小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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前回投稿の週末には投稿しますとは何だったのか。
だいぶ遅くなりました。番外編です。

今回は夏祭りの話です。
好き勝手に書いたわりにうまく書くことができずにちょっと時間がかかってしまいました。

遅くなった分、少し長めということで16000文字ほどの文量になっています。
キャラ崩壊など、多分に含むと思いますが大目に見てやってください。

それではごらんください。


番外編:彼と彼女たちの夏祭り

「はい、今日の練習はここまで。みんなお疲れさま。」

「終わった~!!ことりちゃん飲み物ちょうだ~い……」

「あ、うん。ちょっと待ってね。」

 

鷹也が手を叩いて練習の終わりを合図すると、穂乃果が両手を上げて倒れこんでことりに飲み物を催促する。その様子に海未が小言を言おうとしているのに苦笑しつつ、鷹也もほかのメンバーに声をかけていく。

 

「ほら、みんなもちゃんと水分補給して。結構動いたし。」

「もうなんなのよ、この気温~……」

「まあ夏やしね~……」

「あっついにゃ~……」

 

タオルで汗を拭きつつ、冷たい飲み物の入ったペットボトルを頬に充てて何とか涼もうとしているにこが言うのに、希と凛が同じく頬にペットボトルを当てつつ答える。

現在は練習終わりの夕方とは言うものの、そこまで涼しくはなっていない。夏、絶好調である。

 

「ほら、みんなちゃんとストレッチしないとだめよ。」

「うぅ……ストレッチしたらまた体温まるにゃ~……」

「まあ、ストレッチってそういうもんだしな。」

「凛ちゃん。日陰で一緒にやろう?」

 

絵里に促され、がっくりと肩を落とした凛が花陽と一緒に日陰に避難していくのをきっかけにみんなで日陰に移動してストレッチ。鷹也もことりの背中を押したりして手伝う。

 

「それにしてもすっかり暑くなってきましたね。」

「夏……夏……」

「穂乃果?」

 

海未の言葉に何かぶつぶつとつぶやき始めた穂乃果に対し、変なものでも見るような目で真姫が声をかける。その声に反応した穂乃果はう~ん……と悩みつつ口を開く。

 

「夏といえば何があるかなって!せっかくの夏だもん、楽しまなくちゃ!!」

「おぉ……さすがというかなんというか……」

「穂乃果ちゃんらしいね。」

 

穂乃果の言葉に小さく感想をもらし、ことりとともに苦笑する。暑い暑いと文句をつけて駄々を捏ねているだけではなく、ポジティブに考え直していくのは穂乃果らしい部分だろう。

そんな穂乃果の様子にみんなも少し考え込む。

 

「う~ん……夏かぁ……海とか!!」

「海は合宿でいったでしょ。」

「じゃあ……プール?」

「似たようなもんじゃない……」

 

真っ先に考えを口にしていく凛に真姫があきれたように返している。真姫の言うことはもっともでもあるのだが、凛としては自分の意見を否定されて面白くはないのだろう。頬を膨らませて真姫に向かって言う。

 

「むぅ……じゃあじゃあ真姫ちゃんは夏にいつもどんなことしてるの?」

「え?そうね……海の近くの別荘に旅行……とか?」

「ほら結局合宿と同じにゃ!!」

「いつもしてること聞かれたから答えただけよ!凛の聞き方の問題じゃない!!」

「あはは……っていうか真姫がいつもあの別荘に旅行してたところにお嬢様を感じるな……」

 

凛と真姫の会話と真姫の答えに苦笑しつつ、鷹也は夏かぁと少し考える。するとそこでふと思い出した。

 

「夏といえば……今日って確か夏祭りあるんじゃなかったっけ?」

「そういえば……特に行く予定もなかったけど夏っぽくはあるわね。」

「完全に俺も忘れてたんだけどね。今日大学の友達から連絡来てたんだよ。」

「えー!鷹也くんだけ夏祭り行くの!?ずるい!!」

「そうじゃないよ。ちゃんと話聞け。」

 

駄々を捏ねる穂乃果を落ち着かせてから説明をする。今日の朝に和樹から連絡が来ていたのだ。一緒に行かないかという誘いはμ’sの練習があったので断ったのだが、その際にあることを教えてくれた。今年の夏祭りはいつも通りに出店やちょっとした打ち上げ花火などがあるのに加えて、もう1つメインとなるイベントがあるらしい。

 

「で、それが飛び入り参加も可のステージイベントってわけ?」

「そういうこと。今日の朝まで俺も知らなかったし、そんなに大きなイベントでもないから急に無理して出なくてもいいかなとは思ってたんだけど……」

 

にこが聞いてくるのにも答えつつ説明を終え、チラリと視線を横に向ける。そこには

 

「夏祭り……!!」

「ライブ……!!」

 

と目を輝かせる元気っ娘が2名。小さくため息を吐き、諭すように告げる。

 

「さっきまで暑いって言ってダレてた筆頭の2人が何を言う気だ?」

「いやぁ~暑さなんて気になんないよね!凛ちゃん!!」

「うんうん!むしろちょっと涼しいくらいにゃ!!」

「欲望に忠実やなぁ、2人とも」

 

急に元気になる穂乃果と凛に希が苦笑している。それでも簡単に決めていいことでもないので、少し落ち着けと言って鷹也は話し始める。

 

「別に出るなとは言わないよ。ただ最近暑くなってきて練習もそれなりにハードになってきてる。練習日程を今日に合わせてるわけでもない。無理に今日のイベントに飛び入り参加して調子崩されても困るんだよ。」

「ええ~!!ライブやる機会なんてそんなにないんだよ!?」

「だからこそだっての。ここで無理してやって、これからに支障きたしたらそれこそ取り返せないぞ。」

「う……それは……」

 

