小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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彼と彼女たちの物語

兄はどうしているだろう?穂乃果の呼び出しは何の用だったのだろう?みんなきっと怒るだろうなぁ。

座って待っている間に考えていたのはそんなことばかりだった。何かを待つように、この期に及んで未練がましく手にもって画面を見つめている携帯に反射するのは自分の浮かない顔で。

自分で決めたことなのに、自分のことなのに。弱い自分はいつまでも迷っている。

 

『……便が間もなく手続き終了のお時間となります。まだ搭乗手続きがお済みでないお客様は……』

 

でもそんな時間もおしまい。

手に持っていた携帯をポケットにしまい、空港内に響くアナウンスを聞いて立ち上がる。もう、迷っても意味がない。

ことりは泣きそうになる自分の目元に力を入れて、何とか泣くまいと堪える。ここで泣かないようにとみんなを、母を、兄を呼ばなかったのだ。それに、もう今更泣いてもしかたない。

 

(私が決めたことなんだもん……)

 

最後に振り返りそうになる体を、自分にそう言い聞かせることで無理やり進めようとする。自分が決めたことだから。今更そのどうしようもないんだから。そんな思いで、無理に前に進もうとする。その時だった。

 

「ことりちゃん!!!!」

 

大声とともに手がつかまれた。

その瞬間、安堵してしまった自分がいることに気が付き、そして同時に抑えようとしていた涙がこぼれそうになる。

振り返る必要もない。振り返らなくても、彼女の、穂乃果の想いが伝わってきて。

 

「ことりちゃん、ごめん……。私、スクールアイドルやりたいの。ことりちゃんと一緒にやりたいのっ!!」

「あ……」

 

どうしようもなく、自分の想いがあふれ出してくる。抑えようとしていたものがこぼれだす。

 

「いつか違う夢に向かう時が来るとしても!」

 

言いながら自分の正面にやってくる穂乃果に涙がこぼれた。安堵してしまった時点で気が付いてしまった。

穂乃果のすごいところに気が付いてしまって、自分の弱さに気が付いてしまった。

 

「行かないでっ!!」

 

正面から穂乃果に抱きしめられる。

結局は迷っていた自分が弱いんだと逃げていただけだ。ちがうのだ。自分の弱さはそんなところじゃなかった。決めたことに迷っていたから弱いとかそういうことじゃないのだ。

 

「ううん、私こそごめん……!」

 

鷹也がずっと支えてくれてたからとか、一生に一度しかないかもしれないチャンスだからとか。そんな理由を優先したのは、結局自分で決めたんじゃない。自分が周りを見て、周りの意見に流されて決めたことだ。そんな決め方をして、迷ってるくせにずっと決めたんだからと言い訳して。

 

「私、自分の気持ち……気が付いてたのに……!!」

 

結局は自分の一番大事なものを見ないようにして、周りにどう思われるかで決めていただけなのに。自分の中の気持ちが抑えられなくなってようやく気が付いた。自分の気持ちをまっすぐに口にする穂乃果に、気づかされた。

結局自分は自分の気持ちを口にするのがこわかっただけだ。自分の気持ちを口にして、周りに迷惑をかけてしまうのを極端に怖がっていただけなのだ。

こんなにも気持ちをまっすぐに向けてくれる少女がそばにいるのに、それをうれしいと思っている、すごいと思っている自分がいるのに。

 

「っはぁ……はぁ……やっぱ穂乃果が……なんとかしてんじゃんか……」

「あ……」

 

その時、後ろから聞こえてきた声にビクリと肩を震わせてしまう。息を切らして、感情を無理にごまかそうとするように軽い調子を保った彼の声。

 

「鷹也くん!」

「お兄……ちゃん……」

 

南鷹也がことりの前に立っていた。

 

 

 

 

☆彼と彼女たちの物語☆

 

 

 

 

息が切れる。どれだけ呼吸を整えようとしても、バクバクと暴れる心臓は落ち着いてくれなくて。ここで一生分動き切ろうとしてるんじゃないかと思うくらいだ。

そんなに走ってきたわけじゃないのに、どうしたのだろう。その理由を意識しないようにしてことりと穂乃果と向き合う。

 

「お兄ちゃん、私……」

「ことり……」

 

