小鳥が大きくなるまで、いつもそばに   作:雪詞

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お気に入り登録50 UA5000超えの記念です。
しょぼい記念と思う方もいるかもしれませんがいいじゃないですか。嬉しかったんですもの。

というわけで本編とは関係ない番外編です。
鷹也とμ’sが過ごしてる時間はこんな感じかな……と想像を文にすることを重点に置いたので特に設定も深く決めず、面白いかと言われれば自信はないです(`・ω・´)
μ’sの9人が高校を卒業してもμ’sとしてアイドル活動を続けたらというifストーリーです。

それでは、どうぞご覧ください。




番外編:彼と彼女たちのもしもの未来

朝日が部屋を照らす。本来カーテンによって遮られるはずのその光は、カーテンが開け放たれたままであったために、一切の遮断なく彼女の顔に直接当たることとなった。

 

「ん……今、何時……」

 

彼女は枕元に置かれている携帯電話を手に取る。昨日はつい気持ちが昂ってしまったせいか、なかなか寝付けなかった。だからだろうか全くと言っていいほど働いてない頭で彼女はそこに表示されている時間を見る。午前11時。

 

「え……?」

 

集合時間は何時だっただろう?現在の時刻と同じ時間ではなかっただろうか?一瞬で覚醒した頭は昨日の記憶を容易に引っ張り出す。その記憶が間違いでありますように。切に願うがその時、手元の端末が着信を告げる。画面を確認。恐る恐る通話ボタンを押すと、

 

『なにやってるんですか!もう時間ですよ!穂乃果!』

「うわああああ!!ごめん、海未ちゃん!みんな!今急いでいくー!!」

 

そうして高坂穂乃果は慌ててベッドから飛び起きた。

 

 

 

 

☆彼と彼女たちのもしもの未来☆

 

 

 

 

「ほんっとーにごめんなさい!!!」

「「「…………」」」

 

土下座せんばかりに謝罪する穂乃果をメンバー皆で見る。最近は、というか仕事として活動を始めてから遅刻もなくなっていたのだが。まさかこの日に再発するとは……とメンバーから1歩引いた位置で穂乃果を見ていた鷹也はため息をつく。

 

「当日に遅刻ってどうなってんのよ、あんたは……」

「もう学生じゃないんだから……。仕事としてやっている以上、最低限のルールは守りなさい?」

「はい……絵里ちゃん……にこちゃん……」

「ま、まぁ、スタッフの皆さんには鷹也さんが説明してくれたから……」

 

にこと絵里にたしなめられて小さくなる穂乃果を見ていられなくなったのか、花陽がそう言って鷹也に確認するような視線を向けてくる。まあ、一応鷹也の責任でもあるので説明はしてある。とはいえ、

 

「説明はしたけど時間はないからな。すぐ準備。そして穂乃果、後で覚えてろよ。お前の遅刻で俺が社長にどやされるんだからな……!」

「うぅ……鷹也くん、ありがとう……ごめんなさい……」

「穂乃果、行きますよ。こっちです。全く、あなたという人は。だから常日頃から……」

 

穂乃果が謝りながらも、説教しながらの海未に案内されて急いで準備に入るのを確認して、鷹也はもう1度大きなため息をつく。しかし、今気にしてもそれは仕方のないことであり、そんなことを考えている暇がないことも事実だ。すでに予定より時間は1時間遅れ。何曲かは本番のようにダンスの確認などしたかったがもう無理だろう。昨日までにしてきた練習を思い出して頑張ってもらうしかない。

 

「社長、怒ると怖いからにゃ~……」

「そうなんよね~。ごほんごほん……君、これはどういうことかね……?きちんと自分の口で説明してくれないか……?」

「あ、希ちゃん、すごいにゃ~!よし、凛も!こほん……鷹也くん……?どう責任とるのかな……?君の立場で、君のその1社員でしかないその立場で……ねえ?」

「お~凛ちゃんも似てるやん!」

「えへへ。そうかな~」

「2人とも、お兄ちゃんの顔が引きつってきてるからそろそろやめた方が……」

 

