ほぼ月一更新になりかけている雪詞です。
少しだけ忙しさが解消されてきましたので執筆が進み始めました。
今回は短めですが、リハビリとして書いては消して書いては消してを繰り返した結果でこれ以上やると時間がかかりすぎると思ったのでこの長さです。
次回は一週間以内に更新できればと思っています。
今回はことりと真姫の話と真姫の内面がメイン。執筆の調子を戻すために書いたところもあってキャラ崩壊の危険もありますが、そこそこ真姫にとっては重要な部分です。
それではご覧ください。
鷹也がそのことを知ったのは夕方。特に何をするでもなく、だらだらと1日を家で過ごしていた時だった。ベッドにうつ伏せに倒れこみ、顔だけ横に向けて画面を見る。一斉送信されたメール。内容はμ’sの活動休止。そして絵里から自分にだけ送られてきた穂乃果の発言やその時のみんなの反応のこと。
「やめる……か……」
脳裏に呆然と悲し気な表情を浮かべる彼女の顔が浮かぶ。その思い浮かんだ表情に胸が締め付けられるような感覚を覚える。こんなことは前までなかったのに。あの少女の顔を思い出そうとして悲し気な表情が浮かぶなんてそんなことはこれまで1度だって。
携帯の画面から目を背けて、枕に顔をうずめる。
「…………考えるな……!!!」
小さく、戒めるように呟く。唇をかみしめる。握りしめた手に力をこめる。自分のせいだ。自分のせいだからこそ。だからこそこれ以上自分の感情をおさえれないでどうする。
決めたはずだ。自分はもう彼女たちには関わらない。少なくとも、このスクールアイドルという活動の中では彼女たちに一切の干渉をしないと。
掌に爪が刺さって痛みを感じる。その痛みは自分を戒めるための痛みに感じられて。握りしめられた片手を顔の横に持ってきて、目だけでそれを見つめる。自分は今どんな表情をしているのだろう。見たいとは思えない。
「っつ……!!」
そのタイミングで携帯が着信を告げる。一瞬ビクリとしてハッと我にかえる。画面を見てみるとそこにはあまり歓迎できない相手の名前。だが特に何も考えずに、鷹也はその電話に出る。今は会話で気を紛らわせられれば誰でもよかった。その点で言えばこの相手は都合がいいとも言えるかもしれない。上の空で会話していられるような相手ではない。今はイラついたり、感情を抑えきれる自信はないがせめて、全神経を注いで抑えなくては。それに正直に言えば予想通りの展開ではある。
「……どうかしましたか、沙希先輩。」
気が付けば放課後になっていた。いつの間に授業が終わっていたのだろう。昼休みに絵里に生徒会室に呼ばれて話を聞くまでは正常に時間が過ぎていたからやはりあのことを自分は受け止めきれていないのだろう。
ことりは隣の席の穂乃果に視線を向ける。朝から様子がおかしいのには気が付いていて、昨日のこともあって話をしようとしてもこちらに関心を向けてくれなくて。そんな彼女と目が合う。
「…………………じゃ」
「あ、穂乃果ちゃん……」
帰り支度を終えていた穂乃果はいつもの彼女の様子とは打って変わって、小さく呟くように言うと先に教室を出ていく。自分の心の弱さまで照らしていたようなあの笑みはもう見えない。光はもう差していない。
止めようと声をかけるも、止めてもなにを話せばいいのだろうという思いにとらわれてしまう。
謝る?今さら?どんな顔して?どんな言葉で?
