小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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とりあえずは本編更新
番外編と同時投稿の予定でしたが、本編に思ったより時間がかかったので。
番外編は今週中には更新したいと考えています。

今回は真姫回。
悩んでいた真姫にもようやく救いが。

うまくかけているかはわかりませんが、どうかお手柔らかにという感じで、どうぞご覧ください!




優しさの理由

この数日間は何もなかった。

何も起こさなかったのか、何も起きなかったのか。

そこは考えたくない。

 

あの日から、ことりを止めらなかったあの日から真姫の生活は何も変わらない。

少しだけ寝起きが悪くなった気がする朝を迎え、身支度をし、学校に向かい、授業を受け、音楽室が開いているときはピアノを少し弾いてから、開いていない時はまっすぐに下校して、家に帰ってきて。

 

宿題や予習をしても少し時間が余ってしまうような時もあったが、そのあたりの時間配分もすぐに把握して。

今では練習のない日々にも完全に慣れてしまっている自分がいる。

 

μ’sの活動を休止していることに母は心配そうな様子だったが、そこは心配ないと言って引き下がらせた。おかげで今のところは見守るだけにとどめてくれている。

病院の仕事で忙しく、あまり顔を合わせられない父は母に何か言われたらしく、ただ一言だけ優しく微笑んで言ってくれた。

 

『真姫、何が大変で、何に悩んでいるのかは分からない。でも中途半端なことはしない。いいね?何かをするのに中途半端なことは周りも、自分も傷つけるよ。』

 

最後に、真姫ならできるよと言ってくれたその優し気な笑みはこちらの心を見透かしているようで。やっぱり親はすごいなと少し思った。

中途半端はいけない。分かっている。分かってはいるのだ。でも、動けない。

 

分かっているけど……分からないのだ。

 

 

 

 

 

次の日の放課後。廊下でたまたま絵里とすれ違った。

 

「あら、真姫じゃない。久しぶり。」

「久しぶりっていうほどでもないでしょ。」

「まあ……そうかもしれないわね。」

 

でも、いままでよりは会っていないし。と言って絵里は小さく笑う。その笑みの裏に隠れた気持ちに気が付くことができてしまう。今の自分は中途半端に人の気持ちに気付けてしまう。何もできないから、何もしないから。妙に冷静な頭が気持ちを読み取るための情報を多く相手に見つけているのかもしれない。

 

「真姫は何しているの?職員室に何か用?」

「ちょっとね。絵里は生徒会の用よね。」

「ええ、先生に見てもらいたい書類があって。」

 

絵里に聞かれるのを誤魔化して、逆に質問し返す。

さすがに言えないだろう。課題の提出の時にぼーっとしていたら違うノートを出してしまったなんて。恥ずかしすぎる。

絵里は書類の入ったファイルを持ち直して、それじゃあねと言って職員室に入っていこうとする。その様子をただ見守るつもりだったのだが、絵里は不意に何かを思い出したように言う。

 

「あ、ねえ真姫。」

「なに?」

「無理しないでね。」

 

絵里はまっすぐにこちらを見て言う。その目の優しさに、心が痛くなる。

 

「真姫は前から何か悩んでるように見えてたから。ずっと何も言えなかったのは申し訳ないと思っているけど……。何かあったら頼ってもいいのよ?」

「………………」

「ほら、これでも私は生徒会長なんだから。」

 

真姫がこのタイミングで何も言えないだろうことは絵里も理解しているのだろう。悪戯っぽく笑いかけて、絵里は今度こそ職員室に入っていく。

それを真姫は黙って見送ることしかできない。

 

なんで絵里は、あんなに辛そうなのに、あんなに大変そうなのに自分なんかに優しくしてくれるのだろう。

 

絵里の性格を考えれば当然の優しさ。当然の優しさだからこそ、真姫にはとてもつらいものだった。

 

 

 

 

 