声真似をしてふざける凛と希をことりが止める。しかし、少し遅い。鷹也は止められてキョトンとしている2人を見て、引きつった顔を無理やり笑顔にすり替える。

 

「凛、希。この状況下で人の不幸笑うなんて余裕だな。あんま調子乗ると雑用手伝わせるよ?」

「それ、ただの八つ当たりにゃー!!」

「職権乱用はんたーい!」

「人の恐怖心煽って楽しむ方が悪い。雑用の辛さ、思い知らせてやるよ……!」

「はいはい、落ち着きなさいよ。全く。」

 

八つ当たり気味の鷹也におびえる凛と希の様子を見て、あきれたように言うのは真姫。

 

「そんなことしてる場合じゃないでしょ?早く準備しないと間に合わないわよ。」

「……真姫に助けられたね、凛、希。よし、みんな。穂乃果が来たら始めるぞ。時間ないからダンスの確認まではしない。立ち位置等の確認をする程度になるけど……」

「大丈夫よ。」

 

ほっとした様子の2人をジト目で見てから、真姫に促された鷹也は状況の確認とこれからの動きの説明をする。正直不安は残る。しかし、そんな鷹也の様子を察したのかにこがいつもと違う、でもある意味にこらしい真剣な表情で言う。

 

「この程度どうってことないわよ。だから、あんたはどんと構えてる。一応、私たちのマネージャーでしょ。」

 

そう言って鷹也の胸を拳で軽くポンと叩くと、いつもの笑顔。

 

「この大銀河宇宙ナンバー1アイドルにこにーと大銀河宇宙ナンバー1ユニットμ’sに任せときなさい。」

「……りょーかい。頼んだよ。」

 

それでいいのよ、それで。と言ってそっぽを向くにこに感謝の意味も込めて微笑んで、他のメンバーも見渡す。みんなも笑顔でうなづいてくれた。どうやら大丈夫なようだ。そこで、穂乃果と海未も準備を終えて帰ってくる。なになに?なにかあったの?とあたりを見まわす穂乃果になんでもないと言いつつ、鷹也はようやくそろった9人に告げる。

 

「よし、今回がμ’sがデビューしてからの初単独ライブだ。時間はないけどなんとかなる。リハーサル始めるぞ!」

『はい!!!』

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院を卒業した彼女たちがもう1度集まり、アイドル活動を本格的に始めよう。そう決めたのは真姫達が卒業した年の春のことである。大学に通っているメンバーも多かったし、難しいかと思われたが彼女らはもう1度集まり話し合った。そこで決めたのだ。

 

『ここでやらないで後悔したくない。』

 

スクールアイドル活動をしていた時から有名だったこともあり、所属する事務所に困ることはなかった。ただし、選んだのは小さい小さい弱小事務所。大きな事務所からも声はかかっていたのだが、所属にある条件を加えていたことによってこの事務所に所属となったのだ。

その条件とは、『南鷹也を専属のマネージャーとして自分たちのサポートに付けること』

最初その話を聞いたときは鷹也も反対したのだ。確かに自分は大学卒業後も大学院に進み、まだ将来は確定していない。自分がスクールアイドルだった時もサポートしていたのも知られている。だが、それでも素人に変わりはない。だから、きっとどこまでも大きく羽ばたいていけるだろう彼女たちを自分が入って行くことでその可能性がつぶれてしまうのはどうしても我慢できなかった。

 

「お兄ちゃん、ずっと見ててくれるって、応援してくれるって言ったのに……」

「うっ……それは……」

「いつだってサポートしてくれるって言ったじゃん。」

「鷹也さん、1度言ったことを撤回するのですか?」

 