迷うようにことりが視線をさまよわせる。そんな様子に何を言えばいいのかわからなくなる。口を開いても言葉が出てこなくて。駆けだしたけど、まだ自分の中での整理はつききっていないから。

どれだけ弱いのだろう。あんなにもみんなに背中を押されて、みんなに支えてもらって駆けだしたのに。

 

「鷹也くん、私ね。やっぱりみんなとじゃなきゃ嫌なの。」

「穂乃果……?」

「穂乃果ちゃん……」

 

しかしその時、穂乃果がそう言ってこちらにゆっくりと歩み寄る。その様子にあっけにとられていると、穂乃果は小さく微笑んで続ける。

 

「鷹也くんもことりちゃんも海未ちゃんも……もちろんμ’sのみんなも、私大好きだから!」

 

そう言って穂乃果は笑う。大好きだから。そんなあいまいで、根拠のない理由。

 

「だから、やっぱり私はまだみんなと一緒にいたい。大好きだから。大好きだから離れたくない。まだ一緒にいたい。」

 

そんなあいまいで、根拠がなくて、でもとてもまっすぐでキラキラした理由。そんな理由をもとに穂乃果は笑顔を見せる。

 

「ダメかな?」

「はぁ……」

「ため息!?せっかくまじめに話してるのに!!」

「違うよ。なんていうか……すごいなって。」

 

そう思わない?とことりに視線を向けると、ことりも泣き笑いの表情で頷く。大好きだからなんて、とても自己中心的で、とても自分勝手な言葉だ。結局自分が好きだから一緒にいてほしい。そんなわがままだから。だから本当は口にするのはとても大変なはずなのだ。

でも、それを口にできるのが高坂穂乃果という少女で。本当にわがままで、強い子だと思う。その姿にはどうしたって、憧れてしまうのだ。

昔と本当に変わらない。

 

『鷹也くんのこと助けないなんてしたくない。でも、鷹也くんと話さないのもいや!だって大好きだもん!!』

 

「結局どっちもなんとかするんだな、穂乃果は。」

「え?」

「ううん、何でもない。」

 

昔はそう言って無理やり仲直りをしてきて、そして今は鷹也のためにもと自分の想いを口にしてくれる。

さんきゅ。そう穂乃果に言ってから、視線をことりの方に向ける。いつの間にか、息切れは収まっていた。

 

「お兄ちゃん…」

「ことりが留学行くのはこれっきりのチャンスかもしれない。一生に一度の可能性だってある。」

 

これは真実だ。海外の有名なデザイナーの目に留まるなんてかなりのチャンスだ。ことりの将来に多大な影響を及ぼすであろうチャンス。

 

「でもな……」

 

そこで少し息を吐く。ここからは自分の気持ちを話すところ。ゆっくりと息を吐く。

いいのか?と自分の中で声が聞こえる。価値のないお前がことりの邪魔していいのか?と。そんな不安が、恐怖が言い出そうとしていた感情に蓋をしていく。息が詰まる。言葉が出てこない。

しかし、そこでことりが口を開く。迷うように視線を揺らしてから、穂乃果をちらりを見て意を決したように話し出す。

 

「お兄ちゃん。私、ずっと聞きたいことあったんだけど……いいかな?」

「……なに?」

「お兄ちゃんは、私が留学に行ってほしい……?」

 

こちらを不安げに見つめるその目の奥に少し期待の色が見えた気がして。

行った方がいいと思うかではなく行ってほしいかどうか。きっとこの質問はずっと言い出せなかったものなのだろう。こちらの気持ちに気が付いていて、答えないとわかっていたから。それなのに苦しませるようなことをしないようにと、気を使っていたから言い出せなかったもの。

でも、それを口にした。自分に気持ちを押し付けるようなことになるかもしれないけど、その恐怖を押し殺してでも。それは自分だけでなく、きっと鷹也のため。

小さく息を吐く。自分の価値はまだわからない。自分に価値なんてないって今も思っている。それはずっと前からの自分の在り方だから。変えるのはどうしたって怖い。

でも、海未が、穂乃果が、ことりが、みんなが背中を押してくれたのだ。もう怖がってなんか、逃げてなんかいられない。

その言葉は口にしてみればものすごく簡単なもので。

 

