小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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今回はツバサと鷹也の会話。それとことりの悩みがメイン。
悩んでる部分の描写が多くて話が進まないのはもう諦めかけてます。これがこの作品の特徴とでも思って開き直りかけてる最中です。

ツバサのキャラというか敬語って上手く書けないですね。何ならこれまでで1番難しいです……
違和感のある方はもう少ししたらツバサのキャラに作者が慣れてくると思うので今回はご容赦ください。

それではご覧ください。


誘い

次の日。鷹也は学校で和樹といつものように行動し、平常運転とは言い難い心境ながらもうまくいつも通りの姿で行動していた。そして3日間の授業の2日目も終わり。残りは明日の午前中のみである。明日は最後の1コマでテストをするらしいので、そのことについて話しながら和樹と大学を出て帰ろうとしたときである。

 

「こんにちわ!」

「え……っと?俺に話しかけてる?」

「誰?鷹也の知り合い?」

「いや、知らない。」

 

突然見知らぬ少女が目の前に出てきて話しかけてくる。突然のことで反応が遅れつつも、和樹に聞かれたことに首を横に振る。そんな様子にも構わず、にこにことしている少女は続ける。

 

「すみません、南鷹也さんですよね?」

「うん、そうだけど……」

「よっし!やっと見つけた……」

「やっと見つけたって……」

 

見知らぬ少女に名前を当てられて少し混乱しつつ、ガッツポーズをする彼女をよく見てみる。コートを着ており、その隙間から見えるスカートを見るに制服を下に着ているようだ。頭にはキャップを被り、顔には赤ぶちの眼鏡にマスク。顔がよく判別できない。

 

「昨日から探してたの。大学って出れる場所がいくつかあるから見つけられなくって……」

「まあ確かに俺らは1番大きな正門からでることはないからそっちにいたら見つけらんないけど……」

「ってか誰?」

 

身長もそこまで高くなく、おそらく女子高生だと思われるその少女はがっくりとうなだれる。その姿になんとなく申し訳ない気分になりつつ鷹也が聞くと、その少女はにっこりと笑顔になる。そもそも女子高生の知り合いなど音ノ木坂の生徒以外にいないはずなのだが。

 

「それは後で話すとして……ちょっと話したいことがあるのでこっちに来てもらえますか?」

「なんでわざわざ……ってか名乗んないな、本当に……いいけどさ。和樹、ちょっと待ってて。」

「なんかよく分かんないけど了解。」

 

少女に手を取られて和樹から少し離れたところに行って、その少女と向かい合う。するとその少女は満面の笑みを浮かべて鷹也に聞く。

 

「私のこと分かんないですか?」

「君みたいな子と知り合った記憶はないかな。」

「そっか……う~ん……この格好でも分かられるくらいにならなきゃダメだよね、やっぱ……」

 

聞いて来る少女にそっけなく返す。知らない少女にそこまで気を使っても仕方ないだろう。すると、その少女は少し考え込むような表情を見せてからまあしょうがないかと頷いて見せる。

 

「鷹也さんとは話したこともないしね。しょうがないか。」

「納得してるところ悪いけど、だから誰なの?」

「あ、ごめんなさいごめんなさい。」

 

何か無理やり納得したようなその少女に鷹也がしびれを切らしてそう問いかけると、少女は笑顔で謝って眼鏡とマスクをとる。明らかになったその少女の顔には見覚えがあって。鷹也は驚きを隠すことをできずに、しかし大げさな反応をとるのを理性で抑え込んで呟く。

 

「綺羅……ツバサ……?」

「はい、初めまして。UTX高校スクールアイドル、A-RISEのリーダー。綺羅ツバサです。」

 

何処かの誰かさんと似ているなと鷹也が感じるような笑みをツバサは浮かべて、驚きの表情を見せている鷹也に向かって言う。

 

「ちょっと話したいことがあるんですけど……いいですか?」

 

 

 

 

 

「はい、お願いします。それじゃあ……」

 

