小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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前回の話の時間軸の鷹也視点。
鷹也の問題に関しての葛藤などの描写がうっとうしくなるくらい入ってるかもしれませんが
アニメ一期の流れの中での、この物語のオリジナルの主となる問題ですので好き勝手に書きました。自重しようと思ったんですが、書いているうちに抑えがきかなくなってしまって……

少し暴力的シーンが入りますが、そのシーンに関してはほとんど暴力的な行為の描写はしていないし、前の方の話にこんなシーン書いたこともあるのでタグはいらないかな…と思ってまだ入れていません。指摘などがあったら入れようかなと思ってます。
恭介くんがクズなのでこんなこと考えなければいけないことに……!笑

今回は12000字越えの長さです。のわりに話は進んでいませんが。
それではご覧ください。



彼はいつも通りで“変わらない”

「さてっと……ここか……」

 

メイド喫茶で恭介と遭遇した次の日。鷹也はいつも通りに朝練、学校、放課後の練習の日程をこなしてからとある場所で小さく息を吐く。今日は昨日会った沙希が恭介とともにいなくなったことから何かしらのアクションを起こすかとも思ったのだが、そんなことはなかったようで。食堂で見かけたのだが何事もなく、挨拶をしただけだった。そして鷹也はことりに少し用事があるからと言って先に帰るよう言って、指定の場所に向かう。指定があったのはゲームセンタ―。よくガラの悪い人たちがたまり場にしているような場所にあるここは例にもれず恭介たちも利用していたようだ。店内に入ると1番目立つ場所。そこまで広くはない店内の中央にある休憩のために置かれたベンチに恭介含む先日会った男たちはいた。鷹也に気づくと、恭介はにやにやと笑いながら口を開く。

 

「よう、鷹也。よく来たな。」

「どーも、恭介くん。それで何の用?」

 

鷹也が聞くと恭介は取り巻きの男たちとアイコンタクトをとってから、立ち上がって鷹也に肩を組んで言う。

 

「まあ、焦んなよ。とりあえずここじゃなんだから外出ようぜ?」

「……わかったよ。」

 

両脇を数人に囲まれ、恭介に肩を組まれながら鷹也は歩きだす。どうせここまで来たら逃げる気なんてない。というかそもそも最初から逃げる気なんてない。逃げる必要性を感じていない。そのまま連れてこられたのは人気のない路地裏。恭介に背中を押されてつんのめりながらも向かい合う。完全に行き止まりに追い込まれた形。それなのに鷹也に一切の動揺はなく、むしろ心が、感情が失せていくのを感じる。

 

「で、何かな?」

「……本当に何も変わんねぇな。」

「まぁ……別になんとも思わないからね。」

 

鷹也はそう言って顔に笑みを貼りつける。習慣化している笑み。完成されすぎている笑み。恭介はその笑みを見て、気に食わねぇと言って鷹也をにらむ。

 

「……まぁ今さらそんなのどうだっていい。なぁ鷹也。今俺たち金欠でよ。おとなしく金貸してくれたら黙って見逃してやる。どうする?」

「……俺だけの金だったらどうでもいいんだけどね。」

 

鷹也はそう言って両手を上げてやれやれと首をすくめる。今の段階で理事長の手伝い、μ’sのコーチを無償で行い、アルバイトをしていない鷹也が持つお金は自分で稼いだものでもない。それに最低限必要なものを買うお金以外はμ’sの活動のために部費で足りない分を払うためのお金にしたり、晩ご飯の買い物代として毎回渡されているお金を使わないで自分がもとからもらっているお金で買うようにしたりと、このお金は基本的に大事な人の、大事な彼女たちのために使われるもの。最低限の金なら渡してもいいかもしれないが、その程度で済ませる気はむこうにはないだろう。渡したところでそれで終わらないのは目に見えている。

 

「残念なことに渡せないかな。それに今日はそんなにお金もってないよ?」

「……この状況でよく平然とそう答えるなおめぇはよ。」

「この選択肢しかないしね。」

「そうかよ。じゃあ……しょうがねぇよな?」

 

ゆっくりと歩みよってくる恭介に鷹也は後ずさりすることもなく相対する。彼らにとってどうせお金なんてついでなのだ。最初にお金を多少出したところで変わらない。彼らは人を貶めたいだけ。バカにしたいだけ。下に見たいだけ。その過程でお金を手に入れることができれば儲けものというくらいの認識なのだ。鷹也はそこまで分かっていつつも顔色を変えない。笑顔のままで口を開く。

