学園祭の結果を受けて鷹也がどういう気持ちをもち、どういう選択をするのか。
穂乃果が倒れてしまい、ことりはどういう選択をするのか。
それではご覧ください。
『これは集大成だよ。できることは全部したい。後悔したくない!』
『ファーストライブの時もそうだった。あそこで諦めずにやってきたから今のμ’sがあると思うの。だからみんな……行こう!!』
「穂乃果!!」
「穂乃果ちゃん!!!」
「すみません、メンバーにアクシデントが発生しました。少しお待ちください!」
「っつ……!!」
真姫と凛の声で鷹也は我に返る。今は呆けている場合ではない。必死に混乱している思考を落ち着かせようとする。観客には絵里が話してくれた。本来は自分の役目だろうことをしてくれた彼女に感謝しつつ、隣にしゃがんで必死に、そして心配そうに穂乃果に声をかける雪穂の手を穂乃果から離させる。考えるのは後だ。頭の中で色々な感情がぐるぐると回っているが、それを無理やり考えないようにして海未とことりに声をかける。
「ことり、海未。穂乃果を保健室に連れて行って!……雪穂もついていきな。そばにいてやって。」
「うんっ!」
「はい!ことり、そっちの肩を支えてあげてください。」
「お姉ちゃん、大丈夫?ゆっくりね……」
ほとんど意識もないような穂乃果の両肩をことりと海未が支えながら歩いて行くのに、雪穂が声をかけながらついていく。それを見つつ、いまだ安定しない思考でこの状況の打開策を考える。
「……諦めないわよね?」
「にこ……」
「こんなことで諦めるなんて言わないわよね!」
真剣な目で鷹也に向かってにこが言う。その目の中に縋るような、不安げな色が覗いているのに気が付いて鷹也は何も言えずに黙り込む。彼女たちの気持ちを自分は優先したい。しかし、現在のこの状況を考えると思考が定まらない。
「ちょっとあんた、聞いてんの!?やれるわよねって言って……」
「にこ、ちょっと落ち着いて!」
「鷹也さん……?」
「……俺は……」
にこが聞いて来るのを絵里が落ち着かせている中、心配するような花陽の視線を受けるも言葉が続かない。そんな鷹也に視線を向けて、これまで黙っていた希が口を開く。
「……穂乃果ちゃんはもう無理や。」
「希!でも……!!」
「それに……」
希の言葉に対してにこが食い下がろうとするも、それを遮って希がステージの前の観客に視線を向ける。そこには一緒に見に来ている人と何か会話をしてから、次々と屋上を後にする観客の姿。しかたないといえばしかたない。この雨の中で見に来てくれただけでもすごいのに、メンバーのアクシデントで再開のめどが立たないとなればみんな離れていくのは当然。
「っつ……!!」
「………………」
にこがそれを見て、悔しそうに唇をかみしめる。他のメンバーの表情も同じ。悲し気な、悔しそうな表情。鷹也は黙ってそれを見ていることしかできなかった。
結局暗い雨に取り残されたのはステージ上の彼女たちのみ。先ほどまであった歓声、光は一瞬で消えてしまった。
その後、穂乃果は先生の車に乗せられて病院に直行したらしい。鷹也はそれを保健室に着いたときにことりと海未から聞いた。雪穂はその車に乗って一緒についていったようだ。
「そっか。ありがとうな。」
「いえ……みんなは……」
「ずぶ濡れだったから先に着替えさせてる。海未とことりも行ってきな。」
保健室の前で待っていてくれた2人をそう言って促す。しかし、彼女たちは複雑そうな表情でそこを動こうとしない。どんな感情を彼女たちは今持っているのだろう。鷹也は気が付きつつ、それでも何も言えずにその場から歩き出す。海未の、そして何よりもことりのすがるような視線には気が付いていた。
「お兄ちゃん……」
「さ、行くぞ。もう今日はとりあえず着替えたら帰ろう。」
「鷹也さん!」
ことりの呼びかけにそう答え、海未の呼びかけには答えずにその場を後にする。向かうのは屋上。一応片付けなどもある。今日のうちにできることはしておかなくてはいけない。
降りしきる雨の中で傘を差しつつ、今日のうちにできる片付けを進める。できることといえばステージ上の照明のために伸ばしているコードを片付けることくらいだが。
「南さん、私たちも……」