「俺は……ことりが、留学に行くと寂しいよ。ことりと、まだ一緒にいたい。」

「……うんっ!」

 

泣きながら、満面の笑みを浮かべることりはとてもうれしそうに見えた。

 

 

 

 

 

恭介はその目の前の光景を黙ってみていた。目の前では、自分がこの世で一番気に食わないといってもいい青年がいる。いつもの完璧すぎて、気味の悪いくらいの笑みは幾分和らいだように見える。

 

「このまま帰らせるわけねえだろーが。」

「っと……だよね。」

「え?鷹也くんの知り合い?」

 

話が終わったのだろう。歩いていこうとする3人の前に立つ。少し前までよく目にするスクールアイドルだったμ’sの高坂穂乃果と南ことり。ことりのほうは自分のことを覚えているのだろう。小さくあ……と声を漏らして、鷹也を心配そうに見つめていた。

そんなことりと穂乃果に鷹也は少し考え込んだ後で、微笑みかける。

 

「ライブの時間に間に合うかもぎりぎりでしょ。先に行ってて。」

「でも……」

「あとでちゃんと話すよ。」

「……絶対だよ?」

「ん、絶対な。」

 

そう言って鷹也が無理やりに穂乃果とことりを先に行かせる。その様子を黙って見送り、そして鷹也がこちらを見て笑顔を見せる。

 

「待っててくれるんだね。」

「……別にあいつらは関係ねえしな。」

「そうだね……うん、関係ない。」

 

そう言って、鷹也はこちらをまっすぐに見返してくる。その視線に、恭介はいつもと違うものを感じて。

 

「とりあえずお礼言っておくよ。ここまで連れてきてくれてありがとう。」

「てめえが無理やり乗ったんだろうが。」

「恭介くんだったら無理やり振り落とすこともできたでしょ?体格的に。」

 

まあそれは事実なのだが。薄く笑みを浮かべている鷹也に舌打ちをする。

 

『バイク持ってるよね?乗せてくんないかな?近くにいるから。』

 

そんなことを言われたのはいつものように呼び出しの電話を鷹也にかけた時だった。いつも特に反論するわけでもなく来るくせに、急に従わずにこちらに逆に要求をしてくる。その様子が気になった。気になりはせども、そんなの関係なく無視する気だったのだが、結局のところ近くを本当に通りかかった鷹也に押し切られ、とりあえずここまでバイクの後ろに乗せてきたのだ。

乗せてきたことに理由はある。あるが、口にしたいことではない。話題を逸らすように口を開く。

 

「で、これからいつものとこ来いって言ったら?」

「……行かないよ。それにこれからはもう恭介くんに従う気はない。」

「……そうかよ。それを俺が許すとでも?」

「許すよ。恭介くんだし。」

「……ただでは許さねえよ。」

 

そう言ってやると鷹也は小さく息を吐き、こちらをまっすぐににらみつける。その反抗的な姿勢はこれまでになかったもので。少し意外に思って目を細める。

でも、心のどこかでやっぱりそうなるかという思いもあった。

 

「そっか。じゃあこれまでの分もあるしね。無理やりにでも押しとおるよ。」

「やってみろよ。」

「そうする。」

 

そう言って鷹也がこちらに向かってくる。ここは空港。そんな暴力沙汰を起こしたらすぐに警備が飛んでくる。でも、鷹也は一向にこちらに向かう勢いを緩めない。そして、それをよける気も特にない。それは鷹也も分かっているだろう。

 

「……今まで俺を肯定してくれて……ありがとう、恭介くん。」

「……………」

 

そう言って鷹也が横を駆け抜けていく。軽く胸にトンと当たられた拳はこちらに全くと言っていいほど痛みを与えない。その拳が当たった部分に手を当てて舌打ちをする。

こっちの行動理由に気が付いていたのは分かっていた。分かっていたがわざわざ口にすることでもないだろうと思っていた。だからこそ自分はこう動けていた。いや、だからこそこう動かざるを得なかったのだろう。

昔から鷹也の価値観を知っていて、それでいて少し思ったことはあった。それが自分が鷹也を殴る理由でもあった。唯一鷹也の価値観を知っていて、それでいて暴行を加えていた存在だったのだ。多少他とは違う考えもある。

 

