はい!惜しかったです。間に合いませんでした。
まあ、6時間ちょっとのくらい誤差ですよね。うん。
……本当に遅れてしまいすみませんでした。UA60000とバレンタインデーの番外編です。
なかなか話がうまく書けなかったためにキャラ崩壊があるかもしれませんが、そこは番外編ということでご容赦ください。
今回は14000字越えのボリューム。うん、本当に疲れました。
それではご覧ください!
事の発端は練習の休憩時間のことだった。
「お兄ちゃん、今年もケーキでいい?」
「ん?ああ、もうそんな時期だもんな。ことりがくれるものなら何でもいいよ。」
「うん!じゃあ楽しみにしててね!」
ラブライブの本戦に向けて集中した練習が続く日々の中でことりと鷹也がそんな会話をしているのが耳に入ってきたのだ。
気になることは即聞いてみる。そんな躊躇いも何もないような考えのもとで凛は2人に近づいていく。
「なになに?なんの話?」
「あ、凛。いや大したことじゃないんだけどな。」
「あのね、お兄ちゃんにバレンタインのチョコのお菓子でもどんなのをあげようかなって話してたの。」
「おお〜バレンタイン!」
今さら隠すのも何だからお兄ちゃんに好きなもの聞いてから作ろうと思って。そう言うことりにそーなんだーと頷く。
「凛ちゃんは誰かにあげないの?」
「ん〜……凛はいっつもかよちんからもらう側だったからにゃ〜。それで凛も思い出して2人でチョコ買いに行くんだ!」
「なんていうか凛らしいな。」
そう言って笑う鷹也にどういう意味にゃとふくれっ面をしてみせると、ごめんごめんと鷹也は笑う。するとそこで他のメンバーも近づいてきた。
「バレンタインか〜。いっつも鷹也くんにあげる他には男子にあげることはないな~」
「私もですね。鷹也さんにあげるのですらかなり恥ずかしいのに、他の人になんて……!!」
「ことりだけじゃなくて穂乃果と海未もなの?まぁそういうことに縁がないのは私も同じかも。これまであげようなんて思う人いなかったもの。」
「そうなん?えりちモテそうやけど貰うこともないん?」
「まあ、もらうことは多少あるけれど、そこまで多いわけでもないわよ。……それにやっぱり誰かにチョコをあげるっていうのが女子としては正しいバレンタインデーの過ごし方よね。」
「それでももらったことがあるってのがすごいね……」
「ふふん、絵里もその程度なのね。このにこにーともなればバレンタインデーの当日にはダンボール数箱分のチョコが……」
「はいはい。誰も聞いてないわよ、そんなこと。」
「何よ、その態度!」
みんながバレンタインの話題で盛り上がる中で少し考え込む。バレンタインといえばお世話になっている人とか大事な人にチョコをあげる日である。いつもは市販のものを花陽に買っている。でも今回はどうだろうか。
「凛ちゃん、今年もチョコ作ってくるね……凛ちゃん?」
「……うん、決めた!鷹也くん!」
「お、おう?どうしたの、凛?」
お世話になっているというならこの人にあげないわけにはいかないだろう。それこそとってもたっくさん助けてもらっている。周りのみんなもきっと作ってくるだろう。それならば市販のチョコをあげるなんてことでいいのだろうか。せっかくの機会なのだからきちんと気持ちをこめたお礼としてもチョコをあげたい。隣で花陽が少し顔を引きつらせているのが気になるが、もう決めたのだ。1度決めてしまえば後は進むだけ。
「凛も鷹也くんにチョコ作ってくるね!!」
花陽に止められる前に凛は笑顔でそう言いきった。
☆彼と彼女たちのバレンタインデー☆
「う~ん…………」
場所は凛の家。姉が2人と両親で暮らすその家のキッチンはある程度広く、そのキッチンに並べられた目の前にある材料を難しい顔で見つめる。チョコや製菓用のバター、砂糖にココアパウダー。そして色々な調理用具が並ぶその前で数秒間思考を巡らせる。隣にいるのは花陽と海未。明日のバレンタインデーのために協力をお願いしたら快く引き受けてくれた。ちなみに両親はバレンタインデーには早いけどせっかく今日休みだからと仲良く2人で買い物。2人の姉はそれぞれ友人の家に行っていて不在である。
「凛?どうしたのですか?」
「えっと……」
今回作ることにしたのはブラウニー。そこまで手順も難しくないレシピを花陽が探してきてくれた。それはいいのだ。本当に感謝している。しかしだ。不思議そうに声をかけてくる海未に視線を移して真剣な顔のままで、現状を把握して出した結論を告げる。
「……何から始めればいいのかにゃ?」
