今回からアニメ9話の話題を使いつつ、鷹也のことも少しづつ描写していきます。
そこで今更ながらオリキャラが増えます。鷹也の過去に関わる人物としてどうしてももう1人出さなくてはいけなくて悩んだのですが出すことにしました。
あんまりオリキャラ出しすぎるのもよくないとは思うのですが、すみません。
このキャラを出さないで鷹也の過去を引きずりだすのは少し無理があるかなと思って……
少し長めとなっています。
上手く書けている自信がない回ですがそれではご覧ください。
ことりがメイド喫茶でアルバイトをしていることが発覚して、その日は練習する時間もなかったために家に帰ってきた鷹也は少し落ち着いて考えようとコーヒーを淹れて、コップ片手にソファに深く腰掛ける。ことりがあのように考えるとは思っていなかった。
(今回のこと……俺じゃあ何も……)
鷹也の思考を彼女たちは把握し始めている。自分に価値はないという鷹也の考え。それは変えようがないこと。でもこの考えを持っている以上、自分に何もないと思ってしまっていることりに何と言ってやればいいのか分からない。ことりに何を言ってもそれは自分に返ってきてしまって。自分のこれまでの行動を矛盾させてしまう。ことりのことを考えて動こうとすると、自分の歪んではならない部分が歪んでしまう。
(分かってる。ことりのことを考えるなら……)
ことりのことを考えるのなら選択肢は一択だ。自分のあり方。価値のなさを歪めてでもことりに言葉をかけてやる。それは分かっているのだ。でも、それをする勇気がなくて。自分のことを肯定する行動はどうしても選択できなくて。鷹也はコップを目の前のテーブルに置いて天井を見上げる。普通は自分の不利益になることとかが起こる時にサポートをためらうのに、自分はそうではなくて自分のことを肯定しそうになるとサポートをためらう。そんな自分の異質さに苦笑する。
「どうしよっかなぁ……ん、電話か……」
そこでポケットに入れっぱなしだった携帯が着信を告げた。画面を確認すると、先日連絡先を交換したばかりの絵里からの着信。なんだろうと思いつつも、電話に出る。
「はい、もしもし」
『あ、鷹也さんですか?急にごめんなさい。ちょっと話したいことがあって……』
「暇してたところだからいいよ。どうしたの?」
実際は暇してたというか考え事に没頭していたのだが、まあ似たようなものだろう。絵里も鷹也の返事に特段の疑問は抱かなかったようで、話の本題に入る。
『実はさっき思いついたんですが、秋葉原でライブをやってみたいと思ったんです。』
「秋葉原で?路上ライブってこと?」
はい。と返事をする絵里の言葉に、鷹也は少し考え込む。順位も上がってきた今、中途半端なことを続けるよりはインパクトのあることをして人々のことを惹きつけなくてはこれより上は目指せない。その点で言えば、アイドルファンの多くいる秋葉原での路上ライブは申し分ないだろう。それは鷹也も同意する。しかし、
「秋葉原っていえばあの『A-RISE』のお膝元だよ?」
そう。秋葉原はUTX学園が存在する。つまりはA-RISEの本拠地。それはあの天才のテリトリーというわけで。最近の沙希の雰囲気や行動からもあまり近づくことは鷹也としては容易にしたくはないところである。しかし、絵里はそんな不安など感じる必要ないというように力強く言う。
『だからこそです。それだけ大胆な行動にでて、そこで認められれば大きなアピールになると思うんです。』
「それはそうだけど……」
『あの町でやりたいんです。これから私たちは変わっていく。変わっていかなきゃいけない。いつも新しい物を取り込んで、変わって、受け入れていくあの町はそんな私たちのステージにふさわしいと思うんです。』
変わる。その言葉を聞いて鷹也は少し考える。ことりも言っていたこと。自分を変える。彼女たちはそのままでも素晴らしい子たちである。だが、それで満足せずに上を目指して変わろうとしている。それなら
「……俺が反対なんてできるわけないよな。分かった。場所の指定とかあれば許可はとるし、準備もしておく。」
『ありがとうございます!』
