本日未明、艦隊これくしょん二次創作小説偽証罪の疑いで、ナマモノの逆脚屋が逮捕されました。
「薄々感付いてたからノーカンやって!」
などと供述しており、当局は疑いが確定し次第処刑するとの事です。
以上、臨時ニュースでした。
弓を引き絞り、矢を放つ。
瑞鶴は兎に角、足を止めず矢を放ち続ける。
「なんとかなんないのこれぇっ!」
一射二射三射、続けて四五六射。上下左右に激しい陸上で移動しながら、自分に出来る最大の強弓を弾く。
だが、瑞鶴が放つ矢は傷一つ与える事が出来ずに、横たわる鈍色に弾かれ地に落ちる。
「グラーフ! 右から四!」
「ちっ、厄介だな」
グラーフは舌打ちを一つ叩き、揺れる荒れた地面を滑る様に迫ってくる機動殻を、機関銃で的確に撃ち抜く。
「機関銃で狙撃に近い事するって、あんたどういう腕してんのよ?」
「先代様に拾われた恩義を返す為だ」
装甲の薄い部分を的確に撃ち抜かれ、苦悶の声を漏らす斑鳩隊士を他所に、グラーフは機関銃の弾倉を交換し、単発ライフルに銃弾を装填する。
瑞鶴は矢の切れた矢筒を格納空間へ放り込み、代わりの矢筒を引き出し腰に提げる。
「今ので一旦は落ち着いたみたいね」
「ああ、だが、あれをどうする?」
「こっちに気付いてないのか、気付いた上でシカト決め込んでるのか知らないけど、関わりたくないわね」
二人の視線の先には、海上都市艦〝播磨〟の建造物と思える程に巨大な筒のように見える円筒状の機械があった。
「というか動かないけど、壊れた?」
「ならば、仕事が減っていいのだが、そうはいかんだろうな」
「陸軍試作蹂躙戦車〝
パーツのみが製造され、書類上でのみ建造された筈の蛇が、その身を得て二人の眼前に巨体を横たわらせている。
円筒状のパーツを連結した体に一対のモーター、この螺旋状が彫り込まれたモーターを回転させて、この巨体を動かし、その名の通りに戦場を蹂躙するのだろう。
巻き込まれたら一堪りも無いだろうが、二人の前の鉄蛇は動く気配を見せない。
「いきなり現れて軽く暴れたと思ったら、いきなり止まる。燃料切れか?」
「軽くでこれとか、勘弁してほしいわね・・・」
頭を掻く瑞鶴が見る先は、眼前の巨体がうねり暴れた跡。建築士により計算され建てられた建造物は、横たわる鉄蛇を中心に目視で約100m近くが更地となっていた。
恐らくだが、これに攻撃の意思は無かった。
瑞鶴達が居た上層、その更に下層にある格納庫。これは、パーツ単位で運び込まれ、そこで組み上げられた。
そして、時間を見て飛び出してきた。
〝播磨〟は、幾つもの層に分かれて建造されている。
今、瑞鶴達が戦闘を行っていた表層と隠れていた直下の上層の居住層。
その下にある食糧や生活必需品を生産貯蔵する生産層。
そして、機械類や船舶等を格納整備する為の格納庫や海上都市艦機関部を備えた最下層の機関層。
その他にも、多種多様にブロック分けされて様々な機能がある。
それらを全て、自らの装甲と出力で破砕し飛び出してきた。そして、機体を安定させる為に、その身をうねらせた。ただ、それだけだったのだろう。
「・・・瑞鶴と言ったか?」
「え? もしかして、まだ名前覚えてなかった?」
動かない鉄蛇に警戒を続けつつ、白の装甲服のフードの下で、グラーフが鈍い汗を流し、彼女はまあ、待てと片手を立てる。
「ふむ、あれだ。私はな、少々機微に疎い」
「そうね」
「それが私の欠陥だ」
「話が飛躍しすぎ!」
「そうか?」
グラーフが不思議そうに瑞鶴を見る。