「凛ちゃん……」
「やっぱりですか……」
「だ、だってぇ……」
涙目になって花陽と海未に抗議する。そもそも自分は自他ともに認める料理下手なのだ。前に少しだけ教えてもらったことで多少はよくなっているかもしれないが、それでも下手の域からは出ていない。そんな自分がお菓子作りなど分かるわけがない。
それは分かっているのだろう。苦笑しながらも花陽と海未は手順を教えてくれる。
「頑張って美味しいの作ろうね、凛ちゃん!」
「うん!!頑張るにゃ!!」
「では始めましょうか。まずはこのチョコとバターを湯煎にかけて混ぜてください。お湯が入らないように気を付けてくださいね。」
「分かった!!」
穂乃果のように両手でガッツポーズを作って言ってくれる花陽に元気に返事をして、海未の指示に従って作業をすすめようとしてふと手が止まる。
「凛?」
「えっと……」
少しの間考え込むように真剣な顔になる。周りを見渡してから、真剣な顔のままに真剣な表情で現状を把握して出した結論を海未に告げる。
「お湯を入れないようにチョコとバターを湯煎にかけて……ってなに?」
「すみません、説明が足りませんでしたね……」
「り、凛ちゃんはお菓子普段作らないから湯煎って知らないよね、うん……」
「だ、だってぇ……」
普段の年ならば別に気にするような日でもなかった。これまでは特に異性と関わることもなかったので当然といえば当然だろう。しかし、今回は別。
「あげるべきなのよね……」
真姫は小さくつぶやいて考え込む。
昨日の凛の衝撃的宣言(凛の料理下手は自分たちは全員知っている。正直に言えば鷹也の顔も引きつっていたように自分には見えた。)の後にそれならば自分もと希が言いだし、毎年のことなのだろう穂乃果はもちろん、絵里までも普段からお世話になっているしねと言って作ってくると言っていた。凛が作ってくる以上は花陽も作ってくるだろうし、海未は穂乃果と同じ。唯一にこだけは最後までなんであんたに作ってこなくちゃいけないのよと言っていたが、結局のところ作ってくるのが彼女だろう。自分もにこと同じく返事をしなかった組だがなんとなく何もあげないのは気が引ける。
そうなると1つ問題が発生するのだ。
「みんな手作り……よね……」
唯一料理が一切できないとまで言える凛は花陽と海未を助っ人に昨日の段階で呼んでいた。穂乃果も料理ができるようには思えないが家が和菓子屋だ。その辺は毎年何とかしているのだろう。というか料理が普通にできてもおかしくはない。それに比べて自分は全くと言っていいほど料理をしたことがない。したのはクリスマスにみんなでパーティーをしたときに絵里とにこと一緒にした時くらいだ。当然お菓子なんて全く作ったことはない。
(誰かに教えてもらえばよかった……)
今さらそう思うも、今から自分が誰かに手伝いをお願いするなど性格的に素直になれないことは自分がよく分かっている。昨日の段階でも同じだろう。素直になれない自分に少し嫌気がさす。
そんな風に考えていると唐突に家のベルが鳴って来客を告げる。今日は休みの日だが医者として働く両親はともに勤務中。今は家にいるのは自分1人だ。ため息をついて立ち上がる。
(まあ今さら考えても仕方ないわよね。ちょっと出かけてみて、どこかでチョコを買って明日渡せばいいでしょ。1人くらい買ってきたチョコをあげてもいいじゃない。)
レシピを調べて自分だけで挑戦してもいいが、それではそこまでおいしい物はできないだろうし失敗の可能性だってある。それなら買いに行ってそれを渡した方がいいだろう。ほとんど開き直りのような心理状態でそんなことを考えつつ、返事をしながら玄関の扉をあける。
「はい、どちら様で……ってえ?」
「なによ、その反応。わざわざ来てあげたっていうのに。」
「ごめんね。いきなりお邪魔して……」
「にこちゃん?ことり?」
きょとんとしながら、状況が把握できずに真姫はその2人の唐突な来訪を出迎えた。
「ふ~んふふふ~ん……♪」
「おお……穂乃果ちゃん。模様作るのきれいやね?」
「えっへへ~……たまにお店のものを作るのお手伝いしてたからこういうの得意なんだ!」
そのころ、和菓子屋『穂むら』の厨房では穂乃果、希、絵里の3人がそれぞれ自分の作りたいものを作るために作業をしていた。他のメンバーはそれぞれで調理をしているはずだが、広さの関係上からそこに混ざるわけにもいかないと希と絵里が調理場所が見つからず悩んでいたところで穂乃果がここを提供してくれたというわけである。
「うん!いい感じ!」