「ん?ああ、いいよ。これからクラスの方でも何かあるだろうし、こっちは任せて。」
「でも……」
「いいからいいから。」
そう言って、手伝いを名乗り出てくれた穂乃果のクラスメイトの3人を屋上から追い出す。複雑そうな表情ながらも、鷹也がいいからと促すと3人は階下へと降りていく。ずっとμ’sのメンバーをサポートしてくれている彼女たちには感謝しているが、今は1人にしてほしかった。何も考えないようにしながら、片づけを進めていく。
「っつ……!」
その際にコードを巻き取っている途中で照明の1つにコードが引っかかり、照明が1つ割れてしまう。散らばるガラスの破片。
「あ~あ……やっちゃった……」
小さくつぶやいてため息。このままにもしておけない。ガラスの破片を集めるために階段から箒とちりとりを取ってこようとして、ふとステージが目に入る。このために、このライブのために作ったステージ。大きくμ’sの文字が書かれた旗がステージの後ろで揺れている。
「………………俺のせいだよな……」
その光景を見て、つい口をついてそんな言葉が出てくる。穂乃果の体調不良に気づかなかったのも、穂乃果の無理に気が付いていながらも止めなかったのは自分。止められなかったのは自分。強い想いを前にして、自分にはない強い想いを前にしたことで彼女たちのことをきちんと見ていてあげられなかったのは自分。こんなことで自分は何をしているのだろう。
「……やっちゃったな……ほんとに……」
後悔なんてしても意味はない。起きてしまったことは起きてしまった。それは分かっている。
でも、選択を自分は誤った。自分にはできなかった。自分には何もできなかった。その思いは嫌でも頭に浮かんできて。後悔は嫌でも心に浮かんできて。
何をしているのだろう。彼女たちにマイナスの影響ばかり与えると分かっていてもそばにいつづけてまでこんな状況をみすみす起こしてしまって。
あの子たちの力になると言いながらこれだ。なにもできてなんかいない。
「……くそっ……!!」
雨の中で1人立ち尽くす。気が付けば手は痛いくらいに握りしめられていた。
部室は重苦しい雰囲気に包まれていた。ことりが海未とともに着替えるために部室に入った時には誰一人会話をせず、みんな不安そうに落ち込んだ表情を見せていた。
「……みんな……」
「ことり、海未。穂乃果は?」
「今先生の車で病院に向かっています。保健室の先生はおそらく風邪をこじらせたのだろうと……」
「そう……ありがとうね。さ、早く着替えて。2人まで風邪ひいたら大変だわ。」
扉を開けてみんなに声をかけると全員の視線がこちらに向き、代表で質問してきた絵里に海未が答えたことでみんなが多少はほっとしたというような表情を見せる。絵里に促されるままにことりと海未も着替えを開始する。他のメンバーはみんな着替えを終えていて、一応とストレッチをしていたところらしい。
「ことり……」
声をかけてくる海未に無言で首を横に振ることで答える。こんな状況で言えるわけがない。リミットは今日。それは分かっている。でも今のこの状況で相談なんてできるわけないし、穂乃果のことで頭がいっぱいで考えれなかった。
「ことりちゃん……?」
「あ……ううん、何でもないよ。」
着替えを始めずに少しぼーっとしてしまったせいで花陽に心配されてしまう。ことりは花陽に向けて笑顔を見せつつ、そう言って制服を身にまとう。
「気持ちを切り替えましょ。いつまでもこうしててもしかたないわ。」
「えりちの言う通りやね。穂乃果ちゃんのことは心配やけど、今は落ち込むよりも次のことを考えんと。」
「そんなこと言っても……」
そんな中で絵里と希がそう言って無理やり笑顔を見せるも、床に座っていた凛が不安げな顔のままで呟く。穂乃果のことが心配なのだろう。ライブの失敗だって初めて。すぐに切り替えることができなくても仕方ない。そんな凛の頭ににこがポンを手を置いて言う。
「落ち込むのはしかたないわよ。不安になるのも。だから少しの間は落ち込んでてもいいわ。でも、落ち込み終わったら切り替えなさい。まだ諦めてる場合じゃないんだから。」
「にこちゃん……」
「次があるわ。まだまだこんなところで終わるわけにはいかないでしょ。」