ことりはそう言ってから電話を切って小さくため息をつく。本来ならば屋上で練習しているみんなと談笑しながら休憩する時間。しかし、唐突な電話によってそれは叶わなくなった。内容は飛行機のチケットについて。基本的に書類さえ申請しておけば学校の方で色々手続きはしてくれることになっているのでその確認の電話である。それなら電話じゃなくて職員室に呼び出せばとも思うが、今は放課後だしそもそもその先生が外出中だったらしく仕方なく電話となったらしい。

 

(みんなに言わなくちゃ……)

 

出発することはもう決めてしまった。時間は残りわずか。もう選択を変えることなんてできやしない。電話をポケットにしまって、ことりは暗い表情をしているのだろうなと自分でも分かる状態で歩きだす。あまり遅くなってもいけない。穂乃果が今日からもう練習に復帰するのだから、自分がその復帰初日に足を引っ張ってはいけない。

 

「後輩ができるの?」

「うんっ!」

「やったーー!!」

 

廊下の角を曲がって歩いて行くと、その先から聞き覚えのある声が元気に響いて来る。この声は凛と花陽のものだろうか。うつむきがちだった顔を上げる。するとそこでは自分の大切な仲間であるμ’sのメンバーの8人が満面の笑みを見せてはしゃいでいて。その本当に嬉しそうにはしゃぐ様子をどこか遠くにことりは感じる。

 

「みんな……?」

「こっとりちゃーん!!」

「ふわぁ!!」

 

そんなみんなになぜか恐る恐る声をかける。とても元気にいつも通りに入って行けるような気にはならなかった。するとそんなことりの様子には気が付いていないのだろう。自分の幼馴染で、親友で、大切な人である穂乃果が満面の笑みを浮かべて抱き付いて来る。

 

「ことり!これですよ!」

「え……?それ……!!」

 

抱き付いて離れようとしない穂乃果に目を白黒させていると、自分の存在に気が付いた他のメンバーも穂乃果同様にみんなで笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。その中でこちらも本当に大事な親友の海未が何か書類をこちらに見せてくる。驚きつつもそこに書いてある文字を読むと、そこには『来年度入学者募集のお知らせ』と書いてあって。

 

「ことりちゃん!やった……私たち、やったんだよ!学校続くんだよ!!」

「嘘じゃ……ないんだ……」

「うん……!!」

 

少し泣きそうな、それでも本当に嬉しそうな目の前の彼女は太陽のような笑顔をこちらに見せる。本当に純粋で、明るい笑み。急すぎて現実を受け入れられない自分の、他のことが頭に浮かんでしまっている自分の、心の底からできていない自分の笑みとは全然違う。まるで太陽の前で自分の心の弱さがくっきりと照らされるみたいな気がした。

 

「穂乃果ちゃん……」

「あ!鷹也くんにも教えてあげなきゃ!!」

「いいんじゃないかな?鷹也さんにはたくさんお世話になったし……」

「そうだ!せっかくならみんなで写真撮って送ってあげるにゃ!!」

「おー!いいね、凛ちゃん!!」

 

その弱さを自覚してしまって。ことりは穂乃果に呼びかけるも、穂乃果の耳には届かない。花陽と凛と話し始めてしまった穂乃果をことりは寂し気に見つめる。

 

「ことり……」

「やったね、海未ちゃん。学校、続くんだね!」

「そう……ですね。」

 

心配そうに声をかけてくる海未に無理やり作った笑顔を見せながら答える。納得していない様子の海未に大丈夫と笑いかける。

 

(こんなにみんなが嬉しそうな時には……)

 

大丈夫。そもそも決まってしまったことなのだ。もはやいつ言おうと変わることじゃない。そう考えて無理やり自分を納得させる。到底納得はできていないのだが。

浮かんでくるのは目の前の少女が何と言うかということ。もしくは何と言ってくれていたかということ。今さら何を考えているのだろう。自分の決断力のなさ、思い切りのなさに嫌気がさす。

