小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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1週間あいてしまいました。すみません……
来週にはやらなければいけないことが終わるので何とかペースをあげれるかと……

そしていつまでこの鬱展開は続くのか。楽しい話が書きたい……!笑
久しぶりに書いたせいかみんなのキャラが定まりませんでした。あと可愛らしいあの子が何気に鷹也と初会話です!

それではご覧ください!


信頼・信用なんて

「μ’sのサポート、およびに外部コーチとしての立場を辞退させていただきます。」

「鷹也!!」

 

その言葉に絵里ははっとなって我に返る。そして彼に呼びかける。ここで黙っていたら本当に彼は自分たちのそばからいなくなってしまう。そんな思いに駆られるも、彼はこちらに振り返ることなく理事長室をあとにしようとする。

 

「俺の望みはみんなが大きくなることだよ。たったそれだけ。それに邪魔ならば俺はそばにいなくてもいい。」

 

結局理事長の問いにそう答え、彼は理事長室から出ていく。ダメだ。このままいかせてはいけない。閉まるドアの音で止まっていた思考を再開させて、そう考えると絵里はとりあえず彼を追いかけようとする。

 

「……本当に強情よね。」

「理事長……?」

 

しかし理事長のつぶやきによって足が止まった。振り向くと、理事長は無理して作ったような、困ったように微笑みを浮かべていて。

 

「あんなこと言ってるけど自分に自信を持てないだけなのよ、きっと。ずっとそうだった。自信を持っていいところはたくさんあるのに……ねえ、絢瀬さん。」

「……なんですか?」

「あの子は……鷹也は邪魔?」

 

悲し気につづられた言葉。母親として息子がそんな風に思っているというのはどんな気持ちなのか。絵里にも想像に難くない。そして不安げにこちらに聞かれた言葉に対する回答は決まりきっている。

 

「邪魔なんてありえません。彼は……鷹也は私たち全員にとって必要な人です。」

 

ことり、穂乃果、海未の3人はもちろんのこと。1年生の3人も彼のことを頼りにしている節があり、希やにこも彼に対しては素直に応対している。自分だって彼の言葉に救われた。ここまで一緒に歩いてきた。隣で支えてくれた。そんな彼が必要だということはあっても邪魔だなんてことはありえない。

 

「……そう、よかった。」

 

そう言って微笑む理事長。彼女の目には明らかな安堵の色が見えて。理事長はそれならばと口を開く。

 

「あなたたちが必要としてくれているならば辞退するという発言はここだけのことにしておきましょう。」

「え…………?」

「誰にも言っちゃだめよ?」

「あ……ありがとうございます!」

 

悪戯っぽく人差し指を口に当てる理事長に頭を下げる。やめるという発言がここで収まるならば、まだ彼が帰ってくる余地はある。彼がいなくなるのはμ’sにとっても、自分にとっても悲しいことで、つらいことなのだ。絶対にあってほしくないことなのだから。お礼をいうのはこっちの方よと微笑みつつ、理事長であり、鷹也の母であるひな子は言う。

 

「鷹也はあんな子で、みんなに迷惑かけるかもしれないけど……よろしくね?」

「はい!」

「あ、でも私と顧問の先生の話し合いが終わるまでは何もしちゃダメよ?」

「はい……」

 

 

 

 

その日の夜はさすがにいつも通りとはいかなかった。ひな子は何やら忙しそうにしていたためにまだ帰宅しておらず、ことりは明らかに沈んでいて、鷹也もいつものようにはいられなかった。無言で食事が進む。

 

「海未は何て言ってた?」

「え……あ、うん。ことりが決めたことなら応援しますって言ってくれたよ。」

「そっか……他のみんなには?」

「………………………」

 

さすがにこのままというわけにもいかないので鷹也からことりに話題を振る。この話題を出すのはためらわれるが、今はこの話題は聞いておかなくてはいけないししかたないだろう。急に話しかけられて驚いたのか、ことりが少し遅れて反応しつつ黙り込む。

 

「穂乃果にも言ってないんだろうし、今度穂乃果に会う時にできるだけ早くいっときなよ?」

「うん……」

 

そこで会話が止まる。うつむくことりにはさすがにこれ以上聞くわけにも何か言うわけにもいかない。そもそもこの話題に関してはあまり自分はふみこまないときめたはずなのだ。それでもいつもならもう少し他の話題で会話があるのだが、いつも通りに戻るには少し時間が必要だろう。すると今度はことりから話題の提示。

