あ、実写版アンパン◯マンは、ジャム◯おじさん役は、ドウェ◯ン・ジョンソンで決まりだよね?
あ、〝神々のいない星で〟下巻。出てるから皆買おう!
主成分の九割は〝先輩最高です!〟
吹雪が目を開けると、そこは夜だった。
いや、実際に夜ではない。そうとしか言い表せない、塗り潰された暗闇があり、頭上には月の様に丸い空白が、ぽっかりと口を開けている。
「あー」
身を起こせば、水音と水の手応えがある。どうやら、下は水が満ちている様だ。しかし、濡れた感覚は無く、それよりも馴染む感じが強い。
しかし、明かりらしい明かりが無いのに、はっきりと周囲を視認出来るのは何故か。
頭上の月の様な空白は違う。あれは開いているだけで、光源にはならない。
はて、では何故なのかと、普通は考えるだろうが、吹雪は違った。納得した上で、軽く身を伸ばして欠伸を一つ。そして一回、軽い呼吸を入れると、
『ここには来ちゃダメって言ったじゃん。「私」』
「『私』」
『んン~? あれ?』
声に振り返れば、
寧ろ、近付いてこちらの匂いを嗅ぐ、彼女の為すがままになっている。
『……この匂いは朝潮ちゃんか。しかも負けてる』
「なんで分かるの?」
『見てたし、私も負けたからだよ「私」』
「『私』も負けたの?」
『そりゃもう、この通り』
言って、
首の無い胴が腰を折り、お辞儀の真似事の様な動きを見せて、吹雪が叫んだ。
「うっわ……!? 『私』、エンガチョ!!」
『「私」、それは酷くない?!』
「だって『私』、首が取れてるじゃん!」
『言っとくけど「私」、「私」もこうなるかもしれないんだよ?!』
「嫌だ!」
叫んで、
『だから強くなりなよ。……今のままだと、〝次〟で誰かを失うよ』
「いきなりマジトーンとか……、〝次〟って、また何かあるの?」
『もっと大きいのあるあるヨー』
サラッと重要そうな事を言うのは、同じ自分でも正直どうかと思う。
しかし、話半分に聞いても、あの〝播磨〟での出来事以上の事があるのは確定の様だ。
『「私」、一応言っとくけど、これから先、最後の最後まで〝私達〟は綱渡りを続ける事になる』
「その内容は言えないの? 『私』」
『言いたくても言えない。下手すると、邪魔が入るからね「私」。……ていうか、今何処に居るの? 「私」』
「え? 何処って、宿毛」
『くわー! それもそうか、朝潮ちゃんに負けたんだし、宿毛に居るのは当たり前か。いやでも、だとしても、うんン?』
いきなり何を言い出すのか。同じ自分だが、どうにも考えや行動が突発過ぎる。その上、こちらを置いていく様な内容ばかりだ。
『ねえ「私」、会ったのは朝潮ちゃんだけ?』
「だけって?」
『他の第三世代、例えば夕立ちゃんとか?』
「会ってないよ。あ、でも、確か佐世保鎮守府が鉄蛇の回収に来てる筈?」
『は? 鉄蛇の回収? 佐世保が? なんで?』
「なんでって、佐世保で何か造ってるから?」
『え? 佐世保で造ってる? 何を? いやいや、早くない?』
「え、早くないって言われても、困る……」
またもや奇声をあげて、
どうやら、
『う~ん? だとすると、もしかしたら夕立ちゃんが居る? あぁ~、これはちょっとマズイよ』
「マズイって、何かあるの『私』」
『いやでも、線が違うからいいのかな?』
吹雪の質問に答えず、一人で頭を抱えて唸る
『ああ、でも、線は違くても、大元は一緒で、線自体も近いからこれが出来てて、あれ? あれー?』
「『私』何言ってるの? 狂った?」
『あ、それは元から』
「元から?」
『ま、それは別にどうでもいいから、佐世保が鉄蛇を回収に来てて、回収は何かの開発の為なのは確か?』
「うん? 多分」
『はっきりしてよー』
はっきりしてよと言われても、こちらは第三世代としての性能発揮の為の訓練で、弾かれては宙を舞う毎日だったのだ。
そんな細かい情報は入っていない。仮に入っていても、弾かれて吹っ飛んで、ちょっと記憶がアレな感じになっている。
というか、見てたなら、聞いてるのではないのか。
『あー、そこら辺、私はそっちに常に居る訳じゃないから』
「え、そうなの?」
『気が向いた時、っていうか、寝てる時?』