本当に嬉しそうに言う絵里にやるなら、しっかり目立たなきゃなと言って鷹也は微笑む。自分は支えるべきなのだから彼女たちの上を目指す選択は止めることはできない。そこで話は終わりかと鷹也が思っていると、絵里がもう1ついいですかと言って話し始める。
『今回の曲も新曲にするとして、歌詞はことりさんにお願いするというのはどうでしょうか。』
「ことりに?」
これまでのμ’sの曲の歌詞は全て海未が考えている。最初の曲づくりの時は慣れない作業に戸惑っていたものの、才能もあったようで、今までの曲すべての歌詞をしっかりと完成させている。その海未ではなくことり。衣装の担当でもあることりにわざわざ歌詞まで考えさせる意味はあるのだろうか。そこまで考えて、鷹也は察する。
「……ことりに自信をつけさせようってこと?」
『それもありますけど……そのためのヒントにでもなればいいなと思ったんです。あとは、秋葉原で歌う以上はそこのことをよく知っている人に書いてもらうのもいいかと思って。』
そう言う絵里にそれもそうか……と鷹也は考え込む。確かにことりにはいい機会ではあるかもしれない。しかし、ことりに大きな負担がかかってしまうのも事実。ここで上手くいかなければことりは完全に自信を失ってしまうかもしれない。ことりを自分のようにはしたくない。
『鷹也さんの考えてることは分かります。でも……大丈夫です。鷹也さんだけでなく、私たちも支えますから。ことりさんだけに負担はかけないようにします。』
「……わかったよ。」
鷹也は絵里に言われて少し躊躇いながらも頷く。絵里の言うことなら大丈夫だろう。それに、自分は彼女たちを信じると決めている。それならば、失敗の可能性におびえないで彼女たちを信じて成功を信じて動くべきだ。
「歌詞はことりにまかせよう。でも、それなら衣装はこっちに任せてもらっていい?衣装まで任せたらさすがにことりの負担が大きすぎる。」
『でも、鷹也さんには場所に関しても迷惑かけますし……衣装は私たちで何とかしてもいいですよ?』
「大丈夫だよ。これは俺の仕事。絢瀬さんたちはことりのサポートと自分たちのライブの成功のためにダンスと歌の練習に集中して?」
『……わかりました。ありがとうございます。』
素直に引き下がってお礼を言う絵里に、気にしないでと言って鷹也は今度こそ通話を終了する。一息ついて少し冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。
(これでことりに関しては様子見でいいだろう。いいきっかけになればいいけど……)
そこで鷹也は気が付く。安堵している自分。絵里に解決のために糸口となるかもしれない案を出してもらってほっとしている自分がいる。先ほどまで自分を肯定することをためらい、ことりに言葉をかけることをためらっていた自分。自分のことは考えずに、ことりたちのためだけに行動するなどといいながらこのざまである。鷹也はソファの上で足を抱えて、自分の膝がしらに額を当ててうつむく。一気飲みしたコーヒーの苦みが残る口にこみあげてくるのは自嘲の笑み。誰もいないリビングで小さく、小さくつぶやく。
「かっこわる…………」
苦し気な自嘲の笑みと共に紡がれたその苦し気な言葉は誰もいない空間で、誰にも聞かれることはない。
その日の帰宅は憂鬱だった。隠してアルバイトをしていたのを見つかり、それでいて自分の言葉で大切な人に悲し気な表情をさせてしまった。どんな顔をして会えばいいというのだろうか。ことりは玄関の前で小さくため息をつく。しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。鷹也の好物であるチョコレートケーキと自分の好物であるチーズケーキも買ってきた。これをネタにして少しお茶でもしながらテレビでも見よう。きっといつも通り仲良く会話できる。そういつも通り。平常心。
「ただいまー……」
「お帰りー」
それでも少し小さくなってしまう声にいつもどおりの返事が返ってくる。ことりは恐る恐るリビングに続くドアを開ける。そこで自分の兄は、鷹也はいつもどおり手慣れた様子で料理を作っていた。鷹也は入ってきたことりに笑みを向けると口を開く。
