小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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パソコンの データ・クラッシュ!

つうこんの いちげき!

ゆきは しんでしまった!




歪み

最初は少し苦しかった。少しつらく感じた。

 

でもそんな感情はいつか薄れていった。

 

目の前の落書きだらけの机や片方しかない上履き。

 

最初は見るたびに心が締め付けられたもの。必死になって感情を抑え込まなくてはいけなくなったもの。

 

でも気が付けば別の感情が浮かんでくるようになった。

 

俺は、笑っていた。

 

 

 

 

 

「んー……じゃあ俺は帰るかな~」

「……もっと早く帰っとけばよかったのに。」

「おお珍しい、鷹也が拗ねてる。」

「拗ねてないっての。」

 

ここじゃなんだからと移動を始める希と真姫についていきつつ、和樹に少し厳しい視線を向けてやると、和樹はごめんごめんと両手をあげて笑う。その無邪気な、何も考えていないような笑みに少し毒気を抜かれ、まあいいけどとつぶやく。

 

「これ以上は和樹が首を突っ込むことでもないだろうしね。」

「そうだな。俺には帰ってスクールアイドルの情報集めという仕事があるからな!」

「……あっそ。」

 

きりっと力強い表情でそんなことを宣言している和樹を適当にあしらいつつ、鷹也は小さくため息をついて少し後ろを歩く恭介を振り返る。めんどくさそうにしつつも、彼は意外と素直に後ろをついてきていた。鷹也としてはこの隙に恭介が逃げてくれさえすれば助かるのだが。

 

「……ほんとにみんなしてどういう風の吹き回しなんだか……」

「ある意味すごいよな。」

「は?」

 

独り言のつもりでつぶやいた言葉に和樹が返事をしてくる。その言葉に何がだよという言葉をこめつつ、視線を向けてやると和樹はやれやれとでも言いたげに大げさな両手を挙げたアクションをして見せる。そして前で歩きながらどこかに電話をかけている希と真姫、後ろにいる恭介を順番に指さして見せる。

 

「ここにいる人、完全にお前のことしか考えてない人。」

「……恭介くんは違うと思うけどね。」

「どーだかね。」

 

きっと怖いのだろう。指さすときもこっそりと、そして小声でこちらに返す和樹。そんな様子に怖いなら余計な事しないで黙ってればいいのにと思いつつ、鷹也は少し考えて口を開く。

 

「和樹はさ。」

「ん?」

「和樹は……なんでここに来たの。」

 

聞いてみようと思ったことに特に理由はない。なんとなくだ。あくまでなんとなく。自分にそう言い聞かせつつ、和樹に視線を向ける。その視線を和樹はどうとらえたのだろう。少しの間考えて、そしてこちらに向かってニッと笑って見せる。

 

「鷹也のためじゃないよ。」

「……だよな。」

「ああ、鷹也のためじゃない。」

 

その言葉は、その笑顔は、なんだか鷹也にとってはとても気楽なもので。

 

「俺はスクールアイドルが好きなだけだからな。」

「……自分にかかわってこないから?」

「わかってんじゃん。」

 

どこかとても寂し気に見えた。

 

 

 

 

 

『本当にこないん?』

「……ええ、今日はやめておく。」

 

生徒会室で資料を整理しながら絵里は電話の向こうの希に向かってそう答える。

放課後のもうだいぶ遅い時間。そろそろ亜里沙が校門で待ち始めるころだろう。あの子にいきなり1人で帰れと言うのもかわいそうだ。それに、今は自分まで行ったらきっと話がややこしくなってしまう。

 

「真姫もいるんでしょう?それならきっと大丈夫よ。」

『……そっか。』

「ごめんなさいね。」

 

きっと察してくれたのだろう。希が言いたいことであろうことと話をそらすように出した真姫の話を希は黙って肯定してくれる。それでも珍しく隠しきれていない感情が声のトーンによって出ているのに気が付き、絵里は作業の手を止めて謝る。

 

「わざわざ声かけてくれたのに。」

『ううん、うちこそあんなこと言ってたのに勝手に話進めちゃってるし。』

 

電話の向こうで小さく苦笑いしているだろう希を思い浮かべて、椅子の背もたれにもたれて目をつむる。あの日、鷹也がサポートをやめると言い出した時、1人だけ知っていた自分は何もできず、何も届けられなかった。でも、あの時に希はただ包み込んでくれた。

目を開ける。

 

「待ってるわね。」

『え?』

「私にも言いたいこと言わせてくれるんでしょう?」

 

