今回はまくら投げ回
海未ちゃんは起こされたときの機嫌の悪さでものすごいまくら投げ強キャラになってますが、気が付けば枕投げ以外でもすごいキャラになってしまいました。キャラ崩壊してる気もしなくもない……汗
でも音速まくらを投げれる人はあのくらいできるし、やりかねないと思います。
そんな中で今回は絵里の出番が多いです。
それではご覧ください。
「っつ……!はぁ……はぁ……はぁ……!みんな!大丈夫!?」
「はぁ……う、うん!みんないるよ!でも……」
走りながら確認し、ことりの返事を聞いてから廊下の角を曲がり、立ち止まって角からそっと顔を出すと、まっすぐに走っていた先ほどまでの後ろを伺う。すると、顔のすぐ横を何かが通り過ぎる感覚。
「っっっっつ!!!!」
一切反応できない速さで横を通り過ぎていったそれは壁に鈍い音を立てながら激突して、床にぽてっと落ちる。それが柔らかいまくらであることを確認し、冷や汗をかきつつ、リビングに続くドアを開けて廊下に姿を見せた長髪の大和撫子の鬼、園田海未の姿を視界に収める。あちらがドアを開けたばかりでこちらが曲がるタイミングだからこそ避けれただけだ。あとは廊下は電気がついていないというのも影響があったのだろうか。何にせよまっすぐ走っていたなら確実に当たっていた。ゆっくりとこちらを見つめるその鬼が歩きだすのを確認して、走ってその場から逃げ出す。
「おい……これ……逃げ切れる気がしないぞ……」
「って言ってもこのままじゃ凛たち、あのまくらを顔面に……そんなの嫌にゃー!!」
「私だっていやよ!これ、どこかで鍵かけて立てこもっちゃダメなの?」
走りながら言う凛に真姫が答えつつ提案する。みんながそれだとでもいうように表情を明るくするも、鷹也はそれを却下するように首を振る。
「あれが鍵で止まるように見える?止まるかもしれないけど、下手したら鍵壊して立てこもってる部屋に突入してくるぞ。」
「さすがにそこまでは……」
「音速でまくらを投げれる人間ならやりかねないよ。普通はまくら投げで穂乃果とにこをノックアウトして気絶させることはできないだろ。」
鷹也の言葉に全員が言い返せずに引きつった表情を見せる。そのまま走っていると突き当りに到着。階段もそばにあるので、追いかけて来ていることに気が付いたらすぐに逃げられるであろうことを確認して立ち止まる。唯一の救いは相手が走ってこないところだろうか。おそらく寝起きのために走る気まではないのだろう。意識もはっきりとしていないだろうし。全員が軽く息を整えつつ相談するために円になる。とりあえずは作戦会議だ。
「まくらを全部取っちゃうっていうのはダメなん?」
「それもだめだ。まくらの次は布団が飛んでくるなんてことになりかねない。」
「海未って本当にすごいのね……」
希の提案を鷹也が真剣な顔で却下するのを見て絵里が引きつった笑みを見せながらそう言う。その引きつった表情が海未の機嫌が悪いときの力に驚いているというよりは何か恐怖が混じっている気がして違和感を覚えるも、鷹也はそれを一端気にせずに視線をみんなに向ける。ことりも海未が寝ているときに起こされたときの機嫌の悪さは知っているので鷹也の言葉にうんうんと頷いている。立てこもりも相手の兵器を削ることもできないとなると選択肢はおのずと限られてくる。鷹也は人差し指を立てて言う。
「選択肢は少ないよ。1つはこのまま海未が諦めるまで逃げ続ける。もしくは隠れてやり過ごす。」
「でも、あの海未ちゃんが諦めるとは……」
「そうだな。だからこの案の条件は徹夜確定。寝れないどころか海未の機嫌の悪さが次の日まで持ち越される可能性まである。」
花陽の指摘に頷いて言った鷹也の言葉にみんながげんなりとしてそれは……と嫌そうな顔を見せる。まあ、そりゃああの鬼のような形相と雰囲気を持った海未がそのまま明日まで続くのは遠慮願いたいだろう。人差し指に中指を追加して2本指を立てて2つ目の選択肢。
「2つ目。あの鬼と交渉できるように何とか持って行く。」