『相手は殴って幸せ。俺は殴られて自分の価値を肯定されてると思える。すばらしいじゃんか。』

 

そう言ったときのあの笑顔。あの笑顔をどうしたって二度と見たくなかったから。特に何をするでもなく、ゆっくりとその場を後にするために歩き出す。

他にもいくつか理由はあった。でも、それでも結局のところ恭介が鷹也を殴っていた理由で一番大きいものは最初から最後まで変わらない。

 

「ほんっとに気に食わねえ……」

 

 

 

 

 

「うぅ……緊張する……」

「結局衣装も制服になっちゃったし……大丈夫かにゃ……」

「まあ、制服の方がスクールアイドルらしくていいんじゃない?」

 

1年生の3人がそんな話をしているのを聞きつつ、視線を壁にかけている時計に向ける。ライブ開始5分前。もう、余裕はない。

そんな中で海未は意外にも落ち着いている自分に気が付く。

 

「お客さんを待たせるわけにもいかないし……」

「っていうかなんで生配信なんてしようと思ったのよ。そこまでしなくてもいいでしょ?」

「だ、だってそれくらいしないと印象薄いじゃない!」

「にこっちの考えそうなことやね……」

 

そう言って苦笑する希と顔を見合わせる。そっぽを向くにこには悪いが、生配信はだいぶ無茶だろう。よくクラスメイト達も手伝ってくれたものだと思う。というかそんなことできるのだなというのが最初の感想だが。

それがなければ少しアナウンスをして遅らせるという最悪の手段があったのだが。

どうしようかと少しみんなが顔を見合わせたとき

 

「みんな~!!っと……わっ…わわわ!!!」

「穂乃果!」

「だから危ないって言ったのに~……」

「ことりも!!」

 

扉を開けて穂乃果が駆け込んでくる。そしてその後ろにはことりの姿。転んで打った腰をさすりつつ、おまたせーと笑う穂乃果にみんなで安堵の息を吐きつつ、ことりの後ろから入ってくる気配を探る。しかし、そのあとで入ってくる姿はなくて。

 

「穂乃果、ことり……」

「鷹也くんはちょっと遅れるって。でも、絶対に来てくれるよ!」

「遅れるって……」

 

穂乃果の言葉に絵里とにこが顔を見合わせている。このライブの目的の1つは鷹也を連れ戻すこと。その目的を考えると鷹也が遅れてくるというのは好ましいことではないだろう。でも、と海未は口を開く。

 

「じゃあ、始めて待ってましょうか。」

「いいの?鷹也さんが来るまでは……」

「他のお客さんを待たせるわけにもいきませんよ。それに……」

 

花陽の不安そうな言葉に首を横に振り、穂乃果とことりと目を合わせる。2人も笑って頷いてくれる。そしてことりが海未の言葉を引き継ぐように言う。

そもそも自分たちが心配する必要なんてない。穂乃果とことりが来たように、あの青年が、自分たちのことを支えてくれるあのとても強くてとても弱い青年が約束を放り出すことなんてありえないのだから。

 

「お兄ちゃんが来ないわけないよ。だから私たちは……」

「自分も観客も最高の笑顔で、全力で楽しんでやりきる。でしょ?」

 

ことりが言おうとしたことを真姫が口にする。分かってるわよとでも言いたげに不敵な笑みを浮かべる彼女が口にするその言葉は鷹也がみんなにずっと言っていた言葉で。

それを真姫が言ってくれたことが、ずっと鷹也と一緒にいた穂乃果やことり、そして海未でなく真姫が言ってくれたことがうれしくて。彼がいてくれたからこのμ’sがある証明な気がして。

 

「そうね。今は目の前のお客さんとめいっぱい楽しむことを考えましょうか。」

「うんっ!凛も楽しむにゃ!!」

「一緒に楽しもうね、凛ちゃん。」

「それがアイドルの仕事やしね。」

 

そう言ってちらりと希が視線を向けるにこに自然と視線が集中する。そこで慌てると思ったのだが、にこは考えていたようで、ふふんと胸を張るとはっきりと口にする。

 

「今日、みんなを一番の笑顔にするわよ!!!」

 

そして自然にピースが集まり、点呼が始まる。きちんと全員そろっていることを確認するために。9人そろって彼を迎えに行くために。9人そろってみんなを笑顔にするために。

 