「どれどれ……ハラショー……!穂乃果、すごいじゃない!」
「えへへ……」
希と穂乃果が話しているのを聞いて気になり、絵里が満足げに頷いている穂乃果の手元を覗き込むとそこにはきれいに模様がチョコペンやデコレーション用の色付きのチョコなどで描かれたチョコレート。溶かしたチョコに買ってきたミニドーナツをくぐらせて、チョココーティングされたドーナッツにしただけのものだが、穂乃果が付けた模様によってだいぶ手作り感のある可愛らしいチョコ菓子になっていた。ちなみにレシピは雪穂から教えてもらったらしい。先ほど会った雪穂曰く、これくらいならお姉ちゃんだけでも作れるでしょとのことである。
感心されて照れたように笑う穂乃果を褒めつつ、絵里は自分の作業を進める。絵里が作っているのはチョコロールケーキ。上にはいちごを乗せて、中にはチョコクリームといちごを入れるつもりだ。
「えりちもだいぶ完成に近づいて来たみたいやね?」
「ええ、後は丸めて冷やしてからイチゴを乗せたりしておしまいね。希は?」
「うちももう少しやね。って言っても、チョコを溶かして形を変えただけやけどね。」
「そんなことないわよ。トリュフチョコは立派に手作りチョコよ。」
「そうだよ、希ちゃん!穂乃果のチョコなんてもっと簡単だし……」
絵里が希のチョコを褒めていると今度は穂乃果がたはは……と苦笑しながら言う。実際希の作っているトリュフチョコもかなり上手にできている。絵里はそんな2人に微笑んで口を開く。
「そんなことないわ。希のももちろんだけど穂乃果のチョコだってよくできてるわよ。きっと鷹也も喜んでくれると思うわ。」
「そ、そうかな……えへへ……ありがとう、絵里ちゃん!」
「なんや、そう褒められると照れるなぁ。ありがと、えりち。えりちのロールケーキもおいしそうになってると思うよ?」
「うん!私もそう思う!!」
「ふふっ、そう?ありがとう、2人とも。」
照れたように微笑んでお礼を言ってから自分のケーキを褒めてくれる2人にもう1度微笑んで見せる。そうして全員がある程度料理のできるこの3人の作業は滞りなく、平和に進んでいった。
「わあ~!ひろ~い!」
「今日は誰も今はいないから好きにしていいわ。」
「うん!ありがとう、真姫ちゃん♪」
「それはいいけど……」
目を輝かせて家から持ってきたのだろうチョコレートなどの材料をバッグから取り出すことりを見てから、真姫は困惑しつつ横に視線を移す。そこにはことりに少し落ち着きなさいよと言いつつ、同じように材料を取り出すにこがいる。彼女はその視線に気が付くと、ため息をついて真姫に手招きをする。
「何ぼさっとしてんのよ。さっさとこっち来なさい。」
「え……?べ、別に私はチョコなんて……」
「どうせあんたのことだから、手作りチョコにしたいけど作り方もよく分からなくて失敗するのも嫌だから買いに行ってそれを渡そうとでも思ってたんでしょ。」
「そ、それは……」
別にしらを切ればバレないことではあるのだが、あまりにも図星のことを言われてしまって言い淀む。その様子に自分の言ったことが正解だと確信したにこがやれやれと言った様子で口を開く。
「別に手作りを渡したくないならいいわよ。でも、あんたが自分で作ってあいつに渡したいって言うなら作り方教えてあげるわ。」
「でも……」
「真姫ちゃん、きっとお兄ちゃんなら手作りの方がいいって言ってくれると思うよ?」
にこがそう言うのに真姫が何も言えずにいると、ことりがエプロンを身に付けながら言う。いつもの、彼女たち兄妹の似ている部分の1つである優しい笑みを見せながらことりは口を開く。
「せっかく渡すんだからいっぱい喜んでもらえる方がいいんじゃないかな?」
「…………わかったわよ。」
ことりに説得されて、あくまでも渋々といった体を装いつつ口を開く。先ほど反応してしまった時点で、すでに遅いかもしれないが。彼は自分にとって、自分のあり方にすら関わる、自分の中で大切な存在の1つだ。その彼にお礼をチョコという形で示せるちょうどいい機会なのだ。せっかくならば喜んでもらえる方がいいに決まっているし、できることなら手作りの方がいいのは事実だ。
世話のかかる子ねとでも言うようにため息をついているにこの隣に行って、真姫は口を開く。そっぽを向くのだけは許してほしいところ。
「……にこちゃん、チョコの作り方教えてくれない?」
「はいはい、最初からそのつもりで来てるわよ。ほら、手洗いなさい。作るからにはさいっこうに可愛いチョコを作るわよ!」