一番アイドルに対する思いが強く、ラブライブに向けての思いが強いと言ってもいいにこ。今回のライブは一番悔しかったはずなのに、そのにこはどんな思いでこのように口にしているのだろう。真剣な表情をして言ってから、優しく微笑みながら告げられたにこの言葉に凛が顔をくしゃっと歪めて涙をこぼす。普段は元気っ子ながらも、いや元気っ子で自分の感情に素直だからこそ泣き虫な一面もある凛。この状況が不安で、悔しくて、穂乃果のことが心配で、穂乃果の体調不良に気が付けなかった自分が嫌で。他にもいろんな思いがあふれたのだろう。凛は隣にしゃがみこんだにこに抱き付いて泣き始める。
「ったくもう……ほら泣かないの。」
「だって……だってぇ……」
泣きじゃくる凛を慰めてやっているにこを見つつ、みんながあ~あ、泣いちゃったかと言うように泣きそうになりながら微笑む。きっと気が付いてる。みんな気が付いている。今回のことでラブライブの出場は絶望的。ほとんど無理。ただでさえ最後の追い込みの時期にこの失敗は取り返しがつかない。それはきっとみんな分かってる。そんな絶望感、穂乃果を心配する不安な気持ち。そんな気持ちを抱えている。それでも無理やり気持ちを切り替えようとしているのだ。前を向こうとしているのだ。
ことりはそんなみんなの様子を見ながら唇をかみしめる。この状況で言えるわけがない。そう考えて苦しくなり、そんな自分の私情のことを今考えてしまっている自分がいやになって苦しくなる。隣の海未が心配そうに視線を向けてくるのに気が付かないふりをする。
「……もう……花陽まで泣かないでよ……」
「……ごめんね……でも……」
凛と同じように泣き始めてしまった花陽は真姫の肩に顔をうずめ、真姫はそんな花陽の頭を撫でてやっている。なんだかんだでやっぱり優しいなと思いながら真姫を見て。自分がしっかりしなくてはという思いが強いのだろう。気丈にふるまっている絵里と希を見て。ことりはうつむく。
「…………言えないよ……」
言葉にはせずに唇だけそう動かす。自然と手はぎゅっと握りしめられていた。
その日の帰り道。みんなと別れて、ことりは鷹也と2人で歩く。みんなは落ち込みつつも、1度泣いたおかげでなんとか気持ちを切り替えたようで最後はぎこちないながらもなんとか笑みを見せていた。
「……………………………」
「……………………………」
鷹也と2人で無言で歩く。みんなと同じで兄も相当責任を感じている様子だった。いつもと変わらないように振舞っていたが、さすがに無理をしているのがバレバレだった。
「ことり。」
それからしばらくの間は無言が続いたが、鷹也が不意にことりの名前を呼ぶ。少し驚きつつも何?というように視線を向けると、鷹也は何かに悩むようにしてから口を開く。
「留学のこと……どうする?」
「それ……は……」
真剣な表情から紡がれたその言葉に対して口ごもる。海未とは相談した。でも、まだ決心はついていなかった。そんなことりに向けて、鷹也は質問を変えて聞く。
「……海未とはなんて相談したの?」
「めったにないチャンスなんだからちゃんと考えなくちゃって。これから1回もないかもしれないくらいのチャンスなんだから……って……」
「そっか。」
ことりの言葉に鷹也はそれだけ返して黙り込む。その表情から考えをことりは読み取ることができない。正直に言えばどうするかはまだ決めきっていない。でも、自分がずっとやってみたいと思っていたこと。それを本格的に学ぶチャンスが転がっているというこの状況。故に聞く。
「お兄ちゃんは……行った方がいいと思う?」
「……………………」
自分のことを常に支えてくれる兄。彼は自分には何もないからと言い、ことりを支えてくれると常に口にしてくれる。そんな彼の前で自分が自分のやりたいと感じていることを、それを本格的に学べるというチャンスを投げ出すのは彼の想いの冒涜ではないのだろうか。自分を犠牲にしてまでことりを支えてくれる兄。自分を犠牲にすることはやめてほしいものの、そこまでしてことりのことを支えてくれる兄。そんな兄の気持ちを考えたら、この留学を断るなんてできるはずがない。そんなことないと鷹也は言ってくれるだろう。でも、ことりはそう思ってしまった。
「……俺は……ことりの選択を支えるだけだよ。どっちが正解かなんてわからない。」
