バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

102 / 130
「「総長、お加減は?」」
「あア、夕石屋デスカ。大分、良くなりマシタヨ」
「「あまり、無理をしないで下さい」」
「無理をしているつもりはなかったのデスガ、歳ですカネ」
「「総長の御体は」」
「確かに、昔に比べて無理は効かなくなりマシタ」
「「総長」」
「だからこそ、私はあの子に〝火〟を渡したノデス」

だから、穂波。

「貴女の好きな様に、はしゃぎナサイ」

ベッドで半身を起こし、窓の外を眺めて呟いた。


お願いします 配点¦(いいよ!)

艦娘の権威失墜、それは一体どういう意味なのか。

 

「私達の権威失墜? 一体、どういう意味ですか?」

「そのままの、意味よ」

 

吹雪の問いに神宮が、僅かに息を切らしながら答える。

顔色は先程とあまり変わりは無い様に見えるが、確か自力で歩いたのが一週間振りだと言っていた。

彼女の体力は人並み以下を下回るのかもしれない。

 

「艦娘の権威って、何だと思う?」

「艦娘の権威・・・」

 

自分達の事だから解っていて当然だと思っていたが、いざ言われてみるとこれが解らない。

権力は艦娘自身には無いし、これといった特権がある訳でもない。

基本的人権は尊重されているが、それは人間も同じだ。

艦娘と人間に、大した扱いの差は無い筈。

考え込む吹雪の隣で、巨躯が苦々しい息を吐いた。

 

「神宮嬢、近衛師団団長は三人で、その内二人は艦娘。それは間違い無いね?」

「ええ、その通りです」

「成程」

 

五百蔵はもう一度息を吐き、一度頷いてから、言った。

 

「君達は、自分達の命を賭け金にしたんだね?」

「正解です」

 

五百蔵は眉間を押さえ、目を閉じた。

考えうる中で、最悪の予想が当たってしまった。

 

「オヤジ、一体どういう意味だ?」

「何と言うべきか、先ずは艦娘が人間よりも強いってのが、ポイントかなあ?」

 

摩耶の問い掛けに少し悩みながら答えると、更に疑問が飛んでくる。

 

「いやまあ、強いけどよ。それが何の関係があるんだ?」

「キソーの言う通りだよ。私達が人間よりも強いって理由で、二人を暗殺するとか・・・・!」

「鈴谷君は気付いたみたいだね」

「いやいやいやいや、これって、いや、でもさ?」

 

眉間に皺を寄せる五百蔵に、鈴谷が若干混乱をしながら話を纏め、天龍が苦い顔をする。

 

「艦娘は人間より強くて、今の近衛師団の三団長の内の二人は艦娘で残る一人が人間だね」

「でも、それでどうして?」

 

睦月が問うと、天龍が近衛師団について言及する。

 

「まあ、睦月の疑問も尤もでな。何故かと言われりゃ、近衛師団団長は人間で固められてたんだわ」

「補足しますと、つい最近までは艦娘は居ませんでしたね」

 

神通が天龍に補足を加え、更に続けていく。

 

「近衛師団はあくまでも御三家の警護が任務ですから、そこに軍に所属する艦娘を入れたくなかったのでしょう」

「協力員として、限定的だが受け入れたりはしてたみたいだが、あくまでその現場だけ、隊士との接点は無かったらしいな」

 

近衛師団は人間組織であり、御三家は政治に関係する為、近年まで軍所属の艦娘が関わる事を嫌い、接点は最小限に留められていた。

しかし、

 

「第二次侵攻時に、主要都市が爆撃されて近衛は半壊、緊急案として艦娘を受け入れたのが始まりとされています」

「まあ、それでも、団長級に出世するのは、本当につい最近の事ね」

「御嬢様、あまり無理を」

「いいのよ。ここが、無理のしどころよ」

 

神宮が呼吸器を外し、身を起こす。

顔色は蒼白で、枯木の様な体は今にも倒れてしまいそうだったが、その目はギラつき強い光を持っていた。

 

「私達は、ここまで来ました。御三家現当主陣を説得し、情報を掻き集めて、暗殺計画を逆手に取る為に、偽の結婚式を成立させた。私は、私達は、死にたくない。死んでやるもんか」

 

強い口調、先程までの弱々しさは何処へ行ったのか。

神宮は椅子の肘掛けを握り締め、叫ぶ様に言った。

 

「啓生も死なせない。やっと、決心がついたって、彼は言ってた。ただ妾腹の子、それで幸せになれないなんて、おかしい。だから、計画したの。クーデターを無理矢理にでも、この結婚式で行わせる様に」

 

口や鼻から血が溢れ、呼吸が辛い呂律が回らない。

脳が酸素を欲して、ガンガンと喚いて考えが言葉が纏まらない。だがそれでも、言わなければいけない。

 