頬が赤く染まっていた自覚はある。しかし、そう言って笑顔で調理の準備を進めるにこと隣で自分の分の準備をしつつ、真姫ちゃんのこともちゃんと手伝うからねとやさしく微笑んで言ってくれることりの様子にこらえきれずに微笑む。そして、小さくつぶやく。
「ありがと、2人とも。」
何か言った?と聞き返してくるにこになんでもないわよと返しつつ、にこに調理工程を聞きながら作業をすすめる。目が合った際に言葉に出さずに口の動きだけでどういたしましてということりに顔を赤くしつつ、真姫は拙いながらも調理を進めていった。
そしてバレンタイン当日。すでに大学が春休みに入っているものの、教授の出張で休講になっていた分の補講がある鷹也は高校生の起床時間と同じくらいの時間に起きて大学へ向かう準備をしていた。そしてある程度の準備を終えたところでリビングに行くと、そこにはことりが待っていた。
「あ、お兄ちゃん!」
「おはよ、ことり。」
「うん、おはよう。それと……ハッピーバレンタイン♪」
そう言って満面の笑みのことりから差し出されたのは小さな箱に入ったチョコレートケーキ。前に言っていたように本当にケーキを作ってくれていたらしい。そんなことりの手からその箱を受け取って、ことりの頭を撫でてやる。
「ありがとう、ことり。大変だったでしょ?」
「ううん。そんなことないよ。いっつも私たちのこと見てくれてるお礼だもん!」
「それじゃあ、こんなのもらったらこれからもちゃんとみんなを見守って行かなきゃだな。」
「うん、お願いね?」
「俺にできる限りのことはするよ。」
そう言ってから、後で食べるでしょ?しまっておくねと言うことりにケーキの箱を手渡してから朝食をとる。
「でも、去年までは夜に渡してくれてたのに今日はまたなんで朝から見せてきたんだ?別に今食べるわけでもないの分かってたろ?」
「う~ん……だって今年はお兄ちゃんがもらうチョコいっぱいありそうだったから……」
ふと疑問に思って鷹也が聞くとことりは少し考えてから、そう言って笑みを見せて続ける。
「私の作ったチョコを最初に渡して印象づけておこうかなって。」
そう言ってことりはてへっと言うように悪戯っぽく舌を出して見せた。
朝のことりの言葉は見事に的中したらしい。というか先日の会話の時点で的中は確定してはいるのだが。まずは大学に向かう道は高校に向かうことりと途中まで一緒であるためにことりとともにいつも彼女たちが待ち合わせをしているところまで向かう時。そこにはいつも通り1人の少女が先に着いて待っていた。
「あ、ことり、鷹也さん。おはようございます。」
「おはよう、海未ちゃん。」
「おはよ。穂乃果はまだついてないよな、やっぱり。」
「まあいつも通りのことですから。」
そう言ってため息をつく海未にことりと顔を見合わせて苦笑する。穂乃果の寝坊は今に始まったことでもない。どうせ今だって焦って走ってここに向かっているところだろう。そんなことを考えていると、海未が何やら恥ずかしそうにしながら話し始めた。
「あ、あの……鷹也さん……」
「ん?」
「あ、あのですね……」
今朝のことりの時点で大体のことは分かっているのだが、ここでこちらから言い出すのもおかしいだろう。鷹也はそう考えつつ海未の言葉を待つ。そして意を決したのか。海未が口を開く。
「今日はバレンタインデーだからチョコを作ったんです!よかったら受けと……」
「ごっめーん!!!お待たせー!!!」
「って……って穂乃果ぁ!!」
「うわぁ!な、なんで海未ちゃんがこんなに怒ってるの!?遅刻したのはごめんなさい~!!」
「あはは……ちょっとタイミング悪かったかもね……」
「ったくもう……俺はこの状態をどうしろと……」
それからしばらく謝る穂乃果を海未が追まわしてことりと鷹也が止めるという状況が続き、結局海未はもういいですと言って、少し残念そうに気が抜けた状態でこちらにチョコを手渡すことに。その様子にお礼を言いつつ、鷹也は苦笑する。
「毎年のことなんだから慣れなよ、いい加減に。」
「そ、そんなの……バレンタインデーに殿方にチョコを渡すだけでも緊張するのに……!鷹也さんは慣れているとはいっても……!!」
「殿方って……まったく……」
「あ、鷹也くん!私も作ってきたよ!はい、どうぞ!!」
「うん、ありがとうな。ほれ、海未もこの適当さを見習いなよ。」
「ぶー……適当じゃないよー!」
「はいはい、分かってるよ。」
そう言ってから、むくれる穂乃果と顔を赤くしている海未の頭に手を置いて微笑む。毎年のこととはいえ、妹のように大切にしている2人からのバレンタインデーのチョコレート。嬉しくないわけがない。