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

 

全員いることが確認できて。久しぶりに9人そろっていることが本当にうれしくて。自然とみんな笑顔になる。そして穂乃果が口を開き、それに合わせてみんなで声を出す。

 

「よーっしっ!いこう!!」

『μ’-----s!!ミュージック——————スタートーー!!!!』

 

 

 

 

 

廊下を全力で駆け抜ける。途中で何度も転びそうになったけど、それでも走り続ける。もうライブの時間は過ぎている。前にもこんな風に講堂に向かって走ってきたことあったっけ。そう思いつつ、切れる息を無視して走る。迷っていた。燻っていた。でももう、彼女たちの頑張りを見てしまった。彼女たちが立ち上がるのを見てしまった。遠い物語に見えたけど、自分には縁がないものにまだ思えるけど。でももう見ないなんて選択ができるわけなかった。背中を押してくれた彼女たちとの約束を放り出すなんてできるわけなかった。

 

「っつはぁ……はぁ……!!」

 

廊下の角を曲がるためにスピードを落とすこともなく、一気にかけていく。すれ違う人はいなくて、それが不安をあおる。いくらみんなが頑張ったとはいってもまだ朝。登校前の時間。もしかして……と最悪の結果が頭に浮かぶ。嫌な記憶に、現実が重なる。

それでもそんなわけないと走るスピードを一段階あげて、講堂にたどりつくと、その扉の前には理事長である母が立っていた。

 

「母さん!」

「あら、鷹也。」

「みんなは……!」

 

必死に、息を切らしつつひな子に駆け寄って聞く。そんな必死さに少し驚きつつ、ひな子は優しく微笑むと、何も言わずに講堂の扉を軽く開けて中へと鷹也を入れる。息を切らしつつ、廊下とは打って変わった環境に目を細める。

 

「………ほんとに………………………」

 

その場は、一面光と、音と、歓声と

 

「……やっぱ……すごいよ…………みんな……」

 

大勢の観客で埋め尽くされていた。

ステージ上にはその歓声を受け、笑顔で踊って歌う彼女たち。キラキラと輝く彼女たちの姿はとても眩しくて。とても魅力的に映る彼女たちから視線を逸らせなくなる。あの時にぶれてしまっていた歌も、ダンスも今ではきっちりとぶれずにそろっていて。あの時以上のパフォーマンスをしてみせる彼女たち。

だからこそどうしても遠く感じてしまう。どこか遠い存在の人たちに感じてしまう。それも仕方ないと思えてしまうくらいの輝き。キラキラと輝くアイドル。それが彼女たちなのだから。遠い存在なのは仕方ないこと。

そう思いつつ、目を離せずにいるとそこで気が付いた。

 

「この曲……ファーストライブの……」

 

まだμ’sが穂乃果と海未、ことりの3人だったころ。名前も、歌も、ダンスも何もなくて。鷹也も加わって1から作った最初の曲。最初のダンス。スクールアイドルを始めたばかりの時のもの。

でもあの時の曲は3人用のダンスしか用意していなくて……とそこまで考えて、彼女たちのサインに気が付く。

 

「俺のため……か……」

 

小さく呟いて、彼女たちをまっすぐに見つめる。気がついて見てみればはっきりとしている。ダンスはあの時に4人で決めたものから変えていないのだから、それを変える時間だってなかったはず。今だって、あの時のダンスを9人で踊っているだけ。立ち位置の違いなどはある。9人でやるために少し移動を意識した振付になっているところもある。でも、それはあの時に鷹也も一緒になって、4人であーでもないこーでもないと言いあったあの時のダンス。

それは鷹也が関わっていると、否定することのできないもので。完全に鷹也の意見も、鷹也の気持ちも取り込まれたダンスだ。そのダンスで彼女たちはステージで光を、音を、歓声をその身に受けて歌う。

 

 

自分を肯定なんてできなかった。自分が嫌いだった。

中途半端で、何か得意なことがあるわけでもなく、何か好きなことがあるわけでもない。

そんな自分ができることなんて自分を犠牲にしてでもすることしかないと思っていた。

こんな自分があんなにキラキラした彼女たちに近づくことなんてしてはいけないと思った。

 