「私は、長くはない。明日には死んでるかもしれない。いや、もしかしたら一分後に死んでるかもしれない。だけど、私は殺されるなんてごめんだ。私は、私達は生きたい。啓生は前を向いた。私は残った時間を全力で生きる・・・!」

 

だから、どうか

 

「どうか、お願いします。私達の、抵抗に力を、貸して下さい」

 

痩せ細った足、定まらぬ足取りで立ち上がり、口や襟元を赤く染めながら、頭を下げる。

沈黙が部屋を支配し、長いようで短い時間が経ち

 

「いいよ!」

 

DOGEZAが磯谷に変形した。

 

「ちょっ、司令。いきなり何を?」

 

あまりに呆気ない了承に、驚いて顔を上げる神宮とバランスを崩して倒れかけた神宮を支える神通。

その目の前には、DOGEZAでありUMAでもあり横須賀鎮守府提督の磯谷穂波がVサインをしながら立っていた。

 

「いやさ、比叡ちゃん。私はこの世全ての可愛い女の子の味方であると同時に、この世全ての泣いてる子の味方なんだよ」

「ですが、こんな不透明な話を」

「不透明なら透明にしちゃおうよ」

 

言って聞かない磯谷に食い下がる比叡。横須賀鎮守府では見慣れた光景だ。

だから、磯谷は比叡を含む他のメンバーに向き直り、笑った。

 

「皆もさ、手伝ってよ。私が三笠ちゃん達を助けるのを」

 

にっこりと笑って、磯谷は手を差し伸べてくる。

比叡は眉間を揉み解し、内心で嘆息する。

磯谷穂波は、こういう者だ。誰かが泣いていると、いつの間にか現れバカをして、誰かが悲しんでいると、当然の如く現れ手を伸ばしてくる。

そういう(バカ)なのだ。比叡はそれを改めて認識し、改めて思い出した。

 

「はあ、分かりましたよ。・・・昔、そう決めましたしね」

「ホント! ありがとう、比叡ちゃん!」

「ですが、その前に」

「へ?」

「襟を正して下さい」

 

どうせ、あの仕掛けを仕込む際にはしゃいだのだろう。

磯谷が着ているドレスは、裾や襟が少し乱れていた。比叡はそれを直す為に、磯谷をほんの少しだけ、他からは分からぬ様にほんの少しだけ抱き寄せてから、服装や髪を直していく。

 

横須賀鎮守府が決めた事がある。

嘗て決めた事、この小さな少女が変わらず何時までも、そのままで居られる様に。

磯谷穂波(バカ)磯谷穂波(バカ)のまま提督をやれる様に、自分達が何とかしよう。なんとかしてやろう。

そう決めた。

 

「はい、出来ましたよ」

「ありがとー」

 

気が抜ける、何処までも底抜けで明るい声で礼を言い、磯谷は再度向き直った。

 

「皆、行こうよ。啓生君達を迎えにさ」

 

磯谷穂波(バカ)が笑い言えば、溜め息が聞こえ全員が動き出した。

 

「それはいいが、磯谷嬢。何をするのか理解しているのかね?」

「いやぁ、正直な話、解ってません!」

「自信を持って言う事じゃないね」

「えー、五百蔵さんは解ってるんですか?」

「君ね。まあ、いいや。大体の予想でしかないけど、解っているよ」

 

五百蔵は頭を掻いて、ネクタイを弛める。

普段着け馴れていないからか、少しばかり肩が凝る。

 

「しかし、予想よりかは、事実を聞こうじゃあないか」

 

なあ、神宮嬢。五百蔵が言うと、神宮は頷いた。

未だ神通に支えられてではあるが、真っ直ぐに五百蔵を見詰めている。

 

「・・・目的は艦娘の権威失墜。方法は、艦娘の中でも実力者である二人が警護する私達を、人間である荒谷が暗殺するというもの」

 

人間よりも強い艦娘が警護する人物を、人間が正面から暗殺する。

それが何を意味するのか。

単純だが、無視は出来ない結果が生まれる。

 

「艦娘の不要論。それそのものか、それの火種が生まれる。荒谷芳泉の目的は恐らくそれです」

 

艦娘はもはや要らぬ。人の世は人の手で守るべきである。

艦娘不要論。荒谷芳泉の目的は、それの礎となる事。

それを聞いた五百蔵、磯谷以外の、榛名達艦娘は何を言われたのか理解出来なかった。




横須賀鎮守府埠頭にて

「先生、動かないわね?」
「そうですね、赤城さん」
「やはり、瑞鶴さんが居ないのが?」
「あの五航戦がですか」
「何か?」
「いえ、何も」

埠頭に佇む洋の足元には、何故か二人分のかき氷が置いてあり、手にはわたあめがあった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。