それでは始まります!「バケツ頭のオッサン提督の日常」お楽しみください!
作者が息抜きに投稿し始めた「ボーキサイトカムイ」も宜しくお願いします。
少女は海を見ていた。冷たく暗い冬の海を、部屋の窓からただただ見ていた。
そして、思い出す。己が殺した親友の事を、己が殺した親友の最期の顔を声を。
それは何度も何度も繰り返し繰り返し、まるで壊れたテープレコーダーの様に、少女の頭の中で響き続ける。
『ごめんね・・・吹雪ちゃん・・・私のせいで・・・』
謝らねばならないのは自分の方なのに、何故貴女が謝るの?
お願い、もうやめて。虚空に赦しを乞うが、返事が返ってくることはない。
直に少女は声に堪えきれなくなり、布団に潜り込み耳を塞ぎ朝が来るのを待つ。朝が来れば皆に会える。己の父とも言える人が居る。母の様な人に会える。
そうすれば、この声は聞こえなくなるから。
そう信じて少女、吹雪は布団を頭まで被り目を閉じ耳を塞ぎ、朝を待ち続ける。
北海鎮守府提督 五百蔵冬悟は待っていた。眉間に皺を寄せ、身体中の筋肉を強張らせ『呉鎮守府』からの情報を、横須賀鎮守府執務室で待ち続けていた。
「磯谷嬢、まだなのか?」
「五百蔵さん、落ち着いてください。焦っても解決しません」
横須賀鎮守府提督 磯谷穂波 が彼を宥めるが、あまり効果は無いようだ。
「分かっている!だが、こうしている間にも吹雪君は・・・!」
目の前の巨漢が声を荒げ、己の無力にその巨拳を握り締める。それを磯谷は見ていることしか出来ない。
彼にとって娘とも言える艦娘、吹雪は限界が近付いている。彼女の過去、軍内部でも秘匿事項とされている事件。これによるトラウマが彼女を苛んでいた。
日に日に吹雪は弱っている。横須賀に来た当初はそんな様子は微塵も無かったが、寒さが強くなるにつれてトラウマが甦り、吹雪から活力を奪っている。
「だからこそ、焦ってはいけません。この手の問題は非常に厄介で、デリケートなんですから」
五百蔵は深く息を吸い、全身に込めた力をゆっくりと息と共に吐き出した。
「すまん、磯谷嬢。手間をかける」
「構いません。吹雪ちゃんが心配なのは、皆同じですから」
「すまん」
五百蔵の謝罪を聞き、磯谷はそっと息を吐き、窓から外を見た。天気は生憎の曇天、その厚い雲の下では冬の暗い海が静かに不気味に揺れていた。それはまるで、これから起こることを暗示する様だった。
月が沈み、日が昇った、だがそれでも、彼女の声が聞こえてくる。やはり、私は赦されないのでしょう。彼女を殺した癖に、のうのうと生きているのです。赦される訳が無い、分かっているのに、分かっている筈なのに、それでも赦されたいと思うのは、自分勝手なのでしょうか。
あの人は、どんなものにも終わりは来ると言っていました。なら、この悪夢にもいつか終わりは来るのでしょう。何となくですが、もうすぐ終わる。そんな気がするのです。
なら、その時まで、この声を聞き続けましょう。
それが私に出来る唯一の事なのでしょう。だから、その時までは、出来る限り普段通りでいましょう。皆に、これ以上心配は掛けたくありませんから。
「金剛さん」
「どうしたネ、如月?」
「吹雪さんの問題は、貴女の『豪運』でなんとかならないのですか?」
如月からの問い掛けに金剛は一瞬、眉をひそめる。しかし、それも一瞬のこと、すぐにその問いに答えた。
「如月?私の『豪運』は、これから起こる物事には干渉出来まス。しかし、起こってしまったことには無力なのでス」
「そう、ですか」
己の『豪運』は未来に起こる物事を自分にとっての益にするものであり、過去に起きた物事には無力なのだ。否、過去に干渉するなど、それこそ神にも不可能だろう。
如月も分かっている。それでも、聞かずにいられなかったのだろう。顔を見れば分かる、あの冷静な如月が唇を噛み締めているのだ。
それを見て金剛は、悔しさの中に嬉しさを感じていた。部外者であるにも関わらず、自分の家族の為に心を砕いてくれる如月達には感謝してもしたりない。
「如月、心配は要りませン」
「しかし」
「私達や貴女達、それに冬悟と榛名がいまス。だから、何も心配は要りませン」
その言葉に如月は、何処か納得がいかない顔をしていたが、まあいいだろう。
吹雪は何の心配も要らない、自分にはそう確信出来る。
ここ、横須賀鎮守府には自分が居て、信頼する提督と家族が居る。もし、呉から来る連中が吹雪を害するなら、その時は、呉鎮守府とその街の住人全員の命を持って購わせるつもりだ。
そして、もしそうなら知ることになるだろう。自分の義弟である五百蔵冬悟の逆鱗に触れることが、何を意味するのかを。
「ヤッホー、はるにゃん。ふぶっちの様子はどう?」
「鈴谷さん」
自室で吹雪ちゃんと過ごしていたら、鈴谷さんがやって来ました。しかも、ふぶっち呼びで。そう言えば、食べ歩きとかで仲良くなったと言ってましたね。
「先程までオヤツを食べてましたが、今は寝てますよ」
「そっか~、ふぶっち~鈴谷だよ~」
鈴谷さんが私の膝の上で寝ている吹雪ちゃんを抱っこしながら、挨拶代わりに満面の笑みで頬擦りし始めました。
「ん~、ふぶっちのほっぺは良いね~。プニプニスベスベで最高だよ」
「むー・・・」
「ありゃ、御機嫌ナナメになっちゃったかな?はるにゃん、パス」
頬擦りされて少しだけ、ぐずりだした吹雪ちゃんを私の膝に戻すと、満足そうに私に抱き着いて来ました。
それを見た鈴谷さんは、とても嬉しそうです。
「はるにゃんも、すっかりお母さんだね」
「そ、そうですか!」
お母さん!なんと素敵な響きなのでしょう!