 

「そうなるね。どうでもいいけど。むしろそれで済ませてくれるならありがたいくらいだよ。」

「……本当に気に食わねえ。」

「そりゃ残念。昔からいつも気に食わないって言われ続けてる気がするよ。俺は恭介くんのこと嫌いじゃないんだけどな。」

 

そう言った恭介に鷹也は笑みを崩さないままそう返す。恭介は小さく舌打ち。次の瞬間、全力で鷹也を殴る。軽くふっとんで尻餅をつきつつも、苦笑という形で笑みを消さない鷹也を恭介はにらみつける。

 

「てめえが選んだんだ。ボロクソに叩きのめしてからゆっくり金借りることにしてやるよ。本当に少ししか持ってないとは限らねえしな。」

「…………そっか。お好きにどうぞ。」

 

こうなるだろうと思ってたよ。顔をうつむかせ、でも口元から笑っていると判断できる鷹也がそう返すと同時に、恭介の周りにいた男たちが鷹也に殴りかかった。

 

 

 

 

 

「いっててて…………」

 

壁に寄りかかりながら鷹也は地べたに座り込む。すでに日は沈みかかっていて、あたりにある光は街頭の明かりのみ。そんな中で鷹也は痛む体を確認していく。不自然に腫れてしまっている場所はないだろうか。見ていくと顔は基本的にかばったのでそこまで目立つ傷もなく、軽く口内を切った程度。体に関しては痛む場所も複数あるし、腫れている場所やあざになるだろう部分も見えるが基本的に服で隠せる場所だろう。

 

「財布はっと……金入れてこなくて正解だったな……」

 

結局鷹也の財布には本当にほとんどお金は入っておらず、恭介たちはその少しのお金を抜き取ると鷹也に余計なこと考えるなよと言って去っていった。言われなくても大事に、ましてや警察沙汰にする気もない。そんなことになればことりたちにも迷惑がかかる。地面に転がっていた自分の財布を回収してもう1度壁に寄りかかって座って空を見上げる。恭介は去り際にまたなと言っていたことだし、これで終わるわけがないだろう。あちらも鷹也が警察や学校などに言って大事にするとは思っていないようだ。昔からこんな感じだったので分かっているのだろう。もしかしたら決定打として誰かが入れ知恵をしたか。

 

「まぁどうでもいいけど…………」

 

昔の記憶がよみがえる。自分の気持ちを、あり方を決めた時期の記憶。その時の感情が戻ってくる。最近の感情が失せていく。最近の、大学に入ってから薄まってきていた自分の価値観が前のように濃くなっていく。鷹也は立ち上がってその場から歩き出す。そろそろ帰らなくてはことりを心配させてしまう。立ち上がった鷹也はうつむき気味にその場を後にする。その時の鷹也の表情を見る者は誰もいなく、鷹也自身も自覚はできない。

 

 

 

 

 

帰宅するとすでにことりは晩ご飯の準備をして待っていた。リビングに行く前に部屋で汚れた服を着替えようと部屋に入る直前にことりに声をかけられる。

 

「お兄ちゃん?」

「ん?どうした?」

 

不安げな、心配そうな様子で慌ててリビングから出てきたことりにいつも通りの表情で返す。汚れた服は見られないように、中途半端に開けられたドアでしっかりと隠す。このぐらい簡単だ。見られないように、悟られないように。あくまでいつも通り。

 

 

「ううん、すぐに部屋に行くの珍しいなって思って。どうかしたの?」

「もう暑くなってきたし、汗かいたからさ。風呂掃除して、シャワーだけ浴びてこようと思って。」

 

上手く誤魔化せているようで、ほっとした様子のことりにそう言って、先にシャワーを浴びてくることを告げて部屋に入る。後ろから晩ご飯を準備して待っているということりの言葉が聞こえてきて、それにお礼を言ってから部屋で着替えを探す。半袖はダメだ。短い丈のズボンもダメ。肌の露出を最低限抑えるために、そろそろ夏服の奥にでも押し込めておこうと思っていた長袖、長ズボンの部屋着を手に取る。

 

「っし……これなら大丈夫そうだな……」

 