しかし、ことり、穂乃果、海未の3人に言われてしまい、さらに他の6人にもじーーっと見つめられて無言の要求をされる。それでも渋っていると、最終的には鷹也を説得するまでアイドル活動をしないと言い出す始末。

 

「分かった。分かったよもう……」

 

やったーと喜ぶ9人を見ながらため息をついていると絵里が近づいてくる。

 

「ごめんなさい。無理言ってしまって……」

「だったら最初から止めるの手伝ってくれよ。絵里もあっちの味方だったじゃんか。」

「私だって音ノ木坂学院でスクールアイドルをしてた時からサポートしてもらってたあなたも一緒の方が嬉しいしね。やっぱり、μ’sは9人+1人でしょ?」

「あくまで俺はサポート。μ’sは9人だ。」

 

本当にそこは譲らないわね。そう言って笑う絵里に当たり前だと返しつつこれからの予定を考える。やることはたくさんである。大学院はどうするか。そもそも急に本格的な活動を始める前に学ぶこともたくさんあるだろうし。

 

「あー絵里ちゃんと鷹也くん、なに話してるのー?凛も聞きたいにゃー!!」

「なんでもないわよ。凛、はしゃぐのはいいけど、高校も卒業したんだからはしゃぎすぎないの。」

 

そう言って絵里が凛の方へ行き、離れていくと次にことりがそばにやってくる。

 

「お兄ちゃん、ありがとうね。」

「妹と妹みたいに世話のかかる8人が一緒に頑張ろうとしてて頼まれたら断れないさ。」

「……不安?」

「まあね。でも、この9人と一緒なら……」

 

鷹也の視線の先にいるのは、穂乃果、海未、凛、花陽、真姫、にこ、希、絵里。そして横に目を向けてことり。

 

「μ’sと一緒ならなんとかなるよ、きっと。」

「うん。大丈夫、私たち頑張るね、お兄ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

それからの1年。鷹也の生活は多忙を極めた。全く分からない手探りの状態からのスタートながらも、必死に勉強して仕事の内容確認や大学に通っているメンバーもいるために複雑になってしまうスケジュールの管理。全部死に物狂いで取り組んだ。小さい事務所でもある程度のネームバリューのおかげもあり、9人も少なくはない自分たちの仕事を真剣に頑張っていたというのもあるし、自分が足を引っ張るわけにはいかなかった。所属先の事務所の社長は普段は温厚なのだが怒らせると、本気で怖いからというのも理由の1つではあったが。そして、活動開始から1年。彼女たちは単独ライブを行うところまできたのだ。

 

 

 

 

 

 

「た、鷹也さーん!!た、たすけてくださいーー!!」

「花陽?どうしたー?」

 

鷹也がライブの音響担当のスタッフと話しているとちょうどリハーサル中の花陽からいつものセリフが聞こえてくる。ライブの要綱に目を通していた視線を上げると、ステージの階段でおろおろしている花陽の姿。

 

「立ち位置の目印がたくさんあって分かんなくなっちゃって……!!」

「落ち着け落ち着け!すみません!1度ストップで!!」

 

今にも泣きそうな花陽をなだめつつリハーサルは一時中断。こういうテンパりやすいところは高校の時と変わらないなと感じながら、鷹也はステージ上に上がり花陽の言う通りに床を確認する。そこには

 

「うわ……いつのまに……」

 

自分の立ち位置に一応目立たないテープなどをあらかじめ貼っておく。一応それは今回少しならばありということにしている。できればない方がもちろんいいのだが、中心にくらいは貼っておかないとステージの端に寄ってしまったりということが起こりかねない。で、あとは少しならば自分の自信ないところに目立たない程度に貼っていいとなっているのだが、

 

「これじゃ逆効果だっての……。目立たないようにって聞いてたのか?あいつら……」

「あ、あはは……」

 

自分の目印をわかりやすくしたかったのだろう。鷹也の足もとにはいくつかの派手な目印。ペンで落書きして目立つようにしているので客席からは見えないが、これでは他の目印が目立たずに分かりづらくなってしまっている。