「ほらほらお母さん、静かにしないと」
「そうですね」
いけませんね、私の声で吹雪ちゃんがまたぐずりだしました。大丈夫ですよ、吹雪ちゃん。
「いや・・・行か・・ないで・・・」
「大丈夫ですよ、吹雪ちゃん。私は、私達は貴女の傍に居ます」
だから、大丈夫ですよ。少しでも彼女を安心させる為に抱き締め語りかけます。大丈夫です、誰も貴女を置いて行きません。
「大丈夫だよ、ふぶっち。私達はふぶっちと一緒だよ」
「う、あ・・」
「落ち着いた、様ですね」
「みたいだね」
今は落ち着いていますが、これからどうなるかは分かりません。はっきり言って、予断を許さない状態です。
今日、呉から事件の事を知る方々が来るそうですが、不安です。
「安心してね、ふぶっち。ぜーったいに鈴谷達が助けるからね」
鈴谷さんが吹雪ちゃんの頭を撫でながら、優しく言い聞かせています。そうですね、この子は私達が必ず助けます。
「それじゃぁ、はるにゃん。私は行くね、そろそろ呉からお客さんが来る頃だから」
「そうですか、鈴谷さん」
「ん、な~に~?」
「お気をつけて」
任せてよ、と手を振り部屋から出ていく鈴谷さんを見送ってから、吹雪ちゃんに目をやると先程とは違い安心した表情に戻っていました。
「大丈夫ですよ、吹雪ちゃん。私と冬悟さんや皆が、必ず貴女を助けますから」
私の大事な娘は、誰にも傷付けさせはしません。
「おう、鈴谷。どうだった?」
「やぁ、まややん。ふぶっちとはるにゃんなら大丈夫だよ」
はるにゃんの部屋から出たら、摩耶が待っていた。
「なら、良いんだ」
「まややんも会いに行ったら?」
摩耶はカワイイ物好きだから、ふぶっちがお気に入りだ。今だって、私が部屋から出るのを待っていたに違いない。
「そうしたいんだが、もう時間なんだよ」
「へぇ~、予定より早いじゃん」
「陽炎達から連絡があった」
予定時間より、早く到着するのはポイントたかいね。だからといって、手を緩めるつもりは無いけどね。
「それじゃぁ、まややん。配置に付こう」
「了解だ、隊長殿」
フフン、呉だかなんだか知らないけど、私達のファミリーに手を出すなら容赦はしない。
「ふぶっちを虐める奴等は、お姉さん達が皆殺しにしてあげる」
金剛総長が家族と言ったからには、私達の身内だ。私達は家族を傷付けるものを絶対に許さない。目には目を歯には歯を、死には死を。その結果、呉が地図から消えても良い、家族に手を出して街一つで済むのだ。
そう考えると鈴谷はなんと、慈悲深いのでしょう。
「私でこれなんだから、総長や副長達は」
腸煮えくり返っているんだろうな。
呉鎮守府からの客人が到着するまでの間に、横須賀鎮守府に所属する全ての艦娘が戦闘態勢を整えていた。
今や横須賀艦隊は引き絞られた矢であり、その矛先は呉からの客人及びその鎮守府に向けられていた。
そして・・・
「お待ちしておりました。呉鎮守府旗艦『扶桑』、副艦『山城』」
横須賀鎮守府は、統率方法が少し特殊です。
横須賀鎮守府代表 「磯谷 穂波」
横須賀艦隊代表 「金剛」
横須賀艦隊副長 「霧島」
横須賀重巡洋艦隊代表「鈴谷」
横須賀軽巡洋艦隊代表「木曽」
横須賀駆逐艦隊代表「若葉」
という風に各艦種ごとに、代表がおりその下に幹部がいるというものになっています。もし戦闘中に代表が死んでも幹部が一人でも生きている限り統率に乱れが出ない様になっています。
軍隊というより、軍隊の力を持ったマフィアだ。