「……うん……そうだよね。」
しばらく迷うように口を開閉させていた鷹也は最終的に苦し気な表情でそう言う。その表情が意味するのは何なのだろう。ことりは頷き、うつむく。もう1つ聞きたいことはあった。でも、それは聞けなくて。決めきれない。でも決めなくてはいけない。
家に到着する。母親は珍しく、すでに帰ってきていた。おかえりなさいという声にただいまと返して、鷹也とともにリビングのテーブルに座る。向かいには母がコーヒーの入ったカップを片手に座る。話し合わなくてはいけないのは分かっていた。決断しなくてはいけないのも。
「まずはお疲れさま。それで、鷹也……」
「……後で理事長室に顔だすよ。」
「そうね。後で呼び出すから、そのつもりでいてちょうだい。」
責任という部分においての話し合いなのだろう。ことりが口をはさもうとするのを目で制しつつ、鷹也と母はそれだけの会話で話をつける。母も今回のライブの結果は聞いていたようだ。メンバーが病院に運ばれるようなことになったのだから当然といえば当然か。ついでひな子はことりに視線を向ける。
「ことりは……どうすることにしたの?」
「私は……」
真剣な表情で聞かれる。少し言い淀んで横の鷹也に視線を向けるも、鷹也はこちらと視線を合わせようとしない。
「留学に……」
迷っている。まだ迷いはある。でも決めなくてはいけなくて。頭の中で考えを整理していく。一生に一度かもしれないチャンス。自分のやりたいこと。兄の想い。迷いはあるが、理由は揃っている。
「…………………………」
これでいいのだろうか。みんなの顔が思い浮かぶ。μ’sのメンバーの顔が思い浮かんで心が締め付けられる。相談もできなかった。特に大きく穂乃果の顔が思い浮かんで。彼女ならば今、なんと自分に言ってくれるのだろう。考えても仕方ないそんなことを思いつつ
「……行くことにする……」
ことりは自分の選択を口にした。そう、分かったわと頷くひな子から視線を鷹也に向ける。表情を変えず、真剣な表情のままでいる鷹也は何も言わず。心がずきりと明確に痛んだ。
次の日は振替休日でお休み。穂乃果の家にお見舞いに行くことも考えたが、まださすがに体調もすぐれないだろうしともう少し時間をあけることにした。
ことりは自らの選択を電話で海未に伝え、部屋に閉じこもっている。きっとまだ気持ちの整理がつかないのだろう。海未からはことりから電話で聞いたとだけメッセージが届いていた。鷹也はそんな日に音ノ木坂学院の理事長室に呼び出され、ひな子と向き合っていた。
「ごめんなさいね。片付けで忙しいところで呼び出すような形になってしまって……」
「別にいいよ。で、どうすることになった?」
謝るひな子に大丈夫と言いつつ、続きを促す。実際に屋上のステージの片づけは穂乃果の友人の3人が手伝ってくれていたために問題はない。今日は1人で片付けるつもりだったのだが、いつの間にか手伝いとして屋上で彼女たちがいたときには少し驚いた。
「ちょっと待ってて。もう少ししたらあと1人くるから……」
「あと1人?」
「失礼します。」
そんな鷹也に苦笑しつつ言ったひな子に向かって鷹也が首を傾げていると、後ろからドアの開く音と聞き覚えのある声。理事長室に慣れた様子で入ってくる彼女はこちらの姿を認めると、顔に驚きの表情を浮かべる。
「鷹也……さん?」
「絵里?なんで絵里がここに?」
「私が呼んだのよ。絢瀬さん、お休みの日にごめんなさいね?」
生徒会として学園祭の片づけがあったので大丈夫ですが……と言いつつ、絵里が鷹也の隣に立つ。鷹也がなぜ絵里が呼ばれているのか分からないのと同じように、絵里もなぜ鷹也が呼ばれているのか分からないからだろう。少し不思議そうな視線をこちらに向けている。
「これでいいわね。それじゃあ、まずは昨日はお疲れ様。」
そんな2人の様子に苦笑しつつ、ひな子は話進める。ひな子の言葉に2人で軽く頭を下げると、ひな子は続けて口を開く。
「今回のライブで穂乃果ちゃんが倒れて病院に運ばれた件について2人を呼び出させてもらいました。」
「っつ………」
小さく反応する絵里を見つつ、ひな子は真剣な表情で続ける。鷹也は何も言わない。ひな子がこれから言うことを大体察することができてしまったから。それは確実に正論だということも。
