ラブライブ! ~南ことりの白と黒 笑顔と嫉妬のOthello~ 作:山梨まりか
某学園、アイドル研究部部室
夏休みライブを間近に控えた8月上旬のこと
μ'sのマネージャー、俺くんは席を外している
穂乃果「そういえば穂乃果、前から思ってたんだけど、俺くんって結構かっこいいよねー?」
海未「!?」
真姫「!!」
ことり「(今、部室のなかで少なくとも3つの視線がぶつかりあったね。穂乃果ちゃん、海未ちゃん、真姫ちゃんの視線が真っ正面から、ぱちりと激しく火花を散らしたの。なぜならそれは、3人ともが同じ想いを抱いているから。つまり、俺くんへの燃えさかるような恋心)
穂乃果「昨日、ちょっと気になることがあって俺くんに電話したら、つい長話になっちゃって。結局朝の4時までお話してたよ。えへへ。楽しかったなー」
にこ「気でも狂った? あの俺くんよ? スクールアイドルのマネージャーなんかをやりたがる、スケベ心丸見えの獣みたいなやつ。どこがかっこいいっての? にこにはちょっと理解できないわね」
真姫「にこちゃん。俺くんは紳士よ。パパ同士が知り合いだから、よくパーティーで会うんだけど、彼は女性との接し方は完璧にマスターしてるし、品もいいし、男性として申し分ない。大企業株主の令嬢や、旧家の娘さんたちから引っ張りだこだもの。それにダンスも上手いし。俺くんと手を取り合ってステップを踏んでると、不思議と心が苦しいくらい楽しくなるの」
絵里「へえ……。俺くんにそんな面があるのね。学校じゃまったく表に出さないけど」
凛「というかそのパーティーというのは? 凛たち庶民には想像もできない世界らしいってことは分かるけど。さすが医者の娘は違うにゃ。そういえば俺くんのお父さんも政治家なんだっけ? 上流階級だよね」
穂乃果「そ、そんなことがあったんだ。知らなかったなあ……」キッ
ことり「(あ、穂乃果ちゃんが一瞬だけ真姫ちゃんをにらんだ。その瞳には嫉妬の炎が宿っているように見えたよ)」
海未「えーこほん」チラッ
ことり「ん? 海未ちゃんどうしたの? 思わせぶりな咳払いなんかして」
海未「じつはその真姫が参加していたパーティー、私もその場にいたのです」
真姫「ええっ。そうなの? ぜんぜん気づかなかった」
海未「私とて由緒正しい園田家の跡取りですから。日本の上流社交界ではそれなりに一目おかれている者のうちの一人です。私の父もまた俺くんのお父上と旧知の仲。これは言わないでおこうかと思ったのですが……あのですね、そう遠くない未来に、私と俺くんは結婚することになるかもしれません」
希「えええええ! それって、俗に言う政略結婚ってやつ?」
海未「そうかもしれません。しかし私は愛のない結婚などには賛成できません。そこで私たちは是非これから健全な交際を通じて愛をはぐくむ必要が……」
ガラガラッ
俺「おまたせ」
9人「!!!!!!!!!」
俺「どうしたんだみんな。そんな驚いた顔して。俺の顔がダダにでも見えるのか?」
花陽「な、なんでもないです。ただちょっとタイミング悪いなーと思っただけです!」
俺「そうか。ま、さっそく屋上に行こう。ライブも近いしみっちり練習だ」
練習後
俺「みんなお疲れさま。今日は最高の出来だったな。よし、帰るか」
真姫「あ、あの俺くん!? ちょっと新曲のことで相談したいことがあるから、一緒に帰らない?」
俺「あー……ごめん。今日はちょっとこれから急ぎの用事があるんだ。メールで対応するよ。それか明日、改めて相談してほしい」
真姫「そっか……分かったわ。じゃあメールする」
俺「ああ。それじゃあ」
俺「と、帰路についたわけだが」
俺「どうして三人は俺についてきてるんだ?」
海未「たまたま帰る方向が一緒なだけです。家が近所でしょう?」
穂乃果「うん。偶然だよ偶然」
ことり「あはは……」
俺「まあたしかにそうなんだけどな。俺と三人は帰る方向が一緒」
俺「とはいえこう超スピードで歩いていると……」
俺「ほらもう分岐点に着いてしまった。海未とことりはそっち。俺と穂乃果はこっちの道を行く。ここでお別れだ」
海未「そうですね。名残惜しいですが、また明日。さようなら」
ことり「またねっ」
俺「また明日!」
穂乃果「じゃあねー!」
俺「さて」
俺「これで二人きりだな」
穂乃果「うん。で、穂乃果にお話があるっていうのは……? 真姫ちゃんに『今日は用事がある』って言ったのは、このことでしょ?」ワクワク
俺「ああ。そうなんだ。じつは……。じつは……好きなんだ、穂乃果」
穂乃果「えっ」キター!