「お帰り。今から晩御飯作るからちょっと待っててな。」
「あ、う、うん……」
あまりにもいつも通りの様子に拍子抜けしながら返事をする。ことりとしては何か聞かれたり、もしくは少し鷹也の元気がなかったりするものだとばかり思っていた。それはなくとも少しギクシャクしてしまうのではないかと思っていたのだ。しかし、実際はそんなことはなかったようで。鷹也はことりに何も聞かずに、何も言わずにいつも通りの生活を続ける。
「ことり、何か買ってきたの?」
「あ、うん。ケーキ買って来たんだ。あとで一緒に食べようかなって……」
「本当?ありがとう。冷蔵庫入れといて晩ご飯後のデザートにするか。」
そう言って鷹也はことりからケーキの箱を受け取ってから冷蔵庫にそれを持って行く。背を向けながら冷蔵庫の中身を整理しながらケーキの置き場を作る鷹也をことりは黙って見つめる。その視線に気が付いたのだろうか。鷹也が視線は向けないままにことりに話しかけてくる。
「俺はことりに何も言えないから。」
「え……?」
急に言われたその言葉にことりが聞き返す。鷹也はそのことりの反応に苦笑しつつ続ける。
「俺が何を言っても説得力ないし、ことりに今回は何も言えない。でも、みんながことりに伝えてくれると思う。」
ごめんな、こんなお兄ちゃんで。そう言う鷹也にそんなことないとはっきりと言う。ことりは鷹也が兄で本当によかったと思っている。こんなお兄ちゃんでよかったって本当に思っている。そのことを伝えると鷹也は照れたように笑いながら言う。
「ありがとう。でも、今回俺が何も言えないことには変わりないから。だからせめてことりの考えは尊重したい。ことりの想いは尊重したい。」
変わる必要もないと思うけど。そう言って鷹也はケーキを冷蔵庫にしまってことりに向き直る。
「だから、何も言えないなら今は何もしない。いつも通り。ここはことりが帰ってくる場所。帰ってこなくちゃいけない場所。安心して帰ってくる場所。その場所をいつも通りにし続ける。」
「お兄ちゃん……」
そう言う鷹也をことりはまっすぐに見つめる。この自分のことを考えてくれる兄。自分のことを考えて動いてくれて、きっと言いたいことや葛藤は胸の中にたくさんあるのに。それを全く見せずに、いつも通りの帰ってくる場所になってくれる。それがことりはとても嬉しくて。鷹也はことりに見られて照れ臭くなったのか。目線をそらしながら続ける。
「俺は何も言えないし、正直ことりがそんなに思い悩む必要もないと思う。でも、ことりが自分のこと肯定できないなら、肯定したいと思ってるなら応援したい。だから……」
頑張れ。その言葉に胸が熱くなる。自分が勝手に自分に自信を無くして、悩んで、みんなに内緒にしていて、そんな状態で鷹也には偉そうに自分のことを否定しないでなんて言っていたのに。それでも鷹也は応援してくれる。それならば頑張らなくては。自分が変わる。変わって、自分のことを否定しつづけている大切なお兄ちゃんを本当の意味で支えなくては。いつも通りが意識しないでもいつも通りに戻るように。ことりは笑顔で言う。まだどうすればいいのか分からないけど。ずっと変わりたいと思って頑張ってまだつかめていないけど。
「……頑張るね!」
笑顔で宣言したことりにどこか儚げな笑みを一瞬鷹也が浮かべたような気がするも、次の瞬間にはそんなものはなかったかのような完璧な笑みを浮かべて鷹也は頷く。ことりはその違和感に首を傾げるも気のせいだったのかなと思いなおして、鷹也を手伝うためにキッチンの材料を確認する。
「今日はカレーでも作ろうかと思うけどいい?」
「うんっ。じゃあ……何しよう?」
「分担するほどやることないからな。」
苦笑しながらそう言って、鷹也は少し悩んでからことりにお米を炊くようにお願いする。ことりはそれに元気よく返事をして準備に取り掛かる。
「お兄ちゃん、野菜切るのはやいよね。」
「そうか?ことりと変わらないと思うけど……」
「そんなことないよ。私より全然早いよ?」
