小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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少し遅くなりました。すみません……

今回は沙希と鷹也の会話のお話です。
沙希先輩は自分としては書いてて面白いのですが、如何せん書くのが難しいキャラでもあります。
そしてどんどんと鷹也のことを追い詰めるせいで読んでくださってる方に嫌われている気がするのに、今回の話でさらに嫌われそうな予感。彼女なりの理由もある行動なのでどうかあまり嫌い過ぎないでいただければ幸いです。

それではご覧ください。



矛盾

『 ……どうかしましたか、沙希先輩。』

 

明らかに間があいた返事に沙希は自分が得ている情報が間違っていないことを確信する。つまりはまだ面白いことになりえるということ。沙希は楽し気な声を隠す気もなく、電話口に声をのせていく。

 

「鷹也がどれだけひどいことになってるかなって思ってさ~」

『……意外ですね。恭介くんにはもう話を聞いていないと思ってたんですが?』

「聞く気もなくしそうだったんだけどね。状況を知っていて止めていない身としては最後まで状況くらいは把握しておかないと。」

 

そもそも意外だともなんとも思っていないはずだ。このくらいの展開は、自分から何かしらのコンタクトがあることくらいは予想できるはず。それを言わないのはきっとこちらのペースに乗せられたくないという意識の表れ。

まあ、そこまで考えているというよりはただの気まぐれの当てつけの可能性のほうが高いかと考えつつ、沙希は言う。

 

「それで?μ’sのそばにいなくなった気分はどう?」

『最高ですよ。これでみんなに悪い影響はなくなる。』

「その割にはずいぶんと影響ありみたいだね?恭介たちに笑って殴られたんでしょ?」

『……沙希先輩には関係ないですよ。』

 

返しまでの微妙な間の違いを鷹也らしいと感じつつ、沙希は話すのをやめない。やめる気などない。やめてはこの南鷹也という青年のためにならない。それにわざわざ電話代かけて電話している意味もなくなってしまう。

理由としては鷹也のためというのは自分の中にはきっとほとんどないのだが。

 

「じゃあ笑って殴られたのはμ’sの子たちに関係してるのかな~」

『……関係ないですよ』

「あの子たちにも何か問題があるんでしょ?」

『…………………』

 

無言は肯定だ。沙希はそう判断する。

それに鷹也に確認するまでもない。ファミレスでのあの子たちの様子を見れば一目瞭然だ。ピクリと反応した赤リボンを思い出す。

 

『……ことりの留学の話があるくらいです。それ以外はありません。』

「っと……へえ……そうなんだ。」

 

思ったよりも素直に鷹也が話してきたことに少し驚くも、沙希は少し考える。その程度の、いや留学はきっと大きな問題ではあるがそれだけだろうか。それだけで鷹也は周りに悟られるほどに自分が限界ギリギリだと表現するのだろうか。まあ

 

「それだけじゃないよね。」

『っつ…………』

 

驚いた鷹也が電話の向こうで息をのむのを聞いて、下手だなあとにやりと笑う。ここでとぼけられても信じる気はないが、そんな反応ではごまかせてもいない。

沙希は言う。

 

「鷹也はこのままでいいのかな?」

『……っつああもう!なんなんですか!別に沙希先輩にはかんけい……』

「沙希ねえ~!プリン食べたい~!!」

『ない……は?』

「あ、ごめんごめん。プリンなんか食べたら太るよー?」

「その分動くから大丈夫~!さ~き~ね~え~!!」

 

珍しく声を荒げようとした鷹也の機先を削いだのは、電話の向こうにも聞こえたのだろう声。返事をしてやるも、ドアの向こうから聞こえてくる声は止まらない。小さくやれやれとため息をついて沙希はリビングに移動して言う。

 

「せめて自分でソファから動いて冷蔵庫に行きなよ、ツバサ。」

「今は練習の疲れとるための充電中~」

 

だらりと仰向けにソファに寝っ転がるツバサに声をかけるも効果なし。天下のA-RISEのリーダーが家ではこうだと知ったら世間はどんな反応するのだろう。

沙希はそう考えつつ、どういう反応も何もサンプルが目の前にいるなと思い直して言う。

 

「別になんだっていいけどあたし今電話中なのわかってる?」

「え……?」

 

