バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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はい、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第119話です。
今回はいきなりな展開ばかりで、どうなのこれ?


全てを越えろと、君は手招く

どうにもならねえ。天龍は刃が欠けた刀を構え、海上を滑走する。兎に角、止まれば終わる。

視界端、比叡が直援の霧島と跳ね飛ぶのが見えた。鈴谷がどうにか立て直そうと、摩耶や木曾、瑞鶴に指示を飛ばすが、〝これ〟はそんな作戦とかで、どうにかなる代物ではない。

 

「くっ……!」

 

天龍は眼帯に手を伸ばし、左腕を格納空間へと納めようとする。だが、手応えが無い。否、視界が一瞬で変化していく。

 

「まあ、あれよな。それは訓練の範囲外よや」

 

海を踏みつけ、天龍を高々と吊り上げた大和が、天龍を海面に叩き付けた。衝撃が震動となり、骨身と内臓、脳を繋ぐ神経が激震し、水柱から大の字のまま、意識を失った天龍が浮かび上がる。

 

「元教導院の教導艦娘が、訓練の意味を間違えたらいかんじゃろ?」

「るあぁっ……!」

 

不意を打った摩耶の船殻による打撃が、大和の脇腹に突き刺さる。

だが、肉を割り骨を砕く筈の船殻、その先端は歪み潰れていた。

 

「おんしは、もっと腰を入れや」

「ぎゃうっ!」

 

力を入れず、軽く振った。本当にただそれだけの打撃とも言えない一撃。それを受けた摩耶は、船殻を砕かれ、二度三度と海面を跳ね、膝をついていた霧島に受け止められる。

大和が着る若草色の作業着には、摩耶の打撃の跡はくっきりと残っているが、肝心の大和には何の痛痒も与えられていなかった。

 

「さて、次は……っ!」

 

そこまで言った大和の頭が、後ろに弾かれる。明らかに頸椎を損傷する動きだったが、大和に変化は無く、瞬時に水柱を残して、己の頭を弾いた犯人に接近する。

 

ちっくとびった(少しビビった)ぞ?」

「化物め」

 

白の装甲服、グラーフ・ツェッペリンの狙撃は、確かに大和の左眼球を直撃していた。

だが、

 

「目瞑ったら、瞼に弾が挟まるらあ、大戦時にもそうそう無かったのう」

 

グラーフが機関銃の引き金を弾き、対艦娘用弾丸を雨霰と大和に至近で浴びせる。しかし、それすらも大和の体には通じない。潰れひしゃげた弾丸が、次々と絶え間無く海に落ちていく。

けたたましい激音が、飛沫の様に飛び散る中、グラーフは右の狙撃銃を手離し、指をコッキングレバーに掛ける。

 

「お? 曲芸やにゃ」

 

伸ばしてくる大和の腕をかわして、コッキングレバーを指のスナップで跳ね上げ引く。薬莢が薬室から飛び出す。大和が拳を打ち下ろす。それに乗る勢いを利用して、グラーフはレバーを押し込み、宙に浮いた狙撃銃を掴み、至近で対艦娘用徹甲弾を、大和の眼球に撃ち込んだ。

 

「〝魔王〟……!」

 

天空から異音を鳴り響かせ、二連の砲撃音が轟く。

戦果の確認はしない。それこそ隙になる。グラーフは己に有利な距離を取る為に、海上を疾走する。

だが、距離が取れない。空から〝魔王〟の砲撃は続き、大和を絶え間無く打撃している。耐久力自慢の艦娘でも、とうの昔に挽き肉になっている。

それなのに、この大和はそれが当然だと言わんがばかりに、平然と砲撃の雨を浴びながら、グラーフと距離を詰めた。

 

「パンパカ小煩いけんど、これなら静かになるやろ」

「この……!」

 

グラーフを掴んだ大和は、彼女の抵抗をものともせずに、海面へと投げ捨てる。

 

「かっ!」

 

衝撃、震動、グラーフの動きが止まる。

だが、

 

「……神通!」

「おん?」

「これならば、如何ですか?」

 

居合を構えた神通が、刃を鞘走らせた瞬間、莫大量の刀剣が、大和を飲み込んだ。

金属の瀑布が激しく叩き付けられ、大和の長身が海上から消える。幾重にも積み重なり、連続する音は金管の様に、海上に甲高い音を鳴り響かせ、砕け散っていく。

 

「格納空間から連動して居合を……」

「……つくづく、第一世代というのは、常識はずれでありますな」

 

驚愕に目を剥く啓生の隣で、あきつ丸が溜め息混じりに、そう言った。この訓練、大和が突然言い出した事だが、訓練になっているのだろうか。

ほら、あの刀剣の瀑布が、当たり前の様に砕かれていく。

 

「ああ、やっぱり、神通でも無理か」

「あ、三笠さん。体はいいの?」

「いいのよ、啓生。どうせ、変わらないから」

 

幾ばくか顔色の良い神宮が、車椅子に点滴を吊るし、訓練を眺めていた。

 

「一応、言っとくけど、私の余命は長くないからね」

「何故にそれを、今言うのでありますかねぇ」

「決まってるじゃない。生きる為に生きる。その為よ」

 

痩せこけた頬を歪め、神宮三笠が笑った。

 

「この短い時間を、生きる為に生きる生きたがりが私。私はこの短い時間を、楽しんで生ききってやるわ」

「何というか、随分と前向きでありますな」

 

