吹雪へと突き出される刃、それは真っ直ぐに吹雪へと向かいその身を貫く
「え・・・?」
筈だった。
「間に合ったか!」
「木曽さん!」
駆け付けた木曽の持つ軍刀により、寸でのところでその刃は逸らされた。
「無事か?!」
「は、はい」
「榛名!吹雪を連れて逃げろ!」
「でも、冬悟さんが!」
木曽は榛名の目が向かう方向に視界を向け、動かないチェルノ・アルファを確認しつつ、タシット・ローニンが振るう刃を捌き続ける。
木曽は思う。手が足りないと。
はっきりと言って、動けない五百蔵を榛名と吹雪が避難させるのは厳しい、それは自分を含めても同じだ。
避難している最中に、後ろから一網打尽にされて終わる。
それより、この白い化け物がその隙を見逃す訳がない。
自分達が避難に移るか、その素振りを見せれば、瞬間で向かってくるだろう。
ならば、どうする?
正直な話、自分ではこの白いのを押さえ込むのには限界がある。力と質量が違い過ぎる。今はまだ、軍刀も保っているし自分の腕も付いていっている、だが、それも長くはない。一瞬でもあの極厚の刃を受け流し損ねれば、自分ごと断ち斬られるだろう。
ならば、どうする?
木曽は自分の本来の装備である魚雷を撃ち込めれば、勝機は充分にあると考えるが、それは出来ない理由がある。
「睦月ちゃん!」
「吹雪ちゃん!ダメ!」
白いのの胸部装甲の裂け目から覗く駆逐艦娘『睦月』が原因だ。
よく分からないグロテスクな黄緑の粘性のある体液を流す肉塊に埋もれている少女、彼女は恐らく吹雪のトラウマの鍵だ。
魚雷を撃ち込めば勝てる。だが、それをすれば、睦月も巻き添えにしてしまう。
「ちっ・・・!」
軍刀の刃が柄の中で揺れ始めた。しかし、この程度ならまだ技でカバー出来る。
相手は獣、この数合のやり取りで分かった。人の技と動きを知った獣だ。
半端な技と圧倒的な力で獲物を狩る獣だ。
足捌きも腕の振りも、全てが半端だ。だからこそ、油断出来ない。
殺し合いの場で、最終的に勝負を決めるのは技でも経験でもない。ただ単純な力だ。
どれ程に技や経験で上回ろうと、圧倒的な力の前には全てが意味を為さない。
そして、この相手にはその力がある。
受ける度、流す度に全身を走る衝撃で分かる。刃に対し、正面ではなく、横から軍刀を入れ刃を受け流しているにも関わらず、削られる。
受けた衝撃を軍刀から腕に、腕から肩に腰に、足から地面へと逃がす度に、全身が軋み削れる。
削れた部分を補填する為に、他へと流す。そしてまた、削れた部分を補填する。
はっきり言えば悪循環だ。強度も力も体格も何もかもが違う相手に、何も刺し込む事が出来ずに、ただ削られる。
悪循環以外何物でもない。だが、今の場はそれで良い。
自分は横須賀の軽巡洋艦艦隊代表で横須賀鎮守府第三特務だ。言ってしまえば、それだけだ。
総長である金剛の様な馬鹿げた幸運も、副長の霧島の様な圧倒的な武力も無い。ただの重雷装艦娘に過ぎない。
重雷装艦娘が何故、陸でチャンバラしてるって話だな、木曽は考える。
後少し、後少しで、自分達の切り札が来る。
こいつの底は分かった。今の木曽を押し切れるが、それだけだ。榛名や五百蔵も、吹雪か誰かを庇いながらでなければ、充分に勝てる程度の相手だ。
今の自分では仕留めきれないが、彼女なら仕留められる。
木曽は考え、極厚の刃を受け流す軍刀を振るう腕を加速させる。
度重なる衝撃により、軍刀は限界だ。刃がこぼれ刀身に歪みが出てきている。自分もその例に洩れず限界だ。