1度着てみて不自然なところがないのを確認して部屋からでて風呂場に向かう。バスタブをしっかりと掃除して、シャワーを浴びる。擦り傷ができている部分にお湯がかかり、しみる傷口に顔をしかめる。それから苦笑する。

 

(久しぶりだな……この感じ……)

 

浴室にある鏡に映る自分を見る。男子にしては華奢な方だろう自分の身体にできた傷。痛む箇所は多く、できることなら味わいたくないと思う痛みを鷹也に与える。そんな中、自分の顔は泣きそうな顔で笑っていて。違和感を感じる。あれ?と思う。

 

「なんで……こんな泣きそうな……」

 

笑っているのが問題なのではない。なぜ、自分は泣きそうになっている。苦しそうな顔をしている。自分はその感情を捨てた。いや、なくしたはずなのに。目をつむり、顔にシャワーを当てて意識を無理やり切り替える。こんな表情をしていたら悟られる。薄まりつつある自分の価値観を自分の中で繰り返す。

 

(自分の痛みなんかどうでもいい。関係ない。気にならない。つらくなんかない。苦しくなんかない。痛くなんかない…………)

 

自分にとっての最大の痛みは彼女たちを心配させること。その痛みを避けるためなら、彼女たちのためなら自分なんかどうでもいい。いくらだって傷つく。いくらだって自分を捧げる。それは苦しみなんかじゃない。自分のやりたいことだ。やりたいことをやれているのに苦しいなんてことあるわけがない。

しばらくそうしていただろうか。鷹也はシャワーを止めて、顔を上げる。心の中で唱え続けたことで、気持ちが冷めて表情をなくした自分の顔を見て、自分で意識的に微笑む。いつも通りの笑みを見せる。痛みは意識からシャットアウトする。

 

〈大丈夫。笑えてる。)

 

自分の中で納得して頷く。それからしみる傷を我慢して体を洗ってから浴室から出て、体を拭いてから部屋着を着る。多少暑いが汗をかくほどでもないので大丈夫だろう。鷹也はリビングに向かう。乾ききっていない髪をタオルでくしゃくしゃに拭きながらドアを開けると、テーブルではことりが歌詞を書いているところだった。そのテーブルには晩ご飯がきれいに盛り付けられた皿が並んでいる。メニューを確認して気づく。自分の好物ばかり。

 

「お兄ちゃん、暑いって言ってたのに長袖……?」

「今半袖奥に入ってるから出すの面倒でさ。夜はまだ冷えるしいいかと思って。暑かったら部屋で着替えるよ。」

 

そこでこちらを見て首を傾げることりに言われるが、動揺せずに用意していた答えを返す。好物ばっかりだと笑いながら座ると、視線を自分の手のあたりに向けていたことりが口を開く。

 

「手、どうしたの?」

「ん?」

 

ことりに言われて手の甲を見ると、他のところばかり見ていてなぜか気づかなかった擦り傷があった。自分でも気が付いていなかった部分の怪我を指摘されて動揺したのを手をひらひらとさせる動作で誤魔化す。

 

「ああ、ちょっとぼーっとしながら歩いてる時にぶつけちゃってさ。電柱って硬いのな……」

 

そう言ってから追及する暇をあたえないように食事を開始する。優しいことりが手当を申し出てくれたが断る。腕まくりしなくてはいけないようならいつも通りが崩れてしまう危険がある。この話題を続けてもいいことはないだろう。鷹也はことりが先ほどまで書き込んでいた歌詞ノートに視線を向けて話題を変える。

 

「そういえば歌詞の方はどう?」

「もうだいたいできたよ。明日にはみんなに見てもらおうと思ってるんだ。」

「へぇ……あんなに苦戦してたのにな。」

 

最近は進んでいたとはいえ、あんなお世辞にもいいとは言い難い歌詞を書いていたことりがすでに納得のいくものを作り上げたということに驚いたことを少し茶化すようにことりに言う。すると、ことりとしても以前の歌詞は思いついていなかったとはいえひどかった自覚があったのか、頬を膨らませる。

 

「それは言わないでよ~……」

「ごめんごめん」

 

笑いながらことりに言う。

 

「穂乃果のアドバイスのおかげ?」

「うん、穂乃果ちゃんが言ってくれたの。私が考えたこと、思ったこと、感じたことをそのまま書いていいんだって。」

「そのまま……ね。」

 

