はい、次はできるだけ早くといいながらいつも通りくらいの更新ペースになってしまいました。年末って忙しいですね……
今回はことりの留学と鷹也の問題に関しての入口くらいの話。
少し短めです。
それではご覧ください。
「ずいぶん急だったね?」
鷹也は向かいに座ってコーヒーを飲んでいるひな子にそう言う。順番にお風呂に入るのだが、今日はことりに先にお風呂に行かせたので、しばらくは出てこないだろう。鷹也の言葉にひな子は少し複雑そうな表情で頷く。
「ええ、今回の話はあちらではもう1か月半後で話を進めてしまっていたみたいで。そうなると、言わないでいる時間ももったいないと思ったの。」
合宿から帰ってきて早々に言うのはどうかとも思ったのだけれどね。と言うひな子に、その状況なら仕方ないよと言って鷹也はコーヒーを一口飲む。そもそも相手の判断と行動力がすごすぎるだけで普通ならこんなに急にならない。母に文句を言うのはお門違いだろう。
「……母さんはことりが留学に行った方がいいと思う?」
少し躊躇いながら言われた鷹也の言葉に、少し意外そうな視線をひな子は向ける。それに気が付いた鷹也は苦笑する。
「さすがにどう力になっていいか分かんないや。ことりにとっての最善がどっちかも判断できないし。」
鷹也としてはことりのためになんでもしたい。妹のために動きたい。だが、ことりがどう動けばいいのか悩んでいるのなら何をどう動いていいのか分からないのだ。ことりがどちらに動くかを決める手助けができればいいのだが、こんな自分の判断でことりの将来に関わる選択を左右させてはいけないから、そんなこともできない。動こうにも動けないのだ。鷹也の言葉に、そうよねと納得したようにひな子は頷くと言う。
「今回のことはことりが決めることよ。私はことりのためになるなら、その選択肢の幅は広げる。鷹也もきっとそうするでしょ?でも、そこから決めるのはことり。そこに私たちが口をはさむべきじゃないわ。ことりが選択した道を支えるのが私のやることよ。」
「……うん、分かった。」
ひな子の言いたいことはこうだろう。今回の件はことりが決めるべきことだから口をはさむな。自分たちの意見にことりの決定を左右させるな。鷹也もそれは分かってるし、納得できる。でも、それでは少しなんとなく複雑な気持ちになる。
「……何もできないのがいや?」
「ん~……そうだね。最近いっつもそんな感じでさ。」
そんな鷹也の気持ちを察したらしく微笑んで聞いてくるひな子に苦笑して見せる。最近の鷹也の悩みでもある。何もできない。ことりにも、μ’sのメンバーのみんなにも。誤魔化して続けているだけ。それが、どうすればいいのか分からなくてつらくて苦しくて。でも、何もできなくて。だからいつも通りを壊さないという意味で続けているだけ。
「そう。でもね鷹也。」
ひな子はそんな鷹也に優しく微笑みかけてくれる。
「鷹也が何もできてないなんてことはないわよ?」
「……そんなことないよ。俺はいつも誰でもできることしかしてないよ。」
「そんなことないわ。」
鷹也は何も言わずにひな子から目を逸らす。ことりや穂乃果、海未、そしてμ’sのメンバーにも言えることだが、大切な人に言われるこういうことは苦手だ。そんな鷹也のことを分かってるのだろう。ひな子は返事を待つわけでもなく続ける。
「誰でもできることじゃない。鷹也だからやれてるのよ。鷹也だから私の、ことりたちの力になれてるの。今回のことだってきっと鷹也はことりの力になれる。」
「……いつも通りを続けてるだけだよ。それくらいしかできない。」
「誰かのいつも通りになるのは誰でもできることじゃないわよ?」
「…………俺には……」
その価値はない。自分はそう思ってる。そう言おうとして鷹也は踏みとどまる。さすがに母にそんなこと言えるわけがない。それが分かったのだろう。ひな子は少し悪戯っぽい笑みを見せる。
「鷹也はやっぱり優しいわね。」
「……そんなことないよ。」
「そうかしら?母親の私は鷹也が私の子供で本当に良かったって思うわよ?」
笑って首を傾げて見せるひな子に向かって、鷹也は何も答えることができずに無言を貫く。それに苦笑してひな子は言う。
「今回のことでことりの力になるのは難しいかもしれない。でも、鷹也がいなくてもいいと言うわけじゃない。それに……鷹也も周りのためだけじゃなくて自分の気持ちで動くいい機会だと思うわ。」
「………………………」
「しばらくこっちの手伝いもしなくていいから。少しこの機会に自分のこと考え直してみて?」