自分のせいだという思いがなにもできなくする。
「………………ことり、私はしばらく弓道部に顔を出しますので。」
「……うん……」
もう1人の幼馴染もこちらに視線を向けずにそう告げる。それでも辛うじて会話をしてくれるのは彼女の優しさであり強さなのだろう。今は彼女もきっといっぱいいっぱいで自分1人で整理したいことだらけのはずなのに。少しとはいってもこちらに気を使ってくれる。
(……行かなきゃ……)
今日も早く帰って留学の準備をしなくてはいけない。今日は学校にはこれたが、これからは様々な準備によって学校に来ることも難しくなる。机から立ち上がる。いつも一緒に帰ったり、部活に向かっていたから1人で立ち上がってこの時間に移動するということに違和感を感じる。
「………………………………」
校門から外に出て、そこでふと振り返る。目の前にある校舎の屋上ではいつもならカウントをとる手拍子や声が聞こえ、9人の笑顔があった。でも、今日からはしばらくその声は聞こえず。そして9人の笑顔が揃うことはきっともうない。
「……ことり?」
「あ、真姫ちゃん……今帰り?」
「ええ、今日は音楽室も空いてなくて……」
ふと声を掛けられて振り向くと、そこにいたのは真姫。やはりいつもよりも元気のないように見える真姫はことりの視線をたどって、どこを見ていたのか気が付いたのだろう。唇を小さくかみしめ、呟く。
「……ごめんなさい」
「真姫ちゃん……?」
その珍しい様子に驚きを隠せないで、真姫を見つめる。最近元気がないなとは思っていた。色々あって何かあったのかとも何も聞きに行けなかったが、少し思いつめているような様子がことりには見えていた。でも、この謝るということを極端に苦手とする彼女が急に謝ってきたことに衝撃が隠せなかった。
ことりは内心の衝撃をなんとか抑えつつ口を開く。
「真姫ちゃんが謝ることなんてなんにもないよ?悪いのは……」
「違うの。」
「え?」
それでも真姫が謝ることなんて何一つないはずだ。今回の件で基本的に悪いのは自分であり、自分以外のメンバーが責任を感じる必要などないはずなのだ。
それを真姫に伝えようとするも遮られ、聞き返すと真姫は苦し気な表情で違うのよ……と呟いてから続ける。
「私は気が付いてた……。何かおかしいのに気が付いていたの。それなのに何も言わなかったのよ。」
「で、でも、それは私が言わないでって……」
「そこで私がもう少し自分の中の違和感を信じてればこうはならなかったわ。」
「真姫ちゃん……」
真姫は確かにこちらの様子に気が付いているようだった。最近元気がないように見えていた一方でこの少女は周りがよく見えていたのだろう。その時に口止めをするような合図をしたのは、大丈夫だと合図をしたのは自分だ。でも、真姫は首を横に振って言う。
「私が何もしなかったからこうなった。だから……本当にごめんなさい……」
そう言う真姫をことりは黙って見つめる。その少女の様子はやっぱりどこか違和感があった。最近の例にもれずに元気がないように思えた。普段の彼女とは明らかに違って見えた。今の状況を差し引いても、なんとなくだがこの少女が何か抱えていて、何か思い悩んでいるように思えた。
ならばどうするべきだろう。もういなくなってしまうこの自分が何をしてあげられるというのだろう。ことりは少し考える。
「大丈夫だよ。」
そして真似をすることにした。いつもの彼、そして彼女の真似。優しすぎる彼と明るく元気な彼女の真似。
ことりはうつむく真姫の頭にゆっくりと手を置いて微笑む。うまく笑えてるだろうか?彼と同じように。自分の辛さを隠して笑えてるだろうか?