「だったら嬉しいけど、なんで野菜は早く切れるのに裁縫はあんなに壊滅的なのかなぁ……」
「それは……あはは……」
笑って誤魔化さないでよ。そう笑いながら言って、鷹也は野菜を切っていく。いつも通りの兄妹の時間。こんな時間がいつまでも続けばいいのにな。ことりはふとそんなことを思いながら、笑顔で会話をして晩ご飯の準備を進めていった。
「……………………………」
次の日の放課後。教室で真剣な表情をしてノートに向かうことりを、鷹也は穂乃果と海未とともに教室の外から覗き見る。昨日はついことりに偉そうなことを言ってしまったが応援くらいいいだろう。自分が何も言えないのならああするよりほかない。正直に言えばことりに変わる必要ない。悩む必要ないくらいことりにはたくさんのいいところがある。そう伝えたかったができなかった自分に腹もたつし嫌気がさすがもうどうしようもない。朝練の時点でみんなには秋葉原で路上ライブを行うことを伝えた。反対意見もでなかったのでその提案は決定へ。後は曲を作って日程を決めるだけである。もちろん、ことりに歌詞を書いてもらうということも伝え、満場一致で賛成だったためにことりも納得した。この案が何とかいいきっかけになってくれることを願ってしまった以上は自分のあり方を歪めてまで行動する勇気は出てこなかった。そんなことを考えて自分の臆病さ、矛盾に自嘲しつつも顔には出さないでことりの様子を伺う。近くに穂乃果と海未がいる以上は顔には出せない。
「……チョコレートパフェ!!」
初めての歌詞作りということで今日から少しの間はことりは歌詞作りのために別行動。みんなとの練習を終えてからの方がいいとも思われるが、疲れてからでは上手く集中できない可能性もあるし、思いついてから一気に書き続けられるように時間に融通が利きやすい別行動の日程にするほうがいいという判断だ。そのため、一応心配なので鷹也と穂乃果と海未が様子を見ることとなってはいるが、他のメンバーに関しては絵里の指導の下で基礎練習となっている。もちろん後で3人も自主練形式で練習はすることになっている。このようにことりができるだけ歌詞作りに集中できるようにこうなっているのだが。
「……おいしい……五本指ソックス……気持ちいい……うぅ……分かんないよーー!!!!」
「これは……」
ことりが机に突っ伏すのを見て、鷹也は穂乃果と海未に視線を向ける。作業は難航しているようで先ほどからずっとこの調子である。考えては消し、また考えては消す。穂乃果と海未曰く、今日は1日中こんな感じらしい。少しことりから視線をはずして3人で話す。
「あれ大丈夫か……?」
「苦戦しているようですね……」
「うん……」
こうやって見てみると海未は本当にすごかったのだろう。最初こそ少し苦戦したとはいえ、それからは毎回みんなが納得する完璧な歌詞を書いて来る。とはいっても今回は海未に頼るわけにもいかない。鷹也は頭の中で日程を整理しながら言う。
「苦戦してるのは仕方ないとはいえ、時間があるわけでもない。そんなに長くかけてらんないぞ。」
「とは言っても、こればっかりはことりに頑張ってもらうしかないですし……」
「だよなぁ……」
まだライブの日程をきちんと決めていないので場所に関して許可をもらいにも行けない。しかし、ラブライブの開催までにランキングを上げなくてはいけないと考えると、ことりが不慣れな歌詞作りに時間がかかること、新曲に合わせてダンスを考えてからの練習期間を考えても2か月はかかりすぎとして、1か月半。できれば1か月で何とかしたい。意味不明な歌詞を考えて不思議なリズムで歌った後にまたも机に突っ伏すことりに視線を戻す。
「とりあえずはことりに頑張ってもらうしかないか……」
時間はないとはいえ、ことりに歌詞を考えてもらうと決めた以上はあまり口をはさむべきではない。ことりが感じたこと、思ったこと、考えたことを歌詞にするのだから自分たちの言葉に影響されないようにできるだけしなくてはいけない。
それから1週間経ったところで鷹也はことりの担任の先生であり、アイドル研究部の顧問をしてくれている先生に呼び出されていた。内容はここ最近ことりの様子がおかしいということ。ことりの活動のコーチ、さらには兄ということもあり話を聞いてみようと思ったのだろう。