そのままでいい。このアドバイスはことりにとってとてもいいものだったらしい。確かにことりは意識することでそのままでも周りの人を惹きつける人間になるという才能を持っていると鷹也は思う。それはメイド喫茶で伝説のメイドとまで呼ばれて人を惹きつけていることからも明白だろう。それを穂乃果が自信をなくした状態のことりにも自覚させた。無意識だろうと思う。でも、ことりのそんないいところを、内面を本能的に感じ取り、的確にその道を示し、いい方向に導く穂乃果。その穂乃果の人を引っ張っていく才能というものも鷹也はすごいと感じる。でも、そこに危うさも感じる。そんな、鷹也の思考に気づかずにことりは静かに微笑みながら続ける。

 

「穂乃果ちゃんのおかげで私も何もないわけじゃないんだなって……こんな私でもこのままでいいんだって思えたんだ。」

「そっか……」

 

穂乃果のおかげ。穂乃果のおかげでことりも自分には何もないなんて思わないようになったのだろう。穂乃果のおかげでことりは自分でも頑張れる、このままでいいんだと思えたのだろう。ならば穂乃果がいなければ。穂乃果のおかげでと穂乃果に頼れない状況になった時にことりは。

鷹也はそこまで考えて、ことりがこちらに不思議そうな視線を向けていることに気づいて笑顔を作る。心配をかけてしまった気がする。どうも今日はこのごまかしが久しぶりすぎて気が抜けているようだ。

 

「それなら後で歌詞見せてよ。気になるし。」

「いいけど……なんか恥ずかしいよ~……」

「海未もいつもそんな気持ちなんだろうな。」

 

苦笑して言って見せる。いつも通りの会話を続ける。生活を続ける。先ほどは考え込んでしまったが穂乃果に頼れない状況なんて起こる可能性もほとんどないだろう。それに自分もいる。ことりがつらそうならば自分が力になればいい。ことりもその時は頼ってくれるだろう。だから、自分はいつも通りを演じる。ことりが安心できるように。ここで笑っていれるように。

 

「……………ってくる場所でもあるんだもんね。」

「え?」

「ううん、なんでもないっ!」

 

笑顔で言うことりになんだよと笑顔で返す。いつも通りの兄妹での笑顔の生活を続ける。自分のいつも通りを自分の中で見つけて選択して生活する。ここをいつも変わらない場所するために。自分のことに蓋をして。相手に心配をかけないようにして。ここはことりとひな子とが笑顔で安心して帰ってくるべき場所。これからもずっと。それは変えてはいけないのだ。

 

 

 

 

 

それからライブまでの期間。鷹也は週に何度か恭介たちに呼び出された。おそらくゲーセンで遊んでいて金がなくなった時にでも呼び出しているのだろう。時間がμ’sの練習とかぶってしまったり、服が汚れてしまっていけなくなったりして練習に顔を出せなくなった日も増えてしまった。そんな生活を送っていたある日。

 

「じゃあ、またな。鷹也」

「次もよっろしくね~!」

 

いつも通りに財布から少ししか入っていないお金を抜き取って、恭介たちが去っていく。もちろん鷹也はボロボロで。それでも特に何も感じずにその場から立ち上がる。渡してしまったお金は自分の昼ご飯用のお金の一部だ。それなら自分の昼ご飯を質素にすればいいだけだから、特に実害はない。服装を確認するも、このままでは彼女たちに何かあったのかと聞かれてしまうと判断して練習には顔をだすのを断念。無理をして練習を見にいってぼろを出すのが1番あってはいけない。

 

「まあ、本番前に顔を出せることを祈っておくか……」

「あっれー鷹也ー。奇遇だね?何やってんの?」

 

幸い練習内容に関しては相談済み。ダンスのステップも、基礎的な部分の確認も済んでいるので、あとは鷹也がいなくてもなんとかなるだろう。そう考えて今日は練習に行かずに家で晩ご飯の準備でもしていようと歩き出そうとして、白々しく、ににやにやしていることを隠そうともしていない女性の声が聞こえてくる。

 

「……沙希先輩。全然絡んでこないから関係ないのかと思ってましたよ。」

「奇遇だね。あたしもそのつもりだったよ。」

「……奇遇って言葉にはまってんですか?」

「まあね~」

 