言葉に詰まる穂乃果に対して、鷹也は続ける。特に大きなイベントということでもない。ラブライブに向けてのアピールに重要かと言われれば怪しいところ。無理をした時のリスクとリターンを比べたら、鷹也としてはリスクの少ないほうをとりたい。けれど、リスクが大きいだけでカバーは可能でもあるために無理やり止めるということまでする必要はないわけで。彼女たちの選択を自分が決める気はない。

 

「まぁ……無理に止めはしないよ。ある程度完成している曲なら別にパフォーマンスに問題はないし、1曲くらいなら体力的には何とかなるだろうし。ただ、出るにしてもちゃんと考えてから出るって決めること。」

「そうですね……私も無理に出る必要もないとは思いますけど……」

「海未ちゃんまで~……」

「でも……」

 

忠告として自分の意見を伝えてから、少し考えていた様子の海未に視線を向けると海未はそう言ってから、穂乃果の落ち込んだ様子に小さく笑う。

 

「まあ、出ないって無理やり止める理由もないですね。」

「海未ちゃん……!!」

「どうせ夏祭りの会場には連れていかれるんでしょうし……そこまで行ったらみんなに任せます。」

「はいはいはーい!!凛はライブしたい!!」

 

海未の言葉に真っ先に反応したのは凛。そして1番ライブに反対すると思われた海未が反対しなかったということはほかに反対を明言する人もいないわけで。みんなのやる気満々の表情に苦笑し、絵里が決まりねと言って話し始める。

 

「じゃあ曲と衣装はどうするの?曲は今までやってきた曲から1、2曲選べばいいとして、衣装は……」

「あ、衣装は最近これからのライブで使えるかもって思ってた浴衣の衣装があるよ。」

「本当?ことりちゃんさすが!!!」

「えへへ……」

 

大喜びでことりに抱き着く穂乃果。そういえば最近もことりは衣装づくり進めてたなと思いつつ、完成していたんだと感心する。この様子だといくつかのパターンのストックもあるのだろう。こうして衣装問題も解決。曲もこれまでの曲から2曲選ぶ。

楽しみ~などと言ってはしゃぐ穂乃果を落ちつけつつ、鷹也はみんなに声をかける。

 

「よし、じゃあ出るってことで連絡まわしてみる。出るんならしっかり全力でやること。今日のライブがあったからって明日からの練習でだらけないこと。いいね?」

『はいっ!』

 

こうしてμ’sの夏祭り参加が決定した。

 

 

 

 

 

☆彼と彼女たちの夏祭り☆

 

 

 

 

 

「ことりー行くぞー!」

「はーいっ!」

 

鷹也は玄関から部屋にいることりに声をかける。格好は適当な私服。夏祭りだからって気合入れて浴衣着るような性格でもない。手にはみんなの衣装が入った袋。返事が聞こえてきてから少しの間があって、ことりの部屋からひな子とことりが出てくる。

 

「お兄ちゃん、お待たせ」

「ん、着付けはちゃんとできた?」

「私がやったからばっちりよ。」

 

にっこりと微笑むことりの格好は浴衣。髪もいつもと違って編み込みを入れて、一部まとめてお団子のようにしている。そのいつもと違う様子に鷹也も微笑みつつ、ひな子の言葉に苦笑する。

 

「母さん、何年か前にことりの浴衣の着付けにものすごい時間かかった挙句できなかったことあるじゃん。結局穂乃果のお母さんに頼んでさ。」

「あ、あれは忘れなさい。今は勉強したから大丈夫よ。」

「あはは……お母さん、あれからしばらく着付け方書いたサイトとにらめっこしてたもんね。」

 

ありがとねと笑うことりに、もういいから行きなさいとひな子がことりの背中を軽く押す。その頬が少し赤くなっているのに苦笑しつつ、鷹也はドアを開いて振り返る。

 

「じゃあ行ってくるね。」

「ええ、楽しんでらっしゃい。みんなのことちゃんと見ててあげるのよ。かわいい子ばっかりなんだから。」

「了解。」

「お母さんにお土産買ってくるからね。」

「ふふっ楽しみにしてるわ。いってらっしゃい」

「「いってきます!」」

 

 

 

 

 

「たっかやくーん!!早く早くー!!」

「ことりちゃんも早く行くにゃー!!」

 

待ち合わせ場所である夏祭りの会場の入り口あたりにつくと、すでにそこにはメンバーが全員そろっていた。みんな浴衣を着てきていて、かなり楽しむ気が満々の様子だが、その中でも穂乃果と凛は特別楽しみにしていたようで、遠くに鷹也とことりが見えた時点で大きく手を振っていた。その様子に慌てて絵里が2人を止める。

 

「ちょ、ちょっと2人とも!周りにいっぱい人いるんだからあんまりはしゃぎすぎないの!」

「そうですよ、凛も穂乃果も。今日はライブもあるのですから。騒ぎすぎて気を抜かないよう……」

「到着早々なんだこの状況……」

「2人とも本当に楽しみにしてたみたいだね。」

 

絵里の言葉に賛同し、穂乃果と凛に小言を言い始める海未を見て、鷹也は苦笑い。とりあえずは海未にお話しされている穂乃果と凛の視線を受け流し、海未をなだめるのはことりに任せて、ほかのメンバーに声をかける。

 

「遅れてごめんな。」

「ううん、うちらもさっきみんなそろったとこやし。」

「それよりごめんなさい、衣装の持ち運びを全部任せちゃって……」

「いいよいいよ。こういう時のための俺だし。」

 

謝罪の言葉に優しく微笑んでくれる希にありがとと言いつつ、申し訳なさそうにしている花陽に向かって荷物を持ち上げて大丈夫とアピールして見せる。実際にこういう力仕事や雑用をするためのサポートでもある。

 