「毎年ほんとに嬉しいよ。ありがとな。」
「うん!!」
「……はい!!」
そして次は大学。一緒の講義を受けている和樹とともに昼食をとっていると、沙希がそこに近づいて来た。
「鷹也、和樹。おっつかれ~」
「あれ、お疲れ様です、沙希先輩。休みなのに何してんですか?」
「あたしも講義の真っ最中。本当に迷惑だよねぇ……教授の出張のせいで休みを削られるとかもう……」
「成績優秀者の沙希先輩なら1回くらい休んでも良かったんじゃないですか?」
鷹也の言葉にそう返し、和樹の問いには成績優秀者だからこんな補講でも休まないんだよと言って笑って見せる。その言葉になるほどと妙に納得していると、沙希がそんなことはいいんだよと鞄から何か取り出す。
「はい、これあげるよ。」
「え?俺らにですか?」
「まあ、あまりものだけどね。一緒の講義受けてる何人かのサークル男子連中にあげようと思ってたら、あいつら休んじゃったからさ。さぼりだと思うけど。」
「まあ、休みにわざわざ出てきたくない気持ちは分かりますけど……あの人達、単位大丈夫なのかな……」
「たぶん無理じゃない?」
「そんな身も蓋もない……」
沙希のあっけらかんとした言葉に対して和樹がそう言って苦笑し、鷹也も同じような表情を浮かべながら、沙希から手渡された小さい袋を受け取る。中身は十中八九チョコだろう。それよりも意外なこととしてはその中身である。
「っていうか沙希先輩もチョコなんて作るんですね。」
「何?意外とでも言う?」
「いや、まあはい。」
「鷹也ってずいぶんあたしに横柄な態度とるようになったよね……」
「まあ、沙希先輩にはだいぶ振り回されてますし。」
「それについては否定しないけどさ。」
「毒なんて入ってないですよね?」
「さあ?どうだろう?」
そう言って怪し気に笑いながら肩をすくめると沙希は時間だからと言って、その場をあとにしようと2人に背を向ける。
「それじゃあ2人とも、よく味わって食べてね。レアものだよ?」
「その発言で沙希先輩がお菓子作りをほとんどしたことないことが判明しましたよ。」
「あれ、うっかりうっかり。」
「うわぁ……わざとだ……」
和樹に言われて、悪戯っぽい笑みを見せて去っていく沙希を見送りつつも鷹也は手元の包みを開けてチョコを口に含む。
「あ、おいしい……」
「マジで?んむ……本当だ。うまっ!」
満面の笑みでチョコを口に運ぶ和樹とは正反対になんとなく悔しい気持ちを感じつつ、鷹也は甘いチョコを苦々しい顔をしながら口に運んだ。
そして講義も無事終了して、続いて音ノ木坂学院に到着。いつもならまっすぐに屋上に向かうのだが、今日は校門にとある人物がいてそこで立ち止まっていた。
「あ、あの!鷹也ひゃん!!」
「うん少し落ち着いて、花陽?」
そこにいたのは小泉花陽。いつもならば部室で着替えてから屋上で彼女たちとは合流するのだが、今日はなぜか校門まで花陽が出てきていた。すでに練習着姿なので、他のみんなはすでに屋上だろう。どうしたのかと今さら聞くつもりもない。先日のことだけでなく、今日1日でこのシチュエーションは何度目だと思っているのだろうか。
「は、はい……!ふうぅ~……」
「うん、そうそう。落ち着いた?」
「はい……すみません。なんか気を使わせちゃって……」
「いいよいいよ。こんなの海未に比べたら可愛いもんだよ。」
そう言って何とか落ち着いた花陽に苦笑する。実際に昔の海未に比べたらましな方だ。今よりもさらに引っ込み思案だったころの海未は、穂乃果とことりに促されなくてはこちらにチョコを渡すことができなかった。にも拘わらず1度だけみんなの前で渡すのは緊張すると思ったのか。みんなに隠れて1人で渡しに来たことがあった。その時は海未が勇気を出すまでかなりの時間を要したものである。
「あはは……海未ちゃんも恥ずかしがりですからね。」
「そうなんだよな……今はだいぶマシになってきたけどさ。」
「そうなんですね。」
そう言って花陽が微笑む。その様子に気負いや緊張がなくなったのを見て、鷹也は笑って言う。
「よし、もう大丈夫?」
「は、はい。これ……作ったんです。よかったら……」
「うん、ありがとう。」
そう言って、いくらか緊張のなくなった花陽から小さな箱を受け取る。これにもチョコが入っているのだろう。鷹也が受け取ったことを確認すると、花陽は安心したように微笑む。
「よかったぁ……渡せたぁ……」
「はは……なんかごめんな?頑張らせて……」