 

「ったくもう……。花陽、もう大丈夫?大丈夫そうならリハ続けてて。」

「は、はい。分かりました。でも、この目印は……」

「今誰か確認してきて直させる。大体予想付くし……。じゃ、続けてて。すみませんでした!もう1度小泉のソロからお願いします!」

 

鷹也はため息をついてこんなことをするであろう人物のもとへ向かう。彼女らのソロの出番はすでに終わった後ともう少し後の方であるし、リハまでまだ少し話をする時間はあるだろう。

 

 

 

 

 

 

「凛!穂乃果!どうせあのすごい目立つ立ち位置の目印は2人のだろ?はずして目立たないのにしてくれ。」

「ぶー!なんで最初から穂乃果たちだって決めつけるのさー!」

「そーだそーだー!!凛たちじゃないかもしれないはずにゃ!」

「違うのか?なら謝る。でも、嘘ついてたら……」

「「ごめんなさい、すぐ直します。」」

 

鷹也は頭を下げる凛と穂乃果の前に立つ。一瞬むくれて誤魔化そうとしたのが気に入らないがこの2人はいつもこんな感じだしもはやなんとも言いようがない。控室にはリハーサル真っ最中の花陽、その次の出番の順番の関係で控えている海未とことりと真姫を除いたメンバーがみんないるが一様に苦笑い。

 

「珍しいね?凛ちゃんも穂乃果ちゃんも立ち位置の不安なんかよりもどっちかって言うたら、ライブが楽しみでたまんない!ってタイプやん?」

 

希が不思議そうに聞くと、穂乃果と凛は気まずげに顔を見合わせて苦笑い。

 

「いや~こんなに曲数歌ったり、ライブのMCするの始めてだから覚えきれくなりそうで不安で……」

「凛たち、ライブは楽しみだよ?でも、あんまり記憶力よくないし……」

 

そう言う凛と穂乃果は少しうつむく。大きな舞台での単独ライブ。普段のライブではこんなことはないのだが、さすがに緊張するようだ。

 

(この2人でこの様子じゃあ他のみんなも……)

 

鷹也はそう思いつつも2人を見る。らしくないのだ。緊張はしててもここまでの緊張を表にだすのはこの2人は普段はない。次に周りを見る。しかし、

 

「さすが年上3人は落ち着いてるみたいだな。」

「当たり前でしょ。もういい大人……じゃなかった永遠の少女だけど、まあ焦ってもしょうがないじゃない。」

「にこっち……もう大学卒業の歳なんやしさすがに少女っていうのは無理があるんやない……?」

「っていうか永遠の少女って……。で、でもまあ、にこの言う通りよ。焦るより、緊張するよりも、楽しまなくちゃ。」

「「大人っぽい……!!」」

 

意外にも、いやさすがというべきだろうか。鷹也が見る限りは落ち着いている3人の様子に穂乃果と凛が何やら感動している。にこは永遠の少女を否定されて憤慨しているが。そんな様子をみて鷹也は穂乃果と凛に話しかける。

 

「3人を見習いなよ。お前らは確かにμ’s内の勉強できない2トップだけど……」

「ちょっと待ってよ!2トップってことは凛たちだけ!?それは納得いかないにゃ!!」

「そうだよ!にこちゃんも入れて3トップだよ!」

「ちょっと!どういう意味よ、あんたたち!!」

「悪い。そこは俺のミスだ。確かにμ’s内の勉強できない3トップの中の2人だけど……」

「ちょっと!?認めないでよ!てか、聞きなさいよ!!!」

 

にこが騒いでいるが全員スルー。事実、高校時にこの3人に苦労させられたことはここにいる全員が忘れない。鷹也は騒いでいるにこを希に任せて黙らせつつ、穂乃果と凛に言う。

 

「2人だってこれまで何度もライブしてきただろ?大丈夫。できるよ。」

 