「少々機微に疎いからの欠陥って、あんたね?」
「まあ、いいじゃないか」
「・・・はあ、そう言う事にしとくわ。で、何を言いたかったの?」
「表示枠だったか? あれで仲間と通信は出来るか?」
「出来るわよ」
「頼む、連携を取りたい。私のは壊れてしまってな」
グラーフが胸ポケットから取り出した無線は、見事にひしゃげており使えそうにない。
瑞鶴は、表示枠を展開して、他の面子との連絡を取る。
七面鳥¦『はーい、瑞鶴よ。誰か返事』
ズーやん¦『あ! 瑞鶴無事? 胸ある?』
七面鳥¦『ははは、面白い冗談ね。空に気を付けろ』
邪気目¦『いいから、状況』
七面鳥¦『斑鳩近衛隊士との戦闘は終了、飛び出してきた鉄蛇は動かなくなった。あきつ丸と篁啓生が拉致、恐らく〝播磨〟内部』
元ヤン¦『殺されてはないな?』
グラタン¦『横から失礼する。篁近衛師団団長グラーフ・ツェッペリンだ。瑞鶴のを借りている。恐らくだが、まだ若様と奴は無事な筈だ』
邪気目¦『よう、グラーフ。そいつはまたなんでだ?』
グラタン¦『む、天龍か。ただ殺すつもりなら、拉致なんぞせんだろう』
グラーフの言葉に、表示枠を見ている全員が頷く。
ほなみん¦『ただ殺すだけなら、確かに拉致なんかしないよね』
副長¦『では、何が目的なので?』
ヒエー¦『見せしめでは?』
鉄桶男¦『タイミングを見計らってか』
鉄桶嫁¦『目的が予測通りなら、それが効果的でしょうね』
ズーやん¦『兎に角、今は急いで二人を奪還して確保するのが先決。という訳で、編成変えるよ』
副長¦『どの様に?』
ズーやん¦『私達何時もの四人とふぶっちにほなみん、オジサンは捜索&遊撃、副長にヒエーと榛にゃんは瑞鶴達に合流、むっきーは神通達と待機』
空腹娘¦『じゃあ、行ってくるよ睦月ちゃん』
にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、気を付けてね』
瑞鶴とグラーフが見る表示枠の向こうでは、戦闘用の衣装に着替えた仲間が装備の確認を進めていく。
邪気目¦『瑞鶴、装備の調子はどうだ?』
七面鳥¦『陸上艤装の新型、調子いいわよ。ちょっと、重いけど』
元ヤン¦『まあ、防御上げる為に装甲繊維の密度上げて、材質も新型で』
船長¦『夕石屋会心の出来らしいからな』
ズーやん¦『それじゃ、行こう。瑞鶴、後でね』
七面鳥¦『早くしなさいよ』
表示枠が消えた。
鈴谷達が動き出したのだ。
それに合わせて、瑞鶴達も動き出す。
「さてと、まずは合流しますか」
「横須賀の霧島に榛名、比叡とは、随分な戦力を此方に回すのだな」
「それだけ、こっちに戦力が要るってみたんでしょ。あれでも、横須賀の現場指揮担当だからね」
まあ、メインはえげつない交渉役だけど。
瑞鶴は声に出さず、弓の弦の張りを確認していく。
グラーフは艤装の航空甲板を展開し、何かを呼び戻している。
遠くから、聞き覚えの無いえらく甲高い、思わず耳を塞ぎたくなる音が微かに聞こえる。
恐らく、グラーフの艦載機と思われる〝魔王〟だろう。
「ん?」
と、その時、瑞鶴は風を感じた。〝播磨〟表層を吹き抜ける海風ではなく、人工的な何かを吸い込む様な風。
何かと思い、弓から顔を上げる。
「はぁ・・・?!」
瞬間、全てを破砕する風の瀑布が、グラーフと瑞鶴が居た表層を走った。
さあ、瑞鶴の運命は?
グラーフ? 化け物の域に片足突っ込んだ生物が、あの程度で死ぬ筈ないじゃないか。