今回は朝潮VS吹雪の、第三世代対決。さあ、軍配はどちらに上がるのか?
では、逆脚屋クロニクル始まり!
朝潮にとって、吹雪という艦娘は特別だった。自分達、第三世代艦娘は嘗ての伝説、第一世代艦娘を踏襲し超える。その為に産み出された。
だが、いざ蓋を開けてみれば、第一世代のデッドコピー、嘗ての力の一端の更に一端を、漸く顕現させるのが関の山。
己など、まだいい方だ。宿毛泊地を根城にする〝不壊の大和〟、彼女は非常に分かり易かった。
「軽い!」
「うわわ!」
己に与えられたのは、駆逐艦娘に似つかわしくない大質量と、それに伴う大出力。
大和本人の足元にも及ばない程度だが、並の艦娘なら労なく圧倒出来る。己でもそうなのだ。
原初、始原、黎明の一、鳳洋の直系たる彼女は、一体如何程のものなのか。
きっと、己達の理想たる力を有しているに違いない。
そう、思っていた。
「鉄腕ちゃん!」
「だから、それがどうしたと……!」
嗚呼、なんと柔く脆く弱いのか。恐らく最大の威力であろう一撃すら、己の身には響かない。
これが己達の原初? 始原? 黎明の一?
ふざけるな!
「私達、私達第三世代の始まりが、何故その程度なのですか……?!」
「うなっ!」
鉄拳の射出を腹部に受けて尚、呼吸すら乱れず朝潮に痛痒は見られない。それどころか、射出された鉄拳ごと吹雪が弾き飛ばされた。
爆発的な腹筋の瞬発、鉄拳のフレームが軋み、射出用強化スプリングが一瞬撓む。鉄腕ちゃんと艤装との連結用コネクタから、破砕音が聞こえる。
たった一発、ただそれだけで吹雪は火力の半分を失った。
空腹娘¦『これ無理じゃないですかね』
約全員¦『ものスゴいのがきたぞ……!』
空腹娘¦『いやだって、アレ無理ですって』
邪気目¦『何か隙ねえのかよ?』
空腹娘¦『鉄腕ちゃんは一瞬入りはするんですけど、入るだけですぐ弾かれて、もう左鉄腕ちゃんの肩イカれました』
元ヤン¦『おいおい、何がどうなってんだ?』
にゃしぃ¦『吹雪ちゃんの砲撃も打撃も、全部無視して突っ込んでくるんだよぉ……』
船長¦『完全に大和の直系かよ』
鉄桶男¦『いいのは入ってるんだけどね』
鉄桶嫁¦『攻撃が通らないんですよね』
水飛沫を蹴立てながら朝潮が、距離を取る吹雪を追撃する。吹雪が放った砲弾は、榛名の言う通りに朝潮の身に弾かれ、彼女の進撃を止めるには至らない。
朝潮が鎚刀を横薙ぎに振るい、吹雪が鉄腕ちゃんでそれを防ぐ。爆発的な瞬発と、確かな踏み込みから生み出された威力は、吹雪を軽々とピンボールの様に飛ばす。
「何故、力を使わないのですか?」
「力?」
「……まだ、惚ける!」
呆ける吹雪に、朝潮が目を剥き、鎚刀を瞬発させる。辺りの空気を抉り、吹雪を薙ごうとするが、いまだ稼働可能な左鉄腕ちゃんがそれを防ぎ、その勢いを利用して、右鉄腕ちゃんによるロングフックを、朝潮の側頭部に叩き込む。そしてそのまま、海面を滑走し朝潮の背後を取り、無防備な背中に砲撃を浴びせる。
だが、
「〝不壊の大和〟が直系、嘗めるなぁ……!」
単純な筋力の違いが、二人の勝敗を分けた。全くの無傷で、朝潮が鎚刀を薙ぐ。
ガードの為に稼働した左鉄腕ちゃんが、その強固な装甲で鎚刀が受け止める。軋みはすれども、朝潮の攻撃は鉄腕ちゃんの装甲を打ち破れてはいない。そして、返す刀で感覚器官の集まる顔面に、右鉄腕ちゃんを叩き込めばいい。
