バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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やあ、長いよ!
そして、あきつ丸ラブストーリーは、今回のネタをやる為にあった……!
何話使ってんだよ……


戦場の告白者 その言葉を紡ぐ意味は? 配点¦(未来を望む渇望)

「ひとーつ!」

 

底抜けに明るい声が、戦場で響いた。あきつ丸は、その声に聞き覚えがある。

いや、あきつ丸だけではない。駆け付けてきた全員が、その声の主を知っている。

 

「朝起きたら挨拶! 皆、おはよー!」

 

彼女は何時だってそうだ。どんな時だって、彼女はその声を聞かせてくる。

 

「二ーつ! ちゃんと食べよう朝ごはん!」

 

鉄の軋みを挙げて、鉄蛇の巨大な尾が浮き始める。

彼女は何処でだってそうだ。何処に居ても、彼女は必ずやって来て、此方に手を差し伸べる。

 

「三つ! 晴れた日は、皆で外で遊ぼう!」

 

鉄蛇が浮き始めた尾を押し込むが、下から押し上げる力に弱る気配は無く、力の軋みを響かせる。

彼女は誰にだってそうだ。誰であろうと、彼女は涙を流す者の側に居る。

 

「四つ! 困ったら助けを呼ぼう! こんなもん、なんぼのもんじゃー!!」

 

鉄と鉄がぶつかる激音が轟き、鉄蛇の尾が弾き返される。粉塵が土煙として〝播磨〟に吹き抜け、体勢を崩した鉄蛇がそれを増大させる。

 

「最後の五つ目! それが出来たらハッピーエンドだ!」

 

曇天の下、全てを覆い隠す土煙が、その瞬間晴れた。

土煙だけではない。空を覆う曇天が晴れ、雲の切れ間から光が差し込む。

その光、俗に天使の梯子と呼ばれる光に照らされて、天使の羽を持つ鉄人が姿を現す。

 

「泣いてる子と皆を守るヒーロー! 磯谷穂波見参!」

 

粉塵を晴らし、全身から放熱の陽炎を散らし、ストライカー・エウレカが鉄蛇の前に立ちはだかった。

 

 

ほなみん¦『いえーい、見てるー?』

約全員¦『お前、ナイスー!』

ほなみん¦『ははははは! 私を崇めろー!』

約全員¦『はったおすぞ、お前……!』

ほなみん¦『手のひら返しがスゴい!』

七面鳥¦『え? なに、そっちどうなってんの?!』

にゃしぃ¦『なに?! なにかあったの?!』

空腹娘¦『建物崩れて、斑鳩師団湧いて、鉄蛇が出て、尻尾で篁さんベチーンしと思ったら、磯谷司令が叫んでアッパーカット!』

半死半生¦『なにそれ? あ、神宮三笠よ』

神従者¦『ある意味的確なのでしょうか? 神通です』

グラタン¦『そう言えば、仁田生きてるか? ……死んだか』

護衛者¦『殺すなー!』

グラタン¦『お? 生きてたか』

護衛者¦『生きてますよ! 今、横須賀の副長が無双してます!』

 

 

表示枠が叫び、青の装甲が戦場に飛び込んでくる。長い両の剛腕には、夥しい傷が刻まれ、全身から放熱の陽炎を吐き出している。

 

「流石は斑鳩近衛師団、ロミオ・ブルーと私の限界を、更に引き出してくれる……!」

 

明らかに危険発言をしながら、霧島が腕捌きだけで四方八方から迫り来る長刀をへし折っていく。

それはロミオ・ブルーの装甲と出力、霧島の技があって為せる事であり、そのどちらも欠けては為せぬ事だ。

一人一人が下手をすれば特務級の近衛隊士、それを複数人相手を続け、ただ一人として己の背後には通さない。

 

「武骨者ですが、無粋は無用だと分かりますよ」

 

今、霧島の背後には起き上がり始めた鉄蛇と、それに対峙する磯谷。そして、

 

「啓生殿!」

「あきつ丸さん!」

 

戦場の真ん中で駆け寄り、抱き合う二人が居る。

霧島の力は背負う為、あの偉大な長姉から授かった己の力の方向性。それを一身に体現する為、霧島は退かない。

 

「さあ、横須賀の〝紅霧島〟、越えてみせろ……!」

 

霧島が吼え、鉄蛇が再び起き上がる。

まだ僅かに稼働している空気吸入口から、莫大量の吸入を行い、臭気センサーからの情報を人工知能が精査する。

味方負傷多数、目標生存、機体稼働可能、戦闘続行。

鉄蛇が戦闘を続行しようと、吸気した空気を圧縮、頸椎部チャンバーにて加圧、砲身ともなる頸椎吸気パイプを連結させ、砲口である顎を開く。

狙いは足元のストライカー・エウレカとその周囲一帯。

鉄蛇最大火力である〝竜砲〟、自損すら恐れぬ一撃が炸裂しようとした瞬間、鉄蛇の機体はなにかに殴りつけられた様に折れ曲がった。

 

