小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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約一ヵ月ぶりですね。どうも雪詞です。
そろそろ少しずつ更新再開できそうです。本当にお待たせしてすみません。

連休を使って少しづつ更新の方を再開していきますがこれからもお待たせすることもあるかもしれません。しかし、完結までしっかり書き続けますので生暖かい目で見守っていただければと思います。

それでは今回は本編の鬱回。鷹也くん壊れるの回。
まあ壊れると言ってもいつも通りと言えばいつもどおりの気もしますが。

それではご覧ください。


募る後悔、壊れゆく心

学校から出た鷹也はいつもの路地裏にいた。なんてことない。いつものことである。

前から恭介たちがくるのもいつも通り。

 

「遅いじゃん、恭介くん。待ちくたびれたよ。」

「……てめえが偉そうに何言ってやがる。」

 

鷹也が茶化すように恭介に声をかけると、恭介はイラついたようにそう返す。それでいい。イラついて、ムカついて、こちらを散々に見下す対象として、痛めつける対象として見ればいい。それでいいのだ。

 

「偉そうもなにも。呼び出されてるのはこっちだしね。」

「……ずいぶんと今日は喋るじゃねえか。」

「そう?別にいつも通りだけどね?」

 

恭介が探るようにこちらを見つつ言った言葉に、鷹也は笑みを崩さずに返す。心の中ではいいタイミングで呼び出してくれたけどねと付け加える。いつものように心が冷えていく、感情が失せていく感覚に笑みが崩れそうになる。表情が歪むのをこらえているのではない。

 

むしろ大声で笑いだしそうになるのをこらえるのが大変なのだ。

 

まあ俺には関係ねえなと忌々しそうな顔で言う恭介に向かっていつも以上に笑いそうになるのをこらえる。さすが恭介だ。やっぱり彼は本当に自分と相性がいい。

恭介が周りの男たちに首だけで合図する。その目は探るような視線を鷹也に向けている。その視線に

 

「アハッ……!!」

 

鷹也は歪な笑みを見せた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「あれ?もういいの?ほら、もっと殴ってもいいよ?」

「お前……なんなんだよ!?」

「なんなんだよって言われても……」

 

困ったような表情を見せつつも、鷹也はいつものように暴行を受けながら笑みを崩さない。いつものようにというかいつもより笑いをこらえきれていなかった気もするがそれは今更だろう。

怯えたような表情でこちらに叫ぶ男たちに鷹也は笑みを見せつつ、両手を広げて無防備な姿を晒す。

 

「いいじゃん、殴ってストレス解消。素晴らしいよ。殴ってストレス解消できて、お金まで手に入る。最高だよね。あ、大丈夫だよ、別に誰にもこの状況は言ってない。」

 

鷹也はまくしたてるように一息にそう言って、男たちに一歩近づく。しかし、男たちが反対に一歩後ろに後ずさる。その様子が鷹也は本当に気に入らない。

 

「どうしたの?ほら、いつもみたいに殴って蹴って痛めつけないの?」

「なんで……なんでお前は……笑ってんだよ!!」

「え?ああ……そっか……」

 

不満気に言われた鷹也の言葉に対する男の言葉。その言葉の意味を鷹也は少しだけ考えてから納得したように頷く。どうやら少しおかしくなっていたようだ。そりゃあ普通の人からしたら殴ってくださいとでも言うように歩いてくる人間は気味が悪いものだろう。

失敗したなぁと少し思うも、横に見えた陰に小さく笑みを浮かべる。ああさすがだ。

 

「っぐ……ははっ……!!!いいよ、恭介くん。やっぱ恭介くんは分かってるね……!!」

「……分かんねえっつってんだろ。てめえのことなんてこれっぽっちも分かんねえよ。」

 

横から恭介に思いっきり殴られる。その衝撃に笑みをさらに深くしつつ、鷹也は恭介に言う。その言葉に恭介は忌々し気な顔で答えると、それ以上は何も言わずに鷹也を一方的に痛めつける。他の取り巻きの人たちは先ほどの自分の様子を気味悪がって手を出してこないが恭介はそんなことない。むしろより過激にこちらを痛めつける。

その暴行に鷹也はいつもどおり一切の抵抗を示さない。その表情はいつもよりもさらに濃く笑みに歪んでいた。

 

 

 

 

 

