小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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合宿編④

番外編に関しては後書きに書きますのでそこで。

今回は海水浴で遊ぶ回。
何か想定外に真姫の出番が多くなってきています。
まあ、合宿編は真姫ちゃんの出番でもありますし、よしとしていただければ……

それではご覧ください。


みんなで海水浴!

「いっくにゃー!!!」

「わーーい!!!」

 

メンバー内の元気っ娘トップ2を先頭にみんなが海へ駆け出していく。さすが西木野家と言ったところで、ここもプライベートビーチ同然。自分たちしかいない。鷹也はその事実にもはや後のことを考えるのを放棄して駆け出していくメンバーの様子を撮影する。自分は基本的に遠目から撮っているだけでいいはずだ。近くからは希が撮ってくれるだろう。

 

「ちょっと。」

「ん?ああ、ごめん。」

 

海未が絵里に背中を押されて海に入って行くのを見ながら、鷹也が絵里も年相応にはしゃぐようになったなぁなどと思っていると後ろから声をかけられる。振り向くとそこにはビーチパラソルと小さなテーブルを手に持つ真姫の姿。他のメンバー同様水着姿の彼女だが、海に駆け出すというようなことはしないようだ。おそらく邪魔だったのだろう。横にずれて真姫の進路を作ってやると、真姫は何も言わずに歩き出す。自分が避けるという選択肢はないのだなぁと思いつつ鷹也はそれについていき、声をかける。

 

「真姫は行かないの?」

「別に海に入らなきゃいけない決まりはないでしょ。」

「まあ、そうなんだけど……持つよ。」

「いいわよ、このくらい……ってちょっと!」

 

明らかに重そうにしていたのに渡そうとしない真姫から荷物を奪いつつ、鷹也は言う。

 

「こういう荷物持ちも今回の合宿について来た理由なんだから仕事奪わないでくれよ。」

「…………そこでいいわ。」

「りょーかい。」

 

そっぽを向く真姫の指示に従って、適当に海に近い砂浜にパラソルを立てて、テーブルを置く。これで終わりなのかと真姫の方を向くと、どうやらまだ何か持ってきたいようで別荘の方に歩き出す。

 

「おーい、さっきの俺の言うこと聞いてた?」

「そんなの関係ないわよ。別に私が使うものだし、手伝ってもらう理由ないわよ。」

 

慌てて追いついて言うも、真姫はそっけない態度でそう言って歩き続ける。やれやれと鷹也が呆れつつもついていき、すぐそばにある別荘の物置に到着。物置といってもかなりの大きさなのだが。真姫は何も言わずにそこに入って行き、鷹也も中へ。

 

「ダイビング用のスーツに酸素ボンベ。海でつけるゴーグルに……これフィンって言うんだっけ?足ひれみたいなやつ。他にもバーベキューのセットにテントにその他もろもろ……真姫、この家ってなんに使ってんの?」

「別荘よ。」

「いや……それはそうなんだろうけどさ……」

 

広い物置の中にたくさんある物を興味深げに眺めながら鷹也は真姫の返事に苦笑しつつ、漁なんかしないであろうになんで置いてあるのか分からない銛を見て首をひねっていると、少し奥にいる真姫の様子が目についた。

 

「真姫、どうした?」

「…………何でもないわ。」

 

明らかに間があったろうに。鷹也はひとまず銛から視線を逸らして真姫の様子を伺う。真姫がいるのは突き当たりの棚の前。そこに立って思案顔で上を見上げている。その上の方にあるのは先ほどのテーブルとセットになるであろうビーチでよく見るような寝転がって座れる椅子の写真が書かれた箱。おそらく折り畳み式の椅子が箱に入っているのだろう。その下の段が何も置かれていないところを見るに、そこには先ほどのテーブルとパラソルが置いてあったのだろうか。

 

「……………………」

「…………取ってあげようか?」

「別に自分で取れるわよ。」

 