「真姫ちゃんが悪いことなんて何もないよ。」
「ことり……?」
「大丈夫。」
不安そうに、悲しそうに、複雑な感情にゆれる彼女の瞳をまっすぐに見て笑ってみせる。大丈夫。この根拠のない言葉。いつだっただろう。幼馴染が太陽のような笑顔でこちらに向けてくれた言葉。その大丈夫を台無しにしようとしている自分がいえたものではない言葉。でも、ことりにはその言葉しか思い浮かばなくて。うまく彼女の真似をできればいいのだが、きっとできていないんだろうなと内心で思う。
「真姫ちゃんは悪くないよ。」
「あ……」
だから真姫の頭を優しく撫でてあげてから、最後にもう一度微笑んで見せる。そして真姫が呆けたような表情を見せている間にことりは続ける。
「悪いのは私だよ?何も言えなくて、何も相談できなくて、何も話せなかった私。ごめんね?」
真姫に背を向けて帰路に向き直る。ここからは自分の言葉。真姫に見せることのできる表情を作ることができる自信はない。
悪いのは自分。弱い南ことりの責任。そう告げた後、ことりは少しためらう。しかし、真姫には見えていない位置でも無理に笑みを形作って口を開く。
「でも……私はもういなくなっちゃう。」
「こと……」
「だからね、真姫ちゃん。」
自分で決意したことのはずなのに心はずきりと痛む。その痛みを無視して、その痛みが増すような気がして、真姫の言葉をさえぎってことりは笑顔を作って振り向く。少し目元が涙で潤んでいるのは仕方ないと思ってほしい。
「みんなのこと……お兄ちゃんのこと……お願いできたらうれしいな。」
―――――ばいばい
その言葉を言って、ことりが目の前から去っていく。少し早歩きで、止めないでとでもいうようなその背中を真姫は黙って見守るわけにもいかなくて。
「ことり!!!!」
大声で呼び止めようとする。こんなに大声でだれかを呼んだことがこれまであっただろうか。きっとないだろう。しかし、ことりは止まってくれなくて。ピクリと反応するもことりは振り向かずに歩いて行ってしまう。こんなこと、こんなことって。
「あっていいわけないじゃない……!!」
小さくつぶやく。でも、足は動かなくて。思っているのに。あのまま行かせてはいけないって。ことりにあんな顔をさせたままでいたくないって。こんなことを自分が素直に思える相手なんて珍しいのに。でも、心のどこかで思ってしまうのだ。
自分に何ができるのと。あの人に何も言えないでいる自分になにができるのと。
その思いが足を動けなくする。
「なんなのよ…...!!」
自分の感情に、心に、想いに嫌気がさす。自分はこんなに弱い人間だったのだと突きつけられているようでどうしようもなく辛くなる。
これが自分なのだろうか?
こんな弱い自分が?
自分に問いかける。認めたくない。足は相変わらず動かないし、素直に話せない自分が何をことりに言えばいいのかも分からないけど。分からないからと諦めようとする心が胸を締め付けるけど。締め付けるから。
自分がこんなに弱い人間だと認めるのはとても辛かった。
心を蝕むネガティブな感情が苦しくて仕方なかった。
「真姫ちゃーーん!!」
後ろから名前を呼ばれて振り返る。元気に駆け寄ってくる少女と一生懸命それについてくる少女。
凛と花陽は真姫のそばまで来ると自分の表情を見て、心配そうな表情になる。
「真姫ちゃん……大丈夫?」
『どうしたの?』じゃなくて『大丈夫?』
何かあったのは、何かあるのはすでにばれている。
でも、
「大丈夫よ。」
聞いてきた花陽から、隣でいつもの元気な明るい表情ではなく心配そうな表情をしている凛から視線を逸らす。凛と花陽が前に言ってくれた『大丈夫』を今度はこっちから言う。心配してくれる彼女たちを安心させるためにも彼女たちが言ってくれた『大丈夫』を伝える。励ますために言ってくれた言葉を心配しないでの意味に変えて返す。
しかし、その『大丈夫』の単語は心に深く、明確な痛みをもたらす。その痛みを押し殺すための『大丈夫』なのに。何にもないという自分の状態を周りに伝えるための『大丈夫』なのに。
(あ……そっか……)
そこで気づく。いや、気づいていたのに無視をしていたことに気づいてしまう。今更過ぎて、遅すぎて。そもそも相手のことを案じているからこその言葉でもあるのだ。当たり前ではないか。
(大丈夫……ってこういう意味になるときもあるのね……)
もうどうしようもないくらいに遅いと思ってしまう発見だった。
はい、いかがだったでしょうか。
大丈夫という言葉は難しい言葉だと思います。凛が真姫に言ったように人を励ますための言葉にもなり、人を安心させる言葉にもなるし、人を安心させる言葉にもなるからこそ別の意味にもなります。
真姫は大丈夫の意味に気づくことができた。遅いと思えてしまう気づきでも、ここからの解決にこの気づきは必要になってくるはずです。
更新が不定期になってしまい、大幅に更新が遅れることになってしまう中でお気に入りをつけ続けてくれている人や評価を消さずにいてくれる人がいるのが本当にありがたく思っています。
これからも完結まで絶対に更新は続けるので暖かく見守って下さればと思います。
それでは感想・評価もいただければうれしいです。
次回もよろしくお願いいたします。