それから音楽室に行く。今日は開いているようで、誰もいないことを確認してから中に入る。

少し前までは自分以外の人の歌声もたまには響いていたのだが。もうここに響く音は自分が弾くピアノと自分が歌う声のみ。その状況にも慣れそうになっている自分を自覚し、そのせいで逆に状況を意識してしまって心が締め付けられる。それを振り払うようにピアノの前の椅子に座って、鍵盤に手を乗せる。

 

「~♪~~♪」

 

無意識のうちの選曲はオープンキャンパスの際に作った曲。初めての9人と1人の曲。自分の中の感情に目をつむりつつ、今だけは、大好きな音楽を楽しんでいる間だけは、と思ってその曲を弾き続ける。

この瞬間だけは落ち着ける。自分だけの音楽の世界に引きこもれるこの瞬間だけは。決まって弾いてしまうのはμ’sの曲なので、後で思い出して胸が少し痛むのだが。

 

「1、2、3、4………」

 

不意に声が聞こえた気がして。そんなわけないと頭を振る。練習をしなくなった時点で、このカウントをとる声はもう聞こえなくなった。その声をかき消すように、できるだけ大きな声で歌う。鍵盤を叩く手に力をこめる。

 

「ちょ……!えっと……このタイミングで……ってどのタイミングよ、今!!」

 

聞こえるはずのないダンスをしているメンバーの困惑の声を無視しつつ、テンポを上げて、アレンジを加えていく。心の声に耳を塞ぐ。音楽で塗りつぶそうとする。自分の世界に、音楽の世界に閉じこもろうとする。

落ち着ける瞬間だったはずが、心がかき乱されるのを無理やり押し込める。

 

「っつああもう!いつも通りに弾きなさいよ!!」

「ゔぇえ!?」

 

その時、不意に鍵盤に自分以外の手が入ってきて演奏が中断させられる。思い出されるのはあの時の感覚。明るい笑顔で彼女が自分を連れ出してくれた時の感覚。

ハッとして顔を上げれば、そこにいたのはその時の少女ではなく、小さな小さなツインテールの先輩の姿。

 

「に、にこちゃん……」

「何適当に弾いてんのよ。ちゃんとしなさいよね。おかげでステップずれちゃったじゃない。」

 

それともまさか忘れたわけ?と皮肉っぽく聞いてくるにこに対して、そんなことないけどと小さく返す。今日はどうしてこうμ’sのメンバーによく会うのだろう。会うたびに胸が締め付けられる。

そんな様子をどうとらえたのだろう。にこは表情を一瞬こちらをうかがうようなものにした後、真剣なものに変える。

 

「まあいいわ。そんなことより真姫。」

「な、なに?」

「アイドル、続けない?」

 

真剣な表情のにこの口から出た言葉はアイドル活動の再開。にこらしいのだろう。彼女の想いを考えたら、この状況に耐えられない。その解決策としてアイドルを持ち出すのは彼女らしいというほかない。

一瞬だけその話に乗りそうになる。あの時の彼女と同じように、にこは自分の世界を壊してくれようしている。でも

 

「ごめんなさい、私はまだ……」

 

自分はそこに行く資格はない。

その想いが扉を閉ざす。にこの言葉で開きかけた扉に鍵をかけていく。

 

「……そ、わかったわ。」

「え……?」

「なによ?」

「いや、えっと……」

 

そんな真姫に対するにこの反応はあっさりとしたもので。

あっさりと引き下がったにこに違和感を覚えてしまって、少し動揺してしまう。にこのことだからしつこいくらいには誘ってくると思ったのだが。

そんな真姫の様子を見てにこは、しょうがないでしょと言ってそっぽを向く。

 

「今はみんなが考えるべき時期だっていうのは分かってるもの。私はアイドルを諦めないっていう想いがはっきりしているからすぐに決断できただけ。今の状況でみんながすぐに活動再開できるなんて思ってないわよ。」

 