「……というわけだ。何か心当たりないか?」
「今、ちょっとことりは忙しい時期でして……」
歯切れの悪い鷹也に先生はため息をつく。しかし、鷹也としても簡単にことりの悩みを誰かに話すわけにもいかない。わざわざ自分を呼び出してまで考えてくれるこの先生になら話してもいい気もするが、今はまだことりも自分で頑張っている。そこまでして広めることもないだろう。そんな鷹也に向けて先生が口を開く。
「まぁ、忙しいのは分かるけどあんまり学業を疎かにするのを許すわけにはいかないんだよ。」
「……はい。」
先生の言葉に鷹也は返事をすることしかできない。外部コーチとしてかかわっている以上はこの言葉はしっかりと考えなければいけない部分である。
「だから……できるだけ早めになんとかしてやってくれ。私たちが口をはさみすぎるのがよくない場合もあることだし。あいつらに関しては、自分たちで解決していくことの方が良かったりする場合が多いしな。」
「はい、わざわざ気を使わせてすみませんでした。」
いいよいいよとジャージに包まれた腕をふりながら、もういいよということを伝える先生。詳しく事情を聞いて何とかする方がいいと考えているのかもしれない。でも、鷹也や生徒のことを信じて任せてくれる先生に鷹也はもう1度感謝の気持ちを込めて礼をしてから職員室を後にする。そしてここ1週間恒例となった2年生のことりたちの教室へ。すると、いつもは黙って様子を見ているはずの穂乃果の声がなぜか聞こえてくる。
「こうなったらみんなで一緒に考えよう!とっておきの方法で!!」
「とっておき……?」
「どんな方法?」
教室内に入って、あ、鷹也くんと言って振り向く穂乃果に聞く。穂乃果は得意げに胸を張るととっておきったらとっておきだよ。と言ってことりに耳打ちをする。何考えてるのやらと取り残された者同士、海未と顔を見合わせていると、ことりに耳打ちで話し終えた穂乃果が満面の笑みで言う。ことりもなぜか楽しそうな笑みを浮かべている。
「とっておきの方法!実行は明日の放課後からだよ!」
「いや……だからとっておきって……」
「それは明日までの秘密だよ~」
鷹也の問いにそう言って穂乃果は悪戯っぽく、でもとても明るくて魅力的な笑顔を見せた。こうなってはもう明日まで意地でもこの少女は言わないだろう。鷹也はこれまでの経験上分かってしまったことを海未も理解してるのを察して顔を見合わせてため息。いつもいい方向に引っ張って行ってくれる穂乃果。ことりと小声で話し合っている穂乃果を見つめる。
「……どうかな?大丈夫そう?」
「うん、今日聞いてみるね。」
「……うししっ……海未ちゃんがどんな感じになるか楽しみ……」
「……………………」
無言で海未の方を見るが、海未はたまたま聞こえなかったようできょとんとしている。訂正。鷹也の中で少し不安の方が大きくなってきていた。
そして次の日の放課後。音ノ木坂学院に到着した時点で穂乃果たちはすでにおらず、他の6人に言われてとある場所へと移動する。最近も初めて訪れた場所。またも少し気恥ずかしさを覚えつつ、6人とともにそこに入る。そこで出迎えてくれたのは
「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
「お帰りなさいませ!ご主人様!」
「お帰りなさいませ……ご主人様……」
「ああ……なんかやりたいことは理解したけど………とっておきってこれのことかよ……」
また突拍子もないことを思いついたもんだなと苦笑する鷹也の前にいたのは、完璧な笑顔を見せることりとよく言えば元気よく、悪く言えば大雑把なテンションで穂乃果が恥ずかしそうに頬を赤く染める海未がメイド姿で立っていた。その3人に凛が真っ先に歓声を上げる。
「かっわいいにゃ~!!」
「みなさん、とっても似合ってます……!!」
「ありがとう、凛ちゃん!花陽ちゃん!」
褒められた穂乃果が嬉しそうにお礼を言うのを見ながら、絵里が感心したように言う。
「秋葉の歌詞は秋葉で考えるってことね……」