「一応この衣装はことりがちゃんとサイズを測って作ってはいるけど、まだ着たことはないんだよね?」

「ええ、まだね。」

「なんなら見たこともないけど。」

「そっか。じゃあ少しだけ早くステージのほうに行かなくちゃいけないとして……」

 

確認に答えてくれた絵里と真姫の言葉に頷きつつ、予定を頭の中で立てていく。そこでチラリと視線を横に向ける。そこにはことりによってなだめられた海未の横で期待に満ちた視線を送ってくる凛と穂乃果。ちなみになんだかんだで食べることが好きな花陽や性格上祭りを楽しみにしているだろうにこからも期待の視線が送られてきているのには気が付いている。

 

「まぁ……いいだろ。しばらく自由時間にしよ。」

「「「やったー!!!」」」

 

その視線に負けたわけでもないが、鷹也はそう言って歓声をあげる穂乃果と凛とにこを笑って眺める。どうせステージまではだいぶ時間に余裕を持って集合している。飛び入りだからリハをできるわけでもないし、音楽を流すタイミングなどに関しての打ち合わせは自分がいれば十分だろう。

とりあえず騒ぎすぎそうなメンバーに向けての念押しも込めて確認だけはと思って口を開く。

 

「ただし、ちゃんと時間にはステージのところに集合すること。いいな?」

「はーいっ!凛ちゃん行こうっ!夏が、祭りが私たちを待ってるよ!!」

「うんっ!!いっくにゃー!!」

「ちょっと待ちなさい!にこをおいていくとかありえないでしょ!!」

「あ!穂乃果!凛!にこ!!勝手に先に行かないでください!!」

「……聞いてたか?あの3人……」

「あはは……聞いてた……と思いたいね……」

 

 

 

 

 

事態は一刻を争うのだ。早く、早く行動しなくてはいけないのだ。

隣にいる穂乃果と頭を悩ませる。深刻な問題だ。こればっかりは妥協してはいけない。

 

「うんっ!決めた!!」

「穂乃果ちゃん……どうするの?」

「私が焼きそばとたこ焼きと焼き鳥買ってくる!!」

「そ、そんな!!!無茶にゃ!!」

 

決死の表情で宣言する穂乃果の浴衣の袖をつかむ。ちなみに自分も浴衣を着ていて、こんな女の子みたいな恰好で少し恥ずかしいのだが、今はそんなこと考えている余裕はない。何とか穂乃果を思いとどまらせようとする。

 

「いくら穂乃果ちゃんでもその人気で列ができる3つを同時には無茶にゃ!!」

「凛ちゃん……大丈夫だよ。大丈夫だから凛ちゃんは……リンゴ飴とチョコバナナとわたあめをお願い。……信じてるからね。」

「穂乃果ちゃん……でも……でも……!!」

 

真剣な表情の穂乃果に何も言えなくなる。確かに穂乃果の考えは正論だ。デザートはデザートで分けたほうが、手に直接持つことの多いリンゴ飴やチョコバナナを一緒に持てて楽にはなる。でも違う。そういう問題じゃないのだ。信じてると言われたように自分も穂乃果のことは信じてはいる。でも、そうじゃない。

 

「じゃあ……行ってくるね、凛ちゃん。」

「穂乃果ちゃん……」

「また……集合場所で!!」

「穂乃果ちゃーーん!!!!」

「…………えーっと……穂乃果?凛?」

「「へ?」」

 

凛の手を振り払い、穂乃果が駆けだそうとしたときに横から声がかけられる。間抜けな声を出して、立ち止まった穂乃果とともに横を見る。

 

「なにやってるの?というかにこと海未も一緒に駆け出していかなかった?」

「絵里ちゃん?いやぁちょっと何を買いに行こうかなって迷ってて……」

「にこちゃんと海未ちゃんは別のほうに走って行っちゃったにゃ~」

「そうなの……海未だけじゃ大変かと思って追いかけてきたけど正解だったみたいね。」

 

何か真剣な表情だったから何かあったのかと思って焦っちゃったと言って絵里が笑う。その様子にあはは……と穂乃果とともに笑ってごまかしつつ、目を合わせて計画を変更する。このまま穂乃果の負担を大きいままにしておくのは自分としても気が引ける。

その点では追いかけてきたのが絵里でよかったかもしれない。海未だったら手伝ってくれない気がするから。

 

「絵里ちゃん!!」

「な、なにかしら?」

 

真剣な表情で絵里に声をかける。絵里ならばなんだかんだで手伝ってくれるだろう。

自分はデザートを全部引き受ける。それくらいならできる。だから、だから穂乃果の負担を減らしてほしい。

 

「絵里ちゃんは焼きそばをお願い!」

「え、えっと……やきそば?」

「凛ちゃん!それじゃあ凛ちゃんの分が多いままで……」

「大丈夫にゃ!」

 

穂乃果が止めようとしてくるのに笑顔を見せる。結局自分が買いに行くのは回転が速く、列ができづらいデザートばかり。何とかなる。

穂乃果はまだ何か言いたそうだったが、自分の表情を見て無理やり納得してくれたようで頷いてくれる。

 

「……分かったよ。ちゃんと待ってるからね。絵里ちゃん焼きそばはお願いね!!」

「え、え?ちょっと穂乃果?説明を……」

「絵里ちゃん!穂乃果ちゃん!信じてるからね!!」

「ちょっと凛!?」

 

穂乃果と目を合わせてしっかりと頷き合ってから駆け出す。時間がない。集合時間までに目標を完遂しなくてはいけないのだ。躊躇している時間はない。穂乃果が声をあげるのに合わせて声をだす。

 

「目指せ!祭りの出店完全制覇!!」

「にゃ~!!!」

 

「ちょっと凛!穂乃果~!!」

 

絵里が後ろから何か言っている気がするが気にしない。信じてるからね、絵里ちゃん!