講義で先生が使ってるの聞いてなんとなく語感が気にいっちゃってと言ってにこにこしている沙希の表情からはその内面は読めない。鷹也は舌打ちをして笑顔を作る。普段はこの先輩は自分の尊敬する、とても親しい先輩。でもこの場では、恭介とつながっていることがこの時点でほぼ確定した今では鷹也の警戒するべき人間ナンバー1だ。

 

「こんなところで何してたの?」

「沙希先輩こそ。こんな路地の行き止まりに何の用ですか?」

「それが道に……」

「迷ったとかベタな言い訳しないですよね?」

「あらら、先こされちゃったね。」

 

沙希は笑みを崩さず、自分の内面は見せない。鷹也は少しどうするか考えつつ笑顔を顔に貼りつけたままで口を開こうとして、沙希の言葉に遮られる。

 

「鷹也、ずいぶんな過去を持ってるみたいだね?」

「……恭介くんですか?」

「うん、おごってあげたら全部教えてくれたよ。」

 

沙希に黙秘なんてできないだろう。この女性は生まれついたものを持っている。人を惹きつける何かを持っている。そして人のことを自然に従える絶対的カリスマ。存在感。それを持っている。この天才には勝てる気が一切しないのだ。少なくとも自分は。恭介もおごってもらうだけで簡単に全て話すようなタイプではないはずなのだが、相手が沙希ということで情報をだしに利用しようという考えはでてこなかったらしい。

 

「それでその過去に関わる恭介と再会。つらい?」

「同情してくれてるなら申し訳ないですが、まったくつらいと思ってないですよ。」

「まさか、同情なんてしないよ。だって鷹也は自分のことどうでもいいと思ってんでしょ?ならこっちが同情しても無駄だよ。」

「ですよね。沙希先輩くらいに思ってくれてる方が俺には合ってますよ。」

 

沙希のそんなこちらを全く気にかけない態度に苦笑する。いっそこのくらいの人の方が自分にはあっているのかもしれない。この先輩は自分のことを全く気にかけずに、自分が面白ければいいということで行動してくる。しかし、沙希は首を横に振りながら言う。

 

「鷹也にはあたしは合わないよ。鷹也はあの子たちだからこそなんとかなってる。」

「……俺の何が分かるんですかね。」

「周りから見た方が分かることもあるんだよね。」

 

そう言って沙希は鷹也の目をまっすぐに見つめる。自分の奥底を見られているような感覚に陥って目を逸らす。いや、間違ってはいないだろう。これまで多くのことをこの先輩に話してしまっている。それでいてさらに彼女は過去の情報も手に入れた。自分のあり方、価値観の原因についてはおそらく穂乃果よりも、海未よりも、ことりよりも、母よりも近いところにいるはず。それは鷹也の考えの近くを1番理解している可能性が高いということ。

 

「鷹也はこのままでいるつもり?」

「どうですかね……。今のところは実害はないのでこのまま様子見ですかね。そのうち終わるのを待ちます。」

「この状況で実害がないって平然というところがすごいね。」

 

沙希は苦笑して鷹也の腕を見る。確認している時にまくったその腕の一部は大きくはれ上がっていて。沙希はいたくないの?と聞いて来るが、鷹也は頷く。痛いという程でもない。痛いのは痛いがそんなことよりもこれを大切な人にバレる方がもっと痛い。

 

「沙希先輩は恭介くんとつながってるんですよね。」

「まあね。隠してもどうせ信じてもらえないんでしょ?」

「それはそうですね。」

 

ひどいな~と言う沙希だが、恭介と接触していたことは明白。さらにこんなところに顔を出す時点で沙希のこのことに関する沙希の言葉に説得力は一切ない。

 

「だったらどうするの?」

「どうもしないですよ。俺にだけしかこういったことがない限りはどうでもいいです。」

「へえ……」

「ただ、あいつらには何も言わないでください。」

「いいの?それじゃあ何も変わらないよ?」

 

鷹也は自分がこのような目にあっているのはどうでもいい。つらくも、苦しくも、痛くもない。だが、このような目にあっている自分を彼女たちに知られれば、彼女たちに迷惑がかかる。彼女たちが苦しむ。それだけは避けなくてはいけない。この状況が変わらなくても別に構わない。彼女たちの迷惑にならないならそれでいい。鷹也は探るようにこちらに確認してきた沙希に頷く。