「無理よ。あんなのこっちの話なんて聞く気ないわよ。」
「というか完全に非は寝ているところで騒いでいたこちらにあるものね……」
この選択肢は確実に誰か1人、いや複数人を犠牲にしないと実行できないだろう。しかも交渉できるように持って行ったところで海未のお仕置きから逃れられる保証はない。しかめっ面で言う真姫と相変わらずどこか硬い表情の絵里に頷いて鷹也は3本目。薬指を立てて口を開く。
「3つ目。鬼にまくら投げで勝つ。まくらを手に入れて、ある程度の勢いでぶつければ寝起きの海未のことだ。その衝撃で意識がとんで、きっと寝てしまうと思う。今の超不機嫌な鬼モードもきっと9割方寝てるからこそ理性がとんでるんだろうし。」
「これもこれで難しそうやね……」
「でも、これが1番現実的だ。他の選択肢を考慮しても1番何とかなる可能性がある。それでもだいぶ低いけど……」
実際に他の選択肢に比べればまだマシ程度というだけで、あの海未にまくらを当てるなどかなりの難易度だ。音速まくらを投げれる相手に対抗して真正面からまくらを当てれるわけなんかない。つまりはなんとか他のところに気をとらせて、その隙をつくしかないというわけで。
「何このその辺のホラーゲームに引けをとらない激怖激ムズホラーミッション。場所バレること考えると電気つけるわけにもいかないし……俺、関係ないのに……」
「お兄ちゃん、もうきっと完全に狙われちゃってるからね……。ごめんね?巻き込んじゃって……」
「いや、まあみんなのこと放っておくわけにもいかないからいいんだけどさ……」
さすがにあの状態の海未にみんながまくらを顔面にぶつけられるのを放っておくのは気が引ける。遊びのせいで発生してしまった状況であるし、確かにあの音速まくらは危険で深刻ではあるがその深刻さの度合いも微妙なもの。彼女たちのためになら自分のことは気にせず動くと決めている自分の行動原理に当てはめるほどのことでもない気もするが、乗り掛かった舟だ。当てはめてしまおう。そうでも考えないとこの状況ではさすがにやってられない。そう考えて、申し訳なさそうにしていることりを大丈夫と頭を撫でて安心させているところでふと気が付く。さすがに追いつかれなすぎではないだろうか。嫌な予感を感じつつ、さっき自分たちが来た方を見張っている凛とこの別荘の構造に1番詳しい真姫に確認する。
「凛、鬼はまだ来てない?」
「うん、来てないよ。」
「真姫、この別荘の構造って1階と2階。それぞれで一周できるようになってると考えて正解?」
「ええ。階段は四隅と吹き抜けのリビング……って……まさか……」
真姫も同じ発想にいたったのだろう。引きつった表情で顔を見合わせる。背中を冷や汗がつたう感覚がするが、真姫も同じように冷や汗かいてるのだろうか。どうでもいいことを現実逃避気味に考える頭を無理やり動かそうとしたところで聞こえてきた。
「みつけましたよ……」
「ふせろっっ!!!!」
「「「きゃあああ!!!」」」
「にゃああああ!!」
全く意識していなかった方向から響く声。その声に驚いたのだろう絵里と花陽とことり、そして凛の悲鳴。その声を聞きながら、その中でおそらく反応が遅れそうなことり、花陽の頭をつかんで無理やり伏せさせる。その頭上をまくらが風を切りながら飛んでいったのを確認して立ち上がり、花陽とことりの手をつかんで駆け出そうとして
「逃がしません……」
「っつつ……!!希!その2人と凛を頼む!!絵里!!真姫!行くぞ!!」
「鷹也!絵里!こっち!」
その2人の手をつかむ前にその間にまくらがとんできてつかむことは叶わない。比較的落ち着いて反応していた希に他のメンバーを任せつつ、希が頷いて他のメンバーを引き連れてもと来た廊下を走っていくのを確認してから残りの2人に声をかける。真姫はその声よりも先に行動していたらしく、階段の下へと鷹也と絵里を誘導しようとしていた。しかし
「怖いよぉ……もぉやぁ……怖いよぉ……」
「ちょっ!絵里!?行くぞ!!」
「怖いのもうやぁ……」
「ああもう!真姫!先に行って!っつ!?」