 

 

 

 

 

「えっと……ステージはあっちか。」

「そうみたいやね。じゃあいこっか。」

「うんっ!」

 

小さく自分の中での確認としてつぶやいたつもりの声に返事が返ってきたことに違和感を覚えつつ、鷹也は隣に視線を向けつつ歩き始める。

 

「3人とも、遊んできていいんだよ?ついてきても時間余ってるし。」

「でもあんまり遊んでもライブ前に疲れちゃうかなって……私、体力ないですし……」

「花陽ってそこまで祭りではしゃぐイメージもないんだけど……まあ、確かに歩き回るのが祭りの定番だしね。それだけで少し疲れるか。」

「うちも楽しみたいとこやけど、ライブ前に疲れすぎるのもいけないしね。ステージに行く途中までで出店によろうかなって。」

「お兄ちゃんだけ遊べないのも不公平だもんね。一緒に行きながらあそぼ?」

 

花陽と希の理由に納得しつつ、ことりの言葉に苦笑する。正直に言えば、自分も祭りではしゃぐタイプではないので別に不公平も何もないのだが。どうせこうなってしまったらこの少女たちは自分についてくるのをなにを言ってもやめないだろう。

 

「わかったよ。じゃあ適当に見て回りながら向かおうか。」

「うんっ!!」

「とは言っても……お祭りって色々あって何しようか迷うんよね。」

 

歩きつつ、あたりを見渡す希はそうつぶやく。まあ確かに悩むところではある。今見える範囲だけでも、金魚すくいに射的、焼きそばにたこ焼きに焼きトウモロコシに焼き鳥などなど。遠くにはお面を売っている出店も見える。

 

「う~ん……あ、くじ引きがあるよ?」

「ああ、あのひも引くやつ。」

「わぁ~かわいい人形がある~!」

 

そんな中で花陽が見つけたのは糸引きくじ。何本ものひもがそれぞれ景品につなげられている。その景品の中のぬいぐるみにことりが食いつき、きらきらとした目でその景品を見つめる。アルパカのもこもこのぬいぐるみで、ことりの好みではあると思うのだが無数の景品の中でそのアルパカは2つのみ。

 

「やめときなよ。ああいうのって大抵は本命の景品にはひもつながってないもんだって。」

「そ、そんなことないと思いますけど……」

「そんなことあるんだって。どうせ引いても当たるのはエアガンとかだよ?エアガン買ってどうすんのさ。」

「それは確かに困るかも……」

 

まあ全部の屋台がそうだとは言わないが、そういうことをしている屋台があってもおかしくないのではという話だ。それにそう思っておけば無駄にくじを引いてがっかりすることもない。鷹也の言葉に納得しつつも、ことりはう~ん……と悩まし気な視線を景品のアルパカに注いでいる。ことりの好きそうな景品だし、諦めきれないのだろう。その様子に苦笑しつつ、しょうがないし一回だけ……と口を開こうとしたところで、もう1人の少女がひょいっと前にでる。

 

「おじさん、1回やってもいい?」

「お、かわいい子だね!!よし、1回本当は200円だが……うん、特別に2回いいぞ!」

「おお!太っ腹やん!」

「ちょ、ちょっと希?」

「まあまあ。うちがお金出すし、いいやん。」

 

そういって希はお金を払うと、特に悩むことなく目の前のひもを2本引く。その様子にため息をつきつつ、まあ別に無理して止める理由もないしと思っていると、隣のことりがあっ!と声をあげる。

 

「アルパカさんだ~っ!」

「し、しかも2つとも!希ちゃんすごい!」

「は?え??」

 

ことりと花陽の言葉に驚きつつ、鷹也が視線をひものつながっているボックスの中に向けるとそこには確かにひもにひかれているアルパカの人形が2つ。

驚いているこちらを気にもせずに、希は笑顔で屋台のおじさんから景品を受け取る。

 

「お嬢さん、すごい運いいねぇ~……2回やらせたの間違いだったな……」

「あはは……うち、運だけはいいんよ。今からでも2回分のお金払ってもいいんやけど……」

「いいよいいよ。最初にサービスするって言ったしな。持ってきな。」

「いいん?ありがとね。」

 

どうやら屋台のおじさんもいい人だったらしく、希は最後にもう一度お礼を言ってからこちらに戻ってくる。呆気に取られているこちらの様子に微笑みつつ、希はことりと花陽に景品のアルパカ人形を差し出す。

 

「はい、うちは家にクッションとかいっぱいやしもらってくれん?」

「え?いいの?」

「欲しそうやったしね。衣装づくり頑張ってくれてるお礼。花陽ちゃんも毎日アルパカさんのお世話ごくろうさま。」

「ありがとう~!!」

「うわぁ……うれしい!希ちゃん、ありがとうね。」

「うん、どういたしまして。」

 

うれしそうにぬいぐるみを抱きかかえることりと花陽に微笑みつつ、希が鷹也の様子に気が付いて笑う。

 

「どうしたん?鷹也くんも欲しかったん?」

「そんなわけないでしょ。いや……なんていうかさすがだなって。」

「スピリチュアルやろ?」

「そうだね。」

 

悪戯っぽく微笑む希に苦笑して答える。なんというか不思議な子だが、希ならこのくらい当然だと思ってしまうところもあるからすごい。

そこでことりが思い出したというように口を開く。

 

「あ、そういえばあたり普通にあったね。」

「おじさーん!ごめんなさーいっ!!」

「た、鷹也さん?おじさんには聞こえてなかったし何のことか分からないんじゃ……」

「お、おう?気にすんな!!そこのお嬢さんたちのことちゃんと楽しませろよ!!」

「あははっあのおじさんいい人やな~……」

「いい人過ぎて申し訳なさ倍増したよ……」

 

 

 

 

 

目の前には大きな人だかり。いや、大きいというのは語弊がある。目の前には小さな集団。小さなというのは集団の規模のことではなく、集団の構成員のことである。

そんなどうでもいいことを考えつつ、海未はため息をついてこの状況をどうしようかと考えるも、特にいい案は思い浮かばない。

 

