バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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ちょっと時間が戻るよぅ!

軽二屋¦『機動殻出したな』
逆脚屋¦『おう』
軽二屋¦『機竜も出るな?』
逆脚屋¦『ん? おお』
軽二屋¦『重武神は?』
逆脚屋¦『まったく、頭の悪い奴だ。これは何の二次創作だ?』
軽二屋¦『逆脚ワールド』
逆脚屋¦『とうとう、脳がカビたか・・・。艦隊これくしょんの二次創作だ・・・!』
軽二屋¦『はあ?』

奴とは決着を浸けなければいけないと思う逆脚屋です。

新用語

機殻士(きかくし)¦機動殻を扱う人達の総称。劇中では、オッサン、ほなみん、霧島、仁田、荒谷がこれに当たる。


繋ぎたいけれども 配点¦(繋げない)

「着替え終わったわよ」

 

制服に着替え終わった瑞鶴とあきつ丸が、物陰から出てくる。

やはり、慣れた服装の方が良い。どうにも、ドレスや礼装といったものは、190cmと長身の瑞鶴には少々辛いものがある。

 

「あきつ丸さん」

「啓生殿、どうかされましたかな?」

「これを、どうぞ」

 

言って篁がおずおずと差し出してきたのは、携帯食糧と水の入った水筒だった。

ただの携帯食糧と水筒、その筈なのだが、

 

(いやぁ、瑞鶴さん)

(だねぇ、仁田さん)

((初々しいなぁ、おい!))

 

二人共に顔を赤らめ、おずおずもじもじしている。

もう一度、篁が渡している物はただの携帯食糧と水筒だ。しかし、二人は顔を赤らめて、おっかなびっくりしている。

篁はまだ解る。彼はまだ15才、この反応も当然だろう。

だがしかし、対するあきつ丸は二十代後半、雑に言えばアラサー。年齢差は約二倍近い。照れるな。

 

「・・・む?」

「どうしました? 団長」

「つまり、どういう事だ?」

「は?」

 

グラーフが首を傾げた。仁田が呆けた顔を向けてきた。

まさか、解ってないのか。瑞鶴と仁田は顔を見合わせ、もう一度グラーフを見た。

 

「なんだ、どうした?」

「いや、あの団長? まさかですけど」

「ふむ? 若様の恋慕の相手は、御嬢様の筈ではなかったのか?」

 

グラーフが言うと、仁田と瑞鶴が固まった。

確かに、篁啓生には想い人が居た筈だ。それがあきつ丸ではないかもしれないという事も、瑞鶴は知っている。

だが、あの篁の反応はなんだ?

あれではまるで、あきつ丸がそうだとしか見えない。

 

「違ったか?」

「いや、そうですけど・・・」

「なら、あれはどういう事だ?」

「あ~、そのですね?」

「ふむ・・・。側室か?」

「いや、ホント、言葉選べよ・・・」

 

仁田が項垂れる。どうにも、自分の直属の上官は言葉を選らばなさ過ぎる。

だから、あまり表には出ず、裏方に徹しているのだが、もう少し考えて喋ってほしいとも、仁田は思う。彼女が表に出れば、それだけで危険分子への威圧になる。

そうなれば、他関係各所の負担も減るだろう。

だが、御三家近衛師団最強のグラーフ・ツェッペリンは、歯に衣着せぬ物言いを平然とする。

下手をすると、神通や他広報役の負担が増大しかねない。いや、増大する、それはもう確実に。

 

「ならば、めか・・・」

 

グラーフが続けて言葉を口にしようとした瞬間、仁田は機動殻の腕部装甲内に内装されているナイフシースからナイフを抜いて、彼女の喉元へその切っ先を突き付けた。

 

「・・・団長、少しは言葉を考えて覚えましょう。先程もそうでしたが、若様が居られる前で、その言葉は先程以上に正しくありません」

「済まん。止めてくれて感謝する」

「いきなり物騒ね、あんた達」

 

弓矢と艦載機の確認をしていた瑞鶴が、半目で口を横にした顔を二人に向けている。

彼女の顔が向く先には、ナイフシースから伸びたアームが接続されたままのナイフを突き付ける仁田と、両の目を閉じて喉元にナイフの切っ先を突き付けられながら、ライフルの銃口を機動殻の装甲の隙間に突き付けたグラーフだ。

 

ーーやっぱり、気にしてはいるのねーー

 

仁田が止めたグラーフの言葉は〝(めかけ)〟だろう。側室でも正しくないと言っていたのだ。忠義を尽くす近衛隊士としては、主を差別する言葉は控えるべきだ。

 

側室も妾も、反対にある言葉のどちらにも頭に〝正〟の字が付く。どちらも正しく、共に在り、故に主にも正しく在ってほしい。

歴史がある組織に属する者は、やはり、そう思うのだろうか。

瑞鶴にしてみれば、どうにもその辺りの事はどうでもよく思っていたりする。

これは、彼女が属する組織の長がそうでない事が当然に近いからだが、アレと他様を比べたらいけない。瑞鶴は今までに無い速度で思考を閉じた。

そして、自分達三人の前付近に居る二人へ、視線を向けた。

 