そう言ってにこは少し寂し気な表情を見せる。きっと本心だろう。自分の想いの強さを自覚しているからこそ、みんなが同じように考えられないということを理解しているのだ。でも、理解していることと感情が納得していることはまた別物で。でも、にこは気丈に笑って見せる。

 

「まあ、何かに悩んでてピアノもまともに弾けない真姫ちゃんなんてこっちからお断りだけどぉ~」

「なっ……!!」

「お断りだけど……」

 

いつもの小悪魔じみた笑顔で言うにこに絶句する。ピアノを弾けないわけじゃないやなんで悩んでるって知ってるのとかいろいろと言いたいことがあって。その感情を整理する前ににこが続ける。

 

「待っててあげるわよ。さっさと悩みごとを何とかして、帰ってきたかったら帰ってきなさい。」

「にこちゃん……」

 

優し気な笑み。こういう時に普段は子供っぽいこともあるけど彼女はやっぱり面倒見のいい3年生の先輩だなと感じる。それとともにその優しさに甘えてしまいそうになる自分に嫌気がさす。

一体何を甘えようとしているのだ。こんな自分が。

 

「悪いのは私もなのよ。私はラブライブに夢中で、真姫やことり、穂乃果を見れてなかった。気づいてあげられなかった。」

 

悪かったわね。そう言うとにこは真姫に背を向ける。

違う。にこが悪いなんてことはない。悪いのは自分。全部のことに、おそらくはほとんどのμ’sのメンバーが抱える問題や悩みに気が付いていたのに何も言わなかった自分なのだ。

にこが悪いなんてことは絶対にないと言ってあげたかった。でも真姫が何か言う前ににこが音楽室の扉に手をかけ、出ていこうとしながら口を開く。

 

「だから……できることがあるなら言いなさいよ。しょうがないから手伝ってあげるわよ。」

「あ……にこちゃん!」

 

そう言って笑顔を見せたにこは真姫の言葉を聞く前に出て行ってしまう。

その笑顔が、優しさが、言葉が痛くて。真姫の心を傷つける。

 

「っつ!!!」

 

ピアノの鍵盤を強くたたく。響いた不協和音がとても不愉快で。さらに力強く鍵盤を叩いて演奏を始める。心を塗りつぶそうとする。

しかし、いつもの力加減でできていない演奏はうまくいくはずもなく、ところどころに不協和音が生まれていく。それが不愉快で、苦しくて、痛くて、つらくて。

真姫はその日、初めて音楽に八つ当たりをした。

 

 

 

 

 

目の前の的を睨み付ける。集中力を高める。余計な考えを頭から追い出そうとする。

 

「ふっ……!!」

 

小さい息とともに放たれた矢はまっすぐに的に向かっていき、その真ん中を射抜く。完璧な出来。これまでの練習でも最高に近いくらいの的中率をここ最近は誇っているだろう。

それでも海未の心は晴れない。

 

「……………………」

 

もくもくと次の矢を弓に番える。集中していく。頭に浮かぶ人たち。

 

「ふっ……!!」

 

先ほどよりは少しずれた位置に矢が刺さる。的には当たっているからいいものの、これは課題あり。修正をするために意識をクリアにしていく。

ことりのことが頭に浮かぶ。

 

「ふっ……!!」

 

修正しすぎで今度は逆の方向にずれる。的にはまだ当たっている。

次の矢。意識を集中していく。鷹也のことが頭に浮かぶ。

 

「ふっ……!!」

 

今度は修正もできずにさらに的の外側に。当たってはいるがギリギリだ。

次の矢。修正するために微調整を行う。穂乃果のことが頭に浮かぶ。

 

「つっ……!!」

 

修正成功。まっすぐにとんだ矢は的のど真ん中に突き刺さる。

その矢をまっすぐに見つめる。海未の心は晴れない。

 

 

 

 

 