無言でそれを見つめ続ける真姫にそう声をかけるも、予想通りの返事。真姫はそのまま少し考えていたが、意を決したように全力で背伸びして片腕を伸ばす。が、あと数センチのところで届かない。そのまましばらく頑張るが、あれは届かないだろう。

 

「んっ……!!」

「ぷっ……くっ……!!」

「笑わないでよ!!」

 

自分としては届くと思ったのだろうか。プルプルしながら背伸びをして手を伸ばす真姫の姿に、鷹也がこらえきれず噴き出すと顔を真っ赤にして真姫がこちらに噛みついて来る。ごめんごめんと言いつつ、真姫をなだめてから必死に笑いをこらえて言う。

 

「さすがに無理だって。取ってあげるからどいて」

「だからいいって言ってるでしょ!確かあそこに踏み台が……」

 

そう言ってムキになっている真姫がそばにある踏み台をとってくる。最初からそれを使えばよかったのにという鷹也の声に、うるさいわよと返しつつ、真姫が台に上る。しかし踏み台に乗ったところで、他のメンバーよりも身長が高いとは言っても真姫が華奢な女子高生という事実は変わらないわけで。

 

「気を付けろよ?その箱、意外と大きそうだし……」

「大丈夫よ、このくらい……」

 

そう言って真姫が取り出そうとする箱は意外と大きい。そりゃあ折り畳み式とはいっても椅子が2つも入っている箱だ。結構なサイズになるだろう。狭い踏み台の上で真姫が身をのけぞらせながら長方形のそれをゆっくりと棚から取り出す。しかし、案の定その箱のサイズと重さを支えきれなかったのだろう。真姫の手から箱が落ちる。

 

「きゃ……!」

「っと……何が大丈夫だよ……」

 

それを予想していた鷹也が真姫の後ろから箱を片手でおさえ、自分目がけて落ちてきそうになった箱から身を守ろうとして慌ててバランスを崩した真姫をもう一方の手で支える。一般の男性よりは華奢で身長も低めの鷹也だが、真姫よりは身長も高いし、力もある。そのままの体勢を維持しつつ、真姫に声をかける。

 

「ほら、早くどいて。」

「あ……」

「おーい、真姫?」

「つっ……!!!」

 

呆けるように箱と鷹也を交互に見ていた真姫が鷹也の声で正常な思考を取り戻し、顔を真っ赤にすると飛びのくような動きを見せて、鷹也の腕の下をくぐるようにその場から動く。鷹也はその様子を見てなんともないみたいだなと判断し、ゆっくりと椅子の入った箱を棚からおろして床に置く。そしてこちらを見て、何とも言えない気まずそうな表情をする真姫に確認する。

 

「大丈夫?」

「え、ええ。」

「だから気をつけろって言っただろ。ある意味穂乃果よりも危ないな、真姫は……」

「そ、そんなこと……」

 

実際に鷹也に最初から頼ればこうはならなかったのに、あのまま箱が落ちてきていたら危なかったのだから何も言えないのだろう。うつむく真姫にやれやれと苦笑しつつ鷹也は床に置いていた箱をもち上げて脇に抱える。お礼がないのも彼女の性格上仕方のないことだし別に気にしていない。真姫に怪我がなかったのならそれでいいだろう。それ以上は特に何も言わずに鷹也が、今度は海女さんが使うような取った貝などをいれる大きな桶のような物を見つけて首を傾げながら物置から出ていこうとすると、黙っていた真姫が口を開く。

 

「……手の怪我、どうしたの?」

「ん?ああ、いや、これは前から。さっきのことのせいじゃないから気にしなくていいよ。」

 

鷹也はそう言って手の甲を見せて苦笑する。ことりにもよく聞かれるのだが、こればっかりは隠せないのでそのままにしている傷だ。真姫には関係のないものである。しかし、真姫はそんな鷹也に首を横に振る。そして鷹也の手首より少し上。普段は袖に隠れて見えない部分を指さす。

 