だからこそ、加速した。
タシット・ローニンが降り下ろす刃を受け流す動きをそのままに振り抜き、装甲の継ぎ目を目掛けて軍刀を滑らせ、グロテスクな肉塊を裂いて軍刀が砕けた。
タシット・ローニンは理解した。
この目の前にいる小さい奴は敵だと。
自分の邪魔をするだけの奴ではない、自分に傷を付けられる敵だと理解した。
だが、この小さい敵の牙は砕けた。だから、タシット・ローニンは仕留めに行った。
先程仕留め損なったデカイのと小さいのを仕留める為に、先ずはこの牙が砕けた小さい奴を仕留める。
その為に、右の刃を横薙ぎに居合の要領で振り抜いた。
木曽は見た、自分に目掛けて振り抜かれる極厚の刃を。
受ける事も流す事も、軍刀が砕けた今は不可能だ。
艤装があれば、話は違っただろう。
振り抜かれる刃を見ながら、木曽は考える。
考えっぱなしだな俺と、いや、考える事と動く事を止めるなというのが、家の副長の教えだから良いのか。
考える事は止めてない、なら、後は動くだけだ。
軋む体に力を流し前に倒れる様に行く、横薙ぎの刃を頭上にやり過ごし、残った軍刀の柄を伸びきり開いた肘の装甲に差し込む。
タシット・ローニンの膂力の前では、歪んだ柄など何の障害にもならないだろう。
だが、それでも、一瞬の動きは遅れる。
こいつの利き腕は右だ。決めに来る時は、必ず右の刃を振ってきた。だからこそ、右を邪魔する。
そうすれば、間に合うから
「木曽さん!」
予想より復帰が早い。榛名の叫びに木曽は考える。
視線を送れば、榛名と吹雪がチェルノ・アルファの傍に居るのが見える。
見れば、左の刃を構えている。
木曽は笑った。諦めの笑いではない。
仕込みが成功した悪戯が成功した、悪ガキの笑みだ。
だって、そうだ。
自分は間に合ったから、笑うのだ。
そうだろう?
「なあ、副長」
刃を構えたタシット・ローニンを、海中から青く長い腕が打撃した。
霧島の内心は歓喜の渦で吹き荒れていた。
不謹慎だとは思う。だが、自分は横須賀鎮守府の武力の象徴である副長なのだ。新しく手に入れた力を試したいと思うのは仕方ない事だろう。
「木曽、下がりなさい」
邪魔です。口にはせずに、タシット・ローニンに向かう。
新しく手に入れたロミオ・ブルーを試せる実戦が自分から来たのだ、これは絶好の機会だ。
しかも、相手は自分と同じイェーガーで近接系だ。その上、義兄にも『仮に』とはいえ勝利している。
絶好の機会だ、それ以外に何がある。
それに、だ。人質付きとはお膳立てもここまで来ると、仕組まれたかと疑いたくもなる。
だが、この試練を捩じ伏せ乗り越えてこそ横須賀鎮守府副長なのだ。
あの駆逐艦娘を救出し、タシット・ローニンを破壊する。
破壊に至らずとも、救出は絶対に敢行する。
霧島は笑う、さあ、行こうと笑う。戦場だ、今こそ駆け時だ。
さあ、行こう。
我は副長、我は紅霧島、我こそ横須賀の槍なれば
白と青が、激突した。
「提督!」
お願いします、どうか、どうか、お願いします。
「提督!しっかり・・・!」
この人を助けて、誰でもいいから、助けてよ!
「提督!しっかりしてください!」
[チェルノ・アルファ、再起動を開始。リアクター出力再上昇、パイロットの生命保護を最優先、左腕出力低下、右肩部熱放射タービン使用不可]
これ、は・・・?
[チェルノ・アルファ再起動、右腕『Roll of Nickels』起動準備開始]
緑黒の鉄巨人が唸りをもって、再び立ち上がった。
愛する者を守る為に
次回はオッサンパートからスタート!