ツバサの顔が少しひきつったのが見える。猫をかぶっているとかそういうことではない。世間にでているツバサもいつものツバサだ。性格になんら変化はない。

 

「ちなみに電話の相手には……?」

 

何も言わずに満面の笑みを見せてやると、顔を真っ赤にしてソファにうずくまるツバサ。

性格になんら変化はない。でも、少し家だとなんというのだろう。ツバサはめんどくさがりになる。実際に今も格好は完全に部屋着のとても外に出せない格好であるし、リビングにはツバサの私物がゴロゴロ転がっている。ツバサの部屋は言わずもがな。

別に一般常識に欠けるというわけでもないし、少し家ではずぼらになるというだけなので黙認しているがこういうことがあるのならもう少し家でもしっかりさせたほうがいいのかもしれない。

 

『……えっと……沙希先輩?』

「ああごめん、鷹也。」

「鷹也……電話の相手って南さん?」

 

ソファに顔をうずめていたツバサがチラリと目線だけをこちらによこして聞いてくる。

それにうなづいてやりつつ、少しだけ考えるもすぐに納得する。

 

「ああ、そういえば会いに行ったんだっけ?」

「……わーやっぱばれてるよねー」

「それくらいはね~」

 

ちょっと代わってくれない?と聞いてくるツバサに電話を渡してやる。前の様子から、というよりはこれまでの様子から大体のツバサの考えは読める。

話し始めるツバサを見つめる。わかっている。ツバサの想いや英玲奈、あんじゅの想いには気づいている。

 

「…………………………………」

 

想いには気が付いている。

 

 

 

 

 

一瞬感情を抑えきれなくなりそうになった自分を戒めつつ、鷹也は沙希に代わって電話に出てきたツバサの挨拶に答える。

 

『すみません、いきなり電話代わって……』

「いや、ある意味助かったよ。なんか用?」

 

ツバサは沙希に比べたらだいぶやりやすい相手だ。沙希の相手をするときほど気を張る意味もないだろう。

 

『前のお話はどうなったのかなと思ったんですけど、考えてもらえましたか?』

「あ~……あの話ね。」

 

A-RISEの練習を見てほしい。ツバサに頼まれたこと。ツバサから聞いた想い。

鷹也は誤魔化すように言葉を濁す。決して忘れていたわけではない。しかし、

 

「確かに俺はμ’sのサポートはもう……しない。でもごめん。」

『そう……ですよね。』

 

ツバサの残念そうな声に少し申し訳なく思う。

自分はもうμ’sの活動にはかかわらないと決めた。でも、自分は彼女たちの味方だ。そうなるとツバサの願いは、想いは聞き入れてあげるわけにはいかない。そもそも自分が練習を見てやったところで何かが変わるとも思えない。それを伝える。

 

「それに俺は別に何かできるわけじゃないよ。沙希先輩が買いかぶってるだけ。むしろ、俺がかかわったら邪魔になるだけだよ。」

『そんなことは……』

「きっとA-RISEなら俺の手伝いなんていらないよ。だから頑張って。」

 

自分が手伝うことでマイナスの影響があることは今回の件ではっきりとした。ならばツバサたちにも関わらないほうがいいに決まっているのだ。ありがとうございます。いきなりすみませんでしたと言ってツバサが電話を沙希に渡す気配がする。

 

『鷹也?断っちゃったの?』

「沙希先輩には言っていないものだと思っていたのですが。」

『大体察してるよ。ツバサが練習見てくれとでも頼んだんでしょ?』

「……まあ、そうですけど。」

 

完璧に把握されていることがなんとなく悔しいが、ばれてるものを否定しても仕方ないのでしぶしぶ肯定する。その様子が面白かったのか。小さく笑ってから沙希は言う。

 

『ねえ、鷹也がμ'sの活動を見なくなった理由ってなんなのかな?』

「沙希先輩には関係ないことですよ。」

『自分に自信も何もない人間が今さら自信なくしちゃった? 』

「言ってることが矛盾してますけど。」

『そうかな?』

 

沙希の言葉に付き合いきれずに沈黙する。ある意味で自分のあり方、生き方、考え方に最も近づいていると言える沙希。彼女の言葉はこちらを見透かし、こちらの内面を揺れうごかせる。