 

「変えなくていいんですよ。俺はいつも通りでいい。いつも通りを続けるだけでいいんです。」

「…………そっか。じゃあ、私は口をはさまない。」

 

鷹也の言葉に沙希は少しつまらなそうな表情を見せて、不満げな表情で言う。そして、持っていた手提げのバッグに手を突っ込んで袋を取り出してこちらに放る。

 

「っと……」

「それで手当でもすれば?」

 

少し慌てつつもキャッチしてみると、その中に入っていたのは応急手当のセット。沙希はそう言ってその場を去ろうと背中を向ける。その背中に鷹也は慌ててお礼の言葉を投げかける。

 

「ありがとうございます。」

「いいよ、別に。」

 

心なしか冷たいなと思った声色は間違ってはいなかったようで。沙希は去り際にもう1度口を開く。

 

「興味なくなったし、これまで振り回しちゃったお詫び。じゃーね。やっぱ鷹也って」

 

———つまんないよ。

 

心底つまらないものを見るような冷たい視線と冷たい声で告げられたその言葉とともに沙希はその場を後にする。鷹也はその言葉に反応もできずに立ち尽くす。しかし、それも一瞬。ため息をついて、壁に寄りかかる。少し間を開けてから沙希に追いつかないようにしてから帰ろう。別に今さら沙希にそんなこと言われたってなんとも思わない。鷹也は沙希にもらった応急セットを握りつぶして道端に捨てようとして思いとどまる。別にここで捨てなくてもいいだろう。道で捨てないで適当なゴミ捨て場にでも捨てよう。鷹也は呟く。

 

「勝手に期待して失望して……俺は最初から言ってたじゃないですか。」

 

自分はつまんない人間だ……って。

 

 

 

 

 

そしてライブの日がやってきた。練習に出れない日が何日かあり、彼女たちの力になれないことを申し訳なく思って練習にいけない日にはことりに何度も何をやって問題はなかったか確認し、ここ2日の練習には顔を出したが、通し練習を見てみた限りは大丈夫のようでホッとする。リハーサルも先ほど行ったが、みんな大丈夫のようで少し修正を絵里と海未と相談して行ったくらいですんだ。そして本番直前。控室にしてもらっているメイド喫茶に入ると、すでに衣装に着替えたメンバーの姿。

 

「おーやっぱ似合うじゃん、みんな。」

 

軽い調子で声をかける。ここまでの間、鷹也は恭介とのことや沙希との会話を完全に隠しきっていた。恭介の言葉を少し聞いていることりになんで練習に来れないのか聞かれたが、先生が休みとる分の補講だから別に大丈夫と言って安心させてやると納得してくれたようで心配そうだったが、私たち頑張るからねと笑ってくれた。そのままいつも通りの日々を過ごし、いつも通りの状態でこのライブをむかえた。

 

「ふっふ~ん。やっぱりにこにーってば何でも似合っちゃうっていうか~」

「さすが2年生組は着慣れ始めてるからかしっくりきてるし、1年生組も着慣れてない風だけどそれはそれでちゃんと似合ってる。希も大人っぽいから似合うし、絢瀬さんも金髪だからメイド服似合ってるよ。」

「……………………………………」

「ん?」

「ん?っじゃないわよ!!!にこ貴重なメイド姿の感想は!?」

「あー似合ってる似合ってる。」

「適当すぎるわよ!!!」

 

鷹也の言葉に真っ先に反応したのがにこだったので、これ幸いとばかりににこをからかってやる。苦笑する他のメンバーを見ると大体緊張がほぐれたようだ。これで大丈夫だろと鷹也はにこにフォローを入れる。

 

「ごめんごめん、大丈夫。さすが矢澤さん。すごく似合ってる。」

「……なんか不本意だけど……まあ分かればいいのよ。」

 

頬を赤くしてそっぽを向くにこ。褒められて嬉しかったのだろうか。照れるなら最初から言わなきゃいいのにと思いつつ、希と顔を見合わせて微笑んでいることりを見て話題を切り替える。自分はアドバスする立場。ここで彼女たちを送り出す立場。鷹也は伝える。

 

「たまに練習見てやれなくてごめんな。でも、ここ数日の最後の通しを見てもきちんと練習してたことは分かった。だから、自信もっていい。」

 

