バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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どうも、『バケツ頭のオッサン提督の日常』第120話です。
今回は朝潮VS吹雪の、第三世代対決。さあ、軍配はどちらに上がるのか?

では、逆脚屋クロニクル始まり!


その先にあるのは何なのか

朝潮にとって、吹雪という艦娘は特別だった。自分達、第三世代艦娘は嘗ての伝説、第一世代艦娘を踏襲し超える。その為に産み出された。

だが、いざ蓋を開けてみれば、第一世代のデッドコピー、嘗ての力の一端の更に一端を、漸く顕現させるのが関の山。

己など、まだいい方だ。宿毛泊地を根城にする〝不壊の大和〟、彼女は非常に分かり易かった。

 

「軽い!」

「うわわ!」

 

己に与えられたのは、駆逐艦娘に似つかわしくない大質量と、それに伴う大出力。

大和本人の足元にも及ばない程度だが、並の艦娘なら労なく圧倒出来る。己でもそうなのだ。

原初、始原、黎明の一、鳳洋の直系たる彼女は、一体如何程のものなのか。

きっと、己達の理想たる力を有しているに違いない。

 

そう、思っていた。

 

「鉄腕ちゃん!」

「だから、それがどうしたと……!」

 

嗚呼、なんと柔く脆く弱いのか。恐らく最大の威力であろう一撃すら、己の身には響かない。

これが己達の原初? 始原? 黎明の一?

ふざけるな!

 

「私達、私達第三世代の始まりが、何故その程度なのですか……?!」

「うなっ!」

 

鉄拳の射出を腹部に受けて尚、呼吸すら乱れず朝潮に痛痒は見られない。それどころか、射出された鉄拳ごと吹雪が弾き飛ばされた。

爆発的な腹筋の瞬発、鉄拳のフレームが軋み、射出用強化スプリングが一瞬撓む。鉄腕ちゃんと艤装との連結用コネクタから、破砕音が聞こえる。

たった一発、ただそれだけで吹雪は火力の半分を失った。

 

 

空腹娘¦『これ無理じゃないですかね』

約全員¦『ものスゴいのがきたぞ……!』

空腹娘¦『いやだって、アレ無理ですって』

邪気目¦『何か隙ねえのかよ?』

空腹娘¦『鉄腕ちゃんは一瞬入りはするんですけど、入るだけですぐ弾かれて、もう左鉄腕ちゃんの肩イカれました』

元ヤン¦『おいおい、何がどうなってんだ?』

にゃしぃ¦『吹雪ちゃんの砲撃も打撃も、全部無視して突っ込んでくるんだよぉ……』

船長¦『完全に大和の直系かよ』

鉄桶男¦『いいのは入ってるんだけどね』

鉄桶嫁¦『攻撃が通らないんですよね』

 

 

水飛沫を蹴立てながら朝潮が、距離を取る吹雪を追撃する。吹雪が放った砲弾は、榛名の言う通りに朝潮の身に弾かれ、彼女の進撃を止めるには至らない。

朝潮が鎚刀を横薙ぎに振るい、吹雪が鉄腕ちゃんでそれを防ぐ。爆発的な瞬発と、確かな踏み込みから生み出された威力は、吹雪を軽々とピンボールの様に飛ばす。

 

「何故、力を使わないのですか?」

「力?」

「……まだ、惚ける!」

 

呆ける吹雪に、朝潮が目を剥き、鎚刀を瞬発させる。辺りの空気を抉り、吹雪を薙ごうとするが、いまだ稼働可能な左鉄腕ちゃんがそれを防ぎ、その勢いを利用して、右鉄腕ちゃんによるロングフックを、朝潮の側頭部に叩き込む。そしてそのまま、海面を滑走し朝潮の背後を取り、無防備な背中に砲撃を浴びせる。

だが、

 

「〝不壊の大和〟が直系、嘗めるなぁ……!」

 