でも、彼女たちに憧れてしまった。彼女たちのそばにいたいと思ってしまった。

自分は何もできないと、自分がそばにいてもいい影響なんかないと思っていたのに。

そばにいたいという思いはどれだけ否定してもついてきて。どれだけ離れてもその想いは消えてくれなくて。

どれだけ否定しても彼女たちが肯定してくれるから。肯定しようとしてくれるから。

 

彼女たちはいつだって肯定してくれていた。いつだって自分を必要としてくれていた。その想いを自分には重過ぎると、苦しいと言って避け続けてきた。弱い自分が受け取ってはいけない想いだと逃げ続けていた。

でも、今彼女たちは鷹也が考えたダンスを使ってステージに立っている。ほかにたくさんある曲の中でその曲をわざわざ選らんで、そのダンスを見て、彼女たちを見て観客は笑顔になっている。

見れば見るだけ、ステージで踊る彼女たちの想いが痛いくらいに伝わってきて。今更もうその想いを否定できずに素直に受け取ることとなってしまう。

彼女たちの想いはどうしようもなく、うれしくて。

彼女たちの想いをどうしようもなく、うれしく思ってしまって。

 

 

「本当に……ばかじゃねえの……みんな……」

 

こんな自分にずっとこだわって。こんな自分をずっと連れ戻そうとして。ここまでのことをしてくれる。あそこまでバラバラになって。自分たちだって精いっぱいだったはずなのに。抑えきれずに目元を手で覆う。目からこぼれる涙と、いやでも口元に浮かんでくる笑みの矛盾にまた笑いそうになってしまって。

気が付けば曲は終わり、彼女たちはその身に大きな歓声を受けている。その中で、ステージ上に立つ彼女たちがこちらに一瞬気が付いたのが見えた。だから、手を挙げる。伝わったと。想いはキチンと伝わったと示す。

こんなの、もう逃げるわけにはいかないじゃないか。自分は弱いからと、自分には何もないからと言い訳できないではないか。自分で、自分を信じるしかなくなってしまうではないか。

ステージ上に立つ彼女たちの笑みがより一層輝くのを見て、アイドルだから仕方ないと先ほどまで遠く感じていた、スクールアイドルの彼女たちが少し近くに感じられた。

 

 

 

 

 

ライブのあとは着替えて、彼女たちはすぐにいつもの学校生活に移る。学校が始まる前の少しの時間でないと講堂が借りられなかったらしいし、それは仕方のないことだろう。放課後練習するからとメールが全員から来ていたが、それには特に返信していない。話したいことはたくさんあるが、それはメールで話すことでもないだろう。

だからこそ鷹也は放課後になるまでの間、少し自分の中で気持ちを整理してから別の人物に呼び出された場所に向かう。生配信もしていたようなので、この人が見逃すわけないと思ってはいたが、案の定見ていたようでライブ後すぐに連絡がきた。

呼び出された場所は神田明神。長い階段を登り切ると、そこにはいつものように悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女がいた。

 

「お疲れ様です……沙希先輩。待たせましたか?」

「いいよいいよ。呼び出したのはこっちだしね。」

 

待ったことには違いないけど。と小さく付け足して沙希は笑って見せる。いつもの無邪気な沙希の笑み。

でもその笑みは長く続かず、続く言葉で全く違った笑みに変わる。

 

「で、気持ちの整理はついたのかな?」

「おかげさまで。」

「それはよかった。」

 

沙希はそう言ってこっち来なよと歩きだす。身をひるがえすその動きだけでこちらを魅了する彼女のあとに続いて鳥居をくぐっていく。もう少しで時間は夕方に差し掛かる。あの子たちが授業終わるころだろうかと少し思っている合間に沙希が話し出す。

 

「ライブ見たよ。ツバサたちもね。」

「朝からありがとうございます。」

「いえいえ。思っていたよりもいいものを見れたし……ね。」

 

そう言って沙希はちらりとこちらに視線を向けて立ち止まる。その視線に黙っていると沙希はより一層笑みを濃くして続ける。

 

「あれを見てツバサたちも気が付いた。μ’sは自分たちと同じところまで来れる子たちだって。自分たちの最大のライバルになりえる子たちだって。だから、それに負けないようにこれまで以上に本気で進んでいく。もちろんあたしも。」