 

「お兄ちゃんは今日お母さんに呼ばれてたんでしょ?どうしたの?」

「えっと……」

 

ことりにはまだμ’sのサポートをやめるということを伝えていない。どうせこれから伝わるのだろうから言っておいた方がいいのは分かっているのだが伝えるのには抵抗があった。鷹也は結局誤魔化すという選択をして、当たり障りないことだけ伝えることにする。

 

「穂乃果が倒れたことについて。さすがに責任はどこかでとらなくちゃいけないからね。俺は厳重注意。しばらくμ’sの活動には関わるなだって。」

「え……でも、あれはお兄ちゃんだけのせいじゃ……」

「それでもだよ。」

 

そう言って反論してくれることりを絵里と同じように説得する。納得したのか。うつむいて食事に戻ることりに苦笑しつつ、鷹也は言う。

 

「まあ、今はみんなとの残りの時間を大切にして。準備も忙しくなるんだからさ。」

「うん……」

 

結局その日はいつも通りに戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

「ラブライブの出場辞退……まあ予想通りではあるか……」

 

次の日。ことりからのメッセージでその事実を知って鷹也はそう呟く。穂乃果にはおそらく相談できてはいないようだがしかたのないことだろう。昨日のひな子と絵里の会話から想像できていた事態ではある。鷹也はそれにわかったとだけ返信して歩みを再開する。今日は穂乃果の家に向かっている。そろそろ大学も始まる時期である。始まってしまうと行く時間が限られてしまうので、その前にと思ってのことだ。まだ体調は優れないだろうし穂乃果には会わない予定だが、それはそのうちお見舞いにもう一度来ればいいだろう。

 

「いらっしゃいませ!……ってあら、鷹也くん。珍しいわね?」

「どうも、少しお時間いいですか?」

 

ほどなくして穂むらに到着し、入口の戸を開けるとそこにいたのは穂乃果の母。そんなかしこまらなくてもいいわよと笑う姿に苦笑してから鷹也は表情を真剣なものにして頭を下げる。

 

「今回の穂乃果が学園祭のライブで倒れた件について謝罪に来ました。本当にすみませんでした。」

「なんだそんなこと。」

「え……」

 

想定外にあっさりと返された言葉にきょとんとして思わず顔を上げる。そこには笑顔を全く崩していない穂乃果の母がいて。天井を、つまりは2階を指さして言う。

 

「どうせあの子が勝手に無理して寝込んでるんでしょ?鷹也くんが悪いことなんてなんにもないわよ。」

「いや、でも止められなかったのは俺の責任で……」

「あ、そういえばそうね。じゃあ後でお見舞いにでもきてやってちょうだい。少し熱は下がってきたけどないわけじゃないし、今日はまだ寝込んでて会わせられないけど。うつっちゃったらいけないしね。」

 

どうせ明日か明後日には熱も下がるわよ。そう言って穂乃果の母は笑う。鷹也のことを一切責めようともしないその様子に胸が苦しくなる。悪いのは自分なのに。どこまでもまっすぐで何もかもを上手く巻き込む穂乃果にマイナスの影響をもたらしたのは自分なのに。

 

「……なんで責めないんですか?娘さんを、穂乃果が倒れる原因の一端にもなってるのに……」

「鷹也くんだけの責任じゃないわよ。それに……」

 

こらえきれずに聞くと、穂乃果の母は優しく微笑んでそう言うと鷹也の顔をまっすぐに見て続ける。

 

「穂乃果のことを本当に大切に思ってくれてて、穂乃果も大切に思ってる鷹也くんのこと責めるなんてできないわよ。これからもあの子のことお願いしたいんだから。」

 

あ、雪穂のこともお願いねと笑う穂乃果の母。どうしてと思う。自分はそこまでの信頼をもらえるような人間ではないのに。結局何も鷹也は答えれずに、上がってお茶でも飲んでいかないかという穂乃果の母の誘いを丁重に断って外に出る。

 

「……………………」

 

無言で少し立ち尽くす。大切な人からの信頼。信用。それは普通なら誰もが欲するものであるのだろう。大切な人から必要とされる。それは普通なら誰もが嬉しいと思うものなのだろう。でも、鷹也にとっては。普通でないと自覚する鷹也にとっては。

 

