そのままキリトがユージオとパン食ったり何したりと話してる中、俺はこの仮想世界を眺める。パンなんて食う気がしない。あーあ……ログアウトもないんじゃ元に戻れそうにもない。ま、隣にキリトがいるからまだ良かったものの……。
そもそもなんでこんなことになったんだ?何1つ覚えてねーや。直葉とか元気かなーなんて考えながらハナクソをほじる。………腹減ったな。
「キリト、やっぱパンくれ」
「はい」
「さんきゅー」
で、キリトにもらったパンを齧る。もっちゃもっちゃと音を立てながら咀嚼。………マズイ。こんなもんよく食えるなこいつ……。と、思ってユージオの方を見ると、仕事を再開するのか斧を握って、木に思いっきり斧を刻む。
その様子を俺はただぼんやりと眺めていた。
「ユージオの仕事……じゃない、天職は樵なのか?この森で木を切ってるの?」
キリトが口を挟んだ。
「うーん、まあ、そう言っていいかもしれないね。でも、転職についてからの7年間で、斬り倒した木は一本もないけどね」
「ええ?」
思わず声をあげてしまった。それなら金の斧と銀の斧を掻っ攫ってったあの樵のがまだ役に立つ。
「このでかい木の名前は神聖語でギガスシダーって言うんだ。でも村の人は大抵、悪魔の樹って呼んでる」
なんだよ神聖語って……ギガスシダーも謎だ。でっかい寿司を見つけた人のリアクション?
「そんな風に呼ばれる理由は、この樹が周りの土地からテラリアの恵みをみんな吸い取っちゃうからなんだ。だから、この樹の枝の下にはこんな風に苔しか生えないし、影が届く範囲の樹はどれもあまり高くならない」
だからテラリアって何。
「………じゃ、ユージオは毎日この木を切ってんのか?」
俺が聞いた。
「まさか。たった7年でこんなに刻めるなら僕ももう少しやりがいあるんだけどね。代々の刻み手が毎日叩いてやっとここまで来たんだよ」
うおお……なんという作業ゲー。しかもやりがいなし。まぁ職が安定してるだけましかな。今の日本じゃどの職に付いても不安定だし。
なんて考えながら聞いてると、キリトが立ち上がった。
「なあ、ユージオ……ちょっと俺にもやらせてくれない?」
「ええ?」
「ほら、弁当もらっちゃったし、仕事も手伝うよ」
「うん……まあ、天職を誰かに手伝ってもらっちゃいけないなんて掟はないけど……でも案外難しいんだよこれ。僕が始めたばっかの頃はまともに当てることさえできなかったんだから」
いや、これだけデカイ的なら外しようがないだろ。目の位置ズレてんの?
すると、キリトは斧を受け取り、斧を振るった。が、斧を落とし、手が痺れたのか両手首を足で挟み込んで悶える。
「い、いててて」
「だーっはっはっはっ!ダッサ!お前ダッサ!」
「う、うるせーよ!案外難しいんだぞこれ!」
「あれだけ自信満々に挑んでた癖に……ダッセェ!」
「こんのっ……!さっきまで腰抜かしてた癖に……!」
「るっせーよカス」
すると、ユージオが苦笑いしながら言った。
「力入れすぎなんだよ。もっとこう……力を抜いて、なんていうのかなぁ……」
「俺に貸してみ」
俺は立ち上がり、首をコキコキ鳴らしながら斧を持った。
「できんのか?お前に?」
キリトに挑発的に言われが、俺は無視して斧を持った。で、普段金属バットを振るスタンスで「ふんっ!」と気合を入れてぶん回した。見事にクリティカルした。
「んなっ⁉︎」
キリトがガビーンと声を上げる。
「すごい……すごいよセレナ!一回目で当てるなんて!」
「まぁな。そこの鈍とは出来が違いますから」
「ムググッ………!天才型め……!」
言われるが無視して俺は斧をドンドンぶん回して刻み続ける。すると、キリトが立ち上がった。
「待て!俺がやる!」
「邪魔だカス。お前に出番はねー」
「ま、まぁまぁセレナ。もっかいくらいやらせてあげなよ」
ユージオに言われては仕方ない。俺は譲った。すると、キリトは斧を握り、刻まれた口を睨みながら、見たことのあるモーションをした。ソードスキルのホリゾンタルか。懐かしいな。
「お……キリト、今のはけっこういいよ。でも、途中から斧を見てたのがよくなかったな。視線は切り込みの真ん中から動かさないで。忘れないうちにもう一度れ
ユージオに言われて、少し嬉しそうな顔をするキリト。そのまま三人で順番に切ってると、ユージオが言った。
「よし、これで1,000回。今日はここまでにしよう」
「え、もう終わり?」
「うん。午前と午後合わせて2,000回ずつ叩くのが僕の天職なんだ」
なるほどな……そりゃ大変だ。
「にしても、セレナはすごいね。今日はだいぶ楽しちゃった」
「まぁな。俺はそこの鈍とは……」
「あーうるせーうるせーうるせー!悪かったな下手くそで!」
「そんな事ないよキリト。キリトとも十分筋がいいよ」
「でも、足引っ張ったのは事実だ。ごめんな……」
「そーだよ。お前が足引っ張ったんだ。謝ったのちに土下座、からの謝った挙句、ユージオと俺になんか奢れ」
「お前は黙ってろ!」
「はははっ。でも気にしないでキリト。この樹は僕が一生かかっても倒せないって言ったろ。ほらこれ見て」
ユージオはステータス・ウインドウ、あとから聞いた話だとステイシアの窓だったか。そこには23万2千いくつと数字が並んでた。何この耐久値。
「うえ……」
「吐きそうになる数字だなオイ……」
俺もキリトも顔色を悪くした。
「うーん、先月見たときから50くらいしか減ってないな……」
「マジ?一ヶ月で50?」
「うん。マジ」
鬼すぎだろ……俺なら仕事放棄して旅に出るね。
「さて、二人とも。村へ帰ろう」
ユージオがそう言って歩き出したので、俺とキリトはあとを追った。
「そういやお前腰は?」
「治った」