次の日の真姫の気分は最悪と言っていいものだった。

にことの会話の後、完全下校時間寸前までピアノをがむしゃらに弾き続けた。しかし結局は気持ちは晴れず、残ったのは中途半端な疲労感と倦怠感。そして罪悪感のみ。

 

「あ、真姫ちゃんおはよう。」

「おっはようにゃー!」

「凛、朝から……ええ、おはよう。」

 

教室に入ったところで声をかけてきた花陽と妙に朝からテンションの高い凛に答え、自分の席に座ってイヤホンを耳に装着。周りの音を遮断する。

 

「……………………」

 

チラリと視線を向ければ、何を話しているのかまでは分からないが何やら相談している凛と花陽の姿。彼女たちにこの状況に対する不安は表面上は見て取れず、昨日のにこの話を受けたのだなとなんとなく察することができた。

 

(……やっぱりあの子たちは強いのね。)

 

最初にμ’sに参加すると決めた時もだった。踏ん切りのつかない真姫に反して、花陽は自分で変わろうとしていた。みんなとうまく打ち解けられない真姫に反して、凛は持ち前の明るさですぐにみんなと打ち解けていた。

自分が立ち止まっている今も、彼女たちは走り出していて。おいて行かれている気分になる。

 

「あっ……」

 

するとそこで不意に花陽と目が合う。とっさに目を逸らそうとして、逸らせなくなる。優しい笑みに目を逸らせなくなる。その視線に気が付いたのか。凛もこちらに視線を向けて、満面の笑みとともにピースサインを見せてくる。その口が動く。

当然イヤホンをしていて周りの音を聞かないようにしている真姫にその声は届かないはずだった。でも、はっきりと大きく口を開けて紡がれた言葉は口パクでもしっかりと真姫に届く。

 

『だ・い・じ・ょ・う・ぶ・だ・よ!!』

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。音楽室による気分にもならずに帰ろうとしているときだった。不意に後ろから声をかけられた。

 

「真姫ちゃん」

「……希?」

「ちょっとだけ時間いいかな?」

 

急いできたのだろうか。少しだけ息を乱している希に向かって真姫は頷く。こころの痛みを考えたら話したくはない。でも、そっけない態度をとることもできなくて。中途半端な気持ちのままで真姫は希と向かいあう。

音楽室にいると思ったのにいないんやもん。探しちゃったと笑う希に特に反応を示さずに要件を聞く。

 

「どうかしたの?何か用事?」

「………ちょっとここじゃなんだから移動しようか。」

 

そう言って希は笑う。優しい、最近みんなが自分に向けるのと同じような優しい笑みだった。

 

 

 

 

 

屋上の柵に寄りかかり、真姫は希と向かいあう。

屋上に吹く風にはすでに秋の香りが混ざっているようで、少し肌寒い。しかし、希はその風が気持ちいいようできれいな髪を風に揺らしながら目を優しく細めている。

 

「う~ん……!!気持ちええね~」

「ねえ、何か用があるから呼んだんじゃないの?」

「そうなんやけど……ちょっとくらいならいいんやない?」

 

真姫としては少し肌寒いので風を気持ちいいとは感じられないのだが。それでも希が気持ちいいのなら少しくらいはいいだろうと思って、別にいいけどと小さく答える。

その真姫の様子に希は笑みを見せる。

 

「やっぱり真姫ちゃんは優しいね。」

「そんなこと……」

「ちょっと寒いよね。早く話すことにしよか。」

 

気が付いていたらしい希はそう言って笑うと、真剣な表情に変わって口を開く。

 

「真姫ちゃん、うちな、謝らなきゃいけないことがあるんよ。」

「謝る?」

「うん。」

 

希の言葉に真姫が聞き返すと、希は自嘲気味に少し笑う。彼女にはあまり似合わないその笑みのままに希は言う。

 

「うち、気が付いてたんよ。真姫ちゃんが何かに悩んでることも、鷹也くんが何かに悩んでることも、ことりちゃんの様子がおかしかったことも、穂乃果ちゃんの無茶にも。」

 