「え……?いや、でも……」
「いいから。」
鷹也は自分のために、自分の気持ちで動いて。そう言うひな子に鷹也は何も返せない。そんな鷹也に向けて、ひな子は優しく、そして少し、ほんの少し悲しそうな様子で微笑んだ。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「ん、どーしたー……?」
その後、何もする気がせずに鷹也はベットに仰向けに寝転がっていた。ドアをノックする音に起き上がるとことりが小さく開けたドアから顔を覗かせていた。入っていいよと手招きすると、ことりはいつもよりも弱弱しい笑みを浮かべながら部屋に入ってくる。
「こんな早くにベットで横になってるの珍しいね。どうしたの?」
「ん~……なんでもない。ことりは留学のこと?」
「うん……」
心配そうな顔をすることりに安心させるように微笑んでやってから鷹也が聞くと、ことりは苦笑して言う。
「ちょっといきなりすぎて……」
「そうだよね。やっぱすぐには考えられないよな……」
ベッドで体を起こしている鷹也の隣で座ることり。その顔は複雑な感情に揺れているというよりは急なことに混乱しているという様子。さすがにまだ考えることはできないかと思いつつ鷹也は言う。
「難しいよね。簡単に決めれることじゃないしさ。」
「うん。行きたくないわけじゃないんだけど……」
そう言ってことりはうつむく。迷う要素は多いだろう。ことりがずっとやりたいと思っていた服飾の仕事に通じる留学。けれど、学校のこと。海外に1人で行くという不安。そしてμ’sのメンバーのこと。なにより、穂乃果と海未のこと。ことりは鷹也を伺うように、すがるように見て言う。
「……お兄ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「……俺は……」
決断することができないのだろうことりに聞かれて、鷹也は言葉に詰まる。何を言えばいいのか。分からなかった。
「それはことりが決めることだよ。」
だから、先ほど母と決めたことだけ伝える。何か心が痛んだ気がした。これは自分の気持ちでもなんでもない。納得もしているし、この考えには賛成だ。でも、自分の気持ちとは違う。何かそんな気がした。
「俺たちは相談にも乗るし、ことりの選択を支えはする。でも、その選択はことりがすることだ。」
「そう……だよね……」
頷くことりの頭を安心させるように撫でながら、鷹也は内心のもやもやを押し殺して言う。
「大丈夫。俺はことりが何を選んでも、どういう選択してもそばにいる。いつも通りでいるから。」
だからゆっくり考えて。そう言ってやると、ことりはまだ少し不安げながらも笑顔をみせる。
「うん。もう少し自分で考えてみるね。」
「そうしてみて。相談にはいつでも乗るからさ。」
ことりはありがとうと言って立ち上がると、部屋から出ていこうとする。その背中に、小さく鷹也は声をかける。
「……ごめんな。何もできなくて。」
「ううん。お兄ちゃんがいつも通りでいてくれるから、私も安心していられるんだよ?」
だからありがとう。そうもう1度お礼を言ってから部屋を出ていくことりに笑みを向けて見送ってから、鷹也はベットに仰向けに倒れ込む。ことりの留学、μ’sのこと。母の言葉を思い出す。長袖に覆われている腕で顔を覆い、視界を黒で覆ってから呟く。
「分かんないよ、俺がどうすればいいのかなんて……」
『分かんないよ、俺がどうすればいいのかなんて……』
部屋を出てからドア越しに聞こえてきた言葉に、ことりはうつむく。合宿中はあまり見せなかったものの、最近様子のおかしい兄。いつも通りでいてくれる。しかし、その中に少しの違和感があるのだ。
(お兄ちゃんに頼ってばっかじゃだめだよね……)
今回の件は自分が決めるべきことだ。兄に相談はしたい。でも、まずは自分で考えてみよう。兄に頼らずに自分で。そして何かあるのだろう兄はいつも通りにしていた。ならば、兄のことを支えるためにも自分もいつも通りにしていよう。自分のことは自分で悩んで、悩んで、なんとかしよう。何をしているか、何を悩んでいるのか教えてくれないであろう兄。そんな兄にせめて心配をかけないようにしよう。
「頑張らなくっちゃ……!!」
親友のよくやる両手のガッツポーズを真似して自分に気合を入れる。
「あ、でもしばらく自分で考えたら穂乃果ちゃんと海未ちゃんに相談はしなくちゃだよね……」