 

そう言って沙希は視線だけでなく身体ごと鷹也に向き直り、鷹也をまっすぐに見据える。

 

「あたしがいる以上はライバルなんて呼ばせない。それくらいの力量差で圧倒させて見せる。あの子たちだけが相手ならば、あたしにはそれができる。」

「それは……そうかもしれないですね。」

 

神が降りてくるこの場所で、神田明神で沙希は宣言する。傲慢ともとれる宣誓をしてみせる。その姿は自信に満ちていて。自分がそれをできることを全く疑っていなくて。

そんな姿を鷹也は小さく笑って肯定する。実際にそれくらいやってしまうような気がしてしまうのだ。彼女は、綺羅沙希はそんな存在感を持つ存在なのだ。でも、と鷹也は沙希に向き直る。

 

「そんなことにはならないですよ。」

「へえ……」

 

沙希の表情が面白そうなものを見つけたと言わんばかりに笑みに歪む。その笑みはとても綺麗で、とても冷たい。背筋に冷や汗が伝うのが分かった。

 

「あの子たちはまだまだ大きくなる。今はまだA-RISEに勝てないけど、いつかもっと大きくなっていく。」

「そうだね、あの子たちはまだ発展途上だよ。でも、それ以上にA-RISEを持っていくのがあたしの仕事だよ?」

「ええ、分かってます。」

 

そう言って息を軽く吸い込む。沙希の目が少し探るようなものに変わったのを感じて、その視線をまっすぐに受け止めつつ口を開く。疑う余地もないように、これが本心だとわからせるように。

自分はここから変わるのだ。

 

「だから、俺があの子たちを羽ばたかせてやります。俺があの子たちを支えます。」

「それは……あの子たちが望んだから?」

「違いますよ。俺は……あの子たちのそばにいたい。」

 

沙希の問いかけにまっすぐに答える。もう迷わない。もう逃げない。自分の心を、感情をまっすぐに見つめて話す。

 

「こんな俺でも、こんな俺だからこそあの子たちは望んでくれる。そばにいてほしいと願ってくれる。そんなの重いって、応えれないってずっと思ってた。弱いからって。」

 

落ちてくる夕日が沙希の頬を赤く染めていく。いつだって鷹也のことを見透かしていて、いつだって鷹也のことを振り回した沙希。なんだって見通されていたからこそ、沙希に向って宣言することに意味がある。

 

「でも、もう逃げないって決めたんです。」

 

沙希の笑みが少しだけ優しくなった気がして。それに気が付きつつ、鷹也は続ける。

 

「弱いからって逃げるんじゃない。自分の中の感情を見ないふりをして、弱さを言い訳にして、自分を否定することを支えにして……。そんなのはもうやめる。あの子たちが支えてくれるから、背中を押してくれるから。それなら、俺はこんな俺を信じられる。信じて進もうって思える。あの子たちのそばにいたい自分を否定しないでいられる。」

「………………………」

「だから、俺はあの子たちのそばにいます。あの子たちがこれから進む道に俺もいたいから。あの子たちの進む物語の中に俺もいたいから。支えられるだけかもしれないけど、その支えにいつか何か返すためにも。」

「ふっ……ははっ……!!」

 

まっすぐに沙希の目を見て宣言してやれば、沙希は本当に楽しそうに、こらえきれないというように笑いだす。その笑みは本当に楽しそうで。いつもの無邪気なものとは違うけど、冷たいわけでもない。そんな笑顔。

 

「いいよ!いいよ鷹也!面白くなってきた……!」

 

沙希はそう言って両手を広げる。本当に楽しそうに、本当に面白そうに。背に沈む夕日を背負って女王は笑う。

その圧倒的な存在感に鷹也は押されそうになって、

 

「あ!鷹也くん!!」

 

不意の声で踏みとどまる。そして小さく笑みを浮かべる。本当にいいタイミングで来てくれる。つくづく物語の主人公たちみたいなことをしてくれる少女たちだ。

彼女たちに支えられ、鷹也が沙希を見つめ返すと、沙希はより笑みを深くして口を開く。

 

「あたしたちを……あたしを失望させないでよ?」

「あの子たちが、俺が楽しむ余裕もなくさせてあげますよ。」

「……本当に変わったみたいだね。」

「上に行きますからね。変化を恐れてなんかいられない。」

 

