バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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わーい、久し振りに話が進まない!
疲れたよ・・・

あ、艦これ短編〝隻眼の鬼神〟と〝ほな、さいなら〟も宜しくお願い致します。


つまりはそういう事だ 配点¦(誰かがやらねばならない)

「・・・何という事だ・・・」

 

グラーフ・ツェッペリンが信じた。

瑞鶴は焦った。まさか、膝に矢ではなくベンツを受けて寝込んだとか、明らかな話を信じるとは誰が予想出来る。

膝にベンツとか、普通に交通事故だし、横須賀鎮守府で運転手と言えば隣でスゴい顔をしているあきつ丸だ。

つまり、この話を信じるなら容疑者はあきつ丸。

 

「〝閣下〟の身にその様な事が起きていたとは・・・ ん?」

 

グラーフが何かに気付いた。怪訝な顔であきつ丸を見ている。

どうやら、近衛は横須賀鎮守府の内情にも通じている様だ。瑞鶴はあきつ丸に横目を向ける。あきつ丸も同様に瑞鶴に横目を向けている。

あちらは情報を持っていて、連携も取れている。

こちらは情報が不足していて、連携は不十分。

迂闊な嘘は吐けない。交渉で虚実を織り混ぜるのは当然だが、虚実の〝虚〟を間違えれば、その瞬間に信用を失って全てが御破算となる。

 

ーー帰りて~ーー

 

帰って、先生とテラスでお菓子食べたい。

頬っぺに生クリーム付いてるよ?とかやったら、どんな反応をするだろうか?

あきつ丸放って帰ろうか。

 

ーーて言うかーー

 

今、変な単語混じってなかった?

〝閣下〟とか聞こえた気がした。仁田も白い目で、グラーフを見ている。

 

「・・・つかぬ事をお尋ねするが、あきつ丸殿は確か、〝閣下〟の専属運転手では?」

 

グラーフが眇を向けて、あきつ丸に問う。

しかし、〝鉄血〟〝鉄面皮〟の横須賀鎮守府憲兵隊隊長は、特にこれといった動揺は見せず、

 

「あれは悲しい事故でありました。まさか、主任整備士の悪戯があの様な事に繋がるとは・・・」

 

意図も簡単に仲間を売り飛ばした。

何の躊躇も無かった。即座即断即決、さも当然の如く自分の保身に走った。

クソ野郎である。

しかも、表面上は変化無く言ってのけるので、更に質が悪い。

マジクソ野郎である。

 

「ああ、しかし、その整備士を責める事は出来ないのであります」

「何故だ? 〝閣下〟のお膝にベンツだぞ? ただ事ではない」

「確かにそうでありますが、その整備士の悪戯は本当に可愛いもの、子供が手製のビックリ箱を見せる様な悪戯だったのでありますよ」

「・・・ただの不幸と偶然の積み重ねと言う訳か?」

「そうでありますよ。我らが総長の性格は知っているのでしょう?」

「そうだな」

 

さも、悲劇を語るが如く、眉をひそめて瞳に哀しみを込めたあきつ丸に、グラーフは態度を崩さないながらも退いた。

金剛が不在の理由を誤魔化す事が出来、そしてグラーフが金剛の性格も知っている事も解った。

厄介な話だ。

 

「あの金剛総長〝閣下〟なら、そう仰られるだろうな」

「総長に会った事が?」

「遠目ではあるが、一度だけ拝見した。確か、あの〝紅霧島〟が同席していたな」

 

あきつ丸は言質を取った。

グラーフの言うところの〝閣下〟とは、確実に金剛の事を指している。確信はあったが、確定が欲しかったところにこれは有り難い。

瑞鶴も横須賀鎮守府の役職者、あまり仕事は無いが第四特務だ。

たまにはそれらしい事をしないと、何処ぞの第三特務(木曾)みたいな扱いになりかねない。

しかし、瑞鶴は交渉事は得手ではない。この辺りは第二特務の鈴谷がかなりえげつないので、大体は任せきりにしていたのが災いしている。

 