これまでこれだけの規模のライブはなかったが、ライブと呼べるものは何度も経験しているのだ。それを鷹也は見てきている。だから言える。きっと大丈夫。

 

「鷹也の言う通りよ?それに2人ともいつもステージ上目いっぱい元気に動き回っているじゃない。今回もそれでいいのよ。」

「そ、そうだよね……!うん、もう大丈夫!私、頑張るよ!!」

「凛もがんばるにゃー!!」

 

なんとか不安がなくなった2人の様子に安心し、上手くアシストしてくれた絵里に鷹也はお礼も込めてアイコンタクト。絵里も微笑んでそれにこたえる。この元気印の2人が緊張していては他のメンバーにも影響が出てしまう可能性もある。ここで緊張をほぐせたことは本当に良かっただろう。

 

「もう大丈夫だな。」

「「うん!」」

「よし、後で立ち位置のテープ何とかしとけよ。」

「「は、はーい……」」

 

 

 

 

 

それからのリハーサルは何とか問題なく進んだ。途中で穂乃果が出番を忘れたり、花陽がまた立ち位置を間違えて励ますのに苦労したり、凛がゴンドラに乗っての動作確認ではしゃぎすぎて海未と真姫を道ずれにゴンドラから落ちかけたりしたがもうなんか鷹也からすれば些細な問題だ。修正できたし、ライブに致命的な問題でもない。

 

「もう、本当に直前リハの状態じゃないな……」

 

小さくため息をつく。だが、もう時間がないし後の時間はライブまでメイクや着替えをして待つだけ。鷹也はメイクをしているところにいても仕方ないので、各スタッフとライブの最終確認をしていた。こういうことに関してはいくら確認してもしたりないだろう。というわけでともう一度ステージ上の確認をと思った時、ポケットの携帯が着信を告げる。相手はことり。

 

『お兄ちゃん?』

「ことり?どうかした?」

 

メイクが終わるには少し早い。現に電話の向こうでは慌ただしい声が聞こえている。おい、穂乃果。勝手に海未のメイク道具を使うんじゃない。海未の担当のメイクさんが困ってるだろ。そんな感想を辛うじて抑えつつ、鷹也はことりに用件を聞く。

 

「今、メイク中だろ?」

『うん、そうなんだけど……。お兄ちゃん、真姫ちゃん見てない?』

「は?真姫ならそっちにいるんじゃ……」

『それがいなくって……みんなも見てないって……』

「真姫が……?」

 

真姫がいなくなった。にわかには信じがたい。彼女の性格上、ここまできてライブをすっぽかしたり、みんなに迷惑をかけるような行動をするとは考えにくい。

 

「いつから?」

『たぶん控室に戻ってきてないんだと思う……。お兄ちゃん、真姫ちゃん、なんか事件に巻き込まれたとか……』

「落ち着いて。どっかでぼーっとしてるだけかもだし。ちょっと探してみるからこっちは任せてみんなには準備に集中してって伝えて。」

『うん……』

 

ことりとの通話を切って鷹也は本日何度目かのため息をつく。なんでこうこのユニットは問題を起こさずにはいられないのだろうか。

 

 

 

 

 

鷹也が少し探すと意外と真姫はあっさり見つかった。客席の1つ。そこでステージを眺めてぼーっとしていた。切り取ればそのまま絵になりそうなほどの美しさで真姫はただただ座ってステージを眺めている。このままずっと見ていたいような気もするがそうもいかない。

 

「おい、真姫?」

「え……?ゔえぇえ!!いつからいたのよ!!」

「そんな驚かなくてもいいだろ?」

 

声をかけると過剰な反応を見せる真姫に苦笑しつつ、鷹也は真姫の隣に腰かける。本当ははやく控室に戻さなくてはいけないが先ほどの様子からするとなにか悩みがあるのかもしれない。このライブ直前になっても考えてしまうことだ。ライブ中に頭をよぎるようなことがあってもいけない。

