「で、和人……いやキリト?ここどこ」
「いや知らねーよ」
「オラ、ワクワクすっぞ!」
「しないんだけど」
なんで話してると、音がした。カツンカツンと川の上流の方から。俺は反射的にキリトの背中に飛び付いた。
「なんだよ」
「いや全然ビビってないけどお化けの足音かなーなんて……」
「お化けの足音って何」
いやいやいや、よくあるじゃん。後ろからカツンカツンとついてくる足音。あれ怖いよね。あのたびに泣きそうになってたわ。いや怖くないけどね。
「とにかく、行ってみよう」
「まっ!待て待て待て待ってお願い!行かないほうがいい!正体を知らなきゃ大抵は助かるんだから!」
「正体を知ってホッとしたほうがいいだろ。行くよ」
「ま、待ってよキリト!お願い!なんでも奢ってあげるから!」
「だめ、いく」
ひでぇ……。キリトがサクサク進んでしまったので俺は仕方なくついて行こうとした。だが、
「っ⁉︎」
ガクンッと腰から崩れ落ちた。
「? どうしたセレナ」
「腰、抜けたっぽい……」
「どんだけビビってんだよ……」
「ビビってねぇよ!」
「なら早く来いよ」
「ま、待って!」
言うとキリトは振り返った。が、明らかにニヤニヤしている。殺したい。今にも殺してやりたいが、このままじゃ困るのはこっちの方だ。
「き、きりと……」
「なんだよ」
「そ、その……おんぶ……」
顔が赤くなる。普段あれだけ強がっててこんな醜態はない。すると、キリトはニヤニヤしながら俺の前に立った。
「しょおおおがないなあああああ」
「ッッッ」
で、キリトは俺をおんぶする。その瞬間、俺はキリトの首を絞めた。
「てめええええええ!よくもビビらせてくれたなあああああああ‼︎」
「あががががが!ギブギブギブ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさっ……」
「うるせえええええええっっ‼︎」
で、ようやく落ち着いて二人で移動。そして、森の中に入った。すると、音に続いて声も聞こえてきた。
「……49、……50」
「き、きりとぉ……」
「泣くなよ。大丈夫だから」
いやいやいやいや。無理無理無理無理。だって森に向かってるじゃん!完全になんかあるじゃん!森から聞こえてくる声なんてロクなもんじゃないに決まってんだろ!
「きりと!」
「大丈夫だから!」
すると、前方の木立の隙間が明るくなってきていることに気付いた。
「おっ、出口か?」
「出口だ!早く抜けよう!」
「はいはい……」
で、階段状に盛り上がった木の根を登る。幹の陰から外を見てみると、森の中にぽっかり開いた円形の空き地だった。その中央にはでっかい木があった。
「な、何これ……」
「でっか……キリトのフル勃○したち○こ並に」
「あんなでかくねぇよ!てか見たことあんのかよ!」
とりあえず俺をおぶったキリトはその木の方向へ。そして、木へ近付くと、俺はその近くに誰かが立ってるのに気が付いた。
「お、誰かいるぞ」
「ほんとだ」
「何あいつ、ガン見してんだけど。俺と戦争したいの?」
「落ち着け」
なんで話してると、そいつは声をかけてきた。
「君たちは誰?どこから来たの?」
すると、キリトが口を開いた。
「ええと……俺の名前はキリト」
「俺はマサラタウンのサトシ」
「違うから。セレナな」
「あっちの方からきたんだけど、道に迷っちゃって……」
「こいつ、方向音痴だから。頭もウンチだから」
「お前は黙ってろ」
すると、目の前のガキが言った。
「あっちって……森の南?ザッカリアの街から来たのかい?」
「あ?サンガリア?1と2が抜けてんぞ」
「ほんとに黙っててくれセレナ。それが、俺たちもどこから来たのかよくわかってないんだ。気付いたら森の中に倒れてて……」
よくもまぁテキトーなことを言えるもんだ。まぁあながち嘘でもないけど。