そこで聞かれても、正直困る。
『まあ、兎に角。私は常に「私」と居る訳じゃない。だって『私』と「私」は、同じだけど違うからね』
「まあそうだよね」
顔も声も嗜好も名前も、交遊関係もまったく同じ。違うのは存在の性能と、何が起きて、何を見て何を知ったかだ。あとちょっと、あっちが狂ってる。
『でまあ、もうすぐ私起きるから、結論言うよ「私」。もう少ししたら、色々起きるから、誰も失っちゃダメ』
「その〝誰も〟の範囲は?」
流石「私」、同じ私なだけあって賢い。やっぱり、お父さんとお母さんの娘なだけはある。
『誰も彼も、基本失っちゃダメ。やらかしちゃってるのも居るけど、失ったら手を増やす事になるから』
「手を増やす?」
首を傾げて、
『あ~、それはちょっと言えない。……言ったら、今のそっちにちょっかい出すしさ』
一瞬、
こちらには害は無いと、本能で理解していても、あの洞穴に満ちる闇は、決して良いものではない。
グラグラと、何か効果音でも付きそうな動きで、
また首でも取れるのかと、吹雪が身構える。
『ああ、うん。ちょっとちょっかい出してきたか……』
「『私』?」
『……ゴメン、最後にトチった。「私」、多分目覚めても覚えてないだろうけど、言うね。手を伸ばして、確かに届けと諦めないで』
「『私』、最後に謎ポエムはちょっと同じ自分でもどうかと……!」
目覚めたのだろう。吹雪の姿が消えた。
さて、『私』は誰も彼も失った。なら「私」は、どうなるのだろう。
いや、心配は無用だ。「私」は睦月を失わず、それによる連鎖も起こさず、誰も欠ける事なく今にいる。
「私」は『私』とは違う。
『だから、ちょっとの間は助けられないけど、頑張れ「私」。これから始まる日々は、一番大事な日々だから』
『何度だって、ぶち殺してやる。クソ野郎』
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「あ……?」
何か夢を見ていた様な気がする。しかし、どうにも思い出せない。
しかし、何故寝ていたのか。記憶を遡り、首を傾げてぼやけた頭を動かす。ここは宿毛泊地、外で重機か何かの音がするのは、確か佐世保鎮守府が、大破した鉄蛇の回収に来ているから。
――あれ? 佐世保?――
何か引っ掛かるが、今は何故寝ていたのかだ。
体にはのし掛かる様な疲れと、軋む様な痛みがある。これは〝播磨〟での騒動だろうが、何か違和感がある。
「あ、起きましたか」
吹雪が考えていると、大鍋を片手に提げ、もう片手にタッパーを乗せた飯櫃を抱えた朝潮が、部屋に入ってきた。
炊いた米と、沸かした味噌の匂いがする。しかし、それと同時に、吹雪は何故か首元に疼きを覚えた。
「……どうしました?」
「……首チョンパ」
「はい?」
何か間違えた。
「また、何か受信しましたか?」
人を電波扱いとは失礼な。この米と味噌汁を平らげたら、成敗せねば。朝潮から白飯と味噌汁を受け取りながら、吹雪が鉄腕ちゃんをチラリと見ると、何やら動きが鈍い。
「その艤装なら、貴女が目覚める少し前から、動きが鈍くなってましたよ」
「うぇ?」
はて、これもまた何か引っ掛かる。しかし、キャベツやらエノキやら、明らかに冷蔵庫の余り物を、雑に刻んで叩き込んだだけの味噌汁が旨い。今度は提督に作ってもらおう。
「期限切れの牛脂で軽く炒めただけでも、豚汁というか肉感というか、薄味ラーメン的な味噌スープ感が出ますね」
「あ、牛脂」
「何時から冷蔵庫にあったのか、まるで分からないやつでしたが、まあ第三世代の内臓なら問題無いでしょう」
――割りと雑?――
吹雪が味噌汁を飲み干し、次をと鍋に引っ掛かけたお玉に手を伸ばすと、タッパーの漬物を囓っていた朝潮が、良い音をさせた後に口を開いた。
「しかし、貴女方はトラブルが好きなの?」
「へ? トラブル?」
何処かの横須賀の珍生物の愛読書が、そんな名前だった気がする。
「佐世保と揉めてますよ。貴女方」
「なんでぇ……?」
取り敢えず現実逃避に、漬物を囓ったら良い音がした。
あー! 「私」に〝私達〟の体の使い方は、洋さんに教われって言うの忘れてた……!