そう言って、絵里は小さく微笑む。自分は大丈夫だ。希に言葉をもらった。みんなで言葉を届ければきっとと信じることが今の自分にはできる。

 

「だから、真姫に言いたいこと言わせてあげて。真姫だってずっと抱え込んでたんでしょう?」

 

焦らなくても、自分はそのあとでいい。前には届かなかったけど、言いたいことは言えているから。まだまだ言いたいことはあるけれど言えているから。自分の時もそうだった。亜里沙の、鷹也の言葉を最初は考えないようにしていて、後からその言葉の救いに気が付けた。だから

 

「私は待ってるわ、みんなを。」

『……そっか。』

 

自分はこれを伝えるだけでいいのだと思う。真姫を、希を、みんなを待っている。そしてみんなは、鷹也を待っているのだとそれだけ伝えればいいのだと思う。

 

『じゃあ、鷹也くんのこと意地でも引っ張っていかんとね。』

「そうね。お願いするわね。」

 

笑いながら言われた希の言葉に絵里も笑って返してから電話を切る。それから座ったままで背伸び。ずっと資料に目を通して、整理をしてをくりかえしていたから体がバキバキである。関節が鳴らなくてよかったとなんとなく思いつつ、机の上に置いた電話を見る。

携帯の画面にメッセージの表示。

 

『ついたよーっ!』

「ふふっ……」

 

元気なメッセージの後についている最近亜里沙お気に入りのかわいらしい犬のスタンプに微笑みつつ、最後の資料に目を通してから立ち上がる。

行きたくなかったと言えばうそになる。でも、今はきっと希が真姫を助けているところ。真姫と鷹也。きっと何かあったのだろう。なら、それを邪魔してはいけない。自分は帰ってきてからでいい。

 

「さ、行かなくちゃね。」

 

小さくつぶやいて扉を開ける。

今は待っているだけでいい。帰ってきた彼に思いっきり文句を言ってやるために。

 

 

 

 

 

希と真姫にお礼を言われつつ和樹が帰り、4人は希の先導のもとで歩いて目的地へ。

てっきり鷹也はどこかのファミレスかどこかに行くとばかり思っていたのだが。到着した場所であたりを見回していた鷹也は呆れたように声を漏らす。

 

「いや、なんでここだよ……」

「だって戦いは神様に見守ってもらわんと。」

「…………」

 

何も言わずに真姫にジト目を向けるも、真姫はそっぽを向くのみ。そんな様子にため息をつく。

結局ついたのは神田明神。いつもμ'sが練習していた神社である。確かに練習できるだけあってある程度好きに話せる場所ではあるが。

 

「……どうでもいいからさっさとしろ。俺は帰りてえんだよ。」

「帰ればいいと思うな。」

「うるせえよ、おめえは黙ってろ。」

 

この場に絶望的に似合わない恭介がそう言ってこちらをにらんでくるのにもう1度ため息。ここに恭介さえいなければまだ何とかなるのだが。しかし、それは希と真姫もわかっていることであるらしく、恭介が帰ってしまう前にと話し始める。少し奥のほうにいるためにいつもの階段は見えないが、希がちらりとそちらに視線を向けた気がした。

 

「鷹也くんが早めに観念してくれれば早く帰れるんやけどね。」

「要求を聞いてないから何ともいいようがないな。」

「……鷹也くんってやっぱ意地悪やね。」

「希に言われたくないね。」

 

少し寂し気に笑う希に胸の奥で小さく心がうずくのを悟られないように笑いながら言う。いつもの仮面。ごまかすことになれたからこその完璧な仮面。

そんな鷹也の様子に何を思ったのか。希は悲し気な表情を見せてから、真姫を促す。真姫としてもこのタイミングで任されるとは思っていなかったのか。希にいいの?とでも言うような視線を向けてから、口を開く。

 

「帰ってきて。」

 

シンプルで、単純で、気持ちのこもった要求。予想していたにも関わらずに一瞬息が止まる。恭介がこちらに怪訝な目を向けてくるのに気が付き、取り繕うように笑みを作る。

 

「……俺がいなくても変わらないだろ?っていうか俺が関わらない理由は言ったはずでしょ。」

「誰も納得できてないのよ。絶対に納得しない。」

「なんの意地だっての……」

「大切な人を守る意地やない?」

「……俺にみんなの大切な人になるなんてそんな価値ないよ。」

 

希の言葉にそう返す。何も返せないのだから当然だ。彼女たちから大切にされるなんて価値のあることは受け取れない。自分にそこまでの価値はない。

そこで真姫が小さく息を吐く。そして決意を固めるようにこちらに問いかけてくる。

 