「きゃああ!!!」
うずくまる絵里に驚くも、気遣う余裕もない。鷹也は真姫に先に行くように促してから絵里の腕を引っ張って無理やりその場から動かす。そのさっきまでいた場所にまくらが飛来するのを見つつ、鷹也は悲鳴をあげる絵里を無理やり引っ張って階段を降りて1階へ。階段の踊り場で折り返した時にちらりと見えたのは、海未がまくらを回収する姿。そして聞こえてきた呟きは
「すぐ寝かせてあげますからね……それから私も寝るんです……」
「だから言葉と言い方が怖いっての!!なにこの展開!!!」
結局真姫は先に行ってしまったようで追いつけず、鷹也は希たちも1階に降りてきて合流しようとしてることを考えてとりあえずリビングに向かおうとして、その前に海未が来ないことを確認して先ほどの2階で立ち止まっていた時の階段とは違う階段の1階部分で休憩として座り込んでいた。おそらく海未は希たちの方を追いかけていったか、もしくは先ほどのように急襲しようと移動中といったところか。鷹也はそんなことを考えつつも動けない現状にあり、どうしようかと頭を悩ませる。そう、動けないのだ。というのも
「……えっと……離れることは……」
「っん……!!」
「ですよね……」
座り込む鷹也の腕にぴったりと寄り添うようにくっついて座る絵里が涙目で全力で首を横に振るのを見ながらため息をつく。どうやら先ほどの海未の急襲がよほどこたえたらしい。まあ気持ちは分からなくもないのであまり強く離れてくれとは言えない。しかし、できればあまりくっつかないでいただきたいのだが。高校生離れしたプロポーションを持つ絵里にパジャマという薄着でくっつかれるのは精神的に気を使うし、気後れしてしまう。少しでも気を紛らわせようと会話を続ける。
「絵里ってもしかして……暗いところとかって苦手?」
「……………………」
「無言は肯定とみなすよ。」
先ほどみんなで暗闇の廊下で話し合いをしていた時の引きつった表情。あれは暗くて怖いのを我慢していたのだろう。みんなでいたから大丈夫だったというところか。しかし、その虚勢も海未のあのホラーゲームさながらの怖さの登場の仕方にはもたなかったらしい。鷹也の問いかけに何も言わずに気まずげにそっぽを向く珍しい様子を見せる絵里だが、結局先ほどからなぜか多いちょっとした物音にびくっとしている。その様子に苦笑しつつ、鷹也はそれなら仕方ないかと周りに耳を澄ませて海未、もしくは希たちかが近づいて来るかもしれないことを警戒することでくっついてきている絵里のことを意識しないように努めることにする。
「……ごめんなさい……」
「え?」
それから少し黙っていると、多少は落ち着いて来たのか。絵里がこちらに視線を向けながら謝ってくる。その言葉になんで?と鷹也が首を傾げて見せると、絵里は気まずげに口を開く。
「いえ、この歳にもなって暗いところが怖いなんて……それで迷惑かけてしまったし……」
「ああ、そういうこと。」
申し訳なさそうに言う絵里の言葉に納得する。自分ではどうしようもなく怖いのだから仕方ないけれども、できれば周りには隠しておきたい恥ずかしい面だったのだろう。そのみっともないと思っている面を見せてしまって、それでいて迷惑までかけてしまったと絵里は思っているのだ。鷹也は少し考えてから言う。
「う~ん……確かに少し意外だったけど、謝るようなことじゃないよ。」
「でも……迷惑かけてしまったことは事実でしょ?だから……」
「迷惑なんかじゃないよ。」
もう1度謝ろうとしたらしい絵里の言葉を遮る。この少女のいいところからくる悪い面。責任感が強いあまり全ての責任を自分で行おうと、背負おうとする。自分だけですべてのことをなんとかしようとする。できてしまう。そのために自分から誰かに頼るということができない。頼るのは迷惑だ。相手に対する負担だと思ってしまうのだろう。迷惑。それは相手がいやに思っているときに使う言葉だ。鷹也はいやになんか思っていない。そもそも自分の利益なんて考えていないのだ。絵里のためになれるならそれは鷹也の利益だ。
