を入れて5人は屋上から部室へと移動していた。鷹也は買ってきた飲み物をみんなに配ってから黙りこくっている真姫に視線を向ける。うつむく彼女の表情は読み取れない。
「……いつまでもそうしててもしかたないでしょ。どうすんのよ。」
「……私は間違ったこと言ったつもりはないわ。」
「強情ねぇ……」
しびれを切らしたにこが真姫に言うが真姫は顔も上げずにそう言ってまた黙り込む。どうしようということりと穂乃果が視線をチラチラ向けてくるのを感じ、鷹也は仕方ないかと口を開く。
「確かに真姫は間違ったことは言ってないよ。真姫の言ってたことは正論だよ。」
「………………………」
黙ったままの真姫に鷹也は続ける。
「でも……凛のこと考えた?」
「……凛のことも考えたうえでも私は間違ってないわよ。」
一瞬反応が遅れたことから鷹也が言いたいことは分かっているのだろう。鷹也は本当に素直じゃないなと苦笑する。本当に素直じゃなくて不器用な子である。今回のことだって真姫なりに凛のことを考えた結果の発言だったはず。ならばそれをきちんと口にすればよかったのだ。それが難しいことだというのは分かるのだが。
「それは凛の身体のこと気遣ったんでしょ?」
「……なにが言いたいのよ。」
「分かってるでしょ。」
「……なにそれ、イミ分かんない。」
やれやれと鷹也はため息をつく。真姫は医者の娘。医学的な知識はこの中ではおそらく1番だろう。猫アレルギーなどのアレルギーに関しての知識もおそらくは専門的なことこそまだ知らないかもしれないが、大まかな症状や危険などについて知っていてもおかしくない。そもそも猫アレルギーはひどい人はかなり危険なはず。
「真姫ちゃん、凛ちゃんも分かってると思うけど……でも、言わなきゃ伝わらないよ?」
「…………………………」
ことりの言葉に真姫はまたも無言でうつむいたまま。その様子を見て今度は穂乃果が口を開く。
「私は、頭もよくないし、周りも見れないし、人の気持ちを察するのも苦手で……。でも、凛ちゃんはそんなことないと思うんだ。きっと、真姫ちゃんの気持ちも分かってくれてる。」
でもね、と穂乃果はいつもの能天気な雰囲気とは違う、優し気な笑みを見せて真姫に言う。
「でもね、最後はやっぱり口にしなきゃ伝わんないんだよ。真姫ちゃんのやさしさはちゃんと伝わってる。でも……ちゃんと口にして伝えなきゃ。」
「……分かってるわよ。凛の気持ちのことも考えなくちゃって……」
穂乃果の優しい言葉に真姫が顔を上げる。苦し気に歪んだその顔はどんな感情から来るものか。真姫は口を開く。
「猫が好きだからなんとかしたいって気持ちも分かる。普段は猫の近くにいれないけど、飼いたくても飼えないけどこの状況なら懐いてくれたあの猫なら少しは自分で一緒にいれる。それがどんなに凛にとって嬉しかったかなんてあの顔を見れば分かるわよ。」
4人は黙って真姫の言うことを聞く。μ’sに入るまで誰とも関わろうとしなかった真姫。でも、そんな真姫に踏み込んできてくれる人たちが表れた。真姫にとってそれは、μ’sはとても大切な存在で。その中でも特に同学年の花陽と凛はとても、とっても大切な存在なはずで。そんな人の気持ちに気づかないわけがないのだ。思いやれないはずがないのだ。不器用だけど、いじっぱりだけど、とても優しい。それが真姫なのだから。
「でも、凛のこと考えたら早く猫を離した方がいいのよ。猫アレルギーってよく聞くけど、ひどい時には命にかかわることもあるのよ?気持ちは分かるけど、症状を軽減する薬も持ってない以上は危険は避けるべきでしょ?」
凛はひどいくしゃみが症状で出てたからなおさらよ。そう言って真姫はまたうつむく。真姫にとっては気持ちよりも凛の体調の方を気遣ったのだろう。それは正解だ。真姫の考えは正しい。でも、
「なら、それをちゃんと伝えなきゃ。」
鷹也の言葉に真姫は少し反応するも、何も言わない。まだためらっているのだろうか。それを見てにこが口を開く。
「別にあの程度で嫌われないわよ。」
「っ……!!」
にこの言葉に真姫の肩が震える。そこでそういうことかと鷹也は納得して苦笑する。真姫らしくないのかそれともある意味真姫らしいのか。普段は大胆なことだって物おじせずにするくせにこういうことに関してはとことん臆病になる。続けてにこが言う。
「あの子がこんなことを引きずるようなタイプに見える?さっさと謝って、自分の考え伝えてきなさいよ。」
「でも……」
「大丈夫。凛ちゃんもきっと真姫ちゃんのこと分かってくれてるはずだよ。」
にこに言われてもためらうように言う真姫にことりが言う。
「真姫ちゃんも凛ちゃんの気持ちわかってたんでしょ?それなら凛ちゃんだって真姫ちゃんのこと分かってくれてるよ。」