ちょっと気合がそがれていってしまうような感覚に苦笑しつつ、もう1度両手でガッツポーズを作って気合を入れなおしてことりは自分の部屋に戻って行く。まずは自分なりに留学先のことを調べることから始めてみよう。そんな考えを巡らせながら。
次の日。合宿の次の日でもあるのでμ’sの練習は休みになっているのだが、鷹也はとあるメンバーと待ち合わせをしていた。待ち合わせ場所に指定された公園にて待っていると、そのメンバーが少し不機嫌そうな顔でやってくる。その強気な印象を与える釣り目の表情が普段からのものであるということに気づいている鷹也は挨拶代わりに片手を挙げる。
「……待たせたわね。」
「ううん、別に待ってないよ。ごめんな、休みの日なのに。」
別にそれはいいわよと言って、待ち合わせの相手である真姫は少し辺りを見まわす。その様子を不思議に思い、首を傾げて鷹也は言う。この公園は真姫がμ’sのメンバーになりたいという思いを初めて口にしてくれた場所。とは言っても特に珍しい公園でもないはずだが。
「どうした?」
「……別になんでもないわ。」
公園を見まわした後、声をかけてきた鷹也を少しの間訝しむように見つめて真姫は首を横に振るとなんでもないと言って歩き出す。その様子に鷹也はもう1度首を傾げつつも、この少女のことだ。何を言っても何も答えてくれないだろう。そう考えなおして黙ってついていくことにする。今日は合宿で別荘を使わせてくれた西木野家にお礼に行くのだ。さすがにお礼は早めの方がいいだろうと思って、合宿の次の日にした。真姫に確認すると、今日は家の人がいるからいいと言っていたのだが、誰がいるのだろう。気になって真姫に聞く。
「今日は家に誰がいるの?」
「パパは病院。でも、ママが家にいるわ。というか別にお礼なんてよかったのに。」
「そうは言っても一応ね……ああ、緊張する……」
大げさねとため息をつく真姫にそんなもんなんだよと苦笑して見せる。ちなみに結局は穂乃果の家の和菓子屋『穂むら』の名物であるおまんじゅうを買ってきた。何も思いつかないのなら、昔から知っている『穂むら』のおまんじゅうを持って行くのが1番だ。それでなくても、『穂むら』の和菓子以上においしい和菓子は鷹也は知らない。ちなみに、買いに行った際の雪穂との会話は以下の通り。
『いらっしゃいませ!……って鷹也さん。お客さんとしてくるのは珍しいね?』
『雪穂、この店で1番おいしい和菓子を10個くれ。』
『10!?どーしたの?何かのお祝いかなんか?』
『……お金持ちに対するお礼』
『えっと……なにがあったの……?』
何か知らないけど頑張ってね……とはお会計時の雪穂の言葉である。
「頑張れって言われてもなぁ……」
「何を頑張るってのよ。」
小さくつぶやいた言葉は真姫に聞こえていたようで真姫に突っ込まれる。そのまま少し歩いて真姫の家に到着。一切慣れないで真姫の家の大きさに呆気にとられながら中に入っていく。普通の家よりもだいぶ長い門から玄関までの距離を真姫について歩いてから、豪華な玄関の扉を開けると、そこには真姫の母親らしき女性が待っていた。
「ただいま。連れてきたわよ。」
「おかえりなさい、真姫。そちらがコーチの方ね?いらっしゃい。わざわざお礼なんてありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ急にあんな豪華な別荘使わせていただいて……こちらお礼の品です。」
「あらあら、ご丁寧に……」
お礼とともに、お礼の品を手渡すと上がっていってという真姫の母親の申し入れを丁寧に断りつつ、鷹也はもう1度お礼を言う。さすがに別荘を使わせていただいたにもかかわらず、これ以上お世話になるわけにはいかない。
「少しくらい上がっていってもいいんじゃない?わざわざ私が迎えにまでいったのに。」
「そこまでお世話になるわけにもいかないの。今回はお礼に来ただけで、お茶までいただいたらまたお礼いうようなことになっちゃうじゃんか。」
靴を脱ぎながら言う真姫にそう言って、頭を下げて玄関の扉に手をかける。帰り道は分かるわよね?という真姫に大丈夫と答えて、最後にもう1度真姫の母にお礼を言ってから家を出る。帰り道どころか来るときには1人でお礼に行くのはつらかったので、真姫に頼んで真姫の親との間を取り持ってもらうために迎えにきてもらっただけで道は知っている。
(あぁ……緊張した……)
ほっと息を1つはいて鷹也は帰り道を歩く。そう言えば真姫の母親とは会ったことあったはずだけど何も言われなかったなぁと思いつつ、別に会話もしていないしそんなもんかと考え直す。そんなことを考えている間に真姫と待ち合わせをしていた公園までたどり着いた。