「そこ。さっき箱を支えてる時に袖が一瞬少しだけ捲れて、腫れてるのが見えたわ。」

「ああ、これ?最近転んでさ。」

 

一瞬しまったと思うも、なんの動揺も示さずにすぐに答える。長袖を着ているこの状況。隠れていた傷。余計にこの話題に関して動揺してはいけないし、長引かせてはいけない。真姫もそこを違和感に思ったからこそわざわざ聞いてきたのだろう。納得できないといった表情を浮かべる真姫が口を開く前に鷹也が続けて言う。

 

「何?かばってくれた時に怪我させちゃったんじゃ……って心配になった?」

「そ、そんなことないわよ!急にそんなに腫れるわけないでしょ!」

 

からかうように言う鷹也に真姫が顔を真っ赤にして反論し、それに鷹也がそうだよなと笑って見せてこの話題を終わらせる。真姫もこれ以上その話を続けることなく、少し顔を赤くしてむくれながら鷹也の後ろをついてくる。それにほっとしつつ、箱を脇に抱えて鷹也は真姫に聞く。

 

「これもさっきの場所でいい?」

「……いいわ。っていうか自分で持つからいいって言ってるじゃない。」

「ここまできてまだ言うか……ん?」

 

少し軽くなった箱に首を傾げて後ろを見ると、そこには同じように箱を脇に抱える真姫。何してんのとでも言うように鷹也が視線を向けると、真姫はそっぽを向いて言う。

 

「別に持ってもらわなくてもいいって言ってるでしょ。だから自分で持ってるだけよ。」

「すっごく間抜けな絵面になってないか?」

「だ、だったら持たなきゃいいでしょ!!」

 

そう言う真姫に苦笑しつつ、少し前の方を持つように持ち帰る。こうすれば真姫も持ちやすいだろう。

 

「……さっきは助かったしそのお礼よ……それに怪我してるならなおさら持たせるわけにはいかないじゃない……」

 

小さくつぶやくような声で後ろから聞こえてきた言葉は真姫のためにも聞こえなかったことにすることにした。どうせ真姫のことだ。反応しても素直に返してこないのは分かりきっているのだから。

 

 

 

 

 

そして真姫の相手を終えて、現在鷹也は絶賛ビデオ撮影中。飲み物を取ってくるという真姫がいない間にパラソルの下でビデオ片手にうちわであおいで自分に風を送る。飲み物も自分が取ってくると言ったのだが、自分で行くからいいと今回は本気で断られたのでパラソルの下で撮影中。海の中で水鉄砲を片手に結構な勢いで撃ち合うメンバーを眺めつつ撮影しつつ、少しの間ぼーっとしていると後ろから声をかけられた。

 

「はいこれ。」

「えっ?いいのか?」

「これでだめって言うわけないでしょ。」

 

飲み物を持って戻ってきて、いらないなら捨てるけどという真姫から慌てて飲み物の入ったコップを受け取り、のどを潤す。わざわざ真姫が自分の分も持ってくると思わなかったので驚いたが、ちょうどのどが渇いていたところだったので助かった。鷹也が真姫にお礼を言うと真姫は別にと言ってそっぽを向いて椅子に腰かけて、飲み物と一緒に持ってきた本を開く。

 

「……ここで本読んでるつもり?」

「悪い?」

「いや、悪くはないけど……」

 

そう言って鷹也は苦笑して、真姫にもう1度お礼を言ってからパラソルの下からでる。これ以上はうっとうしいだけだろう。そばにいては真姫も落ち着かないだろうし。そう考えて、今度は海にいるメンバーのもとへ。

 

「あ、鷹也くーん!!」

「お兄ちゃんは入らないの?」

「俺は撮影係だから入りません。ほら、遊んで遊んで。」

 

大きく手をこちらに振る穂乃果とことりにそう言いつつ、カメラを片手に手を振る。実際この言い訳なら海に入らなくて済むので重宝している。実際は体の傷がバレるので入りたくないのと、体の傷がしみるので入りたくないというのが半々の理由なのだが。

 