「…………………」
うつむく真姫。そんな時、鷹也の携帯がメッセージの受信を告げる。差出人は『東条希』。内容を確認して鷹也は笑う。さすが希。きちんと周りのことを見ている。本当に賢い子だなと感心しつつ、鷹也は真姫に携帯の画面を見せながら言う。
「凛も真姫のことちゃんと分かってるってさ。今日だけは時間ほしいって。見つからなかったら諦めるから今日だけは。その後にちゃんと真姫ちゃんにも謝る。って凛が言ってるって希から。」
「凛……………」
驚いたように顔を上げる真姫に鷹也は笑顔で言う。
「さ、どうする?」
「はぁ……結局見つからなかったにゃ……」
「そうだね……」
凛と花陽はすでに日も沈みかけて暗くなった神田明神の階段の上で段差に座りながらため息をつく。凛の膝の上には例の猫。ずっと抱かれていたとはいえ移動しっぱなしで疲れたのだろうか。すやすやと眠ってしまっている。先ほどまではずっといろんな家に聞き込みして猫の飼い主を捜していたのだが、結局見つからずじまいだった。飼い主どころかそのヒントすら見つからない。今はもう学校が閉まってしまう時間となり、他の3人が学校に置いて来てしまっていた鞄をみんの分取りに行ってくれている最中。先ほどまでは帰ってくるまで聞き込みを続けようと思っていたのだが、近場の家には全部聞いてしまったしあまり遠くにも行けないのであきらめて座って待つことにしたのだ。
「この子どうなちゃうのかな……」
「きっと学校に話して探して飼い主さん探してもらえば見つかるよ。だから、凛ちゃん元気出して?」
「うん……」
元気づけようと花陽が声をかけるも、凛は猫を撫でながら気のない返事をするのみ。猫が大好きな凛。でも、猫アレルギーという体質のせいで猫が飼えなくて。きっとこの猫を飼いたいと言っても無理なことは分かっているからこそ、諦めきれない。自分がこんな体質じゃなければ飼ってあげられるかもしれないのに。この猫が可哀想なことになる可能性を0%にできるのに。凛はそんな風に思って涙が込み上げてくるのを感じる。
「凛ちゃん……」
「う、ううん。ちょっと目がかゆくなっちゃって……」
嘘だ。外にいるから症状は少しは楽になっている。確かにくしゃみもでるし、目もかゆいけど絶対にそのせいで出た涙じゃないことは分かる。それは花陽も理解していて。凛の目から一滴の涙がこぼれる。
「こんなところにいた……何泣いてるのよ、まったく。」
「え…………?」
そこで声が聞こえた。うつむいていた顔を上げて、凛は視線を前に向ける。そこにはバツが悪そうな顔をした少女が小さな女の子を横に連れて立っていて。
「真姫ちゃん……?」
「あの猫であってる?」
「ミーちゃん!うん!あってる!!」
凛の驚いた顔など無視して真姫が横の少女に聞くと彼女は満面の笑みでそう言う。するとその声に凛の膝の上に乗っていた猫がピクリと反応して起き上がる。そして少女の下へ駆け寄っていく。
「にゃ!!」
「よかった~……。もう勝手にいなくなんないでよ~……」
「もしかして……」
花陽と凛は顔を見合わせる。すると、そこに少女が猫を抱きかかえて近寄ってくる。あっけにとられる2人に少女は満面の笑みを見せて言う。
「ミーちゃんを預かってくれてありがとうございました!」
「あ…………」
「凛ちゃん!」
いきなりすぎる展開に頭がついていかない。この少女は、真姫が連れてきたこの少女は猫の名前を知っていて、猫もこの少女に懐いていて、お礼を言われていて……。すると、混乱している凛の足もとに、少女の腕からするりと抜け出した猫が寄ってきて
「にゃーぁ」
その体を凛の足に擦りつけてから凛を見上げて鳴く。そこで実感が湧いた。猫の頭を優しく撫でてやる。先ほど驚きで止まった涙がもう一滴流れ落ちてくる。先ほどとは違う意味で流れた涙をぬぐい、凛は笑顔になる。本当に、本当に
「よかったにゃ……」
「でも、真姫ちゃんはどうやって見つけたの?凛たち、いっぱい探し回ったのに……」
「簡単よ。凛にだけ懐いたことを考えればすぐだわ。」
猫を抱きかかえてお礼を言いながら階段を下っていく少女を見送ってから、凛がそう言って真姫のことをのぞき込むと真姫は何でもないというようにそっぽを向きながら話し始める。
「凛、あなたよく道にいる猫と遊んだりしてるでしょ?餌あげたり。」
「うん、たまに給食とかお弁当の残りをあげたりしてたよ?」
「それならきっとあの猫が餌をもらったうちの一匹じゃないかって思ったのよ。」
「だから凛ちゃんに最初から飛びついたんだ……」
納得したように言う花陽に頷いて見せながら真姫は続ける。
「そう考えれば凛が学校の帰り道によく通る道にいる猫ってことになるわ。聞いてみたら今回は迷子になっちゃって学校まで来てたけど、あの猫もよく家の周りで日向ぼっこしたり散歩してるみたい。きっとその間に凛に餌をもらったこと覚えてたのね。」