『私、全然気が付いてなかった……

 私が夢中すぎてみんなの気持ちとか全然見えなくて……

 だから

 ことりちゃん ごめんね』

 

 

 

 

真っ暗にした部屋。灯りは目の前にある机の上で動画をリピート再生しつづけるパソコンのみ。

穂乃果は床に直接座り込んだ状態のまま、小さくため息をついてメールを送信した携帯を床に落とす。座り込んで自分の膝を抱えたままでその膝がしらに自分の額をつけてうつむく。

 

「こんなメールしたって……謝ったって……今さら……」

 

小さく呟くもその言葉に返してくれる存在はいない。その状況は自分の言葉の意味を余計に自分に考えさせて。

そう今さらなのだ。もうすでに大切な存在である2人は自分の手の届かない場所に行こうとしている。他ではない自分のせいで。傷ついたままで自分のそばからいなくなろうとしている。

そのままでいてほしくはない。でも、今さら何かできるわけでもなくて。自分のことを責めている彼にはもうなんて言っていいかすらわからないのだ。自分のせいであんな顔をさせてしまっているのに、今さら何を言えばいいのだろう。

 

「鷹也くん……ことりちゃん……」

 

その名前を口にすると思ってしまう。きっと届かない。きっともう今さら何もできない。そんな気持ちは泥のように重く、心の中で底に溜まっていく。そして、心を濁らせていく。澄み切った水の中に溜まった泥は色々考えることでかき回され、全体を濁らせる。

視線を動画を再生しつづけるパソコンに向ける。そこではあのスクールアイドルの頂点が、A-RISEのライブの様子が流れている。

 

「すごいなぁ……」

 

そう呟いてしまう。キラキラの客席。キラキラのステージ。キラキラのサイリウム。キラキラの衣装。そしてなによりキラキラの笑顔で踊って、キラキラの笑顔で歌う3人のメンバー。そのステージは笑顔であふれていた。にこの言葉を借りるならば、彼女たちは完璧にアイドルの仕事をこなしていて、その仕事を心の底から楽しんでいた。

 

「追いつけないよ、こんなの……」

 

それに比べて自分はどうだろう。真っ暗な部屋で一人。何もできずにうつむいて、みんなに迷惑をかけて。みんなから笑顔を損なって。自分勝手にみんなを悲しませて。

アイドルの仕事と正反対だ。

 

「あ~あ……」

 

自分の声が震えているのが自覚できた。その震え声のままで、何もかもを遮断するようにもう1度うつむいてから呟く。小さな小さな後悔の言葉。

 

「私……なにやってたんだろ……」

 

 

 

 

 

「っが……!!」

「……もう終いだ。鷹也、次もちゃんと来いよ。」

 

恭介に蹴り飛ばされ、吹き飛んだ鷹也は口の中から血を吐き出しつつうつむく。どうやら口の中を切ったらしいがそんなことどうでもいい。

 

「恭介くんは逃げないよね?」

「逃げるとしたら普通そっちだろうが。」

「俺は普通だと思う?」

 

笑顔のままで口元の血を拭って言う鷹也に向かって恭介は舌打ちをする。それだけで分かる。恭介はきっと理解している。そのまま恭介は無言でこちらに背を向けて去っていく。その後を追っていく取り巻きの人たちはきっともう来ないだろう。それは自分のミスだから仕方ない。だがきっと恭介は、恭介ならば。

 

「アハハハハハハハハッ!!!!」

 

すでに暗くなり始めたあたりに自分の笑い声が響く。壁にもたれかかって座り込んで足をだらんと伸ばして、笑い続ける。見上げた空には三日月が浮かんでいた。

 

「そうだよ……俺は普通じゃない……こういう人間なんだ……」

 

一通り笑い続けてから空に浮かぶ月に負けないくらいに口を歪めて笑みを形作りながら鷹也は誰にも届かない言葉を紡ぐ。

 

「俺には……価値なんてない……!!」

 

その言葉の後でもう1度、鷹也は小さく歪んだ笑い声を零した。

 

 

 

 

 

『ごめんね』

 

メールの件名はその言葉。

彼女が謝る必要なんてないのに。謝らなくてはいけないのは言い出せなかった自分もなのに。

きっと彼女はふさぎ込んでいる。落ち込んでいる。自分を責めている。そういう子だ。

本当に明るくて、本当に自分の感情に素直で、本当にまっすぐで。

でも、だからこそきっと彼女は自分を責める。

 