「ノリ悪いわね~」

「にこちゃん、隙あり!!!」

「ぶふっ……!!」

 

鷹也の返事にやれやれと言うように首を振るにこに向かって水が勢いよくかけられ、その姿が海中に沈む。的確に顔面めがけて放たれたその水の発射点を見てみれば、そこにはどや顔で水鉄砲を掲げる凛。

 

「やったにゃー!!」

「ぷはぁ……!!あ・ん・た・ね~!!」

「わあっ!復活した!!」

「そもそもやられてないわよ!!」

 

ゾンビが復活したかのような驚きの声を上げる穂乃果に向かって言い返すと、にこは持っていた水鉄砲のタンクに水を補給。穂乃果と凛に向かって銃撃を開始する。

 

「待ちなさーい!!!」

「うわわわわあああ!!」

「かよちーん!ことりちゃーん!助けてーー!!」

「り、凛ちゃん、穂乃果ちゃん!こっちこないでー!!」

「わわっ……だれかたすけてーー!!!!」

 

凛を発端としたにこを鬼にする一方的な水鉄砲の銃撃戦が開始されるのをビデオ片手に笑いながら眺めていると、希と絵里、そしてその2人の影に隠れるように海未が近寄ってくる。

 

「なんや、楽しそうやね?」

「いつも通りの流れだけどね。凛と穂乃果が発端でにこが乗せられて、ことりと花陽が巻き込まれる。」

「少ししか見てなかったけれど目に浮かぶわね、その光景……」

 

希に言われて鷹也がそう答えると、絵里が苦笑する。実際にこのような場ではその流れが定番だろう。穂乃果を撃ちぬいたところでにこの水鉄砲の水がなくなり、その隙に形勢逆転。今度はにこが追いかけられているのをビデオに収めながら、鷹也はちらりと海未の方を見る。希と絵里の陰に隠れるようにしている海未は鷹也に見られているのを察したのか、ますます2人の影に隠れて極力自分の水着姿をこちらに見せないようにしていた。

 

「あ、あんまり見ないでください……!!」

「毎年海に行って毎年言うよな、それ。いい加減慣れてもいいんじゃない?」

「無理です!男の人に堂々と水着姿を見せるなんて……!!」

 

そう言って隠れる海未に鷹也と絵里、希は顔を見合わせて苦笑する。先ほど海未に関しては希がビデオを撮っていたようなので自分が撮る必要はないのでまあいいのだが、この映像をPVにするとしたら、海未の許可がでる編集ってどうなるんだろうと少し思う。

 

「鷹也くんは女の子の水着見ても全く動揺しないんやね?」

「そーだな。別に今さら動揺も何もなぁ……」

「あからさまに恥ずかしがられるのも嫌だけれど……なんにも思われないっていうのも複雑ね。」

 

希の問いにそう答える鷹也に絵里がそう言って複雑な表情を浮かべる。女子としては意識されすぎるのも嫌だが、全く意識されないのもプライド的に嫌だというところだろうか。鷹也はそんなことを考えつつ、口を開く。

 

「そうは言っても毎年穂乃果の思い付きで海に連れていかれてるからね。女子の水着姿は見慣れてるんだよ。そもそもこんなことで動揺してたら毎年穂乃果たちと海に行ってなんかいられないよ。」

「まあ、そうかもしれないわね。」

 

穂乃果も海未もことりも、さらに言えば雪穂も一般の水準から比べれば確実にひいき目を抜きにして美少女と言っていいルックスを誇っている。そんな子たちと毎年海に行っていれば、動揺を顔に出さない術なんて嫌でも身に付く。その鷹也の心情を察したのか。苦笑する絵里に頷いてから鷹也は続ける。

 

「まあ、見慣れてるってだけでみんなの水着姿が魅力的でないっていうわけじゃないよ。」

「そんな淡々と言われても……でもまあ褒められるのは嬉しいわ。ありがとう。」

「ほら、海未ちゃんもいつまでも隠れてないで!」

「ちょ……やめてください、希!」

 