こんな時きっと隣の心配そうなこの少女ならしっかりと冷静に考え抜いたうえでの決断を自信を持って下すだろう。本当に嬉しそうに凛と花陽とはしゃいでカメラを希に貸してもらおうとする少女ならその持ち前の決断力で即決するだろう。そしてあの兄ならば周りのことを考えて、自分のことは考えていないからこそ簡単に判断を後悔なく下すだろう。兄に関してはそれがいいかは別だが。

そこまで考えたところでふと視線に気が付いて横を向く。そこでは真姫が真剣な目でこちらを見ていて。明らかに何か言いたそうな彼女に大丈夫だよと笑みを見せて、何も言わないようにとアイコンタクトをとる。それでも真姫のことだから何か聞いて来るかと思ったが、真姫も無理やり聞き出す気はないらしい。とりあえずは分かったわよとでも言うようにそっぽを向いて見なかったことにしてくれた。

 

「ことりちゃん!海未ちゃんと真姫ちゃんも早くー!!」

「早く撮るにゃー!」

「ちょっと!普通このにこにーがセンターでしょ!?」

「ちょ……にこ!無理に前に行こうとしないの!」

「あらら……花陽ちゃん大丈夫?もう……にこっちはこっちや!」

「あ……希ちゃん、ありがとう」

「気にしなくていいよ。にこっち、あんまりわがまま言うと……」

「ひいっ!ご、ごめんなさい……!」

 

そこで穂乃果と凛に急かされる。視線を向けると、廊下の壁に沿って並んでポーズをとろうとわーわーと楽し気にはしゃぐメンバーの姿。通りがかった時につかまったのだろう。1番カメラの性能のいい希の携帯を渡された3年生の先輩も苦笑いしている。

 

「あはは……海未ちゃん、真姫ちゃん。いこ?」

「……ええ。」

「そうね、もう練習始めなきゃいけない時間だし……」

 

苦笑して見せて、海未と真姫とともにその中に加わる。その際に希と絵里から心配そうな視線を向けられたが気が付かないふりをした。

 

「いきますよー!」

『はーい!』

 

カメラを構えてくれている先輩の合図に全員で返事をする。シャッター音が3回ほど響く中、これが最後にみんなで自然に撮る写真かもしれない。そう思うとなんだかむしろ上手く笑えた自信が全くなかった。

 

 

 

 

 

「本当に!?」

「ええ、本当よ。よかったわ。」

「やったー!!」

 

その後に自分だけ身の入らない練習を終えて穂乃果と、弓道部に顔を出さなくてはいけないということで先に練習を切り上げた海未ではなく絵里と3人でことりは帰路につく。そして校門で待っていた絵里の妹の亜里沙に存続の話をしたのだ。満面の笑みを浮かべる亜里沙によかったねと穂乃果も声をかけてやっている。

 

「うん!来年からよろしくお願いします!」

「それには試験に合格しないとね?」

「うん!頑張る!」

 

少し気の早い発言に可愛らしさを感じて微笑んでいると、絵里が亜里沙に釘をさし、亜里沙も笑顔でそれに答える。

 

「あ~あ……雪穂も音ノ木坂受けるっていわないかなぁ……」

「あ、前に聞いたとき迷ってました!」

「本当!?じゃあ雪穂も来年は後輩かぁ……!」

「それなら亜里沙と一緒に雪穂ちゃんも試験頑張ってもらわないとね。」

「鷹也さんに教えてもらうから大丈夫だよ。雪穂、鷹也さんは教えるの上手いから手伝ってくれれば100人力だって言ってたんだ!」

「お兄ちゃんが?」

「はい!前に教えてもらうって約束しました!」

 

穂乃果の言葉にそう返し、絵里の言葉にも反応した亜里沙にことりは聞き返すと、、亜里沙は笑顔でそう答える。そっかぁと返しつつ、ことりがいつの間にこの2人は知り合ったんだろうと考えているとそういえば……と穂乃果が鞄から携帯を取り出す。