「それがあなたなの?」

 

まっすぐに、真剣な表情で告げられた質問。真姫がよく鷹也に聞いてくること。ずっと、同じ答えを返し続けていること。だから今回も同じだ。ただいつも通りでいい。真姫から目線をそらす。わざわざ真姫の悲し気な表情を見る意味もない。

 

「うん、これが……」

「私たちのそばにいたくなくて。」

 

でもその言葉はさえぎられる。驚いて真姫を見る。そこにはまっすぐにこちらを見据える真姫がいて。その背を希が優しく支えてやっているのがやけに印象的だった。

 

「私たちのこと遠ざけて、それで自分だけ満足してるつもりになって、私たちの感情も、考えも、約束も放り出して。」

「……………」

「それがあなたなの?」

 

何も言えずに真姫を見つめる。責めるような顔ではなく、まっすぐに思ったことを言ってくる。その純粋さが、優しさが、すべてが、苦しい。

 

「……そうだよ、それが……俺だよ。」

『嘘つき』

 

しぼりだすように言った言葉。頭の中で響く言葉に耳をふさぐ。

 

「俺はこれで満足してる。」

『嘘つき』

 

聞こえてくる声に、目の前の真姫と希の表情に目を瞑る。

 

「俺はみんなの感情も、考えも、約束も知ったことじゃない。」

『嘘つき』

 

うつむいて言葉を吐き出す。頭の中の声を塗りつぶすように言葉を並べ立てる。

 

「俺はみんなのそばに」

「じゃあ笑えよ。」

 

最後の言葉を止めたのはこれまで黙っていた人物で。弾かれたように目線を上げれば、恭介の拳がそこまで迫っていた。

 

「っぐぅ……!!!」

 

視界が一瞬真っ白になって、衝撃にしりもちをつく。口の中からは血の味がした。きっと恭介の行動がなければなにか言おうとしていたのだろう真姫が慌てて詰め寄るのを恭介はうるせえの一言で片づけつつ、鷹也の前に立つ。

 

「……どうしたよ。いつもみてえに笑えばいいじゃねえか。」

「……普段から笑ってるつもりないんだけどね?」

「嘘つくんじゃねえよ。てめえがてめえで信じる価値はこれだけだろうが。」

 

恭介は吐き捨てるように言う。その言葉でわかる。やはり彼は自分のことを知っている。真姫と希に話すといい始めて、素直についてきているから少し変だとは思ったのだが、結局のところやはり岸田恭介は南鷹也のことを知ってはいるのだ。

鷹也はそのことに気づき、笑みを浮かべる。先ほどの完成されたものと違う。自分でもわかるほどの歪んでいて、気味の悪い笑み。そんな鷹也に冷めた視線を向けつつ、恭介は真姫と希に向き直る。その際に小さく呟いていた言葉は、気に食わねえ。

 

「教えてやるよ。こいつのこと。」

「恭介くん、余計な事……」

「うるせえよ。」

 

止めようとするも一蹴される。腕力でかなうわけもない。何とか止める方法を考えている間に恭介が話し始める。もう、止まらない。止めれない。

止めたい……はずなのなのに。

 

『嘘つき』

 

何故だろう。また頭に声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたのはすぐだった。

誰もあいつのあいさつに返さない。誰もあいつの言葉に反応しない。ちらりと横に視線を向ければ、このクラスの中心ともいえる男子の姿。ニヤニヤとした歪な笑みにすべてを察する。

 

『恭介?どうした?』

『……別に』

 

この時からすでに周りには素行の悪いような奴らしか集まっていなかったのだが、その中の一人に声をかけられる。適当に返事をして視線を別のところに逸らす。

別に何も思うことなんてない。よくあることだ。標的なんてその場のノリだけで決まる。たまたまタイミングが悪かっただけ。たまたまこのクラスで陰でイジメられていた奴が休んでいて、たまたまその主犯が今にやついている男子で、たまたまそいつの頼みを誰の頼みでも基本的に笑って引き受けるあいつが連続で断っただけ。

あいつにはどうしようもなかったことで、この流れを誰も止める気がない。いじめはそういうものだ。標的が変わることを気にすれば誰も助けない。正義感の強い奴なんてどのクラスにでもいるわけじゃない。

 

『お、おーい。みんな?冗談……』

 

最初は笑ってこの場を冗談にしようとしているのが分かった。だが、あいつと一緒に行動することが多かった人たちは完全に無視を貫いて、ほかのやつらはわれ関せず。関係ないとでもいうように会話を続ける。歪な空間だった。