「無理しすぎたんじゃないかしら?」
「…………それは……」
何も言えない絵里に対して攻めるような視線を向けるわけではない。あくまで教育者として、そして1人の大人としてひな子は真剣な口調で言う。
「こんなことになるためにアイドル活動を、ラブライブへのエントリーを認めたわけじゃないわ。」
「……わかっています。」
「少し全員で考えてみて?ラブライブへのエントリーに関しても。」
ひな子にそう言われてうつむきつつ、絵里ははいと返事をする。その顔は悔し気に歪んでいて。
鷹也はそれを見て、次いでひな子に視線を向ける。鷹也もよ?というひな子に頷きつつ、鷹也は口を開く。彼女たちの想いで頑張り続けるという強さは折られた。これ以上負担を与えるわけにもいかない。話を変える。
「それで、俺が呼ばれたのはまさかそのことを言うためってだけじゃないよね?」
「ええ、誰に責任があるというわけでもないとは思うわ。でも……」
「……俺の責任ってことでいいよね?」
「なっ……!?ちょ、ちょっと待って!別にあれは鷹也…さんだけの責任ってわけじゃ……」
「しかたないけどそうなるわ。」
「理事長!!」
ひな子の言葉に覚悟はしていた鷹也がそう言うと、反論しようとしていた絵里を遮って理事長が言う。絵里が珍しく声を大きくするが、仕方のないことではあるのだ。どこかで責任というものは収束させなくてはいけない。学校内でのみならば保護者と学校側、そして生徒と鷹也との話し合いで誰にも責任はないとすることもできた。だが、今回のライブは学園祭で多くの不特定多数の人々が見ていた。他校の生徒や音ノ木坂に通う生徒の保護者。様々な人が見ていたのだ。その状況でなあなあにしてはおけない。鷹也は苦笑して絵里をなだめる。
「仕方ないだろ?俺に責任があるのは事実だ。」
「でも……」
「コーチという立場はこういった事態を引き起こしてしまったとして責任を全て負う立場ってことなんだよ。ボランティアとは言っても指導者として、みんなの規範となるべき大人としての立場なわけだからね。」
鷹也の言葉に絵里は納得いかないと言った表情ながらも、唇をかみしめて悔しそうに黙り込む。実際にその通りだと納得してしまったのだろう。自分たちがどう考えていようが、世間的には問題の責任は部員ではなくコーチがとるのは必然。今回のように部員の悪意などがなく、あくまで誰にも絶対的に悪いという部分がないときはなおさらだ。
「……とは言っても今回は穂乃果ちゃんのお母さんが大事にするまでもないとは言ってくれてるわ。だからきっとそこまで重い問題にはならないはずよ。」
「本当ですか!?」
「でも罰は与えなくてはいけない…だよね?」
喜ぶ絵里と対照的に落ち着いたままいった鷹也に残念ながらと言ってひな子は頷く。ひな子としても自分の息子にこんなことはしたくないだろうが立場というものがある。鷹也はそのひな子の気持ちを察して、あくまでも軽い口調で聞く。
「で、どんな罰になるの?」
「……まずは顧問の先生との話し合いの結果がでるまで、鷹也はコーチとしての活動を禁止。おそらくは厳重注意くらいのものになると思っていて。」
その罰の内容を聞いて、少し拍子抜けしつつ鷹也は隣で安堵している絵里を見る。自分が辞めさせられるとでも思っていたのだろう。それが杞憂と分かって安堵してくれている姿を見て、心が痛む。
「それからは鷹也の自由よ。鷹也はどうしたい?」
「え……?」
「続けるかどうかってこと?」
「鷹也が続けたいかどうかということよ。」
この質問は予期していなかったのだろう。絵里が小さく驚くのを聞きつつ、鷹也はひな子に確認を取る。ひな子が訂正してきたことを深く考えないようにして鷹也は自分の中で用意していた答えをだす。最初から決めていた。罰で辞めることになったとしても、今のように選択を迫られてもこうすると答えは用意してきた。ここからは感情を抑え込む。仮面をかぶる。真剣な表情で言う。
「今回のことで痛感しました。俺が彼女たちのためにできることなんてない。」
「鷹也!!そんなこと……」
「絵里は黙ってて。」
