小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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前回で年内の投稿は最後と言いつつも書けちゃったのでひっそりと投稿。

学園祭のステージの相談と最後は鷹也くんピンチのお話。

それではご覧ください。


先頭の彼女の導き

「どうしよー!!!」

「うぅ………」

 

頭を抱えている穂乃果と屋上の柵に両手をついて落胆を表す花陽。他のメンバーもうつむいて座っていたり、支え合って立っていたりとなかなか絶望的な雰囲気である。そんな中でにこは腕を組んでそっぽを向いている。そんなにこに鷹也は声をかける。

 

「運にも自信ありとのことだったスーパーアイドルのにこさん。」

「……なによ。」

「この雰囲気の責任はどうしてくれる。」

「し、仕方ないじゃない!くじ引きだなんてさっきまで知らなかったんだから!!」

「あー!開き直ったにゃー!!」

「うるさい!!」

「凛に八つ当たりすんなよ……」

 

座っていて、にこの声に驚いてひっと身をすくませる凛の頭をポンと叩きつつ鷹也はため息をつく。この絶望的な雰囲気の原因は1つ。

 

「うー!どうしよーー!!」

「まあ、予想されたオチね。」

「というか予想通りというかなんというか。にこのくじ運なんかに期待する方が間違ってたってことだな。」

「なによ!こんなの誰が引いても同じでしょ!!」

「また開き直ったにゃー!!」

「うるさい!!」

「だから凛に八つ当たりするなって……」

 

慌て続ける穂乃果に反して落ち着いている真姫の言葉に鷹也がそう言うと、にこが噛みついてきてそれに凛が噛みつき、反撃されて身をすくませる。鷹也く~ん!と凛が助けを求めてくるのに苦笑しつつ、その頭を軽く撫でてやる。普段はここまで多く撫でることはしないのだが、落ち込んでいるだろうし今回は特別だ。

 

「にこっち……うち、信じてたんよ……?」

「白玉引き当てるのを?」

「違うに決まってるでしょ!うぅ~……悪かったわよ~……!!!」

 

希の言葉に少しふざけながら鷹也が返すと、それにツッコミを入れつつさすがに申し訳なくなったのだろうにこが謝る。

結果から言えば学園祭の時に講堂がつかえなくなった。にこが見事に白の玉、つまりは外れくじを引き当てたのだ。となるとラブライブ出場に向けての最終アピールの場がないということになり

 

「さて……いい加減落ち込んでないで代案を考えないとな……」

 

ということになる。講堂使用の権利がなくなっただけで諦めるわけにもいかないだろう。それはみんなも分かっているようで、鷹也の言葉に真剣な表情で考え始める。

 

「グラウンドや体育館は運動部が使っているし……」

「それならどこで……」

「……部室とか?」

 

絵里と海未の言葉に答えるようににこが提案する。みんなで少し想像。あの広さの部室。ダンスと歌と笑顔のパフォーマンスをしなくてはいけないアイドルという彼女たちの活動。9人という人数とファンの人数。

 

「……ちょっと狭いかなぁ……」

「……狭いな。」

「狭いよ!!」

「うぬぬぬ……」

 

ことり、鷹也、穂乃果の順でにこの案を却下。自分でも分かっていたのだろう。唸り声を上げることしかしないにこに苦笑しつつ、しばしのシンキングタイム。続いて提案したのは穂乃果。

 

「じゃあ……廊下は!?」

 

再びみんなで少し想像。広さは改善。横にだけは。つまりは奥行きに関してはさらに狭くなったと考えていい。その中で歩きながらのパフォーマンス。やりようによっては上手くいくかもしれないが、ほとんどの場合は、というかほぼ確実に

 

「……なしですね。」

「ありえないわね。」

「バカ丸出しね。」

「にこちゃんがくじはずしたから必死に考えてるのに!!」

 

穂乃果の言い分を否定する海未と真姫とにこ。そのにこに向かって穂乃果が頬を膨らませているが、鷹也としても廊下の案はなしである。

 