 

「あ、鷹也くんから返信来てる!」

「どう?驚いてるかしら?」

「えっと……『そっか、よかったな。』だって。」

「……反応薄いわね。」

「あはは……きっとお兄ちゃんはもう知ってたんじゃないかな?」

 

むくれる穂乃果と考え込むような表情を見せる絵里にことりはそう言う。実際に先生などから先に聞いていても不思議ではない。そこでまたも浮かぶ感情。何も言えないと言っていた兄に対する複雑な感情。兄の気持ちは分かっていて、性格やあり方は分かっていて。それでも浮かんできてしまう感情。こんな自分のなくなってしまえばいいといつも思っている弱さ。

 

「あ、あの……私、今日はここで……」

「え?どうしたの?」

 

その感情を振り払うようにことりは穂乃果と絵里に声をかける。今ここで黙っていたら余計なことばかり考えてしまいそうだ。

 

「ちょっと買い物に……」

「何を?一緒に行こうか?」

「う、ううん!大丈夫!じゃあ!」

 

親切心から手伝いを申し出てくれる穂乃果の言葉を断って駆け出す。後ろで穂乃果と絵里が心配そうな視線を向けているのには気が付いていた。

 

 

 

 

 

とりあえずは頭の整理からだ。ベンチに座っている鷹也は静かに息を吐いて空を見上げる。少しずつ秋に近づいていっている空はとても澄んでいるきれいな青空。夕日で少しずつ赤く染まるその空はとてもきれいだ。

 

(とりあえずは……)

 

まずはこれと穂乃果から送られてきたメッセージに簡潔に返信する。お礼の言葉も書かれていたり、笑顔のメンバーの写真も添付されていたのだが今の自分の立場としてはこの程度でいいだろう。お礼の言葉なんて自分は受け取る気はない。今余計なことを考えると文章に余計なことまで付け加えてしまいそうだった。ただでさえ、昨日のことがあるのに今は素直に受け取るどころか、軽く受け流すこともできなそうだった。

返信して少し目を瞑って待っていると電話がかかってくるも、これは穂乃果の抗議の電話だろうからとりあえず無視。続いて隣に視線を向ける。

 

「あ、もう大丈夫ですか?」

「……はぁ……」

「ため息……!?」

 

現実逃避気味にいたのだがしっかりと現実であったらしい。1人分空間を開けて隣に腰かけてこちらに笑みを向けてくる少女、綺羅ツバサをまっすぐに見据える。明らかにその辺の女子高生と違うというような感じではなかった。確かに絶世の美少女ではあると思う。だが、スクールアイドルの頂点に君臨するグループのリーダーと言われても信じがたいくらいにその姿は自然体だった。ちなみにくっついて隣に座ろうとしたのを鷹也が避けたためのこの1人分の空間である。ちなみに場所は大学から少し離れている公園。どちらかと言えば音ノ木坂の方が近いだろうか。目の前を犬の散歩をしているおじさんが歩いて行く。

 

「……本物かぁ……」

「偽物だとでも思いました?」

「そんなことはないけどさ。」

 

悪戯っぽく笑うツバサに適当に返して手元の缶コーヒーをすする。これは付き合ってくれるお礼ですと言ってツバサがくれた。さすがに年下の女子におごってもらうのは気が引けるのでお金を払おうとしたのだが、これは前払いでもあるのでと言って受け取らなかった。

 

「で、話って何?天下のスクールアイドルのA-RISEが俺なんかに用事があるとは思えないんだけど?」

「そんなことないですよ?ずっとあなたのことは注目していました。」

「俺を?」

「いや正確にはμ’sを……ではあるんですけどね。」

「あいつらをね……ああ、俺のことは部活動の紹介動画か……」

 

前払いと言うからには何か頼みでもあるのだろうかと考えつつ、鷹也が聞くとツバサはそう答える。その答えになぜ自分までたどり着けたのかと考えるも答えはすぐにでてきて、ツバサの反応からもその答えは正解のようである。ネットの怖さみたいなものを少し感じている鷹也を見つつ、ツバサが口を開く。

