バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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さあ、待っていた人は居るのかな?
居ないか・・・
だよね。


さあ叫べよ 配点¦(正反対の二人)

五百蔵は無言で力をぶつけた。

相手は斑鳩近衛師団団長荒谷芳泉、間違いなく最強クラスの相手だ。

 

ーー答えろ、かーー

 

荒谷の問いに答える言葉を、五百蔵は持っていない。否、それを言葉にしても、この相手には届かない。

 

「答えろ、五百蔵冬悟・・・!」

 

長刀が何重にも重なり連なり、緑黒の装甲に傷を刻み付ける。

荒谷は一歩下がった五百蔵に叫び、更なる一撃を浴びせる。

 

「何時まで、我らは彼女達に武器を持たせ続ける?!」

 

荒谷の叫びは、艦娘という少女や女性達に何時まで戦わせるのかというものだ。

そしてそれは、ある事を指している。

 

「何時まで、我らは彼女達の背に隠れ続ければいい!?」

 

五百蔵は袈裟懸けに降り下ろされる長刀を、拳で弾き飛ばし、荒谷に肉薄する。跳躍器を駆使し、下がろうとする荒谷の腕を握り潰さんばかりの力を籠めて、五百蔵は吼えた。

 

「己の矜持を得る為に、こんな事を起こしたのか?!」

 

五百蔵は吼え、荒谷を拘束し、最早傷が付いていない部分等無い廊下を突貫した。己が纏うチェルノ・アルファの出力と重装甲任せの突進は、白い壁を幾枚も粉砕し、荒谷が抵抗として、腕部装甲で視覚素子を斬りつけるが止まらない。

最後の一枚、外界へと繋がる壁を粉砕したところで、荒谷が跳躍器を前後に振り子の様に動かし噴射し、長刀の柄でチェルノ・アルファの側頭部を打撃、衝撃で緩んだ五百蔵の拘束から逃れる。

外は曇天、雨雲が〝播磨〟に迫っていた。

 

「矜持を得る為ではない。再び少女を戦いに送らぬ世を、後に手渡す為だ!」

「その為に、このクーデターか! ふざけるな!」

 

瓦礫の粉塵を踏み散らし、五百蔵が荒谷に鉄拳を振るう。空気を切り裂くのではなく、周囲の空間ごと消し飛ばしかねない鉄拳を、荒谷は全身の関節を駆使し回避する。

斑鳩機動殻の性能もあり、回避の連続に成功はしている。だが、このままでは保たない。

 

「ふざけてなどいない! このままでは、艦娘達は再び戦火に飲まれる! それを良しとするか?!」

「んな訳ないだろうが!」

 

拳を戻す際に隙を作った五百蔵に、長刀を逆袈裟に振るうが、チェルノ・アルファの装甲には刃は通らず、耳に残る甲高い異音と火花だけが残る。

 

「あの娘達は自分の意思で選び、自分達の足で歩いている! それを己が気に食わないからと、否定するな!」

「ならば、五百蔵冬悟! 貴様は肯定するのか?! あの年端のいかぬ娘達に、砲火を持たせ続けるこの世を!」

「んな訳がないだろうが!」

 

低い姿勢で巨躯の腕を掻い潜り、五百蔵の懐に入り込む。

この相手は獣だ。

荒谷の経験でも少ない、獣の暴力を人間の理性で固め知性で武装した獣だ。

一撃を掠めただけで、己が纏う機動殻の動きにズレが出た。大型とはいえ機動殻の打撃を掠めただけでだ。

思うように、己の技を機動殻に伝えられない。

 

「このっ!」

 

五百蔵のアッパーを避ける為、荒谷は五百蔵を蹴りつけ無理矢理後ろへと下がる。

チェルノ・アルファ胸部の排熱口から陽炎を吐き、二刀を構え直した荒谷に五百蔵は向き直る。

 

「なあ、五百蔵冬悟。我らは何時まで戦わせる? 我らは何時まで、あの年端のいかぬ娘達に戦わせるのだ?」

「それがあの娘達の選んだ道だ。それに、あの娘達の未来は、あの娘達が勝ち取るべきだ」

「そうか」

 

荒谷が呟き、長刀を手の中で回し逆手に構えた。

 

「それでも我らは、今の世に納得は出来んよ。年端のいかぬ娘に砲火を持たせ続けるこの世を、後に手渡す事は出来ん」

「そうか」

 

五百蔵が溜め息を吐き、拳の握りを直し構える。

 

「なあ、荒谷芳泉。お前は手渡せるのか? このクーデターで勝ち取った未来を、後に手渡せるのか? 子供殺して手に入れた未来を、胸を張って後の子供達に手渡せるのか!?」

「・・・それでも、それでも我らがやらねばならんのだ!」

「この、大馬鹿が・・・!」

 