「そもそも人の行き来が多い廊下でなんて無理だよ。場所取るし、移動の妨げになるなら許可も下りないだろうし。」

「そっかぁ……うぅぅ……どうしようー!!」

「穂乃果はちょっと落ち着いて?他に使えそうなところは……」

 

鷹也に言われてうろたえる穂乃果をなだめつつ、絵里がみんなに視線を向けるも誰も何も思いついていない様子。鷹也としてはこういう時に彼女たちを助けられる案を出せたらいいのだが、あいにく鷹也も何も思いつかない。最悪の場合は運動部にお願いしてグラウンドか体育館を使わせてもらうというくらいだ。少しの間悩んで、それしかないかなと鷹也が思い始めたとき、もう1度穂乃果が口を開く。

 

「じゃあここは?」

「ここって……屋上ってこと?」

「うん!!」

 

鷹也の確認に元気よく答える穂乃果をみんながきょとんとして見る。屋上なんて誰も考えていなかったのだから当然だろう。しかし、穂乃果はそんなみんなの様子を気にもせずに言う。

 

「ここに簡易ステージを作れば、お客さんもいっぱい入るでしょ?」

「屋外ステージ?」

「確かにお客さんはたくさん入りそうだけど……」

「なによりここは私たちにとってとても大事な場所。ライブをやるのにふさわしいと思うんだ!」

「野外ライブ!かっこいいにゃー!!」

 

希とことりの不安げな言葉に対して満面の笑みでそう言う穂乃果。確かにできないことではない。むしろ今までの案の中では1番現実的。笑顔で賛成してきた凛とそうでしょそうでしょ?と言いながらはしゃぐ穂乃果に視線を向けてから絵里に向ける。しかし、この案には考えなくてはいけない部分もある。

 

「でも……どうやってここにお客さんを呼ぶの?」

「そうですね。ここではたまたま立ち寄るということもないでしょうし……」

 

鷹也の考えていることが分かったのだろう。思案顔で絵里が言うと、海未もそれに同調する。ここは建物の最上階であり、普通ならば誰も立ち寄ることのない場所。アピールという点ではどうしても難しくなる。

 

「だれも立ち寄らないどころか、1人も来なかったりして。」

「ええっ!それはちょっと……」

「まあ、ありえないことではないな。」

「そんなぁ……」

 

真姫と鷹也に言われてうつむく花陽をあくまで可能性だからとなだめてから、穂乃果を見る。これは一般論。普通の人ならためらうほどのデメリット。しかし、この少女は、穂乃果はそんなの心配ないと言うように笑う。

 

「それならおっきな声で歌おうよ!」

「はぁ……そんなことで何とかなる問題じゃ……」

「校舎の中や外を歩いてる人たちにも」

 

ため息をついて否定しようとしたにこを遮るように続ける穂乃果。それを見て自然と笑みがこぼれる。そうだ、この少女はいつだってまっすぐ進んできた。この

 

「みんな聞こえるように歌おう!そしたらみんなきっと、興味をもって見に来てくれるよ!!」

 

太陽のような元気な笑顔でみんなを引っ張ってくれていたのだ。鷹也は笑いつつ口を開く。

 

「ったくもう……本当に簡単に言ってくれるな?誰が簡易ステージの準備すると思ってんだよ。」

「あ……そっか。ごめん……」

「いいよ、やってやる。俺はお前らのために動くって決めてるんだ。それに……」

 

そこでみんなを見渡す。この案は肯定できるものではない。気持ちで、想いで問題を何とかしようとしているだけ。解決を根本的にはしていない。だが

 

「その案でいいんじゃないか?どう?」

「……そうね、穂乃果らしいわ。」

「絵里ちゃん……」

「そうやってここまで来たんだもんね。μ’sってグループは。」

 