そっか。と沙希は身を翻して歩き出す。そして、少し離れて見ていたμ’sのメンバーとすれ違う際に、鷹也に背を向けたままで軽く手を挙げて言う。

 

「やっとスタートだね。待ってるよ。」

「……すぐそこまで行きますよ。」

 

きっと沙希は自分のことを、自分のことだけ考えていたのかもしれない。でも、彼女の言葉が鷹也のことを追い詰める一方で、鷹也が自分を見つめなおすきっかけになったのも事実で。彼女の言葉があったから成長できたのも事実だから。だから、小さくつぶやく。

 

「……ありがとうございました。」

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

「よ、ことり。学校終わったんだね。」

 

駆け寄ってくることりに微笑みかける。ここまで走ってきたのだろう。秋になって少しずつ寒くなっている中で少し汗をかいている。

真っ先に穂乃果か凛が駆け寄ってくるかもと思っていたので、少し意外に思いつつチラリと視線を向けてみれば駆け寄ろうとして海未と花陽になだめられているところだった。そんな様子に小さく笑みをこぼしつつ、ことりに向って言う。

 

「おかえり。」

「うん、ただいま。」

 

留学をやめて、そしていつもの居場所に帰ってきたことりは満面の笑みを見せる。

その頭を軽く撫でてやりつつ、思う。まだまだいろいろ話したいことはある。今回思ったこともたくさんある。謝らなくちゃいけないことだってたくさんある。でも、それは後でもいいだろう。

 

「まだ一緒にいてくれるんだよね?」

「そうだね。まだことりと、みんなと一緒に俺はいたい。いいかな?」

 

今はただこれだけ伝えたいと思う。笑顔でことりの言葉に頷くと、ことりだけでなく後ろにいるみんなも本当にうれしそうに笑ってくれて。

キラキラとした彼女たちの物語。そこに自分は入っていきたい。彼女たちだけじゃなく、自分の物語として進んでいきたいのだ。そして、願わくば彼女たちのことをずっとそばで見ていたい。

産毛の小鳥たちがいつか空に羽ばたくまで。大きくなるまで見ていたい。

ことりが口を開くのに合わせてみんなが口を開く。それに鷹也も応える。

 

―――――――――――おかえりなさい!

―――――――――――ただいま。

 

待ってましたとばかりに駆け寄って、抱き着こうとしてくる穂乃果と凛を撫でて止めつつ笑う。みんな笑顔だった。花陽も、凛も、真姫も、にこも、絵里も、希も、海未も、穂乃果も、ことりも。その笑顔をみつつ思う。

もう迷わない。もう逃げない。自分はこの子たちのそばにいたい。支えるだけでなく、支えられつつ、その隣で彼女たちの物語を見ていたい。それが自分の望みだ。それはもう絶対に曲げることはない望み。

小鳥が、彼女たちが大きくなるまで、いつもそばに。

 





はい、いかがだったでしょうか?

今回でこの物語最終回となります。
少しでもみなさんの心に残る作品となっていればうれしいなと思います。
回収できていない伏線だとかは二期編を別タイトルで更新していくのでそちらをお楽しみに!

最初は勢いだけで書き始めたこの物語ですが、気が付けば多くの方に読んでもらえていて本当にありがたい限りです。正直このあとがきを書いていてちょっと泣きそうです。

途中鬱展開のようなことも多く、鷹也の立ち直りなどうまくまとめきれたかも不安ですがここまで長々とお付き合いいただけたのは本当にうれしいです。
活動報告にも書きましたが、気が付けば総合評価は500を超え、UAは100000を超えていました。更新頻度が低くなってしまいがちである中、読んでくださった皆さん本当にありがとうございます。
私の低い語彙力では感謝してもしきれないです。

長くなってしまいましたとりあえずここらでまとめ。
後ほど番外編を一つ投稿しますが、ひとまずはこの作品は完結となります。ここまで読んでくださった方には本当に感謝しています。
『小鳥が大きくなるまで、いつもそばに』という作品が皆さんの心に何か残していれば幸いです。
それでは番外編、そして二期編でもお会い出来たらうれしいです。
本当に長い間ありがとうございました。
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