「い、いえ!私が渡したいって思ったんですし……」
そう言って慌てて両手を横に振る花陽に苦笑しつつ、鷹也はもう1度お礼を言ってから花陽を促して一緒に校内に入って行った。
そして屋上へ。そこでは待っていた希と絵里にチョコを手渡された。他のメンバーはどうやらまだ部室にいるようで、花陽が呼びに行ってくれた。
「はい、鷹也くん。うちの愛情がたっぷり詰まった手作りチョコや!」
「そりゃあどうも。」
「ってあれ?何か反応薄いんやない?」
「もはやチョコもらうくらいで動揺するような軟弱な心は持ってないよ。」
「どんな経験した人よ、鷹也……」
まずは希がチョコを渡しながら全力の笑顔でそう言ってくるが、鷹也はそれを軽くスルーして希からのチョコを受け取る。絵里が苦笑しているがスルー。今年まで散々ことりや穂乃果、海未から毎年チョコを受け取って恥ずかしさや照れに耐性ができているだけでなく、今年はすでに6人目だ。本命ではないチョコとはいっても照れるものではあるはずのこのイベントもすでに鷹也にかなりの耐性を与えているのだ。
「むぅ………」
「膨れたって無駄だよ。もはや照れて隙を見せるような俺じゃないよ。」
「じゃあ……ていっ!!」
「え?希……ちょっと……!きゃ……!!」
「っと……あぶないな。何すんだ、希……ってあ……」
もっと照れる様子でも想像していたのか。むくれる希は鷹也の言葉に対して、悪戯っぽい笑みを見せると唐突に隣にいた絵里の背中を両手で押す。突然のことに対応できるわけもなく、こちらに倒れ込んでくる絵里を見過ごすわけにもいかず、当然鷹也は彼女を支える。となると
「っつ……!!ご、ごめんなさい!!」
「い、いや、別にいいけど……」
当然絵里は鷹也に抱き付くような形になるわけで。さすがにこれにはそこまで耐性はない。心構えができていればいつも穂乃果たちの相手をしていて女子に慣れている鷹也は上手く対応できるだろうが、さすがに唐突すぎた。至近距離で顔を見合わせてしまい。一瞬で顔を赤くした絵里が慌てて謝りながら離れるのに、鷹也も自分の頬が赤いことを自覚しつつ答える。
「あれ?鷹也くん、顔赤いやん?慣れてるんじゃなかったん?」
「希、お前なあ……」
「の~ぞ~み~!!」
「え、えりちごめんごめんって!そんなことよりほら、早くしないとみんなが来ちゃうんやない?」
「そんなことってもう……なんか緊張してきたじゃない……」
希の行動に鷹也が呆れ、怒った絵里に希が誤魔化すように笑いながら言う。その後に続けられた絵里の言葉に、自分はどう反応すればよいのだろう……とさすがにすこし心臓がいつもよりも早く脈うっているのを感じながら黙っている鷹也は小さく息をはく。別になんでもないイベントなはずだ。落ち着け。
そんな鷹也に対して、絵里は少しそっぽを向きながら視線だけ鷹也に向けて片手でチョコの入っているであろう箱を差し出してくる。
「は、はい、鷹也。これ。」
「あ、ありがと……」
「あ!鷹也くんの顔赤くなった!やったやん、えりち!!」
「もぉ~希!!」
そして絵里とともに顔が赤いのをみんなが来るまでの間に希に筋トレを罰としてやらせることで気を紛らわせて何とかし、みんなが来たところで練習開始。そんな練習時間の休憩中。今度はにこに呼び出された。
「はい、これ。」
「あれ、案外そっけないのな。」
「なんであんた相手にそんなたいそうなセリフまで言って渡さなきゃなんないのよ。」
もはや恒例となったチョコの受け取りに、先ほどのこともあって少し緊張しながら向かうと今度はそっけないにこの態度にこちらが拍子抜けする。そんな鷹也にジト目を向けると、にこはため息をつく。
「別に何とも思ってないわけじゃないわよ。」
「え?」
「感謝してるからわざわざ作ってきてるわけ。別にあんたがいなくてもにこの魅力はみんなに伝わってたと思うけど、あんたがいたから少し、ほんの少しだけ伝わりやすくなったからこそのチョコよ。」
「あ、そ、そうか……」
「そうよ。感謝しなさいよね!にこにーのチョコなんて激レアよ?超超超プレミア物なんだからね!」
「お、おう。」
こちらにそう言ってから屋上に戻って行くにこの背中を見つめて、少しの間呆気にとられてから苦笑する。にこらしいと言えばにこらしいチョコの渡し方ではある。
「にこ!」
「なによ?」
その小さな背を呼び止めて、不機嫌そうに振り向いたにこに笑いかける。
「ありがとうな。」
「……別にいいわよ、お礼なんて。」
その後、小さく一言聞こえるも聞こえなかったことにして鷹也はにこの後を追って屋上に戻る。