笑顔で言う絵里にみんなも笑顔で頷く。これで決まりだ。嬉しそうに頷く穂乃果を見て、鷹也も笑顔で頷く。ずっと想いを、気持ちを持ち続けて全力で駆け抜けてきたのだ。この少女を先頭に。それならこれからもきっと大丈夫。

 

「決まりだね。」

「ええ、ライブはここで簡易ステージを用意して行いましょう!」

「それが1番うちららしいかもね。」

「凛もおっきな声で歌うにゃー!!」

 

盛り上がる彼女たちを見つつ、ちらりとことりに視線を向ける。このタイミングでは言い出せないだろう。少し寂し気な表情をしていたことりは目が合うと鷹也に大丈夫とでも言うように笑みを見せる。その笑みは弱々しくて。しかし、何も言えずに練習開始を鷹也はみんなに促す。ここでは声をかけるわけにもいかない。

 

「よーしっ!頑張るぞ~っ!!」

 

元気いっぱいで張り切る穂乃果と対照的に少しぎこちない笑みを浮かべることりがなぜかとてもつらく見えて。鷹也はそれを見て見ぬふりをする。ことりがなぜあんな表情をしているのかは分かっている。でも、まだ鷹也が口を出すわけにはいかない。少なくとも他のメンバーにことりが相談していない以上は、2人になる時にしかこの話はできない。

 

「1!2!3!4!………」

 

カウントを取りながら、海未と絵里と確認した点について指示をとばしていく。ことりは心配だが、こちらにも集中しなくてはいけない。彼女たちの目標達成のための学園祭のライブまでは時間はないのだから。

 

 

 

 

 

「ことりはまだ決めれてないみたいね。」

「そうだね。さすがに悩むよ、きっと……」

 

珍しく帰りの早いひな子が晩ご飯を作っている中、鷹也はテーブルで練習予定について考えていた。今日の練習の合間に絵里と海未と相談したのでだいぶ決まってはいて、あとは細かい部分の予定を少し考えるだけなので会話しながらでも問題ない。ひな子との話題は今は部屋にいることりの留学のこと。

 

「穂乃果とか海未にも言えてないみたいだったよ。きっと今は学園祭に向けての練習の士気が高まってる時だから……」

「あの子らしいわね。」

 

おそらくは自分の都合で練習の士気を下げるようなことはしたくないといったところだろう。後は穂乃果の今日の様子から見ても、ラブライブ出場に穂乃果の気持ちが向きすぎていて言い出せなかったという感じだろうか。そんなことりのいいところとも悪いところとも言える部分が出ている様子にひな子は苦笑する。

 

「ゆっくり自分で考えさせましょう。ことりにとって大事な選択になるでしょうし。」

 

『鷹也は誰にでもできるサポートをしっかりできてる?ちゃんとあの子たちのことを見て、力になれてる?』

 

「……そうだね。」

 

一瞬沙希の言葉が頭をよぎって反応が遅れるも、首を横にふってそれを振り払いつつひな子に笑みを向ける。今の自分にできるのはことりのいつも通りでいることだ。変わらずに安心できる場所でいつづけることだ。これはちゃんとことりのためになることのはずだ。ことりのことをきちんと考えた結果のはずだ。

 

「もうしばらく様子見てみるよ。」

「鷹也はこのままでいいのね?」

「うん、今はことりのそばにいつも通りにいてやることにする。」

「そう、分かったわ。お願いね。」

 

複雑そうに、でも納得したように頷くひな子に、鷹也は微笑んで頷いて見せた。

 

 

それから3人で夕食をとったがあくまでもいつも通り。ことりも何も言わず、いつも通りに笑顔を見せていた。鷹也もそれを見ていつも通りを続ける。留学のことには触れずにいつも通りの空気、会話で食事は進む。生活は進む。いつも通り。鷹也とことり。兄妹は何も変わらない。

 

 

 

 

 

 

「新曲をやるって……本気か?」

「うんっ!!」

 