「……言えたのね?」

「……うん…」

 

気が付いたら入ってきていた母の言葉に頷いて見せる。言えたことは事実だ。しかし

 

「分かってくれた?」

「…………………」

 

母の言葉に沈黙する。言えたとしても理解はしてもらえなかっただろう。それは部室での彼女の様子からも見て取れたし、自分を責めている様子のメールの文面からも分かった。

 

「…………早く寝なさい。」

 

そう言う母にやはり何も返せずに沈黙する。そんな自分の様子を数秒の間、心配そうに母は見つめるも結局は何も言わずに部屋から出ていく。

ドアが閉まる。それと同時に聞こえた。

 

「ただいま。」

「お兄ちゃん?」

 

顔をぱっと上げるも閉まったドアの向こうは見えない。いつもより随分と帰宅が遅い彼は何やら母と会話しているようだが、その内容も聞こえなかった。

 

「お兄ちゃん……ねえ……」

 

出そうになる弱音と感情を押さえ込む。自分が文句を、意見を、弱音を言えた立場ではない。きっと

 

(追い詰めたのは……私だもん……)

 

もっとうまく出来たはずだ。もっとやりようはあったはずなのだ。それなのに今の状況はどうだろう。

 

親友は傷つき

大切な人は自分を手放した。

 

そのうえで自分は遠くへ行こうとしている。

何が彼を支えるだ。何が彼に頼り切りにならないだ。何が親友たちとずっと一緒にいるだ。何を、自分はそんなことを言っていたのだろうか。何一つ達成出来ていないのに何をえらそうに言っていたのだろうか。

 

「穂乃果ちゃん……お兄ちゃん……ごめんなさい……」

 

この留学という選択をしたのは自分で、この選択はきっと間違いではないと信じたいのに。

心の奥底で燻る、必死に目を逸らそうとするその想いはことりの胸をズキズキと明確に痛ませた。

 

 

 

 

 

 

苛立ちを訴える頭の中で響く笑い声。

 

『アハハハハッ!!!』

 

「くそが……!!」

 

募る苛立ちを抑えきれずに近くの自販機を蹴り飛ばす。周りにいるバカどもが顔をしかめているが無視。基本的に自分の周りにいる人間は自分より弱く、強い人間に群がることしかしないような人間のみだ。気にするだけ意味がない。どうせ自分に喧嘩売れるほどの度胸を持っているやつもいない。

 

「き、恭介、少し落ちつけよ。」

「それよりもうあいつに関わるのやめねえ?」

「あ?」

 

それでもオドオドとしながら口にするやつらに対してイラつきそのままに視線を向ける。しかしまあそこには多少の耐性はあるらしい。少し顔を引きつらせつつも言葉を続ける。

 

「いや、だってなんか気味わりぃし……」

「昔からあんなやつだってのは分かってたけどな。」

「それでも今考えるといかれてんだろ、あれ。何するか分かったもんじゃねえし……」

 

口々にそういう馬鹿どもにもはやイラつくことすらなく小さく舌打ちをする。自分たちでこの状況、あいつに首を突っ込んでおいてこれだ。もともと大して度胸もない癖に、中途半端に周りに反抗して、暴力でなんとかしようとする。

 

「…………勝手にしろ。」

「お、おい!恭介、どこ行くんだよ!!」

「帰るんだよ。」

 

後ろで何か言っているのを気にも留めずに歩き出す。しかし、不意にポケットに入れていた携帯が震える。どうやらまだ帰れないらしい。帰りたいのは山々だが、彼女は一応これまでのことを全て知っている。ここで出ないで余計なことを言われても面倒だ。それにこちらとしても彼女の行動には少し興味もある。

 

「ちっ…めんどくせぇ……」

 

色々思うところはあるとは言っても気分が乗らない今日はめんどくさいものはめんどくさい。それでも仕方なく着信を告げる携帯に舌打ちをしつつ、電話にでて指定された場所に向かう。場所はいつものファミレス。大して離れた場所にあるわけでもないそこにはすぐに到着する。

いらっしゃいませという声とともに入店するとすぐに入り口近くの席に座る人物に声をかけられる。

 

「おーい、こっちこっち!」

「……うるせえよ、少し黙れ。」

 