「うわぁ~!お姉ちゃんすごいすご~いっ!!」

「ふふん、このにこにーに不可能はないのよっ!!」

「なにそれ。イミわかんない。」

 

人だかりの向こうには得意げなにこの姿とあきれたようにつぶやく真姫の姿。ここまではいつも通りであるし、これだけならば店の迷惑になる前にこの場を去らせることができるのだが、ここからがいつも通りではないのだ。

 

「あっれぇ~真姫ちゃん、何か言ったぁ?それよりもまだ取れてないのぉ~?」

「う、うるさいわね!!今からとるところよ!!」

「だってぇ~真姫ちゃんってばさっきもそう言ってたしぃ~。ねえ、みんな~?」

『言ってた言ってた~!!』

「う、うぅ……見てなさいよ……!!」

 

いつもならば軽く受け流す真姫がいいように言い負かされている様子に再び小さくため息をつく。珍しい光景ではあるが、この状況ならば仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

申し訳程度に人込みの向こうの真姫に声をかける。迷惑かもしれないと思い、屋台のおばあちゃんには謝っておいたのだが、屋台のおばあちゃんも微笑んで許してくれたので強く言うわけにもいかない。

 

「真姫、そろそろ諦めたらどうですか?これ以上やっても……」

「これからとるって言ってるでしょ!!見てなさい……あっ……」

「あっれぇ~?また破けちゃってるよぉ?」

「だから言ったじゃないですか……」

「ま、まだよ!おばあちゃん、もう一枚ちょうだい!!」

「はいはい。頑張ってね。」

 

おばあちゃんに100円を渡して、もらった薄い和紙の貼ってあるポイを片手に真姫は水面を睨み付ける。その水のなかでは金魚が真姫を意にも介さずにゆったりと泳いでいる。

真姫の負けず嫌い精神に火がついてしまっている様子に三度ため息をついた海未はおばあちゃんにすみませんともう一度頭をさげる。

にこに追いつき、追いかけてきた真姫も加えて一緒に祭りを見て回っていた。普通に平和に見て回っていただけだったのだ。でも、ちょっとした遊びのつもりでやった金魚すくいがこんな事態に発展した。

 

「お姉ちゃん、頑張れ~!!」

「わ、分かってるわよ!」

「真姫ちゃん、にこが教えてあげようかぁ?」

「いらないわよ!!」

 

真姫は子供の声援に振り向きもせずに答え、にこの言葉にはにこを少しにらみつつ答える。

本当ならば平和に終わるはずだった金魚すくい。だが、海未が平凡に数匹すくっておばあちゃんに飼う場所もないからと言って破れたポイとすくった金魚を返した後、にこが金魚すくいで才能を発揮。どんどんと金魚をすくうのを見せつけたのだ。その様子に気が付き、いつの間にかにこの周りに小さい子たちが殺到。そのことに気をよくして、面倒見のよい面があることもあってにこが子供たちに教えつつ金魚すくいを始めた。

そこまではよかったのだが、その横でもう1人の少女が固まったままで動かないのに海未は気が付く。無言で破れたポイを見つめていた真姫にどうしたのかと聞くも、真姫はなんでもないわと言いつつおばあちゃんに追加のポイを要求。そこでにこが気が付いてしまう。

 

『真姫ちゃん……もしかして1匹もすくえないのぉ?』

『そ、そんなわけないじゃない!こんなの簡単よ!』

 

その真姫の反応と手元にある1匹も金魚の入っていないお椀が答えを言っているようなものだ。まあ、真姫のめったにない弱みをにこが見逃すわけもなく。

 

「ほら、みんなも真姫ちゃん応援しよ?いっくよ~!にっこにっこに~!」

『にっこにっこに~!』

「それ応援じゃないでしょ!やりたいだけじゃない!!」

 

と、こういうわけである。真姫は一体どれだけこの金魚すくいの屋台の売り上げに貢献したのだろう。おばあちゃんの前に置かれた小銭入れはもうパンパンである。いつもの真姫の器用さにしてみれば珍しいが、それだけ金魚すくのようなものに触れてこなかったということでもあるのだろうか。

 

「ほら、真姫。まっすぐ降ろすからダメなんです。こう斜めから狙って……」

「こ、こう……?」

「そうです。それでゆっくりと金魚に近づけて……」

 

見ていられずに海未は真姫の隣に座り込み、アドバイスを始める。にこの時のように拒否せずに素直に言うことを聞いてくれる真姫に微笑みつつ、真姫の動かすポイを見つめる。そしてその下に金魚が来た時に声をかける。

 

「今です!斜めからですよ!」

「え、えいっ!!」

 

珍しいくらいに必死な真姫が声とともに静めたポイは金魚をうまくすくうが、お椀に入らずに水槽の中に金魚は舞い戻る。

それを見つめる子供たちあぁ~っという声を聴きつつ、真姫に視線を向ける。悔しそうな表情をした真姫はすぐに次の金魚を探して視線を水面に向けている。その諦めの悪さに諦めたように微笑みつつ、海未はアドバイスを再開する。

 

「じゃあ、私たちは応援続けましょ!ほら、みんな一緒に?にっこにっこに~!」

『にっこにっこに~!』

「だ~か~ら~!!」

 

 

 

 

 

「まさか教えてもこんなにかかると思いませんでした……」

「しょ、しょうがないじゃない!!初めてだったんだから!!」

 

海未はため息をつきつつ、顔を赤らめつつ言い返してくる真姫の手にある金魚の入ったお椀を見つめる。唯一とれたのはこの1匹だけ。海未がアドバイスを始めてからだいぶたったはずなのだが。

子供たちによかったね!と祝福されて当然でしょとすまし顔で答える真姫を見る。その頬が緩んでいるのを見て、やっぱりうれしかったのだなとつい笑ってしまう。

 