真剣な表情でこちらを見るメンバーを見る。そして言ってやる。最初のライブから言っていること。

 

「今回のライブも、自分も観客も最高の笑顔で。自分の全力で」

『楽しんでやりきる!』

 

全員の声が重なり、いつもの円陣が始まる。しかし、いつも黙っている鷹也は声をかける。自分以外も気が付いているだろう。他のメンバーが言ってくれるかもしれない。でも、これはアドバイザーで、兄である自分の役目。

 

「ことり。」

 

振り向くことりの顔は少しいつもより不安げで。そのことりに微笑んでやる。ことりは才能ある、夢のある、未来のある多くをもつ自慢の妹だ。ことりが何もないなんてことは絶対にない。それはこのライブで証明されるはずだ。だから言う。

 

「大丈夫。ことりの頑張りは、ことりの作った歌詞はちゃんと受け入れられる。だから、気負いすぎないで。」

 

気負いすぎてはできるものもできないし、気負う必要もない。そう伝えたかった鷹也のその言葉で気持ちが楽になったようで、ことりが穂乃果に促されて言葉を連ねていく。これまで持っていた悩み、歌詞作りで、穂乃果の言葉で自分を肯定できそうだということ。その言葉の途中でことりがこちらを向く。その目は真剣で。その力強い目に、鷹也はなぜか一瞬心がざわつくのを感じて。でもすぐに収まったそのざわつきの正体を知ることはかなわない。

 

「このライブで何か変われる……ううん、自分をきちんと見れる気がする。だからこのライブは絶対に成功させたい。μ’sのこれからのためにも、私自身の成長のためにも。私も頑張るから、楽しむから、みんなも一緒に頑張ろうねっ!!」

「「「おー!!」」」

 

笑顔のメンバーの返事にことりが微笑み、穂乃果が点呼を開始する。9人のピースがつながって、気持ちが集まる。鷹也はそれをなぜかいつもより遠くに感じて。沙希の言葉が脳裏をよぎった気がした。

 

『いいの?それじゃあ何も変わらないよ?』

 

「よしっ!行こう!」

『μ’------s!ミュージック————スタート!!!』

 

駆け出していく彼女たちの背中。鷹也はその背中に何も声をかけることができなかった。

 

 

 

 

 

大成功のライブは終わり、神田明神の階段の上。おそらくあの観客の様子ならば成功と言っていいはず。帰る途中になんとなくここに寄りたくなったということりと穂乃果と海未に付き合い、鷹也は神社の鳥居のそば、階段から町の方を見渡す3人の後ろでぼーっと立ち尽くす。横に向けた視線はどこにも向いていない。何かもやもやとした気持ちが心の中で燻っている。その正体を探ろうとしても、自分の気持ちなのに自分には理解できなくて。

 

「こうして並んでると、ファーストライブのこと思い出さない?」

「うん。」

「あのころは私たちだけでしたね……」

 

そう言ってこちらを見てくる3人に鷹也は視線を向ける。最初は3人だった彼女たち。しかし、その想いが、気持ちが他のメンバーを集めてつなげた。9人をつなげた。鷹也は頷く。

 

「そうだな。あのころに比べたらだいぶ変わった。」

 

鷹也はそう言って微笑む。すごいと思う。自分たちの気持ちを、想いを持ち続ける彼女たち。最初のライブであんなことになって、折れそうになってもそこから立ち上がってここまで進化した。想いをつなげた彼女たちを鷹也は本当に、本当に。

 

「ねぇ……いつまでみんなでいられるのかな……?」

「……どうしたの、急に?」

 

鷹也はことりの視線から目を逸らす。いつも通りを否定する。これからもずっと続くと思いたいいつも通りがいつか終わることを明言する言葉。自分には何も言えない。いつも通りを作ることはできるし、帰ってくる場所を作ることはできる。でもなぜかそれを口に出して言えなかった。なぜだろうか。それを考えるよりも先に穂乃果が答えて、話は進む。

 

「だって……高校もあと2年もないんだよ?そうしたら……」

「それは仕方のないことです……」

 

ことりと海未の言葉を最後に沈黙が生まれる。分かりたくなくてもみんな分かってる。このままではいられない。ずっとこのままなんてことはありえない。しかし、

 