 

「ライバルになりそうなスクールアイドルの様子をしっかり把握しておくのは当たり前ですよ。」

「ライバルね……」

「ええ、きっとこれまでで1番強力なライバルになる。そう考えてました。」

「そこまで高く評価してもらうのは嬉しいけど……そこから何で俺に話があるってことになったの?」

「綺羅沙希……って知ってますよね?」

 

μ’sのメンバーが褒められて少し嬉しくなった気持ちが一瞬で冷める。綺羅沙希。その名前には最近苦手意識しかない。

 

『上に来ようとしている時点で変化がないなんてありえない。これが鷹也が変化を怖がった代償。』

 

頭に浮かんでくる言葉。この言葉が頭から離れない。思わず顔をしかめる鷹也は無理やり笑みを浮かべて口を開く。

 

「うん、知ってるよ。いっつもお世話になってる。そっか妹だっけ。」

「そもそもμ’sっていう面白いグループが出てきたって教えてくれたのは沙希ねえです。」

「……そうだろうね。」

 

顔をうつむかせて唇をかみしめる。散々言われたことだ。面白い。沙希が興味を持つか持たないかの唯一の判断規準。

 

「そして最近その沙希ねえがもうあのグループはつまんなくなったって言うんです。」

「それはそうだろうね。つまんなくなったも何も出場辞退じゃあ闘うこともないし。」

「……でも沙希ねえがここまで執着するのは珍しいんです。つまらなくなって残念と言って落ち込むのも。」

「執着?」

 

鷹也は思わず聞き返す。確かに結構な頻度でこちらに顔を見せていたし、多くの介入をしてきていた。しかしそれは執着と言うよりはこちらをひっかきまわすような、鷹也に分かりずらいアドバイスを与えるというようなそんなことばかりだった。

思い出してまた顔をしかめる。正直沙希のあのような部分は苦手である。すべてを見透かして、上から見下ろして、こちらを試すような、それでいて誰にも反抗させないような、そんな存在感を放つ沙希は。そんな鷹也を見てツバサは苦笑する。

 

「沙希ねえはそもそも興味がない相手にわざわざアドバイスしたりしないですよ。それがどれだけ遠回しでもね。」

「……そんな気はするよ。」

「沙希ねえは面白い相手を常に求めてるんです。」

 

ツバサの言葉に鷹也が苦笑してそう返す。実際にあの冷たい笑みを浮かべる先輩はそんな感じの気はする。いつも笑顔で無邪気でいるが絶対に本心は見せない。本心があの冷たい笑みを見せて、こちらに干渉してくる部分ならばそういう人間なのだろう。

ツバサは鷹也の言葉に微笑むとそう言う。そして表情を真剣なものにする。

 

「自分と対等に、自分を楽しませてくれる。自分の存在に最初から負けを感じずに挑んできてくれる存在。そんなものをあの時からずっと求め続けてるんです。」

「あの時?」

「…………私たちはスクールアイドルの頂点まで上り詰めてる。そこに限りなく近づいている。でも、まだあの人を、沙希ねえを楽しませることはできないんです。沙希ねえの楽しそうな笑顔を、私たちじゃあまだ。」

「あの人ってそこまでダンス上手いんだな……上手いとは思ってたけど……」

「私たちのダンスなんてまだ問題点ばかりって言ってますよ。」

 

あの時とはという鷹也が聞き返したことに答えずに続けられたその言葉に顔を引きつらせる。すでにA-RISEのダンスはスクールアイドルのレベルを超えている。相当の域まできているはずだ。個人では絵里なら対抗できるかもしれない。でもそれもギリギリ。グループのダンスではA-RISEの圧勝だろう。そのレベルのダンスを沙希はまだまだだと言う

 