「ええっ……どここら来たか分からないって……今まで住んでた街とかも?」
「あ、ああ。覚えてるの名前だけだ」
「俺も」
ここは便乗しておこう。
「驚いたなあ。ペクタの迷子か。話には聞いていたけど、本当に見るのは初めてだよ」
「ゼクターカブト?クロックアップでもすんの?」
「ほんとにお願い。パフェいくらでも奢ってやるから黙っててくれ。それより、ぺくたのまいごってなんだ?」
「あれ、君の故郷じゃそう言わないの?ある日突然いなくなったり、逆に森や野原に突然現れる人を僕の村じゃそう呼ぶんだよ。闇の神ペクタが、悪戯で人間をさらって、生まれの記憶を引っこ抜いてすごい遠い土地に放り込むんだ」
「おいおい、随分と迷惑な神もいたもんだな。悪戯どころの騒ぎじゃねーよそれ」
思わず口走った。俺たちんとこの神様みたいに大人しくできないのかね。
「それで、どうにも困ってるんで、一度ここを出たいんだ。でも、方法が分からなくて……」
キリトがそう言った。
「うん、この森は深いからね。道を知らなきゃ迷って当然だよ。でも大丈夫、ここから北に抜ける道があるから」
「い、いや、その……ログアウトしたいんだ」
あーなるほどな。こいつ、仮想世界かもしれないと思ってんのか。その可能性はあるなっつーかそれしかない。自然破壊の進んだ俺たちのリアルにこんなのどかな森があってたまるか。だが、少年は大きく首をかしげてこう返した。
「ろぐ……なんだって?今、なんて言ったんだい?」
「ログアウトだよ」
「ろ、ろぐ……?」
「ろ、ぐ、あ、う、と。はいっ」
「ログアウト?」
「はい正解。覚えられるまで100回復唱してみよう。さんはいっ」
「黙ってろセレナ」
今日、キリトに黙れ言われたの何回目だろ……。
「ご、ごめん、土地の言い回しが出ちゃったみたいだ。ええと……どこかの村か街で、泊まれる場所を見つけたい、って意味なんだ」
「へぇ……。初めて聞くなあそんな言葉。黒い髪もこの辺じゃ珍しいし……もしかしたら南の方生まれなのかもしれないね」
「そ、そうかもしれない」
「そうじゃないかもしれない」
「へっ?」
「答えはいつも胸の中」
「む、胸?」
「セレナ。いい加減にしろよ」
「無理だってば!こんな状況で落ち着けるかっての!」
逆になんでこいつこんな落ち着いてるの?悟りでも開いてんの?
「うーん、泊まれるところか。僕の村はこの北だけど、旅人なんて全く来ないから宿屋がないんだよ。でも……事情を話せば、もしかしたら教会のシスター・アザリヤが助けてくれるかもしれないな」
「そ……そうか、よかった」
シスターか、もしかしたらアンジェレネとかルチアもいるかもしれないな。
「それじゃあ、俺たちは村に行ってみるよ。ここからまっすぐ北でいいの?」
「あ、ちょっと待って。村には衛士がいるから、いきなり君が一人で入っていったら説明するのが大変かもしれない」
「そんなん、俺が恐怖政治でなんとかすっから」
「セレナ。気持ちは察してやるからとりあえず黙れ」
「僕が一緒に行って、事情を説明してあげるよ」
「それは助かるな。ありがとう」
とりあえずキリトが礼をいう。
「ああ……でも、すぐには無理かな……。まだ仕事があるから」
「仕事?」
「うん。今は昼休みなんだ」
今気づいたが、こいつの足元にはパンらしき固まりがあった。
「仕事が終わるまでまっててくれれば、一緒に教会まで行ってシスター・アザリヤに君を止めてくれるよう頼んであげられるけど……まだあと四時間くらいかかるんだ」
随分かかるな。つーか労働基準法的にこんなクソガキ働かせたらダメだろ。
「どうするキリト」
「待ってよう。それがベストだ」
「了解」
「そうか、じゃあ、しばらくその辺に座ってて。あ……まだ、僕の名前を言ってなかったね」
そう言ってそいつは俺たちに言った。
「僕はユージオ。よろしく、キリト君」