ーー先生も割りと交渉事苦手だしーー

 

自らの師を引き合いに出して、瑞鶴は自分を弁護する。

確かに、鳳洋は交渉事が苦手だ。と言うより、途中で面倒になるのか、

 

斬れば(撃てば)解るのでは?」

 

と考える節がある。

何時だったか、吹雪と睦月の件で呉と交渉した際に、呉の第二特務が利権をほんの少し渋って交渉が長引いた時、

 

「あら?」

 

同席していた洋の着物の袖から、甲板刀がズルッと出てきて場が凍った。

呉の第二特務が青い顔でこちらの条件を飲んで、鈴谷が鈍い汗をダラダラ流しながらそれを了承した。

お陰で、横須賀の粉ものチェーンが呉の一等地に進出して、高い利益を上げている。

 

「それにしても、〝閣下〟は不在か。そうか・・・」

 

明らかにへこんだ様子のグラーフ。確かに金剛は忙しく、鎮守府に居ない事も多い。だが、会えない程に忙しいのかと言われれば、それは違うと言える。

事前にアポを取れば、誰でも会える。

この間も、近隣の小学生が学校新聞の取材に来ていた。

子供好きな金剛は大いに喜び、随伴していた教師の顔がひきつるレベルの高級菓子を山程与えて話をして、土産に教師が悲鳴を上げるレベルの菓子を山程全員に持たせていた。

そんな、去る者追わず来る者拒まずな金剛だ。

何をそんなに残念がるのか?

 

(瑞鶴さん、瑞鶴さん)

 

その答えは、いつの間にか篁を連れて両者の間に立っていた仁田から、小声でもたらされた。

 

(何々? どうしたのよ)

(団長ですけど、実はですね。そちらの金剛総長殿が出されている詩集の大ファンでして・・・)

 

どうにも言い辛そうに伝えてきた内容は、公私混同としか言えないものであった。

瑞鶴は口を横にした顔をグラーフに向けてしまったし、あのあきつ丸も顔に出かけていた。

 

(ああ、うん? もしかして、サインでも貰おうとしてたとか?)

(まったくもって、大当りです・・・)

 

瑞鶴のツインテールが項垂れた。そんな気がした。

自分達は荒事覚悟で来ているのに、当の本人というか本組織の長の一人は公私混同という事実。

一気に疲れた。もう、あきつ丸(へたれ丸)の恋路など、どうでもよくなってきた。放って、一人帰るかなどと考えたが、そうも言っていられない事もまた事実だ。

なら

 

「総長に会いたいなら、私達が渡りを付けてもいいわよ」

 

これを材料に、事が終わった後の横須賀と北海、両鎮守府を少しでも有利にする。

荷が重い。正直な話、この類いは鈴谷の仕事だ。

鎮守府を守って、仲間の恋路も成就させる。

真面目にキツい。緊張のせいか、胃の辺りが下に向けて、グーッと引かれる感覚がある。

これで失敗したら、鈴谷に嫌味言われる。軽くてズッシリくる奴言われる。

 

「本当か!」

 

一も二もなく食い付いてきた。フードの下に隠れた目が輝いている。

瑞鶴は内心で、先ず第一関門突破を喜んだ。失敗したら、あきつ丸に擦り付けようと思っていたが、この分だとなんとかなりそうだ。

 

「本当も本当、これで嘘でしたーなんて言ったら、私達が死ぬわ」

 

あまり背は高くないグラーフが瑞鶴を見上げてくる。その際に、装甲服の下のグラーフ胸部装甲が揺れたのを見て、瑞鶴は内心で歯噛みする。

装甲服で押し込められてなお、揺れたという事はどういう事か。つまりそういう事だ。ファッキン!