「何よ?」

「いえ、なんでもないですよ。それでどうするのですか?」

「どうするって何を?」

「この金魚ですよ。持ち帰るんですか?」

 

そういえばそうかというような感じで真姫は考え込む様子を見せる。

 

「でも、家に金魚をすぐに飼えるようにする水槽とかはないし……買いに行くとしても明日になっちゃうのよね……」

「じゃあ、ちょっと厳しいですね。」

「そう……よね……」

 

真姫がすこし悲し気な顔をするのに残念ですがと頷く。飼えない以上は持ち帰っても仕方ない。海未の判断は間違っていないと真姫も分かっているのだろう。いつもの表情にすぐに戻っておばあちゃんに金魚をかえそうとする。その時、それを黙ってみていたにこが口を開く。

 

「おばあちゃん、その金魚持ち帰るから袋に入れてくれない?」

「にこ?ですが……」

「1日くらい私の家で預かってあげるわよ。だから、飼う用意をちゃんとすること。いい?」

「え……?」

「返事は?」

「は、はい……」

 

うんと満足そうに頷いたにこは、そのやり取りを微笑んで見つめていたおばあちゃんから金魚が1匹だけ入った袋をもらう。そしてぶっきらぼうに真姫にそれを突き出す。

 

「ほら、あんたがとった金魚でしょ。自分で持ちなさい。」

「え、ええ。分かったわ……」

「さ、そろそろ時間でしょ、行くわよ。」

 

戸惑いつつ金魚の入った袋を受け取る真姫に背を向け、にこはそう言って歩き出す。その背中を見つめて素直じゃないなと微笑みながら、金魚の入った袋を見つめる真姫に声をかける。

 

「よかったですね。」

「……別に、余計なお世話よ。早く行くわよ。」

「はいはい、行きましょうか。」

 

素直じゃないのはこっちもかと思い、屋台のおばあちゃんに視線を向けると、同じことを思ったのだろうなと察して笑いあう。

 

「海未!置いてくわよ!」

「早くしなさいよ。」

「あ、すみません!今行きます。」

 

そんな海未に2人が声をかけ、海未は慌てて屋台のおばあちゃんに一礼すると、2人に追いつくために少し早歩きで歩き出した。

 

 

 

 

 

「はい、2曲やるので15分あれば余裕だと思います。音源は1曲目はこっちで、2曲目はこっちです。かけるタイミングは私が全部やるので、1曲目と2曲目の間に少しMCを挟むことだけお願いしたいです。」

 

そう言って、鷹也は分かりましたと頷いてくれるスタッフの人にもう1度お願いしますと言って頭を下げてから、あたりを見回す。そろそろ集合時間のはずなのだが。

ちなみにことりと希と花陽はそばで衣装合わせをしている。ただ体に当ててみて、大きさは大丈夫かを大まかに確認しているだけだが、最近ことりが全員のサイズを確認したばかりだったはずなので大丈夫だろう。

 

「あ、お兄ちゃん。終わったの?」

「うん、そっちは?大丈夫そう?」

「はい。たぶんですけど、サイズもぴったりだと思います。」

「さすがことりちゃんやね。」

「えへへ……ありがとう、希ちゃん。」

 

花陽と希の言葉に照れたように笑うことりを見て、なんだか平和な3人だよなと思いつつ微笑む。

まあおとなしい花陽とほんわかしていることりとノリが良すぎることがあるだけで基本は大人の希の3人だし、平和なのは当たり前といえば当たり前なのだが。

 

「とーうちゃーくっ!!」

「ミッション達成にゃ~!!」

「……平和って長く続かないよなぁ……」

 

不意に聞こえてきた大きな声に鷹也がため息をつきつつ、声の方向に視線を向けるとそこには片手にわたあめと水風船ヨーヨー、片手にチョコバナナとつかみ取りでもしたのだろうか、子供の持っているようなキラキラの小物の入った袋を持つ凛。そして片手にフランクフルトといちごあめ、片手にたこ焼きなどが入っている袋を下げた穂乃果が立っていた。ちなみに2人とももれなくお面を頭に装備している。

 

「なんていうか……楽しんできたのな、お前ら。」

「うんっ!すっごい楽しかったにゃ!!」

「ずいぶんいっぱい買ってきたんやね~」

「うん、全部回ってきたんだ~!」

「「「え?」」」

 

満面の笑みで答える凛に微笑んでいると希に答えた穂乃果の言葉にみんなの表情がひきつる。確かに規模がものすごく大きい祭りでもない。でも、それなりに出店の数はあるし、そのすべてを回って遊びつくすなんてこの短時間でできることでもない。

 

「ぜ、全部って穂乃果ちゃん……」

「全部回って遊んできたのよ…………」

「え、絵里……?」

 

ことりが恐る恐るというように聞く声に答えたのは、穂乃果と凛の後ろから顔をだした絵里。明らかに疲れている絵里の頭に乗っている狐のお面がなんとも言えない。鷹也が大丈夫かとでも言うように声をかけると、大丈夫よと言いつつ説明を始める。

 

「まず手分けして食べ物の屋台を全部回って全部食べたの。それから射的とかの遊び系の屋台全部を回って……さすがに疲れたわ……」

「なんていうか……お疲れさま。」

「ええ……」

 

楽しかったし、大丈夫よと笑う絵里の顔に多少の疲れが見えることに申し訳なさを覚える。μ’sトップ2の元気娘に連れまわされたら楽しめたとはいえ、体力的には疲れるだろう。

そんな絵里にとりあえずもう少し時間あるから休んでなと言って、ことりたちに戦利品を分け与えている穂乃果と凛にも騒ぎすぎるなよと声をかけようとして、さらに騒がしい集団が近づいてくることに気が付く。

 