「ここも本当に色々起こる公園だよなぁ……」
そんなことを思いながら少し立ち止まる。するとそこで
「ねえ!!」
ふと後ろから声がかけられる。振り向くと、そこには先ほど分かれたばかりの真姫。走ってきたのだろうか。息を切らす真姫にどうした?と聞くと、真姫は息を整えてから口を開く。その内容は自分が1番彼女たちに知られたくなかったこと。不安げに、真剣に告げられたその言葉に鷹也は一瞬言葉を失った。
鷹也が上がりもせずに帰って行ったのを見送ってから、真姫はとりあえずと自分の部屋に向かおうと歩き出した。わざわざ迎えに行く必要なんてなかったのではないだろうか。少しそんな不満も覚えていたりはする。
「あ、これ『穂むら』のおまんじゅうだわ。ここのおまんじゅうっておいしいのよね~。」
そう言って後ろで嬉しそうにしている母親に返事をしつつ、歩いていると不意に母が気になることを口走った。
「それにしてもあの子がコーチだったのね。ずいぶん大きくなって。女子校の部活に男性のコーチってよく学校が許したと思ってけど、あの子なら納得ね。」
「え?ママ、あいつのこと知ってるの?」
驚いて聞き返す真姫に母は笑顔で頷いて言う。
「ええ。南さんとはお友達でずっと前にお家にお邪魔したことがあるのよ。その時に鷹也くん……よね?も少し顔出してたわ。真姫もその時一緒に来てたわよ?覚えてない?」
「言われてみればあったかもしれないけど……あ……」
母の言葉の最中から脳内を検索していた真姫はそこまで言って思い出す。昔、それこそ小学校3年かそこらのころ。母が昔の友達に会いに行くということで、1人で家に取り残すのは心配だから連れていかれたことがあった。ほとんど覚えていないし、それならば理事長とも会っているはずなのだが、まったく思い出さなかったことを考えるに完全に記憶から抜け落ちていたらしい。でも、母の言葉で思い出した。確かに自分は1度あの青年と出会っている。
「え……?でも……ってことは……え……?」
「真姫?どうかしたの?」
母の言葉に返さずに、真姫は混乱した頭をどうにか落ち着かせようと必死になる。母と一緒に南家に行ったことは思い出した。あの青年の昔の顔も思い出した。でも、そこから連鎖的に思い出したのだ。今の自分に多大な影響を与える記憶。自分がアイドル活動を始めようと決めた際にも思い出していた記憶。
「まさか…………つっ!!」
「ちょっと真姫!どこいくの!?」
慌てた母の言葉には耳を貸さずに靴を履いて玄関から飛び出す。そこに目当ての青年の姿はすでになく。追いつかなければと走り出す。
(そんなこと……でも……そんな……)
何も考えのまとまらない頭のまま走る。両方幼い頃の記憶だ。間違っているかもしれない。記憶違いかもしれない。でも、なんとなくそうではないという予感が頭に確実にあった。
「ねえ!!」
待ち合わせをしていた公園のところでその後姿を発見して声をかける。どうした?と振り返る青年の顔は、言われてみればそうだろう。思い出した記憶の少年を成長させたそのままだった。それは思い出したどちらの記憶の姿とも重なって。息を整える間ももどかしく、少し息を乱したままで口を開く。
「『だってそれが自分だから』……この言葉と、この公園に……覚えはある?」
南家に母にくっついていったときにちらっと出会った少年。それは目の前の青年の幼い頃の姿で。その時は気づかなかったが、自分に多大な影響を与えたイジメられていた少年。その顔は南家であった少年と同じ男の子のもので。ということは
「もしかして……あれってあなたなの……?」
この昔のことをたびたび自分に思い出させていたこの青年とこの公園でイジメを受けていた少年は同一人物ということになるのではないだろうか。
「え……………?」
こちらを驚きの表情で見つめる鷹也は何も答えない。それは答えれないのか、答えに迷っているのか、答える気がないのか。真姫もまっすぐに鷹也を見つめ返す。小さく吹いた風で揺れたブランコが少し錆び付いた音を鳴らした。
はい、いかがだったでしょうか。
ことりと鷹也の母はことりのためを思ってるし、鷹也のためを思っているいい母親だと思います。
展開上またも真姫ちゃんの出番。他のメンバーもちゃんと出番や活躍の場もあるので安心してくださいね。
それでは感想・評価もお待ちしています。
引き続き次回もよろしくお願いします。