バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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はい、幕間です。

あ、プロト穂波が活躍する『シー イズ フール&クール?』も宜しくお願い致します。


 配点¦()

「「総長、調子はどうですか?」」

 

質素ながら見る者が見れば、その価値が判る家具類が並ぶ部屋、その最奥に居る人物に、夕石屋の二人は問い掛ける。

 

「ええ、悪くないデスヨ」

 

問い掛けられた金剛は、ベッドに半身を埋め寝間着のまま、二人を出迎える。洒落者である金剛にしては珍しい。

 

「「顔色も悪くないですね。脈拍も、大丈夫。血圧は少し高いですけど、問題無い範囲ですね」」

 

夕石屋の夕張が検査器具を操作し、明石がカルテに書き込む。明石がカルテを書き終えると、二人は安堵の息を吐き出した。

 

「「総長、あまり無理をしないでください」」

「・・・この世に生を受け百余年、どうしても無理は出マスヨ」

「「総長」」

 

冬の空を窓ガラス越しに見れば、青空を隠す曇天が広がっている。直に一雨来そうな気配を漂わせる空から目を離し、夕石屋の二人を見る。

磯谷を伴いふらりと立ち寄った中央技研で、失敗作と烙印を押されていた二人。

その二人が今や、横須賀鎮守府の技術関係の代表だ。

金剛は、自然と笑みが浮かぶのを感じた。

 

「私は洋や大和ではありマセン。いずれは消えマス」

「しかし、総長・・・!」

「穂波が居マス」

 

何時だったか、突然横須賀鎮守府に転がり込み、味方の居ない鎮守府を駆け回り、何時の間にか信頼を得ていた彼女。

初めは手酷い扱いをしたものだ。金剛に苦笑が浮かぶ。

普通ならこちらを見捨てるであろう扱いに、彼女は平然としながら笑みを共に、こちらに手を差し伸べてきた。

 

「あの子なら、大丈夫デスヨ」

「「いや、提督なら、原始時代に放り捨てても平気で生き延びそうですけど・・・」」

「あの子なら、仮に私が消えても、皆を守れマス」

 

だから

 

「貴女達は、あの子と一緒に居なサイ。あの子があの子のまま、横須賀の王として、貴女達と一緒に居られる様ニ」

「私は嫌だ」

 

モゾリと、金剛の下半身を隠していた布団から、小柄な姿が這い出てきた。

眠たげな目を擦り、金剛の腹の辺りに抱き着く。

 

「若葉」

「総長、貴女達が居ない場所になんの意味がある?」

「意味が無いデスカ?」

「無い」

 

断言する若葉が抱き着く力を強める。

 

「私達を拾った二人が揃って居なくて、なんの意味がある」

「私は洋程強くなく、大和の様に強くなり続ける事も出来マセン」

「「総長、それでも我々は貴女達と共に居たいのです」」

 

窓の外から何やら喧騒が聞こえてきた。

真面目な話をしていたのに、話の腰を折られた夕石屋が窓の外を見ると、空母艦娘達が悲鳴を上げながら走っていた。

 

『たす、たしゅけ!』

『先生が! 先生がテケテケになって追ってくる!』

 

ああ、蒼龍が死んだ!

一体何をやっているのか。加賀が赤城の足を取り、囮として転ばし、瞬時にその足を掴まれ、二人揃って洋に轢かれていた。

その他の空母組は、容赦なく二人を見捨てて逃げていた。

 

「「一体何を・・・?」」

「ふふ、夕石屋。皆が帰ってきたら、新型の装備を精査してミナサイ」

「「はぁ」」

 

賑やかな喧騒を耳に、金剛は若葉の頭を撫でる。

若葉が猫の様に目を細めると、金剛はゆっくりと口を開いた。

 

「安心シナサイ。私は直ぐには消えマセン。まだ時間はあり、もしかすると貴女達より長く在るかも知れマセンヨ?」

「「それはそれで、大変かもですが、是非そうあってください」」

「見送るのは疲れたのデスガ。・・・しかし、私は一線を退き、あの子に私と〝あの人〟が遺したものを引き継がせ、それがあの子に力となってイマス」

 

若葉を抱き寄せ、そのまま腕の中に深く抱き込む。大人しくされるがままの若葉に、夕石屋が苦笑すると若葉に睨まれた。

 

「夕石屋、宿毛に連絡ヲ。もしもの場合には宿毛に助力を願いマス」

「「はい」」

「まあ、無いとは思いますが、転ばぬ先の杖というやつデスネ」

 

窓の外を飛龍が飛んだ。

 

『うわぁ! 先生が霧散した!』

『シュムナ?! シュムナなの?!』

『瑞鳳ぉぉ!!』

 

洋もはしゃいでいる。瑞鶴が居ないから、暇しているのだろう。あの大昔も、瑞鶴が居ない日はあちこちウロウロしていて、迷子の子供を連想したものだ。

 

「総長、やはりあの話を受ける」

「無理をしなくてもよいのデスヨ?」

「いや、榛名が嫁いだ。役職に空席を出すのはマズイ」

 

言って、若葉は懐から腕章を取り出す。それには、〝横須賀第一特務〟と記されていた。

 

「今日から、私が横須賀鎮守府の新第一特務だ」

「忙しくなりマスヨ」

「知ってる」

 

若葉が頷き、金剛が頭を撫でた。

外は曇天だが、それを感じさせない賑やかさがあった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「あ、総長。どちらへ?」

「お? 朝潮。ちっくと出てくるき、留守番しより」

 

若草色の作業着に、背に鉄塊を背負った長身が小さな姿にそう言った。

 

「司令官が呼んでましたよ」

「そっちはもう済まいた」

「済ましたって、司令官、泣いてましたよ?」

「よう泣くにゃあ」

 

長身の女が煙草に火を点ける。

 

「総長、屋内禁煙です」

「今から出るき、固いこと言いな」

 

女は朝潮の頭を荒く撫でると、曇天の空の下に足を運んだ。

 

「あと、飯の支度しちょき。忙しゅうなるぞ」

「了解しました。いってらっしゃいませ、大和総長」

 


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