「じゃあみんな。にこたちは準備してくるから、応援よろしくにこ!せ~のっ!!」

『にっこにっこに~!』

「うん!がんばるにこ~!!」

 

「……海未、真姫、お前らがいてなんでこうなった?」

「……すみません。」

「私に言わないでよ。」

 

視線の先にいたのは子供の集団を引き連れて歩いてきたにこと真姫と海未の姿。子供たちに声をかけているにこの様子を見つつ、先にこちらに近づいてきた海未と真姫に声をかけるも、海未は申し訳なさそうに謝り、真姫はそっぽを向くのみ。

 

「うわぁ……にこちゃん大人気だね……」

「にこっちはなんだかんだで面倒見いいところもあるし。こどもには好かれやすいんやろうね。」

「まぁ……好かれてるんなら問題ないか。別に何か問題あることでもないし。」

 

花陽と希の言葉に頷きつつ、精神年齢が近いだけじゃないかというおふざけのセリフを飲み込んで納得する。平和で静かだったのは一瞬だったが、これでも特に問題があるわけじゃないし、このくらい騒がしいほうがμ’sらしいかもしれない。

そんなことを思っているうちに気が付けば各々が好き勝手に動き出す。

 

「みんな!せーのっ!」

『にゃんにゃんにゃ~ん!!』

「おぉ……すごいにゃ~!!」

「り、凛ちゃん、そろそろ準備だから……」

「あれ、真姫ちゃん。金魚持ってるん?」

「え、ええ。金魚すくいやってきたの。」

「へえ~かわいい~!!……あれ?でもなんで1匹?」

「べ、別にいいでしょ!あんまり多く連れて帰っても大変だから返してきたの!」

「絵里ちゃん、衣装のことなんだけどサイズ大丈夫か確認してもらいたいんだけど……」

「いいわよ。ええっと……私のはこれ?」

「ことり~!にこの衣装ってこれ?」

「あ、うんっ!今全部出すからちょっと待ってね~!」

 

「……これ、どうやって収集つけよ……」

「……とりあえずは凛を止めてきます……」

「よろしく、俺はほかの子たちを裏に連れてっとく。」

 

あんまり騒がしすぎるのも考え物かもしれない。

絵里が疲れていて、ことりのお願いに答える判断能力しかない以上は海未がしっかりしている子で本当によかったと思う。

 

 

 

 

 

「よっし……準備いいな?」

『はいっ!!』

 

目の前できれいな浴衣の衣装を身にまとうメンバーに声をかける。手にはμ’sの文字とそれぞれの名前が入った団扇を持っている。サイズも全員ぴったりだったようであとはいつものようにライブを行って、全力で楽しむのみ。楽しむのみなのだが。鷹也は苦笑いを漏らして口を開く。

 

 

「それにしても……みんなの宣伝効果ってすごいんだな。」

「え……?」

「今回はにこたちだけだと思ってたんだけどな?ちょっと覗いてみ。」

 

そう言って鷹也が舞台の袖がチラリと見えるようによけてやると、メンバーが全員そこをのぞき込む。その向こうでは、にこが引き連れてきていた子供たちを筆頭に、希が引いたくじ引きの屋台のおじさん。真姫とにこと海未を見つけて微笑んでいるおばあちゃん。凛と穂乃果と絵里に手を振る多くの屋台の人々。

 

「あっ!あそこにチョコバナナ売ってたおじさん!」

「あそこにはリンゴ飴屋さんもいるにゃ!!」

「驚いたわ……みんな見に来てくれたのね……」

「一応の知名度はあるしね。宣伝してくれてるスタッフの人もいるからみんなのことμ’sだって気がついて見に来てくれたんだろ。」

 

笑顔で手を振り返す穂乃果と凛を出番はまだだからと押し込めつつ、驚いたような顔の絵里やほかのメンバーに微笑む。実際に先ほどスタッフの人に今日1番の人出だと言ってもらった。

 

「みんな、ここに集まってくれたお客さんは全員みんなのことを見て、応援したいと思ってくれて、それで応援してくれてる。じゃあそれにはきっちりと返さなくちゃいけないよな。」

「うんっ!頑張らなくちゃ!!」

 

笑顔で頷くことりに、全員が頷く。自分たちに関わった人間が、自分たちのことを応援したいと、見てみたいと思ってくれるというのはどれだけ力になるのだろう。どれだけ温かい気持ちになるのだろう。

あとはその力をライブでぶつけて、みんなに笑顔を返すのみ。

全員のピースが集まって、恒例の点呼がはじまる。

 

「よし!行こう!!」

「みんなのこと、笑顔にするわよ!!」

 

穂乃果とにこがいい、みんながステージに駆け出していく。その背を押して、告げる。

 

「楽しんでこい!!」

『μ’―――――――s!ミュージック―――――――――スタート!!!』

 

歓声が、彼女たちのことを支えたいと、応援したいと思ってくれた人々の歓声が彼女たちを包んだ。

 

 

 

 

 

「楽しかったーーー!!」

 

ライブが終わり、袖に引っ込んできた穂乃果が真っ先にそう言って、みんなが頷く。本当に楽しいライブだった。自分たちのことを応援したいと思ってくれたお客さんたちと一緒に作るライブはとても楽しかった。

笑顔のままで鷹也がお疲れと言いながら近づいてくる。

 

「いいライブだったよ。」

「まぁこのにこにーがいれば当然よね!!」

「あはは……今回はにこっちに強力な応援団がおったもんね。」

 

ふふんと胸をはるにこの言葉にいつもなら誰かが突っ込むのだが、実際に今日はにこが味方につけた子供たちの歓声がかなり大きく聞こえていたので、あまり無下にできもしない。

希が苦笑しつつ肯定してやると、ますます得意げににこが笑う。たぶん本当にうれしかったのだろう。1度アイドル活動を挫折しかかっていたにこにとって、今回のライブの歓声は本当にうれしいものだったはずだ。

 

「さ、感想はストレッチでもしながらいいましょ。とりあえずは着替え……」

 

―――――バーンっ!!!