『はーっはっはっはっ! ちょーっと形は違うが、戦車は戦車だ!』

 

けたたましい音を掻き鳴らす、逆ガル翼の艦載機が呵呵大笑し、規格外の火力で鉄蛇を打撃する。

爆砕というより破砕の音が轟き、鉄蛇の機体が崩れ始めた。

 

「啓生殿!」

「あきつ丸さん!」

 

崩れ始めた鉄蛇が、それでも機体機能を復帰させ艦載機を狙って、空に放った竜砲の威力が起こした風に、二人は抵抗しながら手を取り合い、指を絡め合い、抱き合った。

最早、二人を邪魔する者は居ない。鉄蛇も二体の鉄巨人と一機の艦載機によって、その機能の大半を破壊され、斑鳩近衛師団も壊滅状態となった。

だがしかし、鉄火場は続く。

 

「あきつ丸さん、貴女達のお陰で、僕は想いを告げる事が出来ました」

 

篁の言葉の裏で、鉄蛇が最後の足掻きと、機体をくねらせ、周囲を巻き込み共倒れを狙う。

だが、それを許す者は居らず、霧島がロミオ・ブルーの左腕を半壊させながら装甲を貫き、人工知能部を力尽くで引き摺り出す。

力を失い倒れ行く鉄蛇が、砕かれ大きく口を開けた虚へと落ちていく。

 

「啓生殿」

「有難う御座います。これで、僕は思い残す事はありません。なので、あきつ丸さんも、御自分の想いを遂げてください」

 

絡めた手指を離し、篁は笑顔で、はっきりとそう言った。

 

 

ズーやん¦『……フラれた?』

空腹娘¦『いやいや、まだ、まだですよ!』

元ヤン¦『いや、でもこれよ……』

ほなみん¦『え、うっそでしょ……』

半死半生¦『私の計画、全部崩れるから、勘弁してほしいんだけど……』

神従者¦『御嬢様! お気を確かに!』

蜻蛉玉¦『やっかましいであります!』

 

 

表示枠を叩き割り、あきつ丸は戦場にて、己が相手と相対する。兎に角、篁の想いは知れた。

ならば、後残すは己だけだ。

あきつ丸は息を吸い、己の内に秘めた覚悟の柄に手を掛けた。

 

「啓生殿、自分の想いを聞いて戴けるでありますか?」

「え?」

 

船長¦『お? まだ続いてたか』

 

喧しい。あきつ丸は再び、表示枠を叩き割る。

見据える先には、両の手を胸の前で組む篁が居る。周囲では、磯谷に横須賀特務組と吹雪、副長の霧島、篁近衛師団のグラーフに仁田が、斑鳩近衛師団の残存戦力と戦っている。

今しか、無いのだ。今、この時を逃せば、彼に想いを告げられず、己が内で恋を終わらせる事になる。

今この場は、全員の死力によって成り立っている。正直、己も限界が近い。

だから、短く的確に、想いを告げねばならない。あきつ丸は、覚悟の柄を掴み、想いという刃を抜き放った。

 

「啓生殿!」

「は、はい!」

「自分は貴方の事がすいれすっ!!」

 

噛んだ。

 

 

空腹娘¦『帰っていいですか?』

ズーやん¦『ふぶっちふぶっち! 割りとザックリいくよね?!』

船長¦『まあ、これは仕方ねえわ』

 

 

ーーしまったであります!ーー

 

 

理由も特に無く、ただ単純に疲労と緊張で噛んだ。しかし、今はリカバリー、フォローが必要だ。

あきつ丸は艦娘の思考速度で、篁との思い出を引き出す。

 

 

ーー啓生殿の趣味は園芸、好きな花は……ーー

 

 

「睡蓮の様な人だと、思っていたであります!」

 

 

ズーやん¦『まだやってんの? 巻いて巻いて』

邪気目¦『あぁ? どうなってんだそっち?』

船長¦『あー、あきつ丸の死闘?』

邪気目¦『んだそりゃ?』

 

 

かなり無理があった。あきつ丸が内心焦っていると、篁が赤くした顔に両手を当てて、

 

「い、色は何色ですか?」

 

まさかの問いに、あきつ丸は迷うが、彼は赤の様に苛烈な色ではなく、白の様に凛とした色の方が合っている。

確か、白の睡蓮は彼が家で育てていると言っていた。

 

「白であります!!」

 

篁が赤みを増した頬を両手で押さえる。だが、篁は目を伏せ、頭を振った。

 

「ダメです!」

「何故でありますか?」

 

語気を強めず、あきつ丸は問う。

篁はその声に、眉を立て、両手を振り、

 

「僕は篁なんです! 篁は御三家で、この国を背負って立つ必要があるんです! だから僕は、仮でも今は篁だから、務めを全うする必要があるんです!」

 

あきつ丸はただその言葉を聞く。

 

「だから、僕は僕の恋を終わらせる必要があるんです!」

「無いであります!」

 