「穂乃果らしい単純な発想だよな。単純すぎて逆に思いつかないよ、こんなん……」
「えー……それ褒めてるの?」
「微妙なとこだね。」
褒めてないってことじゃん!文句を言う穂乃果をまぁまぁと鷹也がごめんごめんとなだめていると、気が付くと席に座っていたにこが接客を要求する。
「そんなことより早く接客しなさいよ。」
「嫌なお客さん……」
「どーいう意味よ!」
「いらっしゃいませ、お客様。」
「「え?」」
偉そうに言うにこにつぶやいた真姫の言葉に、さらに食いつくにこ。そんな様子にどうしようと穂乃果と海未が顔を見合わせる中、ことりが動き出す。完璧な営業スマイルを見せると微笑みながらお手本通りの動きで席まで鷹也たちを誘導。最後に席を離れる際も完璧な笑顔で締めくくるという文句の言いようのない接客を見せる。
「さすが伝説のメイド……」
「ミナリンスキー……」
「しかも、兄がいるってことを全く感じさせない自然な動きだったぞ。どんだけ完璧な接客マスターしてんだろ……」
素直に感心して呟くように言う花陽と凛に続くように鷹也は言い、そしてにこに確認をとる意味で質問する。にこもあっけにとられていたようで、いつもと違ってあっさりと答える。
「なぁ、伝説のメイドって噂がでたのっていつぐらい?」
「そんなに前じゃないわよ。たぶん、あんたたちが私に部活の申請のために会いにくる少し前くらいね。」
「ってことはμ’sの結成くらいから働いてたとして……1か月半くらいで伝説になったってことか。自分の妹とはいえ、なんだその才能……」
にこの答えから逆算して鷹也がその結論にいたると、さらにみんなが感心したような声を上げる。変わる必要もなにもすでにものすごい才能を開花させているのではないかという気がしてきた。それから、慣れない接客に苦戦する穂乃果と海未が慣れるまでの練習相手になり、料理と飲み物を注文して少しの間休憩しながら3人の様子を他のメンバーと眺めることにする。この穂乃果のとっておきが上手くいくかどうかはまだ分からない。でも、メイドとしてお客さんの前で接客することりの姿はいつもよりも生き生きして見えて。そんな状態のことりと穂乃果と海未とが一緒にいるのならなんだか上手くいきそうな、そんな気がした。
その鷹也の感じたことは当たっていたらしい。それから数日。ことりは歌詞を順調に書きあげていった。どうやら穂乃果からいいアドバイスをもらえたらしい。この分ならば後数日で歌詞は完成。曲をつけるのとダンスを考える時間を合わせても1か月後にはライブができるだろうということで日程も決定。よくあそこまで悩んでいたことりに的確なアドバイスできたなと穂乃果の影響力の強さに感心しつつ、鷹也は今日も接客に勤しむ3人の様子を飲み物片手に眺める。さすがに自分の都合のいい時だけアルバイトさせてくださいというわけにもいかないのでライブの日まで続けることにしたらしい。ライブの場所に関してはこの店の前を使わせてもらうことにした。人通りも申し分なく、店長さんが快く許可してくれた。さらにそれだけでなく、衣装に関してはうちの制服を使ってくれとのことで衣装問題まで解決させてくれた。今日はそのために試着の日。接客してい3人を除いて他のメンバーは試着中である。そのためにぼーっと飲み物を飲みながらその作業が終わるのを鷹也は待っているというわけである。自分が付いて来る必要はないかとも思ったのだが、店長さんにお礼を言わなければいけないだろうしということでついて来たのだ。
「おー!本当にμ’sのメンバーが接客してる!」
「いらっしゃいませ、お客様。」
「あ、ことりさんだよね。お兄さんいるかな?」
「え?あ、ああ、はい。あそこにいますけど……」
ふとそんな会話が入り口から聞こえてきて、鷹也は飲み物を吹き出しそうになるのをこらえて恐る恐る振り返る。そこには困惑した表情のことりともう1人。とても楽し気な笑みを浮かべる女性。確かにここは彼女の行動圏内。いてもおかしくはない。おかしくはないが、わざわざ顔をだしにくるとは思ってもいなかった。
「よっ、鷹也。」
「……沙希先輩、わざわざお疲れ様です。」