その筈だった。
「嘗めるなとっ……」
だが、吹雪の目論みは、朝潮の激情の一撃により散る。鎚刀を受けた左鉄腕ちゃんが、肘関節から破断したのだ。
ひしゃげ、金属が束となり潰れる音が響き、断たれた鉄拳が宙を舞う。予想外に吹雪の反応が遅れ、朝潮はその隙を見逃さなかった。
「言った筈だ!」
破断の勢いのままに、鎚刀は吹雪の艤装の主機を砕き、彼女自身を打撃する。
肉が潰れ、骨が軋む。鉄腕ちゃんと主機が無ければ、断たれていたかもしれない。
装甲服を構成する装甲繊維が解れ、幾らか衝撃を拡散させるが、それでも威力は絶大で、海面を跳ねた吹雪は港の埠頭に叩き付けられる。
「吹雪大破! 勝者……」
「ほい、待ちや」
五百蔵の宣言を遮る様にして、大和が姿を見せる。全員が動きを止める中、大和は埠頭にしゃがみ、目を回している吹雪を引き上げ、朝潮と見比べる。
「んン? ああ、成る程のう。おんし、洋と繋がっちゃあせんがか」
「あい?」
目を回したままの吹雪が、頭に疑問符を浮かべるが、大和は意に介さず、高々と宣言する。
「勝者は無し! この喧嘩はアシが預かる!」
しかし、その決定に待ったを掛ける者が居る。
「総長!」
朝潮だ。彼女は長い黒髪を海風に靡かせながら、大和に詰め寄る。
「総長、この演習は私の勝ちです! それを何故……!」
「いたら、朝潮よ。おんしは力の使い方も決まっちゃあせん奴を叩いて、納得いくがか?」
「それは……」
己が焦がれた相手は目を回し摘まみ上げられ、そこに至るまではあの鉄の腕以外に、特筆するものは無かった。
だがそれでも、何かしらの違和を朝潮は感じていた。
「まあ、あれよな。まだ暫く時間はあるがやき。今日明日で急いで結論出す話やないわな」
大和は摘まみ上げた吹雪を五百蔵に手渡すと、朝潮の頭を軽く撫でる。
突然の事に、朝潮は目を細める。
「しかし、総長。私は……」
「おんしが気にしすぎなだけよ。まずは話をしてみ? そっからよ」
気を失ったまま、五百蔵に抱き抱えられる吹雪を見ながら、朝潮は確かに頷いた。
「そういう事やきに、おんしらも好きにしよりや」
「はあ」
五百蔵の気の抜けた返事を気にせず、素直に撫でられている朝潮に言う。
「朝潮、総長命令じゃ。チビスケに力の使い方を教えちゃり」
「しかし、総長……」
「……気付いちゅうがやろ?」
顔を近付け、朝潮の反応を伺えば、案の定の反応があった。
第三世代でも後発に分類される朝潮でも、この程度出来るのだ。最先発である吹雪が、あの程度だというのはおかしい。
何か、ある。その筈だ。
「おーい、吹雪君。そろそろ、起きなさい」
「うえあ!」
「はい、おはよう」
抱き抱えられた吹雪も、目を覚ました。
ならば、後する事は決まっている。
「吹雪さん、貴女は弱い。だから、私が最低限の力の使い方を教えます」
「え? あ、はあ?」
己達第三世代、その原初に似つかわしい力を身に付けさせる。その為に、
「覚悟していてくださいね?」
朝潮は呆ける吹雪に、にっこりと微笑んだ。
「いやぁ~、この頃でも朝潮ちゃんは硬い硬い。折れちゃったよ。……頑張りなよ『私』、これから始まる日々は、『私』にとって一番大事な日々だから」