 

「急に声かけるからでしょ!まったくもう……」

「ごめんごめん。で、なにしてたんだ?」

「べ、別に何もしてないわよ……」

 

ふてくされる真姫に軽く謝りつつ鷹也は聞く。何もないとそっぽを向いていう真姫だが、それならそれでいい。悩みがないのが1番だ。だけど鷹也はその言葉に反応しない。黙って隣に座っている。数年単位で親交があるのだ。ただでさえ素直じゃないけどわかりやすい真姫の言葉が心からのものかなんてなんとなく分かる。しばらくの沈黙。

 

「…うう……分かったわよ、もう……」

 

チラチラと鷹也を横目で伺っていたがついに根負けした真姫がため息をついて、鷹也の方を向く。控室戻らなくちゃいけないんじゃない?という真姫にもう少し余裕あるよと返して鷹也は真姫の言葉を待つ。

 

「考えてたのよ。これからのこと。」

 

真姫はそう言ってステージに視線を向ける。そこはμ’sと描かれた装飾など、派手に彩られた彼女の、彼女たちだけのためのステージ。

 

「アイドル活動を仕事として始めるときは賛成したわ。私にとってもμ’sでの時間はかけがえのない物だったし、まだもっと続けたい。そう願っていたから。」

 

それは全員の願いだろう。だからこそ、スクールアイドルという枠組みでなくなった時点でやめようとしていたものをここまで続けているのだから。

 

「それで一生懸命に頑張ってきたわ。みんな真剣に。大変なこともあったけど……みんなで乗り越えてここまで来た。単独でライブができるまでになった。これからも頑張ってまだまだ続けたい。それは本当に思ってる。」

 

でもね。真姫はそう続ける。

 

「でもね、私は医者になるという選択肢を捨てきれないでいるの。医学部の大学に入って、でもアイドルで頑張るって決めたのに。こんなところまで来たのにまだ。」

 

鷹也は思い出す。真姫の通っているのは医学部の大学。病院を経営している家族の元で育ち、医者になるべく小さなころから教育され、自分もそれを望んでいた。それが今、アイドルという違う道を見つけてそちらを歩んでいる。真姫の視線はステージから離れ、天井へ。その眼は何も見ていない。

 

「アイドルなんかいつまでも続けられるものじゃないし、それなら早いうちにやめて医者になった方が。とかそんな風に考えちゃう自分が心のどこかにいるのよ。」

 

嫌な性格よね。そう自虐的に笑う。真姫らしくない笑み。

 

「で、みんな頑張っているのにこんなんでいいのかって考えちゃって。だからちょっとぼーっとしてたのよ。目標のライブが近いからちょっと緊張してるみたい。もう行きましょ。」

「待って。」

 

この話は終わり!と立ち上がる真姫を止める。このままではダメだ。本能的に鷹也はそう思った。こんなの真姫らしくない。いつもいじっぱりで素直じゃなくて、でもとても優しくてとても強い。そんな少女のはずだ。西木野真姫という少女は。

 

「真姫はアイドルやりたくないの?」

「そんなことない!!アイドルは続けたいわよ。みんなと、μ’sと一緒に……でも……」

 

鷹也の言葉に真姫は強い口調で言う。これは本心だろう。昔の真姫ならこんなに素直に話していないかもしれないが、今の真姫の中のμ’sはそこまでの存在になっているのだろう。

 

「じゃあ、真姫がやりたいことは?それってなに?」

「それは……」

「医者になりたいの?」

 

真姫は押し黙る。それも真姫の本心なのだろう。幼いころからそう目標にしてきた。両親からもそれを期待されてきたのだから。でも、

 

「真姫。大丈夫。」

「え……?」

 

さっき言っていた言葉の中で気になったのだ。

 

『アイドルなんかいつまでも続けられるものじゃないし、それなら早いうちにやめて医者になった方が。』

 