ここまで理事長の前だからとさん付けしていたのについに呼び捨てにしてまで、こちらに反論しようとする絵里を止める。前はさん付けがつい出てくるって状況だったのに今じゃ全くの反対だなと内心で思いながら言う。
「普段から俺は活動のサポートはダンスの補佐。それに雑用くらいしか行っていません。」
これは事実。実際に自分はこれしかしていない。
「その中で彼女たちの精神的なサポートができていたかと言えば、今回のことでできていなかったということになります。」
「いい加減にして!みんなもいつも言ってるじゃない!!鷹也はμ’sにひ……」
「絢瀬さん、静かにしてて。」
「え……」
再び口を開いた絵里を冷ややかに見ながら黙らせる。絵里は困惑したような表情で口を閉ざす。何か言いたいが、混乱していて何も言えないといった絵里の様子から視線を逸らして、ひな子に視線を向ける。やるなら中途半端ではいけない。やるなら徹底的に。自分の感情なんて無視して、そもそもそんな感情はないのだから意識するだけ無駄。彼女たちのためになるならばそんな感情は浮かんでこない。
「ダンスに関してならば絢瀬さんがいます。精神的なサポートが必要ならばメンバー間で助け合えるはずです。周りをよく見れる東条さんもいます。むしろ俺がいることで西木野さんに関しては精神的に問題を抱える部分もありました。」
彼女たちには自分は何も与えれない。彼女たちに与えれるものが、彼女たちのためにできることがない。それどころか彼女たちに負担を強いていて、それで問題が起きてしまっているこの状況。
「今回の件に関しても、問題の一因に自分が関わっています。そもそもコーチという立場にいながら止められず、ましてや問題を助長するような行動。この時点でコーチとして活動するのには不都合なうえに、これは改善できるかと言えば難しいと自分の中では判断しています。」
真剣にこちらを見つめるひな子から少し視線を逸らして、呆然をこちらを見つめる絵里をちらりと見る。彼女たちのおかげで少し考えが変わってきていた。彼女たちの中の自分を否定するのはやめようと。
でも今回のことのようにマイナスのことばかり自分はもたらす。ならば彼女たちの気持ちを無視してでも最善をと思い出した。隠していれば自分のことを無視した最善をとってもいいというくらいに思っていたが、隠し切れないのならば隠せないでもその選択肢をとるしかない。彼女たちがどう自分のことを思ってくれていようが、自分の判断ミスなども絡んで問題が起きてしまったのも事実なのだ。それならば、目に見えない彼女たちの中の自分を否定しないという判断と彼女たちの中の自分を否定してまで最善を求めるという判断。どちらを選ぶのかなんて明白だ。そこで黙って聞いていたひな子が口を開く。
「……それではどうしますか?」
「μ’sのサポート、およびに外部コーチとしての立場を辞退させていただきます。」
「鷹也!!」
最後の言葉。その言葉で絵里は我に返ったように大きな声でこちらに呼びかけるも、鷹也は無視。決めたのだ。自分は彼女たちの活動にこれ以上関わらない。関わってはいけない。関わりたいと、横に並んで支えていたいと思ってはいけない。小さくお辞儀をして理事長室から出ていこうとひな子に背を向ける。
「……鷹也。」
「何?」
「コーチとしての立場もあの子たちの最善のことも何も考えなくてもいいわ。あなたがそうしたいと……あなた自身がそう望んでいるのね?」
「…………それは理事長としての発言じゃないよ、母さん。」
「理事長である前にあなたの母親なのよ、私は。」
絵里の時とは違って反応し、誤魔化すように言った鷹也に返したひな子の言葉に違いないねと苦笑する。母の言いたいことは分かる。でも、でも違うのだ。自分の望みはただ1つ。
「俺の望みはみんなが大きくなることだよ。たったそれだけ。それに邪魔ならば俺はそばにいなくてもいい。」
そうこの1つだけなのだ。
はい、いかがだったでしょうか。
鷹也がこの選択をした理由としては様々な要因があります。
きっと恭介との関係も要因の1つです。
ここからμ’sのメンバーがどうするのか。鷹也がどうするのか。
楽しみにしていただければと思います。
それでは感想・評価もいただければ嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。