「あれ?鷹也さん。」

「……雪穂?学校終わったのか?」

「うん、鷹也さんは……ああ、お姉ちゃんだよね。」

「まあね。雪穂にも心配かけさせちゃったな。ごめんな。」

 

ううん、あれはお姉ちゃんが悪いし。とあっけらかんと言う雪穂にお前もかと苦笑する。高坂家は基本穂乃果に厳しいのである。家族ゆえの厳しさのようなもの。制服を着て、スクールバックを持っている彼女は学校帰りの様子。そろそろそんな時間だもんなと思いつつ、雪穂と会話しているとその後ろからひょっこりと小柄な少女が顔を覗かせる。

 

「鷹也さん?雪穂、この人って……」

「ああ、亜里沙はまだ話したことないんだっけ。南鷹也さん。ことりちゃんのお兄さんで、μ’sのコーチやってる人だよ。」

「ハラショー……!!あの!私、亜里沙って言います!!」

「う、うん。よろしくね。」

 

十分小柄な雪穂よりもさらに少しだけ小さなその少女。雪穂と同じ制服を着ているし、おそらくは雪穂の友達だろう。目をキラキラさせてこちらに駆けよってくるその勢いに少し驚きつつ、鷹也は挨拶を返す。とっさのことでμ’sのコーチをやめることも伝える間もなかった。間があったとしても伝えれたかは正直怪しいところだが。まあいつか伝わるだろうと気持ちを切り替え、そして首を傾げる。何か特徴的な、聞いたことのある単語が聞こえていた気がする。

 

「ハラショー……?」

「あ、それはロシア語の感嘆詞みたいな意味らしくて……」

「うん、それは知ってる。ってか雪穂、感嘆詞の意味分かって使ってる?」

「失礼な!それくらい分かるよ!」

 

頬を膨らませる雪穂に苦笑しつつ、ごめんごめんと謝る。穂乃果と一緒にいるときはしっかりしているように見られる雪穂だが、根本としてはやはり穂乃果と似ているようで授業中の眠気に時々負けているようなのだ。成績は悪くはないがそこまで良いわけでもない。1度テスト前に泣きつかれたこともある。そんなこともあったなあと思いつつ、相変わらず距離感が近い亜里沙に視線を移す。金髪というよりは白金といった方がいいような色の髪。そして水色の瞳。キラキラとした表情の彼女は満面の笑みを浮かべたままにこちらに首を傾げて見せる。じっと見つめられているのが疑問なのだろう。ごめんごめんと笑いつつ鷹也は聞く。

 

「あの……絢瀬絵里って知ってる?」

「はい!お姉ちゃんです!!」

「なるほどね。ずいぶん世間は狭いもんだな。絢瀬さん……絵里の妹が雪穂の友達とはね。」

 

そりゃあ口癖が同じはずだ。まさか一家でハラショーが抜けきらずにロシアの名残として残っているとは想像していなかったが。そう納得して鷹也が苦笑していると、そんな鷹也に向けて亜里沙が言う。

 

「あの!」

「ん?どうしたの?」

「鷹也さんってμ’sのダンスのコーチしてるんですよね!お姉ちゃんがいっつもすごい人だって言ってます!!」

「っつ……!……そんなことないよ。あや……絵里と海未がダメなところを指摘して、俺はそこを確認してるだけだしね。」

「そんなことないなんてそんなことないです!あんなに素敵なダンスを考えれて指導できて……!!とってもすごいです!!」

「あ~……えっと……」

 

そう言う亜里沙の目はキラキラとした純粋な光を持っていて。明らかに素直にそう言っていることが伝わってきていた。鷹也は何とも言えずに雪穂に助けを求めるも、雪穂はにやにやとこちらを見るのみ。こちらが困っていることを分かっていて何も言わないのだろう。そんな鷹也の困っている様子をどうとらえたのか。雪穂ではなく亜里沙の表情が曇る。

 

「あ……ごめんなさい……いきなりこんなにはしゃがれても迷惑ですよね……」

「え……あ、いや、そういうわけじゃ……あ、ありがとうね。嬉しいよ?」

「あ……!はい!ありがとうございます!!」

「めずらしい……鷹也さんが褒め言葉を素直に受け取った……」

 