ずっと違和感を感じていたのに無視してたの。そう希は言う。

気づかれていることは分かっていた。希は時々こちらを気にしてくれていたし、視線をよく向けてくれてもいた。でも、ほかの全部にも気が付いていたとは思っていなかった。

 

「うちが何かもう少し行動を起こしていたらこんなことにはならなかったかもしれない。だから、ごめんね。」

「別に希が悪いわけじゃ……」

「誰の責任でもない。それでいいのは分かってるんよ。でも、うちが何もできなかったのが原因の1つなのは変わらない。」

 

真姫の言葉をさえぎって希は言う。その眼には後悔や悲しみなどの様々な感情が見て取れて。

 

「昨日も鷹也くんに会ったから、色々伝えたかったんやけど、何も言えなかった。」

 

その悲しみは、どれほどのものか。真姫には痛いほどわかる気がした。自分はいろいろ気が付いていながら、何もできなくてこんなことになってしまった。そのくせ改善のためにも動くことができない。

希と真姫ではいろいろと詳細は違うかもしれない。でも、真姫にはその気持ちが理解できる気がした。

 

知ってしまったら動けるわけじゃないのだ。

知ってしまったからこそ動けなくなる。

動けなくなるからどんどん苦しくなる。

 

立ち止まってしまっている自分と希。同じような状態だからこそ何も言えない。自分の感情が暗く、重くなっていくような感覚。同じような感覚を共有している人に出会って自分の感覚を見つめなおしてしまったがゆえにこころがより締め付けられる。

うつむく真姫は小さく口を開く。

 

「もう……何もできな……」

「でもね、まだ諦めたくないんよ。」

「え…………」

 

希の言葉にパッと顔を上げる。そこにいる希の表情は何かを決意したようなもので、その表情に驚きを隠せない。

希はまだあがこうというのだろうか。心が壊れそうで、苦しくて、つらくて。でも、まだ動こうというのだろうか。

 

「諦めたくない。うちはまだ頑張りたい。」

「どうして……」

「え?」

 

希の決意に対してつぶやくも、希には届かなかったようで。真姫はこらえきれずに少し大きな声で言う。

 

「どうして頑張れるのよ?どうして……まだ何とかしようと動けるのよ?」

 

苦しくて、つらくて、悲しくて、悔しくて。状況は絶望的で。それでも希は動こうとする。それが理解できなくて。

一度言葉を発したら止まらなくなる。

 

「なんでこの状況で頑張ろうと思えるのよ!!もう……どうしようもないじゃない!!」

 

止まらない。希の顔も見ずに真姫は言葉を吐き出す。分かっている。こんなの八つ当たりだ。だから目をつぶって、下を向いて。声を出し続ける。

 

「鷹也は問題を抱えてて!穂乃果はスクールアイドルやめるって言ってて!ことりは留学でいなくなっちゃって!!」

 

みんなバラバラになっている。ことりはもう戻ってこない。穂乃果もあの様子ではどうすればいいのか分からない。

 

「それに気が付いててもなにもできなかったのよ!?大丈夫って言われて、それを信じて!見て見ぬふりをして!」

 

そもそも大丈夫なわけがないのだ。実際にこんなことになって。あの顔を見ていれば分かり切っていたのに。ことりが、鷹也が大丈夫ではないことなんてわかりきっていたのに。

無理をしている“大丈夫”の裏にあるのが、“助けて”であることなんてこと早く気が付くべきだったのに。

自分の都合で、自分の弱さで、言葉の意味を深く探ることを放棄した。言葉を鵜呑みにして何もしなかった。

 

「せめてみんなに相談すればよかった、みんなに気が付いてもらえるようにすればよかった。でも、私はそのどれも、何もできなかった!!!」

 

何かあるのに気が付いていたのは自分だ。気が付いていながらも動かなかったのは自分だ。この居場所を、みんなの居場所を壊したのは……

 

