バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第118話です。
今回は前半シリアス? 後半何時ものとなっております。
さあ、艦これとは一体何だったのか。これは艦これの二次創作作品なのか?
逆脚クロニクル第三章『不破の朝潮』、開幕です。


それは行き先へのエスコート

紅茶姉¦『ふむン、取り合えずそちらは無事の様デスネ』

ヒエー¦『取り合えずですが、しかし継戦は不可能です』

紅茶姉¦『霧島はどうしてイマスカ?』

ヒエー¦『大和様に秒殺されました』

紅茶姉¦『流石は霧島、あの大和を投げにいくとは、流石デスネ』

 

くつくつとした笑いが聞こえる。どうやら、機嫌も体調も良い様だ。比叡は表示枠から離れて、安堵の息を吐く。

今、横須賀を含めて全ての鎮守府情勢が、極めて不安定な状況下にある。

その状況下で、横須賀鎮守府総長である金剛が倒れるのは、他鎮守府にとって最大の好機となりかねない。

 

ヒエー¦『御姉様、どうか御自愛を』

紅茶姉¦『そうデスネ。暫く、養生しまショウカ』

 

表示枠の向こうでは、葉巻を燻らせる金剛が、穏やかに苦笑していた。顔色も良く、ベッドから降りてはいないが、この様子ならおおよそ問題は無いだろう。

比叡がそう思い、表示枠を閉じようとした時、長身の彼女を覆う影が見下ろしていた。

 

「なんぜ、便利なもん持っちゅうの」

「な……!」

 

油断はしていた。しかし、比叡も提督秘書艦で総長補佐という特務級の役職者。その比叡に、気配一つ感じさせる事無く、天を突く長身は比叡の背後から表示枠を、覗き込んでいた。

 

『大和、久し振りデス』

「んお? 金剛。おんし、隠居せえや」

『おや? いきなりデスネ』

「いきなりも何もあるかや。分かっちゅうがやろ? 今のままやったら、次の百年は保たんち」

 

大和の言葉に、比叡は唇を噛み締める。薄々、理解していた。以前より、鎮守府の外に向かう事が減り、鎮守府内で眠る様に過ごす時間が増えてきていた。

 

「今、おんしに倒れられたら、アシらが迷惑ながやきよ」

『暫くは養生しマスヨ』

「ほうかよ。……んで、おんしよな」

「え?」

 

抵抗する暇も無く、反応する事も出来ずに、比叡は大和の小脇に抱えられた。

先程から、大和の動きがおかしい。気配も感じさせず、突然現れる。これはまるで、瞬間移動だ。

聞いた話では、大和にこの様な細かな技を使えたという話は無かった。だとすると、これは?

 

『まるゆの真似デスカ?』

「後は洋を混ぜて、アシなりによ。金剛、おまんほんまに隠居せえ。つか、早よ寝ろ」

『そうデスネ。今日は寝マショウ。では、まタ』

「ほうじゃの。会うとしたら、大演習やの」

 

表示枠が消え、大和が吐き出した紫煙が漂う。抱えられたままの比叡が、何とか降りようと抵抗するが、力が違い過ぎて、抵抗に意味が無くなっている。

 

「おんし、金剛の妹やな」

「……榛名と貴女様が投げ返した愚妹もです」

「かはは、あれは副長としては合格よや。負けるのは論外やけどの」

 

横須賀鎮守府の副長として、宿毛泊地の総長兼副長の大和に、勝負を挑んだ霧島だったが、重心を崩す事も出来ずに、単純な力で投げ返されていた。

 

「情けない話です」

「これからよにゃあ。さて、まだ宴会の途中じゃ。抜けるにゃ、ちっくと早かろ。洋の係累のチビスケが、またよう食いよるわ」

 

愉快そうに笑い、大和は比叡を抱えたまま、宴会場となっている宿毛泊地本館へと向かう。コンクリートで厳重に鋪装された地面が、ただ歩むだけで軋み、大和の重さと力を伝えてくる。

比叡が思わず息を飲むと、大和は懐から煙草を取り出し、夜闇に紫煙を吐き出した。

 

「御三家の連中は、大人しゅうしよる」

「貴女様の前で暴れて、勝てる見込みがあると?」

「分からんぞ? 勝ちの目をどこにもっていくかやの。それで、グラーフに神通に荒谷、この三人が死ぬ気で来たら、話は違うかもしれんにゃあ」

 

笑う大和だが、現代に於ける最高戦力を以て、もしかするかもしれない程度だと言い切る実力は、確かなのだろう。

比叡を抱える左腕、その一本だけで、そこに詰まった力が伝わってくる。

 

「まあ、やるだけやりや。面倒事は、アシらが持ってっちゃるき」

 

大和は似つかわしくない、何処か疲れた笑みを浮かべる。比叡はこの笑みを知っている。金剛や洋が、極稀に見せる笑みだ。喪い続けた者の笑み、彼女も同じなのだ。

 

「せめて、こっからのガキ共には、ちっとでも明るい未来を残しちゃりたいきに」

 

後悔を滲ませた言葉が、大和から溢れる。

これは金剛も同じ事を言っていた。夜闇に紫煙に消えていき、灯りが浮かび喧騒が聞こえ出す。

 

「イエーイ! これ、私の育てた牛タン!」

「オルァ!」

「ああ! 私の牛タン!」

「ムッキー、食べてる?」

「あ、はい。鰹が美味しいよ」

はらんぼ(鰹のトロ)の塩焼き、マジウメェ」

「おい、天龍。この柚搾ると味が締まるぞ」

「ウツボ、歯応えがいいね」

「冬悟さん、このリュウキュウ(ハス芋)の酢の物も美味しいですよ」

「あきつ丸さん、このトマト本当に甘いですよ……!」

「本当でありますな……!」

 

騒がしい喧騒の中、ある卓では飛び抜けて熾烈な争いが繰り広げられていた。

 

「………」

「………」

 

無言のままに、箸が動き獲物を手繰り寄せて、口へと運び咀嚼し飲み込む。

大皿に盛り付けられた料理の山が、次々と減り、空となった皿が積まれていく。

刺身、焼き魚煮魚、フライに天ぷら、魚料理を中心とした卓は、あっという間に更地となり、隣から中華料理の大皿が引き摺り込まれる。蟹玉、回鍋肉、青椒肉絲、麻婆茄子、八宝菜等々が、吹雪と朝潮の二人の胃袋に、野菜屑一欠片残さず消えていく。

 

「も?」

「む?」

 

箸は止まらず、飯櫃が山と積み上げられ、カレーを煮込んでいた大鍋は既に空となっていて、釜飯を炊いていた釜にも、具材の一つ、飯粒の一粒も残っていない。

 

「おう、よう食いゆうにゃあ」

 

キャベツたっぷりの豚汁を啜りながら、白飯を掻き込んでいた二人に、比叡を降ろした大和が声を掛けた。

 

「美味しいです! 有難う御座います!」

「かっはははは! 食え食え、米は足るばああるがやき」

 

競う様に食事を続ける二人、一体何が二人を駆り立てるのか。誰もが、二人に注目する中、大和が日本酒を注いだ猪口を片手に、口を開いた。

 

「そうじゃの。おんしら二人、喧嘩しいや」

「「ほ?」」

 

口を開かず、器用に発した疑問符は、膨れ上がった頬と同じく、少し間抜けていた。




次回
後悔を断つ道へと

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