雪穂が少し驚いているのに軽くジト目を向けてやる。仕方ないだろう。別に褒められたことが自分に当てはまっていると納得したわけじゃない。この短時間で分かるくらいにとても純粋であろう亜里沙があんなにしょぼんとした様子を見せたらこうするしかなかったのだ。亜里沙を悲しませたときの罪悪感が尋常じゃない。しょぼんとした様子から満面の笑みを取り戻し、なぜかお礼を言う亜里沙によかったねと雪穂は言いつつ、鷹也にそんなことよりと声をかける。

 

「鷹也さん、今時間ある?勉強教えてよ。前に約束したでしょ?」

「え?まあ、時間はあるけど……っとちょっと待って。」

 

前にそういえばそんな約束もしてたなと思い、いや約束ってほどでもないよなと思いなおしてから鷹也はまあいいかと答えようとして、唐突に着信を告げた電話をポケットから取り出す。ごめんと2人の中学生に断りを入れつつ画面を確認。そして通話を始める。

 

「ん……わかった。今からだね。……逃げるわけないよ。……じゃあ後で。」

「……鷹也さん用事できちゃいましたか?」

「まあね。ごめんね、後で時間作るから今日は……」

「分かりました。また今度お願いします!」

 

通話を終えると同時にこちらに言ってきた亜里沙に答えてから鷹也は2人に謝りつつ、その場をあとにしようと歩き始める。しかし、その背中に通話中からじっとこちらを見ていた雪穂から声がかかる。

 

「鷹也さん、今の電話ってなんの用事?」

「なんで?ちょっと大学の友達に呼ばれただけだよ。」

「……そっか、呼び止めてごめんね。バイバイ。」

 

何か考え込むような雪穂に首を傾げつつ、鷹也はその場を今度こそあとにする。向かうのはいつもの路地裏。

 

 

 

 

 

「雪穂?どうかしたの?」

「……う~ん……」

「雪穂?」

 

隣の亜里沙が声をかけてくるのに返事をせずに少し考える。いつもと違うと直感的に分かったあの様子。いつもの穏やかな彼とは違うあの表情。

 

「雪穂!どうしたの?」

「え?あ、ああごめんごめん。さ、はりきって勉強しよ?」

「うん!」

 

満面の笑みで片手を挙げる亜里沙を微笑ましく思いつつ、雪穂は玄関の戸をただいまーと言いながら開けて入る。しかし、気持ちの切り替えは済んでおらず。頭に浮かぶのは彼の先ほどの表情。小さくため息。これでは勉強にも身が入らない。

 

「ねえ、亜里沙。」

「?」

 

最近覚えたのだろうか。脱いだ靴をきちんとそろえて端に置き、満足気などや顔でいた亜里沙に声をかける。正式には訪問先にお尻を向けないで、半身になって揃えるのが正解なのだがそれはまあこの際どころかこれからも別に気にする所でもないだろう。亜里沙は満足そうであるし。

雪穂の声に何も言わずに表情だけで何?と問いかけるその亜里沙の様子に自分にはない可愛らしさを感じつつ聞く。どうせ自分だけで結論がでないのなら他の人に聞いてみるのも手だろう。

 

「電話してた時の鷹也さんの表情……見てた?」

「ん~っと……すごく楽しそうだったよ?笑ってた!でも、なんでそんなこと聞くの?」

「だよね……ううん、何でもない。」

 

え~雪穂~と好奇心旺盛な亜里沙が聞いて来るのを適当に誤魔化しつつ、雪穂は居間に亜里沙を通してからお茶入れてくるねと1人の時間を作って思考する。笑っていた。鷹也は先ほどの電話の時に笑っていた。それは別にいい。笑っていたのは別になんら問題でもない。それだけなら。でも少し違和感があったのだ。

 

「鷹也さん……いつもあんな笑い方するっけ……」

 

小さくつぶやくも答えはでず、雪穂はとりあえずとお茶を入れて亜里沙の待つ居間にもどった。

 

 

 

 

 

そのころの音ノ木坂学院のアイドル研究部部室は最近多くなった重苦しい空気が漂っていた。先ほど決めたラブライブ出場辞退。鷹也の謹慎。その事実を受け止めたばかりで、まださすがに誰も騒ぐ気にはならないのだろう。

 

「さ、今日はミーティングだけの予定だったし……他に何もなければ解散にするけど……」

 

絵里の言葉に誰も返さない。こういう空気を打破するのはいつも穂乃果の役目だが、あいにくとその少女は今は家で寝込んでいる。

 

「……ことり……」

「今はまだ……」

 