 

『……………………』

 

そのうちあいつも悟ったのだろう。苦し気な表情を見せつつ、黙って席に座る。それを見て、いじめていた奴らがニヤニヤと笑っているのに気が付きつつ、俺は何もせずに黙っていた。

 

 

 

 

 

変化があったのは数週間後。

イジメはどんどんエスカレートしていた。前の時はおそらく自分以外はほとんどの生徒が気が付かないくらいのイジメしかなかったのだが、今回は隠す気もないらしい。誰も止めないからだろう。

止めない理由は単純。最初の無視で誰も止めなかった。それは見て見ぬふりをするのだという全員の無言の意思表示だ。普段からみんなの頼みを聞いていて、みんなに頼られていたあいつのことを気に食わないやつもいたのだろう。特にこういったことを止めるタイプになりえるクラスの中心にいるやつら。

ほかのやつらに関しては彼らがイジメの中心なのだ。目をつけられたらと考えたら黙るだろう。

 

『うっわ、カワイソ~』

『お前、思ってねえじゃねえか』

『お前だってちょっとわらってんじゃねえか』

 

そして自分の周りのやつらもこういった連中だ。われ関せずとみてるだけで楽しんでいる。自分も何もする気がないのだが。周りの連中の視線の先には机の落書きを無表情で見つめるあいつ。これで何回目だろうか。もはやほとんど毎日だ。上履きを隠され、机に落書きをされ。多少同情するも、別に自分に害がないならどうだっていい。

そう、思っていた。

 

『……ハッ……』

『……っつ!!』

『恭介?』

 

気のせいだと思った。そんなわけないと思った。いきなり表情を険しくした自分に声をかけてくるやつらになんでもないといいつつ、視線をあいつに、南鷹也に集中させる。変わらない無表情。

でも、でも本当に一瞬。

あいつは、確かに笑っていた。

 

 

 

 

 

『いつも1人でいてキモイんだよ!』

『学校来んなよ!』

 

周りの連中に殴られ、蹴られる鷹也を無言で見つめる。あれから数日。イジメは止んでいない。恭介はイジメの主犯の連中についてきていた。こういうやつらは自分のイジメを肯定してくる人間を拒まない。普段はこちらに怯えていて近づいてもこないくせに、俺もあいつが気に食わないから混ぜろと言ったらふてぶてしいくらいの態度で迎え入れた。神にでもなったつもりなのだろうか。

 

『おい!なんとか言えよ!あ!?』

 

声を荒げる男子がまた蹴りを鷹也の脇腹に入れる。さすがにサッカー部。いい蹴りだ。そんなどうでもいいことを思いつつ、この中に混ざっている理由を考える。この連中に話した理由も間違っちゃいない。

今のところ手は出す気がないから殴っても蹴ってもいない。周りの連中はそんなの気にしていないようだが。殴って蹴っての暴行を加える強者の自分に酔っているのだろうか。

 

『なに笑ってんだよ!』

 

その言葉に視線をまた鷹也に戻す。鷹也はあの後からだんだんと露骨に笑みを見せるようになっていた。その笑みは仮面のようにとても完成されていて、それでいてとても歪で、とても気味が悪かった。

そんな鷹也が答える。

 

『1人でいて何か悪いの?別に誰にも迷惑かけてないでしょ?』

『そ、そういうことじゃねえんだよ!いつもなにされても平然としてて……気持ち悪いんだよ!!』

 

誰にも迷惑をかけてない。そう言い切った鷹也に隣の男子が口ごもりつつ叫ぶ。もはや形成が逆転しているようなものだった。そんな鷹也を観察するように見つめる。そしてその目を見て悟ってしまった。こいつは、本気で

 

『別に?だってこんなことどうってことないもん。』

 

本気でこう言っている。そしてそれが、その事実が、本当に気に食わなかった。

 

『どうってことないって……そういう態度がムカつくんだよ!!!』

 

目の前の鷹也を本気で殴る。喧嘩慣れしている上に体格も大幅に違う自分と鷹也では吹き飛ぶのは当たり前で。それでも彼は笑顔を絶やさない。

 

『こんなことする暇あったら自分を何とかしようとしたら?みんなサッカー部のレギュラーでしょ?』

『な、なんだよ、こいつ……』

『?なにか間違ってる?』

 

口から血を流しつつ、それをどうってことないとでもいうように受け入れている鷹也に周りの連中に怯えの色が見え始める。そのことをどうでもよく思いつつ、恭介は鷹也の笑みを見つめる。