淡々と言わないと恥ずかしいではないかと顔に出さないだけで恥ずかしさが少しはある鷹也は思うが、とりあえずお礼を言う絵里と、希に前に出されそうになって全力で抵抗する海未を見て笑っていると横から声がかかる。声の方向を向くとそこにはこちらに手を振る花陽とスイカを掲げる凛の姿。横にいるにこの顔が疲れ切っている様子を見るに、水鉄砲銃撃戦はにこの負けらしい。

 

「た、鷹也さーん!みんなー!」

「スイカ割りやるにゃー!!!」

「今行く!ほら、いこう?」

 

全力で楽しんでいるであろう声に呼ばれてそちらに行く。まだまだ海水浴は終わらない。

 

 

 

 

 

それからスイカ割りをしたり、さっきの仕返しとばかりににこが凛を砂浜に埋めるのを笑って手伝ったりして、次はみんながビーチバレーを行うのを横でビデオ片手に眺めている。最初は海水浴を渋っていた海未も混ざって楽しんでいるし、今日は1日中このままだろうなぁと思いつつ、視線を少し離れた場所に座る真姫に向ける。

 

「ぐぬぬ………」

「…………………」

「いやぁ、それは無理があるんじゃ……いてっ」

 

なぜかそのそばに行っていたにこが真姫の隣の椅子に寝転がり、真姫の足の長さを目の当たりにして対抗して足を頑張って伸ばしているのを見ながら、聞こえないように呟いて苦笑していると頭に軽い衝撃。横を向いてみると片手をふり抜いた姿でにっこりと微笑むことりの姿。どうやら完全に狙って当てたらしい。

 

「油断大敵っ!お兄ちゃんもやろ?」

「いや、だから俺は撮影係……」

 

満面の笑みで言うことり。おそらく撮影しかしていない自分も遊んでもらおうと誘ってくれているのだろう。そんなことりに苦笑しつつ言おうとして、ふと思いつく。今回の合宿のテーマは先輩禁止、もとい仲良くなること。それに関して言えばあの少女の状況はよろしくないだろう。鷹也は横に転がるビーチボールを手に取って構える。

 

「よし、じゃあ少しくらい混ざるか。」

「おー!やった!鷹也くん、かかってこーいっ!」

「凛も負けないにゃー!!」

 

交代と言ってこちらに場所を譲る希にありがとうと言いつつ、楽し気な笑みで構える穂乃果と凛を見る。しかし、今回鷹也が狙うのはこの元気娘2人ではない。鷹也はこれくらいなら怪我してても痛みも少ないだろうと少しためてから、狙いを悟られないように急に体の向きを変えて思いっきりアタックを決めるために腕をふり抜く。

 

「ぶふっ!?」

『あ………』

「あ、あれ?手元が狂ったかな……?」

 

みんなのやっちゃったというような呟きが漏れる中、鷹也の誤魔化すような気まずげな言葉が口から出る。狙ったのは真姫のいるあたり。もちろん当たらないようにする予定だった。当たっても足。もしくはテーブルあたりの予定だったのだ。しかし実際に鷹也のアタックによって打ち出されたバレーボールが当たったのは

 

「にこっち、きれいに吹き飛んだなぁ……」

「あれ、結構いたいんじゃ……」

「鷹也さん……」

「ち、ちょっと待って。わざとじゃないから!まさか顔面行くとは……おーい!にこ!本当にごめん!大丈夫!?」

「いったぁ……もっと離れてやりなさいよ!」

「あ、意外と元気そうだね。」

 

苦笑する希と心配そうな花陽とジト目でこちらを見る海未に弁解しつつ、鷹也が声をかけると椅子の上に復帰したにこがこちらに叫んでくる。ほっとしたことりが言うように意外と大丈夫そうだ。それを確認して穂乃果が声をかける。

 

「にこちゃんも一緒にやろうよー!!」

「ふんっ……だれがそんな子供みたいなこと……」

「あんなこと言って本当は自信ないんだにゃー」

「なんですって!何言ってるのよ!」

「あ、乗ってきた。子供だ。」

 