次の日。恭介の呼び出しもなく、いつも通りに練習に参加した鷹也は、突然部室にて穂乃果が言いだしたことに聞き返すも穂乃果は大まじめな表情で頷く。

 

「昨日真姫ちゃんの新曲聞いたらやっぱり良くって!」

「まあ、それは否定しないけど……」

 

チラリと真姫の方を見ると案の定頬を少し赤くしてそっぽを向いている真姫の姿があって苦笑しつつ、鷹也は言葉を濁す。ライブまで後1週間ほど。ほとんど時間はない。これまでの曲は練習してきているのであと1週間もあればかなりのクオリティまで持って行けるだろうとは思う。しかし

 

「さすがに新曲は時間足りないな。学園祭までの時間分かってる?」

「頑張ればなんとかなると思う!!」

「そんなこと言っても……」

 

穂乃果のまっすぐな想いは分かる。しかし、それだけで何とかなるかと言われたら微妙なところなのだ。鷹也としては止めるべきだとは思う。それは海未も同じようで、言葉を濁す鷹也に代わって口を開く。

 

「これまでの曲のおさらいもしなくてはいけませんし……」

「私も自信ないなぁ……」

「ダンスが苦手なメンバーのことも考えると今回はさすがに厳しいな……」

「μ’sの集大成のライブにしなきゃ!ラブライブの出場がかかってるんだよ?」

 

海未と一緒に言った花陽の言葉を考えて鷹也は今回は穂乃果の意見を却下しようとする。しかし、穂乃果はそれすらも心配いらないとしてみせる。彼女のリーダーシップとも言える、そのまっすぐさと笑顔で人を引っ張っていく力。それをここでも満面の笑みで見せる。

 

「ラブライブ出場は今の私たちの目標だよ!このまま順位を落とさなかったらほんとうに出場できるんだよ?あのステージで、たくさんのお客さんの前で歌えるんだよ?」

「穂乃果……」

 

そのキラキラとした笑顔はまっすぐ前を見据えていて。わき目もふらずに先だけを見据えていて。そのまま手をひきながらみんなを導こうと、引っ張ろうとする。後ろを一切振り返らない力強い導き。だからだろうか。その導きにみんなが必死についていっているからだろうか。誰も気づかない。ことりの笑みはいつもより影が差していることに。鷹也はそれに気づきつつも何も言えない。穂乃果はその様子に気が付かずに導き続ける。みんなを引っ張り続ける。前に前に。振り返らずに。

 

「私、頑張りたい!このためにここまで来たんだもん!やれることは全部やりたい!!ダメかな?」

「…………………反対の人は?」

 

絵里の問いには誰も手をあげない。穂乃果の導きにみんなついていく。それはある意味で必然で。鷹也はその必然の流れを断ち切ることはできない。あくまでも彼女たちの選択を、気持ちを尊重し、最善にしていくとした鷹也はその流れを止めることはできない。実際に穂乃果たちなら何とかしてしまうという気もしている。しかし、それは万全の状態の時の話。

 

「みんな……」

 

嬉しそうに笑う穂乃果を複雑な思いで見つめる。今の状態はほとんどのメンバーにとっては万全に近いだろう。頑張ろうという気持ちが強いだろう。しかし、

 

「ことりはいいんだな?」

「え…………?」

 

鷹也に急に話を振られて、みんなの視線を受けていることに気が付いたのだろう。ことりは少し呆けていたものの、慌てて笑顔を作る。

 

「うんっ!私も、みんなで……みんなで全力で頑張りたいな。」

「……そっか。」

 

その笑みの中に、少し言葉につまった中に苦し気な何かを感じつつもとりあえずはそうかと頷く。ありがとう、ことりちゃ~ん!と穂乃果に抱き付かれて、うろたえることりを見つつ考える。留学のことも考慮してことりが決めたことならいいだろう。それならば、いつも通りにこの少女たちの想いに賭けて見てもいいだろう。自分の選択など信頼できないのだから、彼女たちの気持ちを、想いを最優先すべきだ。