「いえいえ~近かったから大丈夫だよ~」
片手を挙げて挨拶してきた沙希にそう返すと、沙希は少しイジワルな笑みを浮かべながらそう言うとクリームソーダお願いねと言って鷹也の座っていたテーブルの向かいの椅子に座る。特に許可をとれとか思うわけでもないが、まったく許可をとる気のなかったその動きに苦笑しつつ、鷹也は沙希に聞く。
「どうしたんですか?わざわざこんなところまで。」
「いや、秋葉原で路上ライブするってきいたからさ。本当かなって。」
「……本当ですよ。」
沙希に聞かれて鷹也がそう答えると、沙希は楽しそうな笑みを浮かべる。
「いいね。わざわざA-RISEのお膝元でライブしようなんて子たち久々だよ。」
「……久々ってことは他にもいたんですね。ちなみにその子たちどうなりました?」
「あんまり評価されずに人気なくなっていったかな?あんまり覚えてないや。」
大して面白くもない子たちだったしと言って笑う沙希にうすら寒い物を感じつつ、鷹也は飲み物を口にする。今回のライブは絶対に失敗できない。50位というそこそこ注目を集めている順位だからこそなおさら。ここで失敗すれば評価されなかったという事実はかなりのマイナスになる。
「だからこそ、今回は頑張らないとね。ここで上手くやれれば完全に勢いに乗れる。逆に失敗したらそこでアウト。いいね、その賭け。本当に面白いことばっかりしてくれる。」
「先輩は見てるだけですからね。」
「そりゃあそうだよ。上にいるんだから。」
にこにこと簡単に言う沙希に引きつった笑みを鷹也は見せる。こんなにも簡単に、自然に自分が上位に立つことを公言し、文句を言わせない人なんてそうそういない。楽しみにしてるよといつものきれいで見惚れそうになるほどの冷たい笑みを見せた沙希に、きっとあいつらなら上手くやりますよ。と答えようとしたところで少し大きめに店内に響く声で言葉を遮られた。
「ちょっとくらいいだろ?写真くらい。俺、μ’sのファンなんだよ。な?」
「そうそう。最初の3人の時のからずっと応援してるんだよ。」
「でも、撮影は禁止となってますので……」
「そんな硬いこと言わずにさ~」
声の方に視線を向けるとそこには数人のガラの悪い男と接客中なのに困り顔のことりの姿。どうやら写真撮影を断っているのだがしつこくて困っているらしい。鷹也は沙希に行ってきますと断りを入れてから立ち上がる。さすがに妹が絡まれていたら、妹の接客中の相手とはいえ止めなくてはいけないだろう。彼女たちのために行動している以上はこのようなことは見逃せないし見逃す気もない。
「ですから、すみませんが……」
「はい、そこまで。ごめんなさい。μ’sとしてもここで店のルールを破ると問題になりますのでひいてもらえないですか?」
「は?誰だよ。」
「お兄ちゃん……」
ことりと客の間に割って入ってそう言うと、ことりの言葉を拾った相手の男数人がこちらを探るような視線を向けてくる。そこで気が付く。できれば会いたくない人物。そんな人物が相手であることに。
「お前……南鷹也か?」
「……………そうだけど。」
「やっぱりそうか。何、お前。アイドルの妹なんていたのかよ。」
「え?お兄ちゃん、知り合い……?」
聞いて来ることりを無視して相手の男たちを見る。こちらの正体が分かった途端、嫌な笑みを浮かべだした彼らの中で中心人物。一際体格のよくてツンツンとした短髪の男が口を開く。
「ひさしぶりだなぁ。え?元気にしてたかよ?」
「おかげさまでね。」
「……やっぱり気に食わねえな、おめえはよ。」
「そう?普通の受け答えしてるつもりだけど。」
心が冷えていくのを感じる。心配そうなことりをよそに、感情が失せていくのを感じつつ笑みを顔に貼りつける。
「とりあえず出てってくれないかな?今はこの子たちに迷惑かけるの見逃せる立場じゃないんだよね。」
「はぁ?お前が俺らにそんなこと言うの?言うこと聞くとでも思う?」
にやにやとしながら言う男の前で、あくまでも貼りつけた笑みは崩さない。
「聞いてくれなくちゃ困るんだよ。元クラスメイトのお願いくらい聞いてくれない?」
「元クラスメイト?何言ってんだ。イジメら……」