単純な挑発に乗ってこちらにボールを回収してから走ってくるにこを見ながらそう感想をもらしつつ、鷹也はパラソルの下にいるもう1人の少女、真姫に声をかける。

 

「真姫!真姫もビーチバレーやんない?」

「私?いいわよ、私は別に……」

「ん~ダメか。」

 

そっけない態度で視線を手元の本に戻す真姫にため息をつきつつ、あれがきっとにこがやろうとしていた反応なんだろうなと思って苦笑する。するとそこに希と絵里が近づいて来る。

 

「真姫ちゃんは釣れなかったみたいやね?」

「なんだ、気が付いてたの?」

「さすがにね。」

 

そう言う周りをよく見ている希と絵里の言葉に鷹也は肩をすくめる。仲良くなるのが目的でもあるこの合宿。未だに先輩や鷹也のことを名前で1度も呼んでいない真姫をさっきのパラソル強襲のビーチボールアタックで引っ張り出せたらよかったのだが、出てきたのはにこのみ。真姫はいまだにパラソルの下で本を読むお嬢様スタイル続行中だ。3人は顔を見合わせて苦笑する。

 

「真姫もさっきのでこっちに出てきてくればよかったんだけどね。」

「そうね。真姫はなかなか難しそうね……」

「「………………」」

 

鷹也の言葉にそう返した絵里に対して、鷹也は希と顔を見合わせて笑う。思ったことは一緒だろう。

 

「何かおかしいこと言ったかしら?」

「別におかしくはないけど……な、希?」

「そやんな。」

 

不思議そうな顔をする絵里に向かってなんでもないと言いつつ、再開されるビーチバレーに参加するよう促す。そろそろ陽が沈む。ここまできたら最後まで海水浴で楽しんでもいいだろう。

 

 

 

 

 

結局今日は練習はせずに1日遊びっぱなし。海未はそのことに気が付いてうなだれていたものの、今さら後悔しても遅い。とりあえずはシャワーを浴びてこいと言ってみんなが真姫に案内されてお風呂場へ。鷹也は海水に浸かったわけでもないのであとでもいい。ずっと長袖長ズボンでいたせいで汗が結構ひどいことになっているが、それはぎりぎり許容範囲内だ。彼女たちのあとでシャワーを浴びれば済むだろう。鷹也がそんなことを考えてリビングでぼーっとしていると、どうせ海水に浸かるわけでもないんだしと思ってポケットに入れっぱなしにしていた携帯が着信を告げる。嫌な予感を感じつつ、画面を確認すると案の定の番号から。ため息をついて、玄関から外に出て電話にでる。

 

「はい、もしもし。」

『あ、鷹也くーん?いつものところよろしく~』

「ごめん、今はちょっと遠くにいていけそうにないんだよね。」

『は?何言ってんの?』

 

恭介の取り巻きの1人の言葉にそう返すと明らかに相手の声のトーンが1段階下がる。どうするかなぁと考えている間に向うで何かやりとりが聞こえて、相手が恭介に変わる。

 

『よう、鷹也。来れないってのか?俺らからの呼び出しに?』

「別に行ってもいいんだけど……数時間はかかるよ?今、合宿の付き添い中だからさ。」

『合宿ね……』

 

恭介が少し考え込むように黙り込む。こんなことで黙るなんて珍しいなと思うも、行かなくてもいいならそれにこしたことはないので言う。普段なら別に行くのに何のためらいもないが、今は彼女たちの大事な合宿中。自分にも先輩禁止のルールが適応されている以上、自分も無関係というわけにはいかなくなっている。彼女たちの迷惑になる今の状況は邪魔させてはいけない。軽い口調で言う。

 

「そう、μ’sの合宿。だから今は抜けられない。」

『……それでも来いと言ったら?』

「ん~……」

 