 

「じゃあ、新曲の練習もしていくことにする。その代わり練習はきつくなるよ?」

『はい!!』

「特に穂乃果はセンターだ。みんなの倍は厳しいよ。それでもやる?」

 

みんなの元気のいい返事も聞きつつ、穂乃果に最後の確認をとる。返事は分かりきっていたが予想通りで。

 

「うんっ!全力で頑張る!!」

 

こうして新曲も含めた練習が開始されることに。振り付けに関しては大まかに絵里と鷹也が相談することにして、今日はとりあえずこれまでの曲の練習ということに。屋上に向かう途中にことりに声をかける。

 

「ことり。」

「大丈夫だよ?」

 

何も言わせないようにしたいのか。なにも言っていないのに笑顔と共にことりがすぐに返してくるのを聞きながら、鷹也は気にせずに続ける。

 

「…………そっか。穂乃果たちならきっと聞いてくれるから早めに相談してもいいと思うよ?」

「……うん……でも、今は……」

「……まあ、自分でゆっくりな。」

「うん、ありがとね?早く行こう?」

 

そうことりに促されて、それ以上は何も言えずに屋上に向かう。心配かけまいとしてくれているのだろう。その笑顔は無理して作っているのがバレバレで。

 

「誤魔化すの下手なんだよ、本当に……」

「え?」

「なんでもないよ。」

 

でも、ことりが何も言わないのなら。自分でなんとかしようとしているのならば、まだ鷹也は何も言えない。言わない。心がチクリと痛んだ気がするのを無視しつつ、鷹也はことりとともに屋上にむかう。

 

「何してるの?早くしなさいよ。」

「あ、真姫ちゃん!」

「ごめんごめん。今行くよ。」

 

少し遅くなっていた鷹也とことりを屋上に続くドアの前で待っていたのは真姫。他のメンバーはすでに張り切って屋上へ出ていった後だろう。何してたの?という真姫の質問になんでもないと答えつつ屋上に出ていく。その背に真姫の探るような視線を感じつつ。

 

 

 

 

 

それから数日後。いつもよりもハードな練習をみんながこなす中、鷹也は練習後の時間に恭介に呼び出されていつものゲームセンター近くの路地にいた。ことりたちは先に帰らせている。他のメンバーも帰って行くのを見届けた。

 

「こいつはいつもよく抵抗しねえなっと!!」

「いいんじゃねえ?ストレス発散にはちょうどいいじゃんかっ!!!」

 

いつも通りに殴る蹴るの暴行を何の抵抗もなく、何なら少し顔に笑みを浮かべてその身に受け続ける。このままいつも通りにしばらくしたら終わるはずだった。しかし、何も考えていない。感情が失せ、心が冷めている状態の中で鷹也の目にチラリと見覚えのあるものが映る。

 

「…………つっ!!!!!」

「おっ、ようやく痛みが出てきたか?」

「今さらかよ。ずいぶん鈍い体だなぁ!!」

 

失せていた感情が、冷え切っていた心がもとに戻っていく。いや、ここに来る前の状態になっていく。混乱した頭で必死に状況を整理する。バレてはいけない。このまま彼らには勘違いさせておかなくてはいけない。しかし、それからはどうすればいい。一時確かにこちらのことを知っているような様子を見せていた。でも、それからはいつもと変わらない様子だったのに。

 

「おい、鷹也。」

「っつ!何かな、恭介くん?」

「……何か見つけたか?」

「まさか。この状況で何を見つけれると?」

 

一端思考を止めて、不意に殴る手を止めて聞いて来る恭介に笑顔を見せながら言う。内心ではこれまでにないほどの焦りを感じていた。このままじゃ……

 

