・ほなみん¦『……おい、何してんの? この誘い受け』
・蜻蛉玉 ¦『なんだか、えらい事になったでありますな』
本当にどうしよう。
まさか、件の佐世保鎮守府の提督を連れてくるとは思わなかった。
年の頃は磯谷とそう変わらず、髪は黒、背もそう高くない。
目付きは鋭く、抜き身の刀の様な印象がある。
「いやあ、泊地でなにやらうろうろしてたので、つい連れて来ちゃいました」
「五十嵐さん、もうちょっとこう……、連絡とかなかった?」
「ははは、不審人物扱いしなかっただけでも褒めてもらいたいですね」
件の龍造寺は何も言わない。ただ無言で立ち、龍驤と夕立を睨め付けている。
・鉄桶男¦『えーと、これはどういう状況?』
・鉄桶嫁¦『やはり、何かしらの責任問題が?』
・邪気目¦『あ? いや、どうなんだ?』
・船長 ¦『しかし、すごい睨んでんな』
・元ヤン¦『ああ、横須賀でもやってけるぜ』
・空腹娘¦『というか、何故か震えてる音するんですけど……』
北海と横須賀組の困惑を他所に、五十嵐はさっさと退場し、残された龍造寺はただ二人に強く視線を向け続けている。
さて、一体どうしたものか。
思案を巡らせる一堂とは違い、佐世保組の二人は龍造寺の視線の意味に気付き、背中に冷や汗を流していた。
──司令官……
──提督さん……
「龍驤、夕立……」
──助けろください
佐世保鎮守府提督、龍造寺・紀美は極度のあがり症だった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「……紀美ちゃんには悪い事したわー」
「なんか、そんな感じしない言い方だね?」
復活した神宮がそんな事を嘯けば、篁が呆れ半分に応える。
とりあえず、山の様な点滴を打って顔色と呼吸は回復したので、暫くは大丈夫だろう。
真っ赤に染まったハンカチを片付ける神通を見送り、篁は表示枠の会話から現状を推理する。
「龍造寺の当主でよかったよね?」
「ええ、そうよ。紀美ちゃんは龍造寺家の当主。でも、極度のあがり症で対人能力に難あり。一対一で話せる様になるには半年掛かったりするわ」
「それ、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。能力が無ければ、提督なんて出来ないわ」
車椅子に座り、点滴が落ちるのを見ながら神宮は表示枠の会話を追う。
「現状、横須賀は先の内容の破棄。佐世保はこちらが保有する機竜技術の譲渡。これが双方の狙いよ」
「うん、バランスが取れてないね」
「そうね。明かに横須賀側に不利な条件よ。でも、佐世保を味方に付けなければ、これからが厳しいわ」
「厳しい?」
篁の疑問に神宮は答えない。
ただ視線を表示枠から東の方角へ向ける。
「……悪意というのは、伏してる間が一番臭うのよ」
神宮の言葉に篁は何の事か判らず、ただ首を傾げた。
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「あ、ここに居ましたか」
「おん? おお、提督やないか。どういたぜ」
「いやね、どうするかなと」
「どうもせんちや。アシらはアシらでやるだけよや」
宿毛泊地の埠頭で、煙草を吹かしながら大和が言う。
広い背中、長きに渡り戦い続けた女傑の背は少し疲れが見えた。
「……情けない話よな。結局、今の若いもんを過去にすがらせゆう」
「だが、必要な事なのでしょう?」
「おう、必要じゃ。本当なら使わんだちかまんに、使わないかん程度にはのう」
短くなった煙草を握り潰し、足下の空き缶に詰め込む。
空き缶は既に満杯で、今にも溢れ出しそうだった。
「機竜、ほんまやったらそのまんま廃れて消えていく筈やったに、しょうどうしようもない話ちや」
「必要なら使う。それだけです」
「しょう世話掛けるのうし」
新しい煙草に火を点け、煙を吐き出す。
嗚呼、これでは金剛の事も笑えない。
結局、自分達の代だけで終わらせられなかった。
けじめをつけるなら、自分が動くべきだが、それは出来ない。
「終わった身、洋はそれを分かっちゅうがやろうか」
「はて、それは分かりかねます」
「そうじゃろうな」
過去の遺産、それはまだあちこちに残っている。
自分達が片付けるべきだった遺産を、今の代に尻拭いをさせる。
大和は情けなさを溜め息の代わりに、紫煙として吐き出した。
「のう、提督」
「心配は無用ですよ」
「言うがよ、あれらがラバウルの〝あれ〟をどうにか出来るとは思えんわ」
「しかし、〝あれ〟は貴女にもどうにも出来ないでしょう?」
「……そうじゃの。〝あれ〟はアシらじゃどうにもならん。どうにか出来る……、いや、どうにかせないかんがは、洋じゃ」
煙草の煙が海風に踊るのを見ながら、大和は溜め息を吐き、五十嵐はただその背を眺めていた。
どうしようも出来ない。
五十嵐達が得ている情報では、ラバウルの〝あれ〟は大和達の負の遺産そのもの。
これを洋に伝えるべきか。
大和にはそれを判断しきれない。
「まるゆはなにち言いよった」
「こればかりは信じるしかないと」
「信じるのう、あいつらしいわ」
「……何か手を打ちますか?」
「いや、やめちょき。……下手に手出いて、今動かれたらほんまにどうもならん」
それに
「あれと決着を着けるがは洋じゃ」
〝不壊の大和〟、そう謳われた女傑は力無くそう言った。