あと、
荒谷芳泉の機動殻¦マブラヴ、タケミカヅチモデル
部下¦戦術機モデル
仁田君¦鉄血のオルフェンズ、獅電モデル
だったり。
〝死神〟グラーフ・ツェッペリン。
その名を呟く様に言った天龍の顔は苦い。
彼女の少なくない経験の中で、グラーフ・ツェッペリンとの戦いは奇跡的な戦績と言える。
「〝死神〟グラーフ・ツェッペリンか」
「そんなに強いの? 神通も大概っしょ」
鈴谷が神通へ言うと、神通は少し困った表情を浮かべて言った。
「まあ、私も腕に自信はありますが、グラーフには届きません」
「あいつ、ちょっとおかしいんだよ」
割りとおかしい人物達からあいつ、おかしいと言われるグラーフ・ツェッペリン。
それは何故かと、彼女を知る一人の天龍が続ける。
「空母艦娘の癖に、艦載機を一つしか出せないんだ。まあ、その艦載機もおかしい訳なんだがな」
「艦載機が一つって、空母艦娘としては欠陥どころじゃないだろ?」
摩耶が疑問すると、神通がその疑問に答えた。
「そうですね。事実、篁の先代様に拾われなかったら、彼女はどうなっていたか解りませんね」
「かなりの物好きで有名だったしねぇ」
神宮が懐かしむ様に目を細めてそのまま閉じて、彼女の体からふっと力が抜け落ち、眠る様に動かなくなっていった。
「御嬢様!? なりません! 目をお開けください!」
神通が、安らかな寝顔の神宮の頬を痕にならない程度に叩き呼び掛ける。
「ハッ! 危なかった。母さんが川の向こうで手を振ってたよ・・・!」
「御嬢様、よくぞお戻りくださいました」
「いや、漫才はいいから、早く話」
「何故、御嬢様の身を案じないのですか?!」
「いやな、俺は近衛じゃないし、時間が無い的な事言ってたの、そっちだし」
「御嬢様が天に召されかけたのですよ!」
知らんわ。正直に天龍はそう思った。
近衛師団に出入りしていた事もあり、御三家の人間を見た事はあるが、直に会って話したのは初めてだ。体が弱いという噂は聞いた事があった。
人としての礼儀、というのもあるのだろうが、こちらとしてはとっととクーデターとやらの情報が欲しいのだ。
気狂い大戦に巻き込まれるのはゴメンだ。
「まあまあ、天龍君。落ち着いて話そう」
「しかしだな、オッサン」
「急ぎなのは確実だけど、体調が悪いみたいだし、少し待ってもいいんじゃないかね?」
五百蔵の言葉に天龍は頭を掻いて、大きめの溜め息を吐いた。
一人人外魔境、歩く天変地異、自走式ステルス核兵器、等々の異名というパワーワードで呼ばれる洋や金剛の域に片足突っ込んでいるのは、天龍が知る限りでグラーフ・ツェッペリン一人だけだ。
そのグラーフ・ツェッペリンが味方だと言うなら、確証は無いが気分的に幾らか余裕は出てくる。
「そうね。ほんの少しだけ時間を頂けるかしら? ちょっとだけ、はしゃぎ過ぎたみたい」
「御嬢様、お水を」
ご免なさいねと、神宮は神通が差し出したコップを手に取るが、その手が震えているのを霧島は見逃さなかった。
ーーそのコップを持つ握力すら、危ういというのですかーー
霧島も横須賀鎮守府の副長であり、御三家の情報は噂の域を出ないものではあるが聞いた事がある。
曰く、神宮の息女は病弱である。
曰く、部屋から自力では出られない。
曰く、ベッドから自力で起き上がれた事が無い。
〝全て〟、彼女の脆弱な体質を示す話だ。
目の前で息を吐きながら、何回にも分けてコップ一杯の水を飲んでいる様子から、これらの噂は事実だ。
と言うか、さっき吐血したし、召されかけた。
ーーしかし、見事ですねーー
霧島は、神宮にコップを渡す神通の動きに感嘆を覚えていた。
あの神通は、長く神宮三笠個人に仕えているのだろう。そうでなければ、彼女の手の震えに合わせてコップを手渡し、彼女が取り落とす寸前にコップを保持し直し、違和感無くもう一度手渡す事など出来る訳が無い。
そして、それらの動きに対応する体捌き。それ相応の実力と経験が無ければ、あの動きは実現出来ない。
副長としての自分と、近衛団長としての神通。
どちらが強いのか?