 

絵里が微笑みながら、ストレッチを促そうとしたときに不意に響く音。その音に真っ先に反応するのは凛。絵里の言葉の途中であるのも気にしないで駆け出す。

 

「あ!花火始まったにゃーー!!」

「ちょ、ちょっと凛!?」

「私も!!」

「あ、穂乃果!!せめて着替えてから……」

「まあまあ、せっかくの浴衣っぽい衣装やしいいんやない?」

「でも……」

「いいからいいから。ほら行こ?」

 

打ち上げ花火の音に駆け出していく穂乃果と凛の後を追いかけることりと花陽とにこを止めようとする海未と絵里に向かって微笑んでから、2人の背中を押してみんなを追いかける。真姫も仕方ないわねとでも言うようにその後ろをついてくる。

 

「鷹也くんも!早くせんと花火終わっちゃうよ!」

「はいはい。」

 

そう鷹也を促し、最初にここで見ると決めていた場所にみんなで到着する。そこから見えるのは大きな光の花。

 

「わぁ~……」

「キラキラにゃ~!!」

「た~まや~っ!!」

 

みんながキラキラとした目で花火を見上げる中、チラリと視線を横に向ける。みんなが固まって花火をはしゃいでみる。そこから少し離れたところで静かに花火を見上げる彼。その横顔が花火が上がるたびに明るく照らされる。

 

「鷹也くん。」

「ん、どうした、希?」

 

そっとみんなと鷹也の間の位置に入り込む。

花火が光る。一瞬で消えるそのはかなさが、きれいさが、なぜか不安に思えた。

 

「ううん。きれいやね~……」

「そうだね。ちょっとした打ち上げ花火って聞いてたけど、思ったよりすごいな。」

 

そう答える彼は空を見上げたまま。みんなと彼の間に入ったことで、ちょっとだけ彼との距離は縮まった。でも、彼はどれだけ自分たちに近づいてきてくれているんだろう。近くにいるのに遠くにいる彼との距離を、自分たちはどれだけ詰められたのだろう。

花火と花火の間の暗闇。小さくつぶやく。

 

「鷹也くんはさ」

「ん?」

 

花火があがる。きっと彼はこれを聞かれても、困ったように笑って優しく微笑むのだろう。だから、聞こえなくてもいい。ただ口にしておきたいだけだ。

 

「うちらの……近くに来たくないん?」

「……ごめん、聞こえなかったよ。何?」

「ううん、なんでもない。」

「そっか。」

 

鷹也が黙り込む。そして、花火があがるまでの静寂。小さくつぶやく。同時に花火が上がって、空に光の花が咲く。

 

「……ごめんね、うちも聞こえんかったよ。」

「そっか。なんでもないよ。」

 

きっとこれは聞かなかったことにしてほしいんだろう。優しく微笑んでいた彼は、やっぱり困ったような笑みを見せていて。

 

「あ、鷹也くんと希ちゃんがなんか話してる!凛も!」

「ちょっ!凛!急に間に顔出すなって!びっくりするから!」

「あ~ずるい!私も!!」

「なんで穂乃果は凛の頭の上に自分の頭乗っけてるんですか……」

「海未ちゃんもおいでよ~!」

「行きません!」

「お兄ちゃん。はい、さっき買ってきたリンゴ飴。」

「ことりもこの状況でよく自然に食べもの渡すわね……」

「あ、次の花火あがるみたいですよ!」

 

「あはは……にぎやかやんな~」

「希、きっと大丈夫よ。」

「えりち?」

 

結局みんなで鷹也の周りにわいわいと集まっているのを笑ってみていると、絵里が微笑みながらこちらに声をかけてくる。首をかしげて見せると絵里は笑って口を開く。

 

「まだ夏休みよ。まだまだみんなで一緒にいる時間はあるわよ。」

「あ~……うち……寂しがってたんかな?」

「ちょっとそういう風には見えたわ。」

 

そっかと絵里に向かって笑って見せる。そうかもしれない。最後の高校生活。最後の夏。みんなとこうして笑いあえて、楽しめる最後の高校生の夏。

そんな最後のはかなさを花火に重ね、鷹也との距離感に重ねていたのかもしれない。

絵里は小さく笑って、希の隣にくるという。

 

「とりあえずは今を精いっぱい楽しみましょう?」

「そやんね。」

 

絵里の言葉に頷く。あとのことに不安を覚えるのは今じゃない。今日は本当に楽しかった。応援してくれる人がいて、楽しめる仲間がいて。今はこの環境を大事にしたい。

だからこそ、彼もこの輪の中に入ってきてほしいと思う。自分たちが受け入れるだけでなく、彼自身の意思で。

 

『……近くにいきたいさ、俺だって。』

 

花火があがる。その儚く、きれいな光が、今度はとても美しく見えた。

 





はい、いかがだったでしょうか。
希の言葉遣いがここにきて分からなくなりはじめています。誰か助けて。

浴衣についてはスクフェスの衣装のイメージでお願いいたします。

それでは遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
UA80000記念のつもりがUA85000越え。お気に入りや評価も多くいただいていて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
更新は不定期になっていっていますが、絶対に二期まで完結させますし、できるだけ1週間に1話。少なくとも1か月に1話は更新したいと思っているので、長い目で見守っていただきたいと思います。

次回はできるだけ今週中には本編を更新したいと思っています。
それでは感想・評価いただければ嬉しいです。
次回もよろしくおねがいします。

PS
ラブライブ!サンシャイン!!のアニメ始まりましたね!!
雪詞はヨハネ、千歌、果南が好きです。いつかサンシャインの小説も書いてみたいな……と思ったり思わなかったり。
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