「苦手なものは仕方ないよ。無理しなくていい。頼ればいいんだよ、誰も迷惑なんて思わないから。」
そう言って絵里の頭にポンと手を置く。少しびっくりしたようでびくっとする絵里の髪を撫でつつ、鷹也は微笑む。
「苦手なものがあるのは当たり前だよ。それを補いあうのが仲間で、補うのがサポート役である俺の役目だよ。」
だから頼って?そう言う鷹也に絵里は恥ずかしそうにうつむく。
絵里はμ’s加入前には生徒会長としてだけ頑張っていた。頑張りすぎていた。それを希が支え、それだけでは絵里の抱えるものは溶かしきれなかったからここに導いた。ここにいれば彼女は自分だけで抱え込む必要はない。暗いところが怖いということはできるだけ隠したいことだろうから言わなくてもいいが、先ほどのように頼ることが迷惑だと思ってしまうという意識だけは、鷹也は変えておいてもらいたかった。
「まあ、頼りすぎはよくないけどね。みんなを支えるだけじゃなくみんなと支え合う。絵里は俺みたいにコーチじゃないんだからそれをしていい立場だよ。」
そう言って鷹也は手を絵里の頭から離す。やりたいことがまったくない自分と、自分と違ってやりたいことを素直に言えないだけで自覚している絵里。だからこそことりや凛の時とは違って、今回は完全にきちんと言葉を伝えれる。似たもの同士のようで根本的に違うことが分かっているから。自分と違って思いを、やりたいことを持つ絵里がそれを素直に言える、支え合えるのがこのμ’sという場だ。それは忘れないでほしかった。少しの間、沈黙が生まれる。そしてゆっくりと絵里が口を開いた。
「鷹也の言う通りね。分かってるつもりなんだけれど……」
どうしても周りのこと気にしてしまって。そう言って苦笑する絵里。確かにこの少女はそういう傾向がある。自分のことは後回し。素直にやりたいことが言えないから、我慢を覚えてしまっている。でも
「ちゃんと忘れないように覚えておくわ。みんなを支えるだけでなく支え合う。大事なことよね。」
でも、ここではそんな我慢をしなくていいのだ。絵里が笑顔で言ってくるのに、鷹也も笑顔で頷く。絵里はμ’sのメンバーの中ではしっかりしていて、穂乃果とは違うリーダーシップを発揮するタイプだから心配だったのだ。生徒会長として動いていた時のように険しい表情をすることは減ったが、それに似たような状況にならないか。μ’sの責任を全部背負いこもうとしないか。でも、鷹也の言葉はきちんと届いたらしい。その絵里の笑顔の様子に安堵する。
「でも、1つ間違ってるわ。」
「え?」
内心よかったと息をはいていると、絵里が急にそんなことを言いだして鷹也はきょとんとして絵里を見る。
「鷹也は立派なμ’sの仲間よ。だから、鷹也も支え合う仲間よ。」
「……それに関しては異議を申し立てたいけどね。俺はあくまでもただのサポートだ。」
鷹也はそう言って絵里から視線を逸らす。自分は支えるだけの立場と何回言ってもこの少女たちは譲らない。そもそも自分は絵里と違ってやりたいことも何もないから、支えてもらう必要なんてない。支えるだけ無駄、もはや支えてもらう必要のある部分などない。そう思っているのだが、この少女たちはそう思わないようで。絵里は悪戯っぽく微笑むと
「でも、鷹也は私たちのこと支えてくれるんでしょ?それなら私たちは勝手に鷹也のこと支えることにする。そうすれば支え合いの完成よ。」
「……俺に選択権ないじゃんか。」
そう言う鷹也に絵里はそのとおりよと言って笑う。しかし、そこで急に窓を風が揺らす音。
「きゃ!」
「まずはその怖がりを何とかしないと今は俺を支えるも何もないな。」
「うう…………」
それから絵里もなんとか歩けるようになり、移動を開始する。まだ鷹也の袖をつまんでの移動だが。そしてリビングに向かいその直前の最後の階段のところに着いたところで上から急に何かが落ちてきた。
「ひっっ!」
「ん……?大きいテディベア……?」