体が疼く。
どうしようもない。武力の象徴たる副長の本能が身を焦がす。
ーー控えなさいと言った筈ですよ? 霧島ーー
焦がすが、隣の比叡が怖いので直ぐに鎮火した。
「んでよ、天龍。そのグラーフはどれだけヤバイんだ?」
「鳳様や総長の域に、片足突っ込んでいるって言えば解るか?」
「ガチのバケモンじゃねえか」
「ああ、そうだ。恐らくだが、今のメンバーで勝てる可能性があるのは副長だけだな」
木曾が天龍に問うと、想像する限りで最悪の答えが返ってくる。
自分達が知る絶対強者達の域に片足突っ込んでいる様な奴、敵でなくて良かったと霧島以外の全員が思った。
「それでだが、神宮嬢。いいかね?」
五百蔵がゆっくりとした動きで前に出る。
他者を圧倒する巨躯が持つ威圧感や圧迫感が、普段よりも薄い。
病弱な神宮に対する負担を、少しでも減らそうとしているのだろう。
「何でしょう?」
「ああ、ゆっくりでいい。うん、君は今回のクーデターの絵図を、自分が描いたと言ったね?」
「ええ、そうです」
「・・・一体、何故?」
「何故? ああ、成程、あの妾腹の子がとか、後妻がとかのやつですね」
「また、えらくざっくり来たね」
五百蔵が呆気に取られていると、神宮は神通の介助を受けながら、さも当たり前の様に言った。
「あれ、その方が悲劇のヒロインっぽいかなって、家と篁に協力してもらったんですよ」
「え? 協力?」
「そうですよ」
おい、今何て言った、こいつ?
全員が口を横に開き、眉間に皺を寄せて、神宮を見た。
自分達が聞いたのは、篁と神宮の御家騒動の果てに、邪魔になるであろう先代の隠し子の啓生と前妻の子の三笠を、結婚式の後に暗殺してしまおう。という、ざっくり言うと面倒極まりない計画だったのだが、それを根本から引っくり返す事を神宮は当然の如く言い放った。
「考えてみてくださいよ。私はこの体ですよ? 長く生きられないのは明白だし、跡取りなんて産める訳が無い。と言うか、確実に子作りの最中に逝ける」
「いや、え? お? うん?」
「叔父貴叔父貴、どう言い表したらいいか分からねえ顔になってるぞ!」
「啓生だってそう、先代の隠し子。普通に考えて、隠し子に相続なんて、篁家がさせる訳が無いし、本人も自分の身分を理解して、母方の姓を名乗ってた」
神宮三笠は病弱で、その日一日を生きられるかすら解らない。
篁啓生は先代の隠し子で、その身分を理解して母方の姓を名乗り。
二人共に、跡目争いには関わらないし、関われない。
なら何故、暗殺などという単語が出てくるのか。
「啓生とはね、小さい頃からの、友人で、同じ腫れ物同氏、直ぐに気が合ったわ」
「あの頃は、まだ御嬢様の御体が健康そのもので、よく庭先を御二人で走り回っておられました」
「いや、本当に、あの時はゴメン」
「君、何したの?」
「・・・ちょっと、木登りして、束ねた蔦でターザンを・・・」
「蔦が切れて、当主様のお部屋に二人揃って飛んでいった時は、グラーフと二人で胆が冷えました・・・」
神通以外の全員が神宮に白い目を向け、無言の非難を行い、神宮がそれから逃れる様に話を続けた。
「ま、まあ、二人揃って腫れ物扱いではあったけど、愛されているっていう、自覚はあったわ。そうでなかったら、神通とグラーフを、私達に付けてくれる訳が無いしね」
「後妻との関係は、どうなんだ?」
「急かすわね、天龍。まあ、良好よ。権力に興味の無い、何時死ぬか解らない小娘、相手にしても、意味無いしね。普通に、茶飲み友達みたいなものよ」
「継母を茶飲み友達扱いか」
「いいじゃない。それでまあ、話飛ばすけど、クーデターの噂を、耳にしたのよ」
水を一口飲み、唇を湿らせた神宮が今回のクーデターの真相を明かした。
「内容は、斑鳩の近衛師団の一部が、私達の暗殺を計画している、というものだったわ。不思議よね? 跡目争いにも、関わる事の無い、子供二人を暗殺、それで、斑鳩の権力が、増大する訳でもないのに」
では何故なのか。
誰もが黙り、神宮の言葉を待った。
「私と啓生には、扱い以外に、共通点があるわ。それは、直属の護衛が、艦娘の二人という事よ」
荒谷芳泉達の狙いは、私達を暗殺する事による、艦娘の権威失墜よ。
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「団長」
「見付かったか?」
「いえ、追手は全員、動力部や主要関節を撃ち抜かれて、無力化されています」
「〝魔王〟いや、〝死神〟か」
「捜索範囲を広げますか?」
「我々の数は少ない。下手に広げれば、見落としが出るだろう。見落としが無いか、もう一度確認をしろ」
「はっ」
部下が下がり、濃い藍色の烏帽子型の装甲が僅かに俯く。
「許しは請わぬ。誰かが、やらねばならんのだ」
もう、年端のいかぬ娘達に・・・
呟いた言葉は装甲の中に籠り、歯軋りと共に外に出る事無く、消えていった。
残るは〝魔王〟の正体か。
鉄蛇はどうしているのか。
荒谷は何故、クーデターを?
そして、唐突に突っ込まれるア穂波とエウレカの謎?