五百蔵の言葉に、荒谷の手に力が籠り、長刀の柄が軋む。理解してはいるのだ。この方法で勝ち取った未来を、胸を張って手渡せはしないと。

だがそれでも、嘗ての荒谷の腕の中で消えていった命が、荒谷達の決心を鈍らせない。

 

苛烈に生きた彼女が、今の自分達を見れば、なんと言うだろうか。

あの苛烈に鮮烈に、誇り高く勝利を求めた彼女が見れば、自分達になんと言うだろうか。

荒谷は、装甲の内で笑った。

笑い、腰部跳躍器に火を入れる。

再度の加速、待ち受ける緑黒の鉄人を斬る。己と正反対の人間を斬り、この迷いを断ち切る。

 

五百蔵と荒谷が再度ぶつかる瞬間、遠くでとても大きな何かが動く音がした。

 

「なっ?」

 

そして、異常な轟音が鳴り響き、五百蔵達の居る表層区の一部が突如として崩れ落ちた。

鉄筋コンクリートや鉄骨が擦れ合い、鳴り響き続ける轟音と共に割れ砕け、周囲の足場が下層へと降る中で二人は立っていた。

そして、その二人を見下ろす鈍色の巨躯があった。

 

「鉄蛇か?!」

「これが・・・!」

 

鋼鉄の蛇が鎌首をもたげ、幾重にも重ねられ形作られた顎から、白煙の残滓を風に流す。

〝播磨〟に建てられたビルよりも巨大なその身から、何かを吸い込む鋭い音が聞こえ、駆動音を上げ鋭利な牙が備えられた顎を開き、〝瀑布〟表層を抉る瀑布が再び放たれようとした時、耳をつんざく甲高い音が、鉄蛇頭部を爆撃した。

 

「〝死神〟の〝魔王〟か!」

 

言うなり荒谷は、崩れ落ちた表層区から下層へと続く裂け目に飛び降りた。

 

「あ! 待て!」

「勝負はまたの機会だ。五百蔵冬悟」

 

鉄蛇に気を取られていた五百蔵が、慌てて後を追おうとするが、爆撃から復帰した鉄蛇がその動きを察知し、身をくねらせ五百蔵に迫った。

超質量が辺りを轢殺しながら、五百蔵を仕留めようとする。

 

「ヤバ!」

 

機動殻であるイェーガーすら問題にならない超質量、重装甲であるチェルノ・アルファでも、なんの抵抗も出来ず踏み潰されるのは確実だ。

しかし逃げようにも、チェルノ・アルファには斑鳩機動殻の様な機動力は無い。全速力で走っても追い付かれる。

 

「こなくそ!」

 

ならばと、五百蔵はチェルノ・アルファ最大火力である[Roll of Nickels]を起動、割れ砕けて脆くなった床材に撃ち込む。

音速超過の鉄拳は、容易く床材に突き刺さり、着弾点を中心に蜘蛛の巣状の亀裂を、鉄蛇との間に作り出す。

その亀裂は次第に広がり、接近してきていた鉄蛇を飲み込む。

だが、全長で100m超の巨体全てを飲み込む事は出来ず、幾つかの階層を砕きながら進む。

五百蔵が二発目の[Roll of Nickels]を、眼前に迫る鉄蛇の鼻っ面に叩き込もうと構えた瞬間、莫大量の銃弾と砲弾が鉄蛇の頭部を打撃した。

 

「冬悟さん!」

「榛名さん!?」

 

銃弾と砲弾の嵐の衝撃で横倒しになる鉄蛇を他所に、艤装を展開した榛名が、五百蔵に飛び付いてきた。

 

「ご無事で?!」

「なんとか、そっちは?」

「こちらも被害は無いですよ」

 

大口径の砲を四門艤装に積み、更に二門の砲を担いだ比叡が粉塵の向こうに沈んでいった鉄蛇を警戒しつつ、捲れ上がった床材の瓦礫から降りてきた。

 

「比叡さん。霧島君は?」

「霧島なら、斑鳩師団と交戦中です。中々、数が多いようで苦戦はしてませんが、手間取っています」

「今終わりました。義兄さん、比叡姉様」

 

装甲に幾つかの傷を刻んだ霧島の纏うロミオ・ブルーが、ゆっくりとした歩調で無事な地面を歩いてきた。

 

「瑞鶴は篁近衛師団団長のグラーフ・ツェッペリンと行動中、あきつ丸と篁啓生は未だ」

「・・・霧島、話は後です。来ますよ」

 

〝播磨〟が揺れ、再起動を果たした鉄蛇が再び鎌首をもたげ、四人を機械の目で睨み付ける。

 

「・・・榛名さん、皆。すまんが、道をつけてくれ。あの大馬鹿を殴り付けてやらんといかん」

「任せてください、冬悟さん。私達が道をつけます」

 

榛名は微笑むと、艤装の装甲を展開、近接格闘用のマニュピレーターを広げた。

鉄蛇が駆動音の吠声を上げ、二体の鉄人がその巨体に躍りかかった。


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