少し考え込む。今回のことを許してしまえば、これからも彼女たちに迷惑がかかる可能性がでる。つまりは自分だけの問題で納められなくなる。それなら答えは簡単だ。これまでの口調のトーンから1段階トーンを落とす。本気で、自分の覚悟を全て相手に伝えるように声をだす。

 

「恭介くんたちを潰すよ。俺の全部をかけてでも。」

『……俺相手に喧嘩でもする気か?』

「まっさか。恭介くんに俺が喧嘩で勝てるわけないでしょ。」

 

一瞬黙り込んでから言った恭介に口調をもとの軽いものに戻して言う。体格差だってバカにならないうえに、1対多数。喧嘩の勝ち目は0でしょと笑う鷹也に恭介が口を開く。

 

『じゃあ警察にでも言うか?そんなことしたらμ’sは終わる可能性だってあるぞ?』

「そうだね。だからそれもしない。」

『それならどうするってんだ、お前に何ができる?』

「なんでもできるさ。」

 

真剣な声色で告げる。自分のためには何もできない。自分は何もないと思っているから、価値がないと思っているから。そんな自分のために、何もない自分のために、自分を犠牲にして、一生懸命になって自分を使うのは意味がないから。どっちみち一生懸命になっても大したことは自分にはできないし、一生懸命になっても自分には何も生まれないから。自分を犠牲にしても自分には意味がないから。だけど、彼女たちのためならば。妹と妹同然の彼女たちのためなら、夢に、希望に、やりたいことに突き進む彼女たちのためなら。

 

「俺はあの子たちのためならなんだってやってやる。あの子たちの迷惑になるようなことなく、恭介くんたちを潰してみせる。例え自分がどんなに危険なことになっても。例え自分が犠牲になろうとも、それをあの子たちに気づかせずにやってのける。大したことできない自分だけど、自分のこと考えずに動けばなんでもできるもんだよ?」

『……変わらねえな、本当に。』

「これでも変わってたんだよ?できるだけあの子たちの思ってくれてる自分を否定しないようにって気持ちが出てきてたから。でも……」

 

実際にこれまでの鷹也ならまず今の段階でμ’sと関わるのをやめているはず。それを続けているのは変化に違いない。このことに関しては今の鷹也の最善は彼女たちの気持ちの最善だ。しかし恭介と再会し、会話することで思い出した。再確認した。冷めた感情が、失せた心が指し示したのだ。彼女たちにバレなければその限りではない。彼女たちにバレていない以上は彼女たちの気持ちの最善も、自分を犠牲にするもしないも何もないと。それならば基準となるのは彼女たちの最善。感情的でなく理論的な最善だと。だから

 

「……本質は変わらない。あの子たちの最善を邪魔する可能性が出てくるなら、あの子たちに一切何もバレないように、俺の全てを犠牲にしてでもその可能性を潰す。」

 

———だってそれが自分だから———

 

『……………………そうかよ。ほんっとうに気に食わねえな、おめえは。』

 

今回は見逃してやる、次は来いよ。そう言って恭介からの電話が切れる。鷹也は大きく息をはいて空を見上げる。夕日が水平線に沈んでいくにつれて濃くなっていく赤はとてもきれいで。鷹也はしばらくその赤を見つめる。そこでふと気づく。ちらりと視界に入る、夕日によってより明るい色に見えるセミロングの髪。

 

「真姫?どーした?」

「……気が付いてたの?どうしたのはこっちのセリフよ。」

 

まあそうだよなと苦笑しつつ、鷹也は振り返る。そこには水着から着替えて、ここまで来るときに着ていた服に身を包む真姫の姿。その顔は複雑な表情で歪んでいて。鷹也はそれに気づいていないふりをして続ける。

 

「みんなは?」

「リビングで休んでるわ。」

「そっか。じゃあ、俺もシャワー借りようかな。いい?」

「それはいいけど……」

 

真姫に確認をとって、その横を通り抜けて風呂場に向かう。最初に家の中を確認して回った時に場所は確認してある。鷹也は玄関で靴を脱ぎながら、後ろで立ち尽くす真姫に声をかける。