———あんたのおかげでμ’sに出会えて……感謝してるのはこっちなんだから。
そしていつも通り集中力の高まった状態の練習が終わる。部室にて凛は鞄の中にある小さな包みを手に取って見ていた。結局渡せないままに練習が終わってしまった。他のみんなが渡していたのだろうなというタイミングは気が付いていたのに。
「凛ちゃん、大丈夫?」
「あ……う、うん!大丈夫!」
急に後ろから話しかけられて驚くも、何とか笑顔を作りつつ花陽に言う。しかし、その笑顔は失敗だったようで花陽は心配そうな目でこちらを見てから励ますように言う。
「大丈夫だよ。凛ちゃんのチョコおいしくできてたよ?」
「う、うん……でも……」
「凛?どうしたのですか?」
「あ、海未ちゃん……」
花陽に励まされるも、うつむいてしり込みしてしまう。別に鷹也に話に行くのは特に緊張しないはずだ。でもなぜだろう。お菓子を初めて作って、その味に自信が持てていても、彼の口に合うか不安で。自分らしくないとそう思う。
そんな凛のそばに海未が近づいて来る。そして凛の手にあるチョコを見て状況を把握したらしい。苦笑して言う。
「凛にしては珍しいですね。緊張してるんでしょう?」
「う、うん……なんかせっかく一生懸命作ったからっていうのもあるけど……」
「あるけど?」
海未に促されてその先を凛は口にする。
「せっかく鷹也さんにお礼として渡すものだし……喜んでもらいたいから余計に不安で……」
「それなら大丈夫ですよ。」
「え?」
凛がそう言うと、海未は笑って言う。その言葉に凛がきょとんとしていると海未が笑って続ける。
「その気持ちがあるだけで鷹也さんには伝わりますし、鷹也さんは喜んでくれますよ。凛が鷹也さんを考えて作ってくれたってだけで、喜んでくれます。」
「で、でも……」
「だって1度砂糖と塩を間違えて穂乃果が作ったチョコクッキーを満面の笑みで食べてたんですよ?」
「「え?」」
海未の言葉に驚いて、凛と花陽は一緒につい穂乃果に視線を向ける。話を聞いていなかった穂乃果は何?とでも言うように首を傾げていたが、海未はそれをみて言う。
「あんまりおいしそうに食べるものだから穂乃果自身は気が付いてませんけどね。後で雪穂に砂糖と塩のビンに残っていた量がおかしいって聞いて気が付いたんです。」
「そ、そうなんだ……さすが穂乃果ちゃん……そしてさすが鷹也さん……」
「だから凛。それに比べたら格段に凛のチョコのできはいいですし、そんなに鷹也さんのこと思って作ったものならばきっと、いえ絶対鷹也さんは喜んでくれますよ。」
そう言って海未は微笑んでくれる。その言葉に緊張が少し解けていく気がする。そして
「うん!分かった!凛、行ってくるにゃ!!」
満面の笑みで部室を飛び出した。
そして鷹也を探して屋上に向かうと彼は案の定屋上にいた。屋上に向かう扉の前で少し息を整える。そして心を決める。決めたら凛は即行動。
「鷹也くん!」
「ん?凛?」
いつも通りの、いやいつもよりも少し高鳴った声で彼に呼びかける。まだ少し緊張しているみたいだ。その気持ちを押し殺してまずは会話をと話を投げかける。
「鷹也くん、今日は何の日か知ってるかにゃ?」
「凛、そんなベタな……」
「え?あ、あれ?そんなにベタだったかな?」
「ったく……」
自分としては上手く話を持って行ったつもりだったのだが。凛がそう鷹也に苦笑されて、緊張もあって恥ずかしいやらなにやらで頭が混乱しているのを見かねたのか。鷹也が凛に近づいてきて、凛の頭をポンと叩く。その優しい手つきに少し緊張と不安が和らぐ。
「そんな緊張すんなって。凛がくれるものならどんなものだって嬉しいよ。」
「……本当?」
「当たり前。」
「本当の本当?」
「本当の本当。」
鷹也の言葉に何度も確認して緊張と不安を誤魔化す。そして後ろ手に持って隠していた包みを差し出す。手は震えていた。らしくないなと思うも、その震えは止められなくて。
「こ、これ。凛、初めてお菓子作ったから上手くできたか分かんないけど……」
「ん、ありがとう。」
震えそうになる声で告げながら差し出した包みは思っていたよりもあっさりと自分の手を離れて言って彼の手に収まる。そのことに安堵し、続いてとられた彼の行動に一気に焦りに代わる。
「あ……まって!」
「もらったものだし、食べなきゃもったいないだろ?」
「でもでも、おいしいか分かんないし……!」
「いただきまーす。」
「あ!」
