「ちょっと何してるんですか?!」
「何勝手に決めてるっぽい!!」
声と動きは同時で、それは周囲も同じだった。
飛び込んできた吹雪を諌める五百蔵、起き上がった夕立を押さえ込む龍驤。
互いに顔を見合せ、これからの交渉が難航する事を悟った。
「吹雪君、落ち着きなさい」
「提督、でも……!」
「落ち着きなさい」
「はい……」
吹雪が落ち着いた事に安堵しつつも、五百蔵はこれからの事をどうするべきか、判断に迷っていた。
──佐世保の狙いは機竜技術なら……
神宮との取り決めで、
五百蔵には分からないが、あの鉄蛇に使われている技術は、機竜建造に必要な技術なのだろう。
だが、こちらの着地点は先程の交渉結果の破棄、明らかに釣り合わない。
・鉄桶男 ¦『どうしよ?』
・鉄桶嫁 ¦『こちらは交渉結果の破棄、ですが佐世保の目的が機竜建造技術なら、ちょっと合いませんね』
・七面鳥 ¦『というか、機竜建造技術は先生の管轄だから、先生に頼まないと無理じゃない?』
・蜻蛉玉 ¦『そこであります。機竜建造技術の核は、洋様の管轄。しかし、相手は機竜の産みの親である龍造寺。機竜技術は保有している筈なのでありますよ』
・鉄桶男 ¦『だが、龍驤は鈴谷君の言葉に反応した』
・邪気目 ¦『なら、一番高い可能性としては、
1.龍造寺は機竜建造技術を持っていない
2.建造技術はあるが、何かが足りない
3.全て足りているが、更に求めている
今のところ挙げるなら、この三つが妥当か』
・元ヤン ¦『まあ、その辺だろうな。アタシとしては2辺りの気がする』
・船長 ¦『だとすると、龍造寺は機竜建造の核になる技術を持ってないって事になるぞ』
・ほなみん¦『となると、結構面倒な話になるよ』
・副長 ¦『どういう意味ですか?』
・ヒエー ¦『……機竜建造の核となる技術を持たないのに、何故か今になって機竜の建造に取り掛かった。そこに何か目的がある、という事でしょう』
・蜻蛉玉 ¦『恐らく、そうなのでありましょう。それに、機竜とは大戦時の最強兵器。今の時代には過剰であります』
・七面鳥 ¦『私達も資料でしか見た事ないし、その資料でも建造されたのは数機だけだって話』
・鉄桶男 ¦『数機しか建造されなかった失われた技術。面倒な話だね、本当に』
・船長 ¦『よし、鈴谷。頼んだ』
頼むな。
勝手に進む表示枠を眺めながら、鈴谷は取れる手段を脳内で並べる。
龍驤は再び夕立を簀巻きにしている。吹雪は五百蔵の後ろで大人しくしているが、夕立は猿轡をされてもがいている。
「んぐぐ!」
「ええから、大人しくせえ!!」
戦闘系ではないと言えども、仮にも副長クラス。第一特務の夕立を抑え込み、更に厳重に縛り上げていく。
機竜に関する技術は鳳洋の管轄であり、横須賀に技術開示の権限は無い。
何か条件を付けようにも、あの洋が素直に頷くとは思えない。
さて、ここからどう出たものか。
・おかみ ¦『え? 普通に開示しますけど』
・約全員 ¦『嘘だろお前……!?』
・紅茶姉 ¦『まあ、元は龍造寺の技術ですから、洋が無理に保有し続ける理由も特には無いのデスヨ』
・ズーやん¦『私、なんで悩んだの? ……まあいいや。情報開示は可能として、条件はあります?』
・おかみ ¦『そうですね……。当代の龍造寺に謁見を求めます』
・ズーやん¦『なるほど』
条件がかなり弛い。てっきり、力を示せ的な事を言うと思ったが、ただ会うだけで済むなら後々問題にもなりにくい。
しかし鈴谷は考える。
──ちょっと割りに合わないんだよね~
機竜建造技術、言葉だけなら安いが、その性能を鑑みると交渉結果の破棄だけでは釣り合わない。
元々、その技術は龍造寺のものだと言われればそれまでだが、あの洋が百余年に渡り隠してきたものだ。
確実に何かある。きっとそれは、燃え尽きた歴史の闇の部分だろう。
──さて、どう出るべきか
「……なんか隠し事かいな」
「んー、気になる?」
「そりゃな、たかが交渉結果の破棄の為に第二特務が動くとなれば、それはそれは大層な隠し事なんやろ。例えば、機竜の事とか」
「あはは、どんな隠し事だろうね?」
嫌味な笑みを浮かべる鈴谷に、龍驤は内心で舌打ちをする。
機竜の事を引き合いに、この場を用意した以上、鈴谷が何らかの情報を持っている事は確実だ。
元は佐世保の龍造寺の技術、返せと言うのは簡単だが、今回は強く出られない。
──このアホ犬がやらかさんかったら……
夕立の行動が無ければ、横須賀が隠す機竜の情報開示を請求出来た。
龍驤は尻に敷いた夕立を抑え込みながら、己の手札を確認するが、取れる手札が無さすぎる。
──横須賀が厄介過ぎるわ
全鎮守府最大勢力にして、前大戦の英雄が総長を務める鎮守府。その技術力も資金力も、何もかもが佐世保とは比べ物にならない。
仮に、今横須賀が佐世保の機竜建造技術を求めたら、それを突っぱねる力は佐世保には無い。
司令官である龍造寺なら、まだ発言力と影響力は残しているが、技術権限を鎮守府に移している現状では、開示要求を跳ね返せるかは微妙な所だろう。
──さて、どうする?