隣で小さく会話している海未とことりにチラリと真姫は視線を向ける。何かあるのかもしれない。前までなら聞けただろうか。何かあるのなら言えばいいじゃないとでも言えたのだろうか。でも

 

「………………………」

「真姫ちゃん?どうかしたん?」

「なんでもないわ。」

 

自分はもう何も言えない。本当にことりと海未が何かあるのかは自分には分からないのだから。首を傾げて聞いて来る希にそう返して、何もないようねと話を再開させようとする絵里に視線を戻す。

 

「じゃあ今日はもう解散しましょう。明日の放課後に穂乃果のお見舞いに行くことにして……」

 

絵里の言葉に全員で返事をする。その言葉にいつもの元気はなくて。そして少しの間、みんなで沈黙してしまう。いつもならば練習やミーティングの最後には彼の言葉がある。だからこそ、少しみんな違和感を感じて黙り込んでしまったのだろう。

 

「かよちん、真姫ちゃん。ラーメン食べに行くにゃー!」

「えぇ!?今から行くの?」

「いやよ。お昼ご飯も食べたし、今から食べたら夜ご飯食べれなくなるわよ。」

 

えぇ~……とむくれる凛をあしらいつつ、鞄を手に取る。きっとこの空気に耐え切れなかっただけで本当にラーメンを食べに行くなんてこと思っていないはずだ。いや、凛ならば花陽と自分が食べに行くと言っていれば本当に行っていたかもしれないが。

 

「……さあもう帰るわよ。いつまでもこうしてても仕方ないわ。」

「あ、にこっち!えりち行こう?」

「そうね。みんな、ほらもう行くわよ。」

 

気丈にふるまおうと歩き出すにこのことを心配そうに見つつ、希がその背中を追いかける。にこの気持ちは察することはできるが分かるとは言わない。彼女の境遇や強い想いを考えたら、どれだけこの状況が苦しいのだろう。それはたぶん自分たちが想像できるほどの苦しみではないのだろう。

絵里に促されて全員が部室から出るが、そのみんなの顔に笑顔はなく。気持ちを切り替えようとしていた凛もにこの様子に心配そうな表情でうつむいている。

 

「………………………………」

 

チラリと視界にはことりが唇をかみしめているのが目に入る。みんなは他のことに気を取られていて気が付いていないようだ。仕方ないと言えば仕方ないのだろう。絵里は彼がいない分もみんなを引っ張ろうと、希はそのサポートをしようと、にこはつらい気持ちを隠そうと、凛と花陽も自分の気持ちを落ち着かせようと。それぞれがそれぞれでいっぱいいっぱいのような感じだ。海未もそんなことりを心配そうに見ているが何も言わない様子。

そこでずいぶんと冷静に周りを見ている自分に真姫は気が付く。

 

(だからと言って何も言えないんだけど……)

 

視線をみんなから逸らしてうつむかせる。変に冷静な分だけ自分のことも理解できている。自分の判断ミスを思い出してしまい、自分の正しさに自信がなくなっている。自分がここで余計な口をはさむのがいいことなのか。それが分からなくなってしまったのだ。

 

「………………………」

 

そして普段からそういうことに口をはさむタイプでもない自分がそんな思いを抱えていることに気が付く人もいないわけで。先頭を歩いて導いてくれる人と隣で支えてくれていた人。同時に2つの存在を失ったμ’sに笑顔はない。

 

 

 

 

 

鷹也はいつものように呼び出された路地裏で呼び出してきた相手と向き合う。今日は会話をする気もないらしい。適当によおと挨拶をして近づいて来た男が鷹也を殴る。みぞおち辺りを殴られてうずくまる。

その後も続けていつも通りに殴る蹴るの暴行を加えてくる存在に対して、鷹也は何も言わない。しかししばらくその状況が続いてから

 

「ハッ……」

 

口元に笑みが浮かんでくる。痛みを感じたから。痛みを意識して、自分を意識できたから。

そもそも普段から痛くないわけではない。痛みを何とも思っていないだけ。鷹也は身体中に感じる痛みに笑みを零す。その笑みはいつもよりも歪んでいて。

 

「アハハハッ……」

 

こらえきれないとでも言うように笑い声を漏らす。小さく漏れていたその声に気が付いたのか。周りの男たちが気味悪げに鷹也を見る。

 