「私が壊したのよ!!みんなの居場所を!!!」

 

罪悪感で心がおかしくなりそうだった。

昔の鷹也に対する自分の身勝手な期待。期待が壊された瞬間に自分が思う正しさを貫けなくなった弱さ。弱くなったことで鷹也の本質が正しくないと思っても、理想を押し付けることが怖くなってしまい、何も言えなくなった弱さ。ことりの様子がおかしいことにも自信が持てなくなり、ことりが隠そうとしているならばと黙っていた自分の意思の弱さ。穂乃果のオーバーワークに気が付くことができたはずなのに目を逸らした弱さ。大丈夫という言葉を、自分の都合で鵜呑みにした自分の弱さ。

すべてが嫌になる。すべてが大嫌いな醜い自分。

 

「私が悪いの!!私が弱くて……私が大嫌いな私のせいで……」

「真姫ちゃん」

「私が……ぁ」

 

想いのままに言葉を吐き出そうとしたところで、不意に体が優しく包まれた。一瞬の混乱の後、頭の上から聞こえてくる希の声で抱きしめられていることに気が付く。

 

「つらかったんやね……今まで何もできなくてごめんね……」

「あ……ちがう……違うの……私が……!!」

「真姫ちゃんは悪くないよ。」

 

優しく、大切に紡がれた希の言葉に甘えそうになる。希の包み込むような優しさに、寄り添ってくれる心に近づきたくなる。でも、それは自分に許されることではなくて。しかし、突き放そうとする真姫を希はぎゅっと抱きしめて離さない。

 

「真姫ちゃんだって何かに悩んでたんやから仕方ないよ。真姫ちゃんは悪くないよ。」

「でも……でも……!」

「真姫ちゃん、大丈夫。誰も責めてなんかないよ。誰も悪くない。だから真姫ちゃんがそこまで思いつめんでもええんよ。」

 

希はそう言って、少し真姫を離すとその顔をのぞき込んで笑う。

 

「みんなそれぞれが気が付けなかったんよ。うちらだって真姫ちゃんの悩みに気が付けなかったり、気が付いていても何もできなかったんやから。」

 

優しい笑みに心が揺さぶられる。なんでも受け入れてくれるような気になる。そんな笑みのままで希は言う。

 

「だから真姫ちゃんの悩みも聞かせて?なんで悩んでいるのか。みんなが1人で抱え込んでいたから駄目だったんよ。だから一緒に。一緒に頑張ろう?」

 

『私もそばにいるよ。だから大丈夫だよ。』

『何かあったら頼ってもいいのよ?』

『できることがあるなら言いなさいよ。しょうがないから手伝ってあげるわよ。』

『凛とかよちんだけじゃなくてみんないるよ。にこちゃんも希ちゃんも絵里ちゃんも海未ちゃんもことりちゃんも穂乃果ちゃんも鷹也くんも!』

 

 

頭に言葉が響く。みんなが言ってくれたこと。胸が痛む。しかし、その奥に温かい感情があるのに気が付いてしまって。

 

「なんで……」

「ん?」

「なんで……みんなそんなに優しくしてくれるの?」

 

何も言わない自分。明らかに様子がおかしくて、それでも何も言わずに、何も聞かずに手伝ってくれると言ってくれた。大丈夫だと言ってくれた。何かあるなら言ってと無理に聞き出そうとせずに。本当なら自分のことで精いっぱいのはずなのに。自分はみんなに優しくする余裕なんて全くないのに。

真姫の言葉に、疑問に希は少しキョトンとしてから微笑む。ふわりと花が開くような、優しい笑み。

 

「そんなの大切な友達だからに決まってるやん?」

「あ…………」

 

その単純な理由に真姫は何も言えなくなる。友達だから。それは自分だけの世界に閉じこもることの多かった真姫にとって新しい理由。とても不明確な根拠の乏しい理由だけど、どこか温かい気持ちになれる理由。