まぁ、凛の通学路あたりでいつもこのあたりにいるはずの猫がいないんですって探し回ってるあの子を見つけたのは偶然だけどね。そう真姫は一切凛に視線を向けずに話し終わる。そんな真姫を見て花陽と凛は顔を見合わせる。それなら自分たちが見つけられないのも納得である。自分たちは基本的に学校近辺ばかりで凛の通学路の方には基本的に近づいていなかった。猫が汚れていなかったから近場だという判断から漏れるほどの距離ではないが限られた時間でそこまで聞き込みを進める時間がなかったのだ。凛は感心して真姫を見る。自分とは全く違う考えだ。考えるよりも行動してみるタイプの自分じゃあ今回は何ともならなかったけど、真姫は考えて、問題をしっかりと解決した。黙ってそっぽを向いている真姫を凛は横目で伺う。言わなければいけないことがあるのは分かっている。だけど、言い出すのには勇気がいる。そこで
「凛ちゃん。」
花陽に後押しされた。優しく大丈夫というように微笑んでくれた花陽に凛は勇気をもらう。自分はそうだ。自分は大事にしたい。自分のことを後押ししてくれる、いつもそばにいてくれるこの幼馴染の親友も、
「真姫ちゃん!」
小さく反応してこちらを向く真姫に凛は頭を下げる。
「ごめんなさい!!」
この素直じゃないけど、不器用だけど、いじっぱりだけど
「凛のこと考えてくれてたのになんにも聞かないでムキになっちゃって……」
とっても優しくて、自分のことを真剣に考えてくれて、思いやってくれる
「本当にごめんなさい!……真姫ちゃんがよければ……凛、真姫ちゃんと仲直りしたい……な」
そんな出会ったばかりだけど大切な親友。どちらも大事にしたい。自分にとってかけがえのない親友たちなのだ。凛は頭を下げながらギュッと目をつむって真姫の反応を待つ。しばらくの沈黙。
「……私も……ごめん……」
「真姫ちゃん……」
顔を上げると、真姫が気まずそうに指で髪をいじりながら少しうつむいて口を開く姿。
「凛の気持ちも分かってたのに、きちんと伝えてなかった。ごめんなさい。」
そう言って真姫はこちらを伺うように視線を向けて呟く。
「わたしも……仲直りしたい……わ」
「あ…………」
真姫の言葉に胸がいっぱいになる。不安だった。怖かった。大事な自分の親友を失いそうで怖かった。でも、真姫は許してくれて。謝ってくれて。謝ることなんてないのに。自分のことを考えて言ってくれたことなのに聞かなかった自分が悪いのに。凛は溢れそうになる涙をこらえきれずに目元を拭う。そんな凛に真姫が近づいてきてそっぽを向きながら言う。
「はい、仲直り。」
そう言って差し出された手。凛はその差し出された手を見ながら涙がこぼれるのを感じる。よかった。不安が消えていくのを感じる。真姫は自分のそばにいてくれる。まだ一緒にいてくれる。それが嬉しくて。凛はその手を取る。
「うん!!!」
半泣きながらも満面の笑みを見せる凛に真姫も微笑む。真姫も不安に思ってくれていたのだろうか。自分と一緒にいれることが分かってほっとして嬉しく思ってくれたのだろうか。その目元には少し涙がたまっているように見えて。するとその様子を横で見ていた花陽も涙を手で拭っているのが目にはいった。
「よかった……!」
そう言って安堵の涙を見せている花陽も自分たちといれることを喜んでくれているのだろうか。それなら嬉しいなと思いつつ、当人たちより涙を見せる花陽に、凛と真姫は顔を見合わせて苦笑する。そして凛は真姫の手をぐいっと引っ張り、花陽の腕をとって自分のもとへ引き寄せる。
「わわっ……!!」
「ちょっと、凛!!」
「ぎゅーっ!!!」
凛はよろけて驚く2人に構わずに2人を思いっきり抱きしめる。自分の大切な親友たち。これから何があるか分からない。今回みたいに些細なことで喧嘩するかもしれない。でも、
「2人ともずっとずーーーーっと一緒にいるにゃーー!!」
だって凛は2人が本当に大切で
「だーーいすきにゃーー!!!!!」
いかがだったでしょうか。
いい話になっていればよいのですが……
基本的にこんな感じの喧嘩みたいなのはラブライブの原作ではあまり見ないものでもある気がするので書いてみました。キャラ崩壊とか感じる方がいたらすみません……
猫アレルギー。調べてみたら本気で死ぬこともあるらしいです。
たかが猫アレルギーと侮ってはいけないみたいです。お気を付けください。
それでは今回の話は好き勝手に書いたので読んでくださってる方の反応が非常に怖いですができれば感想、評価いただければ幸いです。
それでは次回は本編に戻って例の伝説のメイドさんのお話。
引き続きよろしくお願いします。