それでいて先ほどのアイドルを続けたい。やりたいという発言。やりたいことは、真姫の本当にやりたいことははっきりしているじゃないか。だから、鷹也は保証する。

 

「大丈夫。俺がお前を、μ’sをいつまでも……この世界での居場所をいつまでも作ってやる。」

「…………」

 

鷹也はそのためについて来ているのだ。μ’sを、手間のかかるこの9人を見守り、応援し、導いてやるために。

 

「だから心配すんな。真姫は自分のやりたいことをやればいい。」

「……なにそれ。イミわかんない。」

 

笑顔でそう言った鷹也に真姫はそっぽを向いてそう返す。そんな様子がいかにも真姫らしくて。

 

「まあ、医者の方を本当にやりたいなら、そっちも応援するから安心してくれ。」

「どうやってよ。ほんとにもう……」

 

からかうようにそう言った鷹也をあきれたように見つつ、真姫は今度は彼女らしい自信にあふれたような、きれいな笑顔を浮かべる。

 

「そこまで言ったんならちゃんとサポート続けてよ?まだアイドル続けてみるから。」

「おう、任せとけ。」

 

鷹也の言葉に笑みを深くした真姫はもう迷ってはいない。いや、まだ迷うかもしれないが今は大丈夫。迷いそうになってもいつでも味方してくれる。そんな人がいることを思い出したから。今度こそ控室に向かう真姫の背中はいつもの自信に満ち溢れた、強い彼女のものだった。

 

 

 

 

 

そしてついにライブ直前。すでにファンの声は聞こえてきていて、μ’sの9人+1人、そしてここまで準備してくれたスタッフがステージ裏に集まる。そして、μ’sを中心に自然と円陣ができる。そして、リーダーである穂乃果の声が響く。

 

「みなさん!ここまで準備してくれて、ありがとうございました!」

 

穂乃果が全員を見まわし、鷹也と視線が合う。鷹也はうなづいてやる。

 

「まだまだ、頑張んなきゃいけないことも多くて、迷惑もいっぱいかけたと思います。でも……でも、ここからは楽しんでやりきるだけ!自分たちも笑顔で、ファンのみんなも笑顔にして、全力で楽しくいきましょう!!」

『おーーー!!』

 

みんなの声が重なる。そしていつもの掛け声が始まる。9人のピースが集まる。

 

「1!」 明るい声で穂乃果が

「2!」 すこしふわふわした声でことりが

「3!」 凛とした声で海未が

「4!」 少し癖のある綺麗な声で真姫が

「5!」 元気な声で凛が

「6!」 小さくも可愛い声で花陽が

「7!」 アイドルらしい声でにこが

「8!」 子供っぽくも大人っぽい不思議な声で希が

「9!」 澄んだきれいな声で絵里が

 

それぞれ番号を大きな声で言う。そして

 

『10!』

 

このライブに関わった全員。ファンの分もこめてみんなで声を上げる。最後に顔をあげ、最高の笑顔で穂乃果が叫ぶ。

 

「よーし!最高のライブにしよう!」

 

9人が、アイドルが、μ’sがステージ上へかけていく。

鷹也が言いたいことは穂乃果が言ってくれた。自分たちも、ファンも笑顔で。楽しく全力でやりきれ。だから、もう彼女たちの背中に向かってかける言葉はない。でも、あえて一言だけかける。確認なんかではなく、応援の気持ちを込めて、彼女たちアイドルをステージに送り出す。

 

「全力で楽しんでこい!!!」

 

 

『μ’----s!ミュージック——————スタート!!!!』

 

 

ファンの大歓声とともにライブが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わっちゃたね……」

「そうだな。ファンも喜んでたし大成功じゃないか?」

 

がらんとした観客席に座って鷹也とことりは話す。ライブは大成功だった。終始盛り上がっていたし、ファンも満足そうに帰って行った。

 

「でもなんかさみしいな……」

「それは……そうだろうな。」

 