驚く絵里を安心させつつ、その落ちてきた物体に近づく。どうやら大きな、鷹也が抱きかかえて持つくらいの大きさのテディベアのようだ。それを抱きかかえたところで気が付く。その首に巻かれたスカーフ。その中に紙が挟まっている。
「何かあったの……?」
「手紙だ……」
恐る恐るのぞき込んでくる絵里に答えつつ、内容を確認していく。そしてその内容に笑みを零す。横を向くを絵里も表情を明るくする。そこに書かれていたのは打倒鬼のためのヒント。内容を見るに、あとは自分たちが動くのみ。ずいぶん待たせてしまったなと階段の上の方を見上げる。明るい色のセミロングの髪が少しだけ見えた気がした。
鷹也と絵里はにこと穂乃果が倒れているリビングに到着して待つ。後はタイミング。合図を待つ間に絵里が緊張を誤魔化すように声をかけてくる。
「というか、ここで寝るかそれでなくても寝たふりをしていたら海未も寝てたんじゃない?」
「それも考えたんだけど……あの鬼、寝たふりを警戒して寝てる人間にもまくら叩き込みそうで怖かったから提案できなかった。さすがにそれはしないと思いたいけど、あの雰囲気の前じゃあ確信持てなくて……」
「確かに……」
リビングは電気をつけっぱなしなので明るいところに来て少し余裕がでた絵里が苦笑する。さすがにそれは99%しないとは思うが、万が一というものがある。完全に寝れたらいいのだが、この恐怖と緊張感の中で海未のチェックを受けながら完璧な寝たふりとできる人などいない気もするのだ。寝たふりがバレたら確実にまくらが飛んでくる。するとそこで1階で何か物音がした。あと少し。
「さ、そろそろ終わらせよう。なんだこのホラーゲーム状態。」
「そうね。いい加減眠くなってきたし……」
次いでリビングの電気が消えて、もう1度つく。ここの電気はつけたり消したりする度に電子音がピッとなる。あの鬼が近くにいてその物音を聞き逃すはずもなく。
「見つけましたよ……」
「さすが……罠かもしれないけど行くしかないと分かってるから来るよな……」
まくらを両手に装備した鬼、園田海未がドアを開けて1階の廊下から現れる。いい加減機嫌が悪い中で振り回されてイライラも最高潮なのか、前髪で目元が隠れた顔が余計に怖い。鷹也は抱えたテディベアをぎゅっと抱きしめる。まくらは準備のために持って行ってしまっている。つまりは、ここで1つ奪わなくてはいけない。絵里を後ろに下げてかばうように前に立つ。
「さあ……もう寝ましょう。今ゆっくり寝かせてあげます……」
「だから怖いっての!気絶は寝かせると違うから!!……くっ!!っつうう!!」
飛んでくる音速まくらをテディベアのクッション性もつかってぎりぎり受け止める。体の傷の痛みに顔をしかめている鷹也をよそに、床に落ちるまくらを絵里が回収して準備完了。もう1つのまくらを海未が投げる前に鷹也はにやりと笑って合図。
「希!花陽!ことり!!」
「いっくで~!」
「え、えいっ!!」
「海未ちゃん、ごめんね!え~いっ!!」
鷹也の声とともに希とことり、花陽が海未が入ってきた方のドア。つまり、海未をはさんで絵里と鷹也と反対の方から入ってきてまくらを投げる。こちら側からは絵里が同じタイミングで先ほど拾ったまくらを投げる。完全に挟み撃ちになった形。しかし、前後の視界を遮るように投げられたまくらを海未は最後のまくらを投げて絵里のまくらと相殺するということもして避けきる。そして、にやりと微笑み言う。
「ふぅ……惜しかったですね。でも、もうおしまいです。さあ寝させてあげます。これで私に当てれなかった以上は……つっ!!」
「誰がこれでおしまいって言った?」
鷹也はそう言って、いつの間にか手に持っていたまくらを投げる。そして後ろからは
「いつの間にまくらを……!!つっ……!後ろも……!!」
「海未ちゃん、覚悟にゃー!!」
同じようにいつの間にかまくらを持って登場した凛がまくらを同タイミングで投げつける。しかし、海未はそれすらも動揺しつつも辛うじて避けてみせる。かすめつつもギリギリで避けた海未が安堵したような笑みを見せるのを見て、鷹也はもう1度にやりと笑う。