「なんだこいつ……ついにイカれちまったか?」

「前々からこんなもんだろうよ。……なぁ?鷹也?」

「え?ああ、そうだね。こんなもんだよ、俺は。」

 

恭介から聞かれて、笑みを崩さずに鷹也は言う。こんなもんだ。自分はこの程度の存在が1番似合っている。信頼なんて、信用なんてもらうような存在じゃあない。

 

「本当に気味がわりいな、おめえは。」

「ひどいなぁ、恭介くん。」

「……………………」

 

軽口をたたく鷹也に恭介は何も返さない。そんな様子ににやにやとしつつ、鷹也は言う。

 

「別に何かあるわけじゃないよ。誰かに言ってこの場を何とかできたとかでもない。」

「じゃあ、なんで笑ってる?」

「恭介くんは分かってるでしょ?」

「……わかんねえよ。おめえのことなんて分かりたくもねえ。」

 

そう言って恭介は鷹也を蹴り飛ばし、財布を回収してお金を取る。そして倒れつつも笑みを絶やさない鷹也を見下す。鷹也はそんな恭介を見返して言う。

 

「そんなことないはずなんだけどなぁ……」

「俺はてめえが気に食わない。その時点でてめえのことなんて少しも理解できねえよ。」

「そりゃあ残念。恭介くんのこと俺は好きなのに。」

 

この言葉は本音だ。鷹也は恭介のことを嫌ってなんていない。むしろ好きなくらいだ。この関係が鷹也は全く嫌いじゃない。恭介はその言葉に何も言わずに背を向ける。これ以上やってもストレス発散どころかストレスがたまるとでも判断したのだろうか。取り巻きの連中は文句を言っているが、それを黙らせつつ恭介が鷹也に言う。

 

「俺はてめえが大嫌いだ。」

「それは嬉しいよ。」

 

かたや忌々し気に、かたやにこやかに告げられた言葉。その言葉はお互いに届き、お互いの表情をさらに深くした。

 

 

 

 

 

「ツバサ。」

「んー?なに~?」

 

鷹也が恭介たちと会っている頃。UTX高校ではそんなこと知る由もない、というか特に関係ないA-RISEのメンバーが専用のレッスンルームでストレッチをしていた。7日間連続ライブも終わり、後はラブライブの本選に向けて調整していくのみ。集中して一通り練習を終えた後に、グループメンバーの英玲奈に声をかけられて綺羅ツバサは前屈していた体を起こして首を傾げる。

 

「いや、なんだか沙希の様子がおかしいと思ってな。何か聞いていないかい?」

「沙希ねえの様子?ん~……そういえば何か上の空だよね~」

 

英玲奈に言われて今日の沙希の様子を思い返す。いつもどおりに指示は飛ばしていたし、その指導は的確だった。まだまだ沙希の求めるところまでは届いていないようで、沙希が満足した様子もなく次の改善点を考えていたのもいつも通りである。気になると言えば時々ため息をついていたことくらいか。

ちなみにその沙希は今はあんじゅのストレッチを手伝いながら会話している。

 

「でも、最近が機嫌良すぎただけってのもあるよっと……」

「それはそうだが……」

「まあ、こっちで考えてても仕方ない仕方ない。気になるなら突撃あるのみ。沙希ねえ~!!」

 

立ち上がりつつツバサがそう言うも納得していない様子の英玲奈。そんな様子にやれやれと肩をすくめて見せ、ツバサは沙希を呼ぶ。英玲奈がそんないきなり本人に言いにいかなくても……と呆れた様子を見せているが、止めないということは英玲奈もこうするのがいいと思っているということだろう。ツバサはそんなことを考えつつ、あんじゅとともにこちらに近づいて来た沙希に聞く。

 

「何かあったの?英玲奈が心配してるよ。」

「あれ、本当?ごめんごめん。心配かけて。」

「いや、それはいいんだが……何かあったのか?」

「ん~……何があったというか何もなすぎたというか……」

「何もなすぎた?」

 

どうやら何も隠す気はないようだ。そもそも隠し事なんて沙希は基本的に自分たちにはしないのだが。沙希の言葉にあんじゅが首を傾げると、沙希は苦笑して言う。

 

「いや、何か変わっていくと期待していた相手が何も変わってなくて勝手に自滅したのがつまんなくってねえ……」

「それってμ’sのことか?」

「まあね。」

「へえ……そういえばライブで何かアクシデントが起きたって言ってましたわね。」

「そう。見た感じだと彼女たちに問題があったというよりかはコーチに問題があったと捉えるべきだろうけど。」

「コーチって……沙希ねえの後輩さんだっけ。それにしても出場圏内ギリギリの状態でこの時期の失敗は致命的だね~」

 