大きな声を出す彼女を黙らせつつ向かいの席に座って、水を持ってきた店員に適当に食べ物を頼む。そして、つれない態度だなぁとにやにやしている彼女に向き合う。

 

「で、今日は何の用だ。」

「いつもどおりの用だよ。そろそろなんかあったでしょ?」

「興味なくしたんじゃねえのかよ。最近は週一どころか月一で話聞く程度だったじゃねえか。」

「まあね。でも、その恭介の様子じゃあいつも通りではなかったでしょ?」

 

目の前に座る彼女は、綺羅沙希は小さく笑みを見せる。本当に楽しそうな、それでいて本当に冷たい笑み。

 

「聞かせてよ。鷹也がどんな様子だったか。その様子によってはまだ鷹也がここから這い上がってくる可能性があるかもしれないからさ。」

 

 

 

 

 

「ただいま。」

「鷹也?今日は遅かったのね。」

「あ、えっとうん、ちょっとね。」

 

いつもより遅い時間に帰宅した鷹也は玄関で早々に母と遭遇して少し焦りつつも平静を装って返事をする。その際にさっと腕を後ろに回す。その動作を少し不思議そうに母は見る。気づかれたかと内心冷や汗をかくも、母は何も言わずに話題を変える。

 

「今日、どうだった?」

「……みんなに言ってきた。」

「……そう。」

 

心配そうに聞かれたことに小さく、少し躊躇ってから答える。きっとこの回答は母の望むものではない。でも、嘘をつくわけにもいかなくて。悲し気な表情で頷く母の顔から視線を逸らす。

 

「……鷹也はそれでいいのね?」

「……これが最善だよ。」

 

母の顔を見ないで、なぜか少し躊躇ってしまいながら告げた言葉に母は何も言わない。いや、言わないのではなく言えないのだろうか。鷹也は黙って靴を脱いで母の横を通り抜けて自分の部屋の扉を開く。

 

「鷹也だけが無理する必要はないのよ?」

「無理してなんかないよ。」

 

最後に背中に投げかけられた言葉に間髪入れずにそう返して部屋の扉を閉じる。きっと母は気づいているだろう。自分が何か問題を抱えているということも、自分がこんなあり方であるということも。

そしてきっと母はそれを悲しんでいる。

 

「…………なにやってんだろ……俺……」

 

小さく呟く。これまでは上手くやってきたつもりだったのに。これまではばれないで上手いバランスでやってこれていたのに。自分のせいでみんなに迷惑をかけたり、自分のせいでみんなに悪影響を与えずにやってきたつもりだったのに。今では母に心配をかけ、ことりや穂乃果や海未、そしてみんなに迷惑をかけた。本当に何をやっているのだろう。

机の上に置いてあるパソコンの真っ暗な画面に自分の表情が写る。気づかなかったが頬には少し切り傷が付いていた。その傷にふいに水滴が当たって、痛みなんてほとんど感じていなかったのにその水滴によってもたらされた傷の痛みはなぜかものすごく痛く感じて。

 

「ごめんな、みんな……」

 

それでもその痛みによって出てくる自分の表情は苦し気なものでもなんでもなく、諦めたような、むしろこの状況を肯定するような笑みで。目からこぼれる水滴とそれに釣り合わない笑みを浮かべる自分。そんな自分の姿、感情のことが鷹也はどうしようもなく本当に、本当に

 

「……大好きで……大嫌いだ……」

 

 

 

 

 

 





はい、いかがだったでしょうか。
久しぶりに書き進めていたので上手く書けている自信はないですが、大幅改稿にならないといいなと切に願っています。

鷹也としても部室での出来事や絵里との会話、これまでの出来事で精神的にボロボロになってきていると思います。。恭介くんとのこの一方的に殴られる関係をやめる気がないのも、むしろその関係に積極的になっているのもそのあたりが原因です。

もう少ししたら鬱展開終われるかなと思いますが、こういう風に思ってからが長いのでまだまだかかりそうな気もします。色々とかき回す面倒で楽しい彼女もまた関わってきましたしね。

それでは感想・評価もお待ちしています。

ちなみに今から書き始めるので、次回の話はうまく書き進めば朝か昼には更新したいと思っています。それが無理でもできるだけ早くは更新したいと思っています。
そんな感じで次回もよろしくお願いします!

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