俺「俺は穂乃果のことが好きだ。好きで好きでほかのことなどどうでもいいくらいだ。勉強も手につかず、日常生活でもへまばかり、テレビを見てもゲームをしてもまったく楽しいと感じられない。頭はいつも穂乃果のことでいっぱい。穂乃果がいないと俺の人生はまったく、これっぽっちも、意味がない! 好きなんだ、穂乃果。穂乃果は俺のことを好きだろうか? それを聞かせてほしい。返事次第では……俺は死ぬかもしれない! まさに死刑宣告を待ち受ける囚人の気分で、俺は穂乃果の言葉を聞かなくてはならないんだ」
穂乃果「そ、そうなんだ」デレデレ
俺「穂乃果、君の気持ちを聞かせてほしい。早く裁きを下してほしい。俺は死ななくちゃならないのか、それとも生きながらにして、恋という名の天国を楽しむ権利が与えられるのか……どっちなのか!」
穂乃果「私も好きだよ、俺くんのこと」
俺「!!!」
穂乃果「えへへ。……今から穂乃果たち、恋人さんだね」
俺「夢じゃないだろうか。もしこれが夢なら、俺は永遠に目を覚まさなくていい。ああ、天国が降ってきた! 楽園が開始された! 穂乃果が俺のことを好きでいてくれる! 本当なのか? 真実なのか? ……いや、ごめん穂乃果。あまりに大きすぎる幸福は、男を不安にさせるものなんだ。疑っているわけじゃない。疑ってるとしたら、それは俺の、俺自身の頭と耳を疑ってるのだ」
穂乃果「本当に好きだよ。好き。俺くん、大好き」
俺「俺もだ。穂乃果、好きだ。死ぬほど好きだ」
穂乃果「手……とか、つないでみたり……しちゃう?」
俺「いいのか……? 俺にはそんな、そんなことまで許されるのか!」
穂乃果「当たり前だよー。もう穂乃果たち、恋人同士だもん」
俺「生きててよかった、よーかったー!」
電柱のかげ
海未「興味本位で後をつけてみれば」
ことり「こんなことになってるなんて!」
海未「ことり、もう行きましょう」
ことり「えっ、でも」
海未「覗きなど、すべきではありませんでした。……この際だから言いますが、私も俺くんのことが好きでした。しかし今となっては、親友穂乃果の幸福を、素直に祝ってあげようじゃありませんか。私、園田海未にはそうするだけの忍耐が、高潔な精神が、不屈の大和魂が備わっています」
ことり「海未ちゃん、えらい!」
海未「帰りましょう。今日はことりの家に行っていいですか? せいぜい泣かせてもらうことにします」
ことり「もちろん!」
ことり「(海未ちゃんは立派だなあ)」
ことり「(でも、誰もが海未ちゃんみたいに立派なわけじゃない)」
ことり「(そう、たとえば私みたいな女の子は――)」
ことり「(――隠し抱いていた恋心を、復讐の黒い業火へと変質させてしまう)」
ことり「(――誇らしい友情も、罪深い妬ましさへと堕落させてしまう)」
ことり「(ことりだって、俺くんのこと、好きなんですよ?)」
ことり「(――俺くん。私、必ず俺くんを私のものにしてみせる。もし私のものにならないくらいだったら、いっそ壊す。壊してあげる)」
ことり「(――そして穂乃果ちゃん。ごめんね。どんなに固い友情の絆だって、恋の熱を浴びたらひとたまりもなく熔解しちゃうの。私は穂乃果ちゃんを、ひどい目に遭わせなきゃいけない)」
ことり「(ああ、二人が手をつないで帰って行く。あの初々しさ、あの笑顔! あれを引き裂きたい! 引き裂くのを想像するだけで、背筋のよだつような快感が沸き起こってくる!)」