ことりの言葉に鷹也は周りを見渡す。先ほどまでの熱気が嘘のような静まり返った空間。片付けは後日。そしてまだ他のメンバーやスタッフは身支度が終わっていないようで、裏から出てこない。

 

「今回最初はどうなるかと思ったけどなんとかなってよかったよ。」

「あはは……いろいろあったもんね……」

 

鷹也の心の底からの安堵にことりは苦笑い。確かに今日だけでいろいろあった。最初は穂乃果の遅刻に始まり、立ち位置のテープ、ゴンドラからの落下未遂、直前なのに上手くいかなかったリハーサル、本番前にいなくなる真姫。正直上手くいったことが驚きなくらいだ。

 

「でも、お兄ちゃんが頑張ってくれたから上手くいったんだと思うな。」

「そんなことないよ。あくまで俺はサポートしただけ。頑張ったのは、主役はμ’sだよ。」

 

ことりの言葉にそう笑顔で返す鷹也。そんな鷹也の返しが気に入らなかったのか、ことりは首を振る。

 

「そんなことないよ。お兄ちゃんがいろいろサポートしてくれなかったら、全部だめになってたよ。」

 

少なくともことりはそう思うのだ。今日、穂乃果と凛の緊張をほぐしたのも鷹也だし、リハーサルで上手くいかなかった部分を本番までに修正して見せたのも鷹也、真姫をちゃんと連れて戻ってきたのも鷹也だ。細かいところでは指示を出していただけかもしれないがそれでも鷹也の貢献は大きいはず。

 

「だから、お兄ちゃん。これからもμ’sのサポートお願いね?」

 

そう言って笑顔を見せることり。鷹也はこのお願いに逆らえた試しもないし、逆らう気もないだろう。ことりの頭に手を置き、鷹也は笑って言う。

 

「まだまだ手のかかるんだから、見てるしかないだろ。ずっと応援して、見守ってるよ。」

 

確かに鷹也は今回大変だった。様々に問題を起こすμ’sに振り回されっぱなしだった。でも、ステージ上にたった9人は、ファンの歓声を、声援を一身に受ける彼女たちはとてもキラキラしていて。あの笑顔を見続けたいと思ってしまったのだ。

 

(まだ手がかかるし、手伝って見守んなきゃ不安だしな。あの笑顔はこれからもずっと……)

 

「おーい!ことりちゃーん!」

「鷹也さーん!打ち上げいきましょう!」

 

ステージから穂乃果と海未に呼びかけられ、ことりと鷹也がそちらに目を向けると8人の姿。

 

「早く行っくにゃー!!!」

「ちょっとは落ち着きなさいよ、まったく……」

「でも、楽しみだね。」

「お腹すいたー。さすがにライブのあとはお腹空くね。」

「もう希!我慢してたのにそんなこと言うから……にこお腹空いて我慢できないー!早くしなさいよ!」

「にこも希ももうちょっと待ってって。鷹也、ことり!行くわよ!」

「うん!今行く!」

 

ことりが立ち上がり、こちらに手を伸ばしてくる。その顔は満面の笑顔で。ステージ上で呼んでいる8人の顔も同様。全員が笑顔で楽しそうにしている。

 

「分かったよ。」

 

まだまだ手はかかるし、正直大変だ。でも、妹と妹のような8人のあの笑顔は見守りたい。苦労なんて大したことない。あの笑顔を守れるのなら。そう思えてしまうのだ。

小鳥は大きくなり、次のステージへと昇った。これからも見守ろう。大きくなったとはいえまだ成長する。その大きな翼で羽ばたくまでの成長を。




どうだったでしょうか……
書いてて面白かったので後悔はしていませんが読まれてると思うと反応が怖い……

でも、頑張ったので評価、感想いただけると嬉しいです。
もちろんお気に入り登録してくださった方も感謝です。


本編はただいま絶賛執筆中ですのでもう少しお待ちください。
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