「でも、そんな沙希ねえが唯一自分に対抗できるかもと、面白いと楽しげに言っていたのが南さんなんです。」

「本当にあの人は……そんなことないよ。俺は何もできないし、あの人にはかなわない。」

「でも、沙希ねえはそんなあなたに何か見ていた。期待していた。だからこそあなたが今回の学園祭のライブでの失敗でサポートを退こうとすることに失望していた。」

「……やめようとしてるところまで読んでるか……期待なんてするだけ無駄だよ。」

 

期待。その言葉に心がきしむ。そういえばそうだった。あの人もそうだった。勝手に期待して、勝手に失望していた。自分はそんな人間でないと言っていたのに。自分は期待なんて受ける人間ではないのに。

 

「私のお願いはその沙希ねえの言葉から思いついたことです。」

「最初から思ってたけど本当にさりげなく強引だよね……だから俺は……」

「μ’sのサポートをやめるのならです。ほんの少しの間でも、1度だけでもいい。私たちの、A―RISEのダンスの指導をしてくれないですか?」

「そんな……は?」

 

ツバサの言葉に言い返そうとする鷹也の言葉が止まる。ツバサは意味ありげに、沙希に似ているようにも見えるきれいな笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

 

「出ないですね……」

 

小さくため息ついて海未は手に持つ携帯電話を懐にしまう。電話をかけていた相手は鷹也。でなかったことを少し不満に思いつつも、仕方のないことではあるのでとりあえず腰かけていたベンチから立ち上がって歩き出す。

海未は先ほどまでこの公園でことりと一緒にいた。その際に小さくことりが呟いていたことを思い出す。

 

『決める前に穂乃果ちゃんに話せてたらなんて言ってくれてたのかな……お兄ちゃんは本当はどう思ってるのかな……』

 

悲し気な、寂し気な表情で紡がれたその言葉。穂乃果に関しては最近いつも言っていることだ。いつでも引っ張ってくれていた穂乃果のことを、親友のことをことりはずっと気にしていた。

 

(鷹也さん……本当に何も言わなかったんですね……)

 

しかし鷹也のことを口にしたのは今回が初めてだった。自分のことを卑下しつづける。だからこそ何も言えないと言っていた彼に対する彼女の悲鳴。それは自分にだけ届いていた。

きっとことりは鷹也に何も聞けなかっただろう。ずっと一緒にいたのだから分かる。ことりも鷹也程ではないが優しすぎるのだ。相手の想いを尊重しすぎる。

鷹也が何も言えないという選択をした。ならばことりはその選択を覆して、意見を言ってもらおうなんてしないはず。だからこそ自分が少し鷹也に聞こうと思ったのだ。鷹也がことりの留学に関してどう思っているのかを。

きっと何も答えてくれない。それは分かっているのだが、聞かないと気が済まなかった。心に浮かぶ疑問を小さく口にだして呟く。

 

「鷹也さん、本当にこれで……」

 

いいんですか?その小さく、小さく呟かれた言葉は風にかき消された。

 

 




はい、いかがだったでしょうか。
ツバサはアイドルとしてステージに立つときにものすごい存在感とカリスマを感じさせる一方で、プライベートでは知らない人と会うときは今回の鷹也との会話のように親しみやすくもある程度しっかりとした印象で、親しい人(A-RISEのメンバーや沙希)の前では自由奔放みたいな印象で書いてます。

ツバサの勧誘というか誘いに対する鷹也の選択は次回で。
次回はおそらく今回のツバサと鷹也の会話の続きと穂乃果とμ’sのメンバーがことりの留学を知るところまではいくのではと考えています。

それとお気に入りがもう少しで290件であり、300件が見えてきています。加えてUAが65000、総合評価が398と400目前。本当にいろんな人に読んでいただいているのが目に見えて表れていて感動しています。

お気に入りが300、UAが70000、総合評価が400のどれかに到達し、それから書きあがった段階で番外編を更新したいと思います。もちろん到達しなくても本編は書き進めて更新していくのでご安心ください。

それでは感想・評価もお待ちしています。
次回もよろしくお願いします。
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