止める間もなく凛の作ったブラウニーが彼の口の中に入っていき、凛はもうどうしようもないと不安げに少し小さくなりながら鷹也の様子を伺う。鷹也はそんな中で数秒間ブラウニーを味わうように黙ると、口に入っていたブラウニーを飲み込み満面の笑みを見せる。
「うん!おいしい!」
「あ……!」
その笑みに何かあったかい気持ちになる。うまいうまいと一口また一口と食べ進める鷹也に凛も笑顔になる。その様子をみて、鷹也は凛に向かって笑いかけると言う。
「初めてなのに頑張ってくれたんだな。ありがとな。」
「うん!!」
「凛ちゃん頑張ったね……!」
「ちゃんと渡せてよかったです……」
「さ、次は真姫ちゃんの番だよ!」
「べ、別に私は……」
「いつまで言ってんのよ、それ……」
そんな凛の後ろ姿を見つつ、安堵の息をはく花陽と海未の隣で言った穂乃果に言い訳をするような真姫ににこがちいさくため息をつく。凛の様子が気になったのと、真姫も渡せずにいたことに気が付いたのでみんなで凛の後を追ってきたのだが、先ほどからずっとこの調子。たまにある真姫の臆病な面。珍しいが真姫らしいといえば真姫らしい面ではある。
「真姫ちゃん、お兄ちゃんならきっとどんなものでも喜んでくれるから……」
「それはそうかもしれないけど……」
「真姫って普段は大胆なのにこういうところはとことん臆病ね……」
「きっと踏ん切りがつけばいつもの真姫ちゃんになるんやろうけど……まあ、初めて作ったお菓子を誰かにあげるのは失敗とかの可能性も考えればプライドの高い真姫ちゃんからすれば緊張するよね。」
「あーもー!!じれったいわね!いいからさっさと渡してきなさい!!」
ことりの言葉にも歯切れ悪く返す真姫に、絵里と希が苦笑しているとついにしびれを切らしてにこが真姫を押し出して、屋上に真姫を無理やり出す。
「ちょっ……!あ……」
「あれ?真姫ちゃん?」
「真姫?どうした?」
そして真姫に気が付く凛と鷹也。一瞬鷹也の視線が扉の方に向いたので気が付いているのだろうがそれは無視。鷹也もそのつもりのようで真姫に視線を戻す。真姫は数秒間目を行ったり来たりさせて、きょろきょろしていたが観念したように言う。扉のところにみんながいる以上は逃げるわけにも行かずというか逃げるのは真姫のプライドが許さない。
「うぅ~!もう!分かったわよ!はい、これ!」
そう言ってそっぽをむいたままに差し出されたのは小さな包み。鷹也としてもさすがに予想外であったので目を丸くする。真姫がわざわざチョコを持ってきてくれただけでも少し驚いているのに、見たところ手作り。これで驚くなと言う方が無茶というものである。
そんな鷹也の様子をどう受け取ったのか。真姫が不安げにこちらを伺うようにそっぽを向いた状態から視線だけ鷹也に向ける。
「あ、ありがとう。」
「別にお礼なんて……」
「うん……本当に嬉しい!」
「あ……」
不安げな真姫の様子を見て慌てて受け取ると鷹也はそう言って満面の笑みを見せる。正直に言えばこんな自分は誰にも必要とされない価値のない人間だと思っている。そう思ってしまっていた時がある以上はその意識はなかなかなくならない。しかし、彼女たちはこうしていつも自分を必要として、価値を示してくれる。それをどうしようもなく、本当に鷹也は嬉しく思ってしまう。
呆気にとられた後で嬉しそうな表情になり、その表情を隠そうとする真姫に苦笑して、もう1度鷹也はお礼を言う。
「真姫、ありがとうな。」
「え、ええ。」
「みんなも!」
そして扉の陰でこちらを見ていたみんなも呼んでみんなに向けて。こんな自分を必要として、頼ってくれるみんなに。今日のお礼とこれまでのお礼。これからのお礼も本当に嬉しかった気持ちも全部こめて。鷹也は言う。
「本当にありがとう!!」
μ’sのメンバー全員が高校に揃っている状態での最初で最後のバレンタイン。その1日は鷹也にとって、忘れられない日の一つとなった。
いかがだったでしょうか。作者としてはとりあえず鷹也はホワイトデーのお返しで散財してしまえと思っています。
真姫ちゃんならさっさと渡しそうな気もすると途中まで書いてしまった段階で思ったのですが、途中まで書いてしまっていたので書き直す元気もなかったのでこの展開となりました。
真姫ちゃんのキャラが違うと思う方は本当にすみません。許してください。
最後の方も上手くまとまりきっていませんが、そこもご容赦いただければ……
それでは感想・評価もいただければ嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。