「嘘つくんじゃねぇよ。てめえが自分の痛みでそんな顔するわけねえだろ。」

「ひどいなぁ……俺だって痛いものは痛いんだよ?」

「自分で苦痛に感じることないって言ってたろうが。実際に今までそんな顔したことねえしな。」

「……笑顔が苦痛の表情に見えるとしたら俺はだいぶ人生損してるだろうね。」

「無駄口はいいんだよ。」

 

笑顔のままで話続けて考える時間を稼ごうとするも効果なし。恭介との過去がここまで邪魔になるとは思わずに内心で舌打ちしつつ、頭をフル回転させる。このままバレてはいけない。後のことは後だ。今はこの状況を何とかしなくては。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。」

「あ?」

 

適当に思いついた案を実行に移す。上手くいくかは分からない。この案は彼女の考えにかかっている。なんでこんなことしてるのかは知らないが、こちらの思いを汲んでくれるかにかかっている。バカにされたと思ったのか、少し不機嫌そうな声を出す恭介に笑みを向ける。

 

「別に誰にもばれないよ。この状況を俺は口外なんてしない。誰にも見られてないんだから。」

「……………………」

 

こちらに探るような視線を向けてくる恭介をまっすぐに見つめる。目を逸らす方が不自然だ。ここはこの状況は口外されないということを彼に信じてもらうしかない。しばらく視線が交錯する。

 

「……ふんっ、行くぞ。」

 

恭介は鼻を鳴らして財布からいつも通りの金額しか入れていないお金を抜き取ると、文句を言う取り巻きを黙らせながら鷹也に背を向ける。ホッとしつつも、信じてくれたことが意外で恭介の背中を黙って見送る。すると、恭介はその視線に気が付いていたのだろう。振り返りもしないままに言う。

 

「てめえのその考え方は気に入らねえが、その考え方を絶対に変えないところも俺は知ってんだよ。それならこの状況を口外するメリットがお前にない今は周りにバレようがお前が黙らせるだろ。」

 

口外されたら分かってるなと最後に釘を刺しつつ、恭介はその場から去っていく。途中に脇の路地をチラリとみるも、何も見つけられなかったようで鼻を鳴らして歩いて行く。

 

「っつ……ふぅ~……」

 

それを見送ってから、鷹也は壁に背を預けて座り込みながら大きく息をはく。正直最悪の展開。今は第一段階を何とかしただけ。軽く痛む体の調子を確かめつつ、街頭の灯りしかない中で輝く夜空を見上げる。頭の中ではこれからどうすればいいのかと会議が行われているが、結論はでそうにない。

 

「もしかしたら1番俺のあり方を分かってるのって恭介くんなんじゃないかなぁ…………」

 

小さくつぶやいて、先ほどは何かの影に隠れてやり過ごしたのだろうか、制服をはたきながら路地から出てくる少女に笑みを向ける。とりあえずは誤魔化すも何も、何でもない様子を、いつも通りの様子を見せることにする。心配そうな、不安そうな、悲しそうな、困惑したような、様々な感情が入り混じったような顔をする少女に向かって笑顔のままで鷹也は口を開く。

 

「な、そう思わない?真姫?」

「…………なにしてるのよ、あなた……」

 

鷹也が最も大切にしていて、最もこの状況をばらしたくなかったグループのメンバーの1人。西木野真姫がそこには立っていた。

 

 





いかがだったでしょうか。
ついにバレた鷹也ですが、ここから認めずに誤魔化そうとするのが彼です。今回は結構唐突にバレたので誤魔化す余地が彼にも残っているはず……
それを真姫がどう受け止めていくのか。ことりの留学や穂乃果に関して鷹也がどう考えていくのか。楽しみにしていただけると幸いです。

お気に入りが250超えていました!登録してくださった方本当にありがとうございます!!
これからも頑張るので感想・評価もできればいただけると嬉しいです。

それでは本当に年内の投稿はこれで最後です。
年明けは番外編を1つ書くかもしれないのでお楽しみに。
それでは前回に引き続きもう1度。

みなさん今年はお世話になりました。よいお年を!!
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