そうなんだよね、面白くなりそうだったのに。とため息をつく沙希の様子に3人で顔を見合わせる。珍しいのだ。これまでいくつものグループが自分たちに挑んできたし、その全ての挑戦を自分たちははねのけた。頂点に上り詰めるまでの間は挑戦者として。頂点に上り詰めてからは王者として。これまですべての勝負に勝ってきた。

その中で面白いと思う相手は自分たちとしてはいた。最近は張り合いがなくなってきたとも少し感じるが、身近に目標がいるためにつまらなくはない。

 

「珍しいな。沙希がそこまで面白そうだったと言うなんて。」

 

英玲奈が聞くがその通り。自分たちはある程度の相手に張り合いを感じ、全力で迎え撃つことで勝つ。しかし、沙希はいつもつまらなそうだった。大丈夫、負けるわけないよという沙希の言葉にはライブ前などに何度も助けられたが、実際にその通りにツバサ達は負けなかった。ランキングを上げ続けた。おそらくその沙希の言葉には確信があったからこそ、自分たちは助けられたのだろう。

しかし、それは沙希は勝ちを疑っていないということでもある。沙希はランキングが上がっていっている間も、後ろからランキングを一気に上げてくるグループがあっても面白そうな、楽しそうな表情をしたことはなかった。その沙希が面白いと言い、敵として認知していたのがμ's。そう考えてもかなり珍しい事例なのに、基本的には移り気な彼女がここまで執着しているのも珍しいのだ。

 

「ん~……まぁあの子たちはきっと才能ならあんたたちといい勝負だからね。」

「むっ……」

 

その沙希の言葉に少しばかりむっとする。才能なんてとかなんとか言う気はないが、いやないからこそ才能の部分でも練習の部分でも負けるというのは嫌なものなのだ。そんなツバサの様子に気が付いた沙希がツバサの頭をごめんごめんと撫でながら言う。

 

「でも、もう関係ないよ。あんたたちにはあたしがついてるからね。大丈夫、負けるわけない。」

 

その力強い言葉に笑みを零す。そうだ。自分たちにはこの信頼できるサポートが付いている。今はまだ上だが、いつか絶対に追いついて見せるとひそかに3人で約束しているサポートの彼女が。

 

「それに対抗できる可能性があるのなら鷹也だったけど……もうだめかな」

「……!沙希ねえに対抗できる人なの?コーチの人って。」

「ん?別にあたしとおんなじようなタイプで対抗してくるとかそういうわけじゃないよ?ちょっと面白い子だからさ。もしかしたらと思ったんだけどねぇ……」

 

沙希がまたため息をつくのを聞きながら、ツバサは考える。沙希が自分に対抗できるかもしれない存在と称した相手。面白いと称した相手。これまでには絶対出てこなかった存在。

 

「い~いこと考えた……」

「ツバサ、何か余計なこと考えてますね……」

「嫌な予感しかしないな……」

 

小さくつぶやいたツバサにあんじゅが苦笑し、英玲奈がやれやれと額に手を当てる。沙希はそれを見ても何も言わない。別に何を思いついていても問題行動にはならないとの判断だろう。ツバサの行動に沙希が問題があると判断すれば止めてくれるし、その理屈が正しければ自分もその指示に従う。だが、何も言ってこないならば沙希の想定する範囲内では問題ないということ。まだ自分は沙希の想定を超えれるような気はしないし。

おもしろそうに、おもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべるツバサに英玲奈とあんじゅは顔を見合わせて小さくため息をついた。

 

 




はい、いかがだったでしょうか。
鷹也は恭介との関係を何とかする気はない。
鷹也がそう考えている理由は後で出てくるのでそこで。鷹也のあり方や弱さには関係する話です。

真姫が変に冷静だったのは、彼女の元からもつクールな性格とすでに鷹也とのことで心が揺さぶられていて衝撃を変に受け止めきれなかったからというような理由です。

と本編の話をしつつもその前に次回はUAの伸び的にUA60000超え記念の番外編になると思います。内容はまだ決めてないですが、早めに更新できればと思います。
読んでくださってる皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです!

それでは感想・評価いただければ幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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