「海未らしくないな。寝てない分だけ頭働いてないんじゃない?」
「え……?」
「慎重な海未なら普段は読めたと思うけどな。」
「何を……うッ……う~ん……」
「追い詰めるなら最後まで用意周到に。本命は……」
まくらを頭に受けて倒れて寝息を立てる海未をことりが確認して、オッケーとサインを出すのを見て笑顔で吹き抜けのリビングの階段の上を見上げる。
「助かったよ、真姫。」
「本当になんなのよ、この茶番は……」
そこにいたのは手すりに頬杖をついて、心底疲れたとでも言う様子の真姫だった。
「それにしても真姫。よくあんなこと思いついたな。」
「別にあれくらい普通よ。」
本当に何でもないというように言う真姫に苦笑する。現在、みんなが寝てしまっている海未、穂乃果、にこをきちんと元の布団の位置に戻しているのを、投げられまくっていろんなところに散らばっているまくらを集めながら見ているところである。
「でも、危なかったわね……。まさか凛と鷹也のところまで避けると思わなかったわ……」
「凛も絶対に当たったと思ったんだけどな~……」
絵里の言う通り。本来ならあそこで終わる可能性もあった。惜しかったにゃ~とか言って、布団の上に座って体を揺らしている凛はあの段階でもはやまくら投げを楽しみだしていた気がして他のメンバー全員で苦笑する。
今回の最後の作戦の全貌はこうだ。
真姫は鷹也たちとはぐれた段階で少ししてから2階に戻ったらしい。そこで、希の先導で上手く海未から隠れている4人に遭遇。そこに混ざって行動することも考えたが、鬼を撃退しなくてはいけないということで行動を起こすことに。
まず5人で協力して2階で物音をわざとたてて海未をおびき寄せて、ひきつける。物音を立てて誘導しているのだから物音を立ててそこからすぐに離れる。違うところで物音をたてるを繰り返していただけなので案外楽に誘導は成功していた。
そして安全地帯にいる鷹也と絵里がテディベアを拾った階段。そこに2人がくるのを海未の目をかいくぐりながら待ってから手紙つきのテディベアを1階に落とす。その手紙に書いた最後の作戦が鷹也と絵里に伝わって最後の作戦の準備完了。
リビングに残っているありったけのまくらを回収。それぞれに持たせてから、リビングに鷹也と絵里が来たことを見計らって海未を2階から真姫が物を落とすことで物音を立ててリビング近くの1階の階段付近に誘導。そしてまくらとともに回収しておいたリモコンでリビングの電気を消してつけて物音を立てる。
そうして海未がリビングに行ったところで希とことりと花陽、凛は海未が入って行った側のドアのところにスタンバイ。そのタイミングで真姫もこっそりと2階からリビングの吹き抜けの上部分に入る。
鷹也がまくらを奪取し、絵里がそれを回収したところで第一陣の3人がドアから侵入。それは避けられる前提だ。ただ海未の動揺を誘って最後の手持ちのまくらを使わせ、さらに視界を防ぐだけのもの。その視界が防がれているタイミングで真姫が持っていたまくらの1つを鷹也へ投げて渡す。こうしていきなり鷹也がもう1つまくらを持っているという状況が出来上がる。
そこで凛もリビングに。おそらく最高戦力の投擲のできる2人の挟み撃ち。これで終わらせられるかとも思ったのだが万が一のためにもう1つ手を用意していた、結果的にはそれは大正解だろう。
避けきった海未の頭に真姫が上からまくらを落とす。もちろん勢いが付きすぎて怪我しないように落とすのみで投げるようなことはしない。最初の挟み撃ち。いきなりまくらを持っていた鷹也といきなり現れた凛の挟み撃ち。動揺しきっていた海未にそのまくらに気づく要素はなく。
そのまくらが海未に当たって、海未の意識を眠りに戻したというわけだ。
「それにしても……なんで同じグループのメンバーにここまで本気でビビッて作戦立てて倒さなくちゃいけないんだ……」
「それは……あはは……」
作戦を思い出してため息をつく鷹也に、ことりが苦笑して見せる。フォローしようにもできる要素がなかったのだろう。そんなことりの様子を見て花陽も苦笑している。