篁もあきつ丸とグラーフを見比べて、もう一度あきつ丸を見て、顔を赤くしている。

顔立ちや体格を再確認して、本当に男かと疑いたくなるが、男社会の士官学校で性別を偽るのは流石に不可能だ。

しかし、今の行動を見ると、男だと解る。

 

「で、その代わりにだけど、横須賀北海両鎮守府と町に責が及ばない様にしてほしいの」

「・・・ふむ」

 

瑞鶴の要求に少々渋い顔を作るグラーフ。瑞鶴は焦った。

 

ーーやばっ、もう少し段階踏むべきだったわ・・・!ーー

 

あきつ丸も僅かだが、冷や汗を流している。やはり、交渉事は苦手だ。

というか、サインの代わりに政治的要求とか、自分は何を考えているのか?

そんなものが通る訳が無いだろうに。

 

「よし、解った!」

「え゙?」

「は?」

「その代わり、条件を追加させて貰う」

「お、おう、良いわよ」

 

通った。まさかの快諾に怯みながら、瑞鶴はグラーフが追加してくるであろう〝条件〟というものに考えを向ける。

 

ーー横須賀の利権? 近衛が? じゃあ、鎮守府の技術?ーー

 

横須賀鎮守府の技術力は高い。近衛が欲しがっても不思議は無い。もしかしてがあっても、交渉次第でなんとかなるものだ。

身構える瑞鶴に、グラーフが口を開いた。

 

「〝閣下〟との一対一での対談と会食を希望する!」

「何を言ってんだ、あんたは?!」

 

仁田の叫びが倉庫内に木霊した。

上役だが、これには物申さずにはいられない。

 

「何をするんだ、仁田?!」

「何をするんだって、若様も御嬢様も通さずに、何を決めてるんですか?! そこまでの権限無いでしょう!」

「しかしだな。〝閣下〟のサインだぞ?」

「後日、アポ取って横須賀行けばいいでしょうよ!」

 

言い争う二人を横に、瑞鶴はこの交渉をどうするのかを考える。

取り敢えず、交渉は半分は成功したと言えるだろう。

もう半分は鈴谷だし、その先の交渉も鈴谷だ。

第四特務は戦闘が主だ。交渉は知らん。

 

「あ、あの、あきつ丸さん」

「な、何でありますか? 啓生殿」

 

顎に手を当てて考える瑞鶴の横で、あきつ丸と篁が見詰め合い、篁が言った。

 

「も、もしかしたら、またなにかあるかもしれませんから、着替えた方がいいかもしれません」

「そ、そうでありますな。瑞鶴殿」

「え、あ、そうね」

 

二人の今の服装は、会場から移動して荒谷と交戦した時のままで、艦娘の装甲繊維で編まれた制服ではない。

あの怪物相手では、装甲繊維製の制服でも心許ないが、無いよりマシだ。

二人は格納空間から制服を取り出した。

 

「それじゃ、パパッと着替えてくるから、話はその後ね」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

「団長」

「見付からんか?」

「申し訳ありません」

「構わん。要人達は?」

「恐らくは、神宮の手でしょう。既に〝播磨〟から退出しています」

「流石だな」

 

濃い藍色の兜が頷くと、報告していた白の装甲がそれに同意した。

 

「我々と、奴らの用意した手勢。どちらが勝つか、相対戦でも挑むつもりか」

 

藍色、荒谷は頬当ての中で呟き、装甲に包まれた手を強く握った。

まだ幼い二人、その二人の子供も手に掛ける。

覚悟はしている。

そして、その先にある混乱や罵倒も、何もかも理解の上だ。その上で、皆もここに居る。

 

瞼を閉じた荒谷の耳に、声が聞こえた。

 

『ねえ、団長。私は・・・』

 

荒谷は閉じた瞼を開き、刀の柄を掴んだ。

 

「隊に報せろ。動くぞ」

 

部下に指示を出し、藍色が立ち上がる。

 

「我々の悲願を達成する!」

 

恨みも憎しみも何もかも、俺が持っていく。

誰にも聞こえない呟きは、藍色の装甲の中に消えた。




荒谷の理由は?

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