 

「どうしたの?ほら、さっさとみんなのとこ行きなよ?」

「…………なに考えてたの?」

「え?」

 

靴を脱ぎ終え、真姫に向き直る。珍しくこちらに興味をもって、こちらの内面に踏み込んでくる真姫の表情は真剣で。

 

「何でか分からないけど……放っておいちゃダメな気がしたのよ。電話してるのを見たけど……何を話してたの?」

「……ん~中高って一緒の友達から連絡きててさ。懐かしくなって。少し感傷に浸ってたんだよ。」

 

嘘をつくなら虚実混ぜ合わせて。この方がリアリティは出るだろう。事実ほとんど嘘はない。鷹也はそう判断して完璧な笑顔でそう言うと、恥ずかしいからみんなには内緒なと言って歩きだす。後ろの方で真姫が納得いかないというような表情を浮かべているのが想像できて苦笑しつつ、最後にと口を開く。

 

「真姫はまだ高校生活があるけど……あっと言う間だよ。それがどんな青春であれ思っているよりもすぐ時間は過ぎる。それはそれから続く人生に多大な影響を与えることになるんだ。だから……せっかく周りにあんないい仲間がいるんだ。早く素直になれるといいな。」

「……なんで私の話になるのよ。っていうか素直もなにも私は普通にしてるだけよ。」

「そっか。まぁ……ちょっとした年上のお兄ちゃんのアドバイスだよ。」

 

そう言って振り返ると、鷹也は悪戯っぽく真姫に笑いかけて、それから風呂場に向かって歩きだす。真姫はその背中に何も言わず、少しの間考え込むように立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

———だってそれが自分だから———

 

その言葉を聞いた瞬間、つい舌打ちが出そうになった。そのくらい気に食わない言葉。そのくらいにあの少年のことを気に食わないと思うことになった原因の言葉。

 

「帰るぞ。今日はなしだ。」

「え~!なんでだよ、恭介。別に呼び出すくらい簡単じゃねえか~」

「うるせえよ。さっさと行くぞ。」

 

うるさい周りの連中を黙らせつつ、一人暮らしの自分のアパートへの帰路をたどる。普段なら誰か他の連中の家に行くか、外でたむろすかでもするのだが、今日は金もないしそんな気分にはならない。

 

(本当に昔のまま変わらねえ…………)

 

昔1度だけ聞いたあの言葉。それまでも気に入らなかった鷹也が自分にだけ告げたその言葉の真意。自分が価値のない人間だと思っているという言葉。自分を強く持っているからでもなんでもなく、自分を諦めているだけというその言葉。聞いた瞬間に怒りが湧き上がったことを今でも思い出すし、今でもイライラが募る。あの完璧な、完璧すぎる笑みからでるあの言葉。

 

(ほんっとうに気に食わねえ………!!!!)

 

今度こそ大きく舌打ちをし、内心のイライラを転がっていた空き缶を蹴ることでぶつける。カランコロンと音を立てて転がる缶に、イライラは全くなくならない。

 

 

 




はい、いかがだったでしょうか。
鷹也くんの悪いところは根強いです。結局自分の本質は簡単には変わらないのです。

番外編に関してですがクリスマス回にしようと思うのでクリスマスイヴに投稿を目標にします。心が折れていたとはいえ途中まで書いていたのでせっかくなら書ききりたいと思って……

ことりとの絡みを推す意見をいくつかいただいたのでことりとの話も盛り込みたいと思いますが、他の何か意見、リクエストあれば考慮します。

クリスマス回を季節の番外編としてUA40000越えの記念回を他の番外編にしてもいいとも思ってるので番外編のテーマに関してリクエストがあればそれも考慮したいと思います。
その場合は本編更新が最優先となるので次の番外編の回に回すことになるかもしれませんが……汗

それでは次回も引き続きよろしくお願いします。
できればでいいので感想・評価もお待ちしています。
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