「やはり、まだ線が細いでありますな」

「・・・一応、食べる量は増やして、肉類と豆類も多く摂る様にしているのですけど」

「自分としては、これが良いのでありますが・・・」

「え?」

「・・・何でもないであります」

 

篁の体に触れながら、欲望を漏らす正太郎コンプレックスが居た。聞こえたらどうするつもりだったのか。

かなり危険な絵面だ。身内から性犯罪者が出るかもしれない。だが、瑞鶴は半目を向けるだけで何も言わない。

下手な発言をすれば、自分も巻き込まれるかもしれないし、もしかすると横須賀まで巻き込まれる。

それを回避する為には、あきつ丸に犠牲になってもらうしかない。

頑張れ、あきつ丸。お前だけが犠牲になってくれ。

 

しかし、篁は線が細いと瑞鶴も確かに思う。

男なのは確実だろうが、衣装や化粧次第でいくらでも化ける。華奢な体に見目麗しい紅顔、その手の趣味を持つ者からしてみれば、喉から手が出る程のものなのだろう。

目の前の奴がそうだし。

 

「啓生殿、少し体のバランスが崩れているでありますな」

「あ、今日の準備が忙しくて、ランニングとか少し省いたり・・・。あ、でも、サボったとかじゃなくて・・・!」

「まあ、それは仕方ないであります。・・・篁となった啓生殿の大事な役割でありますし、啓生殿がサボタージュをするとは考えられないでありますから」

 

あきつ丸の手つきが危ない。電車に乗った事が無い瑞鶴だが、あれが話に聞く痴漢の手つきだと想定出来た。

しかしよく見れば、触れている部分は痴漢がよく触れるという尻ではなく、肩や背中、体幹に近い部分を確かめる様に触れている。

姿勢を正しているのだろうか。手つきが危ないので、痴漢に見えるが、その実は鍛練の一環なのだろう。 

 

そして、これだけが、今の二人を繋ぎ合わせているものなのだろう。

 

ーーというか、あのバカ蜻蛉・・・ーー

 

瑞鶴は近衛の二人を横目に、同僚のヘンタイ行動にどうか反応してくれるなと祈りながら、二人の反応に目をやる。

 

先程から、あきつ丸の手が篁の手に触れる手前に、彼女から離れ、しかしまた離れた手を伸ばそうとしている。

篁はあきつ丸の逆だ。

あきつ丸の手に触れる手前に、彼女の手に触れようとするが、しかし悔やむ様に手を退いてしまう。

 

二人にしか分からぬ何かがあるのだろう。結局、一度も繋がれる事は無く、二人の手は離れた。

二人が何かを口にしようとするが、それらは言葉にはならなかった。

 

「頃合いか。行くぞ、仁田」

「は? 行くって、何処へです?」

「三笠御嬢様と神通の居る場所だ。手筈通りなら、他の御客人達も合流しているだろう」

 

時計を見たグラーフは装甲服のフードを深く被り直し、篁を含む瑞鶴達三人を背後にする。

 

「ほら、仁田。行け」

「いや、それが仕事ですから行きますけど、もうちょっとあるでしょうよ?」

「この中でお前が一番装甲に勝る。何かあっても、お前を楯に若様と御客人達を逃がせる」

「ドライだ!」

 

機動殻に身を包んだ仁田が叫ぶが、彼は叫びながらも短槍を構えて前へ出る。

幅広の刃部の腹を胸前に置き、半身に部屋から廊下へ。

薄暗い、作業灯のみが照らす空間に濃い朱色の鎧が僅かに足音を立てた。

 

「反応は無し、当たり前か」

 

仁田は機動殻のバイザーを下ろし、視界に映る廊下を熱反応をスキャン。体温、斑鳩近衛師団特有の大型跳躍器の熱反応共に無し。

自分もそうだが、機殻士(きかくし)は狭い戦場を嫌う。機動殻は人間が入るか纏う機械式の鎧だ。当然、サイズは人間の身より大きくなり、熟練するか仕様を変えるかしない限り、人の身で出来る細かい動きは出来ない。

 

「皆さん、付いて来てください」

 

斑鳩近衛師団の機動殻は篁近衛師団のそれと違い、格闘性と機動性に特化している。

銃火器の類いの装備が殆ど無い代わりに、これらに特化した機体は一瞬で距離を潰してくる。

主に仇なす敵対者を瞬時に斬り伏せ、敵を殲滅する。

 

直線での加速は、他近衛師団の機動殻など比べ物にならない。

特に、今仁田が警戒している廊下のように障害物も無く、標的が目視出来る場所は、

 

「仁田!」

 

斑鳩近衛師団の独壇場と言える。

 

「何処から?!」

 

金属が鳴らす甲高い擦過音を響かせ、白の鋭角な鎧が朱色の鎧にぶつかり、朱色が白に連れ去られる。

 