単純な筋力の違いが、二人の勝敗を分けた。全くの無傷で、朝潮が鎚刀を薙ぐ。

ガードの為に稼働した左鉄腕ちゃんが、その強固な装甲で鎚刀が受け止める。軋みはすれども、朝潮の攻撃は鉄腕ちゃんの装甲を打ち破れてはいない。そして、返す刀で感覚器官の集まる顔面に、右鉄腕ちゃんを叩き込めばいい。

その筈だった。

 

「嘗めるなとっ……」

 

だが、吹雪の目論みは、朝潮の激情の一撃により散る。鎚刀を受けた左鉄腕ちゃんが、肘関節から破断したのだ。

ひしゃげ、金属が束となり潰れる音が響き、断たれた鉄拳が宙を舞う。予想外に吹雪の反応が遅れ、朝潮はその隙を見逃さなかった。

 

「言った筈だ!」

 

破断の勢いのままに、鎚刀は吹雪の艤装の主機を砕き、彼女自身を打撃する。

肉が潰れ、骨が軋む。鉄腕ちゃんと主機が無ければ、断たれていたかもしれない。

装甲服を構成する装甲繊維が解れ、幾らか衝撃を拡散させるが、それでも威力は絶大で、海面を跳ねた吹雪は港の埠頭に叩き付けられる。

 

「吹雪大破! 勝者……」

「ほい、待ちや」

 

五百蔵の宣言を遮る様にして、大和が姿を見せる。全員が動きを止める中、大和は埠頭にしゃがみ、目を回している吹雪を引き上げ、朝潮と見比べる。

 

「んン? ああ、成る程のう。おんし、洋と繋がっちゃあせんがか」

「あい?」

 

目を回したままの吹雪が、頭に疑問符を浮かべるが、大和は意に介さず、高々と宣言する。

 

「勝者は無し! この喧嘩はアシが預かる!」

 

しかし、その決定に待ったを掛ける者が居る。

 

「総長!」

 

朝潮だ。彼女は長い黒髪を海風に靡かせながら、大和に詰め寄る。

 

「総長、この演習は私の勝ちです! それを何故……!」

「いたら、朝潮よ。おんしは力の使い方も決まっちゃあせん奴を叩いて、納得いくがか?」

「それは……」

 

己が焦がれた相手は目を回し摘まみ上げられ、そこに至るまではあの鉄の腕以外に、特筆するものは無かった。

だがそれでも、何かしらの違和を朝潮は感じていた。

 

「まあ、あれよな。まだ暫く時間はあるがやき。今日明日で急いで結論出す話やないわな」

 

大和は摘まみ上げた吹雪を五百蔵に手渡すと、朝潮の頭を軽く撫でる。

突然の事に、朝潮は目を細める。

 

「しかし、総長。私は……」

「おんしが気にしすぎなだけよ。まずは話をしてみ? そっからよ」

 

気を失ったまま、五百蔵に抱き抱えられる吹雪を見ながら、朝潮は確かに頷いた。

 

「そういう事やきに、おんしらも好きにしよりや」

「はあ」

 

五百蔵の気の抜けた返事を気にせず、素直に撫でられている朝潮に言う。

 

「朝潮、総長命令じゃ。チビスケに力の使い方を教えちゃり」

「しかし、総長……」

「……気付いちゅうがやろ?」

 

顔を近付け、朝潮の反応を伺えば、案の定の反応があった。

第三世代でも後発に分類される朝潮でも、この程度出来るのだ。最先発である吹雪が、あの程度だというのはおかしい。

何か、ある。その筈だ。

 

「おーい、吹雪君。そろそろ、起きなさい」

「うえあ!」

「はい、おはよう」

 

抱き抱えられた吹雪も、目を覚ました。

ならば、後する事は決まっている。

 

「吹雪さん、貴女は弱い。だから、私が最低限の力の使い方を教えます」

「え? あ、はあ?」

 

己達第三世代、その原初に似つかわしい力を身に付けさせる。その為に、

 

「覚悟していてくださいね?」

 

朝潮は呆ける吹雪に、にっこりと微笑んだ。




「いやぁ~、この頃でも朝潮ちゃんは硬い硬い。折れちゃったよ。……頑張りなよ『私』、これから始まる日々は、『私』にとって一番大事な日々だから」

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