「これからは海未ちゃんは寝てる時は気を付けようね。」
「本当ね。真姫が上手くやってくれなきゃどうなっていたことか……」
おそらく全員があの音速まくらを顔に受けて、強制的に夢の世界にご招待となっていただろう。鷹也はそう想像して身震いして真姫に改めて感謝する。あのまくらを受けて気絶するも同然で招待された夢の世界などおそらくろくなものではない。しかし、そこで凛が言う。
「でも、凛はちょっと楽しかったにゃ~」
「本当に楽しんでたのか……いい性格してるな、凛。」
「むう……それって褒めてるの?」
「能天気ってことね。」
「真姫ちゃんまでひどいにゃ~……」
どうやらどころか本当に楽しんでいた凛に苦笑しつつ、鷹也が言うとそれに真姫も同意して言う。それがお気に召さなかったのか。凛は頬を膨らましながら言う。
「そもそも最初に始めたのは真姫ちゃんにゃ。」
「な……」
「そういえばそんなこと言ってたな。」
「ち、違うわよ!あれは希が……」
そこでふと気が付く。真姫が希と呼んでいる。あんなにかたくなに先輩を名前で呼ぶことに抵抗を見せていた真姫が。それに続く形で思い出すのは最初に海未に見つかった階段でのこと。
『鷹也!絵里!こっち!』
必死だったからか。そういえば名前できちんと呼んでいた。鷹也も必死で気づかなかったのだが。とぼけるような様子を見せる希に食って掛かり、まくらを顔に押し付けられている真姫を見ながら苦笑する。なんだかんだで彼女も海未を起こす前の騒ぎ、そして海未が起きてからのまくら投げでみんなと打ち解けられたようだ。
「なにするのよ、希!」
「ちゃんと自然に呼べるようになったやん。」
「え?」
押し付けられたまくらを取りながら言う真姫に向けて言った希の言葉。それにきょとんをする真姫が面白くてつい口をはさむ。
「名前。呼んでるのに自分で気づかないくらいには呼ぶのに抵抗なくなったみたいだな。気づいてる?俺と絵里も呼び捨てにできてたよ、1回。」
「そ、それは……必死だったり……その……夢中だったりしたからつい……」
「必死な時にでるのは本当の言葉だよ。それが自然になるのが1番。もうすでに1回呼んでるんだ。そこまで抵抗もなくなっただろ?」
「………………………」
おそらく鷹也と絵里の名前を呼んだのは必死だったから。希に関しては自分もみんなとはしゃいでいるうちに打ち解けていっていたということの表れだろう。鷹也の言葉に真姫がそっぽを向くのを見てみんなで微笑む。そして希は言う。
「本当に面倒な子やな、真姫ちゃんは。」
「……別に……誰も頼んでなんかないわよ!!」
希の顔に向かって真姫がまくらを投げるのを見て、みんなで笑う。この分なら真姫もみんなと打ち解けていくだろう。きっとみんなのこと名前で呼べるはずだ。それならばこの茶番とも思えるまくら投げにも意味はあったのだろう。それに真姫だけじゃない。みんなにとってもこれは仲良くなるきっかけだっただろう。凛以外は口に出していないが、みんな先の怖いまくら投げを心のどこかで楽しんでいただろうから。最後の作戦の最中はみんな楽しそうだった。きっと今回の合宿の目的の達成としてのステップにできたのではないだろうか。鷹也は小さくつぶやく。
「まあ……みんなも楽しんでたみたいだし……ちょっとは楽しかったかな。」
こうしてその後は寝る準備を今度こそ整え、それぞれの部屋。といってもリビングと鷹也の部屋のそれぞれだが。に戻って長かった合宿1日目の夜は更けていった。
はい、いかがだったでしょうか。
途中から眠くて変なテンションで書いてて楽しくなってきて割と好き勝手に書きました。
キャラ崩壊とか感じる方もいるかもしれませんが今回は許していただければ……
海未ちゃんを好き勝手に書きすぎたので海未ちゃんファンに怒られないかだけ心配。
次回は早朝の海のシーンから。そのシーンに鷹也がどこまで介入するかはまだ決めていませんが。
次回も引き続きよろしくお願いします。
できれば感想・評価いただけたら嬉しいです。