希は何も言えない真姫に対し、少し考えてから口を開く。

 

「実はね……真姫ちゃんのこと、凛ちゃんと花陽ちゃんに頼まれたんよ。」

「凛と花陽に……?」

「うん、真姫ちゃんのこと助けてほしいって。」

 

不意に出た名前に驚く。同じ学年の、こんな自分の世界に踏み込んできてくれて、仲良くしてくれる2人。いつも自分のことを気にしてくれる2人。

 

「本当は自分たちで何とかしたかったけど、自分たちじゃあうまく真姫ちゃんに話を聞けなかった。だから待つんだって。真姫ちゃんとかみんなが帰ってくる場所を、μ’sの活動を守るんだって。」

 

置いて行かれたと思っていた。あの2人は強くて、まっすぐ前を向いて進んで、変わっていけるから。でも、

 

「……私……何も言えなくて……!!!」

 

でも、引っ張ってくれていたのだ。そばにいてくれたのだ。優しくこちらに踏み込もうとしてくれて。それを拒絶されてどれだけ悲しませたのだろう。それでも2人は自分を見捨てないで、手を引いてくれていた。

それに気が付かずに自分は今まで、凛と花陽に何も言えずにいて。どれだけ悲しませたのだろう。そこまで力になろうとしている人に何も言わずにいて。

 

「私だけ自分のことばかりで……」

「じゃあ、ここからはどうするん?」

 

希が問いかけてくる。優しく、優しく問いかける。

 

「凛ちゃんと花陽ちゃんは待ってくれてるよ。じゃあ真姫ちゃんはどうするん?」

「私は……」

 

何も言えないでいた罪悪感は消えない。自分がこの状況を生み出してしまったという想いも消えない。優しくされることに胸が痛むのもまだ消えない。でも、その奥の温かい感情に気が付いてしまった。

胸の痛みは罪悪感からだけくるものじゃなかったのだ。こんな状況の原因の自分をみんなが受け入れてくれるのかという不安。心の奥の温かい感情はきっと受け入れてもらえた喜びの温かさ。自分が感じてはいけないと思ってしまうような感情。

 

「まだ……間に合う?」

「偉そうに色々言ってるけど……実はうちも昨日はちょっと諦めそうになってたんよ。だから、ここから一緒に頑張りたいな。」

 

少し残った不安は、恥ずかしそうに笑う希によって乗り越えるよう後押しされる。

信じてみよう。自分の揺らいでしまった本質ゆえになにも言えないのなら、鷹也の本質を正しくないと自信を持って言えないのなら、理想を押し付けているだけかもと思うのなら。

みんなに相談してみて、そしてその答えを信じてみよう。

『友達』を信じてみよう。

自分はまだ弱い。でも罪悪感は、不安はきっと目の前の友達が乗り越えられように後押ししてくれる。

真姫はゆっくりと口を開く。

 

「希……相談したいことがあるんだけど……いい?」

「うん、任せて。」

 

 

―――――だ・い・じ・ょ・う・ぶ・だ・よ!!

 

朝に形だけしか届かなかった声が、凛と花陽の声が今になって届いた気がした。

 





はい、いかがだったでしょうか。

今回のμ’sの問題は誰が悪いわけでもないですが、だからこそそれぞれが罪悪感のようなものを感じざるを得ないのだと思います。
それにプラスして鷹也とのことがある真姫はきっとかなり悩んだはずです。
でも、その悩みを一緒に解決してくれる人たちがいる。友達がいる。真姫の救いはそこにあります。

色々と鬱展開を詰め込んだせいで後半に行くにつれてうまく書けなくなり、だらだらと話が進まなくなっている感が否めないですが、それでも最善は尽くしていきたいと思うのでこれからもよろしくお願いいたします。

それでは感想・評価もいただけると幸いです。
次回もよろしくおねがいします。
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