龍驤が悩んでいると、敷物が動いた。
バイザーで隠した視線を向けると、夕立が視線だけをこちらに向けている。
──面倒なガキやな
だが、夕立が負い目を感じているのは判った。
佐世保の副長として、部下のやらかしの責は取らねばならない。
取れる手札は無いに等しいが、交渉は続けられる。
ならば、続ける交渉の中で新たな手札を引くしかない。
──救いは鈴谷以外が口を出す気配が無い事やな
五百蔵は基本口を出す気は無いらしく、あの表示枠なる奇怪なものを弄って、何やら眉をひそめている。
荒谷も目を閉じたまま動かない。吹雪は何か言いたそうにしているが、今は捨て置く。
というか、あの表示枠というのが曲者だ。龍驤の勘では、あれで情報のやり取りをしている。
あれは言わば枚数無制限の山札、しかも引く札を選べる厄介極まりない代物だ。
手持ち以外の手札を引ける山札とか、交渉屋が喉から手が出る程に欲しい物を、横須賀側が使っている。
だが、やるしかない。
「まあ、この際隠し事はええわ。……横須賀はうちに何を求めてますのん?」
降りかかる困難、祓い除けてこそ副長なのだ。
・ズーやん¦『……正直、今の条件だと釣り合いが取れないんだよね』
・船長 ¦『だけど、このまま拗らせるのは避けたいぞ』
・邪気目 ¦『それも有るが、佐世保に求めるものが明確に無いのが問題だな』
・元ヤン ¦『もういっそ、機竜の情報寄越せって言っちまうか?』
・鉄桶男 ¦『それは最終手段だね。いきなり自分達の切り札を寄越せって言われて、頷ける奴は居ない。あと、今の状況だと
横須賀:求・先の交渉結果の破棄
条件・未定
佐世保:求・機竜建造技術の開示
条件・龍造寺と鳳洋の会談
こんな感じだから、こっちの未定の部分をどうするかが問題だよね』
・空腹娘 ¦『もう佐世保鎮守府の提督に聞くとか駄目ですか?』
・にゃしぃ¦『でも、ここまで話が進んでるのに、龍驤さんから佐世保の提督の話題が出てきてないよ?』
・ほなみん¦『実は私も佐世保の提督と直に会った事無いんだよね』
・鉄桶男 ¦『性別も何も分からないのかね?』
・鉄桶嫁 ¦『実際、鎮守府間の交流の場に出てきた事は無かった筈ですね』
・ヒエー ¦『はっきり申しますと、主導者不明の鎮守府に技術開示はどうかと』
・七面鳥 ¦『でも、先生と会談するなら出てくるから、そこはある意味大丈夫じゃない?』
・蜻蛉玉 ¦『それもそうでありますが、その辺ちょいと一発突いてみるのは有りでありますな』
・ズーやん¦『うーん、ちょっと一発いってみるか』
さて、どう出る。
龍驤が無い手札を手繰り、道筋を模索する最中、鈴谷が眉間に皺を寄せて表示枠から顔を上げた。
「ちょっといい?」
「なんや?」
「佐世保の提督って、今何してる?」
龍驤は言葉に詰まった。
そして、夕立に視線を送った。
──あかんでこれ
──どうするっぽい
──神宮の姫さんは何も言うとらんのか?
──言ってたら、聞いてこないっぽい
この間0.1秒、神速のやり取りで最悪のパターンだと二人は判断した。
佐世保の提督、龍造寺は何か脛に傷のある様な人物ではない。多少、自分の役目を重く考え過ぎてしまう癖があるが、真面目な若者だ。
欠点があるとするなら、壊滅的にあるスキルが欠落している事だ。
龍驤は焦った。どうにかして話題を変えようと、必死で脳内でネタを探した。
・ズーやん¦『……これ、もしかして急所に当たった?』
・七面鳥 ¦『いいの入ったかもね』
・蜻蛉玉 ¦『効果は抜群でありますな』
・鉄桶男 ¦『え? 佐世保の提督って人格か何かに難があるのか?』
・鉄桶嫁 ¦『えー、いやでも、ええ……?』
・ほなみん¦『んー? 三笠ちゃーん!』
・半死半生¦『はい、呼ばれて飛び出て神宮三笠よ。もうすぐ倒れるから手短にいくわ。龍造寺現当主の人格に問題は無いわ。ただ、ちょっとだけ対人スキルが壊滅してるだけよ。じゃ、あとよれ……』
・神従者 ¦『お嬢様?!』
・竹藪 ¦『三笠?!』
・横須賀 ¦『・半死半生 様がログオフしました。十中八九、体調不良による吐血が原因かと。
承認しますか? Yes/No』
とりあえず、全員がYesを押した。
神宮の事は神通と篁に任せるとして、鈴谷は何故二人が焦っているのかを思案する。
先程の話によれば、佐世保鎮守府提督に人格的問題は無い。
しかし、対人スキルが壊滅しているという事は、人当たりがあまり宜しくないという事だろう。
「あー、鈴谷よ」
「なに?」
「とりあえず、うちの司令官な? ちょっと今手が離せんねん。やから、話はまた後で頼むわ」
「言われてもなあ……」
こちらが提示したい条件は、龍造寺と鳳洋の会談なのだ。
だが、対人スキルに難があると言うなら、それにも迷いが生じる。
さて、どうしたものか。
鈴谷と龍驤が微妙な笑みを浮かべて、互いに出方を伺っていると、前触れも無く荒谷が目を開き、部屋の扉に顔を向けた。
「何者か」
「あ、五十嵐です。佐世保の提督をお連れしました」
宿毛泊地の五十嵐が爆弾を持ってやって来た。