千と万と、神通の居合が大和に降り注ぎ、その全てが蹴散らされ、叩き伏せられていく光景を見ながら、あきつ丸は神宮を見る。

痩せ衰えた体は、確かにもう長くはないだろう。消える寸前の蝋燭、それだ。

 

復帰した霧島が、神通の変則居合に体を浮かせた大和を投げにいくのが見えた。体を巻く様に高速で回し、大和の腕を巻き取る。しかし、投げられたのは大和ではなく霧島。

ただ単純な腕力で、霧島の技は潰され、神通の刀剣群は砕かれていく。

 

 

ズーやん¦『はい! これに勝つ方法!』

船長¦『過ぎるのを待とう。災害と一緒だこれ』

邪気目¦『それが出来ねえから、こうなってんだがな』

元ヤン¦『バケモンにはバケモンぶつけんだよって、ぶつけたんだが、こっちのバケモンが話になってねえ……』

ヒエー¦『艦娘用徹甲弾を、まばたきで止めるとか、冗談にも程が……』

七面鳥¦『つかさ、私轢き逃げされたんだけど……』

ズーやん¦『え、何時?』

七面鳥¦『グラーフに向かう途中、ついでとばかりに』

約全員¦『うわぁ……』

 

 

表示枠を閉じ、あきつ丸は神通が膝をついたのを見る。柄や刃の破片が散り散りに海面に浮き、グラーフがその上を跳ねる様に疾駆する。

ダメージは与えられない。しかし、グラーフの狙撃銃と〝魔王〟の砲撃だけは、大和の動きを一瞬だけ止める事が出来る。

機関銃で牽制しながら、グラーフは大和の頭部を捉え続ける。

 

「ようやるにゃあ」

「御三家が近衛師団最強の名は、軽くはない」

「ほうかよ。いたら、これはどうぜ?」

 

振り上げた拳、それを海面に叩き込む。ただそれだけで、海面が一度大きく凹み、異常な波が生まれる。生まれた波に、海面を滑走するグラーフは体勢を崩し、戻ってきた波に打ち上げられる。

そしてそれは、海面を〝踏む〟大和の射程であった。

 

「そしたら、これでしまいじゃ」

 

大和の肩から先が消えた。グラーフはそう認識し、知覚した瞬間、腹で何かが爆発した。

打撃、衝撃など生温い、爆撃や爆発、その事実が己の腹にあった。

 

「まあ、こんなもんじゃろ」

 

先程の摩耶など比べ物にならぬ程、海面を跳ね飛び、転がったグラーフを一瞥すらせず、大和は欠伸をし、草臥れた煙草を口の端に噛む。

そして、紫煙を燻らせながら、いまだ荒れる波を踏み潰し、着水し俯せに浮くグラーフの装甲服のフードを摘まみ上げる。

 

「おんしらはまだ若い、生き急ぐなや」

 

グラーフを埠頭に軽く放り投げ、自身も陸に上がる。埠頭が微震するが、誰も気にしない。

 

 

邪気目¦『挙動がおかしいんだよなあ』

ズーやん¦『え? 存在からおかしいでしょ』

七面鳥¦『それ言ったら、先生や総長もになる……』

元ヤン¦『つかよ、大和、海歩いてね?』

約全員¦『それだ!』

 

 

己達と大和の挙動の差異、それは海上を滑走するか、疾走するかだった。

天龍達は海上に浮き滑る、大和は海上に立ち走る。どれ程に艤装を制御し、体に力を巡らせても、浮き滑っている以上、力は十全に発揮しきれない。どこかで逃げてしまう。

だが、大和は違う。摩耶の予想通りなら、埒外の力を埒外のまま、海を踏みつけ、発揮出来る事になる。

そしてその予想を、肯定する表示枠が開いた。

 

 

おかみ¦『正解です』

七面鳥¦『あ、先生!』

おかみ¦『轢き逃げされた件については後程、今は大和さんについて説明しましょうか』

七面鳥¦『うっす……』

おかみ¦『素直で宜しい。では、大和さんはどういう原理か、海を踏めます』

約全員¦『端的過ぎる説明がきた……!』

おかみ¦『と言われましても、私達も大和さんも分かってないのですからねえ。まあ、世界最硬の存在の力の一端を知れたとしなさい』

 

 

思ったより雑な解説が終わり、表示枠が閉じる。大和が生じさせた波により、埠頭に打ち上げられていた面々は、盛大な溜め息を吐いて、艤装と装備を下ろす。

 

ほなみん¦『あ、そっち終わった?』

ヒエー¦『司令、そっちはどうですか?』

ほなみん¦『こんな感じ~』

 

開いた表示枠を磯谷が移動させると、

 

鉄桶男¦『よーし! いいの入った!』

鉄桶嫁¦『吹雪ちゃん、そのまま畳み掛けるのよ!』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃんが、鉄腕ちゃんでガードして飛んだ!』

ほなみん¦『こんな感じ、いやあ、朝潮ちゃん凄いわ。鉄腕ちゃんが力負けしてる』

約全員¦『ヤベェ……!』

 

表示枠の向こうには、分厚く平たい金棒を振る朝潮と、鉄腕ちゃんとその一撃を防ぎ、弾き飛ばされる吹雪が写っていた。




トピック

大和=超人学園〝ぬらりひょんのすけ〟
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