 

『鷹也は自分には何もないって言ってたよね。それでもあの子たちのそばにいるって。』

 

沙希は鷹也の言葉を待つことなく続ける。きっと彼女はこの電話越しに冷たく、見るものを魅了する微笑みを浮かべているのだろう。いつもの明るい彼女の無邪気な笑みとは違う笑み。

 

『そしてこうも言っていた。自分の何を犠牲にしてもあの子たちに悪影響を及ぼさない。』

「…………………………」

『あの子たちに悪影響を及ぼさないために近くにいることをやめた。自分には何もないから、無駄にそばにはいないように自分から離れた。自分があの子たちのことを傷つけてしまうという傷を負うことを辞さないで。』

 

どうかな?と聞いてくる沙希にため息をつく。どうかなも何も完璧に把握されている。さすがとしか言いようのない洞察力。これではごまかしようもない。

 

「……そういうことですよ。正解です。」

『それであの子たちの味方でいたいから、あの子たちのためにサポートをやめた以上はA-RISEの練習を見ることはできないってことでいい?』

「俺はあの子たちの味方をするって決めてますから。」

『言ってることが矛盾してるよ?』

「え……?」

 

もはや隠す気もなくなりそうになりつつ、鷹也が沙希の言葉をしぶしぶ肯定すると返ってきたのは先ほど沙希に鷹也が言ったことと全く同じ言葉。

つい言葉を漏らす鷹也にこらえきれないとでも言うような笑い声を漏らす沙希は言う。

 

『何もない。何も才能はないし、つまらないし、できることなんてない。それは鷹也が言っていたこと。それで悪影響になるからとμ’sのもとを離れた。でもあの子たちの味方でいたい。なら、A-RISEの練習を見るのは断るべきじゃない。』

「そんなこと……あ……」

『気が付いた?』

 

沙希の言葉を把握して言葉を失いそうになる。気が付いてしまう。気が付きたくなかったことに目を向けさせられてしまう。無意識に見ないようにしていた心の奥をのぞき込んでしまう。

 

『悪影響しか及ぼさないような人間が何をA-RISEにプラスするの?何を教えれるの?その辺にいるスクールアイドルなんかとは違う。天下のスクールアイドルのA-RISEに。あたしが教えてるんだから基礎はしっかりしてる。鷹也がきっちり教えれる基礎はもういらないよ?』

「それは……A-RISEの味方になったってだけで少しの精神的影響も……」

『μ’sにはわざわざ言わないよ。それともツバサたちに影響があるとでも思ってるの?』

「ないとは言い切れないじゃないですか。俺がかかわることで悪影響を与えるかもしれないし、そんなことをA-RISEにするわけにも……』

『何もない人間が何を言ってんの?鷹也は自分のことを、何もない自分のことをどうでもいいと思ってるんでしょ?いい影響なんてありえない。もし悪影響をあたえるのなら断るのはお門違い。あの子たちのために犠牲を問わずに何でもやるって言ってたんだからそのくらいのことはしてしかるべきだよね。何もない人間が手段を選んでる場合じゃない。味方したい本人たちにかかわれないんだから。』

 

沙希の言葉がほんの少し低くなる。冷たさを帯びた声に何も鷹也は返せない。返したいという思いはある。でも、どうしようもなく正論なのだ。沙希の言うことはどうしようもなく正論で。自分の思うこと、言うことはどうしてもごまかしで。

 

『鷹也が、鷹也の思ってる自己像の通りの人間だったら、鷹也がいい影響を与えられる人間なんていないよ。』

「……わかってますよ。そんなこと。」

『そうだろうね。でも、わかってないよ。わかろうとしてない。』

 

自分がいい影響を与えられる人間なんていない。それはわかっている。こんな自分がそばにいたら周りの人にはマイナスの影響をあたえるだけだ。それくらいわかってる。どれだけ自分の内面を見てきたと思っているのだ。しかし、沙希は断言する。わかっていないと正論を突きつける。

 

『周りに悪影響しか与えられないのなら、今ごろふさぎ込んで周りとの関係を断ってるべきだよ。どうしたって人っていうのは周りの人の影響を受ける物。だったら、周りの人間に悪影響を与えることをなくすには人と関わらない以外にない。それくらい気が付くだろうしね。誰かの味方をしようなんてもってのほかだよ。』