「団長! 若様とお客様を・・・!」

 

仁田は白が持つ刃を短槍の柄で受けながらグラーフに叫ぶ。

離され行く視界で、仁田は背後に続く廊下の果てに光があるのを見た。

 

ーー壁を斬ったのか・・・!?ーー

 

滅茶苦茶だ。

音も無く、此方が背後に振り向く一瞬で金属の壁を斬り裂き、加速し自分に突撃するなど。

 

「成る程、団長が誉めるだけはあるな」

「こ、の・・・!」

 

長刀と短槍が火花を散らす。仁田は機動殻の背中にある跳躍器に火を入れ、無理矢理にでも押し戻し加勢しようとするが

 

「だが、甘いな」

「あっ!」

 

相手の白の腰にある跳躍器の角度が変わり、右方向へと急激な加速が加わる。

長刀と短槍を軸にした方向転換加速は、長刀の刃先を仁田の首筋へと向かうが、仁田はこれを回避する為に同じ右方向へ加速する。

だが、白の狙いは仁田の首ではなく、違うものであった。

 

「団長、御武運を・・・!」

 

白の目的は仁田を巻き込み、廊下の右側にあった非常用避難路へ飛び込み、厄介な楯役を排除する事だった。

すべては、

 

「やはり、不意は打てんか」

「荒谷・・・!」

 

自分達の最高戦力をぶつける為に。

群青の機動殻が白の装甲服と対峙する。

グラーフは左に持った短機関銃から弾丸を撃ち出し、荒谷を引き離そうとする。

だが、荒谷はその弾幕を狭い廊下で身を翻し回避、続く動きでグラーフの胴を薙ごうとした。

 

「この狭い場所でよく動くな!」

「それが出来るから、この立場に居る!」

 

己の胴を薙ごうとした長刀を、グラーフは左右を持ち換えたライフルの銃身で受ける。

長刀の刃が僅かに銃身に入るが両断に至っていない。

 

「ならば何故、ここに居る?!」

 

グラーフが再度短機関銃の引き金を弾き、弾幕を空いた腹部に叩き込もうとするが、荒谷の右貫手がグラーフを貫こうと迫る。

 

「我が悲願、我等が願望、・・・後の世への願いを叶える為だ!」

 

叫び荒谷が放った貫手は、グラーフの短機関銃の銃床に逸らされ、その勢いに体勢を崩す事を嫌った荒谷は、グラーフから二歩の距離を取る。

 

「後の世への願いだと? 荒谷、貴様何を言っている?」

「解らんよ。生まれながらに力を持つ貴様らには」

 

荒谷は背から二刀目を抜き放つ。廊下の薄明かりが、滑る様に刃を照らし、音も無くグラーフの首に滑り込んだ。

狭い廊下、互いに退く事は出来ない。荒谷の背後は壁、グラーフの背後にはあきつ丸達。

グラーフは力を抜き、膝から崩れ落ちる様に身を下げると同時に、単発式ライフルから銃弾を放つ。狙うは荒谷の米神。だが、荒谷はそれを避け、二刀でグラーフの背後にある扉と壁を斬り裂いた。

音も抵抗も無く斬られた板が床に硬音を響かせ落ちる。

 

「そう、上手くはいかんか」

「荒谷、人間よ、人類最強の剣士よ。貴様には越えられぬ越えさせぬ。私がそうだ」

「ならば、越えよう。我等が悲願を、後の世への願いとする為に・・・!」

 

荒谷が言い放った瞬間、グラーフ達が居る建物が揺れる。

揺れの原因に気付き目を見開いたグラーフが、激しい揺れの中で後退、篁達を確保し逃走を計ろうとする。

だが、近衛師団最強のグラーフでも、機動殻を纏った荒谷には勝てない。

 

「これって・・・!」

 

篁の前に立つ瑞鶴が弓を引くよりも早く、荒谷は瑞鶴の弓を研ぎ澄まされ刃と化した腕部装甲で斬り、篁を背後にしたあきつ丸が死角から放った居合いを逆手に持ち換えた長刀の柄頭で割る。

 

「何が・・・!」

 

一瞬の出来事に二人が固まり反応が遅れ、あきつ丸は全身に強い衝撃を浴びた。

 

「若様!」

「あきつ丸!」

「予定には無かったが、二人としよう」

 

当て身に気絶したあきつ丸と篁を担ぎ上げた荒谷が、破れた部屋の一角から飛び出したのと、建物の半分が一瞬で崩れ、鈍い色を持つ巨体が現れたのは同時であった。

 

「〝魔王〟!」

『ダメだ! 〝播磨〟内部に入られた!』

 

叫ぶグラーフに太い声が応える。

それと同じくして、巨大な鈍色が鎌首をもたげ、此方を見る。

 

鉄蛇(ティシェ)・・・!」

 

瑞鶴の呟きを聞いたか、姿を消した鉄の蛇が蹂躙戦車の名の通りに、巨体を唸らせた。




次回?

あの憲兵許さねぇ・・・!

かな?

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