 

『こんなにイジメられてんのになんでなんともないような顔してんだよ……!』

『ああ、そういうこと?だって…………だってそれが自分だから。』

 

その言葉で周りの連中は意味わかんねえよと言いつつ、これ以上は関わりたくなくなったのだろう。その場から逃げ出していく。

その場から動かなかったのは鷹也と恭介のみ。

 

『ふぅ……で、何かな?』

『俺のこと無視してやがったな。俺はサッカー部じゃねえ。』

『普段来る人たちと違ったしね。何か話があるのかと思って。』

 

殴られたのは予想外だけど。そう言って鷹也は笑う。その笑みに少し背筋がぞくりとした。こいつは自分が部外者だと気が付いていながら助けを求めようともせず、殴られているのを見られたことを意にも介さずに後から話を聞く気だった。それでいて、殴ったことを責める気もない。

自分が殴られるのが当たり前で、普通のことで、それを自然に受け入れているということ。

 

『……気に食わねえんだよ』

 

それでも臆さずに鷹也の顔をまっすぐににらみつけて話す。

これがここに来た理由。岸田恭介は南鷹也が気に食わない。本当に、本当に気に食わない。

 

『なんで笑う?なんで受け入れる?このくらいなんとでもなるだろうが。』

『………………………』

 

無言で張り付けたような笑顔を見せる鷹也をにらみつける。基本的に昔からみんなに頼られていた。それは“なんでもできていた”ということだ。勉強も、スポーツも、人間関係も。基本的に人並みよりも上の水準にいたからこそみんなに頼られていたのだ。

そんなこいつがここまで何もせずにいて、すべて受け入れている。それが本当に気に食わない。

 

『周りの連中に頼るでもなんでも自分で何とかできるのになんでしようとしねえ。』

『まず1つ』

 

恭介の言葉を受け止め、そして鷹也が話し出す。笑みは崩れない。

 

『俺にそんなに行動力はないよ。何でもできるわけじゃない。むしろ何もできない。』

『それでも周りに頼れるだろうが。これまでいくらでも手伝ったやついんだろ。』

『何だ、意外と周りのことみてるんだね。』

 

そう言ってまた笑う鷹也をうるせえと言ってにらみつけると、鷹也は小さく手を挙げてごめんごめんと言ってから言葉を続ける。

 

『巻き込むわけにもいかないしね。』

『それだけじゃねえだろ。』

『……ほんっとうによく見てる。』

『それは受け入れる理由だろうが。笑う理由になってねえ。』

 

別にそれも嘘ではないだろう。普段から笑顔で人に頼られ続けていた人間だ。そう考えてもおかしくない。でも、それだけではないはずなのだ。まさか巻き込まなくてよかったと毎回笑っているわけでもないだろう。

それもそうかとうなずき、鷹也はじゃあ2つ目と言って笑って口を開く。そこで気が付く。

 

『俺なんかを殴って笑ってもらえるのなら、あの人たちが楽しいなら、俺はどうでもいいよ。』

『本気で言ってんのか。』

 

完璧だった笑顔が歪んでいる。歪な笑み。

 

『本気も本気。殴ることで俺の価値を肯定してくれてるんだよ?』

 

歪な笑みが、口元を気味が悪いほどに歪ませる。今度こそ背筋に冷や汗が流れるのが分かった。この少年は、自分が見てきた誰とも違う。

引き攣った表情で辛うじて虚勢の笑みをうかべ、鷹也を見つめる。一切自分の感覚を疑わずにそう言っている鷹也のことが、笑っている鷹也のことが、

 

『相手は殴って幸せ。俺は殴られて自分の価値を肯定されてると思える。すばらしいじゃんか。』

 

歪み切っていて、歪みすぎてまっすぐなくらいの鷹也のことが、恭介は本当に気に食わなくて。本当に理解できなかった。

 

 





おお、ゆきよ。
しんでしまうとは なさけない。

って訳でお待たせしました。書けた分だけの投稿です。鷹也くんの過去がちょっとだけ分かる回。
希のねらいは次回となります。

大変お待たせしていますが、きちんと更新していくので長い目でお付き合い下さい。
お気に入り、評価、UAも増えていて嬉しいかぎりです。
特にUAは気づけば90,000を超えていて……本当にありがとうございます!

番外編は更新頻度のこともあり、本編優先ということにしたいと思います。次の番外編はUA10万記念ということで。

それではパソコンも直ったので、次回は2週間いないには頑張りたいと思います。よろしくお願いします!
感想・評価もしていただけると嬉しいです。
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