「だーいじょうぶ!ずっと一緒だよ!」

「穂乃果ちゃん?」

「だって、私これからもずっとずーっとことりちゃんと海未ちゃんとそれに鷹也くんとも一緒にいたいって思ってるよ?大好きだもん!」

「穂乃果ちゃん……うん!私も大好き!」

 

穂乃果がその沈黙を吹き飛ばす。感じる不安を吹き飛ばす。笑顔で頷きあう3人を見ながら鷹也は表情を変えない。いつかは来る終わり。それに彼女たちは想いで抗うのだろう。ずっと一緒。そんなのはありえないことは分かっていても、ずっと一緒にいる。その想いで抗い続けるのだろう。

 

「お兄ちゃん!」

 

不安げに差し伸べられることりの手を見つめる。自分はその想いに参加してもいいのだろうか。このまま変わらずにいるという選択肢に混ざってもいいのだろうか。いつも通りのままでいる。変わらなくていい。沙希にそう言ったはずなのに、笑顔でことりの手をとれなくて。成長していく彼女たちの手をとれなくて。

 

「そうだな。……ずっと一緒にいれたらいいよな。」

 

そう言ってことり、穂乃果、海未の頭をポンと叩くだけにとどまる。そして階段を降り始める。

 

「ほら、いつまでもこうしてたら帰るの遅くなるよ。」

「もーいいところなのに。待ってよ~!!」

「あ、穂乃果も鷹也さんも待ってください!ことり、行きますよ?」

「あ……うん。」

 

背中を叩く穂乃果、ことりに声をかける海未、さみし気なことりの声を聞きながら階段を下る。胸のもやもやは消えない。そのせいで先ほどはできなかったいつも通りという意識をもう1度心に刻み込む。

 

(いつも通り。いつも通りにいろ。ことりたちを不安にさせるな。)

 

心に刻み込む。しかし、そのたびにもやもやが増していく気がして。帰り道を歩きながら話しかけてくる穂乃果に適当に返事をしつつ、鷹也は胸のもやもやを打ち消そうと必死だった。

 

 

 

 

 

それから何も変わらない日常の中だった。学校は夏休みに入る。それでも毎日彼女たちは練習に励み、目標に向けて突き進む。鷹也も胸のもやもやを抱えながらも、いつも通りを演じる。恭介との関係も変わらず、それを誰にも悟られずに過ごす。そんな夏休みの2週間ほどたったある日の朝だった。特に何も変わらない毎日のはずだった。ただ違うと言えばμ’sの練習の珍しい休養日ということくらい。朝練もないので、いつもより遅くまで寝ていることりと違って、鷹也はなぜかたまたま早く目が覚めて欠伸をしながらリビングへ。

 

「あ、母さん。おはよう。何してるの?」

「鷹也?早いのね?」

 

そこには今日も仕事があるひな子が出かける準備を整えてテーブルの上に郵便物を置いて立っていた。その中でも何か1枚の封筒に目線が言っていたようなので鷹也はその封筒に目を向ける。海外からの手紙らしいそれに書かれる宛名。『Kotori Minami』の文字。鷹也は思い出す。ひな子が話してくれたことのあることりの服が海外のデザイナーに認められたという話。

 

「……まだ確認してないからことりには何も言わないでおいてね。急に送ってくるとは思っていなかったけれど、条件や日数なんかもこちらと調整しなくてはいけないから。」

「……………………」

 

鷹也は何も言えない。いつも通り。その崩壊は、終わりは思っていたよりも近くに見えているのかもしれない。

 

 




いかがだったでしょうか。
アニメとしてもここからが一期の山場であり、ここからが鷹也の問題の山場にもなっていきます。合間として次回に合宿をはさみますが。
ことりって合宿の時に一切留学のことを感じさせないんですよね。忘れてて慌てて最後の理事長のセリフ付け足しました……

UAがすでに36000超えていて驚きました。これからは10000増えるごとに番外編書こうかな、次は40000だなと思っていたら番外編早すぎるかなどうしようか迷うという嬉しい悩みまで抱えることとなってとても感謝しています。お気に入りもまだ増えていて読んでくださってる方には本当に感謝しています。

これからも楽しんでいただけるように頑張りますので感想、評価などもいただければ嬉しいです。

それでは次回も引き続きよろしくお願いします。
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