 

沙希は冷たい声のままに続ける。

 

『でもそれをするわけでもない。ねえ鷹也、いい加減にしたら?』

「………………………………」

 

何も言えない鷹也に小さく沙希のため息が電話越しに聞こえてくる。低かった、冷たかった声はもとに戻る。

 

『……あたしが口をだすのはここまで。あの子たちにだけ発破かけたんじゃ不公平だから言っただけだしね。』

「え?あの子たちって……」

『とりあえずここからどうするかは自分で考えればいいよ。』

 

そういうと沙希は鷹也に何も言わせずに言葉を続ける。

 

『精々這いあがってきて……あたしを楽しませてよ。』

「ちょっ……!沙希先ぱ…っつああくそっ!」

 

最後に告げられた言葉に反応する隙も与えずに沙希は通話を終了してしまい、耳に流れてくるのはプーップーッという無機質な音。

電話を投げつけようとして、そんなことするわけにもいかずに振りかぶった状態で思いとどまり、ベッドに倒れこむ。携帯を脇に放って、唇をかみしめる。

 

(なんなんだよ……!!!)

 

頭の中を沙希の言葉がぐるぐると回る中、手を握りしめ、唇をかみしめる。自分の在り方が、価値観が、本質が揺らぐ。いや、そもそも本質は別?本質だと思っていたものは上っ面のごまかし?

 

自分は自分を見つめられていなかった?

 

考えたくなくて、見つめたくなくて。噛みしめた唇から血の味がした。

 

 

 

 

 

「沙希ねえ。もう関わらないんじゃなかったの?」

「ん?ああ、そうなんだけどねぇ……」

 

電話を終え、部屋に戻ろうとすると手にプリンとスプーンを持ったツバサが声をかけてくる。電話をして、少しなまけの精神がなくなって自分で冷蔵庫にとりに行ったようだが、結局食べることは決定事項だったらしい。

ツバサの質問に少し考えてから答える。

 

「なんだかまだ可能性がありそうだったからさ。今は崖っぷちだけど、ピンチってよりはむしろチャンスって言うべきかもね。」

「へぇ~……」

「まぁ、色々考えて気が変わったんだよ。」

「その色々の部分を聞きたいんだけどな……」

 

小さく頬を膨らませつつ、プリンを口に含んで不機嫌な顔を一瞬で幸せそうな顔にするツバサに苦笑する。自分が鷹也に、μ’sに関わる理由。単純で、利己的で、エゴが満載の理由。

 

「とりあえずは可能性があるのなら、多少は口出してあげたら面白くしてくれる存在になるかもしれないでしょ。そういうことだよ。」

「……そうですかー」

 

プリンのおかげで幸せそうな顔になっていたのに、その表情を不機嫌なものに戻すツバサの頭を苦笑しつつポンとたたく。そう、これはただの自分のエゴで、自己満足だ。現実を突きつけたくない。突きつけないであげたい。ただの

 

「……わがままだよ。」

「え?」

「なんでもないよ~隙あり!!」

「ああ!私のプリン!!」

 

とりあえずは目の前で楽しくなりそうなことを探しておこう。ほとんどないことなんだから。

プリンを取り返そうと手を伸ばしてくるツバサから逃げつつ、沙希は小さく笑った。

 




はい、いかがだったでしょうか。
だんだんと自分でも鷹也の心情などが整理しきれなくなりそうです。なんかここ変だなと思う部分があったらそっと心の中でとどめていただければと思います。
(あまりにも酷く辻褄が合わないところがあったら感想でこっそりと教えてくださるとうれしいです|ω・)笑)

こんな更新頻度ぐちゃぐちゃの作品ですが、気が付いたらUA80000超えをしていて驚くとともに感謝の気持ちでいっぱいです。本当に読んでくださっている方ありがとうございます!
UA10000ごとにオリジナルの番外編をと思っていたのですが、この更新頻度で番外編もとなると本編がいよいよ全く進まなくなってしまうので悩み中。
次回はとりあえず本編を1週間以内の更新目標にして、番外編に関してはどうするかを次回のあとがきで報告します。

それでは感想・評価もお待ちしています。
次回もよろしくお願いします。
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