あきつ丸はただその言葉を聞き、力の限り叫んだ。

戦場に於いて、周囲の身動きを一瞬止める程の一喝。

驚いた篁が、目を見開き、あきつ丸を見る。

 

「無いであります。貴方が貴方の恋を終わらせる必要など、無いであります」

「どうして、そんな事を言うんですか?」

「貴方に……」

 

言葉に詰まる。だが、言葉を失った訳ではない。

 

「自分が貴方に、否! 自分が貴方を好きだからであります!」

 

言った。最早、己を塞き止めるものは無くなった。想いは熱となり、頑なだった言葉を溶かし、濁流となった。

止める事など出来る訳がない。

 

「確かに、貴方は篁だ! しかし、それが貴方が恋を終わらせる理由にはならぬであります!」

「でも、僕には務めが……」

「くどい!」

 

艦娘の肺活量を以て叫ぶ。

 

「自分は、貴方に側に居てほしい! 貴方は、どうであります?! 先程のあの言葉は、嘘だったと言うのでありますか?!」

「僕は……」

 

篁は顔を歪ませ、手で覆う。

 

「僕、……こんなに細いんですよ?」

「構わぬ!」

「何も、何も出来ないんですよ?!」

「構わぬ……!」

「篁が…… 御三家が敵に回るかもしれないんですよ!」

「構わぬであります……!! 自分は横須賀鎮守府憲兵隊隊長! 横須賀が〝豪運〟は、力には屈さぬであります!」

 

叫ぶ言葉に、何処かで誰かが笑った気がした。気のせいだろうが、紛れもない事実だ。

 

「国一つと戦う覚悟、とうに済ませているであります」

 

 

元ヤン¦『は?』

ズーやん¦『あきつ丸、アウト』

邪気目¦『一人で、やってくんねえかな』

七面鳥¦『あ、やば、計算ズレた』

鉄桶男¦『え、嘘でしょ? ……あ』

鉄桶嫁¦『冬悟さん? 冬悟さん?!』

 

 

少し離れた所で、艦載機が四機、何かを投下したのが見えた。

嘘になるかもしれない。だが、それでも、何も出来ないと知りながら、それでも務めを背負おうとする意思を、その魂を己に向けて欲しい。

 

「貴方が拒絶しようとも、自分は貴方を奪っていくであります……!」

 

恋は強欲、欲とは未来を望む渇望。あの金剛が、失った左薬指を撫でながら、何時だったかそんな事を言っていた。

あの時は、何も思わなかったが、今ははっきりと解る。

ああ、そうなのだ。今、自分はこの人を何よりも欲しているのだ。

だから、心のままに叫ぶ。

 

「能も家柄も、貴方が側に居てくれれば関係無いであります!」

 

手を伸ばし、確りと彼の細い両肩を掴む。

真っ直ぐに見据える双眸には、水晶の様な涙が蓄えられていた。あきつ丸はその水晶を溢さぬ様、最初に、一番初めに告げるべきだった言葉を告げる。

 

「自分、啓生殿の事が」

 

はっきりと

 

「すりれるっ」

 

はっきりと噛んだ。

 

動きが止まる。己達だけではない。周囲も、何もかもが止まる中、篁は瞳に蓄えた涙を溢した。

無音と不動が支配する空間で、篁は溢れた涙を払い、嘘をついた。

真面目な彼が、初めて自分から自分の為に嘘をつく。

そして、その嘘は

 

「僕もです……!」

 

告白の答え、それを聞くあきつ丸は、赤を朱に変え、両頬に手を当てて戸惑っている篁を見た。

 

「あ、あの……」

「こちらへ」

 

篁は行く。

抱き寄せられ、あきつ丸の胸に飛び込む。たどたどしく彼女の腕が、こちらの背から腰へ回る。

 

「僕の負けですね」

「自分の負けでもあります。接吻の訓練は知らぬでありますから」

 

衣擦れの音が聞こえて、柔らかな感触と温かさが唇に伝わり、鉄の味がした。

お互い、同じだったのだろう。苦笑して、次はほんの一瞬だけ重なる。

鉄火場の恋は、やはり鉄の味がした。

 

「あきつ丸さん」

「何でありますか?」

 

啓生の手が、こちらの軍帽の位置を直す。

啓生は微笑み、確かめる様に言う。

 

「僕の側に居てくれますか?」

「貴方が望む限り」

 

言って、あきつ丸が己を引き寄せるのが分かった。

居るのだ。強大な存在が。

 

「残念だが、二人揃って散れ」

 

人類最強の剣士、荒谷芳泉が、群青の機動殻を纏い、包囲を突破していた。

空気だけでなく、空間までも斬り裂かんとする長刀が、二人に迫る中、あきつ丸はただ啓生を抱き寄せ、長刀を見据え、長刀がけたたましい轟音と共に弾かれた。

 

「よう、荒谷芳泉」

「五百蔵冬悟」

 

瑞鶴の艦載機四機により運搬され、投下されたチェルノ・アルファを纏った五百蔵冬悟が、剣鬼の前に立ち塞がった。




次回
戦場の激突者

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