バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第116話目です。あきつ丸ラブストーリー、一年以上やってたという事実に怯えつつ、とうとう始まります第三世代編。

吹雪、朝潮、夕立、舞風、そして時雨。どうしてこの面子なんだ? 初期艦娘の五人でよかったじゃないか。文句はサイコロキャラメルに……!

では、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第116話!
お楽しみください!


第三世代
オッサン、宙ぶらりん


「ああ……、マジかよ」

 

そんな声が聞こえた。諦めの色に染まった声だ。そして、その諦めを誰も咎めなかった。

咎める事が出来ない、意味が無い。そういう存在が、そこには居た。

 

「おうおう、どういた? 揃い揃うて、呆けちゅうにゃあ」

 

草臥れた煙草が半ばまで燃え尽き、多量の紫煙となって噴き出す。踏み締めた〝播磨〟のフレームが、軋みを上げる。

宿毛泊地に所属する第一世代艦娘〝不壊の大和〟、その超重量に損傷した〝播磨〟表層区が、彼女の歩みに合わせて悲鳴を挙げる。

 

「……どうだち構わんけんど、アシは売られた喧嘩は買うぞ?」

 

首を鳴らしながら、構えるグラーフを見る。だらりと垂らした両腕、若干前屈みとなった上半身と、膝を曲げ腰を落とした下半身。

グラーフは今は勝ち目が無いと判断し、武器を下ろす。

 

「あ? やらんがか?」

「今は勝ち目が無い上に、優先するべき事がある」

「ほうかよ」

 

大和が短くなった煙草を握り潰す。極小の塊となったそれは、紙くずも煙草葉も落とさず、金属の携帯灰皿に落ち、硬質な音を聞かせる。

長い髪が海風に揺れ、大和は周囲に視線を送った。構える天龍、木曾、摩耶。表示枠を広げる鈴谷と榛名、今にも飛び掛からんばかりの霧島と、彼女の首根っこを掴む比叡。

離れた場所に瑞鶴が見え、大和の口が笑みに歪む。

そして、大和の目が止まった。

 

「うひゃあっ!」

「ふぶっち?!」

 

一瞬、誰も反応出来ぬまま、大和が吹雪の眼前に現れ、襟首を摘まみ上げる。

猫の様に簡単に摘まみ上げられた吹雪を、大和はプラプラと吊り下げられた吹雪を観察する。興味深く、繁々と見詰める目には、喜色の色がある。クルクルと回され、目を回す吹雪をよそに、大和は大笑する。

 

「かっははははははは! ほうかほうか! おまんが洋の係累かよ……!」

 

〝播磨〟が揺れる。全員が改めて理解する。これはダメだ。第一世代艦娘の生き残り、〝不死〟とも〝豪運〟とも違う。正真正銘の怪物がそこに居る。

グラーフも神通も、霧島も、名のある実力者全員が、息を飲む。もし仮に、この怪物が敵意を持って行動すればどうなるか。

確実に全滅する。緊迫が走る中、大和の首が五百蔵を向いた。

 

「な、あ……?!」

「えっ?」

 

またも突然現れた大和が、座り込んだままの五百蔵を、軽々と摘まみ上げ、吹雪と並べて見る。

 

「成る程のうし」

「な、何がでしょう?」

「洋が気に入る訳やのう」

「え、ええ……」

 

上官部下揃って吊り下げられたまま、顔を見合わせる。

そして、大和の興味は次の二人に移った。

 

「おんしは金剛の妹やにゃ?」

「は、はい!」

「で、おんしは元は呉のか」

「ひゃ、ひゃい!」

 

観察する目は、四人を見比べ、そして納得する様に頷く。

 

「かははは、えいにゃあ。まるゆの与太話も信じてみるもんやのう」

「ういっ!?」

 

陸軍重鎮の名前に、啓生の隣のあきつ丸が奇声をあげる。

その声に、大和がニヤリと口の端を吊り上げ、荒谷を含む御三家の面々を見た。

 

「……御三家か。妹が世話になったのう」

「その逸話、事実でしたか」

「まあ、成り行きやがの」

 

頭を掻き、体を起こした荒谷と、大破した機動殻を見た。

 

「懐かしいもん使いゆうにゃあ。あん時から、大分変わったかや?」

「……嘗てから続き、時代に合わせて変わった」

「そうやの。随分、尖っちゅう。んで、こいたと喧嘩して負けたがやな」

 

摘まみ上げられたままの五百蔵を、荒谷の前に差し出す。

プラプラと吊り下げられ、易々と振り回される巨躯。気まずい顔で、顔を見合わせる五百蔵と荒谷。

 

「ま、おんしら程度は喧嘩で収めちょき。アシらみたいに、殺し合いはするにようばん」

 

吊り下げられた二人を下ろして、大和は〝播磨〟舳先の方角へと歩んでいく。一体今度は何だと、視線が集まる中、大和は何気無しに言った。

 

「この船、止まっちゅうきにゃあ。アシが曳航しちゃらあや」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

七面鳥¦『はいはい! えっと、どういう事?』

ズーやん¦『宿毛の大和が、〝播磨〟を曳航します!』

七面鳥¦『それよ! 〝播磨〟が何tあると思ってんの?!』

船長¦『ちょっとした町と同じだからな……』

元ヤン¦『つかよ、あいつ、体重何㎏あるんだ? 〝播磨〟の表層フレームが歪んでるんだが……』

ヒエー¦『鉄蛇で歪まなかったという事は?』

ほなみん¦『鉄蛇より重いって事?』

鉄桶男¦『話は聞いてたけど、実際はそれ以上だね』

鉄桶嫁¦『あれが、御姉様と同じ第一世代ですか……』

邪気目¦『それ聞くと、やれそうな気がしてきたな……』

 

 

表示枠が騒がしく喚いていた頃、大和は停止した〝播磨〟の舳先に居た。その顔には笑みがあり、フレームが軋む音を無視しながら、作業を進める。

 

「洋の係累、アシのが居るがやき、あいたのが居らんのがおかしかったわな」

 

背に負った鉄塊を開き、極太のワイヤーを引き出す。それを播磨の船体に括り付け、自身は海へと落ちる。

着水の瞬間、海面が撓み、大和を中心として大きく凹む。乱れた波が戻り、大和を押し上げ、若草色の作業着に飛沫が散るが、本人は気にせず、ワイヤーを掴み海面を〝踏んだ〟。

 

「い、よ……!」

 

全身の筋肉が隆起し、力がワイヤーを張らせる。〝播磨〟が軋みを雄叫びをあげるが、大和は無視して牽く。

海面を踏み、前へ前へと歩を進める。

 

「アシも、ちっくと鈍ったかや?」

 

〝播磨〟を曳航する大和が、草臥れた煙草に火を点ける。

大和の力に、〝播磨〟は逆らわず従っているが、大和からしてみると、それでも鈍った様だ。

 

「まあ、かまんか」

 

大和は再び歩みを進める。紫煙を燻らし、欠伸を漏らす。

 

「腹へったにゃあ。朝潮、飯炊いちゅうろうか」

 

再度、欠伸をして、気怠気な呟きが海に落ちた。




次回

吹雪、朝潮、負けられない戦い

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