「それは今は言わないでくれないかな?」
静かな声で男の声を遮る。ことりに視線を向けてとりあえず他のメンバーのところに戻ることを促す。ことりは心配そうな顔で、でも自分が原因である以上はここにいても意味がないことを考えたのだろう。従業員が控える場所へ小走りで戻って行く。あの感じだと誰かを連れて戻ってくる可能性が高い。そんなに時間をかけてもいられない。そんな鷹也に男は何か気が付いたというように笑みを深くする。
「なんだ、鷹也。妹にばれてなかったのか。」
「何が?俺としては普通の中学・高校生活を送ったつもりだからバレるも何もないけど?」
「……そうだったな。お前はそういうやつだったよ。ほんとに変わんねぇな。」
男は忌々し気にそう言って立ち上がる。周りの男たちに今日は帰るぞと告げて歩く男は鷹也の横を通り過ぎる際に言う。
「ほんっとうに気に食わねえ。後でツラ貸せ。連絡して来たら場所は指示する。してこなかったら……わかるよな?」
「……わかったよ。」
こちらに店長と穂乃果、海未を連れて戻ってきたことりを見て言う男にそう答える。男はにやりと笑うと、鷹也に紙を握らせると、鷹也の肩を叩いてからまたなと言って店を後にする。こちらに来ようとしていることりたちに聞こえないように小声でつぶやく。
「……またね、恭介くん。」
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「鷹也さん!」
「鷹也くん!」
心配そうに駆け寄ってくる3人を安心させつつ、店長さんにお騒がせしましたと頭を下げて先ほどまで座っていた席を見る。先ほどまでそこにいた沙希の姿はなく。嫌な予感を感じつつ、鷹也はそれを押し殺してなおも心配そうな3人を安心させるように笑みを向ける。
これが鷹也のできれば会いたくなかった人物。岸田恭介との再会である。
まさかあんなところで会うとは思わなかった。南鷹也。中学・高校時に一緒の学び舎にいた男子。学び舎と言っても自分はあまり学んでいなかった気もするが。
「ひさしぶりにみたな、あいつ。あいつ相手にあそこでひかなくても良かったんじゃねえの?」
「うるせぇよ。あそこで騒ぎ起こしても得がすくねぇだろうが。」
うるさい周りの奴らを黙らせつつ、恭介は考える。上手く利用すればしばらく遊べるだろう。あいつの性格は把握できている。何をしても動じなかったあいつが妹に聞かれることだけは嫌った。ならばそこを利用すれば。
「ねぇねぇ!ちょっといいかな?」
「あ?んだよ、誰だ?」
「いきなりごめんね~」
目の前に急に表れた女をにらみつける。そんな視線にも動じずに彼女はこう言った。
「ちょっと鷹也について聞きたくてさ。」
「鷹也について?なんでわざわざ話さなきゃなんねぇんだよ。」
「いいから。」
一瞬空気が張り詰めるのを感じた気がした。一瞬目の前にいる女の存在感に圧倒されそうになった。有無を言わさぬ、時に脅威にもなりうるカリスマ。そんなものをこの女は持っている。しかし、それをアッと言う間に霧散させて彼女はニッと笑う。
「何なら全員分ご飯おごってあげるからさ。いいよね?」
「……いいぜ。何で鷹也のこと知りたいかは知らねぇが教えてやるよ。」
知らない女に急におごってもらうという状況に不信感を抱くが、彼女は身分証明の学生証を取り出して、なにかあったらこれを証拠にしてもいいよ。と言って渡してくる。あ、写メってもいいから帰りには返してね。そう言う彼女の名前を見る。
「綺羅沙希……」
「そう、沙希って呼んでくれていいよ。」
そう言って綺羅沙希はにやりと笑う。そんな顔もやけに様になっていた。
いかがだったでしょうか。
恭介くんの小者感が半端じゃない気がします。
今回から少しオリジナルを交えながらのアニメの話に沿っての進行となります。
できるだけ楽しんでいただけるように努力いたしますので、オリジナル部分もいらないとか言わずに呼んでいただけるとありがたいです……
お気に入りも増えていて嬉しいです。ありがとうございます!
感想、評価もお待ちしています。
それでは次回も引き続きよろしくお願いします。